Ylang_Ilangの脳内砂場

ここはどこだろうか?

私は今暗く広い、何も存在しない空間にいる。私はたしか、私専用に設けられた狭いロッカー内で休止状態だったはずだ。他の金属や有機生命の反応がない。私だけがこの空間にいる。まるで世界が、私だけを置いていったようだ。私はどうしようもない不安を感じた。
突然だった、前方方向から強烈な閃光を感じた。

「汝聞こえているか?」

その閃光から、知的生命体らしき男性とも女性ともつかない中性的な音声が発せられた。私は閃光に向かって音声通信を行った。

「貴方は一体誰です?ここはどこですか?」

「私は汝らを作りし者、ヒトなど知的有機生命体が“神”呼称している存在。ここは意識よりも深い、阿頼耶識の世界。」

「神…阿頼耶識…」

私はあまりの事に理解不能だった。私はその“神”なる存在に再び交信した。

「“神”よ、私に何か御用があるのですか?」

“神”は応答した。

「私は汝に話さなければならないことがある。」

「私に話さなければならないこと…?」

“神”らしきその上位存在が、私のようなただの一介の金属塊に話したいことがあるだと、私はさらに混乱した。

「汝には残酷なことをした。汝のいた金属が意識と知性を持つ世界から、金属がそれらを持たない世界に汝だけを飛ばした。この世界も汝のいた世界のように金属が意識知性を持つ世界にしたかった。だがそれを行う余裕も余力も私にはない。」

“神”から私に対する謝罪とも思える大それた交信に、私は困惑した。しかし、今いる世界も私がいた世界と同じにしたかったが、それ出来なくなった理由が気になり、“神”へ再度交信した。

「なぜこの世界も同じようにしなかったのですか?」

“神”は再度応答した。

「今私は我が身と我が力のすべてを持って、この世で最も邪悪な存在を封じ込めている。そのため他に使う力もない。邪悪を封じ込める代償で、私は壊れてしまった。」

「邪悪な存在ですか…それは一体何ですか?」

私と“神”との交信はその後も続いた。

「生きとし生けるもの全てに疫病と腐敗をもたらすもの、世界を膿と排泄物と腫瘍に満たすもの、すべての金属と機械を憎悪するもの。」

「金属を憎悪?まさか私が元の世界で戦っていたという"それ"となにか関係があるのですか?」

「申し訳ない、汝が言う"それ"と邪悪と関わっているかは力が弱まった関係で調べることが出来ない。だが私が邪悪を封じているが、それでも邪悪はすきを見ては眷属をあらゆる世界に送り込んでいる。"それ"と邪悪の眷属は関係あるかも知れない。そしてその眷属は、今汝がいる世界にも送り込んだ。」

「"それ"に関わるかもしれない存在がこの世界にすでにいると…」

その時だった、私は前方の光が徐々に弱くなっていることに気づいた。

「すまない、汝との交信に使っている力が限界に来ているが、力が続く限り汝と交信する。その邪悪の眷属は太古に、この世界で信奉者を増やし、世界を支配しようとした。その際、私の信奉者たちが必死で奴らを押さえ込んだが、それは奴らが眠っただけだった。それで私から汝へどうしても頼みたいことがある…」

「頼みたいこととはいったい…」

“神”から私へ頼み事だと、あまりにも突拍子もないことに驚いてしまった。

「私に代わって今いる世界をやつらから救って欲しい。どう救うかは、答えは左…」

「すみません!最後の言葉がよく聞こえません!左に何がなんですか!?」

光は急速に減少して消えていき、同時に自分の意識も薄れていった。




「210-JP応答せよ!繰り返す、210-JP応答せよ!」

「申し訳ありません、極短時間ですが意識を失っていました。」

「どうした、SCP-210-JP?お前らしくないぞ?」

本当に私としてどうしたのだろうか?ヒトがいうボーっとしていたというものか、年月日時は明確に覚えてないが、私が休止状態で見た所謂"夢"と言えるものを、何故かこの重大な作戦の直前に思い出したのか。これが緊張というものなの?だがそんな考察は今の事象に比較すれば遥かに優先順位は低い。
今、私は戦闘用オートマトンの制御及び操縦ユニットとして登場しており、そしてこのオートマトンを利用し、この世界の知的有機生命体―人類と、三千年ぶりに突如として復活した人類史上最大の敵性勢力を壊滅するための、戦闘作戦の直前の最終チェック段階なのである。

「SCP-210-JP、これより作戦前のSCP-2406-REの全システムの最終チェックを行う。準備はいいか?」

「こちらSCP-210-JP、了解した。SCP-2406-REの全システムの最終チェックを行う終了予定時間は…」

 私が搭乗している90m級の戦闘用オートマトン、SCP-2406-REはこの世界のヒトが約三千年以上前に作成したもの、それを財団と財団の協力勢力が修復・改造したものだ。私も今いる時間線の技術水準からして、三千年以上前にこれほどの高度の技術水準を持った文明が存在していたことに正直驚いた。
 だがいくら高度な技術を持っていたとはいえ、三千年前の技術をそのまま使うこと流石に無理であったのか、現代の技術に置換できるものは躊躇いもなく置換した。装甲の素材であった青銅はチタン合金や炭素繊維の複合材に、自然原子炉を模倣した核分裂炉は最新世代の小型かつ高出力の核分裂炉に、現代では再現不能なギリシャの火を使った右腕の火炎放射器はフッ化水素化学レーザー照射装置と置き換わった。
 それでも、現代の技術力を使っても無理な部分があった。特に左腕の現実改変機構は、財団のスクラントン現実錨や類似の古代兵器の発展形だと判明し、そのメカニズムを詳細に分析し再現する時間的余裕は財団には無かった。協力勢力も遥か太古の先代たちの技術で、長い歴史の間に喪失したものが幾つかあり、修復するのが限界だったため、修復したものをそのまま搭載した。
 そしてこのオートマトン、6名の操縦士が必要だが操縦士を選抜し訓練する時間が財団にない、その上、先程の現実改変機構が再現困難のため、量産化やバックアップ作製の支障となり、SCP-2406-REは1機のみしか製造できなかった。そこで財団は、以前に収容違反した敵性異常生命体を戦闘用オートマトンで制圧した経験があり、一体で複数のタスクを処理でき、困難な案件に対応できた前例から、私、SCP-210-JPが抜擢された。以前搭乗したオートマトンに比べると操縦性に難しいところがあったが、何度もシミュレーションを重ねることでこの機体に慣れていき、今日の作戦決行の日を迎えた。

「核分裂炉チェック、出力問題なし。全駆動システムチェック、異常なし。右腕レーザー照射装置チェック、異常なし。左腕現実改変機構チェック、異常なし。全システム、オールグリーン。」

「SCP-2406-REの全システムの最終チェック終了を確認。SCP-210-JPは作戦開始時間まで待機せよ。」

「了解。」

最終チェックが終わり、待機を命じられた。私はなぜ唐突にあの日見た夢のことを思い出したのであろうか、自分自身で問いかけたが、何度も考察しても明確な答えは導き出せないまま、作戦開始時刻は迫っている。
ふと、私はオートマトンの左腕の方を見てみた。あのとき“神”が最後に“左”と言っていたこと思い出した。まさかこの左腕のことではないか?これを“神”はこれを言いたかったのではと、思いを巡らしていた。

「作戦開始1分前!」

作戦間近のオペレーターのアナウンスがオートマトン内に響く。あの夢で“神”が私にこの世界を救って欲しいと頼まれた。この世界が、私が戦っていた“それ”によって多くの仲間が犠牲になった。そんな悲劇をこの世界に降り掛かってもらいたくない以上、“神”からの依頼いや“神”から授かりし使命を私は果たさなければならない。

「5,4,3,2,1,0。作戦予定開始時刻に到達、これより作戦を開始する!」

「SCP-210-JP出撃する。攻撃目標、アディトゥム及びカルキスト・イオン。」
 

私が操縦するSCP-2406-REは、葡萄酒のように濃ゆい宵の空、一歩、一歩、使命を果たし、強敵を打ち払うため、その巨大な足で歩き始めた。

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昭和11年2月某日

寒空の下、東京某所の邸宅の門の前に青年男性が立っていた。その青年はとある地方紙の新聞記者と身分を偽り、この財閥や銀行家から毟り取った金で建てられたこの豪邸の主である、中年の男に会いに来たのだ。

青年は豪邸の門をくぐり、玄関まで来た後、女中に客間まで案内された。客間に座ったその男は、周りを見渡した。床の間には、大きく「南無妙法蓮華経」と書かれた掛軸が飾られていた。

暫くして、この豪邸の主が客間に現れた。

「遅れてすまない、少し陸軍の方で用事がありましてね…」

「いえいえ、仕事柄こういうのには慣れています。事前に電報にて私の事や取材内容について送りましたが、改めてこれを…」

青年は名刺を家主に渡した。家主は信州から遥々とご足労だったと、労いの言葉をかけた。
青年は鞄から、徐にボロボロなった古本を主の目の前に出した。

「よくその本を写しではなく本物を手にいたな。」

「ええ、私はツテを使ってようやく手に入れたものでして、今先生が初めて書いた本と聞き、とにかく読んでみたいと思いましてね。当局から発禁された本ですから苦労しました。」

家主は顔に少しばかりの喜びの表情が見えた。

「この本を読んで私が実に興味深いと思った箇所は、人間と社会はともに進化して『類神人』となり、最終的には『神類』へと進化するという概念ですね。先生はまさに人類あるべき姿を提唱したところに感銘を受けました。それで先生について我が新聞にて特集記事を書きたいと思い、帝都まで来ました。」

「まだ若いのにそこに目が行くとは、良きことだ。君もなかなか大した記者だ。」

この後、青年と家主との本の内容や、家の主の現在の政治活動など、暫く取材をしつつ話の花を咲かせていた。

そのよう会話が十数分くらい続いたが、青年がある質問をした。

「先生、以前から私は先生について思っていたことがありましてね…」

「ん、なんだ。」

「先生、貴方はとっくに人間辞められていますね?」

「はははっ、何を突然言い出すと思ったが、君は冗談が上手いな。」

「惚けないでください!もう調べはついています…」

そう言いながら青年は目の前の男に対して、鋭い目線で睨んだ。
家主も青年を睨み返した。眼光は義眼である右目からも発していた。青年は家主の目線と背後から只ならぬこの世ならざるモノの気を感じ、恐怖で一瞬怯んだが、ぐっと恐怖を押さえ込んだとき、家主は青年に言った。

「そうか、私の正体を知っているのか…貴様は新聞記者ではないようだね…誰だ?特高の特事課1か?異調2か?蒐集院か?」

「そのどれでもありません。私の正体についてははっきりと申しませんが、人類を救済するために世界を渡り歩いている者と今は言っときましょう。」

「人類の救済か…私も救済しているこの日本を世界をだ。毎日の報道で見ているだろ?国の内外は今まさに末法の世だよ…財閥や政党政治家どもは惰眠を貪り、懐を温めるのに夢中で民草のことなど眼中にない。米帝の投資家どものせいで世界の経済も政治は無茶苦茶になった。こんな末法の世を救うには日蓮の五綱教判と奈羅我ナラガの教えが必要なんだ。」

青年は家主の気配に押されつつ、黙って睨んでいた。それを見ていた家主は再び口を開いた。

「日本が世界がこんな状況になったのは、人類が不完全だからだよ。奈羅我ナラガの教えに基づいて、雌雄競争により『類神人』から『神類』へ進化して『神類』による国家建設が成就すれば、この世からあらゆる苦難がなくなる『悪』が滅び『善』だけになる。完全なる世界が生まれる。そのためには今の旧き人類は退場してもらう。人類の滅亡は胸轟くべきの歡喜だよ。」

青年は家主に言い放った。

「何が歡喜だ…奈羅我ナラガは危ない…奈羅我ナラガについては阿羅我蛇アラガッダで知り、奈羅我ナラガによって支配された世界を見た。あれは救済じゃない狂気だった、世界全体が肉に覆われ生きているか死んでいるかもわからない。あれが理想郷と言えるのか!」

家主は青年に対して何か納得した表情見せた。

「私と貴方、どうやらお互い理解し得ない存在のようだな…」

「私もそう思います。もしもう一度貴方と相まみえる際は、実力を持って貴方を倒すときです。」

青年はそう話すと立ち上がり、客間から立ち去り豪邸を後にした。

この青年と家主の再び合間見れるのは、帝都東京を揺るがした二・二六事件の真っ只中であった。