善き隣人
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█月█日
████の████ハイツ███室に引っ越す。部屋は狭いし薄汚いが、今日からここが俺の城だ。仕事が一段落したらもっといいところに住みたいものだが。とりあえず持ってきた家具やらを荷解きしないと布団を敷く間もなさそうだ。しばらく手間がかかるだろう。

█月█日
整理の傍ら、一応隣の部屋の住人に挨拶をしておこうと思ったが、標識もなくチャイムを鳴らしても誰も出てくる気配がない。たぶん空き部屋なのだろう。角部屋なのでお隣さんはそこだけのはずだった。まあ、こんな所に住むような連中だ。まともな近所付き合いなんて望むべくもないが。

█月█日
仕事の帰りにビールを買って帰る。この町にも慣れてきた。ボロい我が家にもだ。

█月█日
昨夜、玄関に出しておいたゴミが無くなっていた。朝になったらゴミ捨て場に持っていこうと思っていたのに。酔っていたのか記憶が定かではない。もしかしたら自分で持って行ったのかも。

█月█日
台風のせいで廊下がひどい有様だった。でも一晩置いたらすっかり掃除されていた。同じ階によほどのきれい好きがいるらしい。この並びで住人を見たことがないから、空き家だと思っていたお隣さんかもしれない。

█月█日
出来心でお隣さんのドアの郵便受けに広告を入れてみた。仕事から帰ってくるとなくなっていた。どうやら空き家ではないらしい。悪いことをしたな。

█月█日
なんとなく住人の顔が分かるようになってきた。大抵はポストの辺りで見かける程度ではあるが。それにしてもお隣さんに会ったためしがない。今時、アパートの隣人の顔も知らないというのは珍しくもないだろうけど……

█月█日
手続きの都合で管理人に会う。訊けば、この階に住んでいるのは俺だけだそうだ。

█月█日
気のせいだろうか。隣の部屋に押し殺したような気配を感じる。

█月█日
ヘンな妄想のせいで一日中何かにつきまとわれているような気がする。全部勘違いだった。そうに決まってる。

█月█日
会社に忘れたものだと諦めていた携帯電話が、アパートのドアノブにかかっていた。出来の悪い悪夢だ。

█月█日
間違いない壁の向こうに何かがいるあいつも壁の向こうの俺を見てるしそれどころか壁に張り付いて今も俺の息すらきいてるかもしれない何かがいる!何かがいるんだ!

█月█日
もう部屋に帰りたくない。部屋に帰らなければ大丈夫だと思ってた。もう手遅れだ。ずっと背中に部屋で感じた気配が張り付いてる。一歩ずつにじり寄ってくるんだ。あいつは俺の顔を知っている!

█月█日
この町を出ようと思う。伝手を頼って家は決めた。業者にも連絡したし、すぐにでも、ああ、初めてインターホンが鳴った。たぶん注文した引越し用具が届いたんだ。こんな夜遅くになんだが、今すぐにでもここを出ていきたい気分だ。判子はどこにいったか。サインでいいか。