坂枝助手の管理資料室
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アイテム番号: SCP-XXX-JP

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石川県 かほく市で発見されたSCP-XXX-JP-1の画像

オブジェクトクラス: Safe Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8103の個別収容ロッカーに収容されます。SCP-XXX-JPを用いた実験をする場合は担当主任の許可を得たうえで行ってください。なお、実験はサイト-8103の隔離実験室に限定して行われます。実験に参加するDクラス職員には小型GPSを所持させてください。

現在、SCP-XXX-JP-1,2は財団が所有し、一般人による付近への立ち入りを規制しています。内部の物品等は財団が既に回収しており、生体物質はサイト-8103の医学部門に、無機物物品は同サイトの分析チームに配分されます。調査の終了した物品に関しては特殊保管区画に収容してください。

説明: SCP-XXX-JPは縦15㎝、横25㎝、総ページ数48ページのフォトアルバムです。対象は1ページに4枚までの写真が保管可能であり、現在は各ページに付き1枚のポラロイド写真が添付されています。写真の最低枚数は13枚ですが、後述の異常性により総数が増加する為、正確な総数は判明していません。写真の内容は主に人間の男性と女性(・男性:35歳前後と予想。以下、SCP-XXX-JP-A ・女性:12歳前後と予想。以下、SCP-XXX-JP-B)が自宅と思われる日本家屋内で遊んでいる、生活している様子などが撮影されています。しかし写真に関しては調査の結果、アナログ方式1による合成写真であると判明しており、現在、これらの写真の出どころや2体の実体に関する明確な関係性は明らかとなっていません。写真を摘出する試みはDクラス職員の右腕が[編集済]となる事案が発生したため失敗しました。

SCP-XXX-JPの異常性は第2段階まで存在し、双方人間の男性(以下、被験者とする)が対象内部に添付されている写真を視認した際に発現します。女性が対象を視認した場合は心筋梗塞により死亡します。
第1段階の異常性は被験者が1枚の写真を視認2した場合に発生します。被験者がこれを行った場合、写真が撮影された当時の情報であると思われる記憶を想起するようになりかつ自身の実体験として認識するようになります。その為、長期的に視認を繰り返した被験者はSCP-XXX-JP-Bを実の娘であると認識し始め、それらの症状が進行するにつれてSCP-XXX-JP-Bに対する依存度が増加していきます。この時の被験者の体内を検査した結果、大量の麻薬成分が検出されたことからこれらの依存性は薬物中毒と類似したものであると判明しました。大抵の場合、被験者は正常に社会生活を営むことが困難になり禁断症状などを発症する重度の中毒状態に陥り、しかし、この状態の被験者はこれらの症状で死亡することはありません。

もし、被験者が1ページ目から順番にかつ連続で写真を視認した場合、異常性は第2段階へと移行します。被験者が前述の行動をとった場合、本来写真が添付されていない筈の14ページ以降にも新たな写真が添付されなおかつページを捲るといった行動の抑制が不可能になります3。現在この現象発生後にこれらを停止させる試みはすべて失敗しており、被験者を止めに入ったセキュリティー担当者が未知の現象により吹き飛ばされる、被験者との接触が不可能になるという事象が発生しました。
追加される写真の内容はページ数が増えて行くごとにSCP-XXX-JP-Bの身体的外傷や損傷・腐敗が進行していき、最終的には顔面の全皮膚の剥落や眼球の溶解、小腸や大腸といった臓器の脱落、肉質部分の腐敗による腕骨の露出といった状態へと変化していきます。また、この時点での被験者が想起した記憶やSCP-XXX-JP-Bに対する認識は以前の物とは異なり、双方の存在は虚偽であると主張しだします。

これらの異常が発生しかつ被験者がおよそ35ページ目に到達した場合、被験者の背後に腐敗の進行した状態のSCP-XXX-JP-Bが出現します。その後、SCP-XXX-JP-Bは被験者を光源の存在しない地点へと誘導し未知の原理で被験者と共にその場から消失します。これらのプロセスを阻止する行動は未知の原理による実験室の封鎖や、SCP-XXX-JP-Bによる遠隔的なDクラス職員の殺害により失敗しました。
消失後、被験者は石川県 かほく市 [編集済]に位置する一般家屋(以下、SCP-XXX-JP-1)に転送されると思われます。しかし、被験者に取り付けていたGPS等の反応は該当地点から正確に発信されているにも拘らず被験者を発見することは出来ません。

一連の異常が終了した場合、14ページ以降に添付された画像は全て消失します。

以下はDクラス職員にGPSとマイク付き小型カメラを所持させた状態で行った実験記録です。

アルバム、写真共に重度の損壊が発生した場合も自動的に修繕され、かつ修復が行われている際は人体の治癒機能に近い現象が発生します。その為、アルバムや写真等の表面には血管状の浮き上がりが生じ、損傷部分からは出血が確認されます。これらのプロセスは完璧に終了する為、損壊前と同様の状態に修復されます。

補遺1: SCP-XXX-JPは1999/8/9にエージェント・ポルトによって発見されました。当時、エージェント・ポルトは石川県 かほく市にてSCP-████-JPの周辺調査を行っている最中であり、その際に通りがかったゴミ捨て場にてSCP-XXX-JPを発見しました。その結果エージェントは異常性に暴露しかつその場から失踪、財団は捜索部隊を派遣しエージェントの捜索を開始しました。捜索期間は3週間を有し、発見場所は石川県 [編集済]の山奥。発見時のエージェント・ポルトは心身共に衰弱状態であり、SCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-Bに対して異常に固執する言動や行動が伺えました。その後、エージェントはサイト-8103の隔離室へと収容され、検査の結果、体内に大量の脳内麻薬と類似した物質が確認されました。現在もエージェント・ポルトは拘束されており、これらの症状治療のための検査が継続されています。

補遺2: サイト-8103の調査班は実験記録の映像やSCP-XXX-JP内に添付されている写真の背景などから撮影地点を割り出し、現在のSCP-XXX-JP-1を特定しました。これにより、財団は機動部隊じぇ-11"特さ隊"を派遣し内部の調査を実施しました。なお、この時点でSCP-XXX-JP-Aの本名が██ ██であると判明しました。

家屋内部のまとめ

間取: D-0991を起用した際の実験記録に録画されたものと同様の間取りであり、大きな差異は見られなかった。
状況: 実験記録とは異なり中は清潔に保たれていた。調査の結果、SCP-XXX-JP-Aの失踪から空き家状態が続いており、建物の持ち主が定期的に清掃をしていた事が判明した。なお、SCP-XXX-JP-Aが失踪した時も部屋の中では何ら異常は見られなかった事が建物の持ち主からの証言で発覚した。
差異: 家屋内部の寝室を調査した結果、赤色灯を用いた写真の現像室に改造してあることが発覚した。なお、内部は中から封鎖された状態であり、ドアを取り外すことで侵入に成功。SCP-XXX-JP-A,Bの合成前だと思われる写真と、現像中のまま放置されている同様の写真が発見された。
人間: 内部の調査を行った結果、D-0991本人は発見できなかったが、D-0991に装備させていたカメラと発信機が現像室にて発見された。しかし、建物の持ち主や近隣住民などに調書を取ったが事案発生時には誰も建物に近づいてはいなかったと証言した。

上記の報告を受け、サイト-8103の調査部は捜査対象をSCP-XXX-JP-Bに変更しました。その結果、1999/10/9 岐阜県 [編集済]の「安らぎの里」という孤児院にてSCP-XXX-JP-B、本名:██ 善代ミヨ(当時:11歳)を発見しました。なお、SCP-XXX-JP-Bはこの時点で精神虚弱状態であり1995年に両親が何者かに殺害されかつその現場に遭遇したことが原因だと思われます。1999年現在も犯人は逮捕されておらず、詳細も判明していません。

補遺3: ██ 善代ミヨ氏との面会を終えた後、財団調査部はSCP-XXX-JP-Aの本住所である岐阜県 [編集済]の平屋一戸建て家屋(以下、SCP-XXX-JP-2)を調査しました。なお、SCP-XXX-JP-2の不動産業者は既に倒産しており、土地等も所有者のいない状態でした。現在、このような状態が容認され続けてきた経緯などを調査していますが詳細は判明しておらず、家屋、土地等に関連する書類や記録も消失していることが判明しました。
調査の結果、内部には何らかの生物の内臓と思われる物体を収容したビニール袋が多数散乱しており、ペットボトルや前述した物体などで作られた身長150cm前後の人形が多数確認されました。対象には女児用の衣服が着用させられており、身長もSCP-XXX-JP-Bと一致、人形の股間部分の臓器が詰め込まれた箇所からはSCP-XXX-JP-Aの物であると思われる精液などが発見されました。現在人形を含めたこれらの詳しい分析をサイト-8103の研究部門が行っています。
また寝室と思われる部屋を調べた際に、壁に詳細不明の血液で書かれた「これは嘘だ」という文字とSCP-XXX-JP-Aが通っていたと思われるカウンセリングルームの領収書が発見されました。
以下はそのカウンセラーに行われたインタビュー記録です。


+追記
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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Safe Euclid

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閉鎖後の████ランドの様子。

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8104の担当班によって管理されています。現在████ランドはSCP-XXX-JP以外の施設すべてが撤去された状態であり、SCP-XXX-JPを取り囲むように研究施設が建設されています。施設は財団フロント企業が所有している発電施設に偽装されます。

現在、並行してSCP-XXX-JP-Aの状況や動向の監視が行われています。もし、何らかの異常が発生した場合はサイト-8104の担当班に報告してください。
新たなSCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP内部に出現した場合は速やかに対象を保護し、検査を終えた後に保護者もしくは親族の元へと移送してください。

説明: SCP-XXX-JPは北海道 ██近隣に位置する「子供お仕事パーク」と明記された大型施設です。対象は1990年に子供の職業体験施設という名目で、当時遊園地として経営されていた████ランドの敷地内に建設されました。しかし、その後の経営不振などから1991年に運営会社が倒産、その直後に園全体が閉鎖され発見時まで放置されていたと思われます。なお使用されている建材等には何ら異常性は見られず通常の素材同様に損傷します。

SCP-XXX-JP内部では大規模な時空間異常が発生しており、施設外見よりも多くの面積を有しかつ外部で1時間とされる時間も内部では2ヵ月程度であると計測されます。なおSCP-XXX-JP内部で経過した時間による人間の老化の兆候は見られず、天井部分にある大型の電灯やスプリンクラーなどによって朝昼晩の太陽の様子や雨といった天候の変化なども再現されています。内部では大型ビルおよび公共施設などが存在する市街地が運営されており、犬や猫、烏や鳩といった市街地に生息していると想定される生物や並木・庭などで植生している植物等も存在しています。ですが、それらを外部に持ち出した場合、対象は瞬時にプラスチック製の人形や物品へと変化し、一切の異常性を喪失します。

SCP-XXX-JPの異常性は内部に5歳から9歳までの人間が侵入した際に発生します。該当する児童が侵入した場合、対象の精神年齢は大幅に向上させられかつ30歳から40歳であると想定される人間が有する一般常識と学力を保有した状態に変化します(以下SCP-XXX-JP-Aとする)。現在、これらの直接的な原因は判明しておらず、SCP-XXX-JP-Aに該当しない人間等が施設内に侵入したとしても何ら影響は受けません。
SCP-XXX-JP-Aとなる人間は全員が日本国内にて行方不明となっていた人物が該当し、SCP-XXX-JPに到達した経緯などは一切記憶していません。なお、影響下にあるSCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JP内にある物品全てを施設内に設置されている模造品であると正しく認識しており、その為SCP-XXX-JP内からの脱出も容易であると理解しています。ですが、SCP-XXX-JP-Aが外部に出た場合、瞬間的にこれまで確認された全ての異常性が消失するため施設内部での出来事を殆ど喪失します。
現在、SCP-XXX-JP-Aとなった児童らの行方不明事件がSCP-XXX-JPによって発生させられた事象であるかは判明していません。しかし、遭難や誘拐などといった行方不明時の状況等から、この事象とオブジェクトとの関連性は皆無であると思われます。

SCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP内部に侵入した場合に発生する工程

工程1: SCP-XXX-JP-Aが未知の原理で施設内にある玄関広場に突如出現する。

工程2: 広場に設置されている印刷機から自動でSCP-XXX-JP-Aに割り当てられる職業と居住区が明記された書類が印刷される。

工程3: SCP-XXX-JP-Aは指定された地区に向かう。

工程4: 既にSCP-XXX-JP-Aの本名が書かれた表札のある住居にて生活を開始し、その翌日から同じく指定された職業に従事するようになる。

SCP-XXX-JP-Aはどのような特殊な技能(遺伝子操作や量子物理学といった高度な研究職、危険物の取り扱いに関わる職業など)であろうともそれを行使し、SCP-XXX-JP内に設置されている交通機関や金融機関、医療施設、政治的機関、警察組織、司法機関などを運営することで現代の日本の都市部と同等の生活水準を有する独立した共同体を形成しています。それに伴いSCP-XXX-JP内で社会的な人間関係を有するSCP-XXX-JP-Aの存在も確認されています。

2017年現在、全SCP-XXX-JP-Aは財団機動部隊により保護され、その後の精密検査を終えた上で保護者の下へと帰されています。ですが、今後発生する異常性発現の可能性も考慮してそれぞれに対しエージェントによる監視が行われています。なお、現在対象の殆どがSCP-XXX-JP内で担当していた職業と同様の職に就いており、これらの事象はあくまでSCP-XXX-JP-A等の自由意志により決定された物であると確認されています。
以下は現在のSCP-XXX-JP-Aの動向をまとめたリストの抜粋です。
SCP-XXX-JP-A-1 本名:佐川 ██ 職業:医師 ・対象はSCP-XXX-JP内でも医師として活動しており、現在も内科医院を開業している。しかし、エージェントの報告からもこれの決定に何かしらの強制があったようには見えなかったとされ、開業した医院の方針や周囲の人間関係などSCP-XXX-JP内で生活していた時とは大きく異なる点が確認されている。
SCP-XXX-JP-A-27 本名:神代 ██ 職業:元アパレルショップ店員 ・対象は2016年7月28日に酒気帯び運転をしていた普通乗用車に撥ねられ死亡した。職業こそSCP-XXX-JP内で担当していた物だが、内部でこのような現象は確認されていない。この事から、SCP-XXX-JP内で発生した事象はSCP-XXX-JP-Aの行動原理や結果にはほとんど関与しないことが判明した。
SCP-XXX-JP-A-98 本名:橘 ██ 職業:企業の経理担当 ・職業に関してはSCP-XXX-JP内で担当していた物と同様であり、また対象はSCP-XXX-JP内で婚姻関係にあったSCP-XXX-JP-A-99(能崎 ██氏)と現在も婚姻関係にある。これらの現象もあくまで双方の自由意志によって決定されており、対象二名が接触した経緯もSCP-XXX-JP内で発生した事象とは異なる形で発生している。なお、SCP-XXX-JPに関する記憶が復活した等の兆候も見られていない。
SCP-XXX-JP-A-120 本名:桑原 ██ 職業:検察官 ・SCP-XXX-JP内では弁護士を担当していたが、現在は検察官として働いている。なお、これらの経緯について監視を行っていたエージェントの報告によると、当初こそ対象は弁護士を目指していたものの当時通っていた大学の先輩が不当な方法で無罪判決を促したという報告を受け目標を変更したと確認されている。この事からも、あくまでSCP-XXX-JP-Aの就く職業や周囲で発生する事象、行動原理などは対象の自由意志によって決められており、SCP-XXX-JPからの強制などは受けていないと思われる。

SCP-XXX-JP内で確認されている職種の種類に関しては「子供お仕事パーク」の企画書などに明記されている職種以上の種類が存在しています。これらの増幅は新たなSCP-XXX-JP-Aの出現に伴う構造物の出現という事象により発生しており、しかし、食料や医薬品等の消耗品、ガソリンと言った燃料などの物品の生産に関しては閉鎖的なコミュニティーである性質上常に人員が不足している為、一部施設内に設置されている供給装置から未知の原理で生産、補填されます。なお電力などはSCP-XXX-JP内に設置してある発電施設によって賄われており、それらの操作はSCP-XXX-JP-Aによって行われています。

補遺: SCP-XXX-JPは1994年に発生した事案により発見されました。当時、鹿児島県 ██町にて██ ██氏(男性:当時8歳)が行方不明となっており、捜索は困難な状態にありました。しかし、それからおよそ3ヵ月後、北海道の██近くに敷かれている国道█号線付近にて対象が保護されたという報告が上がり財団がこれを察知、これに関する調査を開始しました。結果、エージェント・Peetが現SCP-XXX-JPを発見し、機動部隊を起用した内部の調査を行った際にオブジェクトの全貌が明らかとなりました。なお、発見当時のSCP-XXX-JP内には204名のSCP-XXX-JP-Aが生活しており、その後の調査で全員が全国で行方不明となっていた児童であることが判明しました。

以下はSCP-XXX-JP-A-98・本名:橘 ██氏(男性:当時7歳)へ行ったインタビュー記録です。

追記: 20██年現在、新たなSCP-XXX-JP-Aの出現は確認されていません。しかし、SCP-XXX-JP内部での空間的異常は継続されている為、以降も監視は継続されます。
また、SCP-XXX-JP-Aの保護後に行われた内部調査の際に以下の文章が印刷機から印刷されました。これに関する異常は発生していません。なお、文章の内容からSCP-XXX-JPがこちらを認識している可能性が浮上しました。その為、日本支部理事会は対象のオブジェクトクラスをSafeからEuclidへの引き上げを決定しました。

「梁野博士。」

僕はやっとのことで彼を見つけた。

「……ん? ああ、『野々村』君。おはよう。」

博士を探す回るという行為。このサイトに配属され、彼と共に仕事をするようになってからもう何度目だろう。それもこれも、皆、この梁野武一という男の「癖」の所為だ。

今日も博士は廊下で寝転がっていた。この人はいつもそうであり、決まった場所に留まっていることがほぼ無い。その為、僕のように提出期日の迫っている書類の受け渡しを行う際に苦労する人間が後を絶たないのだ。その御蔭もあって、今じゃ配属したてのはずの僕の方が、他の職員よりもここいらの道に詳しくなってしまった。

「……おはようじゃないですよ。どれだけ探したと思ってるんですか。」

「ああ、それはそれは。」

この前だって別の職員が博士を探しまわり、挙句の果て、このサイト内で遭難してしまうという事件が起きたばかりだ。その職員が迷っていた時、当の本人がいた場所は会議室の机の下だった。この話を聞いた時、僕はその職員に大いに同情したのをはっきり覚えている。

ここへ来たばかりの頃は確かに驚いた。なにせエージェントに博士を紹介された時、案の定、彼は廊下で寝ていたのだ。しかも、丁度女性職員にセクハラまがいの行為をしている最中。彼は女性職員の足首を掴んだまま、引きずられて大爆笑していた。
自分の上司になるかもしれない人物のプロフィールぐらいは頭に入れていた。だから、僕は一時期は主任研究員にまでなった『立派な』職員だと言う勝手なイメージを持って、梁野博士の元へと向かったのだ。誰であろうと、そのような経歴を持っている人間だと知ったら、優秀な人間でかつ人格者であるという理由のない人物像を思い描いてしまうものだろう。しかし、結果はそれとは全く正反対だった。当然、僕はそのギャップに面食らってしまった。

「いや、ご苦労をかけたね。暇つぶしに本を読んでたらいつの間にか寝ちゃってたよ。」

「暇つぶしって……頼まれてた仕事はどうなったんですか? 」

僕は彼を探していた本来の目的を伝えたつつ、小脇に抱えている報告書の入ったファイルを持ち直した。

「頼まれた書類? ああ、うん。はいこれ。」

そう言って梁野博士は書類の束を取り出す。電話帳ほどもあるこのA4の束を何処にしまっていたのか、僕には皆目検討がつかない。僕はそれを受け取り、それぞれの書類をめくりつつ、じっくりと中身を確認する。

「……終わってますね。」

「終わっていたからこそ、暇だったのさ。」

そもそも、何で廊下でここまでの仕事ができるのか。自分のデスクで働いている自分がバカバカしくなる。こんなの納得できるわけがない。僕はそんな気持ちに加え、何か虚無感にも似た感覚を抱きつつ書類をファイルへとしまった。

だが、内心こんなことになるだろうと予想はしていたのだ。確かに、梁野博士はいつも廊下で作業していて、就寝の時ですらこのサイトの何処かで寝転がっている。それなのに、どういうわけか仕事だけはまともに終わらせるのだ。一体いつ、どこでそのような作業をしているのか。全く持って不思議であり、僕のような「ごく普通の」職員からしたら謎以外の何物でもない。このことに関して、理不尽と思っている職員は僕だけじゃないはずだ。以前、博士のこれらの行動を叱咤した主任研究員がいたが、博士の仕事の早さに勝てずに結果を残せなかったという事件以来何も言わなくなったのは記憶に新しい。

「……仕事が終わっているのなら別にいいです。でも博士にはちゃんとしたオフィスがあるじゃないですか。決まった場所にいてくれないと、正直探すのが面倒です。」

僕は博士に言った。これを言うのも何度目だろう。もう伝えたところで、彼が自分のオフィスで仕事をすることなんて無いと分かっているのに。本当はもっと、強い口調で声を大にした言葉をぶつけてやりたい。だが、そんなこと彼は何も気にしていないといった顔で聞くのだろう。本当に、何も気にしていない、何も感じていないという顔で。

「そう言われてもねえ。ここが一番落ち着くんだよ。」

博士は先程僕から言われた小言に対する返答をした。やはり予想通りの受け答えだった。その顔は、いつもと同じ穏やかな笑顔だ。

しかし、この人は本当に不思議だ。
僕がここに配属されて彼の下で働き出してから、彼が誰かを叱ったりだとか、誰かに対して何か文句を言ったりだとか、とにかく人に対して何か感情を爆発させた姿を一切見たことがないからだ。少し問題になるようなセクハラまがいの行為は良く話題には上がるが、彼が誰かに対して好意以外の何かをぶつけている姿など、断言出来るほどに一回も無い。そして、また不思議なのが逆に彼が誰かに何かをされたとしても、彼の中にある相手に対する好意の様なものが無くなることが決してないということだ。つまり、誰かを嫌いになるということが無い。コーヒーを服にこぼされた時も、悪口を言われた時も。大げさなことと思われるかもしれないが、彼はたとえ殺されそうになったとしても、その自分を殺そうとする相手にすら好意を抱いていると伝えるだろう。それほどまでに梁野博士という人物は、何かが人と違うのだ。

「……落ち着くとか、落ち着かないとか、関係無いでしょ。僕は困るって言ってるんです。」

僕は少し怒気の混じった口調で博士に文句を言った。しかし、相変わらず彼は何を言われても変わらない。

彼は僕と出会ってからずっと同じ調子で話し、同じ態度で接してきた。彼の僕に対する対応はあの時から全くと言っていいほど変わっていない。機械と触れ合っているとまではいかないが、声の調子、態度、身振り手振り、それらがまるで統一されているかのような印象を受ける。いや、僕だけじゃない。僕以外の人間とも、この彼の雰囲気は変わらない。まるで、器用に皆を平等に扱っているように。全てが平均化され、全てに好意を持っている。しかもその好意すらも平均化されていて、寸分の狂いもないのだ。そんな人間が本当にいるのだろうか。全ての人間と、完璧なまでに平均的に接することの出来る人間が。

ふと僕は足元に視線を移した。先程から博士が読んでいた文庫本がそこに置いてあったからだ。よくよく見れば、その本はとてもぼろぼろな状態で、紙が茶色に変色していた。一体いつから読まれているのか想像もできないほどにだ。表紙に印刷されたタイトルが目に入る。僕はそれを読んだ。

「……人間失格? 」

「ん? ああ、これか。これはね。」

博士の表情が少し物悲しげなものに変わる。この人がそういった感情を表に出すのを見たのは、僕が知るかぎりではこの時が初めてだ。

「私の半生のようなものだよ。」

「……半生? 」

彼は言った。人間失格が半生だと。 僕は頭に疑問符が浮かんだ。恐らく、あからさまに理解出来ていないといった風貌になっていただろう。そして、僕は少しだけその発言について考えてしまったのだ。
それほど壮絶な人生を生きていたのか、この人は。もしくは、登場人物と自分を重ねてる? 一体誰と。無難に行けば、恐らく主人公だろう。主人公と同じ人生。ふと、件の小説の大まかなあらすじを頭の中でなぞる。しかし、いや、今の博士からは想像できない。この人の人生。この人の人生?

「別に、この中の誰かに自分を当てはめているわけじゃないよ。」

「え。」

「ただ私は、これと共に生きて、これと共にここにやって来た。それだけ、私はこれと付き合い、それに費やすための時間が多かったというだけさ。」

まるで、僕の考えを見透かされたようだった。以前もこういったことがあった。僕が、心のなかでとどめた博士に対する悪態を、彼はそのまま口に出して再現してみせた事件だ。まるで、僕のことを、僕よりも知っているかのような物言いで、博士は言うのだ。その時だけ、僕は博士がまるで人間じゃないかのような錯覚に陥る。

「そうだ『野々村』君。」

「あ、はい。 」

僕は先程の思案を止め、唐突な呼び止めに何とか答えた。

「今日、新たに収容されるオブジェクトの一回目の実験が行われるんだ。君はここに来て間もない。だから、まだ収容手順の流れとかよく分かっていないだろう。それの見学がてらに連れてきてくれって主任が言ってたんだ。どうだろう。」

博士はゆっくりと起き上がり、僕の顔を見つめる。

「はい。分かりました。」

僕は二つ返事でその誘いに応えた。

「あ、それと最後に一つ。」

僕らが歩き出すと同時に、博士は再度口を開いた。彼が立ち止まると同時に、僕も立ち止まった。僕はそれに返事をする。僕の先を歩こうとしていた彼は、背を向けたまま話を続けた。

「今日の『子』は、私が見る限りとても怖がりだ。」

「……はい? 」

「気をつけ給え。わけが分からなくなって暴れだした子供ほど、扱いのむづかしい者はない。」

その時、僕はまだその言葉の真意が分かっていなかった。


「私は、『全ての他者』を愛しているんだ。」

僕は脇腹を押さえながら、痛む体に耐え悶絶していた。しかし、そんな僕の存在などには目もくれずに博士は喋り続けていた。

「だから、君のことも愛しているんだよ。」

サイト内の収容区画手前の廊下は辺り一面血の海となっていた。そこら中に人間だった物が散乱している。それらは既に肉片へと成り果て、一部ではゲル状に変異しているものまであった。視線を移せば、頭部と内臓が片隅にかためて置いてあるのが目に入り、ついこないだまで食堂で談笑していたはずの同僚たちの死体が山積みにされているのだ。暫く気絶していた僕は意識が鮮明になってはじめて、この光景を目の当たりにした。そして、その凄惨さからその場で吐き出してしまった。吐瀉物の中に交じる胃液の苦味が僕の舌を襲う。涙が滲み、ただ苦しいという感情だけが僕を支配していった。
護送中のオブジェクトが逃げ出すなんて。サイト内の事故。講習でも非常事態に備えてどう動けばいいかよく理解していたつもりだったが、ここまで凄まじいものだとは思いもしなかった。今日だけで、一体何人の人間が死んだのだろう。こんなにも簡単に人が死んでいくものなのか。誰にも気付かれない極秘施設の中で、こんな戦場が存在していたなんて。何人かの職員は生き残ってはいる。だが、ほぼ死にかけと言ったほうが正しいだろう。ある者は助けを呼ぶために悲痛な叫びを上げ、ある者は無くなってしまった両足を引きずったまま逃げようとしている。そのあまりの衝撃的な状況に、僕は思いの外、素直にその結果を受け入れることが出来てしまった。抗ったところで、どうにも出来ないという絶望が僕を飲み込んでいったのだ。
さきほど僕はそのオブジェクトによって壁に投げつけられた。その所為で今はこの血溜まりの上で腹ばいになって倒れている。体中に痛みが走り、まともに動くことすら出来ない。
死というものがすぐ目の前にある。生まれて初めての、本格的なそれを僕は感じた。

「君は凄い。これだけのことを、一瞬でやってのけたんだから。」

梁野博士が誰かと話している。僕は霞んでいる視界の中で、それを確かめた。その博士の声を頼りに、僕は何とか目と頭を動かした。

「……でも、これは君が好きでやったことなのかい? そうじゃなかったら君は本当に可愛そうな子だ。……ああ、かつて『他者』として認識していた者達のことも愛していたよ。だけどね? それも結局、死んでしまっていたらどうやっても愛することが出来ないみたいなんだ。……私は、まだそこまでには到達できていないらしい。悲しいね。私は。」

『他者』という言葉がとても引っかかった。博士の言うその言葉には、とてつもなく冷えきった物が根底にある。僕にはそう思えてならなかった。

この惨劇の中で、彼はどうしてこうも、いつもと変わらない平然とした態度で誰かと会話が出来るのだろう。そもそも、先程からしゃべっている内容自体が僕には理解し難いものだった。分からない。情報が少ない。いや、違う。分からないんじゃない。分かりたくないと言ったほうが正しいのかもしれない。そう思うと、僕のぼやけた頭でも嫌な想像ができてしまった。他に誰も居ないのなら、僕以外で会話を試みようとするものがいるとすれば、その答えはひとつだけだ。

「ん? やあ、『野々村』君。生きていたのか。私は嬉しいよ。」

博士が僕の存在に気がついた。その嬉しいという言葉が、どこと無く遠くを見て、恐らく僕のことを心配しているのではなく、そうすることが正解なのだという理由で行っているのだと感じた。

「……博士……一体、何を……。」

「彼女と話していたんだ。見給えよ、この光景を。彼女一人でやったんだ。どうだい? 凄いだろ。こんなことを一瞬でやってのけてしまうなんて。彼女は素晴らしい力を持っているよ。だけど、どうやらこれは彼女が望んだ結末ではなかったらしい。だから、私は彼女を慰めてあげていたんだ。だって可哀想じゃないか。……おっと、そうだ忘れていたよ。」

おもむろに博士は僕の業務用の携帯電話を僕の白衣の内ポケットから抜き取った。そして、先程の朗らかな口調とは打って変わって、とても真面目な言い方でこの惨劇についてを上層部に連絡した。周りでは、未だに阿鼻叫喚の声が鳴り響いている。

可哀想という博士の言葉が出てきた瞬間、僕は動けない体で心だけがざわついた。彼の口調は、本当に変わらない。いつもの日常を謳歌するときと全く同じなのだ。
僕の近くに博士が擦り寄り、倒れている僕を起こした。僕の背中を支え、壁が背もたれの代わりになるように座らせる。そして、僕は見た。博士と並んでいる、この惨状を創りだした当人を。そこにいる存在を明確な言葉で言い表すのにふさわしい言葉がある。それ以上でも、それ以下でもない。

「化け物かい? 」

博士が、まるで僕の心を見透かしたかのようにそう言った。まただ。また、この感じだ。僕のこの気持とは裏腹に、博士のその顔は本当に穏やかだった。

「確かにそうかもしれない。だけど、この子はただの臆病な『女の子』でしか無いんだよ。『野々村』君。それ以上でも、それ以下でもない。そうは思わないかい? だからこそ、彼女のこの行いを私は肯定してあげなくてはならない。じゃなきゃ、この子は自分の心を壊してしまう。君も、ただやったことを責められてるのは好きじゃないだろ? それと同じさ。そう、全く同じなのさ。」

「でも……こいつは、みんなを……。」

その瞬間、博士の表情が変わった。先程からの穏やかなものから一変し、そこには一切の感情の起伏も存在しないのだ。まさに鉄仮面だ。人間味というものが、消えて、無くなってしまったのだ。

「……『野々村』君。」

梁野博士が僕の顔に彼自身の顔を近づける。距離はほんの数センチ。彼は両手で僕の顔を掴み、ぐっと僕と自分自身との距離を縮める。

「私は、私の生涯を全くそれとは無縁なもので統一してしまった。だからこそ、私はそれを取り戻さなければならないんだ。私は皆を愛さなければならない。生きとし生けるものを、ずっと、心から愛し続けなかればならないんだ。私の『母』に注げなかった愛を、今こそ、私の中に創りださなければならないんだよ。じゃなきゃ、じゃなきゃ私は、きっと、恐ろしいモンスターになってしまう。やっと、やっとここまで来たんだ。私は、あそこにいる『彼女』も愛しているんだよ。『君』のことも愛しているんだよ……! だって、そうだろ……! 」

博士の目が、僕の目を見続ける。その目からは、何も感じられなかった。虚無。それが妥当だろう。空っぽなものが何求めたとしても、所詮は叶えられないのだ。僕は、その眼差しからそれを強く感じ取った。

いつの間にか周囲の声は止んでいた。というよりも、皆が梁野博士の言葉を聞いていたのだ。先程まで、殺戮の限りを尽くしていたそれも動きを止め、そこでは今の博士の悲痛な叫びだけがこだましていた。

博士は一旦僕から視線を離し、自身の周りを見回した。皆の視線が彼を見つめている。皆が皆、博士の先程からの文句に対して、恐らく僕と同じことを思っているのだろう。
博士は再度僕の方を見る。その顔は先ほどと変わって、いつものように笑っている。

「だから、私はここにいるんだよ。『野々村』君。 」

博士は最後にそう言って、何も言わなくなった。


機動部隊の介入により、事態は収拾された。僕と梁野博士は、この事件においての複数人いる内の生存者として保護された。そして、その後事件の概要について色々と聞かれた。当時の状況、オブジェクトはどのようにして人を襲ったのか。その他、なにか気が付いたことはなかったかなど。大体一時間ほどこれらの質問が続き、担当の職員の方と話して、僕は取調室を出た。扉を開けたそこには、僕と交代するのを待っていた梁野博士がいた。僕の出てきた取調室の向かいにあるソファーに彼は座っていた。

「終わったのかい? 」

博士が訊いてきた。僕は声を出さずに、小さく頷く。博士は、そうかと言って軽快に立ち上がり、僕とすれ違って部屋へと入っていった。横目で見たその顔は、相変わらずいつもと変わらない表情だった。
梁野博士に関しては、あくまで脱走したオブジェクトの活動を一時的に制御していたという名目で、ある意味今回の事件の功労者として扱われたらしい。だけど、僕はそうは思えない。あの人は、普通の人間とは違う。決定的な何かがずれている。あの、いつも温厚そうな顔に隠した物が、あの時、一気に漏れだしたんだ。僕にはそう思えて仕方がなかった。

「・・・だから、私は、ここにいる。」

博士が最後に言った言葉を復唱した。博士がここにいる理由。博士が、ここに自分の意志でいる理由。僕は少し放心的な動きをしながら、サイト内の廊下を歩いていた。一応の向かっている方向は僕のデスクのあるフロアへと続いてはいたものの、その足取りはおぼつかない。
僕は考えた。博士の言った言葉の意味を。

「私は全ての『他者』を愛している。」

僕はその言葉を思い出し、ふと後ろを振り返った。このサイトの、財団のとても無機質な廊下が延々と続いていた。

僕は思う。多分、あの人は、壊れているんだ。