命短し。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル:SCP-XXX-JPは、サイト-81██の低脅威度物品保管ロッカーに収容してください。
説明:SCP-XXX-JPは、普遍的なデジタルカメラの様に見えます。しかし、未知の金属物質で構成されており、社名も型番も刻印されていません。
底面には横長の溝があり、上面端にあるボタンを使用者の頭部付近で押すと、使用者が考えている事が紙面となって溝から出てきます。インクは使用されておらず、また、紙のストックが収納されている箇所もありません。使用の際、曖昧に想像した箇所はぼやけたり、ぶれたりして現像されます。
SCP-XXX-JPは、████都████市で開催されたフリーマーケットで回収されました。店主はこれを壊れていると表現し1、低価格で販売していました。店主が購入したという雑貨屋は倒産しており、出所は不明です。
実験記録
実験 19/██/██
使用者:D-40952
指定内容:空想した映像
現像結果:女の子がステッキを掲げた、後ろでビルが崩壊している、ところどころぼやけた写真確か昔、こういうのがあったよな -D-40952
背景が爆発するのは特撮では? -████████研究員
使用者:D-40953
指定内容:昨日の夕食
現像結果:鮮明な白米、鮭の切り身、きんぴらごぼうの写真
使用者:D-40954
指定内容:因数分解
現像結果:黒い染みのような斑模様の写真俺、書きながら考える派なんだよ。 -D-40954
使用者:D-40955
指定内容:単純な数式
現像結果:「単純な数式」と書かれた写真いきなり言われてもよぉ。 -D-40955
実験 19/██/██
使用者:████████博士
指定内容:波動関数について
現像結果:文字と画像が円形や放射状やランダム配置された写真を横50cm現像する。縦は文字が見切れている部分が散見させられる。オブジェクトの大きさを超える画像は横にのみ伸び、知識は必ずしも文章で現像されるわけでは無いようです。 -████████博士
使用者:████████研究助手
指定内容:家族の写真
現像結果:████████研究助手の両親と飼い犬が██年前の様子で炬燵に入っている写真俺の記憶そのままだ。元気にしてるかなぁ。 -████████研究助手
実験 19/██/██
使用者:████████研究員
指定内容:家族の写真
現像結果:女性と女児がツーショットで映っているが、顔がぼやけて、色も褪せている写真あんなに大切だったのに、あんなに大事にしていたのに、もう、顔すら、その色すら覚えていないというのか。 -████████研究員
補遺:████████研究員は██年前、オブジェクト被災によって妻と娘を亡くしています。
この実験の前日に同研究員はSCP-█████-JPの収容違反によって既存の家族写真を破損させており、軽度の鬱兆候が見られます。
████████研究員は実験後、一週間の精神鑑定を命じられました。
アイテム番号: SCP-XXXX-JP-J
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: サイト-81██の標準的な小型動物用収容室に1匹ずつ収容されます。毎日1回10gから50gの鉱物類を食餌として与えられます。SCP-XXXX-JP-Jの実験については、セキュリティクリアランス1以上の職員に申請出来ます。
説明: SCP-XXXX-JP-Jは東弊重工製の家庭用動物型玩具のシリーズです。幾つか種類がありますが、収容時に殆どが破損しており、現在財団では、以下の2種類を収容しています。
SCP-XXX-JP-J-1は、体長約20cmの白いイエネコ(学名: Felis silvestris catus)を模した玩具です。しかし、感触、体温、心音、反応、柔らかさなど、普通の動物と区別は付きません。特定の言葉に反応してそれに応じた行動を行います。その中で普通の動物が行わない動作としては、数分間踊るものがあります。
SCP-XXX-JP-J-2は、全長約3.5mの明るい茶色のアルゲンタヴィス(学名: Argentavis)を模した玩具です。翼と尾羽にジェットエンジンを搭載されており、助走無しでの飛行が可能です。
SCP-XXXX-JP-J-1は201█年██月██日、サイト-81██の扉の前に宅配物のような装丁で遺棄されていました。監視カメラには、普通トラックが侵入して来て、2人の成人男性と思しき人物が貨物部分からダンボールを1箱取り出し、サイト前に置いてトラックで逃走する場面が記録されていました。しかし、防護柵のセンサー、警備兵は全員、物音すら感知しなかったと話しています。
宅配物にはオブジェクトと共にこのような書類が同封されておりました。
日頃のご愛顧ありがとうございます。
財団の方々には予てより弊社の商品をご愛蔵して頂いておりますので、感謝の気持ちとして、弊社試作品であるメカニックネコちゃん♡(仮)を贈らせて頂きます。
メカニックネコちゃん♡(仮)は、一般家庭を対象にしたエコロジーなアニマルセラピーを提供させえて頂きます。
ご意見、感想などは弊社ホームページよりお願い致します。東弊重工(株) https://█████████.com/top/
メカニックネコちゃん♡(仮) の仕様
電源はありません。くず石を食べて稼働します。
嫌がる事をすると噛むことがあります。
名前を呼ぶと鳴きます。こちらに来るとは限りません。
「踊って!」と話し掛けると数分間踊ります。
それでは、可愛がってあげてください。それから、出荷前の製品の盗難や工場への突撃行為はご遠慮いただけると幸いです。
東弊重工 常陸比良支店
担当者 逢坂 ██████
█████博士は発見されたとき、踊る当該オブジェクトの前で心神喪失状態でした。正気を取り戻したとき、混乱しながら「一体何なんだこれは」「私は一体何を見せられているんだ」「東弊重工の商品がただ踊るだけな筈は無い」と繰り返していました。
█████博士の状態を鑑みて、人の思考能力を奪い、混乱に陥れる危険なオブジェクトだと判断され収容されました。
現在まで、爪痕や噛み傷以外で損害を被った事例はありません。
補遺: インシデント"どの動物が一番可愛いか勝負だ!"
機動隊"ミリタリーオタク"が東弊重工 常陸比良支店を襲撃しました。
この工場は既にもぬけの殻でしたが、幾つかの試作品が残っていました。
・メカニックわんこちゃん♡
・メカニックインコちゃん♡
・メカニックなオオハシさん!
・家庭用サンダーバード(全長5m)2
あいつら一体何考えてやがるんだ?―█████博士
凄い。鳥だらけで動物園みたいです。―█████研究助手
お前ももっと他に言うことがあるだろ!―█████博士
この鳥でっかい、あっ。―█████研究助手
█████博士と█████研究助手が現場で鑑定をしている時、█████研究助手が家庭用サンダーバード(全長5m)の足に触れると、家庭用サンダーバード(全長5m)は翼を広げてジェットエンジンを噴射して飛び去りました。████km先の█████山の崖の上で当該オブジェクトが発見されましたが、家庭用サンダーバード(全長5m)以外のオブジェクトはジェットエンジンの噴射の影響で全て破損したため、財団は当該オブジェクトと、破片と思しきもののみを回収しました。
これらをサイト-81██で測定した結果、家庭用サンダーバード(全長5m)は、嘴から尾羽の先端までの全長が3.5m、翼開長7mになる、ウイングを収納出来るだけの小型ジェット機であることが判明しました。
放置された工場内では、以下のメモ用紙が発見されました。
動物は大きければ大きい程良い。そうだろ?
そんな訳あるか!このメカニックハムスターちゃんの可愛さを見ろ!!
俺のメカニックにゃんこちゃんが……
おい、お前ら!名前にハートマークが付いてないぞ!
可愛いものには敬意を込めてハートマークを付けなきゃいけないんだ!!大将かっこいー!!
ひゅー!
一生付いていくぜおやっさん!メカニックわんこちゃん♡!!
メカニックネコちゃん♡!!
メカニックダチョウちゃん♡!!
メカニックにゃんこちゃ……コラてめぇよくもにゃんこちゃんをネコちゃんにして出荷してくれたなコラァ!!!
あ? やんのか? 今時にゃんこちゃんは受けねぇんだ……時代はネコちゃんだコラ!!
昼休み表出ろお前!!
受けて立つぞコラ!!
サンダーバードかっこいいなぁ……
大流行じゃないか―█████博士
存在が意味消失しています。
Tale下書き
ながい。
※リサイクルコンテスト2019のアイデアハブに寄稿しました。
よって削除不可です。
ある天気の良い昼下がり、郊外にひっそりと建っている工場があった。
背の高い木々が何本も植わっている工場の入口には、金属製のプレートに達筆な文字で『東弊重工』と彫られていた。
「なぁ、知ってるか。財団って奴らが居るらしいんだけどよ、俺らの工場で作ったものを集めているらしいんだ」
「ほほぉ」
その部屋には、数人だけが居て、作業机に座って会話を楽しんでいたり、壁際に凭れ掛かって携帯電話を弄ったりしていた。時計の針が指すのは十二時と十五分。彼らは今、昼休みの最中だった。
二人の若者が話している間に、もう一人の若者が入ってくる。
「それ、俺らのファンって事か?」
「いやぁ、出荷前に取って行く事もあるらしいぞ」
若者達はあまり情報通ではないらしい。
若者の一人がまことしやかに噂話を聞かせると、他の二人は感嘆の声を漏らし、それが本当なのか聞いた。若者はこっくりと頷くと、二人は再び感嘆の声を漏らした。
「過激なファンだな」
「"団"って付くんだからファンクラブなんじゃないのか」
そこに、彼らの先輩らしい四十代程の男が入っていく。細身で、使い込まれた作業服がよく似合う男だ。
「あ、先輩。今財団っていうのの話をしてるんですよ」
「財団だぁ?」
露骨に顔を歪め、ばしばしと青年の肩を叩いた。
「そんな奴らの話をするんじゃない。聞きつけてきたらどうするんだ」
「そんなゴキブリじゃないんだから……」
青年は痛そうに先輩の手を払いのけた。
先輩は財団について知っているらしい。彼は「俺の自信作を取引先に送る前に盗んでいった上に、工場を丸ごと潰した事が何度もある」と話した。先ほど若者が話していた噂話はこの先輩の体験談のようだ。
それを聞いて別の若者がその言葉に深刻そうにつぶやいた。
「工場の物全てが欲しいなんて、なんて過激なファンなんだ」
他の若者たちも頷き合った。
ファンが過激になりすぎないように抑えるのも製作者の役目だよな、と若者の一人が言った。
「非公式ファンクラブとは言え、ファンクラブだ。メッセージ送ったら読んでくれるんじゃないか」
「おお、そうだ」
「新作も付けて『強奪は辞めてください』って言えば聞いてくれるだろ!」
そうだ、そうだと若者たちが言い合った。
先輩は目を細めて三人を見ていた。薄く笑っていることから、「成功はしないだろうが好きにやらせておいてやろう」という姿勢であるのが分かった。
何を送るか、と言って青年の一人が机の中から一枚のリストを出した。この工場で作った作品の一覧である。その半分は名称に線が引かれていて、恐らくはオーダーメイドの品で、すでに出荷されたか、製造中止されたかだろう。この東弊重工では、製品の量産が重視されるのではなく、技術と研究が重視されるため、同じものが作られる事があまりない。
「可愛いのがいいな。癒される奴。蛇とか」
「この針金の龍なんかどうだ」
「動物型限定かよ」
わいわいと三人が案を出し合う。コンパクトで、持ち運びが簡単で、ファンを満足させられる品というのは、自然と選択の幅が狭まった。けれど、財団が集めているものは節操がなさすぎる為、彼らはどれを選んでよいのか分からなかった。
五個ばかり案が出た頃、黙っていた先輩が溜息をついて口を挟んだ。
「おい、なんだそのチョイスは。」
「先輩」
「可愛くって癒されるっていうんなら、俺が片手間に作っている『メカニックネコちゃん♡』だろ!!」
そして先輩は近くを歩いていた、本物の猫と寸分違わない、灰色の縞模様の猫の腕の下を掴んで持ち上げた。
猫は嫌そうに「にーあー」と鳴いた。
「あの……先輩、ハートマークは必要なんですか?」
若者の一人が、恐る恐る聞いた。
先輩は勢いをつけて「馬鹿野郎!!」と怒鳴りつけた。
「可愛いものには敬意を払ってハートを付けなきゃいけないんだ!!」
先輩が掴んでいる猫がそろそろ下してくれとばかりに「に"ぁ"」と低い声で鳴いた。
「くっ……こんなに可愛いにゃんこを財団なんぞに送り出すのは気が引けるが、ファンと聞いちゃ話が別だ。可愛がってもらえよ、にゃんこ」
猫は床に下ろされた途端、弾かれた様に逃げ出した。
若者たちは顔を見合わせて、少し間をおいてから頷き合い、拳を天に突き上げた。
工場には雄叫びが発生し、「『メカニックネコちゃん♡』!!」のコールが暫く続いた。
後日、サイト-81██に東弊重工から白い箱が届いた。
外封されていた手紙には、以下のような文章が記載されていた。
SCP財団日本支部の皆さまへ
日頃のご愛顧に感謝して、我々の新作である『メカニックネコちゃん♡』を贈ります。
これに免じて、出荷前の製品や工場への襲撃はご遠慮いただけると幸いです。
██博士は手紙から目を離して、贈られてきた白い箱を見やった。
「何だ……? 爆弾でも入っているのか?」
予め呼んでおいた爆弾処理班に箱を開けさせる。
するとそこから、灰色の縞模様の猫がひょっこりと顔を出し、「にぁ」と鳴いた。
それから軽くジャンプして地面に降りると、██博士の足にすり寄ってきた。
握っていた手紙を落としかけて掴み直すと、裏にも何か書かれている事が分かった。
『メカニックネコちゃん♡』の仕様書
電源はありません。くず石を食べて稼働します。
嫌がる事をすると噛むことがあります。
名前を呼ぶと鳴きます。こちらに来るとは限りません。
『踊って!』と話し掛けるか、首元にあるスイッチを押すと、数分間踊ります。
それでは、可愛がってあげてください。
「……」
博士が猫の首元にある小さなボタンを押すと、猫は二本足で立ち上がり、腰を振ったり、手を振ったりして踊りだした。
「にゃんにゃん! にゃんにゃん!」
「……」
「にゃんにゃん! にゃんにゃん!」
「分からん……私は一体何を見せられているんだ?」
「にゃんにゃん! にゃんにゃん!」
「一体! 何が! 起こっているんだ!?」
その時、██研究員がやってきて、「██博士!」と手を振って近寄ってきた。
██博士を探していたらしい。
「この書類なんですが」
「にゃんにゃん! にゃんにゃん!」
猫の踊りはラストスパートに掛かっている。
心なしか表情が活き活きとしている。
「何ですこの」
「分からん!! 一体!! 何を見せられているんだ!!?」
「博士!?」
猫は取り押さえられ、後日、人を混乱に陥れるミームを持つオブジェクトとして収容された。
やはり東弊重工は危険な存在である。
存在が意味消失しています。