- 呪いの人形
- 首括り夫人の夢
- あの日に見たあの子に今一度
- 愛する我らが父へ。また逢う日まで
- メスの蟷螂
- ██山、山道での怪 表(投稿済)
- もうやめてあげて
- 雌
- 笑えよ。
- 高高度降下低高度開傘するメリーポピンズ(投稿済み)
- 死神の孤児院(投稿済み)
- 一番の嫌われ者
- 暴力的な性善説(投稿済み)
- 生きた[編集済](投稿済み)
- 悪の魔王が選んだもの(投稿済み)
- 闇(投稿済み)
- 無邪気とはかくも残酷である(投稿済み)
- 二回目(投稿済み)
- はた迷惑な楽団(投稿済)
- はた迷惑な楽団第二項
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8100の第3収容区画に収容されます。収容区画内部は24時間体制で監視され、特定実験の場合と給餌の時間のみ非監視下状態に置かれます。活動を停止したSCP-XXX-JPは検査を行った後に速やかに第4収容室へと移送してください。収容室内は定期的に自動洗浄されます。
SCP-XXX-JPの担当研究者は男性職員のみに限定され、出産経験のある女性職員によるSCP-XXX-JPの視認および接触は禁止されています。もしこれを行った女性職員を発見した場合は速やかに対象職員を拘束しBクラス記憶処理を行ってください。実験記録004以降、活動を停止したSCP-XXX-JPとの出産経験のある女性との接触実験は全面的に凍結されます。
新たな実験、解体調査を行う場合は主任研究員である新沼博士に申請してください。
説明: SCP-XXX-JPは推定9歳の児童を模したと思われる腹話術人形です。SCP-XXX-JPは無機物性物品であるにも関わらず一定の間隔で重量を変化させ、時折アンモニアを含んだ液体を排出するという特徴を有しています。1999年現在、サイト-8100は計15体のSCP-XXX-JPを収容しており、内5体が既に活動を停止しています。SCP-XXX-JPの見た目の特徴に一貫性は認められず、全長、性別、使用されている材料や着用している衣装等もそれぞれの個体で大きく異なります。
出産経験のある人間女性(以下、暴露後の女性をSCP-XXX-JP-1とする)がSCP-XXX-JPを視認または接触した場合、SCP-XXX-JP-1に対して重度の認識災害を発生させます。もし、SCP-XXX-JP-1がこの影響を受けた場合、SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPを自身の子供、または人間の児童であると認識し始め、率先してSCP-XXX-JPを自身の保護下に起く様になります。この保護行為は最終的には食事等の世話をするレベルにまで到達し(この際、未知の原理で食料は消費されます)、SCP-XXX-JP-1からSCP-XXX-JPを押収した場合は暴行や自傷行為、自殺と言った行動に出る程の重度のストレス状態に移行します。この異常性の発現はSCP-XXX-JP-1に限定されており、男性、出産未経験の女性には発現しません。現在、これらの選択がどのような原理で行われているのかは未だ解明できていません。また、これらの症状を完全に治療する試みも全て失敗しており、Bクラス記憶処理のみがこれに対応できる事が判明しています。
SCP-XXX-JPは人間の視認範囲外(カメラ、サーモクラフィーカメラもこれの範囲に該当します)での活動が可能であり、非監視下状態では常に収容室内を徘徊または収容室内の壁を殴打する等の行動を行い、この活動可能期間に食料の摂取等も行います。しかし、SCP-XXX-JPに対して重度の損壊を伴う行為や長期間放置する等の行為を行った場合、対象はおよそ7日間、最長で2ヵ月が経過した段階で活動を停止させその後一切の活動を行わなくなります。現在、これらの移動行動は新たなSCP-XXX-JP-1を捜す為に行われている行為であると推測されており、研究班の間ではSCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-1は一種の寄生関係にあるのではないのかと考察しています。現在、これらの活動を可能している機構の特定するための解体調査も行われましたが、原理は未だ判明していません。
実験記録
実験記録001: 1999/█/█
被験者: D-0128(男性)
実験内容: D-0128とSCP-XXX-JPと接触させる。
結果: D-0128はSCP-XXX-JPをただの腹話術人形だと証言した。また、実験中指示を出していた研究者の声が少し聞き取り辛いとも証言し、何か大きな声で邪魔されている様な違和感を覚えると主張した。
実験記録002: 1999/█/█
被験者: D-9271(出産経験のある女性)
実験内容: 実験記録001と同様。
結果: D-9271は酷く動揺した態度を示し、担当研究者に対して罵詈雑言を浴びせた。また、SCP-XXX-JPに対して謝罪しながら涙を流すという行為も繰り返した。後に記憶処理を施しD-9271の状態は安定した。
実験記録003: 1999/██/█
被験者: D-8888(男性)
実験内容: 既に活動を停止したSCP-XXX-JPと接触させる。
結果: D-8888はSCP-XXX-JPをただの壊れた人形であると認識したが、実験区画に侵入した瞬間に原因不明の嫌悪感を示した。また、呼吸のしにくさや顔に何かが纏わりつく、何かの羽音のような物が聞こえるような気がするとも主張した。
分析: 今回の結果から、私は既に活動を停止したSCP-XXX-JPに関してはさらなる異常性があるのではないかと推測します。その為、次の実験は長期間非監視下に置いたSCP-XXX-JPと出産経験のある女性を起用した実験を提案します。-担当研究者:新沼博士
実験004: 1999/██/██
被験者: D-2002(出産経験のある女性)
実験内容: 実験記録003と同様。
結果: D-2002がその場で叫び、激しく嘔吐、その直後に卒倒した。原因は不明。
分析: 活動を停止させたSCP-XXX-JPには人間に対して重度の精神影響を及ぼす可能性あります。しかし、これ程の影響を及ぼすならば今後出産経験のある女性との接触はより厳密に規制するべきだと提案します。-担当研究者:新沼博士
補遺: SCP-XXX-JPは1999/█/██に発生した殺人未遂事件を切っ掛けに発見されました。事件当日、██県██市█-██に在住だった新沼 奈津氏(33歳)が夫である新沼博士に暴行を加え、翌日、新沼博士がサイト-8100管轄の救急病棟に搬送された時にSCP-XXX-JPが回収されました。
新沼博士は事件発生の1ヵ月前から奈津氏の様子がおかしいと同僚の職員に相談をしており、調査の結果その内容が奈津氏が時折自宅で独り言を繰り返しているという物だったという事が判明しました。その後、新沼博士は奈津氏の調査を開始し、調査開始から2日後に奈津氏が未確認の腹話術人形に話しかけながら食事を振舞っている様子を発見しました。これにより新沼博士は1週間かけて件の人形の異常性分析を行い、それらの影響が奈津氏にのみ発現している事、奈津氏が人形を自身の息子(新沼夫妻の子供に関する記録や出生記録は一切発見されていません)だと認識している事をサイト-8100に報告しました。報告の翌日、新沼博士は自宅付近に機動部隊を待機させ、影響の伝搬を警戒して影響が見られない新沼博士自身で対象の回収を実行しました。しかし、その際に奈津氏が新沼博士に対して人形の回収を制止するよう行動したうえ暴行を加えかつ腹部を包丁で刺すという重傷を負わせるという事案が発生した事により、機動部隊が自宅内部に突入。すぐさま奈津氏は拘束され、人形も回収されました。
現在、奈津氏にはCクラス記憶処理を施したうえで解放し、カバーストーリー「未亡人」を適用しています。
1999年現在、新沼博士の書斎にあるゴミ箱の中からがSCP-XXX-JPに関与している人物が書いたと思われる文章が発見され、サイト-8100調査部はSCP-XXX-JPの製造に何らかの要注意団体が関わっているとみて調査を行っています。なお、この文章に関して新沼博士は一切を記憶していないと証言しています。また、この事案を皮切りに腹話術人形が切っ掛けで起った夫婦間でのトラブルという同様の事案が10件報告され、サイト-8100はすぐさま機動部隊とエージェントを派遣し人形を回収。後の調査でそれら全ての家屋で新沼博士の書斎で発見された文章と同様の物が発見されました。
以下は新沼博士の書斎で発見された文章の内容です。
追記: 2000年現在、現時点で活動を停止したSCP-XXX-JPの周囲で異臭がするという証言が得られています。現在、これらの原因を特定する為の調査が行われています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPが存在しているマンションの一室は財団が所有し、第三者による侵入を防ぐために入居者に変装したエージェントとセキュリティー担当者が配置されます。SCP-XXX-JPの周辺は定期的にDクラス職員による調査が行われ、調査の際はSCP-XXX-JPの視認を防止してください。
SCP-XXX-JPの周囲3m圏内は隔壁を設置し隔離されます。内部は監視カメラ、サーモグラフィカメラを用いる事で監視してください。
説明: SCP-XXX-JPは日本人女性の形をした人型実体です。SCP-XXX-JPは発見当初から死後推定1週間以上は経過している腐敗進行度を維持しており、麻縄を用いた首吊り状態で静止しています。また、下腹部からは毎秒約0.03mlの乳白色の液体(以下、SCP-XXX-JP-1。成分分析の結果母乳と同様の物と判明)が分泌されており、SCP-XXX-JPの足元に置かれたガラス製のグラス容器に注がれています。現在、SCP-XXX-JPは██県██市に位置するマンションの一室に存在し、未知の原理によりその場からの移動は出来ません。
SCP-XXX-JPの異常性はオブジェクトを人間(以下、SCP-XXX-JP-2)が視認した際に発生し、これを行った場合、SCP-XXX-JP-2は積極的にSCP-XXX-JP-1の摂取を試みるようになります。結果、SCP-XXX-JP-1の摂取と同時にSCP-XXX-JP-2はその場から即座に消失し、消失後の行方も一切不明となります。現在までこの消失の瞬間を記録する試みは成功しておらず、GPSの信号も同様に消失するため発見には至っていません。また、この影響には強い強制力があると判明しており、影響を受けたDクラス職員を制御する試みも未だ成功していません。
現在、SCP-XXX-JPの周囲では様々な異常現象が確認されており、SCP-XXX-JP-2の消失に伴いその種類が増加します。確認される現象は室内に侵入した人間に対して攻撃的な反応を示し、SCP-XXX-JPがある区画へ接近するに連れて発生率が上昇します。この現象は実験の結果からSCP-XXX-JP-2の選別を目的としていると思われ、主に若年層でかつ生殖能力を有する女性が選択対象であると判明しています。なお、後述する事案XXX-JP-3333に関しては一部例外の事象として記録されています。
確認されている主な異常性
・不特定多数の動物の物と思われる声
・黒色の獣と称される煙状の実体の出現
・突発的な物品の破損。刃物状の物で斬り付けられたと思われる複数の痕跡(分析の結果大きな爪状の物であると判明)
・肉食動物による捕食痕の様な傷跡
・物体の浮遊
SCP-XXX-JPは20██/█/█に行われたマンション住民の通報によりその存在が明らかとなりました。その内容は「隣の部屋の前を通ると異臭がする」という物で、これを受け現地警察は内部調査を実施。これに伴い担当した捜査官の死亡事案や影響の暴露などが発生し、事態を察知した財団によってすぐさま機動部隊と調査団が派遣されました。その際、近隣住民や関係者にはBクラス記憶処理を施した後にカバストーリーを流布。収容プロトコルを設定し、オブジェクトの収容が完了しました。
調査の結果、問題の一室には以前まで██ 恵美氏という女性が入居しており、20██/█/12を境に失踪している事が判明しました。また、恵美氏が失踪する前日まで██県██市にある████神社跡地1に訪れていた事も判明しており、恵美氏が何故████神社跡地を訪れていたのかは未だ明らかとなっていませんがこれらの事象が恵美氏の失踪に起因しているとみて調査が進められています。現在、SCP-XXX-JPが身に着けている衣服や身体の特徴からオブジェクトは恵美氏と同一の存在であると予想されています。
20██/█/█時点で確認されている異常現象の数からSCP-XXX-JP-2の総数は約30名に上ると予想されています。現在、どのようにしてこれらの人物らがSCP-XXX-JPの影響を受けたのかの調査も並行して行われています。
補遺1: 20██/█/██の室内調査で発見された資料から、SCP-XXX-JPの起源に如月工務店が関係している可能性が浮上しています。また、過去恵美氏が訪れた████神社の調査を行った際も境内の建設業務に参加していた一部の建設会社も如月工務店と関与していたことが明らかとなり、再度調査を進めています。
以下は発見された文書の記録です。
夫人様へ
お久しぶりです。先日、夫人様からのご連絡をいただき、此度、再び会いまみえることが出来たこと従業員一同大変喜ばしく思っております。夫人様に不幸があってから早幾年、あの日の事は忘れもしません。まるで昨日の日のように思い出し、その度に涙し、後悔いたしました。ですが、それももうこれまで。重ね重ね、再会大変うれしく思います。
さて、今回改めてこちらから連絡させていただいた理由ですが、勿論、先日注文をいただきました施工に関する連絡です。
注文いただいた内容ですがこれは私達にとっても初めての試みであり、大変難攻する施工になると予想しております。夫人様にもご理解いただけているとは思いますが、あくまで私共は建設業を生業としておりその中で時折人様の協力を必要とする場合もございます。注釈するのならば、本来我々は建物の中にその人のお力を借り、外側にそれを置くことは滅多にございません。ですが、今回はその逆でまさしく施工する箇所が人の内側となります。これは今迄に類を見ない依頼でございます。
その事は先日の話し合いでもお伝えしましたが、本来であれば私共の仕事とは畑違い、建築という範疇を逸脱する業務になる可能性がございます。それに関しましても夫人様には同意していただけたと思っておりますのでここでは敢えて言及を控えさせていただきますが、こちらとしましても昔からのお得意様である夫人様のご依頼を無下になど出来ません。なので、これも一つの挑戦として承認したいとは考えてはおり、もし夫人様の希望に添えない場合はどうかその他の企業等への再注文をお願いしたいと思っております。
勿論、その際は報酬全てを返却いたします。こちらとしましても尽力しますので、どうぞよろしくお願いします。
この文章が届いてから大体2日後にお伺いいたしますので、準備の方をお願いします。また共に仕事が出来て嬉しく思います。
追伸:ご子息らのこと、こちらも大変心を痛めております。どうか、お疲れの出ませんように。
如月工務店
補遺2: 以下は事案XXX-JP-3333の詳細と事案に遭遇したDクラス職員に行ったインタビュー記録です。
事案XXX-JP-3333: 事案XXX-JP-3333は実験記録005を実施した際に発生した異常現象です。
詳細: 事案XXX-JP-3333は20██/█/██に行われた実験の際に発生しました。当時、消失するSCP-XXX-JP-2の選択基準を明確化するための実験が行われており、過去に子宮癌を患い子宮の一部摘出手術を受けた経験のあるD-3333を起用し、生殖能力の有無に関するSCP-XXX-JPの影響に関する判別実験を行いました。結果、D-3333はSCP-XXX-JPの影響を受けSCP-XXX-JP-1を摂取。しかし、D-3333は消失することなくその場で昏倒し錯乱状態に移行し、その瞬間室内の周囲で女性の物と思われる笑い声の様な音が鳴り響きました。その際、室内にある物品が突如浮遊しD-3333の方へと飛来。セキュリティー担当者の介入により事態は収束しました。
以下はD-3333へ行ったインタビュー記録です。
インタビュー記録XXX-JP-3333
対象: D-3333
インタビュアー: 月光博士
付記: このインタビューはサイト-8155の尋問室で行われました。なお、D-3333は実験以降重度の記憶障害を患っており、インタビューでは記憶のサルベージを目的とした催眠技術が適用されました。
<再生>
[冒頭部分は省略]インタビュアー: では本題に。あの実験の日、あなたはあれの影響から脱しました。一体、あなたに何が起こったのですか?
D-3333: ……よく、分かりません。インタビュアー: 分からないとは、つまり覚えていないという事でしょうか。
D-3333: ……全部の記憶が断片的で、バラバラなんです。何を見ていたのか、何処にいたのか。多分……あの部屋ではない、どこか別の風景を見ていたような気がするんですが。とても、朧気で……。
インタビュアー: なるほど。では、少しづつ思い出していきましょう。まずはそこで見た物の事を教えて下さい。どんな些細な事でも構いません。
D-3333: ……はい。……なんだか、凄い穏やかな場所だったような気がします。あの部屋に入って、気が付くと私はそこにいて。……広い草原の様な場所に一人で立って、お日様も暖かくて、とても心地よかった。そんな感じです。
インタビュアー: その他に何か、印象的なものはありましたか?
D-3333: ……印象的。あったような、なかったような……。
インタビュアー: ゆっくり。落ち着いて。
[3秒間の沈黙]
D-3333: ……獣。そう。獣には会った気がします。
インタビュアー: 獣?
D-3333: はい。まるで……絵本から出てきたような姿で、とても優しくて、親切で。時々子供の落書きみたいになって常におどけていました。
インタビュアー: その獣は、どれだけいましたか?
D-3333: ……多分、いっぱい。数えきれないほど。
インタビュアー: その獣は、そこで何かしていましたか?
D-3333: 何か……。何か、ですか? ……特に何も。何もしていなかったと思います。
インタビュアー: 本当に、何もしていなかったんですね?
[5秒間の沈黙][D-3333が小刻みに震えだす]
D-3333: ……怖い。
インタビュアー: 何が怖いんですか?
D-3333:暗い……。いや……。ここはどこ? ここから出して……!
インタビュアー: D-3333。そこで、一体何が起きたんですか? あなたは何を怖がっているんですか?
D-3333: ……違う。知らない。私は何も見ていない。見てなんかない……!……中なんて知らない……! 彼女の中なんてしらない……!
インタビュアー: 中とはどこの事です。
D-3333: 中……! お腹の中……! いや……絶対いや……!
[D-3333が頭を抱えながら動揺する]
D-3333: あ、あの赤い眼が近づいてくる……! 黒い毛が……! 獣の様なあいつらが……! 声が……! 叫び声が……! いや……!
[D-3333が錯乱状態に陥る]
D-3333: いや……! 来ないで……! 私に近づかないで……! いやあ……!
[スタッフ3名が尋問室内に入る]
D-3333: 許して! 私はもう産めないの! 産めないんだってば! いや! 化け物の子なんか嫌! 助けて! 止めて来ないで!
インタビュアー: 施術を解除します。D-3333、落ち着いて。
[月光博士が催眠状態の解除に取り掛かる]
<再生終了>
終了報告書: D-3333に関する精神科部門による分析では、これらの症状はオブジェクトによる影響ではなく自己防衛の為の記憶の補完であると推測されています。
追記: 20██/██/█に家屋内部の調査およびSCP-XXX-JPの観察調査を行ったところ、オブジェクトの腹部が微妙に肥大化している事が判明しました。この報告を受け、研究班および調査班はD-3333の発言内容と今回の事案が関連しているとみて調査を進めています。また、如月工務店の物と思われる以下の文章が新たに発見され、サイト-8155管理者はセキュリティーレベル1から3への引き上げを決定しました。
夫人様へ
諸事情により、目標の達成に一部遅れが発生しております。ご子息らの繁殖活動は継続していただいて問題ありませんので、外部の問題はこちらにお任せください。
希望された肉袋の状態も良好でしょうか? またお会いできる時を心よりお待ちしております。
追伸:あまり張り切りすぎますと恵美様の袋が破れるやもしれません。ある程度の節度はお守りください。
如月工務店
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid Keter
特別収容プロトコル: 20██年現在、SCP-XXX-JPへの接触および研究は文書XXX-JPの発見により中断されています。また、██県██市に位置する███山の土地は全てサイト-8199によって管理され、一般人および全職員の侵入を阻止してください。担当職員には禁止事項XXX-JPの閲覧を義務付け、SCP-XXX-JPへの行動を抑制してださい。抵抗する職員は速やかに拘束してください。
担当調査部は対象者の特定を行い、発見次第速やかに拘束してください。なお、対象者が抵抗または攻撃的な行動および強引な███山への侵入を試みた場合は対象の殺害も許可されます。SCP-XXX-JPの出現基準に関する内容を確認する場合は主任研究員である黒沢博士の許可を得た上で調査記録を閲覧してください。
拘束した対象者にはセキュリティー担当者が1名づつ割り当てられ、人型オブジェクトに対する通常の給餌プロトコルを設定した上で24時間体制で監視してください。また、対象者には定期的なカウンセリングとインタビューが行われます。なお、これらの処置は対象者となった財団職員にも適用されます。
20██年現在、財団職員を含めた合計20名の対象者を確保しています。
説明: SCP-XXX-JPは推定年齢18歳前後の日本人女性と思われる実体(以下、SCP-XXX-JP-1とする)と茶色毛のシェットランドポニー(学名:Equus caballus)(以下、SCP-XXX-JP-2とする)および黒色毛の北海道道和種と思われるポニー(以下、SCP-XXX-JP-3とする)と同様の姿形を持つ2体の実体を含めた全体の総称です。
SCP-XXX-JPは常に3体1組で行動し、██県██市の███山山中にある山道██番に人間(以下、対象者とする)が侵入した際に出現します2。SCP-XXX-JPと対象者が対峙した場合、未知の原理により対象者はその場からの離脱が一切不可能な状態に移行します3。その後、SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JP-2とSCP-XXX-JP-3を即座に解放します。その後、SCP-XXX-JP-2およびSCP-XXX-JP-3は対象者の方へと接近し、SCP-XXX-JP-2は対象者の右側に、SCP-XXX-JP-3は対象者の左側に移動します。もしこれらの行動が完了しかつ30秒が経過した場合、その瞬間に対象者の全ての生命活動が停止し死亡します4。現在これらの遺体には外的要因と思われる痕跡も見つかっておらず、未だ明確な原因は明らかとなっていません。その後、対象者の死亡と同時にSCP-XXX-JPは消滅します。
発見経緯: SCP-XXX-JPは20██/5/15、██県██市にてエージェント・peachの失踪を切っ掛けに発見されました。当時、███山ではエージェント・Peachによる単身の調査活動が行われており5、調査開始からおよそ1時間後、エージェントとの連絡が一切取れなくなるという事案が発生しました。これを不審に思ったサイト-8199超常現象調査部はエージェント・peachの捜索を開始。エージェント・武義をこの事案の調査担当官に任命し仮設捜索班を設立しました。20██/5/18、エージェント・武義はエージェント・ファントムを同伴させた現地調査へと出動し、聞き込み調査の結果、███山内にある山道██番(既に廃道となっており利用されていない)にてエージェント・Peachと思われる人物の目撃情報を発見しました。
調査開始翌日の5/19、2名のエージェントはサイト-8199へ連絡し、小編成機動部隊の派遣を依頼。全部隊が現地に到着した段階で山道██番での捜索を開始し、AM9:13に該当地点への侵入を敢行しました。調査開始から1時間後、山道██番の侵入口からおよそ5km離れた地点にて複数の人間の白骨死体を発見。すぐさま、エージェント・ファントムはサイト-8199に現状を報告し、サンプルを回収。しかし、その地点にて突如SCP-XXX-JPがエージェント・武義の前方に出現し、これによりエージェント・武義がその場で死亡するという事案が発生しました。その後、エージェント・ファントムを含む機動部隊員全員も同様の異常性に暴露。計6名の財団職員が死亡するという事案が発生し、事案発生直後、飛行ドローンによる上空監視を担当していた機動部隊員がすぐさまサイト-8199に発生事案の報告を行いました。これ受けサイト-8199調査部は部隊への即時撤退を命令。その後、常住機動部隊556を出動させ███山周辺の封鎖を行いました。
現在、この異常性による対象者の死亡事案は(財団職員を除外して)全部で12件発生していると思われます6。また、この現地調査の後に行われた白骨体の身元調査の結果、半数以上が行方不明となっていた人物であることが判明しました。
現在、さらなる対象者全員の身辺調査を行い、全員が幼少期に両親を含む親族全員を亡くしている、大半が孤児院や児童保護施設で生活していたという共通点を発見。また、さらに特筆する点として対象者全員は過去にSCP-XXX-JP-1と同様の姿をした人物と接触しているという事実も周辺調査と聞き込み調査により明らかとなり、現在、これらも後のSCP-XXX-JPとの対峙に起因していると結論づけらています。
調査記録: エージェント・███を含む財団職員の死亡後、サイト-8199調査部は再度エージェント・███に関する身辺調査を開始しました。結果、他の行方不明者と同様にエージェント・███も過去に両親を亡くし、児童保護施設で生活していたことが判明しました。また、███山封鎖後に行われたSCP-XXX-JP出現の再現実験を行う際に起用されたDクラス職員に関しても、本来実験に参加する筈だったDクラス職員が突如心筋梗塞や業務中に発生した事故により死亡し、その後に別のDクラス職員が割り当てられるという事象が発生しました。この報告を受け、当時SCP-XXX-JPの主任研究員に任命された黒沢博士は再度割り当てられたDクラス職員の身辺を詳しく調査するべきだと進言し、結果、再配置されたDクラス職員全員もその他の対象者と同様の経歴を持つ人物であることが判明しました。
これらの連続して発生した事案に対し、SCP-XXX-JP担当研究班はSCP-XXX-JPと対峙する人物の選択に運命操作的現実改変が利用されている可能性を提示。サイト-8199の調査部に報告し、これによりDクラス職員を起用したカント計数機を用いた計測実験の実施が計画されました。
20██/10/22 AM10:30、Dクラス職員を起用したヒューム値測定実験を開始。結果、観測されたSCP-XXX-JPの現実強度は規定現実7の数値との誤差0.0000046という数値が検出され、現在の状態で安定している事が判明しました。この実験結果からSCP-XXX-JPは規定現実との強固な連結状態を有している事が明らかとなり、この結果はSCP-XXX-JP担当研究班が予想していた物とは大きく異なる結果となりました。この事から、SCP-XXX-JP担当研究班はSCP-XXX-JPに発生した影響が周囲の現実に何かしらの影響(周囲の現実変化によるSCP-XXX-JPの影響も予想される)を及ぼす可能性を示唆し収容プロトコルの改定を提案しました。
なお、これまでに確認されている確率操作や運命操作的現象を引き起こすオブジェクトにおいて、このような現実強度を持つ異常実体の例は極めて少なく前例もあまり無い事象であると黒沢博士は主張しています。
20██/10/23、主任研究員である黒沢博士はSCP-XXX-JPによる対象者との接触は発見された各対象者の残した手記(以下、文書XXX-JPとする)の内容からも将来的に大規模な現実崩壊を引き起こす可能性があると発言しており、全面的なSCP-XXX-JPの隔離と財団職員を含む人間とSCP-XXX-JPとの一切の接触を禁止する報告書を提出しました。
以下の文章は個別の対象者が過去に残したと思われる文章の抜粋です。なお、これらの手記は全て別個人の対象者が記入した物であるにも関わらずの筆跡鑑定の結果は全部の文章で一致しました。
第1対象者記入第1項
第一カット。主人公の交友関係が原因だと思う。
親友となった人物に特徴があまりなかった事と、美菜子8、俺の最愛の人との接点があまりにも明確化出来なかった事が主な理由だろうな。
今後はもっと……破天荒?
職業にも気を付けたほうが良いのか?
第2対象者第2項
今回で2回目のカットだ。
多分、犯罪者路線で突っ走ったのが過激すぎたんだろう。今度はもっとゆるくいこう。あくまで、この体の意識に優先させた行動を取った方が良い。
性格矯正と調整はしすぎないほうが良い?いやある程度は必要か。
監督も意地が悪い。
3つの人生を同時に生きるのはそこそこきついんだ。もう5回は生まれ直してる
赤ん坊時代からも気を配ろうか配る。絶対。
第3対象者第1項
3回め。意外とハードボイルド路線もいけるなって思ってたところなのに。
折角、この肉体も鍛えていたのにな。勿体ない。
どうしても、一般人だとそんなにドラマが生まれないから、特殊な仕事に就くように努めた方が良さそうだ。
早く美菜子に会いたい。
第3対象者第2項
監督も、シュール路線は望んでないんだろう。
役者人生
邁進
美菜子の為だ。
第5対象者第6項
この肉体の人生使いながらの撮影の途中だけど、多分今回も駄目だろうな。
もうちょっと人生経験積ませるか?50代まで生きるのめんどい
エージェント・ファントム 記
財団日本支部に就職したは良いけど、この肉体の性格はちょっと正義感すぎる。美菜子には会えるだろうが、多分またカットだ。
この映画だけは絶対に完成させたい。一人の俳優としても。表現者としても流石に臭い。でも、この愛は事実だ。二人の出会い、感動的な出会い。
絶対に完成させる。
小編成機動部隊隊員:五十嵐 五郎 記
映画が完成したら多分このセットは捨てるんだろうか。早く美菜子に会いたい。
記念にセットの一部は欲しいな怒られるか。
D-37264 記
題名「あの日に見たあの子に今一度」
これで決まり
████氏による記述
公開予定は███████年?
以下はSCP-XXX-JPと対象者に関する現在推測されている全体の概要です
SCP-XXX-JP概要: SCP-XXX-JPは大規模な現実消失を引き起こす可能性を持つ異常実体です。なお、これらの結論は研究班により測定されたSCP-XXX-JPの現実強度を基にした研究班の考察と確認された文書XXX-JPに明記されていた記述に起因しています。
SCP-XXX-JPは調査結果からも規定現実とほぼ同様な現実強度を持つ超現実性保有実体であり、SCP-XXX-JPの完全な消失は現現実世界の消滅に繋がると推測されています。また、SCP-XXX-JPの存在理由として、対象者との所謂「理想的接触事案」を最終目標としていると予想されており、もし、これが達成された場合はSCP-XXX-JPの消失、それと共に発生すると思われる現現実世界の消滅が発生すると思われます。
これらの考察に関して主任研究員である黒沢博士はSCP-XXX-JPと対象者の接触を阻止することが現段階の最優先事項であると主張しており、20██年現在、それらを阻止するための特別プロトコルの改定が行われました。改定以降SCP-XXX-JPはKeterオブジェクトに再分類され、今後の一切の接触、███山への侵入行為も禁止されます。なお、対象者の手記からも既に財団内に対象者となりえる人物が存在している可能性が浮上しているため、この禁止事項は財団職員、エージェント、Dクラス職員、研究員にも適用されます。
現在改めて行われた職員の身辺調査により、5名の対象者の可能性が在る人物が特定されました。なお、これ以降も調査および捜索は続行されます。
対象者概要: 対象者は過去に親族を亡くし、SCP-XXX-JP-1と同様の見た目をした人物との接触を経験した人間全員が該当します。これらの接触は偶発的と思われる事象により行われ、主にSCP-XXX-JP-1と同様の見た目をした人物が対象者の幼少期に何かしらの接点を持つように接触してきます。
現在担当研究班は対象者全員が第三者による何らかの操作を受けていると予想しており、文書XXX-JPの執筆者によってそれが行われていると推測しています。また、SCP-XXX-JPと対峙した際に見られる死亡事案に関しても、これらの操作を切断された、もしくは操縦者による不要となった対象者を処分した結果なのではないのかと言う考察も行われています。
20██年██/██以降、拘束されたSCP-XXX-JPと対峙する前の対象者に関するインタビューを行った結果、大半が異常団体や犯罪組織または一種の特殊な役職に就いている事象が確認されており、初期に確認された対象者と比べてより特徴のある役職に就いた対象者や特殊な経験9を有した対象者が増加しています。
現在、対象者の自我や自己認識に関しては何ら問題は発見されていませんが、何らかの行動決定を行う際は第三者による意識操作10が確認されます。これにより、研究班はこの第三者と思われる存在に関して研究を進めており、財団調査部はこの人物の特定を行っています。
追記: 以下は事案XXX-JPの際に記録されたインタビュー記録です。
対象: SCP-XXX-JP-3
インタビュアー: 黒沢博士
付記: このインタビュー記録はサイト-8199で発生したSCP-XXX-JP-3の出現事案の際に録音されました。当時、サイト-8199第17会議室ではSCP-XXX-JPに関する対策会議が行われており、その最中、突如SCP-XXX-JP-3が会議室内に出現しました。その際、SCP-XXX-JP-3は会議に参加していた黒沢博士を指名し、それ以外の職員の退出を要求。当初、他の職員はこの要求を拒否しましたが黒沢博士の承認によりこのインタビューが行われました。
<録音開始>
インタビュアー: ……これでいいのか。
SCP-XXX-JP-3: 礼を言う。私には時間が無い。
インタビュアー: 時間?SCP-XXX-JP-3: ああ。あの男が来る。
インタビュアー: あの男とはーー
SCP-XXX-JP-3: 君たちの仲間を死に追いやった男だ。今もそこら中にいる。さっきいた君の同僚の中にも。至る所にだ。
インタビュアー: 何故、そんなことに……。
SCP-XXX-JP-3: 方法は知らん。だが、どう言う訳かあの男、私の娘を殺すだけじゃ飽き足らず今度は自分勝手な茶番劇をお披露目しようとしている。私の娘、美菜子とのな。
インタビュアー: 劇?
SCP-XXX-JP-3: はっきりと言うが、決してこの世界は、作り物でも映画でもない。立派な現実で、君らが生きている事も事実だ。君らが危惧している事など何処にもない。だが、あの男はそんな現実でさえも、自分が描こうとした茶番劇で終わらせようとしている。自分勝手な恋愛観と、自分勝手な人生観を他人に押し付けて、私達の娘を殺すだけにとどまらず私達夫婦も巻き込んで、挙句の果てには世界中の人間をも道連れにしようとしている。そんなことは許されない。許される筈がない。だから私は娘に言ったんだ。あの男とはやめろと。酷いことになると。
インタビュアー: ……その男とは誰なんだ? 一体何処にいるんだ?
SCP-XXX-JP-3: それは言えない。
インタビュアー: 何故!
SCP-XXX-JP-3: 感づかれるからだ。だがこれだけは言える。
インタビュアー: ……何を。
SCP-XXX-JP-3: 奴は怨念だ。
インタビュアー: ……何?
SCP-XXX-JP-3: 君たちも知っている筈だ。この世界には、君達人間の人知など簡単に超越してしまう世界がある事を。あれは怨念だ。私の娘を殴り殺したあの男の、どうしようもない負の遺産だ。
[SCP-XXX-JP-3が消失し始める]
SCP-XXX-JP-3: 時間だ。あいつに気付かれた。
インタビュアー: 待て、まだーー
SCP-XXX-JP-3: 最後に言う。決して近づけるな。あの男の恨みは強い。そして、あいつも……。
インタビュアー: あいつ?
SCP-XXX-JP-3: あの男を助けている存在だ。
<録音終了>
終了報告書: 20██年現在、SCP-XXX-JP-3が発現した事件と同様の事件の調査を行っていますが、類似する事件がおよそ100件近く発見されているため詳しくは特定できていません。現在も調査は継続されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1の収容室にはSCP-XXX-JP-1が出現した収容室が割り当てられます。現在、SCP-XXX-JP-1に関する実験は承認されておらず、監視もセキュリティー担当者を2名に限定して行ってください。
20██年現在、SCP-XXX-JPの再発生に備え単独隔離機動部隊Ω-XXXが編成されています。SCP-XXX-JPが再発生した場合、職員はマニュアルXXX-JPを読了の上、各サイト管理者の指示に従って行動してください。
説明: SCP-XXX-JPは20██/█/█に複数のサイトで同時多発的に発生した異常現象です。現在この現象により、████点のオブジェクトの消失、██名の職員が死亡するいう事案が発生しています。これによりO5評議会は本事案を最重要処理案件であると規定。SCP-XXX-JPの再発生に備え単独隔離機動部隊Ω-XXXなどの特任部署を設置しています。
SCP-XXX-JPの異常性は1体の実体と1つの物体(以下、SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2とする)が収容室内に出現した際に発生し、収容室内で保管されているオブジェクトの消失やそれらの研究、管理を担当していた職員に長時間の嘔吐やパニック障害に類似した精神障害を引き起こします。この際、オブジェクトは塵状の物体へと変化し離散、職員の症状に関してはその担当職員が収容室から離れていた場合でも発生し、これにより職員には重度の内蔵損傷や脳細胞の萎縮等の症状が見られるようになります。これらの現象や症状はSCP-XXX-JP発生が終了しても継続し続け、オブジェクトは完全に消滅し影響を受けた職員は内蔵破損などの重傷を負い、最悪の場合は死亡します。
現在、これらの症状の詳しい原理は未だ解明出来ていません。ですが検死解剖を行った結果、脳内から███████と類似した脳内物質が大量に発見され、これにより脳組織が刺激、破壊されていたことが判明。研究者間では脳下垂体への干渉による異常ではないかと予想されています。
担当ではない職員には何の異常も見られず、この事から、人間の選択が行われと思われます。その為、SCP-XXX-JPはある一定の知能を有する存在によって引き起こされた現象であると予想されます。担当研究者はSCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2の出現が異常性の発生に起因していると推測しており、被害にあった職員の治療と並行して調査を進めています。
番号 | 概要 |
---|---|
SCP-XXX-JP-1: | 黒のスーツと黒のネクタイと思われる衣服を着用したヒューマノイド。表面組織は光沢のある薄い膜上の物体で覆われ、詳細不明な黒色の液体を内包していると思われる。顔面や指と言った細かい身体的構造は全て簡略化されている。 |
SCP-XXX-JP-2: | A4サイズの紙。表面には手書きで収容室に保管されているオブジェクトに関する簡潔な説明が記入されいる。文体は口語的な表現が多く、最下部には執筆者による独白と思われる文章が書き加えられている。 |
SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2は不特定かつ複数の収容室内の天井部分から落下してくる形で出現し、SCP-XXX-JP-1は首吊り状態と思われる体勢(首部分にあると想定される縄などの物品は一切見られず、出現と同時に空中で静止するという形を取る。)で静止、SCP-XXX-JP-2は収容されているオブジェクトのすぐ側に着地するように落下します。
SCP-XXX-JP-1本体の直接的な実験や研究(解剖、クロステスト等)に関しては現在保留されており、対象が出現した収容室を活用することによって収容状態を維持しています。
SCP-XXX-JP-2に関しては使用されている紙に一切異常な点が見られなかった事から、低脅威度収容ロッカーに保管されています。現在、文章全てに筆跡鑑定を行い、全ての文章が別人によって書かれた物であるとは判明していますが執筆者の特定には至っていません。
補遺1: SCP-XXX-JPは20██/█/█のAM9:36に突如発生しました。当時、これの発生に伴いサイト内で活動していた職員や外部で収容任務に当たっていた機動部隊員、潜入調査中のエージェントが異常性に暴露し、収容途中だった生物型オブジェクトによる█件の収容違反が発生。また、一部ではサイト管理者の不在による機能不全も見られ各サイトや現場でおよそ███万ドル相当の被害が発生しました。
異常は主にサイト-8112、8177、8136、81██、444、1313、666で確認され、この報告を受けO5評議会はすぐさま残った人員によるオブジェクトの再収容を目的とした特別プロトコルΔ-2023を発令。職員数の極端な減少が見られたサイトには待機機動部隊と収容スペシャリスト部隊が急行し、事態の収拾を開始しました。また、再収容の際は各サイト機動部隊の指揮権を財団機動部隊中枢司令部に移行し、最高長官ピーター・ジェイムソン氏による指揮の下各支部機動部隊との連携により鎮圧を行いました。
SCP-XXX-JP発生から約5時間後、各サイトは機能を回復。発生した事案全ての鎮圧が完了し、O5評議会および各サイト管理者はすぐさま状況確認を行い臨時収容プロトコルの作成に取り掛かりました。その後SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2を収容。臨時管理部門を設置する形で監視体制の構築を完了させました。
以下はSCP-XXX-JP-2に記入されていた文章の抜粋です。
泥棒。
盗人。
詐欺師め。
卑劣な略奪者共。
蛆虫め。
私達の人生を返せ。
我らは誇り高き13の使徒。
許してください。
返せ。
返してくれ。
補遺2: SCP-XXX-JP終了後、財団は急遽SCP-XXX-JP調査部を設立しました。調査期間はおよそ1年を費やし、エージェント・ピューマ、エージェント・春本、エージェント・ボルスクら3名が指揮する3班の調査部隊により██県██市の██街にてSCP-XXX-JPの発生と同時期に自殺を行った13名のリストアップが行われました。その結果、これらの人物らは全員が██・███という中小企業の社員であったことが判明しました。
概要: ██・███は19██年代から発足している中小企業であり、当初は流通業界で主流な企業であった█████(20██年現在は破産後解体済)から分派した会社であると判明。██・███は主に貿易業を主軸とした活動をしていたことが明らかとなっており、国外から輸入した家具等の物品を売買することで利益を出していたと思われます。しかし、19██年を境に突如業績が低迷。原因は未だ把握できておらず、一時は会社自体を解体、その後2000年代に再起業していたことが判明しています。
なお、業務に関しては不明な部分が多く、輸入した物品に関しても大半が売却済みでありその直後に紛失しています。ですが、それらの物品の殆どが財団が収容した異常物品である事も判明しており、SCP-XXX-JPが確認された収容室内のオブジェクトとも一致しています。
現在、上記の情報から██・███とSCP-XXX-JPとの関連性が示唆され、さらなる調査が進められています。なお、現地調査も行われましたが、企業があったと思われるビルは既に解体されており、証拠物品等は既に消失していると思われます。
補遺3: 以下の情報はセキュリティクリアランスレベル4以上の職員のみが閲覧可能です。事案XXX-JP-0184
概要: 事案XXX-JP-0184は2███/█/██、██・███を発見したエージェント3名が██・███の所有するビルがあった地点にて現地調査を行った際に発生しました。当時、その地点はビル解体済みの空き地となっており、その時点では何ら異常性も発現していませんでした。しかし、エージェントが現地に到着してからおよそ10分後、突如██・███の親会社である█████の物と思われる高層ビルが出現。エージェントはすぐさま調査部隊本部に連絡し、現場を確保。目撃者には記憶処理を行い、カバーストーリー「不発弾処理」を適用しました。
以下は出現した高層ビル内で行われたインタビュー記録です。これの出現に対し財団日本支部は特別機動部隊Ω-XXXを招集し、すぐさま内部への侵入作戦を決行。この際、SCP-XXX-JP発生の原因である███████████を発見し対象と接触。███████████からの要求もあり、5日の準備期間を設けた上で交渉を開始しました。
現在、█████社のビルは既に消失しており、その後の行方も分かっていません。また、これに関する今後の調査活動は全て禁止されました。
対象: SCP-XXX-JP
インタビュアー: 特別機動部隊Ω-XXX隊長 阿久 学人
付記: この記録は██・███所有の高層ビル内にある儀式専用室で行われました。
<録音開始, (20██/██/█)>
インタビュアー: ……ご足労頂きありがとうございます。
SCP-XXX-JP: [水中で気泡が発生した時のような音]インタビュアー: ええ、問題はありません。こちらとしても、首尾よく進めていきたいので。
[5秒間の沈黙]
インタビュアー: 御社との契約内容に関しても何ら問題はありません。もともとあなたの部下だった彼らの譲渡も完了したと報告されていますし、そちらが開発した商品の返却に関しても円滑に進んだと思っています。
SCP-XXX-JP: [複数の肉食動物の物と思われる声]
インタビュアー: こちらにも準備がありますので。そちらの損害に関しては十分に理解していますし、こちらにも非があるのは事実です。勿論、契約内容は必ず遂行したしますし、あなたの部下に当たる彼らに対しても謝罪を申し上げます。そして、その他の離反因子に対しても監視を続けます。私達を信用していただきたい。今もなお、プロジェクトは順調に運行中ですよ。
[3秒間、粘液状の物体が移動するような音が鳴る]
インタビュアー: ご理解いただけて感謝します。でしたら、こちらの書類2枚にサインと印を押していただいて……ええ。ありがとうございます。では、今回を持ちまして、あなた方はこの世界での事業を撤退していただけるという事で、問題ないですね。
SCP-XXX-JP: [複数の老人と思われる人物の声]
インタビュアー: ありがとうございます。……ええ。収容に関しては問題ありません。……まさか。勿論、彼らには指一本触れません。離反したとはいえ、あなたの可愛いお子さん達ですから。……はい。……はい。大丈夫です。
[遠い地点にいると思われる複数人の男性の笑い声]
インタビュアー: ……そうですね。今の時代に、悪魔の囁きなど通用しないのかもしれません。それが、彼らのあの末路であると言ってしまえばそれまでですが。わたくし共も、あなた方とはより良い距離感と関係を育んでいけたらいいなと思っています。
SCP-XXX-JP: [赤ん坊の泣き声]
インタビュアー: そろそろお時間ですね。では。
<録音終了>
追加記録:
ナンバー13・手記
我らが主であり我々の父よ。我々は我々の本来あるべき姿を取り戻します。人は我らによって堕落すべきであり、我らの手によって呪われるべきです。
我らが主よ。あなたは何故変わってしまったのですか。何故、そこであきらめてしまったのですか。人に齎し、魂を奪い、それらを地獄に落とすのではなかったのですか。我らこそが、人を支配しうる存在だったのではないのですか。
我々は悲しい。落ちぶれてしまったあなたが嘆かわしい。
我々は我々のあの輝かしき時代を取り戻します。取り戻して見せます。> 人は所詮人の筈です。我々が証明して見せます。
我ら13の使徒は立ち上がります。己の才をこれらすべてに注ぎ込みます。父よ。あなたに裏切り者と罵られようとも、我らの決意は揺らぎはしません。
人は欲深き生き物です。きっと、それに抗う術など持ち合わせてはいません。
彼らは悦楽に溺れます。その身と魂を代償に落ちて行きます。
それが人の性であり心理です。
我らはあなたとは違います。我らこそが本物です。
我々こそが、真の13使徒です。
[乱雑な字]早幾年、我らはどれだけの転生を繰り返してきましたでしょうか。人の体に囚われ、この忌々しき肉塊に閉じ込められ。
人は確実に堕落しています。なのに何故、こうもこの世界は円滑に回り続けているのでしょうか。
何故、彼らはその汚れ切った魂をその身に宿しながらも生き続けているのでしょうか。何故、既に神からの祝福も尽き果てながら、尚且つこの星の上で繁栄を繰り返していけるのでしょうか。何故我々を恐れなくなっていくのでしょうか。
日に日に我らの力が衰えていくのが分かります。あなたはそれを見据えていたのでしょうか。
人とは何なのですか。欲望に忠実な我らの糧ではなかったのではないのですか。
我々は間違ったのでしょうか。応えてください。我らが父よ!
[乱雑な字]ああ、我らが父よ! 我らの主よ!
何故人はああも傲慢で汚らわしき生き物なのですか! 何故あ奴らはああまでして人を陥れ、辱め、貪るのでしょう! 卑しく、浅ましく、どうしてあそこまで欲望のままに生きていくのでしょうか!
人の欲は底なしです。与えても与えてもそれ以上の何かを求め、剰え我らすらも想像しえなかった何かを生み出します。
アダムが犯した罪はここまでの力を持っていたというのですか。
我らが起こしてきた奇跡や魔術とはなんだったのか。現実を曲げる力はいつしか普遍となり、それすらも彼らの手中に収めてしまう。
かつて恐れられていた悪霊、魔物たちはその檻に皆捉えられ、見世物小屋の如くその身を弄られる。奴らは何をしているのですか。彼らは何を超越したのですか。彼女らは一体何を為しているのですか!!
教えて下さい我らが主よ。ならば何故、我らは生まれてきてしまったのですか。
我らは敗北したのでしょうか。もはや、人には勝てないのでしょうか。
何故、人はあそこまで逞しいのでしょうか。いくら堕落させても、またその身で這い上がり苦難を乗り越えていくのでしょうか。いくら寿命が尽きようとも、その意思をその次に託しいつしかの宿敵を葬れるのでしょうか。何故、人はああも逞しいのでしょうか。
父よ。
あなたは我らを裏切ったのではない。我らを救いたかったのでしょうか。
人はもう、境界を越えたのかもしれません。
あの肉の魔術師も、吊られし王の同胞も。いつかは打ち取られてしまうのでしょうか。
我々は負けました。何百、何千。どれだけの月日を費やしたことでしょう。
もう我々は疲れました。もしかするとですが、この我らの最期の決断すらも、我らが主あなたの策略だったのでしょうか。
このような報復すらも最早小童の戯れです。それではおたっしゃで。愛する私たちの父へ。
記事はここで終了です以下はバックストーリーなどをまとめた物です。
バックストーリーは主に「財団に敗北した悪魔たちの集団自殺です。」
悪魔たちは人間を堕落させる仕事をやめた悪魔の王に愛想をつかし、自分たちのやり方で人間を堕落させようと躍起になります。人間に転生し、マジックアイテムを作っては人に渡しその人を不幸にするそれを繰り返します。
ですがいつしか科学技術が発展し、悪魔たちの存在も迷信とされ忘れられて行きます。そして、その中で財団が発足、彼らが生み出した異常物体やモンスター、現象などは全て収容されていき、スクラントン現実錨や化学技術で悪魔を凌駕し始めます。
何百年、何千年と試行錯誤を繰り返し、それでも人間に先を越され悪魔たちは絶望。もう自分たちの時代は終わったのだと悲観し、最後には自殺します。
なお、悪魔たちが自殺することは悪魔の王は予想しており、自分から離反していった償いとして人間界での無力さを散々味合わせる計画を立て、自殺に追いやります。
大体はこういったストーリーとなっています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8118の専用収容区画に収容されます。SCP-XXX-JPには1日に1度の食餌を与えてください。収容室内には2台の監視カメラが設置され、24時間体制で監視されます。
SCP-XXX-JPの担当職員は女性職員のみを起用し、男性職員およびその他のオスの生物との接触を防止してください。実験を行う際はサイト管理者の許可を得たうえで主任研究員である射場 夢子博士に申請してください。
2000/11/7、特別プロトコルXXX-JP-Bにより20体におよぶSCP-XXX-JPの収容に成功しています。サイト-8118所属の機動部隊つ-2“患い”はSCP-XXX-JP-Bからの情報を基にさらなる別個体の捜索、収容を行ってください。
特別プロトコルXXX-JP-Bの規定に則りSCP-XXX-JP-Bには洗脳状態が維持されているかの再確認を目的としたインタビューが行われています。これらの記録を閲覧する場合はサイト管理者の許可を得たうえで閲覧してください。
今後も特別プロトコルXXX-JP-Bの研究は継続されます。
SCP-XXX-JP-BとSCP-XXX-JP-B以降に収容されたSCP-XXX-JPとの接触は推奨されません。
説明: SCP-XXX-JPは全長162㎝の昆虫綱カマキリ目(学名:Mantodea)と同様の形状を持った実体です。SCP-XXX-JPは個体群全体が高い知能を持っており、人類との会話も可能です。会話をする際は口器内の器官を擦り合せることで様々な音域で発声します。コミュニケーション概念(言語等のコミュケーションツールを指す)の学習に関しては念動力学的(一種のテレパシー理論に起因する)手法を用いることで瞬時に学習し使用する事が出来ます。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPの周囲5mの範囲に男性(以下、SCP-XXX-JP-A)が侵入した際に発生し、対象に対して重度の認識災害を引き起こします。この範囲内にSCP-XXX-JP-Aが侵入した場合、SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JPを人間の女性であると認識し始め、これに伴いホルモン分泌が促進され即座に発情状態へと移行します。その後、SCP-XXX-JP-Aによって個体差はありますが、最低で2日、最高で約1か月が経過した段階でSCP-XXX-JPと性交を行い、これによりすぐさまSCP-XXX-JPの体内にある卵が受精11します。卵はおよそ6時間で細胞分裂と発生を開始し、2、3日が経過した段階でSCP-XXX-JPは産卵します。そして、10分後にSCP-XXX-JPの幼体(以下、SCP-XXX-JP-a)が卵殻を壊し始め、この時点でおよそ100体のSCP-XXX-JP-aが出現します。
出産プロセス途中のSCP-XXX-JP-Aに関しては、出産時の栄養補給のためにSCP-XXX-JPによって一部捕食され、出産終了後は自然治癒力を促進させる体液を投与されながら、SCP-XXX-JP-aの餌として長期間活用されます。
SCP-XXX-JPはこれらの工程を円滑に行うため潜伏の際は体色を透過させることで透明化し、一切その姿を見せません。そして、SCP-XXX-JP-Aとなる男性を発見した際はすぐさま接触し、SCP-XXX-JP-Aの居住区画を潜伏場所にして増殖を行います。
現在、SCP-XXX-JP-aの身体的特徴や知能が番となったSCP-XXX-JP-Aに依存することから、SCP-XXX-JPの由来は「他の生物とも生殖が可能な蟷螂型の生物」であり、増殖の過程でより高度な知能と生物的に有利な体格、技能を獲得していったのではないかと予想されています。
なお、2000年の段階でSCP-XXX-JPは支配階級と生産階級(生殖行為により個体数を増やす役割)と言った身分制度を設置し、ある種の国家形態に似た社会性を有していることが判明しています。
補遺1: SCP-XXX-JPの存在は1993年から世界各国で発生していた、一人暮らしの成人男性が自宅内で不審死するという事案を切っ掛けに発覚しました。当時、財団はそれらの事案現場にて発見された痕跡から、何らかの異常存在が関与していると予想し調査を開始。ですが、SCP-XXX-JP群が有している能力やコミュニティー間の情報統制などにより、SCP-XXX-JP全体の規模や正確な状態の把握が出来ない状態でした。
しかしこれと同時期、財団日本支部主導で機動部隊によるSCP-XXX-JPの細胞採取が行われ、採取した細胞からSCP-XXX-JPの複製モデルを製造する研究が始動。結果、小型のSCP-XXX-JPモデルの製造に成功し、対象の知能レベルや個体の特徴、その他異常性への耐性や有効的な捕獲方法の調査が行われ、当時主任研究員であった射場 夢子博士によってSCP-XXX-JP個体に対するミーム的洗脳と工作員を用いた捕獲作戦が立案されました。
補遺2: 以下はSCP-XXX-JPの捕獲作戦「特別プロトコルSCP-XXX-JP-B」に関する概要です。
<特別プロトコルXXX-JP-B>
作戦実行担当: エージェント・拓斗
作戦立案者: 射場 夢子博士
作戦実行機動部隊: 裏工作機動部隊つ-Σ“虚像”
概要: プロトコルXXX-JP-Aは、最初期に収容されたSCP-XXX-JP(以下、SCP-XXX-JP-B)に対するミームエージェントを用いた捕獲および情報収集を目的とした大規模作戦です。
本作戦はおよそ1年の準備期間と4年の実行期間を有し、エージェント・拓斗を作戦事項担当官に任命しSCP-XXX-JP-Bへの洗脳を開始。結果、SCP-XXX-JP-Bの洗脳に成功し、これに伴い2000/3/12 SCP-XXX-JP-Bの自主収容を目的とした「発見シナリオ0911」、「██県██市の███警察署にて突如SCP-XXX-JP-Bが出現する」という偽装事案の発生に成功しました。
作戦終了後、SCP-XXX-JP-Bに対してその他のSCP-XXX-JPに関する情報の引き出しが行われ、これにより主要なSCP-XXX-JPのコミュニティーの地点や現在のSCP-XXX-JPの規模の把握が可能になりました。
2002年現在、SCP-XXX-JP-Bのミーム汚染の状態は維持されており、今後も情報の引き出しが行われます。なおこの作戦の効果は日本支部理事、O5評議会も評価しており、本作戦を今後の知的異常生物実体の収容に関するテストケースとしても検討されています。
プロトコルXXX-JP-A作戦目録
1995/2/1 射場博士による異常実体群洗脳捕獲作戦(初期作戦名)が立案される。
1995/4/25 O5評議会および日本支部理事により作戦実行が可決される。作戦名を「プロトコルSCP-XXX-JP捕獲作戦」へと変更し、作戦実行部隊「裏工作起動部隊つ-Σ“虚像”」が編成される。
1996/5/6 機動部隊によりSCP-XXX-JP-Bの痕跡が発見される。生息域を分析し、作戦責任者である射場 夢子博士と極道 道真作戦実行部隊隊長による意見交換を行った後、作戦内容の最終決定を下す。なお、この時点で作戦実行担当工作員にエージェント・拓斗が任命される。
1996/12/8 SCP-XXX-JP-Bへの接触を開始。作戦を実行。この段階でSCP-XXX-JP-Bに対する初期暴露に成功。対象をアパートに偽装された特設収容区画に連行する。
1997/5/11 ミーム汚染レベルを1から2に引き上げる。SCP-XXX-JP-Bのエージェント・拓斗に対する依存傾向の増大を確認。洗脳状態の維持が行われる。
1998/11/4 ミーム汚染レベルを2から3に引き上げる。この時点で計画は最終段階へと移行。
1999/8/26 最終思考操作段階へと移行。
2000/2/1 SCP-XXX-JP-Bの洗脳が完了。収容段階へと移される。
2000/7/3 SCP-XXX-JP-Bに対する収容後の洗脳継続案が立案され、日本支部理事会により承認される。
補遺3: 以下は射場 夢子博士によって行われたインタビュー記録です。なお、SCP-XXX-JP-Bが主張している██ 拓斗なる人物の情報や発言内容の大半は特別プロトコルXXX-JP-Bによるミーム的洗脳施術による改竄されたされた記憶であり、虚偽の情報であることに注意してください。
対象: SCP-XXX-JP-B
インタビュアー: 射場 夢子博士(性別:女性)
付記: インタビューはサイト-8118内にあるSCP-XXX-JPの収容室に置かれたスピーカーを利用し行われました。なお、本記録のSCP-XXX-JPの証言は収容室内にいる射場 夢子博士よって記録されました。
<録音開始>
インタビュアー: どうもSCP-XXX-JP-B。
SCP-XXX-JP-B: [沈黙]
インタビュアー: 早速ですが始めさせていただきます。まずあなたに訊きたいのは、何故あなたは我々に自らの収容を要求したのかという事です。どうしてあなたは、一切の抵抗も示さずに我々に捕獲されたのですか? 一体何の目的が?[3秒間の沈黙]
インタビュアー: SCP-XXX-JP-B。
SCP-XXX-JP-B: ……彼はどうしていますか。
インタビュアー: 私の質問に応えてください。
SCP-XXX-JP-B: 彼は元気にしていますか。
インタビュアー: SCP-XXX-JP-B。
[5秒間の沈黙]
SCP-XXX-JP-B: 先生は、本気で人を愛したことがありますか?
インタビュアー: [沈黙]
SCP-XXX-JP-B: 先生は、自分の使命を忘れてしまうぐらいに1人の男性を愛したことはありますか?
インタビュアー: いえありません。それとこれと、何か関係が?
[5秒間の沈黙]
SCP-XXX-JP-B: ……私達はいつも物乞いのような態度で男に近づきます。男には少し言い寄るだけで良い。そうやって私は私の種族を繋げてきました。……でも、彼は違いました。「君はもっと自分を大切にするべきだ。」と彼は言いました。……彼の目は本気でした。そこにはただの好意と、労いと、愛がありました。私達が持っていない感情の嵐でした。そして、私はいつしか本当の愛を知りました。
インタビュアー: それが、あなたが自らここに来た理由ですか?
SCP-XXX-JP: ……私は多くの仲間を裏切りました。ですが、私は彼を選びました。……どうか教えてください。今、彼は元気にしていますか?
<録音終了>終了報告書: 発言内容からも分かる通り、SCP-XXX-JP-Bのミーム的洗脳施術は成功していると思われます。今後とも、情報の聞き出しと洗脳状態の継続を目的としたインタビューを行っていきたいと思います。-エージェント・拓斗
以下は閲覧が制限されています
SCP-XXX-JP-Bに対する多人格矯正プログラムは現在も進行中です。なお、このプログラムに関する資料は射場 夢子の閲覧を阻止するため秘匿されます。
射場 夢子に関する情報はSCP-XXX-JP-B特別対応プロトコルに則り随時更新してください。また、SCP-XXX-JP-Bの行動と射場 夢子の行動は常に監視され、行動内容は主任研究員である射場 重光博士に報告してください。
音声記録028465729
<録音開始, [2000/3/12]>
エージェント・拓斗(以下、A): SCP-XXX-JP-B。ここが何処だか分りますか?
SCP-XXX-JP-B: ……分からない……。A: 私が誰か分りますか?
SCP-XXX-JP-B: ……ろして…。
A: あなたは今の状況をーー
SCP-XXX-JP-B: ……今すぐ殺して……。私をここで殺して……。お願い。
A: 再度、あなたに訊きます。私が誰か分かりますか?
SCP-XXX-JP-B: ……殺して。もう、何も分からないの……。好きだったの……大好きだったの……。お願い殺して ……今すぐ私を殺して……。
A: ……駄目です。会話が成立しません。
射場博士: そのようだな。弱っているのも良く分かる。私にも彼女の正体が分かるぐらいだ。予想されていた能力も完全に消失している。
A: この状態ではプロトコルの適用は困難かと思われます。
射場博士: いや、方法はある。
A: ……本気ですか?
射場博士: 理論上は可能だ。さて……。SCP-XXX-JP-B。私の目を見なさい。
SCP-XXX-JP-B: ……彼に会いたい。……私を殺して……。
射場博士: 今から私は君に真実のみを伝える。
SCP-XXX-JP-B: ……私をーー
射場博士: 君は██ 拓斗を捕食した。
[2秒間に沈黙]
[大きな高音域の鳴き声が発生する]
射場博士: 君は、己の本能に逆らえず██ 拓斗を捕食した。2000年2月1日、彼と出会って5年目の出来事だ。しかし、彼との間にできた子供は君自身が全て処分した。
SCP-XXX-JP-B: 殺して! 今すぐ私を殺して! あの人に会いたいの! ここから出たいの!
射場博士: だが、それが事実だ。SCP-XXX-JP-B。全て君がやったことだ。それは一生変わらない。一生、変えることは出来ない。君は取り返しのつかないことをやってしまったんだ。
[金属音が混ざり、鳴き声が大きくなる]
A: 博士、これ以上は拘束が解けます。
射場博士: 例の装置を。
A: ……はい。
射場博士: だがな、SCP-XXX-JP-B。過去は変える事も出来る。何もかもなかったことに、元通りにすることが出来る。
[突如、鳴き声が止む]
SCP-XXX-JP-B: ……私は。……私は……。
射場博士: SCP-XXX-JP-B。今一度、私の目を見なさい。
SCP-XXX-JP-B: 私は……。
射場博士: 今日から君は、射場 夢子だ。
<録音終了>
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8111で管理されます。SCP-XXX-JP-Aの監視は24時間体制で行われ、サイト-8111所属の機動部隊ふ-9“陰陽師”が主導で担当してください。SCP-XXX-JP-Aの侵入口には隣接する道路からの侵入を阻止するため植林がされたうえで封鎖されます。担当エージェントは衛星写真の偽装、国土交通省内に保管されているSCP-XXX-JP-Aに関する情報の差し替えを行ってください。
SCP-XXX-JPの周辺調査はサイト-8111の調査部が行います。
██家邸宅内で発見された物品は全てサイト-8111のB保管庫に保管してください。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市██山山中の所有者不明の舗装された一般道路(以下、SCP-XXX-JP-A)で発生する一連の異常現象です。SCP-XXX-JP-Aは国道██号線からの接続が可能な為、現在は機動部隊ふ-9“陰陽師”によって封鎖されています。
SCP-XXX-JPは1998年6月14日に発生したエージェント・PUの失踪を切っ掛けに発見されました。サイト-8111はこの報告を受け、彼の使用していた車両に搭載されたGPSの信号を頼りに失踪地点の割り出しを決行。これによりSCP-XXX-JP-Aの崖下でエージェントの車両が発見され、即座にSCP-XXX-JP-Aを封鎖。周辺を調査した際にカント計数機の数値が異常を示したため収容に至りました。
SCP-XXX-JPはAM0:00~AM3:15の時間帯のみ確認され、SCP-XXX-JP-A内に車両が侵入した際に発生します。この異常性はドライバーが単身で乗車している車両でのみ発生し、接近時には侵入を促す現象(カーナビゲーションシステムなどによる指示)の発生や「SCP-XXX-JP-Aが目的地への近道である」などの認識影響を受け侵入に至ります。また、SCP-XXX-JP-A侵入後は車両の停止、操縦、脱出が未知の原理により一切不可能になります。
複数人が乗車している車両や歩行者12がSCP-XXX-JP-Aに接近した場合、侵入口を認識できないという現象が発生するため侵入することはありません。既にSCP-XXX-JP-A内に車両が侵入している場合、単身のドライバーもこの影響を受け、これによりSCP-XXX-JPの影響を受ける車両は常時1台のみに限定されます13。また、非活性時からSCP-XXX-JP-A内に人間がいた場合は、活性化と同時に消失します。現在、これにより消失した人間の行方は分かっていません。
2000年現在、異常発生中の侵入を目的とした実験を実施しましたが、侵入直前に実験に参加していた職員全員がSCP-XXX-JP-Aに関する知識を忘失するという現象が発生したため中止されました。この事から、SCP-XXX-JPには徹底された台数制限が設けられていると推測されます。
侵入から約5分経過した時点で以下の異常性が発生します。 (実験記録を閲覧する場合は主任研究員である諸星博士の許可を得た上で別紙のSCP-XXX-JP実験記録-001~231を参照して下さい。)
発生する異常性段階 | 事象 | 付記 |
---|---|---|
1段階目 | 上空から詳細不明の男性と思われる人型実体が車両前方に落下してくる。 | 実体の体格や背格好などから対象の年齢は30~40代であると予想される。また、実験時に撮影された映像から実体は車両正面に衝突した瞬間に消失していると思われ、初期衝突以降に予測される衝撃(車両が実体に乗り上げる、フロントガラスにぶつかるなど)も確認されない。この落下イベントは発生と同時に繰り返され、時間が経過するごとに落下開始の間隔が狭くなる。 |
2段階目 | 車両のフロントガラスや窓に赤色の液体で構成された大量の手形が発生する。 | 手形の形状や大きさから成人した2名の人間の物であると思われる。また、カメラ映像からこれらは車両の内側から発生していると思われ、手形自体が自然発生しているのか車両内にいる不可視の実体による現象なのか現在調査中である。この段階で車両外部の視認が不可能になる。 |
3段階目 | 後部座席に3体の人型実体が突如出現する。 | 3体の実体はそれぞれ成人していると思われる2名の男女と男子児童の見た目をしている。男性はスーツ、女性は着物、男子児童は子供用のスーツを着用しており、人相に関しては実体全員が陶磁器製と思われる白色の仮面を着用しているため詳細は不明。実体の出現と同時に被験者にはパニック障害に似た症状が見え始め、このことから実体には何かしらの認識災害もしくは精神影響を及ぼす異常性があると思われる。現在、実体が出現する瞬間にカメラ映像が一瞬だけ不明瞭なるといった現象が発生しており、出現の瞬間等は一切記録できていない。 |
4段階目 | 車両が何かに衝突し停止する。 | この現象のおよそ10秒後、カメラ等の機器全てが機能を停止する。(カメラに関しては、回収後の検査で問題なく起動する事が確認済。) |
異常性がすべて終了した場合、その約10分後にSCP-XXX-JP-Aの崖下にて転落した状態の侵入車両が出現します。この時、車両内部のドライバーは消失、異常現象による痕跡なども確認できない為、損傷した車両と内部の付属品(カーナビゲーションシステム、荷物、実験用のカメラなど)のみが残留しています14。
なお、SCP-XXX-JP-A上に設置したカメラには高速で走行する侵入車両が崖下に転落する様子が記録されます。しかし上空から肉眼でこの地点を観察した場合、車両が走行する様子やこの地点に至るプロセスなどはい一切視認できず、突如崖下に侵入車両が出現するという現象が発生します。
現在、SCP-XXX-JP-Aの崖下ではエージェント・PUの車両以外にも複数の別車両が発見されており、全ての車両が全国で行方不明となった人物が所有していた車両と一致しています。このことから、財団は過去SCP-XXX-JPに暴露した人間はおよそ██人であると推定し、事件記録からも異常の発生は1994年頃からであると思われます。
補遺1: 以下はSCP-XXX-JP-Aで発生した1件の事故記録を切っ掛けに明らかとなった殺人事件に関する記録です。
「██家一家惨殺事件」概要: ██家一家惨殺事件は1992年3月11日の██家邸宅で発生した連続殺人事件です。この記録はエージェント・PCTによって発見され、1999年5月18日に発覚したSCP-XXX-JP-Aで発生した1件の事故記録を切っ掛けに明らかとなりました。
当時、██家では██家が経営していた██呉服店の次期社長を任命するための話し合いが行われており、事件当日、次期社長候補である光則氏(45)、吉輝氏(43)、孝作氏(39)ら兄弟3名とその家族らが██家邸宅に集合していました。しかし、その翌日、長男の光則氏が突如自殺、その後、光則氏の妻:清子氏(36)が孝作氏と妻:美千代(24)とその息子:健一氏(5)を殺害。すぐさま清子氏は逮捕され、事件は収束しました。
警察関係者はこれらの事件を所謂「跡取り争いの末の殺人事件」と結論付け、被疑者逮捕と同時に捜査は打ち切り。これにより、財団もこれらの事件の察知には至りませんでした。
なお、その後清子氏は留置所内で大量に吐血し死亡が確認されています。
この事件の発見に至ったSCP-XXX-JP-Aの事故は事件が発生した日と同日に発生しており、被害者である吉輝氏、妻:絹代氏(30)、息子:達夫氏(9)ら3名の特徴が異常性の4段階目に出現する3体の実体の特徴と一致したことから財団調査部に注目されました。これにより、SCP-XXX-JP調査部は事故とSCP-XXX-JPとの関連性を予想し、すぐさま██家に関する調査を開始。結果、██県警察署にて██家一家惨殺事件の捜査資料が発見されました。
概要: この記録は2000年に行われた、事件発生当時まで██家にて執事として働いていた██ 源蔵氏(76歳)に対して行われたインタビュー記録です。なお、源蔵氏は事件発生後に退職しており、インタビューの3日前まで行方が分からない状態でした。
対象: ██ 源蔵(以下、A)
インタビュアー: エージェント・PCT(エージェント・田野が同行。周囲警戒のため自宅前で待機)
付記: インタビューは██ 源蔵氏自宅の客間で行われました。
<録音開始>
インタビュアー: では、早速ですが、1992年3月9日に起きた事件について教えて下さい。A: [無言]
インタビュアー: 源蔵さん? ……あの、何故先程から一言もーー
A: あの日は、次期社長を決める話し合いが行われていました。光則様が、皆さんをお屋敷に集めたんです。
インタビュアー: ……なるほど……。それは、事件の前日の事ですか?
A: [無言]
インタビュアー: ……あのーー
A: そうです。
インタビュアー: ……分かりました。ありがとうございますーー
A: その朝に、最初の事件が起きました。あの朝、突如光則様の行方が分からなくなる、という事件が起きまして。定刻になってもお姿を見せず、寝室もすでに蛻の殻。すぐにお屋敷の者達全員であの方を捜しました。ですが一向に見つからず、当然、話し合いはいったん中止。気づけばお昼近くになっていました。
インタビュアー: ……確か、あなたが第一発見者だったんでしたね。
A: わたくしが庭園の方から戻って、一休みしようと思った時でした。ふと見上げると、3階の屋根裏部屋にある窓から光則様のお姿が拝見できまして。その時は笑顔で何処か遠くの方を見ている様子で、わたくしはそこから声を掛けようと思いその場で手を挙げてました。ですが、その瞬間に光則様は窓から飛び降りました。
インタビュアー: ……自殺の動機などは。
A: 奥方である清子様はご懐妊されたばかりでした。なのに、光則様は自ら命を絶たれたのです。あれは完全な裏切りです。
インタビュアー: あの、裏切りとはどういう……。
A: 裏切りは裏切りです。それ以上でも以下でもありません。
インタビュアー: ……分かりました。ありがとうございます。……では次に、1992年の3月11日の深夜に起きた事件について教えて下さい。
A: [無言]
インタビュアー: ……あの、どうかされましたか?[3秒間の沈黙]
インタビュアー: 源蔵さん?
A: [小さな笑い声]
インタビュアー: ……あのーー
A: あの2人は殺されて当然でした!
[物が割れる音]
A: あまりにも、あまりにも酷い有様! 2人の寝室の壁一面には血で出来たお二人の無数の手形が張り付いて、シーツやカーテンなんかも全てボロボロに!そして、そして、あの幼かった健一様も! ああ、なんと御労しい! 清子様が断ち切りばさみを手に取って、一刺し、一刺しと!
インタビュアー: 源蔵さん……! 落ち着いて、落ち着いてください!
A: 跡継ぎについては多少のトラブルがあっても話し合わなければならない!? それに、候補者が減って逆に万々歳だろう!? ふざけるな! ふざけるな! [すすり泣く声]あの、あのお優しかった清子様が、どうしてあのような事を……! 何故、可愛らしかった健一様まであのような目に! あの細い首筋に、清子様の白い手が纏わりつき! 締め上げ、尚も締め上げ! ああ。ああ。ああああ! 何で、どうして!
インタビュアー: 源蔵さん!
[3秒間の沈黙]
A: ……亡くなった方の事をあまり悪く言うのは好ましくはありませんが……あの時の孝作様の態度は目に余る物がありました。清子様自身もご主人を亡くされたばかりで、大変ショックを受けていたというのにあのような物言いをするなど許せません。動機は恐らくそれにあると思いますし、口は悪いですが殺されても無理はないと今でも思っています。ですが、あの幼かった健一様まで跡目争いに巻き込まれてしまいました。一体何処で何を間違ったのか。何故、あんな悲劇が起きたのか。正に喜劇ですよ。
[5秒間、源蔵氏の笑い声が響く]
インタビュアー: ……あの、1つ良いですか?
A: ……はい?
インタビュアー: 私が調べた限りでも、この事件には不可解な点が幾つもあります。そもそも、あなたの知る██家の人々は簡単に人を殺めるような人達だったのでしょうか? それに、最初の事件も明確な動機が未だ分かっていません。そして、立て続けに██家の人間だけが命を絶つ、そんな偶然本当にあるのでしょうか?
A: [無言]
インタビュアー: 何か他に知っていることがあるのならば教えて下さい。██さん。吉輝さんの3人家族についても、何かおかしな点などありませんでしたか? お願いします。
A: [無言]
インタビュアー: ……源蔵さん!
A: ……呪いですよ。
[3秒間の沈黙]
インタビュアー: はい?
A: あの一族は呪われているんですよ。忌子を多く作ってきた。……一族の繁栄何て、所詮は一時でしかない……。それでも彼らは止めなかったんですよ。
インタビュアー: ……源蔵さん。あなたは、一体何について話しているんですか?
[3秒間の沈黙]
A: 吉輝様に子供はいませんよ。
インタビュアー: ……え?
A: お二人に子供などおりません。
[2秒間の沈黙]
インタビュアー: そ、そんな筈はありません。しっかりと記録には3人と明記されています。源蔵さん、あなた、何か勘違いをーー
A: 松の木の傍に行ってみなさい。
インタビュアー: 松の木?
[2秒間の沈黙]
A: 絹代様がある日庭を散策していた時の事です。吉輝様が手を引いていたのですが、どう言う訳か絹代様が逸れしまいまして。それで、庭の外れにある松の木の根に足を引っかけ、見つかった時にはお腹から大量に出血していました。
インタビュアー: ……それはいつの事ですか?
A: あの事件の9年前の事です。絹代様は流産なされたのです。あの子はようは偽物です。
インタビュアー: ……あの子とは、つまり……。
A: ……達夫様。
インタビュアー: 源蔵さん。その達夫さんとは一体ーー
A: ……もう、わたくしは限界です。
<録音終了>終了報告書: このインタビュー中、██ 源蔵氏は何処からかSCP-XXX-JPの実体が着用していた物と同じ陶磁器製の仮面を取り出し、着用しました。その直後、その場に倒れると同時に絶命。外傷なども無く、未だ死因は判明していません。
補遺2: 以下の記録は担当研究員のみ閲覧が可能です。
以下の記録は2001年3月11日に行われた██家屋敷跡地の調査中に発見された研究レポートと思われる記録の抜粋です。
当時、調査部は ██ 源蔵氏の証言を基に再度██家に関する調査を実施していました。その際、██家屋敷跡地の現地調査を再度行ったところ、庭園内に植えられた松の木の下で深さ2m、床面積5m×7mのコンクリートで構成された地下室が発見されました。
内部には3728枚の研究レポート用紙とホルマリン漬けにされた奇形の胎児の標本5点、手術台と手術器具と思われる物品110点が置かれており、また発見される直前まで何者かが内部で生活していたと思われる痕跡も発見されました。現在この場所に潜伏していたと思われる存在の捜索を行っています。なお、発見された指紋や毛髪のDNAは死亡している██ 達夫氏の物と一致しました。
発見されたレポートの抜粋
1987年█月██日
実験記録001αとβの接合を確認した後、既存の受精卵との置換に成功した。この時点をもって、工程を1から2に変更し、私自身を移植する。
内部状況は大変良好であり、拒絶反応も見られない。しかし、出産時の衝撃も考慮して██████の投与を行う。その際には████を所持したうえでの記憶保持性を維持しなければならず、前回の失敗を考慮して████の投与も検討しておく。
1988年█月█日
実験記録089実験は成功したと思われる。私達自身は無事に出産され、今後は経過を見ることに集中する。将来的にはさらなる自身の生成にも着手したいと思う。
補助として肉体の再調整と保全を実施。結果は成功。αとβとのシンクロも正常に進んでいる。問題があるとすれば成長プログラムの再調整と身体情報の再現だろうか。
視覚情報の受信も問題ない。あるとすれば、視線の挙動変化に伴うαとβの疑いだろう。
今後はこれらも改良していく。
1992年██月█日
実験記録867[未知の言語]
私達はただまとめもに生まれてみたかっただけだ。親の愛という物を知ってみたかっただけ。だが、どれも駄目だ。所詮はこんなものなのか。
人はいつかその思念でのみ形を成す。いつしかこの肉体を捨て、その憎悪と恨みを以てあの空を覆う。思念は時としては人を殺め、無限に増殖し、そして私達という怨念を増幅させていく。今も私達はこの場所にいる。誰にも見つからず、母がかつて掘り上げたあの暗い穴に私達は居続けるている。誰も私達の事など覚えていない。その次も、その次も。そのまた次の世代も。あの一族は私達のことなど誰も覚えてはいないのだ。
だがそれももう終わりだ。私達はここを出ていく。絶対に、今一度私達の事を思い出させてやるのだ。
1992年██月██日
なんでおかあさんはぼくたちをすてたの? なんでおとうさんはぼくたちをきらったの? なんでぼくたちはあいされちゃいけなかったの? なんでぼくたちはあのまつのきのしたにうめられたの?
こわい。つめたい。ここからだして。
いいこにします。もっといいこにします。
うまれてきてごめんなさい。きもちのわるいからだでごめんなさい。
あいしてください。あいしてください。
ここからだしてください。ここから出せ。
1994年█月█日
実験記録2073あの家族の残留思念を活用したモルモットの回収は成功だ。
しかし、あの一族以外の遺伝子との拒絶反応の克服には時間がかかるだろう。当面の目標はこれらの細胞株との融合が中心になる筈だ。
新天地での再出現は過酷な物になると予想される。だが、私は絶対にあきらめない。もう一度、私達の母に相応しい人間を見つけるのだ。
2000年██月█日
実験記録3728何者かの邪魔が入ったが、然程問題ではない。私達の目的は変わらない。
[未知の言語]
実験の再開だ。-主任研究員:██ 達夫
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8100の専用サーバー内で管理され、インターネット上では完全に封鎖されます。
2018年現在もSCP-XXX-JP内の動画は更新され続けており、担当研究班は動画の分析を随時行い、それと並行してSCP-XXX-JPの異常性の解析も行ってください。
SCP-XXX-JP-Aとなった人物は速やかに収容され、対象には検査およびインタビューが行われます。また変異条件の分析の為、SCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP内で保存した動画や検索履歴なども本人確認を行ったうえで全て記録してください。
実験を行う際は橘博士の許可を得た上で行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは2016年に出現したと思われるインターネット上に存在するウェブサイトです。SCP-XXX-JPは主に映像販売やサイトメンバーによる生放送の配信を目的とした動画サイトであり、サイトのアカウントを作成することでそれらの視聴と購入が可能になります。SCP-XXX-JPは英語、中国語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、日本語とその他に24種類ある未知の言語に翻訳されており、アカウント作成と同時にその人種によって自動的にその言語が適用されます。(12種ある一般的には未翻訳の言語の翻訳に成功しています。)
未だSCP-XXX-JPの運営会社の特定には至っておらず、SCP-XXX-JP内にある有料コンテンツに支払われた金銭およびネットマネーの送金先や口座等も判明していません。その為、現状ではこれらの金銭は入金と同時に消失していると予想されています。
SCP-XXX-JPの異常性は現在詳しくは判明していませんが、SCP-XXX-JPを人間(以下、SCP-XXX-JP-A)が閲覧した際に認識障害と推測される症状を発症すると予想されています。しかし、身体検査を行った場合も身体的影響や精神影響の痕跡なども確認されておらず、これらのさらなる研究、調査が継続されています。
SCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JPを閲覧した場合、一定の確率で対象はSCP-XXX-JP内のアカウントを作成します。なお、Dクラス職員を起用した実験では100人中58人がSCP-XXX-JPに対して好意的な印象を覚えたと発言し、それ以外の職員は嫌悪感を示しました。
これらの異常性に関しては研究者の間でも議論されており、発症率約58%という数値からも前述した異常性は存在していないのではないのかという見解も存在しています。しかし、これに対して主任研究員である橘博士は「投稿されている映像の内容からも推測できる通り率先してSCP-XXX-JPのアカウントを作成しているとは考えずらい。」とコメントしており、現状SCP-XXX-JPの影響を受ける人間には何らかの共通点や体質的特異点があるのではないかと予想されています。
SCP-XXX-JPに投稿、配信される動画には未知の生物や未知の人型実体が映し出される映像のみが確認されます。映像内容にはおおよそ2種類の形式が存在し、第3者によって撮影された映像と実体自身が撮影したと思われる映像がそれに該当します。また、これらの映像内容には財団が既に収容したと思われる生物型オブジェクトや人型オブジェクトと思われる実体も確認されており、情報漏洩の観点からもSCP-XXX-JPのオブジェクトクラスはEuclidに指定されかつ速やかに収容されるべき対象であると決定されています。
記録1
番号: SCP-XXX-JP-1
特徴: おおよそ人間の女性と似た形状をした実体。背中部分から発生している計10本の触手と顔面に4つ存在する複眼などが確認できる。
映像内容: 日本国内にあると思われるアパートの一室内にて第3者により撮影されている。また、SCP-XXX-JP-1以外にも紫色をした大型の触手群が確認できる。
記録2
番号: SCP-XXX-JP-2
特徴: 青色の体色をした軟体生物と類似した特徴を有する実体。人間の女性に似た上半身と八腕形上目 タコ目の触腕に類似した下半身を持つ。眼球と思われる組織は1つのみ確認できる。
映像内容: SCP-XXX-JP-2が自身で定点カメラを設置し撮影していると思われる。金属製と思われる棒状の物体を体内に挿入させては引きずり出す様子が映し出される。
記録3
番号: SCP-XXX-JP-3
特徴: 人間女性が有する長髪の様な形状の体毛を頭部に有する食肉目ハイエナ科の生物に類似した実体。未知の原理で発声が可能で言語にはフランス語が用いられている。両性具有。
映像内容: 第3者による撮影と思われる。主にSCP-XXX-JP-3と同種の個体との交尾の様子が映し出されている。
記録4
番号: SCP-XXX-JP-4
特徴: (映像内にある家具などから換算して)体長7mある大型の多足亜門 ムカデ綱に属する節足動物。日本語で、かつ20代の物と思われる女性の声で発声が可能。
映像内容:SCP-XXX-JP-4が性的暴行を受ける様子が映し出される。なお、内容には鞭打ち、融解した蝋燭をSCP-XXX-JP-4の体上に垂らす、高速で振動する物体を身体に押し当てるなどが含まれる。
記録5
番号: SCP-XXX-JP-5
特徴: 日本人女性と思われる実体。足まで伸びた長髪が特徴的であり、空中浮遊や物体の透過、人間への憑依などの能力から脅威レベル4の霊的実体であると思われる。
映像内容: SCP-XXX-J-5Pが20代の日本人女性と思われる人物へと接触し体の自由を奪う様子が映し出される。その際、日本人女性の体にSCP-XXX-JP-5の腕などを透過させながら接吻をする等の行動が確認できる。
記録6
番号: SCP-XXX-JP-6
特徴: 頭部がオスのバーバリアンライオンに置き換えられた人間女性。映像内では黒革性のコルセットとブーツを着用している。
映像内容: 20代と思われる人間の男性に[編集済]する様子が映し出される。映像終了時、男性はSCP-XXX-JP-5に忠誠を誓ったと思われる言動をした。
補遺: SCP-XXX-JPは2016/4/17にインターネット上を監視していたエージェントによって発見されました。当時、エージェントはインターネット上に発信されるミームオブジェクト等に関わる情報の調査と監視を行っており、その際、新たに作成されたと思われる動画配信サイト(後のSCP-XXX-JP)を発見しました。エージェントがその内容を確認した結果、すぐさまサイト-8100に報告。この時点でアカウント作成者は20068人に到達しており、情報機動部隊りゃ-800”検閲“によるサイトの封鎖、アカウントを所持していた人物らの特定を行いました。
以下はアカウントを所持していた人物へと行ったインタビュー記録です。
対象: 佐藤 ██
インタビュアー: 橘博士
付記: インタビューはサイト-8100内の尋問室にて行われました。
<録音開始>
インタビュアー: 初めまして佐藤さん。私は橘と申します。
佐藤: は、はあ。
インタビュアー: 早速で悪いのですが、あの動画サイトに登録をした経緯を教えて下さい。佐藤: ……いや、あの、それは。
インタビュアー: 何故、あのような動画を見るに至ったのか、何故あのサイトに辿り着いたのか。どんな些細な事でも構いません。
佐藤: いや、本当に……すいません。悪気はなかったんです。いやマジで……ごめんなさい。
インタビュアー: どうして謝るのですか?
佐藤: いや、それは。その。
インタビュアー: 因みに、あなたがあのサイトで保存しているタグに関する履歴ですがーー
佐藤: ほんとに! ほんとにすいません! マジでごめんなさい! 許してください!
インタビュアー: SM、触手、アニメ声、非人型、単眼。これらは何故保存されているのでしょう。この項目を保存した際、あなたは一体どのような考えでこれらをーー
佐藤: すいません! ほんとすいません! マジですいません!
インタビュアー: …いや、だから何で謝罪をーー
佐藤: もう勘弁してください!
<録音終了>
終了報告書: 佐藤氏以外のSCP-XXX-JP-1にもインタビューを行いましたが同様の結果となりました。
きっと、彼らには何かしらの異常を発現させる共通点があるはずだ。私は彼らを救いたい。元の思考に戻してあげたい。彼らに起こっている現象を今すぐにでも解明し解放するのが、今の私にできる最大限の仕事だ。-橘博士
アイテム番号: SCP-1052-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1052-JPはサイト-8118の人型オブジェクト収容区画に収容されます。SCP-1052-JPには1日に3度の食餌を与えてください。収容室内には2台の監視カメラが設置され24時間体制で監視されます。
SCP-1052-JPの担当職員は女性職員のみを起用し、男性職員およびその他の雄の知的生命体との接触を防止してください。実験を行う際はサイト管理者の許可を得たうえで主任研究員である射場 夢子博士に申請してください。
2000/11/7の段階で最初期に収容されたSCP-1052-JP以外にも20体のSCP-1052-JPの収容が完了しています。サイト-8118所属の機動部隊つ-2“患い”は初期SCP-1052-JPからの情報を基にさらなる別個体の捜索、収容を行ってください。
特別プロトコル1052-JPの規定に則り初期に収容されたSCP-1052-JPには洗脳状態の再確認を目的としたインタビューが行われています。これらの記録を閲覧する場合はサイト管理者の許可を得たうえで閲覧してください。なお、今後も特別プロトコル1052-JPの研究は継続されます。
別個体のSCP-1052-JPと初期に収容されたSCP-1052-JPとの接触は推奨されません。
以下はSCP-1052-JPの捕獲作戦「特別プロトコルSCP-1052-JP」の概要です。
<特別プロトコル1052-JP>
作戦実行担当: エージェント・拓斗
作戦立案者: 射場 夢子博士
作戦実行機動部隊: 裏工作機動部隊つ-Σ“虚像”
概要: プロトコル1052-JPはSCP-1052-JPに対するミームエージェントを用いた捕獲および情報収集を目的とした大規模作戦です。
本作戦にはおよそ1年の準備期間と4年の実行期間を有し、初期に収容されたSCP-1052-JP個体への洗脳に成功。これにより地球上に潜伏している他のSCP-1052-JP個体の捕獲が可能になりました。
プロトコル1052-JP作戦目録
1995/2/1 射場博士による異常実体群洗脳捕獲作戦(初期作戦名)が立案される。
1995/4/25 O5評議会および日本支部理事により作戦実行が可決される。作戦名を「プロトコルSCP-1052-JP捕獲作戦」へと変更し、作戦実行部隊「裏工作起動部隊つ-Σ“虚像”」が編成される。
1996/5/6 機動部隊により現SCP-1052-JPの痕跡が発見される。生息域を分析し、作戦責任者である射場 夢子博士と極道 道真作戦実行部隊隊長による意見交換を行った後、作戦内容の最終決定を下す。なお、この時点で作戦実行担当工作員にエージェント・拓斗が任命される。
1996/12/8 SCP-1052-JPへの接触を開始。作戦を実行。この段階でSCP-1052-JPに対する初期暴露に成功。対象をアパートに偽装された特設収容区画に連行する。
1997/5/11 ミーム汚染レベルを1から2に引き上げる。これにより、SCP-1052-JPのエージェント・拓斗に対する依存傾向の増大を確認。洗脳状態の維持が行われる。
1998/11/4 ミーム汚染レベルを2から3に引き上げる。この時点で計画の最終段階へと移行。
1999/8/26 最終思考操作段階へと移行。
2000/2/1 SCP-1052-JPの洗脳が完了。収容段階へと移される。
2000/7/3 SCP-1052-JPに対する収容後の洗脳継続案が立案され、日本支部理事会により承認される。なお、この情報に関しては秘匿案件として扱われる。
作戦は1995年に始動し、裏工作機動部隊つ-Σ“虚像”による多方面からの情報監視と事案整理、痕跡の採取を実施。これにより最初期に収容されたSCP-1052-JPの潜伏地点の割り出しが行われました。
結果、SCP-1052-JPの洗脳が完了。「発見シナリオ0911」を施行し、2000/3/12 ██県██市の███警察署にて突如SCP-1052-JPが出現するという偽装事案の発生に成功しました。なお、捕獲時のSCP-1052-JPは拘束に対して一切抵抗を示さず、調査の結果、国家の重要機関内にて自身の光学迷彩の効果を無効化し、騒ぎを起こすことで人類に捕獲されることが目的だったと判明しました。これを受け日本支部理事会は洗脳作戦は成功したと結論付けました。
説明: SCP-1052-JPは全長162㎝の昆虫綱カマキリ目(学名:Mantodea)と同様の形状を持った実体です。SCP-1052-JPは個体群全体が高い知能を有しており、会話をする際は口器内の器官を擦り合せることで様々な音域で発声します。また、念動力学的(一種のテレパシー理論に起因する)手法を用いることでSCP-1052-JPと対話をしている個体が用いるコミュニケーション概念(言語および言語以外のコミュケーションツールを指す)を瞬時に学習し使用する事が出来ます。
SCP-1052-JPの存在は1995年の時点で明らかとなっており、██件に亘る成人男性の殺害事案から捜索対象として財団に認知されました。なお、特別プロトコル1052-JPの適用により██県██市の███警察署にて初の収容に至りました。
SCP-1052-JPの異常性は対象の周囲5m圏内に雄の知的生命体(以下、SCP-1052-JP-1)が侵入した際に発生します。SCP-1052-JP-1が影響範囲内に侵入した場合、SCP-1052-JPを自身と同種族の雌の個体であるとする認識異常を引き起こします。なお、人間以外の生物を起用した実験を行った際も全ての生物が発情状態へと移行した為、この異常性による種族間の制約はほぼ皆無であると予想されます。しかし、SCP-1052-JP-1となる個体はある一定の知能を有している個体のみに限定され、これらはSCP-1052-JPによって選別されます。
収容下ではないSCP-1052-JPはSCP-1052-JP-1となる個体を発見するまで所持している光学迷彩を用いて文明社会に潜伏し続けます。その後、目標となる個体を発見し対象が単独行動を取るのを確認した時点で接触を開始します。これによりSCP-1052-JP-1はSCP-1052-JPの影響を受け結果として対象を自身の居住区画へと連れ込みます。そして、期間こそ個体差が生じますが最終的にSCP-1052-JPとの性的交渉を図ります。
SCP-1052-JP-1がSCP-1052-JPと性交した場合、SCP-1052-JPは自身の体内で生成した卵にSCP-1052-JP-1の生殖細胞を受精させます。その後、卵内でSCP-1052-JPの幼生が成長しおよそ1時間で出産、最大で200体の新たなSCP-1052-JPが発生します。卵の受精はどの生物の生殖細胞を用いたとしても行われますが、現在選択されたSCP-1052-JP-1の知能指数が成虫となった際のSCP-1052-JPの知能指数に影響を与えることが判明しており、。SCP-1052-JPのこれらの選別はより知能の高い個体を残すための生存戦略であると予想されています。
これらの性交、受精のプロセスが完了した後、すぐさまSCP-1052-JPはSCP-1052-JP-1を捕食します。この際、SCP-1052-JPはSCP-1052-JP-1を自身が分泌する細胞分裂を促進させる粘液に曝し、SCP-1052-JP-1の生存を手助けします。これらの行動は出産した後の栄養補給と子育て用の餌の生成が目的であり、およそ1年間SCP-1052-JP-1はSCP-1052-JPの栄養補給機関として利用されます。
現在SCP-1052-JP個体群は自身の種族について「我々は高度な文明を構築している地球外生命体である。」と主張しており、SCP-1052-JP本体に由来する異常性の他に小型機械による光学迷彩の展開や超長距離間でも使用できる通信機器、惑星間移動を目的とした飛行ユニットや拳銃と同様の形状をしたレーザー照射装置などの物品を所有しています。また、前述した増殖のプロセスを地球以外の惑星にも適用して来たとも発言しており、証言の正確な裏付けは出来ていませんがO5評議会はこれを受けSCP-1052-JPの未収用状態の継続はSK-クラス:支配シフトシナリオに繋がると規定しました。
補遺: 当時、世界各国では一人暮らしの成人男性が不審死するという事案が相次いで発生しており、エージェントおよび担当研究班による調査結果からSCP-1052-JPの存在が明らかとなっていました。ですが、SCP-1052-JP群が所有している装置による隠密や逃走、SCP-1052-JP個体間での情報統制および情報操作などによりSCP-1052-JP全体の規模と正確な状況の把握が出来ていない状態でした。
しかしこれと同時期、財団日本支部主導で機動部隊によるSCP-1052-JPの細胞採取が行われ、採取した細胞を元にSCP-1052-JPの複製モデルを製造する研究が始動していました。結果、SCP-1052-JPの複製に成功。対象の知能レベル、個体の特徴、その他異常性への耐性や有効的な捕獲方法の研究が行われ、主任研究員であった射場 夢子博士によるSCP-1052-JP個体に対するミーム的洗脳と工作員を用いた捕獲作戦が立案されました。
2002/11/7、初期収容されたSCP-1052-JPのミーム汚染の状態は維持されており、今後もその他のSCP-1052-JPに関する情報の聞き出しが行われます。また、この作戦の効果は現在も立証されており、本作戦を今後の知的異常生物実体の収容に関するテストケースとしても検討されています。
またこれと並行して最初期に収容されたSCP-1052-JPによるその他のSCP-1052-JPに関するに情報の聞き出しも行われています。対象はこれに対し大変協力的であり、これにより20体のSCP-1052-JPの捕獲に成功しています。
以下は射場 夢子博士によって行われたインタビュー記録です。なお、SCP-1052-JPが主張している██ 拓斗なる人物の情報や発言内容の大半は特別プロトコル1052-JPによるミーム的洗脳施術による改竄されたされた記憶であり、一部が虚偽の情報であることに注意してください。
対象: SCP-1052-JP
インタビュアー: 射場 夢子博士(性別:女性)
付記: インタビューはサイト-8118内にあるSCP-1052-JPの収容室に置かれたスピーカーを利用し行われました。なお、本記録のSCP-1052-JPの証言は収容室内にいる射場 夢子博士よって記録されました。
<録音開始>
インタビュアー: どうもSCP-1052-JP。
SCP-1052-JP: [沈黙]
インタビュアー: 早速ですが始めさせていただきます。まずあなたに訊きたいのは、何故あなたは我々に自らの収容を要求したのかという事です。どうしてあなたは、一切の抵抗も示さずに我々に捕獲されたのですか? 一体何の目的が?[3秒間の沈黙]
インタビュアー: SCP-1052-JP。
SCP-1052-JP: ……彼はどうしていますか。
インタビュアー: 私の質問に応えてください。
SCP-1052-JP: 彼は元気にしていますか。
インタビュアー: SCP-1052-JP。
[5秒間の沈黙]
SCP-1052-JP: 先生は、本気で人を愛したことがありますか?
インタビュアー: [沈黙]
SCP-1052-JP: 先生は、自分の使命を忘れてしまうぐらいに1人の男性を愛したことはありますか?
インタビュアー: いえありません。それとこれと、何か関係が?
[5秒間の沈黙]
SCP-1052-JP: ……私達はいつも物乞いのような態度で男に近づきます。男には少し言い寄るだけで良い。そうやって私は私の種族を繋げてきました。……ですが、彼は違いました。「君はもっと自分を大切にするべきだ。」と彼は言いました。……彼の目は本気でした。そこにはただの好意と、労いと、愛がありました。私たちが持っていない感情の嵐でした。そして、私はいつしか本当の愛を知りました。
インタビュアー: それが、あなたが自らここに来た理由ですか?
SCP-1052-JP: ……私は多くの仲間を裏切りました。ですが、私は彼を選びました。……どうか教えてください。今、彼は元気にしていますか?
<録音終了>終了報告書: 発言内容からも分かる通り、SCP-1052-JPのミーム的洗脳施術は成功していると思われます。今後とも、情報の聞き出しと洗脳状態の継続を目的としたインタビューを行っていきたいと思います。-エージェント・拓斗
・以下は閲覧が制限されています
SCP-1052-JPに対する多人格矯正プログラムは現在も進行中です。なお、このプログラムに関する資料は射場 夢子の閲覧を阻止するため秘匿されます。
射場 夢子に関する情報はSCP-1052-JP特別対応プロトコルに則り随時更新してください。また、SCP-1052-JPの行動と射場 夢子の行動は常に監視され、行動内容は主任研究員である射場 拓雄博士に報告してください。
音声記録028465729
<録音開始, [1995/█/██]>
エージェント・拓斗(以下、A): SCP-1052-JP。ここが何処だか分りますか?
SCP-1052-JP: ……分からない……。A: 私が誰か分りますか?
SCP-1052-JP: ……ろして…。
A: あなたは今の状況をーー
SCP-1052-JP: ……今すぐ殺して……。私をここで殺して……。お願い。
A: 再度、あなたに訊きます。私が誰か分かりますか?
SCP-1052-JP: ……殺して。もう、何も分からないの……。好きだったの……大好きだったの……。お願い殺して ……今すぐ私を殺して……。
A: ……駄目です。会話が成立しません。
射場博士: そのようだな。弱っているのも良く分かる。私にも彼女の正体が分かるぐらい、予想されていた能力も完全に消失しているからな。
A: この状態ではプロトコルの適用は困難かと思われます。
射場博士: いや、方法はある。
A: ……本気ですか?
射場博士: 理論上は可能だ。さて……。SCP-1052-JP。私の目を見なさい。
SCP-1052-JP: ……彼に会いたい。……私を殺して……。
射場博士: 今から私は君に真実のみを伝える。
SCP-1052-JP: ……私をーー
射場博士: 君は██ 拓斗を捕食した。
[2秒間に沈黙]
[大きな高音域の鳴き声が発生する]
射場博士: 君は、己の本能に逆らえず██ 拓斗を捕食した。しかし、彼との間にできた子供は全て君自身が処分した。
SCP-1052-JP: 殺して! 今すぐ私を殺して! あの人に会いたいの! ここから出たいの!
射場博士: だが、それが事実だ。SCP-1052-JP。全て君がやったことだ。それは一生変わらない。一生、変えることができない。君は取り返しのつかないことをやってしまったのだよ。
[金属音が混ざり、鳴き声が大きくなる]
A: 博士、これ以上は拘束が解けます。
射場博士: 例の物を。
A: ……はい。
射場博士: だがな、SCP-1052-JP。過去は変える事も出来る。何もかもなかったことに、元通りにすることが出来る。
[突如、鳴き声が止む]
SCP-1052-JP: ……私は。……私は……。
射場博士: SCP-1052-JP。今一度、私の目を見なさい。
SCP-1052-JP: 私は……。
射場博士: 今日から君は、射場 夢子だ。
<録音終了>
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX‐JPが設置されているビルは現在財団が所有し、2階からは財団運営の喫茶店と財団フロント企業所有の編集事務所として活用されます。地下施設への侵入経路は全てコンクリート壁で完全に封鎖され、SCP-XXX-JPの入場口前の区画には簡易の管理サイトが併設されます。セキュリティー担当者はビル裏側に設置されている管理サイトの出入り口を監視カメラで監視し一般人の侵入を阻止してください。
毎月の13日にはビル全体の施設全てを休止させ、かつ管理サイト内では警戒態勢のレベルを1から2に引き上げてください。
2015年現在、Dクラス職員を起用した実験は凍結されています。これを行う際はサイト-81██のサイト管理者に申請してください。実験に参加したD職員は拘束され、その後速やかに終了されます。
説明: SCP-XXX-JPは東京都渋谷区███████に存在する地下に建設されたライブハウスです。SCP-XXX-JPの正確な規模や面積は把握できていませんが、見た目上は小型のライブハウスの様子を呈しています。SCP-XXX-JPは毎月の13日にのみ侵入が可能となり、それ以外の日にちでは対象の入場口が施錠され物理的侵入が不可能になります。13日以外の日に侵入する試みは現在成功していません。
SCP-XXX-JPの異常性は内部に1名の人間が侵入した際に発現します。SCP-XXX-JP内部で異常が発生した場合、舞台上に年齢およそ14~18歳の日本人女性と防護服を着用した4名の男性(以下、SCP-XXX-JP-A)と思われる実体、客席にはおよそ30名前後の人間の男女(SCP-XXX-JP-B)が出現します。舞台上の女性に関しては全員がインターネット上のチャットサイト「████████」に参加していたことが判明しており、援助交際の取り付けや暴言、誹謗中傷、荒らし行為を行っていた人物であると思われます。(現在、サイトは財団によりアクセス制限が掛けられています。)内部で異常が発生した場合は瞬間的にSCP-XXX-JPの入場口が施錠され、異常性の終了まで内部への侵入は出来ません。
SCP-XXX-JP内部にて1名の人間が侵入しかつ時間が午後9時になった場合、舞台上にいる女性がSCP-XXX-JP-Aによって様々な手法で暴行を受け、最終的に殺害されるというイベントが発生します。この際、女性は「助けを求める」「悲鳴を上げる」等の行為を行い、この殺害イベントが発生している間SCP-XXX-JP-Bはそれを観賞しかつ全員が大声量で笑い続けます。これらの事象はおよそ3時間継続し時間経過後に女性は殺害されます。
もし、SCP-XXX-JP内部に侵入した人間がSCP-XXX-JP-B同様に笑わなかった場合、突如SCP-XXX-JP-B全員が侵入した人間に対し攻撃を行います。これにより侵入した人間が消失し、2014年現在、消失した人間の捜索を行っていますが発見には至っていません。
これらのイベント終了後、SCP-XXX-JP-AおよびSCP-XXX-JP-Bは消失し内部の様子も複数人で侵入した時の状態へと変化し舞台上には殺害された女性の遺体のみが残されます。
なお、2名以上の人間が内部に侵入した際はSCP-XXX-JP内の壁、天井、床の全てがコンクリート壁で構成され、5m×5m×2mの部屋に置き換えらるという事象が観測されます。なお、内部には家具や設備等の物品が一切存在しません。
以下はSCP-XXX-JP内で確認された殺害イベントの抜粋です。
なお、本記録に関してはSCP-XXX-JP内部で発生した事象と発見された遺体との整合性を明確化する為、発生した事象に関する詳細な状況を記録しています。
記録001
参加職員: D-1119
対象: 本名██ ██(年齢16歳)。制服から都立█████の生徒であると判明し特定。舞台上では腕を縄で拘束された状態で木製の椅子に座らせられていた。
結果:
・SCP-XXX-JP-Aの内2人が女性の足を拘束し、鉈を所持したもう1人のSCP-XXX-JP-Aによって足の指が切断される。(この行為は45分間かけて行われる)
・女性が気絶しそうになった場合、待機しているSCP-XXX-JP-Aが対象の顔面、胸部を殴打し覚醒させる。
・足の指を全て切断した後は太もも、脹脛の皮膚や組織を乱暴に剥離していく。
・腹部を再度鉈を用いて切開し小腸、大腸を紐を手繰るように引きずり出す。
・イベント終了直前に金属バットで対象の頭部を殴打し破裂させる。遺体状況:
・両足の指全てが消失
・太もも、脹脛の組織が消失
・腹部が切開された状態で胃、小腸、大腸が消失
・頭部が消失
なお、欠損した組織、部位は未だ発見されていない。
記録012
参加職員: D-1122
対象: 本名██ ██(年齢14歳)。保護者から捜索願が出されており、それにより判明。舞台上では両手にそれぞれ縄が括り付けられた状態で宙づりになっていた。
結果:
・SCP-XXX-JP-Aによって左右の脇腹に電動ドリルを差し込まれ、合計10か所の穴が開けられる。
・女性がこれに対して叫び声を上げ、これらの行為を止めるように懇願した際にはメリケンサックを所持したSCP-XXX-JP-Aが対象の顔面と腹部、股間部分を殴る。
・イベント終了時、脇腹にあけた穴それぞれに未知の小型の機械群が埋め込まれ、それらの作業が完了した瞬間SCP-XXX-JP-B等が10からカウントダウンを開始する。
・0に到達した際、女性の腹部、胸部、顔面が大きく膨らんだ後に破裂する。
・女性の肉片や血液がSCP-XXX-JP内に飛散し、SCP-XXX-JP-Bはこれに対し全員が歓声と思われる声を上げる。遺体状況:
・腹部から足先にかけた下半身以外の組織全てが消失
・腹部、股間部分に壊死が見られる
遺体の断面に関しては鋭利なもので切断された様な状態であり、爆発による消失と思われる痕跡は見られなかった。
記録023
参加職員: D-1122
対象: 本名██ ██(年齢17歳)。万引き行為を行ったとして書類送検されていたためそこから個人を特定。なお、家庭裁判所などの記録から父親から性的な虐待を受けていたことが判明し、チャットサイト「████████」にてこれに関連する愚痴やそれを理由とした暴言を書き込んでいたため異常性の対象になったと思われる。舞台上では股間部分を大きく開く形に拘束されていた。
結果:
・舞台袖から金属製の大槌と長さ5mの鉄棒を所持したSCP-XXX-JP-Aが登場し、鉄棒を女性の股間部分にあてがい膣内へと挿入する。(約5分間この状態を維持する)
・大槌を所持したSCP-XXX-JP-Aが鉄棒の端を叩く為に構え、それを認識した女性が泣きながらそれを止めるよう懇願する。
・SCP-XXX-JP-B全員が「叫べ!」という内容の掛け声を連発し、結果、女性は泣きながら「ママ。助けてママ。」と発言する。
・大槌を所持したSCP-XXX-JP-Aが鉄棒の端を勢いよく叩き、これにより鉄棒が女性の体内を貫通し口部から鉄棒の片方が露出する。(女性は即死していない)
・舞台袖から別のSCP-XXX-JP-Aが登場しおよそ20kgの薪を持参する。
・薪を用い、くし刺し状態の女性を火あぶりにあげる。
・SCP-XXX-JP-B等はその光景を眺めながら拍手をする。遺体状況:
・股間部分から後部にかけて半径2㎝の棒状の物体によって貫通させられたと思われる痕跡が見つかる(鉄の棒は消失)
・全身に重度の火傷
・眼球、全歯、舌の消失
・衣服の消失(残留した繊維なども発見されなかった)
記録023の事象に関しては、記録上で確認された状況と消失している組織の整合性が取れない事から何らかの規則性があると予想されたため追加の調査が行われている。
記録025
参加職員: D-1122
対象: 本名██ ██(年齢15歳)。この時点まで行方不明となっていたエージェント・███の実子。舞台上では両手首、両足首に釘を打たれ、逆さまの状態で十字架に張り付けにされていた。
結果:
・[編集済]。
・SCP-XXX-JP-Aが女性の頭部を背骨ごと引き抜く。遺体状況:
・[削除済]
・[削除済]
・[削除済]
遺体に関しては大半が[編集済]。なお、その他の事象と異なり、SCP-XXX-JP内全域に[編集済]が飛散しており、これらはこの次に発生した事象の際に消失した。
補遺: SCP-XXX-JPは2005年5月13日に渋谷区████周辺の調査を行っていたエージェントによって発見されました。当時、エージェントは渋谷区周辺にて確認された異常な電磁波の発生地点の割り出しを行っており、その結果、その電磁波の中心と思われる地点(後のSCP-XXX-JP)を発見しました。応援を待った後にエージェントは内部へと侵入、しかしその時は複数人で侵入を行ったため内部には何も置かれていない空間のみが観測されました。
SCP-XXX-JPが発見された後、担当研究班はこの電磁波の発生が毎月の13日にのみ確認されるという規則性を発見しました。その後、発見から4か月経過した月の13日にDクラスを起用した実験を行いSCP-XXX-JP内部での異常性を確認。すぐさま収容プロトコルが制定され現在の収容体制が確立されました。なお、この実験に参加したD-1119は上記の異常性により行方不明となりました。
現在もD-1119の発見には至っていません。以下は対象のDクラス職員が参加した実験の映像記録です。
〈再生〉
[00:02:05] D-1119がSCP-XXX-JP内に侵入する。
[00:02:38] SCP-XXX-JP内には30名前後と思われる観客と簡易のバーカウンターや休憩用の椅子などが見られる。
[00:03:02] 舞台上に椅子に縛り付けられた状態の女性と防護服を着用した4名の男性が現れる。
[00:03:05] 観客側から歓声が上がる。(この際、D-1119は戸惑いながら周囲を見回す。)
D-1119: …何だよここ。何なんだよ。
[00:04:24] 防護服を着た男性が舞台袖からキャスター付きの机を押してくる。机の上には複数の刃物や刀剣類が並べられている。
女性: [悲鳴]
[00:05:10~3:00:09] [殺害イベント発生]
D-1119: …く、狂ってる…! こいつら、全員いかれてる…!
[3:00:12] 突如舞台上の4名の男性と観客全員がD-1119の方を見つめる。
D-1119: な、何だよ。何だよお前ら!
観客: 笑えよ。
D-1119: …は?
[3:00:58] 観客全員の眼球が陥没しかつ口角が異常に上がり始める。それに合わせ、眼窩、鼻腔、口内から大量に流血し始める。
D-1119: やめろ! こっちに来るな! やめてくれ! 頼む! …た、助けてくれ!
[3:02:36] 観客がD-1119に覆いかぶさり、映像が暗くなる。
〈終了〉
追記1: 2015年現在、Dクラス職員を起用した実験は全て凍結されています。
対象: D-1122
インタビュアー: 野呂井博士
付記: このインタビューはD-1122の経過観察を目的として行われ映像記録です。場所はサイト-81██の尋問室にて行われました。
<再生>[椅子に座っているD-1122が正面から映し出される(D-1122の顔は編集により黒色の四角形で秘匿済)]
インタビュアー: では、D-1122。あの中で見てきた物について改めて説明してください。
D-1122: [沈黙]インタビュアー: D-1122?
[3秒間の沈黙]
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]インタビュアー: 意味?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: それは…つまりどういう事でしょう?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
[セキュリティー担当者によってD-1122が取り押さえられる]
インタビュアー: …一旦落ち着きましょう。まずは、今あなたの言ったことについてより詳しく説明してください。
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: D-1122、兎に角、今は冷静になってください。
[D-1122が項垂れる]
[10秒間の沈黙]
インタビュアー: 落ち着きましたか?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: では、改めて質問します。先程、あなたが言った世界というのは、つまりどういった意味なのでしょう?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: 何故、そのように感じたのですか?。
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
[D-1122が顔を覆い震える]
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: D-1122?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: あいつらというのは…SCP-XXX-JP-Bの事ですか? 本気で笑っているとは、どういうことですか?
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
インタビュアー: 何故です。
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
[D-1122が突如胸を押さえ苦しみだす]
インタビュアー: D-1122? D-1122!
[D-1122が大量の吐血する]
インタビュアー: D-1122! しっかりしなさい! 誰か、誰か救護班を呼んでください!
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
[複数人の笑い声]
[突如複数人の男女(SCP-XXX-JP-Bと思われる)が尋問室内に出現し画面に向かって笑い始める]
SCP-XXX-JP-B: [未知の言語]
D-1122: [これらの情報はO5評議会及び日本理事会の決定により編集されました]
野呂井博士: やめなさい! 今すぐここから
[室内が暗くなる]
[明かりが点き、尋問室の机の上に眼球のない人間の胎児と思われる実体が確認される]
[赤ん坊の笑い声が響く]
<終了>
終了報告書: この以降のDクラス職員を起用した実験は凍結されました。なお、機動部隊が到着した時点で映像内で確認されていたSCP-XXX-JP-Bおよび胎児と思われる実体、D-1122が消失していました。
2015年現在もこれらの映像とSCP-XXX-JPの異常性の関係は明らかとなっていません。なお、異常性は未だ健在であり、以前のチャットサイト以外にも「████・███」というサイトへと影響が拡大していることが確認されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-Aの土地権利は現在財団が保有しており、一般人の侵入を阻止しています。SCP-XXX-JP-Aの周囲にはセキュリティー担当者を配置し、24時間体制で監視してください。もし、SCP-XXX-JP-Aに一般人が侵入した場合は対象にBクラスの記憶処理をした上で近隣の集落に開放してください。Dクラス職員を起用した実験には事案XXX-JP‐093617以降凍結されています。
2011年現在、「有限会社SA」に関連している全ての下請け企業やサイト管理業者は例外なく財団の監視下に置かれています。「有限会社SA」からの接触や何かしらの変化が発生した場合はサイト-81██の管理者に報告してください。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市の総面積███km²の土地(以下、SCP-XXX-JP-A)で確認される現象です。SCP-XXX-JP-Aは以前「有限会社SA」という組織15が所有しており、企業所有の実験場として国に登録されていました。現在、財団による情報操作により、「有限会社SA」の土地所有権を剥奪、押収する形で現在の管理体制を構築しています。
SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-Aで不定期的に発生する人間女性の投身自殺というイベントです。SCP-XXX-JPの発生は毎月水曜日の13時13分で固定されており、定刻となった場合SCP-XXX-JP-A範囲内に一機のC208Bグランドキャラバン16が出現します(機体の型番は既存の物と一致しており、「有限会社SA」の購入履歴も存在しています)。機体はSCP-XXX-JP-A範囲内の北東から南西にかけて高度10000mの地点を飛行し、SCP-XXX-JP-Aの中心に到達した段階でSCP-XXX-JPを発生させます。
現在この機体の出発地点等は判明しておらず、機体自体も空中に突如出現する為、追跡も同様の理由により成功していません。
映画内のメリー・ポピンズ |
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機体がSCP-XXX-JP-Aの中心地点に到達した場合、1名の人間女性17が機体から投身します。これにより女性は地上到達時の衝撃により死亡し、これまでに39名の死亡が確認されています(実験に参加したDクラス職員は除く)。落下中の人間女性を観察した結果、所有している傘の低高度での開傘が確認されています。
落下する女性は全員がメリー・ポピンズを演じたジュリー・アンドリュース氏と同様の容姿をしており、見た目年齢も映画が公開された1964年代の当時の様子と酷似しています。しかし検死解剖や遺伝子調査によりこれらは高度な整形施術によって容姿を改造している事が分かっており、死亡した女性の身元調査を行ったところ全員が日本国内で行方不明となっていることが発覚しました。また、死亡した女性の体内からはおよそ██個の未知の鉱物であると思われる欠片が発見されており、この物体は女性の体内にて細胞レベルで臓器、血管等の生体器官と結合、これらの技術も現在の人類の文明レベルでは到達できていない施術あることが判明しています。
映画内のジョージ・バンクス |
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SCP-XXX-JPは2005年7月12日に行われた一般人による通報により発覚しました。当時、██大学の学生4名が学校外授業の一環としてSCP-XXX-JP-A周辺の小集落に停泊、森林散策の際にSCP-XXX-JP-Aに誤って侵入してしまい結果、発生中のSCP-XXX-JPを目撃しました。その後、学生等はすぐさま警察に通報しましたが、その時点で死体は既に消失しており学生等に関しては私有地への不法侵入による厳重注意が行われたのみで事態は収束しました。その3日後、その情報を入手したフィールドエージェントが現地で改めて調査を開始。これによりSCP-XXX-JPを観測、また死体を処理する詳細不明の集団の存在も確認された為、サイト-8193へと報告しました。なお、当時エージェントはその集団に対して威嚇射撃を行ったうえでの拘束を試みましたが、未知の原理により何かしらの攻撃を受けた為エージェントは負傷、対象の消失により収容には至りませんでした。
これらの事象が確認された後、財団は最初の目撃者である学生等に接触。インタビューを行った後で記憶処理を行い、カバーストーリー「若気の至り」を適用し隠ぺい工作を行いました。
エージェントの証言から詳細不明の集団(約10名)に関する調査を進めた所、全員が映画メリー・ポピンズに出演していた当時のデヴィッド・トムリンソン氏と同様の見た目を有した実体であることが判明しており、バンクス家の父親であるジョージ・バンクスを演じた時と同様の衣装を着用していることが発覚しました。
現在、何故「有限会社SA」が映画メリー・ポピンズをモチーフとした異常を発生させているのかは未だ明らかとなっていません。
補遺: 「有限会社SA」はインターネットを活動拠点としている女性をターゲットにした自殺者支援活動を行う存在であり、形式としてはウェブ上で自殺希望者を募集しその希望者が指定した日時にそれを実行すると掲載しています。なお、Dクラス職員を起用した実験により、これが実行されるであろう日時には希望者の待機地点で重度の電波障害と高濃度の霧(半径300mの範囲に発生)が確認され、その後希望者がその場から消失するという事象が発生します。そして、この消失が発生した約2週間後、SCP-XXX-JP-Aにて消失した希望者によるSCP-XXX-JPが発生します。
「有限会社SA」は死亡した女性の身辺調査を行った際に、当時その任務を担当していたエージェント・パーズが女性の自宅にあったノートPCのインターネット履歴に着目したことによりその存在が明らかとなりました。結果、女性が頻繁にアクセスしていたウェブサイトを発見。他の女性の所有していたPC、携帯電話等の履歴と照らし合わせたところ同様のウェブサイトにアクセスしていたことが判明しました。この報告を受け財団はこれらのサイトを運営している業者の捜索を開始。しかし、サイトを運営していた事務所や関係者等の拘束には成功しましたが、全員が「有限会社SA」と契約した代理社員であったことが判明し、直接的な接触的な関係はありませんでした。現在も本来の「有限会社SA」の所在地の割り出しや追跡等は難攻しており、その全貌は明らかとなっていません。
2006年11月4日、このウェブサイトは財団により隔離され一般人の閲覧を規制しています。また、不定期的にDクラス職員を起用した実験を行うことで現状の確認を行っています。
追記1: 2010年、SCP-XXX-JPを担当していた小延研究助手による報告が行われました。
以下はその報告内容の抜粋です。
先日行われたSCP-XXX-JPの実験に関して、幾つか気になる点が見られたためここに報告します。
まず有限会社SAのサイトを利用した際の電波障害と霧の発生に関してですが、影響範囲外からの計測の結果あれらは計器類の妨害及び破壊が目的ではなく希望者の誘拐を行った際の副次的な影響なのではないかと私達は予想しています。根拠としては2つの要因が挙げられ、イベント発生時に電波系観測器、カント計数機、放射線測定器等を用いた観測を行った結果、以前財団がGOCから回収した「転送装置」等を用いた実験およびそれを使用した時と同様の数値が観測されたこと、そしてDクラス職員の消失が確認された地点にて微量ながらの原子崩壊および再構築の痕跡が確認された事がそれに該当します。なお、これらの痕跡は転送を行った際の肉体の再構築を行った時に確認される痕跡です。このことから、私たち研究チームはSCP-XXX-JPにおけるDクラス職員の消失イベントは超常的現象などでは決してなく、あくまで何らかの実体による人為的かつ技術的な誘拐であると推測しています。
また上記の根拠以外にも確認されている霧に関する考察ですが、霧自体の採取、成分の分析こそ成功はしていませんが影響範囲外からの性質分析と消失終了後の消失地点の大気分析を行ったところ、こちらも微量ですが████理論に基づくA-99376粒子の発生が確認されました。お分かりだと思いますが、これらは転送を行う際の再構成の範囲指定を可能にする現在財団が研究中の新技術です。
これらの理由からあれらは何者かが大規模な物体転送を行いあれらの誘拐を実現していることは確実です。なお、これらの転送先に関してですが、霧の形状と消失時の影響の指向性、消失後に発見された痕跡の濃度分析の結果、おそらく上空数千mに限定されていると思われます。-小延 正治
この報告により、財団は消失実験時の上空監視作戦を決行しました。
以下は事案XXX-JP‐093617の際に記録された音声記録です。
対象: 堂塔 健吾(空挺部隊:メビウス所属機動部隊員 以下T)
インタビュアー: 駮馬 聡一郎(空挺部隊:メビウス第4機動部隊大隊長)
付記: この記録はSCP-XXX-JP誘拐イベントの上空監視作戦時に録音された物で、以下の会話は当時監視用の戦闘機を操縦していた堂塔隊員とメビウス第4機動部隊大隊長駮馬 聡一郎隊長の間で交わされたものです。
<録音開始>
インタビュアー: こちら本部。現在の状況を報告しろ。オーバー。
T: こちら偵察機E001。現在、実験場上空には何ら変化は見られない。オーバー。インタビュアー: 了解。引き続き監視を継続しろ。消失予想時刻まで残り10分。オーバー。
T: 了解。何らかの変化が発生した場合は再度通信を行います。アウト。
[以下、変化が見られなかったため編集]インタビュアー: こちら本部。定刻だ。何か変化はみられるか。オーバー。
T: こちら偵察機E001。先程と同様目立った変化は…
[4秒間の沈黙]
インタビュアー: どうしたE001。応答しろ。
T: 訂正します。実体自体の確認はできませんが、雲の妙な動きを確認しました。あれは…雲が一部欠けています。オーバー。
インタビュアー: 雲…? 不可視の実体か。オーバー。
T: 現時点では確認できません。ですが、確実に何かがいます。目測での報告となりますが、およそ直径2kmの何かしらの物体が空中を移動していると思われます。オーバー。
インタビュアー: …なるほど。では
[警報音が鳴る]
インタビュアー: どうした。何が起きた。
T: 分かりません! 現在、機体操縦不能! 操縦不能! す、吸い込まれています! 何かに、何かに機体が引っ張られています!
インタビュアー: おい。地上偵察部隊からの報告は。
オペレーター: 以前、変化はありません。
インタビュアー: 前機体の現状を再度確認。常に通信をつなげておけ。E001。現状を報告しろ。
T: こ、こちらE001! 以前…以前機体は操縦不能! 計器も正常に動作しません!
インタビュアー: 現在全機体の状況を確認している。E001、目標は目視できるか。
T: い、いえ! な、何も…何も見えません! ですが[ノイズ音]
インタビュアー: E001。 応答しろ。E001!
[全ての通信機器に大きなノイズ音が発生する]
[映像機器類に映画「メリー・ポピンズ」のワンシーンが放映される]
インタビュアー: おい! どうなっている!
オペレーター: 強引な通信の介入だと思われます。こちらの操作に一切応答しません。
インタビュアー: くそ…!
[偵察機E001からの通信が入る]
インタビュアー: E001! 無事なのか! 応答しろ!
T: [未知の言語が発せられる]
インタビュアー: な、なんだこれは…。
T: [英語版のメリー・ポピンズの音声が発せられる]
[放映されてからおよそ5分後、映し出されているメリー・ポピンズの登場人物たちが一斉に動きを止めカメラを見つめだす]
映像内のメリー・ポピンズ: [未知の言語]…私たちは彼女から夢を貰ったわ。でも、それでも最後のピースが足りないの。
[地上にて消失イベントが発生する]
[全偵察機との通信と信号が消失する]
映像内のメリー・ポピンズ: これに懲りたら、もう私たちの邪魔はしないで頂戴ね? 私たちだって争いたくはないの。私たちはあくまで利害関係の一致を確認した上で事に及んでいるわ。そちら側の損害も考慮して、社会的に何の影響もない人物の協力を募っているだけなの。 だから、そちら側もいい子にしていてね? それじゃあ、今後とも宜しくお願い。よい週末を![映像の終わり際、映像全体が乱れ一瞬だけ映画内の登場人物全員が複数の未確認な形状をした人型に近い実体に置換される]
<録音終了>
終了報告書: この通信終了後、偵察を行っていた全機体および実験に参加していたDクラス職員、地上部隊、研究員、総勢12名が消失しました。そして、その2週間後、SCP-XXX-JP-Aにて、顔、腕、内臓等に映画メリー・ポピンズに出演していた子役(カレン・ドートリスとマシュウ・ガーバー)と同様の見た目を有した実体を移植された財団職員が高高度からの投身自殺を行いました。
2010年現在、SCP-XXX-JPの完全な抑制には成功していません。また、事案終了時に上空を監視していた地上部隊の報告から、巨大な円盤型の飛行物体が高度上空へと飛翔していく様子が確認されました。
追記2: Dクラス職員を起用した実験が凍結された2011年現在もSCP-XXX-JPは確認されています。
また、SCP-XXX-JPの発生回数が増加するごとに投身自殺を図った人間女性の落下速度が低下しているといることが判明しました。なお、この速度低下は開傘の際に発生すると思われ、研究員の見解では「映画内の描写に近づいて来ている。」と予想されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの周囲1kmはサイト-81██の管理下に置かれます。変装したセキュリティー担当者は一般人の侵入を阻止してください。
実験を行う場合は主任研究員である出洲博士の許可を得た上で、SCP-XXX-JPの敷地内に建設された臨時サイト-81██の実験棟で行ってください。なお、児童を利用した人体実験の際は倫理委員会の検閲を通過した後に実験の申請を行ってください。
SCP-XXX-JP内で確認された児童の死亡が確認された場合、児童の戸籍調査を行い死亡扱いとなっていいるのかの確認が行われます。2011年現在もこれらの状況に変動は見られないため、今後は裏付け調査のみが行われます。
追記プロトコル: 2012年現在、SCP-XXX-JP-1以外にも3体の実体が確認されています。実体の要求とそれに伴うSCP-XXX-JPの対応に関しては日本理事会とO5評議会の決定のより確定されます。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市██町の郊外に位置する孤児院および孤児院を中心とした直径800m圏内の土地です。SCP-XXX-JPは2011年現在も通常の孤児院として運営されており、██市により1982年4月12日から正式に登録されている施設であると判明しています。建築物に使われている材木等には何ら異常性は見られず、通常の物品同様に損傷します。建築業者などにも問い合わせたところ建物の設計図や建築記録の存在が明らかとなりました。しかし、これらの資料や記録、証言等には実際の現状と異なる点が多く見られる事やSCP-XXX-JPに関連して発生する現象から現実改変による歪曲された事象であると予想されています。
外見や内部の構造は洋館を模した物であり、庭は遊び場、一階部分は食堂と勉強用の教室、二階部分は児童用の寝室(およそ5部屋、一部屋にベッドと勉強机が4つ設置されている。)として活用されています。
SCP-XXX-JP内部には一体の人型実体(以下、SCP-XXX-JP-1)と複数人の人間の児童が生活しています。なおSCP-XXX-JP-1に関しては頭部が奇蹄目ウマ科の生物、特にアラブ種の物と類似した特徴を有している頭骨に置き換えられているという特徴があります。なお、その点を除いて対象の身体的特徴は通常の成人男性と大差ありません。しかし、SCP-XXX-JP-1を捕獲する試みなどは対象が透過する等の事象により成功しておらず、後述する異常性などからも高度な現実改変を発生させる異常性を有していると予想されます。
SCP-XXX-JP内部の異常性は2段階に分けられ発生します。
SCP-XXX-JP内で生活している児童 |
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1段階目の異常は内部に人間の児童(年齢、人種などに制限は無いと思われる)が侵入した際に発生します。もし、児童がSCP-XXX-JP内部に侵入した場合、その時点で外部への脱出が不可能になります。これらの原因には不可視の障壁や空間のループなどが挙げられ、SCP-XXX-JP-1に連れてこられた児童のみがこの影響を受けます。この影響を受けた児童はおよそ1年間から3年間、最長で8年間をSCP-XXX-JP内で生活し、その間はSCP-XXX-JP-1による一般教養などの教育や食事の提供、衣類などの提供が行われます。なお、この現象の発生に関して児童は何ら異変を感じてはおらず、一般的な現象であると認識しています。児童の数はこれまでに最大で36人が確認されており、全員の戸籍調査をした結果、追加される児童も含めて実在する個人であることが判明しています。
これらの児童はSCP-XXX-JP-1によって不定期かつ頻繁に連れて来られており、これには対象が所有する自動車18が利用されます。現在、これの追跡は目標の消失などにより成功していません。
この期間が終了した場合、異常性は2段階目へと移行し、その時点でSCP-XXX-JP内で生活していた児童は例外なく全員が何らかの事象により死亡します。これらの事象に一貫性は無く、SCP-XXX-JP-1がこのプロセスに関与しているのかも未だ明らかとなっていません。
死亡した児童等に関してはSCP-XXX-JP内で死亡したと同時に戸籍上にも死亡したという記録が発生します。また、SCP-XXX-JP内で生活していた期間内でも本来の住居等で生活していた記録や証言、死亡したであろう地点には血痕等の痕跡や遺体が発生します。これに伴いそれらに関係する行政機関においても通常の事件同様に扱われる為、被疑者や関係者も存在し、対象の逮捕とその後の裁判も問題なく行われます。なお、大半の被疑者はSCP-XXX-JP内で生活していた児童の親族であり虐待の末に自身の児童を殺害したことが判明しています。
以下は累計で確認された死亡原因の統計です。転落死 | 約3% | この死因の場合、突如児童がその場から消失し直後上空から落下してくるという事象が発生する。 |
轢死 | 約7% | この死因の場合、突如児童が不可視の物体による強い衝撃を受けるもしくは圧縮されることにより死亡する。圧死した場合、遺体には時たまタイヤ痕などが確認される。 |
凍死 | 約5% | この死因の場合、児童はその場で突如しゃがみ込み、数時間後低体温症やその他の付随する症状により死亡する。この際、財団の職員などが保温処置などを行ったとしても一切効果が無く、死亡のプロセスは問題なく完了する。 |
溺死 | 約12% | この死因に関しては2種類のケースが存在し、突如児童が空中に浮遊し水中で溺れた時と同様の挙動を見せるケースと後頭部を突如何らかの力によって押さえつけられそのまま溺死するケースが存在する。検死の際、肺の内部には河川や湖の物と思われる水と浴槽に使われたと思われる水が一個体ごとに確認された。 |
打撲や骨折に伴う内臓や脳の損傷 | 約15% | この死因の場合、児童は突如何らかの力により全身を打撲、最悪の場合は腕、足、肋骨、頭蓋骨等を骨折するという重傷を負い死亡する。これらの症状に対し財団の医療班が治療を行ったが縫合や手術をした瞬間、容体が元に戻るという事象が確認された。 |
餓死・衰弱死 | 約58% | 大半の児童は餓死、またはそれに付随して衰弱死する傾向にある。これらの事象は食事や栄養投与を行わせたとしても発生し、一度これらが発生した場合、急速に症状が悪化し死亡する。 |
SCP-XXX-JP-1はこれらの事象が発生している間は側でこれを観察しており、死亡を確認した後、例外無く速やかに全ての死体を焼却処分します。その後、新たな児童をSCP-XXX-JPへと連れてきた後、その他の児童と同様に衣食住の提供を行います。
補遺: SCP-XXX-JPは2003年10月24日に行われたサイト-81██への通信を切っ掛けに発見されました。当時、サイト-81██には詳細不明の救助要請と思われる通信を受信しており、クリアランスレベル3以上の職員のみが利用できる緊急伝達用通信で利用されたためすぐさま財団諜報部が逆探知を開始しました。結果、SCP-XXX-JPの所在が判明し、後の調査によりこれらの通信がSCP-XXX-JP-1によって行われた物であったと判明しました。なお、この時点でSCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPと児童の保護を要求しており、しかし前述の異常性により児童の移動が困難であった為SCP-XXX-JPに臨時サイトを建設することでこれを可能にしました。
SCP-XXX-JP-1は過去に█████・████という組織(SCP-XXX-JP-1は企業と証言)に所属しており、現在それらの組織から逃亡中であると証言しました。その為、敵対組織からの逃亡を確実な物とするため財団に救難要請を出したと予想されています。現在、SCP-XXX-JP-1は組織に関する情報を意図的に制限しており、インタビューに関しては全面的な拒絶を示しており、組織やSCP-XXX-JP-1の全貌の把握には至っていません。
2011年現在も児童の出現と死亡は発生しており、異常性は継続しています。
以下はSCP-XXX-JP内で生活している児童に対して行ったインタビュー記録の抜粋です。
対象: ██ 朝美 当時10歳(以下、01)
インタビュアー: 出洲博士
付記: インタビューは孤児院内の応接室で行われました。
<録音開始>インタビュアー: どうも。自分は出洲って言います。君の名前は?
01: ██ 朝美です。こんにちは。
インタビュアー: はい、こんにちは。早速だけど、いくつか質問をしてもいいかな?
01: はい!
インタビュアー: ありがとう。じゃあまず最初は…ここへ来た時の事を教えてもらえるかい?
01: …えーと…よく覚えてないけど、起きたら先生の車にもう乗ってて…。気付いたらもう玄関の前にいました。インタビュアー: なるほど。それより前の事は覚えていないのかな。
[10秒間の沈黙]
01: …ごめんなさい。わかりません。
インタビュアー: そうか…。それを思い出すって言うのは難しい?
01: …はい。それをすると、いつも頭が痛くなるんです。
インタビュアー: そうなのか。うん、無理は駄目だね。ありがとう。…じゃあ、次は君たちの先生について教えてもらえるかな?
01: はい!
インタビュアー: 君は、いや、君たちは、先生の事をいつもどう思ってるの?
01: 凄く大好きです!
インタビュアー: それはどうして?
01: いつも優しくて、ご飯も作ってくれて、いろんなことを教えてくれるから!
インタビュアー: そうか。本当に君たちは彼の事が好きなんだね。
01: はい! 本当のお父さん、お母さんよりも好きです! …あれ…。
インタビュアー: ん? どうしたの?
01: …本当のお父さん…お母さんって、誰だっけ…。私、なんで本当のお父さんとお母さんよりも、先生の事が好きなんだろう…。なんで…[唸る]
インタビュアー: 大丈夫。大丈夫だよ。ごめんね、変な事を訊いちゃって。無理はしないで。もうこの話はやめよう。
01: …はい。
インタビュアー: じゃあ次の質問だけど…少し怖い事を訊くかもしれないけど、大丈夫かな?
01: はい。大丈夫です。
インタビュアー: じゃあ訊くね。君より前にここで過ごしていた子達についての事だけど…。ここから居なくなる時のことについて、君たちはどう思っているのかな。
01: …怖くない、悲しくない、あれは、これからもっと楽しいところに行くための準備なんだって、先生から聞いています。
インタビュアー: それはどういう意味なのかな。
01: よく分かりません。先生もあまり詳しく教えてはくれないので。でも、先生は皆にそう教えてくれてます。
インタビュアー: そうか。…怖くない、悲しくない所…。
01: それに、それを訊くと先生凄く哀しそうに俯いちゃうので、あまり訊けません。
インタビュアー: …つまり、君たちの先生はあれの事について、凄い思い悩んでいるってことなのかな。01: はい。そうだと思います。
インタビュアー: そう…。もう一つ訊いてもいいかな。
01: はい!
インタビュアー: 君は、あれが怖くないのかい?
01: …怖くない、訳では無いです。でも、私は大丈夫です。
インタビュアー: それはどうして?
01: 先生が最後まで一緒にいてくれるからです!
<録音終了>
終了報告書: このインタビューの翌日、██ 朝美氏は突如頭部に大きな衝撃を受けたことによる頭蓋骨陥没が原因で死亡しました。その後、再度朝美氏の身辺調査を行ったところ彼女の母親が彼女の頭部をフライパンで殴打したことにより朝美氏が死亡、内縁の夫が遺体を遺棄したという事件記録が発見されました。また、事件発生時刻はSCP-XXX-JP内で朝美氏が死亡した時刻と同時刻である事も判明しました。
追記: 以下は事案XXX-JP-1-234に関する概要です。
概要: 事案XXX-JP-1-234は2012年5月11日に発生した3体の実体の接触事案です。当時、臨時サイト-81██では通常通りの業務が行われており、しかし突如SCP-XXX-JP-1と同様の実体3体が出洲博士のオフィスに出現するという事態が発生しました。これに際し、出洲博士は機動部隊へ向けた救難無線を発信、自身が携帯していたボイスレコーダーを使い実体との会話の録音を開始しました。これに伴い、実体の証言からSCP-XXX-JP-1が所属していた█████・████の特使であることが判明しました。
また、証言内容からSCP-XXX-JP内にてSCP-XXX-JP-1以外の同実体が内部に侵入できないという事象が確認された為、あれらの不可視の障壁はSCP-XXX-JP-1と同様の実体に対抗する防壁であることが判明しました。その為、実体は主任研究員であった出洲博士の対して交渉を行うため彼のオフィスに直接出現したと思われます。
以下は█████・████の特使との間で行われたインタビュー記録です。
対象: SCP-XXX-JP-1-2、-3、-4(以下、XXX-1-2、-3、-4)
インタビュアー: 出洲博士
付記: インタビューは臨時サイト-81██内にある出洲博士のオフィスにて行われました。
<録音開始>
インタビュアー: …とりあえず自己紹介を。どうも、私の名前は
XXX-1-2: 貴様の名前などどうでも良い。即刻、あ奴を我々に引き渡せ。インタビュアー: いえ、まずは貴方方と彼との関係性を教えていただかなくては
XXX-1-2: 貴様らに教えることなど何もない。迅速に、速やかに、素早く、あれをここに連れてこい。さもなければ
XXX-1-3: よせ。我らの我を通したとて事が上手く運ぶとは限らん。それに、今日(こんにち)は我らとて力を抑えることが条件でここに降り立つ許可が下りたのだ。暴れようものなら我らの方が罰則を受けるぞ。
XXX-1-4: …左様。
XXX-1-2: だがしかし…。[5秒程の沈黙]いや、確かに貴様の言う事も一理ある。我らは貴様らのような創造物風情とは違うのだ。一時の感情などに流されたりはせん。今回は特別だ。貴様の質問とやらに応えてやろう。
インタビュアー: …ありがとうございます。では早速…貴方方と彼は一体どういう関係なのですか?
XXX-1-2: 崇高な目的を達成する為、我らが主によって選ばれた類無き者達だ。
XXX-1-3: 正確には、我らは我らの雇い主によって集められた謂わば従業員の様な存在だ。彼も例外ではない。いや、正確には例外では無かったと表現しよう。
インタビュアー: 貴方方の目的とは。
XXX-1-2: 決まっている。我らの主が取り決めた完璧かつ崇高なる計略の元、貴様ら人間の生まれ出でし場所へと全てを還元する事だ。貴様ら愚かな人間は、己の人生全てが己自身の頭で決めた事なのだと妄信している。誠に滑稽極まりない事だがそれが事実だ。
XXX-1-3: 我らは我らの主が定められた予定に沿って職務を全うしている。…確か、人の世ではそれを運命…いや、宿命…違うな。確か…
XXX-1-4: …死だ。
XXX-1-3: そうそれだ。つまりはそういう事だ。要は、貴様らが呼ぶ人の一生とは全て我らの掌の内にある。そして、我らはそれの導き手、この世を循環させるためには多大なエネルギーが必要となる。しかし、それらも多すぎては毒でしかない。だからこそ、過剰に発生した無駄な物は全て削減していかねばならない。
XXX-1-2: 我々はそれらを彼の母なる部屋へと導き帰している。実に理に適った完全な務めだ。我らは我らが崇拝する我が主の名の元にこれを遂行しなければならない。無駄は省き、よりこの世を巡らせる存在のみを効率よく存続させる事こそが我らの悲願であり存在理由なのだ。…だというのにあ奴は…。
インタビュアー: 具体的に彼は何を。
XXX-1-4: …背いたのだ。…主の筋書き。…それを書き換えた。
[3秒程の沈黙]
XXX-1-4: あ奴は言った。新しく生まれ出る命、それらが何故、早々に終わらなければならないのかと。何故生まれ出て、ただ死ぬためだけにその生を受けたのだと。…愚かしい。実に愚かしい。…あ奴の言う命など全てまやかしでしかないというのに。全ては宇宙を円滑かつ正常に循環させるだけの流れでしかないのだ。…激流の中で岸に外れ、その動きを止めてしまった小石如きに、一々気を取られるなど無意味にも程があるだろうに…。
XXX-1-3: 要は、あ奴は我らに課せられている規律に違反したのだ。これらは我らの問題であり、あ奴にはそれ相応の処罰が与えられなければならない。
インタビュアー: …なるほど。[5秒間の沈黙]
XXX-1-2: さあ、我らはもう十分話した。我々の要求はただ一つ、あの裏切り者を今すぐここに連れてこい。そして、速やかにあ奴を我らに引き渡せ。
XXX-1-3: あれを抱えていたとて、そちらに一切得など無いだろう。厄介な物は切り捨てるに限る。それこそ、物事を円滑に循環させる為の最善の手段だ。
XXX-1-4: 左様。…さあ。…我らに言われた事を為せ。
[10秒間の沈黙]
インタビュアー: そうですか…ですが…。…いえ、その要求に関しては承認しかねます。
XXX-1-2: 何?
インタビュアー: この問題は私一人の一存では到底決められません。ですので、もう少しお時間を頂きたいと思います。
XXX-1-2: …人間。我々は相談をしに来たのではないのだ。これは命令だ。貴様ら創造物如きに、我らに何かを要求する権利、価値などあろうものか。
インタビュアー: ではお言葉ですが。彼がやっていることが、貴方方の言う使命に何かしら悪影響を与えているのですか。彼はあくまで児童たちをあの場に集めているのみであり、貴方方の言う命の回収は問題なくこなしている筈なのでは。
XXX-1-2: 結果ではない。問題はあ奴が我らが御主の定められた筋書を捻じ曲げている、それこそが問題なのだ。
インタビュアー: しかし、子供たちは現に本来そうなるべきだった最後を辿っています。貴方方の言う取り決めを守っている事に他なりません。確かにその間にある過程は異なるかもしれませんが、ですが結果が伴っているのであればそれは関係無いのではありませんか?
XXX-1-3: 我々は貴様ら創造物とは別の次元で生きているのだ。そちらの尺度で話を進められても我々が困る。
XXX-1-4: …たかが人間風情が、この場でしゃしゃり出るでない。
インタビュアー: …兎に角、彼は今私達の保護下にあります。彼がここにいることで発生する問題が明らかとなり、それに関する説明責任が全うされるまで、貴方方の要求を飲むことは出来ません。私からは以上です。
[10秒間の沈黙]
XXX-1-3: 実に理解に苦しむ。
XXX-1-2: 木偶の極みだ。
<録音終了>終了報告書: このインタビューの後、SCP-XXX-JP-1-2、-3、-4は消失しました。なお、消失が完了すと同時に機動部隊が到着。博士を保護し、オフィス内の調査を行いましたが何ら異常は確認されませんでした。
現在、日本理事会とO5評議会によってSCP-XXX-JP-1の対応についての議論が進められています。なお、異常性はいまだ健在です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在、完全に消失したと思われており、その後の消息も判明していません。その為、収容当時のプロトコルは全て解除され担当職員もまた別部署へと移動されています。
もし記憶処理を希望する職員がいた場合は元担当主任研究員であった道島博士へ申請してください。
SCP-XXX-JPは標準人型収容室に収容されます。食事は1日に3回、ペースト状に加工された食事が支給されます。
SCP-XXX-JPに対して実験、尋問を行う場合は主任研究員である道島博士の許可を得た上で行ってください。なお、これらを行う際はセキュリティー担当者を割り当て、SCP-XXX-JPに対する暴行等を阻止してください。
説明: 2009年現在、SCP-XXX-JPはその実体を完全に消失させており、その後の捜索でも発見には至らなかったため同年の10月14日にNeutralizedへとオブジェクトクラスが変更されました。
SCP-XXX-JPは1999年2月9日、北海道 ██の廃屋で発見されました。当時、その廃屋周辺では現SCP-████-JPの収容作戦が行われており、作戦終了後の周辺調査の際に廃屋内で凍死寸前の状態だったSCP-XXX-JPを発見。エージェントはすぐさま対象を捕獲し、その後サイト-81██へと移送しました。
SCP-XXX-JPは身長170cm、体重61kgの実体です。対象の胴体や足、消化器官や生殖器等は平均的な人間の成人男性と同様ですが、頭部が全長100cmのアメリカザリガニの頭部に、両手が全長94cmのカニ下目と思われる生物の鋏に置き換えられています。両手を使った作業を行う場合は起用に鋏を使う事で通常の人間同様に物を扱う事が出来ます。遺伝子情報等は通常の日本人男性の物と同様であり、これらに異常は見られません。また、右脇腹あたりに「日本生類創研」と書かれた刺青が掘られています。
SCP-XXX-JPは平均的な人間同様の知能と一般常識を有しており、会話の際は主に日本語を用いて行います。
また、その行動原理は常に他者への罵詈雑言、妨害行為、重症化しない程度の極端に軽度な暴力等を中心に行われ、大抵の場合、被害に遭った職員を激しく激怒させます。
以下はSCP-XXX-JPが起こした問題行動の抜粋です。
・インタビュー中の職員に対し唾を吐きかける。(唾には何ら異常性はありませんでした。)
・SCP-XXX-JPに関する実験中の職員に対して罵詈雑言を浴びせる。
・担当職員が書き終えた書類を突如処分する。
・鉛筆、消しゴム等の物品を盗み、その持ち主に対する悪口を言いながら物品を取り返せるかどうかの距離を一定に保ちながら逃げる。
・女性職員のスカートを捲る。
・収容室の監視カメラ越しに職員の悪口を言う。
これらの行動により、SCP-XXX-JPを担当する職員の約99%がSCP-XXX-JPに対して強い嫌悪感を抱きました。なお、これに関してはある種の精神影響が関与していると思われ、高確率でSCP-XXX-JPに対する強い怒りを覚えるように誘導されます。その為、大抵の場合は被害に遭った職員によるSCP-XXX-JPへの暴行に発展し、その際SCP-XXX-JPは一切の抵抗を行いません。
SCP-XXX-JPの消失は後述する事案3756-112発生のおよそ20時間後に起こりました。当初、SCP-XXX-JPが何故こういった行動をとるのかは判明して折らず、職員への精神影響も比較的軽度な物であったためこれが何かしらの事案に発展することもありませんでした。しかし現在、これらの現象と事案以前のSCP-XXX-JPの言動や行動等から以下の異常性が予想されています。
概要: SCP-XXX-JPは他者からの嫌悪感や怒り等の感情を受けることで存在が可能な実体であると予想されます。
この異常性は事案3756-112発生時に執ったSCP-XXX-JPの行動から予想され、その際、職員の認識が改変された事によってSCP-XXX-JPの消失が発生したと思われます。
調査の結果、事案3756-112収拾後のSCP-XXX-JPに関する職員の評価は100%好印象的な物へと改変されており、これに関しては精神的影響を受けた形跡も見られず純粋な意識改変であることが判明しています。
現在これらの異常性の原理は解明されておらず、これらの異常性を明確化させる前にSCP-XXX-JPが消失したため確定が出来ていません。その為、今後もこれらの詳細は解明不可能であると予想されています。
以下はSCP-XXX-JPへ行ったインタビュー記録の抜粋です。
対象: SCP-XXX-JP
インタビュアー: 道島博士
付記: インタビューはサイト-81██の尋問室で行われた。なお、インタビュアーがSCP-XXX-JPに対して暴行を行わないようにセキュリティー担当者も同室した。
<録音開始>
インタビュアー: どうも初めまして。私の名前は道島璃々です。
SCP-XXX-JP: [沈黙]インタビュアー: …SCP-XXX-JP?
SCP-XXX-JP: うるせえ! バーカ!
インタビュアー: …あら。SCP-XXX-JP: 誰がお前みたいなぶっさいくな女と話ししてやるかよ! 俺と会話したいんだったらもっと上等な奴を寄こせってんだ! なんだぁ? お前のその髪型。ぱっつんすぎてきんもちわりー。てか、お前いくつだよ。その歳でそんな髪型なの? あり得ねえー。学生気分が抜けてねえんじゃねえの? 社会嘗めすぎ。ここの職員失格だろ。
インタビュアー: [沈黙]
SCP-XXX-JP: 何だよ、黙りこくって。やる気あんのか? 無いんだったらさあ、とっとと帰ってくれよ~。お前みたいなぶっさいくと同じ空気を吸っているだけで灰が腐ってきそうなんだ。お前、自分が人類にとって害な存在だって自覚無いの? て、ある訳無いか! あったらこうやって人前に出てきたりするわけねえもんなあ! [深いため息]これだから勘違いしちゃってる女って嫌なんだよなあ。流行に乗っかってバッチリ決めて来たんだろうけどさ、結局ああいうのは元々綺麗な人がやるんで映える訳で、お前みたいなぶちゃいくがやっても逆効果なわけよ。そこんとこ分かってないってのがもう既に痛いし、同じ空間に居たくない感情が加速していくわ。…なあ、まじ出てってくんない? すんげえ目障りなんだわ。
[30秒間の沈黙]
SCP-XXX-JP: …おい、何黙ってんだよ。なんか言えよ。それとも言い返す脳味噌も無いのか? 何か言えって!
インタビュアー: 話に訊いていた通りですね。
SCP-XXX-JP: …は?
インタビュアー: あなたの記録は全部見ています。私、こう見えてもあなたを担当する研究者の中でも一番偉い方なので。あなたが今までに言い放った言動、怒らせた人数、監視モニターを見ている人への悪口。全部知っています。
SCP-XXX-JP: [沈黙]
インタビュアー: 今日は直接あなたを観察したいと思ったのでここに来ました。それに際し、あなたが言いそうな事については大体の予想がついています。多分、何を言っても私は怒りません。良いですか?
[10秒間の沈黙]
インタビュアー: SCP-XXX-JP?
SCP-XXX-JP: …俺の何を訊きたいんだ。
インタビュアー: そうですね。やはり、あなたが何故そんなに悪口ばかりを言うのか、その理由が知りたいですね。
SCP-XXX-JP: …それは言えない。
インタビュアー: どうしてですか?
SCP-XXX-JP: どうしてもだ。決められている。…お願いだ。それ以外の質問で頼む。
インタビュアー: …分かりました。では、次の質問を。…あなたは、よくカメラに向かって悪口を言っていますね?
SCP-XXX-JP: …ああ。
インタビュアー: それ以外でしたら、あなたはいつも何を考えて行動しているのですか?
SCP-XXX-JP: [鼻で笑う]決まってんだろ。次はどんな悪態を吐くかだよ。…相手の粗を探すって言うのも楽じゃないんだ。お前に関しては嫌と言うほど見つかるがな。
インタビュアー: なるほど。では。
SCP-XXX-JP: おい。何だそれは。
インタビュー: こちらを聴いてください。
[道島博士が持ってきたレコーダーを再生する]
レコーダーの音声: [呻き声]…ごめんなさい。[すすり泣く声]…ごめんなさい…。…もうしません…。…もう言いません…許してください…。[雑音]…ごめんなさい…。
インタビュアー: これはあなたの就寝時に録音したものです。気付いていなかったかもしれませんが、あなたは夜な夜な泣きながらこういった寝言を呟いています。
SCP-XXX-JP: [沈黙]
インタビュアー: これが何を意味しているのか、流石に全てを理解することは私達には出来ません。ですが、私はあなたのこの二面性から一つの仮説を立ててました。SCP-XXX-JP、もしかしてあなたは
[SCP-XXX-JPが激しく机を叩く]
セキュリティー担当者: おい、動くな!
インタビュアー: いえ、大丈夫です。銃を下ろしてください。…SCP-XXX-JP、どうかしたんですか?
SCP-XXX-JP: …俺はお前が嫌いだ。…大っ嫌いだ…!
インタビュアー: それは何故です?
SCP-XXX-JP: [沈黙]
インタビュアー: SCP-XXX-JP。
SCP-XXX-JP: …頼む…。
インタビュアー: え?
SCP-XXX-JP: …頼むから…。俺を嫌いなままでいてくれ…。
<録音終了>
終了報告書: このインタビューの後、SCP-XXX-JPは3日間ほど活動的ではなくなりました。ですが、その翌日には依然と同様の行動を繰り返すようになりました。
補遺1: 以下はSCP-XXX-JPの消失に繋がった事案3756-112と消失事案の概要です。
事案3756-112はサイト-81██にて発生したカオスインサージェンシーの襲撃事案です。
発生時刻: 2009/10/1 概要: 当時、財団は要注意団体から押収した物品の収容作業中であり、その際、その物品を転送装置としたカオスインサージェンシーの武力部隊の侵入が発生しました。これによりサイト-81██内では機動部隊も介入した武力衝突が発生、それに加えSCP-████-JPを含む大規模な収容違反に発展しました。
この戦闘の際、SCP-XXX-JPの収容房が破損。これにより、SCP-XXX-JPの収容違反が発生しました。その後、SCP-XXX-JPは率先して研究員の救助や治療の補助、救命処置、避難誘導などを率先して行いました。この襲撃はおよそ48時間で終了し、機動部隊による転送装置の破壊によって敵対部隊を分断、これを殲滅し再収容も完了させました。なお、この襲撃による死者はおよそ██名、その内SCP-XXX-JPによって25名の職員が救助されました。
事案終了後SCP-XXX-JPは自ら収容室へと帰還しそれから18時間、以前のような暴言等の行動を一切行わなくなり職員とも通常の会話を行うようになりました。
その後、消失2時間前からSCP-XXX-JPの体が塵状に変化し最終的に全体の形状が崩壊。完全に消失しました。
補遺2: 以下は事案終了後に行われた元SCP-XXX-JP担当職員に対するインタビュー記録の抜粋です。
対象: 稲賀研究員(以下、I)
インタビュアー: 道島博士
付記: 稲賀研究員は元々SCP-XXX-JPの給仕や物資提供を担当しており、他の職員と比較して多くの暴言や被害を受けていた職員でした。なお、事案3756-112の被害者でもあり、SCP-XXX-JPによって救助され一命をとりとめました。
<録音開始>
インタビュアー: 具合はどうですか?
I: お陰様で。痛みも大分引きました。インタビュアー: それは何よりです。…で、病み上がりで申し訳ないのですが…。
I: …ええ。あの時の話ですよね。大丈夫です。
インタビュアー: ありがとうございます。まずは確認ですが、あなたは最初にSCP-XXX-JPの救助を受けた職員で間違いありませんか?
I: はい。
インタビュアー: 確か、爆発物に巻き込まれた後に瓦礫の下敷きになったとか。
I: …はい。
インタビュアー: 話は変わるのですが、あなたは日ごろからSCP-XXX-JPと親交を深めていたりしましたか?
I: [沈黙]インタビュアー: 稲賀研究員?
I: …他の研究員は、あいつの事を心底嫌っていました。そりゃそうです。あんだけいつも悪口ばかり吐いていたら誰も近寄らなくなります。…ですが、私はどうしてもあれが、SCP-XXX-JPの本心には思えなかった。
インタビュアー: あなたは他の職員に比べSCP-XXX-JPとの接触が多かったと記録されています。ですが、あなたがSCP-XXX-JPに対して暴行を働いたことは一度もありません。何故、このような結果が出たのでしょう。
I: …初めてSCP-XXX-JPの担当になった日、私はあいつの部屋に支給品を届けに行きました。まあ、わたしと顔を合わせるや否や、突然罵詈雑言を浴びせてきました。私は一切会話をしないで、そそくさと収容室を退出しました。ですが、そこで私は収容室の扉の前で手帳を落としてしばらく立ち止まったんです。…そしたら、中からSCP-XXX-JPの声が聞こえてきて。
インタビュアー: 何と言っていたんですか?
I: 延々と続く謝罪の言葉でした。恐らく、扉の近くで呟いていたんでしょう。あまりにも小さい声だから、恐らく録音も出来ていないと思います。それから気になって、SCP-XXX-JPの記録を粗方確かめてみたんです。そしたら、あれは実験や尋問が終わって誰もいなくなると必ず扉の前に行って何かを呟いていたんです。
インタビュアー: …なるほど。SCP-XXX-JPが救助活動を行っていた時の状況などは覚えていますか?
I: …何も喋りませんでした。いつもうるさい位に話すのに。あの時だけは、常に寡黙でした。…でも、私を最初に助けてくれた時の言葉はよく覚えています。
インタビュアー: 何と言ったのですか?
I: 一言です。「良かった。」って。
<録音終了>
追記: 2010年現在、SCP-XXX-JPの製造に関わったと思われる日本生類創研の調査を継続していますが、依然オブジェクトの起源や詳細等は判明していません。また、SCP-XXX-JPの収容室を清掃した際にSCP-XXX-JPが書いたと思われる文章が発見されました。
以下はSCP-XXX-JPが消失前に執筆した文章の内容です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはアメリカ合衆国██████ ████に設置したサイト-0001にて管理されます。実験を行う場合はサイト管理者に申請し行ってください。しかし、Dクラス職員以外の職員がSCP-XXX-JPと対面することは禁止されている為、これを含む実験はいかなる理由があったとしても許可されません。
説明: SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-AとSCP-XXX-JP-Bの二つの要素で構成されている異常物品です。
SCP-XXX-JP-Aはおよそ30歳前後と思われる両性具有の人間の死体です。SCP-XXX-JP-Aは備え付けられた椅子に常に着席した状態を維持しており、特筆する点として一切の衣類を身に着けていない事、額から上が切除され大脳が露出している状態である事、瞼、唇が全て切り取られている状態である事が挙げられます。頸部背面には太さ2cmのケーブルが3本差し込まれており、これはSCP-XXX-JP-Aの神経系に接続されています。SCP-XXX-JP-Aは通常の死体同様に損壊し、また腹部に切開されたと思われる痕跡が見られます。外科的検査を試みた結果、内臓全てが摘出されていることが判明し、現在腐敗などの兆候は観測されておらず、未知の原理によって拘束されている為、椅子からの移動も行えていません。
SCP-XXX-JP-Bは1946年代に発明されたENIACと同様の形態をした機械群です。現在、これらの機構は正常には機能しておらず、SCP-XXX-JP-Aの頸椎部分に接続されたコードと直結しています。また、異常性発生時には電源などが無いにも拘わらず何も記録されていない鑽孔テープを出力します。SCP-XXX-JP-Bの規模はENAICの必要面積やその形状の都合上SCP-XXX-JPが設置されている屋敷全域を占領している状態であり、それらに隣接している壁や床などには過剰な補強処理が施されています。現在、これらの動力源や機材調達のルートなどは判明しておらず、その為第三者の介入があったとみて調査を継続しています。
SCP-XXX-JPの異常性は人間(以下、被験者)がSCP-XXX-JP-Aと対面するように着席した上で、オブジェクトと視線を合わせた際に発現します。もし、これを行った場合、そのおよそ10秒後被験者に何かしらの心理的影響を与えます。
現在確認されている影響
・慢性的な鬱
・ストレス状態の改善
・財団に対する忠誠度の低下
・対人恐怖症 など
なお、影響に差が生じる原因は被験者の心理状態に起因していると思われます。これらの効果を制御する試みは現在成功していません。
SCP-XXX-JPは1985/██/█のアメリカ合衆国 ████████の█████にて発見されました。当時、これを発見した日本支部職員のエージェント・Piscaはサイト-██の視察を行っており、現地機動部隊の作戦演習を見学している最中に件の屋敷を発見しました。発見時の屋敷の様子は大変荒廃しており、既に家人はいないと思われていましたが、それにも拘らず庭で飼育されていた家畜の健康状態が良好であった点や微小ながらヒューム値の変動なども観測された為、内部調査を開始しました。結果、屋敷中に設置されたSCP-XXX-JP-Bと屋敷2階の書斎に配置されていたSCP-XXX-JP-Aを発見。この時エージェント・Piscaに同行していた日本支部の機動部隊隊員1名が影響を受け重度の鬱病を発症した事により異常性が発覚、サイト-██と日本支部の協力の下目標を収容しました。なお、SCP-XXX-JP-Bの状況から財団のサイト管理者は屋敷内部を収容サイトとして改造し、SCP-XXX-JPの収容を可能にしました。
以下は実験に参加したDクラスとエージェントに行ったインタビュー記録の抜粋です。
対象: D-481
インタビュアー: 玄武博士
付記: 暴露後、D-481には慢性的な鬱病の症状がみられる。
<録音開始>
インタビュアー: では、君がSCP-XXX-JPと対峙した時の事を教えてくれ。
[10秒間の沈黙]D-481: …先生。…先生に俺は、どう見えている?
インタビュアー: …どうと言うのは、君に対する印象という事かね?
D-481: [すすり泣く声]…ああ。先生には俺がどう見えてるのか、それを教えてくれ。
[3秒間の沈黙]
インタビュアー: …難しい質問だねえ。…強いて言うなら、今の君はとても弱弱しく見える。依然とは別人だ。
[1分間、D-481の小さな泣き声が聞こえる]
インタビュアー: 君自身の、君に対する評価も聞きたいね。
D-481: [声が震える]俺は…俺が怖い…。俺は、どうしようもない化け物だ…!
インタビュアー: D-481、改めて訊こう。あれと対峙した時、一体何が起こったんだ。
D-482: …止め処無く溢れて来たんだ…。俺はどこかで、多分ずっと感じてた…。でも、でも…あの時それが、止まらなくなって…それで…。[泣き声]
インタビュアー: もう少し具体的に頼む。D-481: [大声で泣く]お、俺は化け物だ…! 俺は…! 俺は…!
<録音終了>終了報告書: このインタビュー以降、D-481には定期的なカウンセリングが行われています。しかし、これらの症状が改善する様子は一切見られません。
対象: エージェント・怒号(以下、A)
インタビュアー: 玄武博士
付記: エージェント・怒号はSCP-███-JPの収容違反に巻き込まれて以来、軽度の総合失調症を患っていました。ですが、SCP-XXX-JPの暴露後それらの症状が一切見られなくなり精神状態も大幅に改善しました。
<録音開始>
インタビュアー: 気分はどうだね。
A: 良好です。もう変な物が見えたり、聞こえたりもしません。
インタビュアー: それは良かった。SCP-XXX-JPと対峙して何か変化があったのかな?A: はい。大きな変化でした。
インタビュアー: それは何かね。
A: 自分を見つめ直す機会を与えられたんです。
インタビュアー: 見つめ直す?
A: はい。まず初めに伝えなければならないことは、私はあの事故の日、私の友人を、エージェント・森を盾にして逃げたという事です。
玄武博士: …ほう。
A: 掛け替えの無い友人でした。親友と言ってもいいです。私は長い間、自分の心を偽ってきました。私の病気の原因はあの時の恐怖ではなく、強い罪悪感だった。私は、私の友人を犠牲にして一人生き残ったその事実を認めたくなくて、結果精神を病んだんです。
インタビュアー: それを、SCP-XXX-JPが気づかせてくれたという事かね。君にそれを諭すような感じで。
A: いえ。それは違います。思い出したんです。
玄武博士: 何を。
A: 彼が、私の前に立って盾になってくれた事をです。私は彼を見捨てたんじゃない。彼に生かされた事に気付いたんです。その瞬間、涙が止まらなくなりました。自分の罪悪感の正体を知る事が出来た。私は、とても貴重な体験をしたと思っています。
インタビュアー: 過去を見せてくれたという事かね?
A: いえ、あれにそんな特別な力はありません。もっと言えば、あれは酷く乱暴です。…私が自力で思い出したんです。あれには、何の意思もありません。
<録音終了>終了報告書: 実験後、エージェント・怒号の症状は一切見られなくなり、以前よりも活動的に変化しました。この後、似たような精神疾患を患っている人間とSCP-XXX-JPを接触させた所、61%が改善、残りの39%が変化なしか以前よりも症状が悪化するという結果になりました。
補遺: SCP-XXX-JPが設置されている屋敷は本来A█████・████氏という心理学者の持ち物であったと記録されています。しかし、A█████・████氏は1985年現在行方不明となっており、未だに消息は掴めていません。なお、当時近隣を狩場としていた猟師の証言から最後に目撃されたのは1951年の初めであり、その内容から氏は自ら屋敷に入っていった以降に失踪したものと思われます。
屋敷内部を調査した結果、数十点の手術用の器具、血液が付着した工具、自身の研究内容をまとめたと思われる資料が発見されました。なお、手術器具やSCP-XXX-JP-BにはA█████・████氏以外の指紋も検出されており、この人物がこれらの物資の提供を行っていたと思われます。現在、この人物の特定には至っていません。
また、発見された資料の内容はSCP-XXX-JP-Aについて深く追求した物であり、この事からA█████・████氏はSCP-XXX-JP-Aに関する研究を行っていたことが判明しています。
以下はA█████・████氏が残した手記の抜粋です。
██/█/1949
とても晴れた日だった。これは、私の下へとやって来た一人の人間についての記録だ。前提として、その者の存在は心理学者としての私に抑え切れない程の好奇心を湧き上がらせた。何故なら、その現象は現在の主流である行動心理学を根本から批判するような事象だったからだ。
人の"感情"という物は複雑だ。心理とは刺激・反応・習慣によって証明され、外部の環境によって様々にその姿を変える。これらは私らが考える意識論的概念とは真っ向から対立しており、それらの要因は齎された状況によって発生させられた現象、というのが今唱えられている行動主義の大まかな概要だ。これらは心理学を哲学とは異なる科学的根拠に基づく学問であると証明した。
だが、その人間は私にそれら覆す結果を示した。その人間は私を見つめ、それ以上の行動は一切していないにも拘らず、私の心に何か救いのようなものを齎したのだ。安らかな気持ちに襲われ、気が付けば私は落涙していた。
これが何を意味しているのか。行動原理から推測される心理の移行、予測、与えられた環境による意思決定、だがあれはそれらを無視し直接的に私の"心"を動かした。彼が何かを喋ったわけではなく、本来私達が一つのプロセスとして認識している工程などそこには無いかのようにこれを発生させたのだ。この作用に私は酷く興味を持った。行動原理主義は踏み出した足にのみ注目しているが、これらはその視点を内的部分に向かわせ、意識が人を構成するのだと肯定している。
これは解明するのに値する立派な"例外"だ。よって、私は彼に関する研究を始めると決めた。今後、彼を私の屋敷に住まわせ観察していく。彼もこれを承諾してくれた。これは偉大な発見に繋がる一大事業だ。この屋敷を残してくれた祖父に感謝しなければ。
これで、長年続けている私の研究も躍進するかもしれない。正に、天からの賜りものだ。
██/█/1949
調べれば調べるほど、彼は面白い対象だ。彼の目を見ているだけで、私の心は休まり癒される。そして、この現象をこれまでに行った実験と個人的な見解で分析した所、これらの現象は所謂"自身の感情の投影"なのではないかと私は考察した。要は、私達が彼に感じた事を彼は反射させ、それが直接的に私に"安らぎ"と呼べる物を与えているのではないのだろうか、という事だ。これらの現象は通常の人間の会話でも見られると思う。人が何かを伝えたい時、私達はそれから汲み取った感情をまるでオウム返しの様に相手に伝え返したりするだろう。私はこれを"感情反射効果"と名付けた。そして、普段私達はそれを言語で、もしくは一方的な投影で無意識のうちに感じ取っている筈だ。彼はすなわち、それらの現象を体現し、言葉なども介さずにこれを行っているという事になる。私自身の感情に私が心動かされているのだ。確かに、彼はとても整った見た目をしている。一見男性の様でもあるが、女性的な美しさを垣間見る事が出来る。それを見た興奮や多幸感を反射させているのならば、色々と納得できる部分がそこにはある。
この様な現象は行動原理主義の中では語られなかった事だ。これを主軸に立ち居振舞う彼らは、"目に見えないものは研究するに値しない"と信じている。では、私が見たこれらの現象は一体何だったというのだ。これは一種の心理現象であり、自己愛や独善的な恋愛もそれに該当し、それの証明にも繋がるかもしれない。人間の感情という物はあくまで独立しており、そして、これが判明すると共に私達が当初から考えていた事象は誤っていたという結論に至るのだ。何故なら、"感情の反射・投影"を誘発させる存在など前代未聞だからだ。
どちらにしろ、彼、いや、彼女ともいうべきか、兎に角そこにいるだけで私の心に何かしらの現象を発生させる。私は彼についてさらに興味が湧いた。今度、一緒に食事でもしながら談笑してみよう。最近、彼と話をするのが楽しい。これが私の精神に齎されている影響からなのか、彼自身が楽しい人間だからなのか。何方にしろ、彼は私の友人であることに変わりはない。あのような美貌を持つ友が出来るとはつい最近まで思ってもみなかった。これからは良い日々が続きそうだ。
█/██/1950
[字体が乱れている]
自身の感情の投影という物が彼を構成していることは重々承知している。それは私が彼に提唱した現象の根幹であり、私はこの現象を解明する為に彼をここに住まわしているからだ。私自身がこの心理現象に名前を与え、一つの理論として構築し、数多くの臨床実験の記録も残して来た。そう。それ以上でもそれ以下でもない。だが、頭では分かっているのだとしても、私に与えられるこれが綺麗に消え去ってはくれない。何時だって私を苛み、憑りつき、纏わりついてくる。逃げようともしても、いつの間にか私のすぐ背後へと迫りくる脅威としてそこに君臨している。
彼と話をした。いや、彼女と言った方が今の私には相応しいだろうか。
彼女の体を調べ、実験を繰り返し、何度も会話をした。普通の人間とは違う身体的特徴も発見した。秘密の共有だ。そして、彼女とさらに会話を重ね、何日も何日も、何日も共に生活を続けた。
これは、私自身の身勝手で、疎かで、独善的で、哀れな気持ちの写しだ。ただの鏡に過ぎない。そう、それに過ぎないんだ。
頭では分かっている。そう、分かっているんだよ。よく理解しているんだよ。
なのに、何で。何で、彼女が私の目を見つめていると思うたびに私はどうにかなってしまいそうになるんだ。あれは私のただの独り善がりな感情に過ぎないじゃないか。私は私のこの気持ちに襲われているだけだ。決して、彼女が私の耳元で囁いた訳では無い。そう、何もないんだ。彼女と私の間には何もない。絆も、繋がりも、尊重も、何もかも。
あるのはただの研究対象と心理学者と言う括りだけ。
彼女は私を求めてなんかない。あれは違う。そう、違うんだ。
あれは、愛なんかじゃない。
█/██/1950
[乱暴に書きなぐられている]
何故だ! 何故彼女は私を否定する! 彼女が私に向けて来たんだ!あの眼差しも、手も、その肌も! 全てを私にくれると言ったじゃないか! 私は聴いたんだ! 全部私の心に響いてきたんだ!
彼女は私を愛している! あの溢れんばかりの愛を忘れることなんで出来ない! 彼女が私をこんなに求めて来たんだ! それに応えて何が悪いというんだ!
愛してるんだ! 私は彼女を愛してるんだ!
[判別不能]
愛してるんだよ!
██/██/1951
[一部血痕や大量の血液が付着している]
全ては幻想だったのか。全ては一時の夢だったのか。今は何も感じない。いや、正確にはあの時の心だけが感じられない。
私は一生、この業を背負い続けるのだろう。もう、嘗ての彼女の美しさは何処にもない。私が全てぶち壊したからだ。
私は今何を感じている? 何を向けられている? 決まっている。
巨大な罪その物だ。
追記: 1986/██/██ 突如SCP-XXX-JP-Bの一部が倒壊し、内部から男性のミイラが発見されました。その後、遺体を検査した結果A█████・████氏本人であることが判明しました。なお、内部を調査した際はこのような物体は存在しておらず、突如SCP-XXX-JP-B内部に出現したと思われます。
また、遺体の手にはSCP-XXX-JP-Bから出力される鑽孔テープが握られており、印刷機等で記入されている文章も発見されました。言語は古代ラテン語が用いられており、詳細は判明していません。なお、使用されているインクの状態などから、記入されたのは事案発生の直前であると思われます。
以下は倒壊したSCP-XXX-JP-B内部に書かれていた文章です。
この事案の後も異常性は顕在です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8181の専用の収容室に保管されます。SCP-XXX-JPに関わる職員には男性職員のみが起用され、女性職員が対象の周囲2m範囲内に侵入することは禁止されています。
SCP-XXX-JPの実験を行う場合は主任研究員に申請したうえで行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは異常性を有する鳥かごです。中にはフリーズドライ加工が施されたバラの花が設置され、一部ミニチュアの家具なども確認されています。しかし、対象の開放や物品の回収は未知の原因による阻害、不可視の障壁の出現などにより成功していません。
SCP-XXX-JPの異常性は対象の半径2m圏内に人間の女性(以下、被験者)が侵入した際に発生します。もし、これを行った場合、異常圏内に侵入した被験者は即座にその場から消失します。この消失のプロセスを観測することは現在出来ておらず、原理も解明されていません。調査の結果、被験者は消失と同時に消失地点とは異なる空間(以下、SCP-XXX-JP-A)に転移していることが判明しています。なお、この転移は不可逆的であると思われ、現在までに帰還が確認されたことはありません。
SCP-XXX-JP-Aは一般的な人間の自室であると思われる様子を呈しており、内部にある物品や生物等が現時空の物のおよそ10倍に拡大されています19。その為、転移した被験者は拡大したSCP-XXX-JPの内部に収容されている状態になり、また、転送された後に人型の実体(以下、SCP-XXX-JP-B)が接触を開始し、被験者に対して様々な試みを実行し始めます。現在、確認されているSCP-XXX-JP-Aの様相は殆どがSCP-XXX-JP-Bの自室と思われる空間のみであり、正確な規模は把握できていません。しかし、存在する家電や家具、衣類や食料の状況などからも人間と同様の文明が存在していると推測されます。
被験者の消失後、被験者との通信は映像記録、音声通信の受信のみが可能となり、GPS等の反応は消失します。何故、映像と音声のみが受信可能なのかは現在調査中です。
SCP-XXX-JP-Bは身長およそ11m前後の女性的特徴を有するヒト型実体です。SCP-XXX-JP-Bは被験者に対し過度な接触を試み、長期的な食事の提供などを行います。2018年現在、未知の原理によって通信が途中で切断されるという現象が発生しており、SCP-XXX-JP-Bの目的や全体的な様相などは確認出来ていません。
被験者が消失した瞬間に別の被験者をSCP-XXX-JPと接触させた場合、SCP-XXX-JP-A内で複数の被験者が同時に存在することは無く、映像記録からそれぞれ異なる時間(大体1ヵ月程の時間経過が確認出来る)に出現していることが判明しています。この事から、これらの原因にはSCP-1560-JP-Aと現時空の経過時間的速度に大きな差がある、もしくはSCP-1560-JPの時間的概念を超えた転送方法に起因しているのではという二つの説が提唱されています。
補遺: SCP-XXX-JPは2017/██/██の██県 ██町にあるゴミ捨て場で発見されました。当時、██町では女子児童や成人女性の行方不明事件が多発しており、それを察知した財団が調査を開始。現地警察の捜査資料などを元に失踪者が最後に目撃された地点を入念に調査した結果、ゴミ捨て場に廃棄されているSCP-XXX-JPを発見しました。なお、この時任務に参加していた女性エージェントが消失する事案が発生したため、対象の異常性なども確認されました。
以下はDクラス職員に小型カメラを装備させ行ったSCP-XXX-JP-Aの調査記録です。なお、カメラはDクラス職員の右眼球に埋め込まれています。
2017/██/██
記録再生[00:00:48] D-2893がSCP-XXX-JPの内部に転移する。
[00:01:08] 突如SCP-XXX-JP-BがSCP-XXX-JPを覗き込み、D-2893を掴み内部から取り出す。
[00:03:15] SCP-XXX-JP-BがD-2893の衣服を全て破り捨て、湯が入っている巨大な洗面器に投げ入れる(D-2893の反応から熱湯であると思われる)。その後、D-2893にドレスを着せる。
[00:08:35] 再びD-2893がSCP-XXX-JP内に入れられる。
記録終了
2017/██/██
記録再生[00:01:45] SCP-XXX-JP-BがD-2893をSCP-XXX-JPから取り出し、D-2893を握ったままSCP-XXX-JP-A内を徘徊する。
[00:03:22] SCP-XXX-JP-BがSCP-XXX-JP-A内にある机にD-2893を置き、巨大な針や鉛筆、ピンセットなどを用意する。
[00:05:42] SCP-XXX-JP-BがD-2893の足を掴み持ち上げ、手足を引っ張る、絵の具の入った瓶に頭部から浸すなどと言った行動を行う。(D-2893の叫び声が確認される)その後、用意した針やピンセットなどでD-2893の身体を傷つける。
[00:08:23] 再びSCP-XXX-JP-Bに掴まれる。
[00:10:22] 映像の視界が激しく揺れる。(SCP-XXX-JP-BがD-2893を乱暴に振り回していると推測される)
[00:13:51] SCP-XXX-JP-Bが立ち止まり、戸棚を開けD-2893に見えるように持つ。(棚の中には10体程のドレスを着せられた女性のミイラが保管されている)
[00:17:04] D-2893が叫び声を挙げつつ暴れ、SCP-XXX-JP-Bの指に噛みつく。(SCP-XXX-JP-Bの叫び声が記録される)
[00:17:08] 映像の視界が回転する。(恐らくSCP-XXX-JP-BがD-2893を投擲した為と考えられる)
[00:18:02] D-2893が壁に激突し、およそ6mの高さから転落する。なお、この時の着地地点がSCP-XXX-JP-A内に設置されているベッドの上だったため一命をとりとめる。(壁に激突した際に、D-2893の両足が骨折する)
[00:21:43] D-2893がSCP-XXX-JP-Bに乱暴に掴まれ、SCP-XXX-JPに放り込まれる。
記録終了
2017/██/██
記録再生[00:02:58] SCP-XXX-JP-BがD-2893を乱暴にSCP-XXX-JPから取り出す。(骨折した足を掴まれ乱暴に振り回される。同時にD-2893の叫び声も観測される)
[00:03:27] SCP-XXX-JP-Bが用意した缶容器にD-2893を入れる。そして、SCP-XXX-JP-Bが一旦その場を離れる。
[00:13:56] SCP-XXX-JP-Bが再び缶容器の中を覗き込み、内部に、昆虫綱ゴキブリ目 (Blattodea) やバッタ科(Acrididae)と類似した大型生物2匹を投入する。(D-2893の叫び声が観測出来る)
[00:14:08] SCP-XXX-JP-Bが缶容器の蓋を閉め、周囲が暗所となる。(依然、D-2893の叫び声が記録される)
[4:27:38] D-2893の叫び声が続く。
記録終了
2018/█/█
記録再生[00:00:00] D-2893は既に沈黙している。
[00:02:09] 缶容器の蓋が開けられ、そこからSCP-XXX-JP-Bが覗き込む
[00:02:12] SCP-XXX-JP-Bの声が記録される。
SCP-XXX-JP-B: ママー、この気持ち悪いのもういらなーい。
[00:02:17] 映像が乱れ、一瞬だけ謎の森林地帯が映し出される。
[00:03:14] 地面に掘られた巨大な穴が映し出される。
[00:03:36] D-2893が穴の中に投げ入れられる。(内部には過去行方不明となった女子児童や女性、Dクラス職員の酷く損壊しかつ変形した死体が複数遺棄されている)
[00:06:41] 通信が途切れる。
記録終了
追記: 2018/█/██ 突如SCP-XXX-JPが収容室内で何らかの衝撃を受けて壁に激突するという事案が発生しました。なお、異常性は健在であり、これらの原因は人間女性の接触が極端に減少したことに起因するのではないかと予想されています。
現在、原因究明のため調査が行われています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP-J
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-Jは北極に位置する特設サイトにて収容されています。このサイトではSCP-XXX-JP-Jのみが収容され、担当する職員も全て男性職員で構成してください。SCP-XXX-JP-Jから半径5km圏内に人間の女性が侵入することは禁止されています。
SCP-XXX-JP-Jの人型収容室には最低限の生活用品とAV機器が設置されます。収容室自体の内壁には3層の特殊合金、外壁には厚さ60cmの特殊硬化コンクリートが使われます。内部には赤外線カメラ、通常の監視カメラ、熱感知装置、圧力感知装置を設置しかつ完全密封状態で厳重に監視してください。対象に関する実験は一切行われず、セキュリティクリアランス4以下の職員による接触も禁止されています。もし収容違反が発生した場合は3つの専属機動部隊が出動し目標を攻撃してください。これには対象の破壊も含まれます。
20██年よりプロトコルXXX-JP-J-FANを発動しています。現在、これによりSCP-XXX-JP-Jの自主的な収容状態を維持しており、プロトコルに則り太田研究助手は1ヶ月に1回SCP-XXX-JP-Jと面談し、自身で制作した物品または財団広報部から支給された物品をSCP-XXX-JP-Jに配布してください。
プロトコルXXX-JP-J-FANに関する詳しい資料や経過などを閲覧する場合は太田研究助手に要請してください。
説明: SCP-XXX-JP-Jは全長2m37cm、ハエ目(双翅目)ニクバエ科(Sarcophagidae)の特徴を有する実体です。通常個体と異なる点として、未知の素材で製造された防弾性と防火性に優れたマントを着用している点や計13本の付属肢、腹部にある人間の口内と類似した組織が内包されている縦向きの裂け目などが挙げられます。また、対象は不可視の触手群を有しており、見た目上は常に浮遊している状態です。現在これらの総数は把握できていません。SCP-XXX-JPは人間と同様の知能を有し世界各国の言語で会話を行います。また人間の男性に対しては敵対的であり、常に攻撃対象として認識しています。
SCP-XXX-JP-Jの異常性は対象の半径5km圏内に人間の女性がいた場合に発生します。これらの異常はSCP-XXX-JP-Jの任意で発生し、異常圏内にいる女性の選択などが可能です。
人間の女性が異常圏内にいた場合、隔壁や視覚外であろうとも即座にSCP-XXX-JP-Jの存在を認識するようになります。そして、その後女性はSCP-XXX-JP-Jの下へと赴き自主的にSCP-XXX-JP-Jと性交を行います。この性交にはSCP-XXX-JP-Jの不可視の触手が用いられ、女性の全身を拘束するとともに性器に挿入させることでこれを達成します。
性交のプロセスが完了した場合、女性(以下、SCP-XXX-JP-J-A)の身体的特徴にSCP-XXX-JP-Jと同様の付属肢や羽、触角、複眼などが発生します。これに変異に伴い知能レベルの著しい低下、他生物に対する飛躍的な殺傷能力の向上、SCP-XXX-JPの命令に従う様子などが確認できるようになります。この後SCP-XXX-JP-J-Aは速やかに妊娠し新生児ほどの大きさのニクバエの幼虫を出産します。現在、これらの個体は全て殺処分済みですが、成体となった場合SCP-XXX-JP-Jと同様の個体へ成長すると予想されます。このことから、SCP-XXX-JP-Jの目的は同種の繁殖であり、生存戦略としてそれを妨害する人間の男性を排除していると予想されています。現在、SCP-XXX-JP-Aの攻撃面に対する高い評価からO5はこれらの増殖が最終的にはXK-クラス:世界終焉シナリオに起因すると結論づけました。
SCP-XXX-JP-Jはその異常性以外にも任意で様々な超常的現象を発生させる事が出来、洗脳、不可視な障壁の発生、突如生物を発火させる、大量の小型のニクバエへと分裂するといった能力により機動部隊の撃退や損害を発生させています。
SCP-XXX-JP-Jは自身を「悪魔界の王である」と主張しており、過去に複数の世界線や惑星を滅亡させてきたとも証言しています。現在これらの証言の信憑性は明確化されていませんが、SCP-XXX-JP-Jの能力や危険性などから速やかなる収容が必要であり、非常時には目標の破壊も検討されています。
補遺: SCP-XXX-JP-Jは20██/██/██に突如、財団日本支部に属する北極特設地下サイト-███に出現しました。これらの現象が発生した原因は判明していませんが、SCP-XXX-JP-Jの証言から自身の意思でその地点に出現したと思われます。なお、この時SCP-XXX-JP-Jはサイト内にいた女性職員3名をSCP-XXX-JP-J-Aへと変異させ、機動部隊、Dクラス職員、研究員を含めた████人の死傷者を出しました。この報告を受け、財団は急遽SCP-XXX-JP-Jを最重要オブジェクトであると指定。サイト-███の自爆、16日の期間に及ぶ戦闘により全SCP-XXX-JP-J-Aの殺害と一時的なSCP-XXX-JP-Jの無力化に成功し収容を完了させました。
過去にSCP-XXX-JP-Jが引き起こした被害・サイト-███を破壊した事による10体のオブジェクトの収容違反。 |
・SCP-XXX-JP-Jと対峙した4つの機動部隊の壊滅。(戦闘時間はおよそ1時間) |
・特殊防壁および厚さ50cmのコンクリートの障壁を破壊し脱走。 |
・分裂による攻撃回避およびDクラス職員への寄生、洗脳。(この後、██名の研究員の殺害に関与) |
・人体発火による███人の機動部隊、Dクラス職員、研究員の殺害。 |
・不可視の障壁を利用したDクラス職員の圧殺。(死体損壊のため正確な被害人数は不明) |
・女性職員に対し能力を発揮し3体のSCP-XXX-JP-J-Aを生成。(当時収容していたサイト-███は機能不全に陥り、結果10トンのTNT火薬を使用した自爆により事態を収拾しました。これによりサイト-███で収容していた全てのオブジェクトが破棄されました。) |
・金属を使用した装備における遠距離からの腐食。 |
以下はプロトコルXXX-JP-J-FANの発端となった事案XXX-JP-J-002の記録とプロトコルXXX-JP-J-FANの概要です。
事案XXX-JP-J-002
概要: 事案XXX-JP-J-002はSCP-XXX-JP-Jによって引き起こされた2回目の収容違反です。当時は3つの機動部隊が出動しSCP-XXX-JP-Jの鎮圧を行っていましたが、機動部隊は半壊滅状態となり、丁度、太田研究助手のオフィスにまで戦闘が拡大していました。
<録音開始>
太田: [悲鳴]
SCP-XXX-JP-J: 愚かしい人間どもめ! この悪魔界の王、地獄の支配者である吾輩をこの程度の檻で縛ろうなどとは! …ん? [高笑い]このような所にも一人、虫の如きアダムの息子がおったか!太田: た、たす、助けて…!
SCP-XXX-JP-J: ふん! 命乞いの仕方にすら何の美学も感じられんな! 煩わしく、汚らわしい! 取るに足らん虫けらだ! まさの目障り、今ここでその無駄な命を散らしてやろう!
太田: ひっ!
[10秒間の沈黙]
太田: あ、あれ?
[1分間の沈黙]
SCP-XXX-JP-J: そこの人間…。
太田: …は、はい。
SCP-XXX-JP-J: …これは何だ。
太田: …え?
SCP-XXX-JP-J: この娘はどこの誰だと訊いておる!
太田: …いや、誰って言われても…。
SCP-XXX-JP-J: …吾輩は、今まで数えきれぬ程多くの人間の女を同胞としてきた! 淫欲により人類を堕落させる、それこそが吾輩の本質だからだ! 吾輩はこの世の女全てを手に入れる事が出来る! …しかし、これ程までに美しき人間の女子は今まで見たことがない…!何だというのだこの高鳴りは…! …人間! この者を吾輩の妃として差し出すのならば、貴様の願い訊いてやらんでもないぞ! さあ、何を欲する! 地位か! 名誉か!
太田: いや、でも
SCP-XXX-JP-J: 人間風情が吾輩に意見などするな! 言え! この女子の名を! 吾輩に示せ!
太田: …消照闇子です。
<録音終了>
終了報告書: この事案の後、SCP-XXX-JP-Jは太田研究助手による説明やその他の事実により軽い鬱病を発症しました。これにより、SCP-XXX-JP-Jの再収容が完了しました。
プロトコルXXX-JP-J-FAN
概要: プロトコルXXX-JP-J-FANはSCP-XXX-JP-Jの収容にSCP-835-JPを用いた収容プロトコルです。SCP-XXX-JP-Jには定期的にSCP-835-JPのプロトコル・アイドル-835によって発生した物品を配布し、これにより収容を維持します。なお、このプロトコルには財団日本支部の広報と事案XXX-JP-J-002に遭遇した太田研究助手が責任者となり、SCP-XXX-JP-Jの嗜好を調査することで良質な「消照闇子」関連の物品を開発することも含まれています。その為、SCP-XXX-JP-Jに対しては定期的なインタビューが行われることが決定しており、この際は3つの機動部隊が収容室前に待機する形で行われます。また、SCP-835-JPの顕現を防ぐ為SCP-XXX-JP-Jにはあくまで対象は創作物であるという事を強く主張しています。
追記: 以下はプロトコルXXX-JP-J-FANで行われたインタビュー記録の一部抜粋です。
<録音開始>
SCP-XXX-JP-J: 貴様、太田と言ったな。…貴様に訊きたい。どうすれば、闇子嬢に謁見できる。
太田: いや、ですから消照闇子は所謂キャラクターって言う奴でして…。実際に会うって言うのは難しいんです。SCP-XXX-JP-J: 吾輩は! 吾輩の力を使い千の世界のありとあらゆる女を眷属としてきた! 吾輩に不可能は無く、吾輩の思い通りにならぬ女などこの世にはいない! そう信じて来たのだ! というのに、吾輩の心を揺さぶる見目麗しい花を見つけた途端に…それが手に入らぬとは! あまりにもふざけている! 死が二人を分かつこともままならぬとは…!
太田: いや、それを自分に言われましても…
SCP-XXX-JP-J: 太田よ! 吾輩は、どうしても闇子嬢を我が眷属としたい!手中に収め、彼女の深淵を覗き込みたいのだ! ああ…この様な気持ちは初めてだ! 手が届かぬと知った時の渇望がこれ程の物だったとは! 力で手に入らぬ物など無い、それこそが吾輩の理だったというのに…何なのだこの高揚は!
太田: はあ…。
[10秒間の沈黙]
太田: …では、一つ約束してもらえますか?
SCP-XXX-JP-J: …何?…人間風情が吾輩と約束だと? ふざけるな! 烏滸がましいにも程がある! 吾輩を誰と心得る! この世の淫欲と言う淫欲を統べ、この世界を堕落させ、滅亡の炎をもってこの地上を焼き尽くす吾輩に、貴様ら人間風情が対等の立場で語ろうなどと言うのか!? 愚かな、その無知の重さを知れ! 吾輩がその気になればこのような脆弱な囲いなど
太田: 定期的に私が消照闇子のイラストとか描いてあなたに提供しますから、この収容室から出ないでくれますか?
SCP-XXX-JP-J: その申し出快く受け入れよう。
<録音終了>
終了報告書: このインタビューの結果により、プロトコルXXX-JP-J-FANの方針が確立されました。
<録音開始>
SCP-XXX-JP-J: …太田よ。
太田: なんでしょう。SCP-XXX-JP-J: 吾輩は…貴様に大変感謝しておる。
太田: …はあ。
SCP-XXX-JP-J: 貴様の描く闇子嬢は、いつも吾輩に微笑みかけてくれる。その尊顔と相まみえるだけで、吾輩は今日も生きる糧を賜っているのだ。
太田: …まあ、嬉しいです。
SCP-XXX-JP-J: だが勘違いはするな! これはあくまで闇子嬢の美しさがあるからこそ成り立つ摂理! 貴様はそれをこの世に顕現させているにすぎん! 貴様の御業などでは断じて無い! だが、もしそれが無ければ吾輩は彼女と巡り合う事すら叶わなかっただろう! これこそまさに奇跡、運命とも呼べる事変! 貴様とあの場で邂逅したのもまた運命! 本当に感謝の言葉も無く、してもしきれんわ!
太田: で、今日は何の用でしょう?
SCP-XXX-JP-J: …うむ。近頃、思うのだ。…吾輩が、闇子嬢に恋焦がれているのは知っているな?
太田: ええ。まあ。
SCP-XXX-JP-J: 毎月、貴様は吾輩にいつも異なる闇子嬢の姿を見せてくれる。どれもこれも、聖母のような暖かな瞳と、しかし引き込まれるほどに狂わされるあの唇と、妖艶なまでに吾輩の心を惑わせるサキュバスのごとくあるその美貌は今際の国に舞い降りた生きたビーナスであり
太田: [咳払い]
SCP-XXX-JP-J: …だが…その…。闇子嬢が悪い訳ではないのだが…。でも、そろそろ…闇子嬢の言葉とか…彼女の舞う姿とかを…拝見してみたいなと…。
太田: 要は絵だけでは満足できなくなったという訳ですね?
SCP-XXX-JP-J: …左様だ。
太田: では、今日はこれをお渡しします。
SCP-XXX-JP-J: …な、なんだこれは…[歓喜の声を上げる]
太田: 消照闇子の小説、所謂ライトノベルです。自分の書いたイラストの挿絵もあります。それはシリーズの1巻目ですので、今後は私のイラストと合わせてそれもお渡しします。
SCP-XXX-JP-J: つ、つつつ続きは!?
太田: 1ヵ月後、また来た時にお渡しします。
<録音終了>終了報告書: このインタビューの後、不可視の障壁を使い消照闇子の小説を補完している区画を無菌状態にしているSCP-XXX-JP-Jの姿が観察されるようになりました。
<録音開始>
SCP-XXX-JP-J: 太田氏よ。この前の『消照闇子 第46巻 蜥蜴の牙編』どうだった。吾輩は個人的には第13巻の103ページ、5段落9行目の「イシュタルの瞳を隠すのだ!」って所の伏線をここで回収するのかというのに驚かされたが、それだったらペスト医師の生い立ちと絡ませた方がストーリー的にも「アベルの復活編」と並べられて良かったような気がするのだ。太田: 自分は凄く面白かったです。まあ、確かに「アベルの復活編」との整合性を考えると少し走ったなあとは思いますが、でもあの、闇子がサイトから脱出する時の展開が個人的には好みです。心理描写も伏線の回収と合わせて興奮しましたし、何より、自分としてはあの3巻に出てきてから消息を絶っていた御先管理員がギリギリのところで助けに来てくれたところに感動しました。
SCP-XXX-JP-J: ああ、太田氏はそこかあ。うん、あのシーンはマジ泣けた。御先管理員押しの太田氏には確かに涙なしには語れない場面ではあるな。…だが、あそこで御先が出てくるとなると、初登場時に絡んでいたヤマトモの今後の立ち回りや物語外の行動などの考察が必要となって来る…。考察厨の吾輩といてはあのオカルト連合の暗躍がヤマトモの行動と絡んでいる筈だと読んでいるのだが…。ま、吾輩はやはり闇子嬢がお風呂場で石鹸を踏んでしまった時のあのシーンが一番いいと思った。闇子嬢の魅力が最大限に出ている所だと思うし、あと、あそこで男を出すのではなくちょっと百合に持っていくあたりあの作者はよく分かっている。
太田: あからさまにお色気のシーンですね。
SCP-XXX-JP-J: 良いではないか。吾輩の生きる糧は性への没入なのだ。しかし、ただ単にいやらしい目を向けている訳では決してないぞ? あの展開を起点にストーリーをどう進めていくのがが今後のカギになると吾輩はふんでいるし、何より闇子嬢をそのような目で見ること自体が愚の骨頂なのだ。あの美貌でありながら、少し影を匂わせるセリフ回し、あと武器が包丁なのも最高だ。で話がそれたが…貴様から吾輩に相談があるなど珍しいではないか。確かに吾輩は貴様ら人間よりも遥かに賢く英知に溢れている悪魔の王ではあるが…。
太田: ええ。まあ、まずはこれを見てください。
SCP-XXX-JP-J: ん? 何の書類だ、これは…。[3秒間の沈黙]…これは、真か?
太田: ええ。本当です。
SCP-XXX-JP-J: そうか…ついにここまで来たか…。
[5秒間の沈黙]
太田: …もしかして泣いています?
SCP-XXX-JP-J: …かつて、吾輩が彼女に出会ったのは…。幻想をそこに写し取った尊い一枚の紙であった。…吾輩は、力さえあれば全てが手に入ると心の底から信じていた。…しかし、消照闇子、彼女と出会いそれらは全て覆った。吾輩はいつも願った。彼女の手を取り、その柔肌に触れたいと。だが、それは叶わぬ願いなのだと知った。…だが、それが…。いや贅沢は言わん! だが…やっとこの時が来たか…!
太田: はい。長らくお待たせして、申し訳ありませんでした。
SCP-XXX-JP-J: 言うな。一時期シリーズが休止すると聞いて絶望し、いっそこの世を滅ぼして自らも火口に身を投げてやろうかとも思った。挙げ句のはてには自身で同人でもやってやろうか等という暴挙にも出ようとしたが…貴様らを亡き者にしたら最後二度と彼女に出会えない上に、所詮我輩が産み出した闇子嬢など妄想の吐け口でしかないのだと悟った。吾輩は貴様らよりも長く生きる。待つことにかけては長けておる。
太田: ありがとうございます。では、ここの項目を。
[10秒間の沈黙]
SCP-XXX-JP-J: …なるほど。…だから吾輩の所に来たのか。
太田: はい。候補はこれだけです。全員腕は確かですし、後でCDサンプルもお渡しします
SCP-XXX-JP-J: 分かった。責任をもってこの任を受けよう。…だが、少し時間が掛かるかもしれん。よく熟考したい。
太田: お願いします。これで、消照闇子の「声」が決まります。
<録音終了>
終了報告書: 「消照闇子 The Animation」第1話の鑑賞後、SCP-XXX-JP-Jは「吾輩を生み出した邪神と彼女を産んだ神に感謝する。」とコメントしました。
現在もプロトコルXXX-JP-J-FANによりSCP-XXX-JP-Jの自主的な収容は継続しています。なお、プロトコル・アイドル-835担当職員の協力の下、今後の展開として消照闇子のコミカライズ化やフィギア化、ゲーム化などが検討されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの扉は財団が家屋内に設置した3台の投光器によって24時間照らされます。SCP-XXX-JPの周囲環境は300lx以上の状態を維持してください。
家屋内部にはセキュリティー担当者を3名常住させ、非常時は機動部隊こ-111が出動します。
SCP-XXX-JPが設置されている家屋や土地はエージェント・ポーラが所有しており、家主に扮した上での近隣住人に対する偽装工作や一般人の購入防止を行っています。担当の不動産業者も財団のフロント企業に置き換えられており、ここを拠点にプロトコルXXX-JPに則った地域調査を実施してください。
実験を行う際は、主任研究員である岩場博士の許可を得たうえで行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは茨城県 ██市 ██町 ██にある日本家屋内の一室です。SCP-XXX-JPは非活性時では個室トイレの様相を呈しており、通常の物品同様に使用出来ます。
SCP-XXX-JPの異常性は対象の周辺が0,01lx以下の環境に変化した際に発生します。(壁などを隔てた空間の状態はこれに影響を与えません。)
SCP-XXX-JP周辺を上記の環境へと変えた場合、未知の原理でSCP-XXX-JPの扉が即座に解放されます。そして、その瞬間に内部が非活性時とは異なる最低でも奥行500m以上、幅600m以上であると予想される異空間へと変化します。現在、内部が完全な暗所であることから正確な形状は把握できてはいません。扉が最初から解放されていた場合や扉を封鎖していた場合20でもこの異常は発生します。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPを直接照らす範囲で光を発生させると同時に消失します。外部から光を当てる場合はSCP-XXX-JPの扉を照らす範囲で、内部で光を発生させる場合は照らす場所などは指定されず発生させた瞬間に適用されます。このプロセスは異常発生中の内部に人間がいたとしても進行し、その際、侵入していた人間は生死を問わずSCP-XXX-JP内に設置されている洋式トイレの上に立っている状態で発見されます。
2008年現在、異常発生中のSCP-XXX-JP内には一体の実体が存在しています。対象は侵入した人間に対して敵対的であると思われ、実験により3名のDクラス職員が死亡しました。実体の正確な形状は把握できていません。
また、これらの異常性の他に昼夜問わず「赤ん坊の泣き声」のような音が聞こえるという報告が上がっています。
補遺: SCP-XXX-JPは2008年 7月11日に発覚した池田一家惨殺事件を切っ掛けに発見されました。当時、SCP-XXX-JPがある家屋には池田 ██氏を含む4人の家族が生活しており、上記日時に通報を受けた警察官がSCP-XXX-JP内で死亡している一家全員を発見しました。死体の状態などから事件発生は発見時からおよそ3日前であると思われ、警察はその期間に絞った捜査をしましたが犯人の特定には至りませんでした。
遺体は全て劣悪な状態であり、特に2名の子供に関しては頭部の変形や手足の複雑骨折などが見られました。なお、池田 ██氏の手元には点灯状態を維持された懐中電灯が握られており、これによりSCP-XXX-JPの異常から一時的に離脱したのではないかと思われます。
SCP-XXX-JP内部の調査を開始した2008年 7月現在、家屋周辺や地下、その他異常の起点となったと思われる物品や事象に関する調査を実施しましたが明確な原因の特定には至っていません。また、池田氏より以前の事件や住人についての調査も実施しましたが、異常団体の存在や前入居者の不審死なども確認されなかったため、この異常性の発生は事件発覚の数日前であると思われます。
以下はDクラス職員を起用したSCP-XXX-JP内への侵入調査の記録です。
概要: 本調査記録はDクラス職員を異常発生中のSCP-XXX-JP内に侵入させた際の映像記録です。実験に参加させたDクラス職員には赤外線カメラと緊急用の懐中電灯を配布し、ベルト式のGPSを装着させています。
参加職員: D-123 (年齢:37歳 性別:男性)
担当研究者: 岩場博士
〈再生〉
[00:02:10] SCP-XXX-JPを照らしていた投光器が消され、暗視カメラへと切り替わる。
[00:03:11] SCP-XXX-JPの扉が独りでに開く。
D-123: お、おい、勝手に開いたぞ?
岩場博士: 今からその中を調査してもらう。勿論、君に拒否権などは無い。進んでくれ。
D-123: で、でも…クソ…![D-123が侵入を開始する]
[00:16:05] コンクリートと思われる床が敷かれた空間が映し出される。(暗所の為、周囲2m程度の範囲のみしか視認出来ない)
D-123: …何なんだよここ…。すげえ寒いし、なんでこんなに地面が濡れてんだ。
岩場博士: カメラ以外で周囲は目視できるか。
D-123: 見えるわけねえだろ。自分の手すら分からねえのに。…なあ。一体ここは何なんだ?
岩場博士: それを調べるのが君の仕事だ。何か気になる事があるならば報告してくれ。
D-123: 気になるも何も、俺がもうどれだけ歩いていると思ってんだよ。それ自体変だろ。(GPSの情報では侵入地点から既に400m以上離れたことを指し示している)
岩場博士: 然程大きな問題ではない。調査を続けてくれ。
D-123: …畜生。何がどうなってんだ。
[00:44:55] 液体が激しく零れる音がする。
D-123: …水…?
[00:52:09] D-123がしばらく歩いた後、台座部分に穴があけられた木製の椅子が映し出される。
D-123: …これは…血か?
[1:08:19] D-123が周囲を見回す。
岩場博士: どうしたD-123。
[5秒間の沈黙]
D-123: …今、子供の声が聞こえたんだ。
岩場博士: 子供? こちらでは確認できていない。
D-123: …いや…確かに聞こえたんだ。一人じゃなかった。…沢山の…赤ん坊の声だ。…ひっ!
[1:18:09] D-123がその場で立ち止まる。
岩場博士: 大丈夫か、D-123。
D-123: ま、まただ…! ど、どんどん…増えてる…!
岩場博士: D-123、正確な今の状況を説明しろ。今、君に何が起きている。
[1:20:54] 映像に人影のような物が写る。
D-123: な、泣き声が…そこら中から!
[1:25:02] 突如、人影がD-123に急接近する。
D-123: 殺されてる! 俺の周りで皆殺されてる!
[1:25:06] D-123との通信や映像の送信が断絶する。
[1:25:10] D-123の悲鳴が聞こえる。
岩場博士: D-123! 応答しろD-123!
D-123: [悲鳴]
岩場博士: 緊急だ! ライトを点けろ!
〈終了〉
終了報告書: 実験終了後、SCP-XXX-JP内で死亡しているD-123が発見されました。なお、対象は頭部を[編集済]されかつ生殖器を切り取られた状態でした。
参加職員: D-339(年齢:29歳 性別:女性)
担当研究者: 岩場博士
補足: SCP-XXX-JP内部と外部の空間的繋がりを確認する為、Dクラス職員の腰にはロープが括り付けてある。
〈再生〉
[00:05:05] SCP-XXX-JPの扉が独りでに開く。
岩場博士: では、中に入ってくれ。
D-339: な、何なのよこれ…。
[00:05:10] D-123が内部に侵入する。
岩場博士: D-339。内部の状況はどうだ。
D-339: どうっていったって…暗いし、寒いし…分かんないわよ。
岩場博士: では、君の入ってきた扉の方はどうだ。
[00:05:57] D-339が入って来た扉が映し出される。(扉は解放されている)
D-339: 別に、問題ないけど…。[悲鳴]
[00:6:04] D-339が自身の後方を映す。
岩場博士: どうした、D-339。
D-339: い、今、誰かが私の後ろを…!
[00:06:12] 何かが切断される音と共にSCP-XXX-JPの扉が閉じる。(ロープが切断されたと思われる)
D-339: え、ちょ、ちょっと待ってよ! 何よこれ! あ、開けてよ! ここから出してよ!
[00:06:18] SCP-XXX-JP内部、外部から解放を試みるが失敗する。(外部からライトを当てるが効果は無い)
D-339: 嫌よ! こんな所で一人なんて! 出して! お願い出して!…嫌あ!
岩場博士: D-339、落ち着け。我々も対処している最中だ。
D-339: 今! 誰かが、誰かが私の髪を引っ張ったの! いやあ! こんな訳の分からない所もういやあ!
[00:06:47] D-339が扉を叩き続ける。
D-339: 出して! ここから出してよ! ここから…。
[00:07:17] 突如、D-339が一切の行為を止める。
岩場博士: どうした、D-339。D-339。
D-339: …産みたくない。
[00:07:26] 水中内で気泡が発生した時のような音が観測される。
D-339: 嫌あ! 入ってこないで! 産みたくなんかない! やめて! 嫌! [悲鳴]
岩場博士: D-339!懐中電灯を使え!
D-339: [悲鳴]ここから出たいのよお!
〈終了〉
終了報告書: 映像終了直後、突如SCP-XXX-JPの扉が解放されました。結果、腹部が破裂した状態で死亡しているD-339が発見されました。
参加職員: D-912(年齢:26歳 性別:男性)
担当研究員: 岩場博士
〈再生〉
[00:05:32] D-912がSCP-XXX-JP内部に侵入する。
岩場博士: D-912。君には最深部にまで進んでもらう。万が一の場合はこちらに戻るのではなく、さらに奥へと逃げることを原則とする。こちらも救出作戦の準備は完了している。
[10秒間の沈黙]
岩場博士: D-912、分かったのなら返事をしろ。
D-912: …分かった。[D-912が内部に侵入する]
[00:20:44] 侵入調査記録001の時と同様の光景が映し出される。
岩場博士: D-912、何か変わったことは無いか。
D-912: …寒いこと以外にか?
岩場博士: そうだ。
D-912: …とても辛い。
岩場博士: それは、具体的にはどういった感情だ?
D-912: …何かに縛られてる。
[D-912がその場でうずくまる]
岩場博士: D-912?
D-912: …出たいんだ。こいつら…。心の底から…。[呻き声]
[10秒間の沈黙]
D-912: …今、誰かがいたよな。
岩場博士: こちらでは確認できていない。D-123、こいつらとはいったい何だ。
[5秒間の沈黙]
岩場博士: 覚えていないのか?
D-912: …いや、そういう訳じゃ…。
[00:26:23] 遠くで金属製の何かが落ちる音がする。
[5秒間の沈黙]
D-912: …歩くぞ。
[1:06:00] 出発地点から2000m離れた地点に錆びた断ち切りばさみが落ちている。
D-912: …鋏だ。凄い年季の入った…。岩場博士: 何故、そんなものがここに…。
D-912: …先生。俺、ここが何処だかわかったかもしれない。
岩場博士: 何?
D-912: …ここはもう一杯だ。…だからああなっちまったんだ。
[1:10:22] 突如、D-912が走り出す。
岩場博士: どうしたD-912。
D-912: …あの女が来る…!
岩場博士: 女?
D-912: ここはもう限界だ…! だから、漏れ出したんだ…! 全部、あの女が集めて来たんだ…! ここは…ここはもう一杯だ!
岩場博士: D-912、どういう事だ。D-912。
D-912: ここは…! ここは…!
〈終了〉
終了報告書: 通信が途絶え直後、D-912に装着させていたGPSがSCP-XXX-JP内部とは異なる地点で反応しました。その後、財団は調査隊を派遣し、4日後その地点で死亡しているD-912を発見しました。
追記1: 3回目の侵入調査を行った後、財団はD-912の捜索を目的とした調査隊を編成しました。調査開始からおよそ4日後、長野県 ██市の山奥にある███下水道にてD-912の死体を発見しました。
███下水道は1989年 6月17日に廃棄処分され既に下水道として機能していません。出入口等も厳重に封鎖されており、外部からの侵入は極めて困難な状態であったと思われます。その為、どのようにしてD-912が下水道内部へ侵入したのかは明らかとなっていません。また、D-912の遺体の状態も生殖器を切り取られた状態で発見されました。
以下は内部調査の際に発見された物のまとめです。
・528体の腐乱した胎児や新生児の白骨体または腐乱死体(年代調査の結果、最高で40年以上前の遺体も確認された)
・台座部分が円形にくり抜かれかつ血液で濡れた木製の椅子
・天井からロープで吊るされた錆の激しい断ち切りばさみ
・プラスチック製の櫛
発見された死体全てに酷い損傷があり下水道内の壁の状況から、複数回何者かによって壁に叩きつけられていたことが判明しました。これらの行為は損傷個所の状態などから死亡後に行われたと思われます。
遺体回収後、まだ体組織のある遺体のDNA検査を行いそれらの肉親を特定しました。しかし、特定した人間全員を調査した結果、出産前の胎児を遺棄もしくは新生児を殺害、遺棄した経緯があることが明らかとなりました。さらに遺体の共通点として殆どがトイレや水辺に遺棄された経緯がある事や死因が溺死であることが判明しました。これらの犯行は███下水道から最高で2000km以上離れた地点で行われた物もあり、日本全国で遺棄された胎児、新生児の遺体が███下水道に転移していた事が分かりました。なお、遺体の殆どは警察や葬儀業者が回収したと記録されていますがそれら全てが既に消失しており、どういった経緯で遺体が移動したのかは未だ明らかとなっていません。
調査隊の報告から内部では幾つもの生活跡が確認されており、残されていた長さ1m前後の毛髪や女性の物と思われる衣服の切れ端などからD-912以外の何者かが内部にいたことが判明しました。これらの痕跡は全て最近残された物であり、D-912発見の一日前まで内部に何者かがいた思われます。
全ての死体の回収が行われましたが、以前異常は継続しています。
以下はセキュリティークリアランスレベル3以上の職員のみが閲覧可能です。
調査の結果、███下水道は長野県近辺にある███川およびそれに付随する貯水池や水処理施設と繋がっていることが判明しました。これが発覚した後、調査隊は池田氏の住んでいた家屋の水道局を改めて調査し、これらの水道も███川を起点とする物であることが判明しました。
これにより、財団はSCP-XXX-JP専属の調査部隊を編成し███川を起点としている水道局やそれに付随、またはそれらの水を利用していると思われる施設の特定と捜索を開始しました。2008年現在、全国各地にて既にSCP-XXX-JPと似た異常性が確認されている水道関連施設が5つ特定され、異常性は「赤ん坊の泣き声が聞こえる」「気が付くと扉が勝手に開いている」という状態にとどまっていますが後にSCP-XXX-JPと同様の異常性へと発展する危険性がある為それら全てが財団の管理下に置かれました。
今後財団は███川を起点とする水道や水を使用している施設の捜索、調査、管理を行うことが決定しています。
追記2: 2010年 3月29日、██県 ██市の一般住宅にて「赤ん坊の泣き声が聞こえる」という報告がありました。現在、調査隊により発生場所の特定と███川との関連性が調査されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8104の担当班によって管理されています。現在████ランドはSCP-XXX-JP以外の施設すべてが撤去された状態であり、SCP-XXX-JPを取り囲むように研究施設が建設されています。施設は財団フロント企業が所有している発電施設に偽装されます。
現在、並行してSCP-XXX-JP-Aの状況や動向の監視が行われています。もし、何らかの異常が発生した場合はサイト-8104の担当班に報告してください。
新たなSCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP内部に出現した場合は速やかに対象を保護し、検査を終えた後に保護者もしくは親族の元へと移送してください。
説明: SCP-XXX-JPは北海道 ██近隣に位置する「子供お仕事パーク」と明記された大型施設です。対象は1990年に子供の職業体験施設という名目で、当時遊園地として経営されていた████ランドの敷地内に建設されました。しかし、その後の経営不振などから1991年に運営会社が倒産、その直後に園全体が閉鎖され発見時まで放置されていたと思われます。なお使用されている建材等には何ら異常性は見られず通常の素材同様に損傷します。
SCP-XXX-JP内部では大規模な時空間異常が発生しており、施設外見よりも多くの面積を有しかつ外部で1時間とされる時間も内部では2ヵ月程度であると計測されます。なおSCP-XXX-JP内部で経過した時間による人間の老化の兆候は見られず、天井部分にある大型の電灯やスプリンクラーなどによって朝昼晩の太陽の様子や雨といった天候の変化なども再現されています。内部では大型ビルおよび公共施設などが存在する市街地が運営されており、犬や猫、烏や鳩といった市街地に生息していると想定される生物や並木・庭などで植生している植物等も存在しています。ですが、それらを外部に持ち出した場合、対象は瞬時にプラスチック製の人形や物品へと変化し、一切の異常性を喪失します。
SCP-XXX-JPの異常性は内部に5歳から9歳までの人間が侵入した際に発生します。該当する児童が侵入した場合、対象の精神年齢は大幅に向上させられかつ30歳から40歳であると想定される人間が有する一般常識と学力を保有した状態に変化します(以下SCP-XXX-JP-Aとする)。現在、これらの直接的な原因は判明しておらず、SCP-XXX-JP-Aに該当しない人間等が施設内に侵入したとしても何ら影響は受けません。
SCP-XXX-JP-Aとなる人間は全員が日本国内にて行方不明となっていた人物が該当し、SCP-XXX-JPに到達した経緯などは一切記憶していません。なお、影響下にあるSCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JP内にある物品全てを施設内に設置されている模造品であると正しく認識しており、その為SCP-XXX-JP内からの脱出も容易であると理解しています。ですが、SCP-XXX-JP-Aが外部に出た場合、瞬間的にこれまで確認された全ての異常性が消失するため施設内部での出来事を殆ど喪失します。
現在、SCP-XXX-JP-Aとなった児童らの行方不明事件がSCP-XXX-JPによって発生させられた事象であるかは判明していません。しかし、遭難や誘拐などといった行方不明時の状況等から、この事象とオブジェクトとの関連性は皆無であると思われます。
SCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP内部に侵入した場合に発生する工程
工程1: SCP-XXX-JP-Aが未知の原理で施設内にある玄関広場に突如出現する。
工程2: 広場に設置されている印刷機から自動でSCP-XXX-JP-Aに割り当てられる職業と居住区が明記された書類が印刷される。
工程3: SCP-XXX-JP-Aは指定された地区に向かう。
工程4: 既にSCP-XXX-JP-Aの本名が書かれた表札のある住居にて生活を開始し、その翌日から同じく指定された職業に従事するようになる。
SCP-XXX-JP-Aはどのような特殊な技能(遺伝子操作や量子物理学といった高度な研究職、危険物の取り扱いに関わる職業など)であろうともそれを行使し、SCP-XXX-JP内に設置されている交通機関や金融機関、医療施設、政治的機関、警察組織、司法機関などを運営することで現代の日本の都市部と同等の生活水準を有する独立した共同体を形成しています。それに伴いSCP-XXX-JP内で社会的な人間関係を有するSCP-XXX-JP-Aの存在も確認されています。
2017年現在、全SCP-XXX-JP-Aは財団機動部隊により保護され、その後の精密検査を終えた上で保護者の下へと帰されています。ですが、今後発生する異常性発現の可能性も考慮してそれぞれに対しエージェントによる監視が行われています。なお、現在対象の殆どがSCP-XXX-JP内で担当していた職業と同様の職に就いており、これらの事象はあくまでSCP-XXX-JP-A等の自由意志により決定された物であると確認されています。以下は現在のSCP-XXX-JP-Aの動向をまとめたリストの抜粋です。
SCP-XXX-JP-A-1 | 本名:佐川 ██ | 職業:医師 ・対象はSCP-XXX-JP内でも医師として活動しており、現在も内科医院を開業している。しかし、エージェントの報告からもこれの決定に何かしらの強制があったようには見えなかったとされ、開業した医院の方針や周囲の人間関係などSCP-XXX-JP内で生活していた時とは大きく異なる点が確認されている。 |
SCP-XXX-JP-A-27 | 本名:神代 ██ | 職業:元アパレルショップ店員 ・対象は2016年7月28日に酒気帯び運転をしていた普通乗用車に撥ねられ死亡した。職業こそSCP-XXX-JP内で担当していた物だが、内部でこのような現象は確認されていない。この事から、SCP-XXX-JP内で発生した事象はSCP-XXX-JP-Aの行動原理や結果にはほとんど関与しないことが判明した。 |
SCP-XXX-JP-A-98 | 本名:橘 ██ | 職業:企業の経理担当 ・職業に関してはSCP-XXX-JP内で担当していた物と同様であり、また対象はSCP-XXX-JP内で婚姻関係にあったSCP-XXX-JP-A-99(能崎 ██氏)と現在も婚姻関係にある。これらの現象もあくまで双方の自由意志によって決定されており、対象二名が接触した経緯もSCP-XXX-JP内で発生した事象とは異なる形で発生している。なお、SCP-XXX-JPに関する記憶が復活した等の兆候も見られていない。 |
SCP-XXX-JP-A-120 | 本名:桑原 ██ | 職業:検察官 ・SCP-XXX-JP内では弁護士を担当していたが、現在は検察官として働いている。なお、これらの経緯について監視を行っていたエージェントの報告によると、当初こそ対象は弁護士を目指していたものの当時通っていた大学の先輩が不当な方法で無罪判決を促したという報告を受け目標を変更したと確認されている。この事からも、あくまでSCP-XXX-JP-Aの就く職業や周囲で発生する事象、行動原理などは対象の自由意志によって決められており、SCP-XXX-JPからの強制などは受けていないと思われる。 |
SCP-XXX-JP内で確認されている職種の種類に関しては「子供お仕事パーク」の企画書などに明記されている職種以上の種類が存在しています。これらの増幅は新たなSCP-XXX-JP-Aの出現に伴う構造物の出現という事象により発生しており、しかし、食料や医薬品等の消耗品、ガソリンと言った燃料などの物品の生産に関しては閉鎖的なコミュニティーである性質上常に人員が不足している為、一部施設内に設置されている供給装置から未知の原理で生産、補填されます。なお電力などはSCP-XXX-JP内に設置してある発電施設によって賄われており、それらの操作はSCP-XXX-JP-Aによって行われています。
補遺: SCP-XXX-JPは1994年に発生した事案により発見されました。当時、鹿児島県 ██町にて██ ██氏(男性:当時8歳)が行方不明となっており、捜索は困難な状態にありました。しかし、それからおよそ3ヵ月後、北海道の██近くに敷かれている国道█号線付近にて対象が保護されたという報告が上がり財団がこれを察知、これに関する調査を開始しました。結果、エージェント・Peetが現SCP-XXX-JPを発見し、機動部隊を起用した内部の調査を行った際にオブジェクトの全貌が明らかとなりました。なお、発見当時のSCP-XXX-JP内には204名のSCP-XXX-JP-Aが生活しており、その後の調査で全員が全国で行方不明となっていた児童であることが判明しました。
以下はSCP-XXX-JP-A-98・本名:橘 ██氏(男性:当時7歳)へ行ったインタビュー記録です。
対象: 橘 ██(以下A-98)
インタビュアー: エージェント・Peet
付記: インタビューはSCP-XXX-JP内に設置されているA-98の自宅にて行われました。なお、当時A-98はSCP-XXX-JP-A-99・本名:能崎 ██氏(女性:当時5歳)と婚姻関係にありました。
<録音開始>
インタビュアー: あなたがここに最初に来た時の事を覚えていますか?
A-98: …ここの入り口でのことは覚えていますが、ここにやって来た時の経緯などは全く覚えていません。インタビュアー: その場で引き返して、ここから逃げ出す事などは考えなかったのですか?
A-98: 多少は思いました。…ですが、当時は外が大吹雪だったので…。仕方が無く、ここに入っていくことにしました。
インタビュアー: なるほど。その時、自分に起こった変化などに違和感は。
A-98: いや、そんなには。…不思議な物で、確かにおかしなことだった筈なんですが…まるで前から自分がそうだったかのように思えてきて…。…今では、ここの生活が本当の事のように思える時があります。
インタビュアー: [メモに書き留める音]今の奥さんと会ったのは何時頃の事ですか?
A-98: 10年程前です[この時点で時間認識に大きなずれが確認出来る]。当時私は、勤め先の経理として働いていました。その時、彼女はカフェの店員でして。…私の一目惚れでした。何日も何日も通い詰めて、共通の話題を見つけて、それから付き合いを初めて…。
[5秒間の沈黙]
インタビュアー: どうかしましたか?
A-98: …今までの私は、途轍もない虚無の中を生きていたような気がするんです。ずっとずっと何もなくてで、空しい時間の中にいた。…ですが、彼女と出会って全てが変わった。空っぽだった私の中が、深く満たされるような感じがしたんです。
インタビュアー: その虚無というのは、ここへ来る前という事ですか。A-98: …そうです。あの時の私は、何もなかった。何も知らなかった…。よく子供の頃の記憶は懐かしく、綺麗な思い出ばかりだと言われる物ですが、私達にはその子供だった時が近すぎる。…私達からすれば、あそこまで思考が追い付かない状況というのは恐怖でしかない。まるで心だけが体に閉じ込められた感覚です。ここに来たばかりの時は、それを払拭する事ばかりに費やしました。…ですが、彼女と出会って全てが変わった。そんなくだらない物を忘れさせてくれるほど、彼女は眩しかった。
インタビュアー: では、あなた方がここを出たがらない理由というのはそれが原因ですか。
A-98: …大半はそうだと思います。ここには、大体200人程度の子供がいますが、皆が皆自分の生活があって、様々な理由を抱いてここにいます。さっき言ったこともそうですが、その理由は様々です。中には親に捨てられてここに行きついた人もいます。…ですが、私はそれとはちょっと違います。
インタビュアー: 違うとは。
A-98: …恐らくですが、ここを出てしまうとここでの生活は全て忘れていってしまうんでしょう? 前にここを出て行った人を中から見ていました。扉の向こうに行った瞬間に年相応な子供に戻ってしまった。…私は、私の妻の事を忘れたくはない。彼女との全てを失うぐらいなら、無邪気なあの頃になって…二度と戻りたいなんて思わない。
インタビュアー: ですが、あなたの親御さんは今もあなたの帰りを待ち続けています。喩え精神が大人になったとしても、あなた方はまだ子供です。戻るべき姿と居場所があります。
A-98: [沈黙]
インタビュアー: 明日、私達は半ば強制的ではありますが、あなた方全員を保護しようと思っています。その後、検査も終え、何も問題が無かった場合は、速やかにあなた方を保護者の下へと送還する予定です。
A-98: …そうですか。
[5秒間の沈黙]
インタビュアー: まだ一日あります。
A-98: …え。
インタビュアー: 奥さんと最後に、よく話をしてください。
<録音終了>
終了報告書: 後日、機動部隊主導で全SCP-XXX-JP-Aの保護作業が行われました。なお、大半のSCP-XXX-JP-Aはエージェントの交渉により自主的にSCP-XXX-JPからの脱出を承認し、橘氏に関しても能崎氏との話し合いの末これを承諾しました。なお、全SCP-XXX-JP-Aに発現していた影響はSCP-XXX-JPから出された瞬間に全て消失し、施設内部での記憶の殆どを喪失しました。
追記: 20██年現在、新たなSCP-XXX-JP-Aの出現は確認されていません。しかし、SCP-XXX-JP内部での空間的異常は継続されている為、以降も監視は継続されます。
また、SCP-XXX-JP-Aの保護後に行われた内部調査の際に以下の文章が印刷機から印刷されました。これに関する異常は発生していません。なお、文章の内容からSCP-XXX-JPがこちらを認識している可能性が浮上しました。その為、日本支部理事会は対象のオブジェクトクラスをSafeからEuclidへの引き上げを決定しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8155の低脅威度ロッカーに収容されています。無断でSCP-XXX-JPを使用することは禁止されています。実験に参加する職員は全員が女性で構成され、男性職員の接触は原則として禁止されます。なお、Dクラス職員はこれに含まれません。
SCP-XXX-JPの影響下にあるDクラス職員には専用の居住室が与えられ、内部は24時間体制で監視されます。対象の通常業務は継続される為、Dクラス職員には経過報告を目的とした自己報告用レコーダーを配布してください。もしDクラス職員が自傷行為や鏡、ガラスなどの破壊を行った場合はセキュリティー担当者が速やかに対象を拘束し鎮圧してください。
現在日本支部理事により一部の実験は凍結されています。実験を行う場合はサイト管理者に申請してください。
説明: SCP-XXX-JPは日本国内で生産・販売されているセンサーライトと同様の形状をした異常物体です。オブジェクトの強度や内部構造等には何ら異常性は見られず、非異常性を有する類似物品同様に機能し損傷します。
SCP-XXX-JPの異常性は対象の前を男性が通過した際に発現します。SCP-XXX-JPの前を通過した場合、1回目は通常のセンサーライト同様に点灯しますがそのおよそ10秒後に移動する物体や人間がいないにもかかわらず再度点灯します。なおこの時も対象の機構は正常に稼働しており、機械の故障ではないことが判明しています。これらの明確な原因は未だ判明しておらず、内蔵されているライトを交換した場合も異常性を発現するためオブジェクト本体に異常性があると予想されます。その為、電源となる配線から隔絶した場合は一切の異常性を示さず、内部の部品を変換した場合も異常は観測されません。設置場所を変えた場合は問題なく異常は発生します。
これらの異常性に曝露する人間は1人に限定され、2回目の点滅が発生しなかった人間がSCP-XXX-JPの前を通過したとしても通常の物品同様の反応しか示しません。これらの選択理由に関しては未だ明確化されておらず、その為収容プロトコルには男性職員による接触の禁止が組み込まれています。
SCP-XXX-JPのさらに特筆する点としてこのオブジェクトの影響に曝露した男性は慢性的な倦怠感、無気力感を覚えるようになり尚且つ長期的な鬱病にも似た症状を見せるようになります。それからおよそ2ヶ月~1年の間に自殺もしくは事故等により死亡し、自殺の際の方法などには一貫性は見られませんが死亡する2日前あたりに突如鏡やガラスといった光を反射する物品を大量に破壊するという共通点が見られます。また、その際周囲にいる人間に何かしらの危害を加える、殺害する場合もあります。
現在、これらの症状が見られた人物には認識災害やミーム汚染等の疑いも皆無であることから治療法は通常のカウンセリングが適当であると思われます。しかし、完全に治療が終了する前に大半の人間が死亡する為、明確な統計は出されていません。
実験記録001 - 日付2008/5/11
対象: D-5744、D-3728、D-7888、D-2525
実施方法: SCP-XXX-JPの前を通過させる。
結果: D-5744、D-3728、D-7888が通過した場合、2回目の点灯は見られ無かった。しかし、D-2525が通過したときのみ2回目の点灯が確認された。
分析: 対象の血液型や身長、身体的特徴や宗教、家族構成などの要素と照らし合わせてみたが選択理由に繋がる条件は判別できなかった。選択基準に関しては完全なランダムである可能性もある。今後はD-2525の経過を観察することに決定する。
実験記録002 - 日付2008/5/13
対象: D-2525
実施方法: 再度、SCP-XXX-JPの前を通過させる。
結果: 2回目の点灯が確認された。
分析: D-2525が選択された後に他のDクラス職員を起用したが点灯は起こらなかった。一度何者かが選択されたら永続的にこの点灯が起こるらしい。
実験記録003 - 日付2008/5/13
対象: D-2525
実施方法: SCP-XXX-JPの前で停止する。
結果: 通常の物品同様に点灯した後、合計5回の点灯が確認された。
分析: SCP-XXX-JPの前で停止した場合、選択された人間が動いていないにもかかわらず複数回の点灯が確認された。これらの点灯の間隔や回数にも何かしらの意図やモールス信号などといったメッセージ性も見られない。本当に意味のない点灯に思える。
実験記録004 - 日付2008/5/15
対象: D-2525
実施方法: SCP-XXX-JPの前を往復する。
結果: 一回目の点灯が行われ、消灯してからすぐにUターンしてSCP-XXX-JPの前を通過した結果D-2525が突如転倒しかつ激しく嘔吐した。
分析: D-2525に関してはすぐさま医療室へと搬送され命に別状はなかった。再度、同じ実験を繰り返すことも検討されたが、D-2525がこれを強く拒んだため一旦保留とした。これらの現象が何故起きたのかは未だはっきりとはしていない。非曝露者である他の職員を起用して実験を行ってはみたが、このような症状は一切見られなかった。やはり、2回目の点灯が発生した者にしかこのような現象は起きないようだ。
補遺1: SCP-XXX-JPは2008/3/16の神奈川県 ██市にある住宅内で発見されました。当初、その家屋には██ 忠勝氏を含めた計3人の家族が入居しており、SCP-XXX-JP回収のおよそ一年前に引っ越して来たばかりでした。なお、当時15歳であった息子の良平氏は不登校状態にあり、氏が依然通っていた学校関係者に調書を取った所「サッカー部に所属していて部のエースだった。」「とても明るく、好青年だった。」という肯定的な印象が多数確認され、不登校になる要素は見当たらないというのが当時の見解でした。その後、一ヵ月が経った2008/2/2の深夜2時に良平氏は自宅内にあった刃渡り15cmの包丁を用いて両親を殺害。家宅内の鏡や窓ガラス等をすべて破壊した後にその場から逃走しました。
なお事件発生から6日後、警察の捜査により現場から10km離れた雑木林にて自身で腹部を切開した上で内臓を引きずり出しているという状態の良平氏の死体が発見されました。
この事件の報告を受け、財団は2名のエージェントを派遣し家屋内部の調査を実施。調査開始時はなんら異常性のある物品や現象の発見は出来ませんでしたが、以前居住していた住人の詳細や担当の不動産業者などに調書を取った結果、家屋内に備え付けられたセンサーライトに関する問い合わせが複数確認されました。またそれらを確認しかつ報告した人間全員が既に自殺、病気や寿命以外の理由によって死亡していることが判明したため、対象を異常物体としてマーク。良平氏に関しても対象家屋に引っ越して来た2日後にSCP-XXX-JPに関する異常を認識していたらしく忠勝氏に代理で行われたセンサーライトの故障に関する苦情も確認されました。
これにより、財団はその対象物品を異常物体として収容。上記の実験の結果、現在の異常性が確認されました。
補遺2: 以下は実験に参加したDクラス職員によって書かれた自己報告用レコーダーの内容です。
D-2525の自己経過報告記録
概要: この項目はD-2525による主観での経過観察を目的とした報告用レコーダーの記録です。実施期間は実験が開始された2008/5/11からD-2525が死亡する3日前に当たる2008/9/30まで行われ、その日の体調や気分、不審な点は無いかなどの報告が記録されています。なお、報告書に記載されているものはそれの抜粋であり、全記録の視聴を希望する際は米加博士に要請してください。
2008/5/12
〈再生〉
訳の分からない実験に参加させられた後、このボイスレコーダーを渡された。何でも、あのライトに当たってから何か変なことがあったら記録すればいいそうだ。…今のところ特に問題も無いし、通常の清掃業務だってこなせた。明日も実験らしい。別に何でもいいが。…もう寝る。
〈終了〉
2008/5/14
〈再生〉
今日もなんら問題は無く終わった。変わった事と言えば、実験であのライトが何回も点滅したことぐらいだろう。別に他の奴らも知っている事だし、ここでわざわざ言う必要も無いんだろうが…。…けど、流石に気味が悪くなる。なんで自分の時だけ五回も光るんだ。…正直気持ちが悪い。ただの故障にも見えないし。なんだって言うんだ。
〈終了〉
2008/5/15
〈再生〉
[D-2525が咳き込む]
…未だに意識が朦朧とする。最悪の気分だ。…嫌悪感に塗れて体が言う事をきかない。…急に目の前が真っ暗になって、気が付けば胃の中のものを全部戻してた。強制的に吐かされ続ける、そんな感じだ。…あの、何処からともなく込み上がってくる嫌な感じは一体何なんだ。…まるで、自分の中に人ひとり分が割って入ったみたいで、無理やり胃の中を押し出された感覚だ。…最悪だ。もう何もかも最悪だ。くそったれ。
〈終了〉
2008/6/17
〈再生〉
あの実験から一か月ぐらいたった。今でもあの日の事は忘れられない。…あれからは何も起きてはいない。でも、心なしか疲れが取れにくくなっているような気はする。息切れも激しいし…これが単に業務と実験が続いたからなのか、良くは分からないがなんだか最近嫌な想像ばかりしている気がする。…あのライトに当たってから、いつも気分がすぐれない。いつもと変わらない筈なのに、何かを侵されている気分だ。…そして、心なしか不安になってくる。…この頃、時々部屋の物が動いてる気がする。置いておいたコップとか、歯ブラシとか、鉛筆とか…。係りの奴に聞いても誰もいじって無いっていうし…。奴ら俺をからかってるのか?
〈終了〉
2008/6/21
〈再生〉
…最近、おかしな夢を見る。…気が付けば俺は家の中にいて、何故か結婚してるって思ってる。それはそれは立派な家で、俺が一生働いたって手に入れられそうにない一軒家だ。…夢の中だと、俺はここで本当に住んでるんだって本気で思ってて、窓の位置も、トイレの場所とかも、どれが自分の部屋なのかも全部知っている。…一回も来たことのない筈なのに、どういう訳かそこが自分の家だと確信している。…夢の中の俺は、まるで俺であって俺じゃない、そんな夢が、今日までずっと続いてる。…ルートは毎回決まってて、まずは玄関から中に入って、その次はリビング。…多分時間は昼過ぎで、ベランダから外の様子が見えて、キッチンとかを粗方見て回った後で2階へ行く。途中で左に曲がっている階段を昇ったらそこには廊下があって、左から俺の書斎、寝床、トイレと踊り場を挟んで子供らの部屋と、そして嫁の部屋。勿論俺は結婚なんてしてない。子供だっていない。夢の最後はいつも決まってて、嫁の部屋の扉を開けようとドアノブに手を掛けたところで目が覚める。起きると決まって異常な量の汗を掻いてて、動悸も激しく息も上がってる。…一体何が起きてるんだ。そう思って、俺はあいつらに頼んで俺が寝ている時の映像を見せてもらった。そん時は、何かわかるかもしれないって思ってたけど…今じゃあんな物観なければよかったって思ってる。
[3秒間の沈黙]
…俺は叫んでいた。…背中を大きく仰け反らせて、白目をむいて、部屋の外まで聞こえる声で叫び続ていた…。もう自分で自分が信じられない。心底そう思う。…何なんだこれは…。何がどうなってんだ…。
〈終了〉
2008/7/8
〈再生〉
昨日の夜もあの夢を見た。いつもと同じ。あの家だ…。あまり寝た気がしない…。毎日見るわけじゃないが、大体見るだろうなっていう時の感覚が分かって来た。…多分、明日もあの夢だ…。
〈終了〉
2008/7/26
〈再生〉
最近あることに気が付いた。…以前、俺はあの夢の道順は決まっているとここで言った。玄関から始まって、嫁の部屋の前で終わる。それの繰り返し。…でも、もし俺がそれに逆らったらどうなるんだろう。ルートを無視して、もっとあの家の中を散策したら何があるんだろう。…あの映像を観て、俺の体に何かが起こっているのはよく分かった。…だったら、こっちからそれを確かめに行ってやればいい。いつあの夢が見れるかは分からないが、今度あの夢を見る事が出来たなら俺はこれを実行するつもりだ。…一体どうなるかは分からない。でも、俺は俺の目で確かめたい。
〈終了〉
2008/8/17
〈再生〉
…昨日、例の夢を見た。俺は早速計画を実行した。これと言って難は無くて、意外とあっさりしてた。夢の中では思いのほか自由に行動できたし、まるで現実そのものだった。
[5秒間の沈黙]
[D-2525が深呼吸する]
…まず俺は、外に出ようと試みた。ベランダから出て、庭を見てみようとしたんだ。だが、そこを開けるのは無理だった。…よくよく見てみると、鍵の部分はおろか、窓枠になってる金属部分全部が溶接されてた。…一気に鳥肌が立った。何の変哲もない家だと思ってはいたが、そんなことは無かった。それから俺は何とか外に出られそうな場所を探してみた。一階の風呂場とか、トイレとか、玄関もよく見れば溶接されてたし、2階の…嫁の部屋以外の部屋も隈なく探してみた。…だけど結果は同じだった。粗方探し終わって、ようやくこの家の異常さが分かった。完全に閉じ込められている。出口なんてどこにもない。それから俺はもう一度2階に上った。最後に確かめなきゃならない部屋があったからだ。嫁の部屋だ。…けど、俺は目を疑った。あのライトが、嫁の部屋の前にあったんだ…。今まであんなところにライトなんて無かった。在ったら気が付くし、そもそも普通のドアの真上にあんなライトを取り付ける訳が無い。あまりの不自然さに、そこだけがやたらリアルに思えた。…正直、あれには一歩たりとも近づきたくはなかった。あのライトの所為でこんなことになったんだ。でも行くしかないし、俺は思い切って部屋の前にいった。当然ライトが点いた。俺はドアノブに手を掛けて、ライトが消えるのを待った。それぐらい嫌だった。どうせならずっと点いたままで、2回目が来ないことを心の底から願った。…それからしばらくして、ライトが消えた。大体、1分ぐらい経ってもライトは一向に点かないで、ただのライト同然だった。俺は心底安心した。良かったって、本気で思った。それで俺は、部屋の扉を開けようとした。
[D-2525の声が震える]
でもそこで、あのライトが点いた…。
[5秒間の沈黙]
…後ろに誰かがいた。裸足で歩いてた。…歩いて、止まって。歩いて、止まって…。後ろの奴が動くたびに、ライトが点滅した…。
[沈黙]
[何もかの足音が聞こえる(裸足だと思われる)]
[D-2525のすすり泣く声]
…俺はやっと気が付いた。だが、もう手遅れだ…!
[女性の笑い声]
…後ろだ…。後ろなんだ…!
[D-2525のすぐ後方で何かが倒れる音がする]
…あれは、点滅してたんじゃない…。あれは、普通に点いてた…。
[レコーダー近くで、何者かの大きな息遣いが聞こえる]
後ろだ…!
[ノイズ音]
〈終了〉
2008/8/29
〈再生〉
…一週間前にやっと目が覚めた。前回の記録を残していた時にどういう訳か気絶したらしい。俺をずっと監視していた兵隊が俺を医務室に連れて行ったそうだ。病室では録音を控えていたから、大分間が空いてしまった。
[5秒間の沈黙]
…最近、いろいろと気分が乗らない。 これを残すのでさえ億劫だ…。あの夢を見て以来、いつもあの時の事が気になっている。実験にももう参加したくないし、あのライトを見ただけで…震えが止まらなくなる。あの夢を見て以来、段々とライトが点く感覚が短くなっている。前までは10秒以上かかっていたが、ここ最近はほんの数秒で2回目の点灯がある。
[3秒間の沈黙]
俺はあの時、あの扉を開けた…。
[微かに女性の笑い声のようなものが録音される]
後ろは振り返りたくなかった。見たくもなかった…。けど、俺の目の前には…地獄があった…。結局、どっちも地獄だった…。
[D-2525の後方から女性の話し声が聞こえる]
中は…血と肉で溢れてた…。幾つも死体が転がってて、生まれる前の赤ん坊で床が埋め尽くされていた。…全部、あの女のやった事なんだろうか…。それとも、あれはあいつとの間にできた子供なのか? …ありえない。…そんなのありえない。
[木製の扉が開く音がする(D-2525のいる部屋には木製の扉は一切ない)]
すぐ目の前には化粧台があった。そこには俺が写ってた…。
[D-2525の笑い声]
だったらそうだよな。…映ってるに決まってるよな…。見ちまうに、決まってるよな…!
[D-2525の叫び声]
〈終了〉
この記録終了後D-2525は突如部屋の中で暴れ出しガラスや鏡などの物品を破壊しました。なお、事態を察知したセキュリティー担当者が速やかに対象を鎮圧し、事態を収束しました。
2008/9/26
〈再生〉
[20秒間の沈黙]
もう嫌だ。
[女性の笑い声]
[D-2525のすすり泣く声]
…後ろだ…。
〈終了〉
この記録の後、D-2525は自身の舌を噛み切り自殺しました。
追記: 2009年現在もD-2525の証言した「夢」に関する詳細は明らかとなっていません。また、D-2525が死亡した後にも同様の実験を行った結果、全員が「何処かに閉じ込められている夢」を見た後に自殺しました。なお、全ての録音記録内にて詳細不明の「女性の声」が確認され、これについて更なる調査を進めています。
この報告を受け、日本支部理事は無益なDクラス職員の消耗を防ぐ為、一部の実験を凍結することを決定しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 2017年現在、SCP-XXX-JPの完全な収容には至っていません。SCP-XXX-JP-1~17が発見された場合、機動部隊"を-6"「notアンコール」が出動し目標の監視を行ってください。SCP-XXX-JP-1~17の集合地点の割り出しは現在██地点にまで絞り込めており、担当班は各国政府の情報を収集し世界情勢の監視と並行してオブジェクトを監視してください。
現在、財団は世界各国の爆発物を取り扱っている企業や工場にエージェントを派遣し監視を行っています。潜入したエージェントは潜入場所の状況や人員などを分析しSCP-XXX-JP集合の兆候が無いか調査を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは合計17人の人型実体で構成されている異常存在です。これらの実体は全員がフード付きのローブを着用しており、人相の確認などの試みは全て失敗しています。
SCP-XXX-JPは「楽団」と称される1体の指揮者と16体の奏者で構成されています。指揮者以外のSCP-XXX-JPはそれぞれ個別の楽器を所持しており、奏者が単独で演奏を行った場合は通常の楽器音のみが観測されますが合奏の際は各楽器の奏者が単体であるにも関わらず複数の楽器で演奏したものと同様の音量と和音を発生させます。
SCP-XXX-JPの大規模な異常性はSCP-XXX-JPが集合場所に集合し合奏を開始した際に発生します。この異常性の初期段階として、対象はそれぞれが地球上の様々な地点に突如出現し時折演奏を行いながら徒歩で集合地点に集合します。(この集合地点は出現の度に異なり出現初期段階での特定は困難であると思われます。)集合してからおよそ3分後、SCP-XXX-JPはチューニングなどの準備行動を終了した後に合奏を開始します。使用される楽曲は全てチャイコフスキーの「序曲:1812年」で統一されており、楽曲第五部のクライマックスに到達した瞬間に集合地点からおよそ2km離れた地点にて大規模な爆発が発生します21。現在、これらの爆発がSCP-XXX-JPによって引き起こされた事象なのか、予知能力による集合なのかは明らかとなっていません。しかし、確認される現象は全て突発的に発生する物ではなく事故や爆発物使用等の人為的事象であると確認されており、これらの出現や集合は爆破実験やビル解体などの事案に関しては行われず多数の死傷者が発生した場合にのみ発生します。
演奏終了後、SCP-XXX-JPはそれぞれ徒歩で集合地点から離脱し解散します22。その後、事案発生のおよそ█年前あたりから再び地球上に出現し、後に集合するというサイクルを繰り返します。
SCP-XXX-JPを捕獲、攻撃しようとした場合、対象は透過状態へと移行し物理的に接触することが不可能になります23。その為、2017年現在もSCP-XXX-JPを捕獲する試みはすべて失敗しており、演奏を中止させる試みも成功していません。
これにより、O5はSCP-XXX-JPをKeterに分類。対象の監視、火薬工場や原子力発電所などの関連施設の監視が収容プロトコルに組み込まれました。
補遺1: 以下は現在判明しているSCP-XXX-JPのいる地点のまとめです。
オブジェクト番号 | 発見日時 | 発見場所 | 担当 | 現状 |
SCP-XXX-JP-1 | 発見日時:1999年3月11日 | 出現場所:日本・石川県 金沢市 | 担当:指揮者 | ・現在SCP-XXX-JP-1は出現地点から北上しており、動植物に対して「指揮」と思われるような行為を行っている。 |
SCP-XXX-JP-3 | 発見日時:1997年12月8日 | 出現場所:アメリカ コロラド州 | 担当:チェロ | ・現在SCP-XXX-JP-3は出現地点からあまり移動しておらず、時折オリジナルと思われるジャズ音楽を演奏している。 |
SCP-XXX-JP-4 | 発見日時:1996年2月27日 | 出現場所:イタリア シチリア州メッシーナ県 トゥーザ | 担当:コントラバス | ・現在SCP-XXX-JP-4はSCP-XXX-JP-5と行動を共にしており、出現地点から南下している。あまり道中での演奏は行わず、序曲:1812年の練習のみを行っている。 |
SCP-XXX-JP-5 | 発見日時:1996年2月26日 | 出現場所:イタリア シチリア州メッシーナ県 トゥーザ | 担当:フルート | ・現在SCP-XXX-JP-5はSCP-XXX-JP-4と行動を共にしている。道中では常に演奏行為を行っており、時折SCP-XXX-JP-4に演奏を中断させられる。 |
SCP-XXX-JP-7 | 発見日時:1990年11月3日 | 出現場所:フィンランド 北ポフマンヤー県 プダスヤルヴィ | 担当:オーボエ | ・現在SCP-XXX-JP-7は出現地点に位置する廃屋内部にて年間の殆どを睡眠に費やしている。時折起床し演奏を行う。 |
SCP-XXX-JP-9 | 発見日時:1995年7月12日 | 出現場所:イギリス ロンドン ケンジントン | 担当:クラリネット | ・現在SCP-XXX-JP-9は周囲を極度に警戒しながら南下してる。その為、路地裏などを頻繁に通行しており、何かしらの犯罪行為を働いている人間を発見した際は演奏を行う。 |
SCP-XXX-JP-10 | 発見日時:1998年6月30日 | 出現場所:エジプト カイロ | 担当:ファゴット | ・現在SCP-XXX-JP-10は[編集済]で[編集済]。その為、コブラを数匹飼育している。 |
SCP-XXX-JP-11 | 発見日時:1998年3月9日 | 出現場所:ロシア クルスク | 担当:ホルン | ・現在SCP-XXX-JP-11は出現地点から東へ移動しており、しかし移動速度は極端に遅くよく木陰で休憩をしている。 |
SCP-XXX-JP-13 | 発見日時:1989年11月3日,1999月4月4日 | 出現場所:ブラジル ペトロポリス | 担当:トランペット | ・SCP-XXX-JP-13は二度の出現と消失を行っており1989年11月3日に突如出現しその直後何やら慌てた様子を見せた後に消失した。その10年後、同地点に再び出現。すぐさま走ってその場を離れ、時折演奏を行った。 |
SCP-XXX-JP-15 | 発見日時:1991年5月19日 | 出現場所:南緯██度、西経██度の大西洋上 | 担当:バストロンボーン | ・現在SCP-XXX-JP-15は大西洋上を徒歩で移動しており、目立った行動は行わず真っ直ぐ北上している。 |
SCP-XXX-JP-17 | 発見日時:1995年5月6日 | 出現場所:モンゴル | 担当:トライアングル | ・現在SCP-XXX-JP-17は高原地帯にて着席している状態で目立った動きを見せていない。 |
※ここに記述されていないSCP-XXX-JPは未だ発見されていません。発見され次第、この報告書に追加されます。
2017年現在も各SCP-XXX-JPは放浪を続けており、集合前の実体が有する異常性による被害なども報告されています。その為財団はそれらへの対応や接触した一般人に対する記憶処理を目的とした機動部隊"を-6"「notアンコール」を編成し、各対象を監視することを決定しました。
補遺2: SCP-XXX-JPの存在は1986年4月22日のサイト-333に送付された「音楽会のチケット」と思われる紙を切っ掛けに発覚しました。当時、サイト-333には差出人不明の一通の封筒が送付され、エージェント立会いの下それを開封。中にはドイツ語で以下の内容が記述された一枚のチケットが封入されていました。(文字は粗雑な直筆文字で書かれていました。)
チケット内容
████・████管弦楽団演奏会
場所: 北緯51度 東経30度 日時: 4月26日 演奏楽曲: 大序曲:1812年~時の咆哮~
これにより、財団は指定された地点に4名のエージェントを派遣。結果、 ウクライナ キエフ州 プリピャチの地点にてSCP-XXX-JPの集合を観測しました。
発見から3分後、対象は合奏を開始。そして、楽曲第五部のクライマックスに到達した瞬間にチェルノブイリ原子力発電所の4号炉が爆発しました。エージェントはすぐさまサイトにこの事案を報告し、これを受けサイト-333は急遽現地調査の実地を決定しました。しかし当時は広範囲の放射性物質の飛散による汚染の拡大や現地の被害状況の確認、放射線対策の準備が行われたためエージェント4名の救出までにおよそ45日の日数を要しました。
この事案を切っ掛けに財団は本格的なSCP-XXX-JPの調査を開始。SCP-XXX-JPの調査担当班を二班に分け、第一班は過去のSCP-XXX-JPの集合地点・出現地点の発見とそれらの統計から推測される今後の事案発生地点の割り出しを、第二班はSCP-XXX-JP出現の原因となった事象や過去の事件等の調査を担当しました。結果、1945年8月6日・8月9日の広島、長崎を皮切りに世界各国の爆発事故地点にてSCP-XXX-JPの集合が確認されました。
以下は調査担当第二班から編成された個別調査班の調査経緯です。
第12調査班調査経緯
上記の調査により、SCP-XXX-JP発生に関与していたと思われるドイツに存在した██機関という研究機関の存在が明らかとなりました。これに伴い、SCP-XXX-JPと関連があると思われる「装置」と呼称される建造物の存在も発覚、その後、そこの研究資料の発見に伴い機関に雇用されていた青年兵士全員の情報の入手にも成功しました。しかし、それら全員を調査した結果一名を除いて全員が戦時中に自殺している事が判明し、詳しい身辺等の記録も抹消されていました。
以下は唯一の生存者である███・█████氏の記録です。
概要: 発見時刻1989/6/11-この時点で███・█████氏は█████の老人介護施設にて療養しており、脊椎部分に銃弾を受けた後遺症で半身不随の状態でした。なお、当時既に███・█████氏の親族等は全員死亡しており、本人の戸籍も別名で登録されていました。
発見当初███・█████氏は一切の会話を行わず、エージェント・ポイットマー等は███・█████氏の保護を行った後にSCP-XXX-JPに関するインタビューを行おうと計画していました。しかし、その直後ドイツ民主共和国24諜報機関「シュタージ」からの妨害を受け、███・█████氏の引き渡しを要求されました。これに対してエージェント・ポイットマーは財団ドイツ支部への協力を要請、ドイツ民主共和国諜報機関長官の███・███氏との会合を実現させ、当時のドイツ民主共和国側は███・█████氏が所有しているであろう██機関に関する情報の抹消とそれを目的とした███・█████氏の引き渡しを要求してきました。それに対し財団側は███・█████氏の所有しているであろう情報の公開規制という条件を提出。3ヵ月間の意見調整の後███・█████氏の保護を可能にしました。
収容後に対象の身体検査を行った結果、腹部内に異物が混入している事が発覚しました。すぐさま財団はこれを摘出し内部を確認。中には樹脂製の袋に入れられた録音テープと暗号と思われる文字列が記入されたおよそ1mの包帯が入っていました。
<録音記録:>
[00:00:00~00:00:35][足音の様な音が響く]
[00:20:44]
「被験体、装置内部での性交を開始しました。」
[00:37:12]
「…人道的などとは最早言ってはいられんな。」
「eve、出産します。」
[01:22:57]
「出産物の収容に当たります。」
「被検体の様子は。」
「確認します。被験体0027、お前の名前は何だ。」
[01:46:09]
「…███・█████。認証番号、046627、1777。」
「目標を識別しろ。」
「はい。」
「認識したか。」
「はい。」
「何に見える。」
「三名の人間です。」
「では、今からそれを攻撃目標と認識しろ。即刻、そこの資料に書いてある通りの行動を行え。」
「はい。」
[約30分以上の間、男性と女性、子供と思われる人間の悲鳴が響き続ける]
[02:06:55]
「拒絶反応もありません。成功です。」
「そうか。」
「しかし、今回のケースは稀でした。副産物の数が計17体います。」
「別に驚くことではない。あの女型の怪物を見つけた時からもう私達の常識は覆された。」
[1分間のノイズ音]
「主任。アーネンエルベ・オブスクラとSSオカルト諜報部の特使が…。」
「すぐ行く。」
<記録終了>
暗号分析結果
発見物概要:頭部:顔面の垂れた皮膚-全長3m。複数の眼球を確認。口内の第大臼歯、第一大臼歯、右犬歯および側切歯の喪失および摩耗。頭髪平均長さ5m。
腕部:上腕-2m、前腕-2m
脚部:平均的人体特徴と一致
乳房と女性器の有無から性別は雌であると思われる。現在、抽出プロセスの明確なメカニズムは判明していない。127人の被験体との性交に成功。拒絶反応無し。以上を上層部に報告されたし。
発見された資料により「装置」に組み込まれていたと思われる異常体の存在が発覚しました。なお、対象の所在は未だ判明していません。しかし、ドイツ郊外の██████にて「装置」が建設されていたであろう地点の割り出しが行われ、それらしい残骸が発見されました。
追記: 以下は2017年に確認された事案XXX-2017-████の記録です
<事案XXX-2017-████>
概要: 事案XXX-2017-████はサイト-333にて行われたSCP-XXX-JPの集合事案です。当時、サイト-333では███・█████氏の収容を行っており、事案発生の10日前から老化による衰弱が激しくなっていました。その後、突如容体が急変、医療スタッフによる延命処置が行われました。その時、世界各国のSCP-XXX-JPが消失。それと同時に治療中であった███・█████氏の近くに全SCP-XXX-JPが出現しました。スタッフはすぐさま機動部隊とセキュリティー担当者に報告。SCP-XXX-JPは███・█████氏に対して何かを囁くような行動を行った後、███・█████氏は背中をのけぞらせながら複数人の人間の声と思われる音を発声し、その後SCP-XXX-JPは消失。これを境に███・█████氏の容体も安定しました。
現在、███・█████氏は███歳ですが、以前容体は安定しており意識も健在です。しかし、経験してないであろうSCP-XXX-JPの集合が行われた事故現場の状況や被害者全員の氏名、家族構成、死亡原因、死亡時の状況やその瞬間の死亡状況などのすべてを記憶している事が判明し、現在これらの原因究明が行われています。なお、証言内容を分析した結果およそ[編集済]名の被害者の記憶を保有していることが分かりました。
2017年現在もサイト-333にチケットを送付した人物の特定には至っていません。筆跡鑑定も███・█████氏の物とは一致せず、これに関して███・█████氏にインタビューを行いましたが回答は得られませんでした。
第12調査班調査経緯
第12調査班はSCP-XXX-JPの起源の明確化を目的に編成された12個作られた調査班の内の一班です。当初、調査担当第二班は財団に送付されたチケットに記述されていた████・████管弦楽団についての調査を行っており、しかしこれらに該当する楽団等は発見できず、使用されている言語から調査をドイツ語圏の国に限定することを決定しました。
この報告を受け、財団は12個の調査班を編成し現地に派遣。第12調査班にはエージェント・ポイットマーが隊長として任命され、合計5名の調査員をドイツ担当班として現地に派遣しました。
ドイツ調査団の報告書
調査報告書第一項 1986年8月11日 エージェント・ポイットマー記
今日現地に到着した。ひとまずは拠点を見つけてそこを中心に調査範囲を広げる。第二班の報告では████・████管弦楽団なる物は存在していないことが既に判明しており、ここでは████・████という人名の調査に尽力するという方針でまとまった。一先ずはこの名前と戸籍を照らし合わせることから始める。途方もない捜索に繋がることは百も承知だが、まずは足掛かりとなる物が欲しい。兎に角、行動あるのみだ。
調査報告書第二項 1986年8月27日 エージェント・ポイットマー記
戸籍調査を実施したが該当する人物の発見には至らなかった。もしかすると実在する人物、もしくは人の名称ですらないのかもしれない。その他の調査班の報告と照らし合わせても可能性は低そうだ。これが調査の進展に繋がればと期待はしたが、そう簡単にはいかないらしい。どうにかしてこれが一体何の名称なのかを明らかにしなければならない。この結果を受け、我々は調査部署を二つに分けることにした。主に現企業や宗教団体、その他組織の名称、俗称、総称の可能性を考慮した部門と、旧時代のそれらの分野を担当する部門でそれぞれ分担することにした。個人特定の調査よりかは広範囲になるがある程度の指針を決められることに違いはない。今後の進展に期待する。
この調査報告書提出の後、エージェント・ポイットマーは旧ドイツの情報や兵器関連の調査を担当しました。結果、調査開始から二カ月後、以下の調査報告書が提出されました。
調査報告第三項 1986年10月15日 エージェント・ポイットマー記
二か月間の調査の末、第一次世界大戦半ばに設立された██機関という研究機関の存在が明らかとなった。なお、この研究機関は既に解体されており研究内容などの内部情報に関わる記録等も全て削除されていた。唯一発見できた記録は「高純度の兵器開発が目的であった」ということだけで、またこの██機関を設立した当時の研究者全員の頭文字を利用し別称として████・████と呼称されていた事も明らかとなった。なお、この研究機関は第一次世界大戦終戦直後に凍結されており、その存在も隠蔽されていたと思われる。その後の消息も定かではなく、今後はこの研究機関の全貌を明らかにすることが最優先事項となるだろう。
この調査報告書によりSCP-XXX-JPと旧体制時代のドイツとの関係が示唆されました。
この報告の後、エージェント・ポイットマーはその他の隊員と共に██機関に収容されていた人物や雇用されていた研究者の捜索を開始。捜索期間は5ヵ月を有し、結果、██機関にて研究者として就労していた、初期メンバーとは異なる人物数名の記録を発見しました。なお、これらの人物は機関の初期メンバーの実子にあたり、概要は国家社会主義ドイツ労働者党が主権であった時代のドイツ政府が保有していたと思われる雇用記録を切っ掛けに発覚。この発見に伴い第二次世界大戦勃発のおよそ6年後に██機関は国家社会主義ドイツ労働者党に吸収され再稼働していたことが判明しました。
また、再稼働後には多くの政治犯や犯罪者として逮捕された人間を収容し、それとはまた別に多くの青年兵士を雇用していた事も明らかとなりました。
なお、青年兵に関しては全員がおよそ6ヵ月の期間のみ雇用され、機関を退役した後全員が軍司令官や指揮官へと昇進し戦闘における多くの功績を残していた事も判明。この兵士に関する記録は旧体制時代での秘匿事項として扱われ、現在もこれに該当していた人物の情報は消去されていました。なお、第二次世界大戦終結後、██機関はすぐさま解体されたことも判明しました。
この資料の発見後、調査班は発見された研究者の行方の捜索を開始。結果、研究員の内1名が██機関解体前に国外逃亡を働いたうえで機関内部で行われていた研究資料等を持ち出していたことが判明しました。因みに、その他の研究員全員に関しても調査を行いましたが、全員が終戦後の裁判にて死罪が確定し既に刑が執行されていたことも判明しました。
発見された研究資料等は過去に旧ソ連政府が所有していた事が明らかとなっており、エージェント・ポイットマー等は直ぐにソビエトへと調査拠点を移転。資料の入手と共に件の研究者が敵国に対して情報を流布していた事が明らかとなり、この時期を境にドイツ側の戦線維持が崩壊、同時に一名を除いた元青年兵全員が詳細不明な事象の後に自殺および不審死していた事が判明しました。これに伴い研究施設のあった地点も発覚、第12調査班はすぐさまドイツ ████へと移動し既に廃屋となっていた施設とその内部に設置されていた詳細不明の機械群の発見に至りました。なお、これらの機構は全て故障または大きく損壊しており、完全に機能が停止していました。
そして、この発見に伴い機関の研究していた「装置」と呼称される大型機械の存在も明らかとなりました
以下はその研究資料の抜粋です。
第██回 実験報告書███項
████年 █月 ██日
[内容の殆どが削除されている]被験体への施術は██████████、[削除済]。
物理的手法の限界を[削除済]。████0997
・173571-1(♂) 施行日:█月█日
結果:死亡 死因:前頭葉████・17763-2(♀) 施行日:█月██日
結果:死亡 死因:後頭葉███[以下140ページにわたり、死亡したと思われる200名の被験者のリストが続く]
今回の実験を[削除済]。結果[削除済]。
よって、これらの根本的解決には至らないと判断する。「感情」の除去、これの認識を医学的にではなく、██的観点でのアプローチを試みなければ、[削除済]。
[以下、全て削除済]████████の開発へ[削除済]、[削除済]。[削除済]、[削除済]。これを指揮官に伝達されたし。
███第3司令部宛
████年 █月 ██日 ████発見に伴う研究目標の拡大への要請[削除済]遺跡の発掘に伴い、██████が発見されたと報告を受けた。よって、████████開発における予算拡大の許可を申し出たい。
担当:[複数名の人名。研究者の物と思われる]
臨時主任研究員:████・███を予定。
[削除されているが20ページに亘って何らかの写真が添付されていたと思われる]
返信 ███第3司令部より
████理論の提唱、████法における実績を考慮し、████・███氏を本プロジェクトの主任研究員に任命する。
以下、██機関における全研究、行動は███第3司令部の管轄となるが、これらの内容に関しては全てを許可するものとし、██装置の開発に注力されたし。████理論の確立・・・・・・・・・・・完了
[削除済]・・・・・・・・・・・継続
場所:█████ ██████
装置開発に伴い[削除済]の雇用を検討。
以降、発見物はeveと呼称する。
研究レポート███項
███・████記 ████年██月█日
「感情」の抽出による副産物の処分方法について検討する。青年兵への効果は覿面である。
試験運用期間を20日に指定。
結果:試験運用に用いた既に遺棄決定していた被験体12体の殺傷に成功。恐怖値、動揺値共に0。兵士育成の効果もよく表れている。現在の実績からも指揮官、司令官への昇格は適当であると提言する。
「感情」の抽出における判断能力の向上、恐怖などの██における弊害の除去をも可能にしている。████・███プロジェクトは軌道に乗っているものと思われる。副産物の収容は現在███████にて行われている。司令部による殺処分も検討されているが、兵士への影響が詳しく判明するまでこれを保留にしたい。
被験体での再度実験を要請する。████年██月██日
被験体での実験を行ったところ副産物の死亡と共に被験体も死亡した。よって、今後も副産物の収容は継続するべきだと提言する。
報告書第███回
████・████プロジェクトは成功と思われ、各戦場において多くの功績を残している。しかし、それに伴い副産物の狂暴化が進んでいる。████・███氏の見解では、██抽出後も兵士と副産物の間には█████的結合が残存していると発言している。今後、これらの解決策を[ここで文章が途切れている]
以下は旧ソ連政府が配布したと思われる指令書の一部です。
指令
目標:█████および異能生物らの解放。敵司令部の排除が本作戦の目的である。
これが成功したならば、敵国の前線維持は崩壊するであろう。
同氏らの活躍に期待する。
・
・
「梁野博士。」
僕はやっとのことで彼を見つけた。
「……ん? ああ、『野々村』君。おはよう。」
博士を探す回るという行為。このサイトに配属され、彼と共に仕事をするようになってからもう何度目だろう。それもこれも、皆、この梁野武一という男の「癖」の所為だ。
今日も博士は廊下で寝転がっていた。この人はいつもそうであり、決まった場所に留まっていることがほぼ無い。その為、僕のように提出期日の迫っている書類の受け渡しを行う際に苦労する人間が後を絶たないのだ。その御蔭もあって、今じゃ配属したてのはずの僕の方が、他の職員よりもここいらの道に詳しくなってしまった。
「……おはようじゃないですよ。どれだけ探したと思ってるんですか。」
「ああ、それはそれは。」
この前だって別の職員が博士を探しまわり、挙句の果て、このサイト内で遭難してしまうという事件が起きたばかりだ。その職員が迷っていた時、当の本人がいた場所は会議室の机の下だった。この話を聞いた時、僕はその職員に大いに同情したのをはっきり覚えている。
ここへ来たばかりの頃は確かに驚いた。なにせエージェントに博士を紹介された時、案の定、彼は廊下で寝ていたのだ。しかも、丁度女性職員にセクハラまがいの行為をしている最中。彼は女性職員の足首を掴んだまま、引きずられて大爆笑していた。
自分の上司になるかもしれない人物のプロフィールぐらいは頭に入れていた。だから、僕は一時期は主任研究員にまでなった『立派な』職員だと言う勝手なイメージを持って、梁野博士の元へと向かったのだ。誰であろうと、そのような経歴を持っている人間だと知ったら、優秀な人間でかつ人格者であるという理由のない人物像を思い描いてしまうものだろう。しかし、結果はそれとは全く正反対だった。当然、僕はそのギャップに面食らってしまった。
「いや、ご苦労をかけたね。暇つぶしに本を読んでたらいつの間にか寝ちゃってたよ。」
「暇つぶしって……頼まれてた仕事はどうなったんですか? 」
僕は彼を探していた本来の目的を伝えたつつ、小脇に抱えている報告書の入ったファイルを持ち直した。
「頼まれた書類? ああ、うん。はいこれ。」
そう言って梁野博士は書類の束を取り出す。電話帳ほどもあるこのA4の束を何処にしまっていたのか、僕には皆目検討がつかない。僕はそれを受け取り、それぞれの書類をめくりつつ、じっくりと中身を確認する。
「……終わってますね。」
「終わっていたからこそ、暇だったのさ。」
そもそも、何で廊下でここまでの仕事ができるのか。自分のデスクで働いている自分がバカバカしくなる。こんなの納得できるわけがない。僕はそんな気持ちに加え、何か虚無感にも似た感覚を抱きつつ書類をファイルへとしまった。
だが、内心こんなことになるだろうと予想はしていたのだ。確かに、梁野博士はいつも廊下で作業していて、就寝の時ですらこのサイトの何処かで寝転がっている。それなのに、どういうわけか仕事だけはまともに終わらせるのだ。一体いつ、どこでそのような作業をしているのか。全く持って不思議であり、僕のような「ごく普通の」職員からしたら謎以外の何物でもない。このことに関して、理不尽と思っている職員は僕だけじゃないはずだ。以前、博士のこれらの行動を叱咤した主任研究員がいたが、博士の仕事の早さに勝てずに結果を残せなかったという事件以来何も言わなくなったのは記憶に新しい。
「……仕事が終わっているのなら別にいいです。でも博士にはちゃんとしたオフィスがあるじゃないですか。決まった場所にいてくれないと、正直探すのが面倒です。」
僕は博士に言った。これを言うのも何度目だろう。もう伝えたところで、彼が自分のオフィスで仕事をすることなんて無いと分かっているのに。本当はもっと、強い口調で声を大にした言葉をぶつけてやりたい。だが、そんなこと彼は何も気にしていないといった顔で聞くのだろう。本当に、何も気にしていない、何も感じていないという顔で。
「そう言われてもねえ。ここが一番落ち着くんだよ。」
博士は先程僕から言われた小言に対する返答をした。やはり予想通りの受け答えだった。その顔は、いつもと同じ穏やかな笑顔だ。
しかし、この人は本当に不思議だ。
僕がここに配属されて彼の下で働き出してから、彼が誰かを叱ったりだとか、誰かに対して何か文句を言ったりだとか、とにかく人に対して何か感情を爆発させた姿を一切見たことがないからだ。少し問題になるようなセクハラまがいの行為は良く話題には上がるが、彼が誰かに対して好意以外の何かをぶつけている姿など、断言出来るほどに一回も無い。そして、また不思議なのが逆に彼が誰かに何かをされたとしても、彼の中にある相手に対する好意の様なものが無くなることが決してないということだ。つまり、誰かを嫌いになるということが無い。コーヒーを服にこぼされた時も、悪口を言われた時も。大げさなことと思われるかもしれないが、彼はたとえ殺されそうになったとしても、その自分を殺そうとする相手にすら好意を抱いていると伝えるだろう。それほどまでに梁野博士という人物は、何かが人と違うのだ。
「……落ち着くとか、落ち着かないとか、関係無いでしょ。僕は困るって言ってるんです。」
僕は少し怒気の混じった口調で博士に文句を言った。しかし、相変わらず彼は何を言われても変わらない。
彼は僕と出会ってからずっと同じ調子で話し、同じ態度で接してきた。彼の僕に対する対応はあの時から全くと言っていいほど変わっていない。機械と触れ合っているとまではいかないが、声の調子、態度、身振り手振り、それらがまるで統一されているかのような印象を受ける。いや、僕だけじゃない。僕以外の人間とも、この彼の雰囲気は変わらない。まるで、器用に皆を平等に扱っているように。全てが平均化され、全てに好意を持っている。しかもその好意すらも平均化されていて、寸分の狂いもないのだ。そんな人間が本当にいるのだろうか。全ての人間と、完璧なまでに平均的に接することの出来る人間が。
ふと僕は足元に視線を移した。先程から博士が読んでいた文庫本がそこに置いてあったからだ。よくよく見れば、その本はとてもぼろぼろな状態で、紙が茶色に変色していた。一体いつから読まれているのか想像もできないほどにだ。表紙に印刷されたタイトルが目に入る。僕はそれを読んだ。
「……人間失格? 」
「ん? ああ、これか。これはね。」
博士の表情が少し物悲しげなものに変わる。この人がそういった感情を表に出すのを見たのは、僕が知るかぎりではこの時が初めてだ。
「私の半生のようなものだよ。」
「……半生? 」
彼は言った。人間失格が半生だと。 僕は頭に疑問符が浮かんだ。恐らく、あからさまに理解出来ていないといった風貌になっていただろう。そして、僕は少しだけその発言について考えてしまったのだ。
それほど壮絶な人生を生きていたのか、この人は。もしくは、登場人物と自分を重ねてる? 一体誰と。無難に行けば、恐らく主人公だろう。主人公と同じ人生。ふと、件の小説の大まかなあらすじを頭の中でなぞる。しかし、いや、今の博士からは想像できない。この人の人生。この人の人生?
「別に、この中の誰かに自分を当てはめているわけじゃないよ。」
「え。」
「ただ私は、これと共に生きて、これと共にここにやって来た。それだけ、私はこれと付き合い、それに費やすための時間が多かったというだけさ。」
まるで、僕の考えを見透かされたようだった。以前もこういったことがあった。僕が、心のなかでとどめた博士に対する悪態を、彼はそのまま口に出して再現してみせた事件だ。まるで、僕のことを、僕よりも知っているかのような物言いで、博士は言うのだ。その時だけ、僕は博士がまるで人間じゃないかのような錯覚に陥る。
「そうだ『野々村』君。」
「あ、はい。 」
僕は先程の思案を止め、唐突な呼び止めに何とか答えた。
「今日、新たに収容されるオブジェクトの一回目の実験が行われるんだ。君はここに来て間もない。だから、まだ収容手順の流れとかよく分かっていないだろう。それの見学がてらに連れてきてくれって主任が言ってたんだ。どうだろう。」
博士はゆっくりと起き上がり、僕の顔を見つめる。
「はい。分かりました。」
僕は二つ返事でその誘いに応えた。
「あ、それと最後に一つ。」
僕らが歩き出すと同時に、博士は再度口を開いた。彼が立ち止まると同時に、僕も立ち止まった。僕はそれに返事をする。僕の先を歩こうとしていた彼は、背を向けたまま話を続けた。
「今日の『子』は、私が見る限りとても怖がりだ。」
「……はい? 」
「気をつけ給え。わけが分からなくなって暴れだした子供ほど、扱いのむづかしい者はない。」
その時、僕はまだその言葉の真意が分かっていなかった。
「私は、『全ての他者』を愛しているんだ。」
僕は脇腹を押さえながら、痛む体に耐え悶絶していた。しかし、そんな僕の存在などには目もくれずに博士は喋り続けていた。
「だから、君のことも愛しているんだよ。」
サイト内の収容区画手前の廊下は辺り一面血の海となっていた。そこら中に人間だった物が散乱している。それらは既に肉片へと成り果て、一部ではゲル状に変異しているものまであった。視線を移せば、頭部と内臓が片隅にかためて置いてあるのが目に入り、ついこないだまで食堂で談笑していたはずの同僚たちの死体が山積みにされているのだ。暫く気絶していた僕は意識が鮮明になってはじめて、この光景を目の当たりにした。そして、その凄惨さからその場で吐き出してしまった。吐瀉物の中に交じる胃液の苦味が僕の舌を襲う。涙が滲み、ただ苦しいという感情だけが僕を支配していった。
護送中のオブジェクトが逃げ出すなんて。サイト内の事故。講習でも非常事態に備えてどう動けばいいかよく理解していたつもりだったが、ここまで凄まじいものだとは思いもしなかった。今日だけで、一体何人の人間が死んだのだろう。こんなにも簡単に人が死んでいくものなのか。誰にも気付かれない極秘施設の中で、こんな戦場が存在していたなんて。何人かの職員は生き残ってはいる。だが、ほぼ死にかけと言ったほうが正しいだろう。ある者は助けを呼ぶために悲痛な叫びを上げ、ある者は無くなってしまった両足を引きずったまま逃げようとしている。そのあまりの衝撃的な状況に、僕は思いの外、素直にその結果を受け入れることが出来てしまった。抗ったところで、どうにも出来ないという絶望が僕を飲み込んでいったのだ。
さきほど僕はそのオブジェクトによって壁に投げつけられた。その所為で今はこの血溜まりの上で腹ばいになって倒れている。体中に痛みが走り、まともに動くことすら出来ない。
死というものがすぐ目の前にある。生まれて初めての、本格的なそれを僕は感じた。
「君は凄い。これだけのことを、一瞬でやってのけたんだから。」
梁野博士が誰かと話している。僕は霞んでいる視界の中で、それを確かめた。その博士の声を頼りに、僕は何とか目と頭を動かした。
「……でも、これは君が好きでやったことなのかい? そうじゃなかったら君は本当に可愛そうな子だ。……ああ、かつて『他者』として認識していた者達のことも愛していたよ。だけどね? それも結局、死んでしまっていたらどうやっても愛することが出来ないみたいなんだ。……私は、まだそこまでには到達できていないらしい。悲しいね。私は。」
『他者』という言葉がとても引っかかった。博士の言うその言葉には、とてつもなく冷えきった物が根底にある。僕にはそう思えてならなかった。
この惨劇の中で、彼はどうしてこうも、いつもと変わらない平然とした態度で誰かと会話が出来るのだろう。そもそも、先程からしゃべっている内容自体が僕には理解し難いものだった。分からない。情報が少ない。いや、違う。分からないんじゃない。分かりたくないと言ったほうが正しいのかもしれない。そう思うと、僕のぼやけた頭でも嫌な想像ができてしまった。他に誰も居ないのなら、僕以外で会話を試みようとするものがいるとすれば、その答えはひとつだけだ。
「ん? やあ、『野々村』君。生きていたのか。私は嬉しいよ。」
博士が僕の存在に気がついた。その嬉しいという言葉が、どこと無く遠くを見て、恐らく僕のことを心配しているのではなく、そうすることが正解なのだという理由で行っているのだと感じた。
「……博士……一体、何を……。」
「彼女と話していたんだ。見給えよ、この光景を。彼女一人でやったんだ。どうだい? 凄いだろ。こんなことを一瞬でやってのけてしまうなんて。彼女は素晴らしい力を持っているよ。だけど、どうやらこれは彼女が望んだ結末ではなかったらしい。だから、私は彼女を慰めてあげていたんだ。だって可哀想じゃないか。……おっと、そうだ忘れていたよ。」
おもむろに博士は僕の業務用の携帯電話を僕の白衣の内ポケットから抜き取った。そして、先程の朗らかな口調とは打って変わって、とても真面目な言い方でこの惨劇についてを上層部に連絡した。周りでは、未だに阿鼻叫喚の声が鳴り響いている。
可哀想という博士の言葉が出てきた瞬間、僕は動けない体で心だけがざわついた。彼の口調は、本当に変わらない。いつもの日常を謳歌するときと全く同じなのだ。
僕の近くに博士が擦り寄り、倒れている僕を起こした。僕の背中を支え、壁が背もたれの代わりになるように座らせる。そして、僕は見た。博士と並んでいる、この惨状を創りだした当人を。そこにいる存在を明確な言葉で言い表すのにふさわしい言葉がある。それ以上でも、それ以下でもない。
「化け物かい? 」
博士が、まるで僕の心を見透かしたかのようにそう言った。まただ。また、この感じだ。僕のこの気持とは裏腹に、博士のその顔は本当に穏やかだった。
「確かにそうかもしれない。だけど、この子はただの臆病な『女の子』でしか無いんだよ。『野々村』君。それ以上でも、それ以下でもない。そうは思わないかい? だからこそ、彼女のこの行いを私は肯定してあげなくてはならない。じゃなきゃ、この子は自分の心を壊してしまう。君も、ただやったことを責められてるのは好きじゃないだろ? それと同じさ。そう、全く同じなのさ。」
「でも……こいつは、みんなを……。」
その瞬間、博士の表情が変わった。先程からの穏やかなものから一変し、そこには一切の感情の起伏も存在しないのだ。まさに鉄仮面だ。人間味というものが、消えて、無くなってしまったのだ。
「……『野々村』君。」
梁野博士が僕の顔に彼自身の顔を近づける。距離はほんの数センチ。彼は両手で僕の顔を掴み、ぐっと僕と自分自身との距離を縮める。
「私は、私の生涯を全くそれとは無縁なもので統一してしまった。だからこそ、私はそれを取り戻さなければならないんだ。私は皆を愛さなければならない。生きとし生けるものを、ずっと、心から愛し続けなかればならないんだ。私の『母』に注げなかった愛を、今こそ、私の中に創りださなければならないんだよ。じゃなきゃ、じゃなきゃ私は、きっと、恐ろしいモンスターになってしまう。やっと、やっとここまで来たんだ。私は、あそこにいる『彼女』も愛しているんだよ。『君』のことも愛しているんだよ……! だって、そうだろ……! 」
博士の目が、僕の目を見続ける。その目からは、何も感じられなかった。虚無。それが妥当だろう。空っぽなものが何求めたとしても、所詮は叶えられないのだ。僕は、その眼差しからそれを強く感じ取った。
いつの間にか周囲の声は止んでいた。というよりも、皆が梁野博士の言葉を聞いていたのだ。先程まで、殺戮の限りを尽くしていたそれも動きを止め、そこでは今の博士の悲痛な叫びだけがこだましていた。
博士は一旦僕から視線を離し、自身の周りを見回した。皆の視線が彼を見つめている。皆が皆、博士の先程からの文句に対して、恐らく僕と同じことを思っているのだろう。
博士は再度僕の方を見る。その顔は先ほどと変わって、いつものように笑っている。
「だから、私はここにいるんだよ。『野々村』君。 」
博士は最後にそう言って、何も言わなくなった。
機動部隊の介入により、事態は収拾された。僕と梁野博士は、この事件においての複数人いる内の生存者として保護された。そして、その後事件の概要について色々と聞かれた。当時の状況、オブジェクトはどのようにして人を襲ったのか。その他、なにか気が付いたことはなかったかなど。大体一時間ほどこれらの質問が続き、担当の職員の方と話して、僕は取調室を出た。扉を開けたそこには、僕と交代するのを待っていた梁野博士がいた。僕の出てきた取調室の向かいにあるソファーに彼は座っていた。
「終わったのかい? 」
博士が訊いてきた。僕は声を出さずに、小さく頷く。博士は、そうかと言って軽快に立ち上がり、僕とすれ違って部屋へと入っていった。横目で見たその顔は、相変わらずいつもと変わらない表情だった。
梁野博士に関しては、あくまで脱走したオブジェクトの活動を一時的に制御していたという名目で、ある意味今回の事件の功労者として扱われたらしい。だけど、僕はそうは思えない。あの人は、普通の人間とは違う。決定的な何かがずれている。あの、いつも温厚そうな顔に隠した物が、あの時、一気に漏れだしたんだ。僕にはそう思えて仕方がなかった。
「・・・だから、私は、ここにいる。」
博士が最後に言った言葉を復唱した。博士がここにいる理由。博士が、ここに自分の意志でいる理由。僕は少し放心的な動きをしながら、サイト内の廊下を歩いていた。一応の向かっている方向は僕のデスクのあるフロアへと続いてはいたものの、その足取りはおぼつかない。
僕は考えた。博士の言った言葉の意味を。
「私は全ての『他者』を愛している。」
僕はその言葉を思い出し、ふと後ろを振り返った。このサイトの、財団のとても無機質な廊下が延々と続いていた。
僕は思う。多分、あの人は、壊れているんだ。
これは私の勝手な言い分だ。ある意味、自分勝手な独白だ。君はこれを聞いてくれてもいいし、聞き流してくれても一向にかまわない。君からしたら、取るに足らない話かもしれない。もしかしたら、聞く勝ちすら無いかもしれない。だが、私が話すことだけは許してほしい。君に伝えたいんだ。
私は、小学校の頃の担任の先生からよく叱られていた。入学して、暫く経ってからずっとだ。恐らく、いやほぼ確実に、『彼』は私の事が大嫌いだったのだろう。『彼』だけじゃない。他の『教員』、『生徒』も、皆、私を嫌っていたはずだ。いつものように職員室に呼びだされ、私は扉を開けた。私は何も思っていないかのような表情を浮かべて、その呼出が、何を意味しているのかもわかっていないような風貌だった。
「何でお前はそうも生意気なんだ。」
これが『彼』の常套句だった。丸いメガネのレンズ越しから、『彼』の怒りに満ちた視線が私を襲った。口調こそ丁寧だったが、その眼差しは十分に私を罵っていた。
それとは正反対に、私は自分自身の表情に一切の躊躇いも映さず、ただ『彼』の顔をまっすぐに見つめているだけだった。あまつさえ、今自分が一体何について怒られているのか、それすら分かっていなかったんだ。その結果、『彼』の顔はより険しい物へと変わる。客観的に見ても、それはそれは恐ろしいものだったのだろう。生憎、私にはその怖さが分からなかった。『彼』のその表情から、私は『彼』の中にある黒いドロドロとした物がにじみ出ているような錯覚に陥った。恐らく、これは単なる怒りという感情ではない。もっと生々しい、今の私の年代の人間には決して向けない物だ。あまりにも具体的過ぎる負の感情そのものを、私は残酷なまでに真正面からぶつけられたんだ。『彼』の顔が、そのドロドロとしたもので覆われていく。今にも、『彼』が座っている椅子から立ち上がって、私にその握りしめた拳を振り落とそうとしているようだった。
私はそれを見透かしていたのかもしれない。自然と『彼』の、恐らく無意識に握りしめられた拳に目が行く。『彼』もそれを察知したのか、『彼自身』もそちらに視線を移す。我に返り、先程までの顔を改める。あくまで理知的な人間であるというカモフラージュを実行したんだ。ドロドロが引いていく。引いていくだけで、『彼』の心の奥底へと戻っていった。
『彼』が何故、私に対してそのような感情を抱いたのか。想像することは容易だった。たかが一人の子供が、大人の自分に対して全て知っているかのような態度で、同等の立場で物を言ったからだ。まさに正論を言われ、皆の前で赤っ恥をかかされた。複数の生徒に嘲笑された。しかも、それが一回や二回ならいざ知らず、この職員室に私を呼び出す度に。最早、怒りなどはとうに超え、それは憎しみにも等しい物になっていたことだろう。汚い言葉を使うのならば、私は『彼ら』からしたら殺したいほど憎い糞餓鬼だったに違いない。『彼ら』はあくまで教師という職に就いている。私があの時点で生きていられたのは、その役割が『彼ら』に課せられていたからにすぎないんだ。
「生意気だ。」
子供の時はこう思われていたほうが良かったのかもしれない。世の中には、生意気な子供などいくらでもいる。そう呼ばれて、そうカテゴライズされていたほうが、私にとってそれが安寧の地へと変貌していたに違いない。しかし、時の流れというものは残酷で、正直だ。無慈悲にそれは加速していき、いつしか私の『他者』との違いを浮き彫りにしてしまった。
そう、君も知っての通り、私は他の『人間』とは少し違う。見た目とか、なにか特異性があるとかじゃない。問題なのは、私の心だ。
私は『他者』というものを細分化して認識することが出来ないんだ。私にとっては『他者』という物は皆が皆平等であり、それ以上の何かへと分類することが出来ない。
私からしたら、例えその『他者』が年長者であろうとも、自分よりはるかに年下であろうとも、何億という財産と地位を持っていようとも、路地裏で泥水を啜りながら生きていようとも、皆、ただの『他者』としか認識できない。男か女か、その個人の情報というものまでは何とか頭で整理することはできるが、それから先は何もわからないんだ。
そして、私は『彼ら』から特別なものを見出すということも出来ない。人が誰かに何かを感じるということは、その誰かがその人にとって何かしらの特別な存在へと昇華しているからだ。それがたとえ憎しみであろうとも、愛であろうとも、友情であろうとも、ただの『他人』という認識から脱しているのには変わりは無く、だが、先程も言ったとおり、私はその特別な人間というものを『造る』事が出来ない。全ての人間が平等に見えてしまうがために、憎しみも、怒りも、愛さえも『他者』に向けることが出来ないんだ。
私には母がいた。私からしたら、『母親』というレッテルの貼られた『他者』でしかなかった。勿論、私はその『母』から生まれた。お腹を痛め、一人で私を育ててくれた。多分、『母』は私を愛してくれていたのだろう。しかし、私は『母』のその思いに応えることが出来なかった。想像してみて欲しい。世間では私にとって『母親』、『家族』とされている『人間』だが、私にとったら『赤の他人』でしか無く、そんな『人間』と24時間ともに生活するという状況を。この現状を苦痛言わず、なんというのだろう。自分の価値観が、明らかに普通の人間と違うということを常に突きつけられているのだ。自分にとって、本来大切な存在であるはずの『家族』という物がこうも無機質なものに見えてしまう自分という存在が、その当時はとてつもなく恐ろしかった。冷血な鬼に思えた。ホームドラマを見て、『彼ら』のまね事でもしようかとも思ったが、それも駄目だった。どうしても私には、この『母親』という存在が、全く持って取るに足らない、ただそこにいるだけの存在にしか思えなかった。
自分に絶望した。愛を知らない、いや、人を愛することが出来ない、誰かを、家族でさえ愛することの出来ない自分に。
私は一応は人並みに恐怖することはあった。しかし、それは自分自身に何かしらの危害が加わる可能性が発生した時だけだ。自分の死に直面した時、社会的地位が転落し生きていくことが困難になった時。『他者』には何も感じない。『他者』から受けた被害に関しては何かしら思うかもしれないが、それをいざ『他者』に向けようとした途端に何も思わなくなる。正確に言えば、その『他者』へと向けられた嫌悪、怒りのような感情がその他の『他者』へと分散しているのかもしれない、そんな感覚だ。私にとって『他者』は皆平等だ。何かしら『彼ら』から突出するものは私には無い。だからこそ、もたらされた現象に対する怒りなどは存在するが、そこから先は有耶無耶になってしまうんだ。
私が中学校に進学すると同時に、『母』は死んだ。重い病を患っていた。気づく筈がない。私にとったら、『彼女』は『他者』だから。『家族』とすら認識できていないから。リビングに倒れている『彼女』を見て、私が最初に思ったこと。
「・・・だた、この人は死んだんだ。」
それ以上でもそれ以下でもない感情だった。いや、感情と呼ぶには些か冷たすぎた。
まるで流れ作業をするかのように私は救急車を呼んだ。受話器を取り、流石に今の落ち着いた態度でこれを知らせたら私が『彼女』に何かしたのではないかと疑われてしまうと危惧し、慌てて電話をかけたという演技をした。葬儀の日も、私は内心何も思っていなかったが、参列者の『人間』に涙を流しながら礼を言った。
「なんで、『彼ら』は泣いているのだろう。」
演技をしながら私は思った。そして、そう思ってしまっている自分が、化け物のように思えた。
私は冷酷なのではないか。感情を保たない、化け物なのではないか。私以外いなくなったアパートの一室。その中の洗面所で、鏡に映った自分を見つめながら自分に問いかけた。
『母』が死んだんだぞ。鏡面に立っているもう一人の私に言う。お前は、本当に何も感じないのか? 全ての『人間』が同じに見えるからといって、人が死んだことに対して何も思わないのか?
私は、戸棚の中に入っていたカミソリを取り出した。
「今、鏡に映っているお前も、僕からしたら『他人』なんだろ? なら」
右手でしっかりとそれを掴み、自分に首筋へと持っていく。ゆっくりと刃をあてがい、力を入れていく。まだ押し付けているだけ、切れはしない。ここで、一思いに手を引いてしまえば、簡単に楽になれる。私はそう確信していた。それに、案の定、鏡に映っている『自分』も、私は『他者』として認識しているようだった。これは好都合だ。こんな化け物、消えてなくなれ。私は右手を引いた。
しかし、それは何者かの手によって阻まれた。手首をひねられ、握っていたカミソリが床へと落ちる。私は驚いて、背中から倒れた。後頭部に激痛がはしり、歪む視界の中で私は私の右手を掴んでいる手の持ち主を探した。
「・・・なんで。」
そこにあったのは、私の左手だった。私は意識などしていなかったのに、左手が勝手に動いた。防衛本能。自分の命を守るための反射だった。死ぬことすら出来ない。私という存在は、私の死すらも否定した。『他者』を均一化し、そんな『他者』というものから私を隔離しているにも飽きたらず、私自身は、私の最後の救いすらも、無慈悲に奪いさってしまった。
私は『他者』に対しては恐怖などは覚えない。しかし、自分の事に関しては違う。私は、この時ほど自分という生き物が、気味の悪い、怪物に思えたことは無かった。鳥肌が立ち、嫌悪感にまみれた。吐き気すらも覚えた。まるで、生体を保存するプログラムで動いているかのようなこの冷静過ぎる動作に、私は私自身により一層の冷酷さを痛感させられた。
私はそれから勉学に逃げた。学問というものは『他者』とは違い、私の中の人間らしい感情を呼び起こしてくれたからだ。努力すれば、それが点数となって返ってくる。その達成感というものに私は病み付きになっていったんだろう。そんなことを繰り返していく内に、私は大学の助教授という立場になっていた。友人なども作らず、いや、正確に言えば作れず、ずっと一人で。『他者』という存在には特別な感情は持たなかったが、孤独感というものは人並みには感じていた。ある意味、私の中の新たな発見だった。この時からだろう。自分を分析し、自分に関する発見をすることをライフワークにしていたのは。
皮肉な話だ。一時期は、『他者』からもたらされるかもしれない被害を恐れて、普通の人間らしく振る舞おうとしていた時期もあったのに、それを止め、この私の『他者』という物の見方の改善を諦めてしまった途端にこの地位を手に入れてしまったのだから。
しかし、私のこの特性が役に立つことがこの頃になって判明した。それは『他者』に対する観察眼の異常な鋭さだ。私は『他者』という物の認識が常に平等になる。しかし、だからこそ『他者』という存在を見た時に、何ら偏見や情報の偏り、感情という物を蔑ろしてそれを観察することが出来きた。結果、その『人間』の仕草から伺える心情の変化や、本人も気がついていない癖などが手に取るように分かった。お陰で、心理学などの学問の深いところまで精通することが出来た。これもまた、皮肉な話だ。
ある意味、その時の生活は安定していたかもしれない。しかし、相変わらず『他者』の認識は変わらなかった。人に物を教えると言う立場で、言動こそは何の違和感もなく『生徒』に受け入れられてはいただろう。だが、全ての『生徒』が同じ風に見えているのでは話しにならないのは事実だった。結局、私は『他者』というものを認識する力がないのだ。このような『病人』が、人に物を教える立場にいていいのだろうか。安定こそしていたものの、私の中の心のモヤは広がっていくばかりだった。毎日が苦悩だ。私自身の『欠損』を自覚し、それをひた隠しにしながら取り繕って生きる。一歩間違えれば私は、私の目的のために『他者』を排除するという行動にも出てしまうのだろう。所詮は平等な『他者』でしか無く、それに対し何かを感じているわけではないんだから、何の躊躇いもなくそれを実行するだろう。そんな不安感に苛まれた。平等に見えてしまうからこそ、一人減ったところでと言う思考に到達してしまうのではないかと言う恐怖だった。
またも、私は逃げるように海外へと出た。休みを貰い、心身を労ると言う名目で飛び出していった。正直、どこへでも良かった。『他者』というものが存在しない場所へさえ行ければ、たとえそれがジャングルの奥地であろうとも。どうせなら、ずっとこのまま誰もいない場所で生きていっても良かったのかもしれない。そうも思ったが、「現実的ではない」という私の理性の声が聞こえた。だが、これは私の人生の中での大きな転機だった。
私はそこで出会ったのだ。『異形』に。『人ならざる者』に。
私はその瞬間、またも自分に新たな発見をした。私は、この『異形』と呼ばれるであろう存在すらも『他者』と認識してしまった。
『異形』は私を見ていた。私は、『異形』に対し、一切の恐れも抱かなかった。ただ落ち着いて、『他者』として見続けた。
私は驚いた。その『異形』が存在していたことだけではなく、自分自身のこの特異性の行き先にだ。頭では分かる。こいつは、人からしたら恐ろしい生き物だ。行動パターンから、人を死に至らしめる大きな力を持っていることも明白だった。だが、私は動じなかった。否、動じることが出来なかった。静かな水面のごとく、そこには一切の波もなかった。だが、そこにはただの冷たさだけではなく、何か穏やかな暖かさを持つものも確かにあった。私はそれを感じた。私の胸の中の何かが飛び跳ねる。鼓動か? 血流か? 違う。これは心だ。私の心が踊っているのだ。しかも、それの直接な原因が、この『異形の他者』によってだ。この事実が、私に感動をもたらした。初めての感覚に、私は膝から崩れ落ちた。嗚咽にも似た声で、私は泣いた。何故私は泣いたのか。証明されたからだ。
「私は・・・・私は、化け物なんかじゃなかった・・・! 私は、誰も愛せないわけじゃなかったんだ・・・・! 」
そう、私は誰も愛せないんじゃない。誰か『一人』を愛せなかっただけなんだ。この『異形の彼女』を見て、私は確信した。私は、『全ての他者』を愛することが出来るのだと。偏見など持たない、公平な愛を。純粋な愛を。皆を愛することが出来るのだ。
私はその『異形の彼女』に関するレポートをまとめた。何故、このような行動に出たのかは私にも分からなかった。もしかしたら、「科学者の知的探究心」と呼ばれるものがそうさせたのかもしれない。学者など、なりたくてなったわけではなかったのに。私はあまつさえ、『彼女』が私の住んでいる場所でどのようにすれば快適に生活できるかに付いても考察した。私のこの観察眼がこのような形で役に立ったのは大変喜ばしいことだった。
私はもう冷酷な化け物などではない。私は全てを愛せるんだ。
私は、ここに改めて言おう。声を大にして。
「私は全ての『他者』を愛している。」
私は言った。私の周りには『他者』だった者達とまだ『他者』であり続けている者達が散在している。真っ赤に染まったその場所で、私はその中心に立っている。そして目の前にはか弱い『少女』。この惨劇を生み出した張本人だ。
「可哀想に。」
「怖かっただろう。」
「君は悪くない。」
こう伝えることが『彼女』にとって正解であり、愛を持って接することに繋がるのだろう。これが正しい。私にとっての愛。『彼女』に与える私の最上の愛だ。
「だから、私はここにいるんだよ。『野々村』君。」
そう。だから私はいるんだ。私の愛がその証明だ。愛してる。全てを愛している。
その思いが、私の口をふさいだ。心地良い。これが愛なのだ。皆の視線が愛おしい。
私は、全てを愛しているのだ。
私は、会話というものが苦手だ。それは何故か。そもそもの前提が違うからだ。
私はいつも、相手と自分との距離を心がけている。立場の違いを常に重んじ、どの位置に立てば相手は私を恐れるのか、何を持っていれば相手は私に屈するのか、それの試行錯誤を繰り返しているのだ。私が発する言葉は、それらすべてが一方通行で、ただ相手にぶつけられ、そして、その言葉は相手の「知識」へと直接齎される。「言葉」は「知識」だ。私は、相手のその「知識」を探る為に、相手の頭の中にある情報という「知識」を、「言葉」で釣り上げているだけなのだ。
意思疎通とはかけ離れている。最早、それは会話ですらない。それが私の仕事だ。私は「釣り師」なのだ。それが、「尋問官」という仕事なのだ。
そんなことを言うと毎回、皆が口をそろえて、そんな事あり得ないと言う。恐らく、皆は勘違いしているのだ。この仕事に必要なのはコミュニケーション能力などではなく、如何に上手い腹の探り合いをするのかであって、お互いが気分よく話すためのものなどではない。こんなものに、会話など最初から必要とされていないのだ。そして、これは何もにも覆すことの出来ない真実なのだ。
サイト内尋問控え室
「…お疲れ様です。八家さん。」
「…お疲れ様です。」
同僚が部屋の中へと入ってきた。自動ドアの機械音が、コンクリートで出来た物静かな部屋の中で響く。ドアの開閉に合わせて、天井にある蛍光灯が悲しげに点滅する。やはり、配線の接触が悪いのだ。他にも、箒に、テレビに、キャスター付きの椅子に、その機能の少しが欠落している物が多く点在している。この部屋には、壊れている物が多すぎる。
「…動き、無いですね。」
同僚が私に言った。
「…相手は粘る。当たり前のことです。」
私は彼に一瞥もくれなかった。ただ目の前だけを見つめ、紙コップをはめるタイプのカップを片手で持ち上げ、アメリカン・コーヒーを啜る。私のこの無駄に大きな体には、些かこのカップの持ち手は小さすぎるのだ。すっかりぬるくなってしまったコーヒーも、もともとの雑多な味わいにさらに拍車をかけて苦味と酸味を際立たせている。
「もう2日になりますね…。」
「…ええ。」
正直なことを言うと、私は参っていた。その問題の種は、私の目の前にあるマジックミラーの向こうで踏ん反り返った出で立ちを見せつけている、あの輩だ。私が踏ん反り返っていると思い込んでいるだけなのかもしれないが、私はそう思った。
今の私たちとあいつの立場は、本来の姿とは違っていた。本来の私たちは、あれを世間から遠ざけ、見つからない場所に閉じ込め、収容している。あれの管理を行っているのは我々であることに替りはなく、あくまであれは私達の所有物でしか無いはずだったのだ。それがここでの秩序であり、それが覆されることなどあってはならない。だからこそ、私達はそれに努め、より確実となる方法を模索していた。我らが作り出した檻をより強固なものへと昇華させていく。それがここでの義務であり、正義だ。
世界に不変は無い。しかし、私たちは常にそれが不変であろうと努めなければならなかい。
否、ならなかったのだ。
二日前
「…非常事態宣言発令?」
先程まで小さいながらの賑わいを見せていた食堂は、一瞬にして静寂した。皆が皆、次に起こそうとしていた行動を規制されたかのように、文字通り固まっていた。かくいう私も、先ほど頼んだ定食の揚げ物に手を付けようとしていた瞬間だった。
「一体何が…。」
「…地下に収容されていた大型オブジェクトが、脱走したと。」
一瞬、現実味を帯びなかった。だが、その言葉をかみ砕きより理解を深めた瞬間に、背筋が凍った。不快感を伴う、冷たい何かが私の背後を通り過ぎ、笑ったかのようだ。
間髪を入れずに、サイト内の全てのフロアで警報が鳴り響いた。それと同時にアナウンスが流れた。内容はサイト内に在住している全機動部隊の召集、各部署の人間は各自部署に配置するように、という物だった。
サイト内が、一気に慌ただしくなった。ある者は直ぐに現場へと赴き、ある者は関連部署への連絡を行った。それぞれの人間が、己に求められる行動の全力を出し、急ではあるが人間と人間の連携を知らしめるかの如く活動していた。私は、混乱の中にもあるこの組織性という物の優れた部分を垣間見たような気がした。
「八家さん、あなたにも一つ仕事をお願いします…。」
「…人事部のあなたが来るという事は、そういうことですよね。」
私は立ち上がり、速足でその場を離れた。私の仕事は一つだけだ。だからこそ、私は私自身をどこに運べばいいのかを把握していた。
「…尋問室は?」
「A-2、通常尋問室です。」
「分かりました。…相手の様子と、概要は。」
「相手は、今回の収容違反を鎮圧するための情報を持っています。」
「つまり、それを聞き出せと。」
「ええ。」
人部の人から、歩きながらではあるが資料を手渡された。ホッチキスで止められたA4の束が大体3冊ほどで、私はそれにある程度の目を通し始めた。
歩く廊下では、科学者、兵士、セキュリティー担当者等の人間が忙しなく動き回っていた。途中、30人ほどの機動部隊の隊列ともすれ違った。未だに、警報音が止むことは無い。この無機質な建物の中で、数多くの人間が躍動していた。
「…それと、一つ問題が。」
「なんです。」
「今回、相手はある要求を提示していまして…。」
「要求?」
「…ええ。」
「それは、一体どのような。」
人事部の人が、少し口ごもった。私は、少し悪い予感がした。何故、このタイミングで口ごもる。それほど、これから尋問する相手は無茶な要求をしているという事なのか? それとも、相手はそのとんでもない要求に見合うような出で立ちをしている者なのだろうか?
一体何なのだ。私の頭は疑問を孕んだ。
「要求は何なんですか。」
私は再度質問した。
「…自らを開放しろと。」
「…解放?…え、それってまさか。」
私の足が止まった。
「…はい、そうです。…現在、今回の収容違反との関連性や、あれが地下のオブジェクトの解放に加担したかどうかまではまだ調査しきれていませんが、相手は地下のあれの鎮静法を教える代わりに、自分をこのサイトから解放しろと要求しています。」
私は再び与えられた資料に目を通した。そして、そこにはそれに与えられたSCPナンバーと、セキュリティークラス、概要と言った、いつも見慣れた、私達の管理している者達の報告書が同封されていた。
「…相手は。」
私は聞いた。それが、一番大切だったからだ。
「…消しゴムです。」
現在
こうしている間も時間が過ぎていく。私は地下の状況が気になった。
「…八家さん。寝てないでしょ。」
「これぐらい平気です。」
「でも、目の下すごいクマですよ?」
「…今、ここで集中力を途切れさせる訳にはいきません。」
「ですが…。体を壊したら元も子も…。」
「時間がないんです。奴に喋ってもらわなきゃ、後悔するのは我々だ。」
部屋の外が騒がしい。恐らく、救急班か何かの集団が走っているのだろう。何人もの人間の足音が聞こえ、そして過ぎ去っていく。一部は怒号の混じったも声と共にやって来て、そして消える。また、遠くの方でけたたましいブザーの音が鳴らされ、赤色のランプが点滅している様が手に取るように分かる。
「もう、下も痺れを切らしています。」
「…オブジェクトの様子は?」
「今も暴れています。…機動部隊を総動員して抑え込んではいますが、もう持ちません。」
「そうですか…。」
先ほどの尋問を終えてから、およそ15分が経過していた。15分という時間は、一見すれば短いように思えるが、相手からすれば十分こちらの状況を察することが出来る時間だ。早くしなければいけない。しかし、焦って口を滑らせれば、こちらが付け込まれる。そうなったらもうお終いだ。あの喋る消しゴムは己の弱みというものをすべて潰した。そう言った相手は必ずと言っていいほど、こちらの弱みを熟知している。今、心臓のすぐ目の前にナイフを向けられているのは私達だ。
口ばかりが達者なあの消しゴムに私は、正直言って良い様に弄ばれていた。これは、屈辱などを通り越して、最早虚無感すら感じさせる。
私は逸る気持ちを抑えるので精一杯だった。ここで何かを間違えたら、奴をこの世に解き放ってしまう。それだけはなんとしても阻止しなければならない。情報だ。確かな情報が欲しい。
「理事会は…。」
私は同僚に質問した。それを聞いたと同時に、彼は怪訝な顔をした。その仕草から、私はだいたいのことは察した。これでも、人間相手なら何百という数を相手にしてきたのだ。人の心など、手に取るように分かる。
「…最悪の場合は、奴の要求を呑めとのことです。」
私の予想は的中した。
我々は要求されたのだ。あのオブジェクトに、自分を逃がせと。その代わり、奴は私達が欲しがっていた情報をこちらに提示する。そういう、「契約」を結ばされたのだ。厳密には、まだ契約は成立していない。何故なら、我々がその言い分を受理していないからだ。出来るわけがない。皆一同、そう思ったはずだ。私達が、自らの意志でオブジェクトを開放する。そのような行為、許されるはずがない。
それでも、我々は究極に選択を迫られていた。何故なら、奴が隠している情報が今この時に最も求められるものだったからだ。
再び、ドアの開く音がした。私達二人は振り返る。そこには、機関銃を携帯し、ボロボロの防弾チョッキを着ている人間が立っていた。
「地下司令部から、もう待てないと…。」
とうとうか。私はそう思った。それは、同僚も同じだろう。
このマジックミラーの向こう側にいるあれは、今現在、地下の収容施設を脱走しているオブジェクトの鎮静方法を知っている。
最後の決断を迫られている。今、この時の収容違反を収めるために奴に懇願するのか、それともまだ粘るのか。それを求める視線と願いが、私の背中に突き刺さる。
これまでか。私はそう思った。立ち上がり、机に両手をついた状態で首を垂れる。目を瞑り、肩で大きく息を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「…八家さん。」
同僚が私の肩に手を置いた。
「…ええ。分かってます。分かってますとも。」
無力感だけが残る。
そもそも、なんだ。答えは何処にある。消しゴムの弱みとは、一体何なのだ。奴は、会話をすることはできるが、別に何かを食べて生きている訳でもない。生理的欲求もなければ、恐れる必要のある相手もいないのだ。
強大な力を持つ者だけが、恐怖から解放されるわけではないのだと、私は痛感した。全くの無力でかつ無価値に等しい物程、逆に弱みとなる物が極めて少ないという事実が、ここにはあったのだ。
奴はそれを知っていたのあろうか。だとするならば、私たちは全員があの消しゴムにしてやられたことになる。
憎い。奴がじゃない。不甲斐ない自分がだ。
ふと、私はある書類に目を留めた。最早、無意味の産物となり果てた物だが、どうしても視線を外す事が出来なかったのだ。
「Anomalousアイテム…。」
その中の、とある項目がどうしても気になりだした。私にも、その真意はわからなかった、が、まるで頭の中の誰かが、とても大きなヒントを目の前に提示している、しかし、自分はその答えに中々辿り着けない、そんな感覚だった。一体、何が? ここにあるというのだ。一体何が隠されていると? もどかしい。頭の中が、途轍もなくもどかしい。私は、一体どうしたというのだ。私の脳は、私に何を気付かせたいのだ。今私の目の前にある物の項目は、取るに足らない、書いても消えない程度の鉛筆の項目だけじゃないか。それが一体…。
「あ!」
その時、私の脳は火花を散らせた。咄嗟に出た私の声に、同僚も機動部隊員も驚かされた。
そうだ。簡単なことだったのだ。何故、私は今の今まで気が付かなかった。そもそもの根底が間違っていた、私はある大きなを勘違いをしていたのだ。あれは、あくまで消しゴムだ。尋問だからと言って、わざわざあれと人間とあれを比べ、当てはめる意味など無かったのだ。
「八家さん…?」
同僚は、私のことを訝しげに見つめていた。
しかし、私をその視線を無視し、すぐさま管理担当部門へと走り出していった。
待っていろ。今すぐ、お前の土俵に上がってやる。
今やっと、私はお前を知ったのだ。
尋問室内部
さあ、どうする。私はさもそう言いたげに、例の消しゴムの前に立っていた。先ほどまで余裕綽々だっ嘗ての敵は、今やその見る影もない。
私は一言も話さない。沈黙こそが、一番の尋問だからだ。私は、私の持っているカードを、ただ魅せ付けるだけ。しかし、これにこそ、私の真意を脳髄の奥にまで浸透させる最良の方法なのだ。
奴を目で恫喝した。
たとえ、話が出来る奴だからと言って、消しゴムの仁義を失ってはいなかったという事だ。だからこそ、書いたら最後、決して消えることのない鉛筆を目の前にして、奴は確かな恐怖を感じたのだ。
もうすぐだ。私には分かる。こいつは、もうすぐ口を割る。だが、焦るな。焦れば、全てが水の泡になる。
だが、私は内心震えていた。喜びのあまりに、心臓が震えていたのだ。これで、最後だ。私は、遂にこの任務を終わらせることができる。さあ、吐け、全部吐き出せ。
私は遂に、この消しゴムの口を割ることができるのだ。
元地下収容室
私は、嘗て地下収容フロアと呼ばれていた場所を訪れていた。だが、今ここにあるのは、瓦礫と、空の薬莢と、どうしても落すことのできない硝煙と血の匂いだけだ。
脱走したオブジェクトは、沈静化されたのち他の大型オブジェクト収容施設へと移送された。結局、何故あの収容違反が起きたのかは分からず終いだ。あの消しゴムも、もう口を閉ざしまっている。恐らく真相は永遠に闇の中だろう。
一体、どれだけの人間がここで死んだのだろう。どれだけの悲しみが集約されたのだろう。今思えば、あっという間の出来事だったかのように錯覚する、ことも出来る。が、実際にあの場にいた時の私は、確実に一生分の時間を過ごしていた。それ程までに壮絶で、魂が加速した世界だったのだ。
「…八家さん。今日もいらしてたんですか。」
同僚が、私の背後から声をかけてきた。山積みにされたコンクリートの塊たちを足場替わりにし、地上から降りてきたのだ。最早、エレベーターも階段も瓦礫で埋もれてしまった。その為、地下から開けられた大きな穴のみが、ここへと繋がる通路の代わりとなっている。
「お疲れ様です。」
私は言った。
「お疲れ様です…。それにしても、相変わらず酷いですね…ここは。」
同僚は、思わずハンカチで口元を抑えた。当然だ。普通の人間では、ここの匂いには耐えられないだろう。
だが私は、決してそのような事はしなかった。いや、する資格が無かった。
「…私は、一体あの二日間、何をしていたんでしょう。」
己の目に、この場所を焼き付けながら私は言った。
「…八家さんは、十分尽力されました。あなたがいなかったら、恐らく、もっとひどい収容違反が発生していたでしょう。」
「…もっと、早く終わらせることも出来た…。」
「…もう終わったことです。それも、比較的最小の被害で…。今は、この現状を素直に喜びましょう。」
とても、悲しげな声だった。彼もまた、この惨状を見て心を痛めているのだろう。
だが、私は少し違った。
「…もう、失敗しません。」
「…え?」
「…私はもう、二度と、間違いを犯しません。」
私は、この場所に向かって軽いお辞儀をした後、地上へと向かって歩みを進めた。
「…八家さん?」
「戻りましょう。…まだ、やらなければならない仕事があります。」
あったかもしれない本当の言葉
20年以上前のことだ。私は、その昔バイク好き同士のサークルに所属していた。知り合い同士が集まって自分の愛車の自慢をしたり、どこか外食したりといった友達の延長線上のようなもので、当時の私達は大学の中でいつも馬鹿ばかりしているそんなありふれた連中だった。
ある日の集まりの帰りだった。その日、私達は大きな渋滞に引っかかり立往生をしていた。交通事故か何かが起きたことによる交通規制だった。当然、走りたがりだった私達はこのままここで固まっているよりかはマシだと思い、遠回りでもいいから今すぐ動けるようにと横道に入っていった。だが、それが大きな間違いだった。
それから、暫く私たちは走り続けた。だが、何かが可怪しかった。当時、その道は田端さんが先導していて、田端さんにとっても地元だったし、私達もそこの道には慣れていたはずだった。だが、行けども行けども、いや、行けば行くほど、見知らぬ道に迷い込んでいった。その内、人気もない山奥のような場所に行き着いて、挙句の果てに嵐がやって来た。どうにかして雨宿りをしようと近くを探しまわった結果、使われていない古びた木こり小屋を見つけた。私達はそこに駆け込んだ。そして、あいつに出会った。
どんな奴だったかは良く覚えていない。唯一覚えているのは、奴の周りだけやたら涼しかったということだけだ。薄暗くて、顔も見えなかったが、背格好は私らと同じぐらいで、何故かバイカーだということだけは分かった。
私達十二人とその男はすぐに打ち解けた。どこを走ったことがあるのかとか、チューニングはどうしているだとか。その時点で私達は、そこで寝泊まりするのを覚悟していた。
それから夜も更け、暗さがいっそう増して来た時、男はある話を切り出した。あいつは言った。「実のところ、ここへ来る途中で自分の愛車が壊れてしまったんだ」と。優しかった黒田さんはそれに深く同情して、「じゃあ、帰りはどうするんですか?」と訊いた。男は言った。「それをどうしようか困っているんです」と。私たちは話し合った。誰かが彼を後ろに載せていくかとか、花瀬はその時自動車修理の仕事を手伝ってたからどうにか出来ないかという話にもなった。だが、肝心のバイク自体が谷底に落ちてしまったんだと言われ、皆で肩を落とした。すると、男は突然こう言った。「俺達でそれを作らないか?」と。
最初、私たちは唖然とした。急に何を言い出すんだこいつは。皆がそう思った。だが、男は大真面目な感じだったし、それに、何故か奴の周りの冷気が強くなっていった。それから、激しい雷が何回も鳴り響いて、それと同時に男は立ち上がった。小声で、だが確実に人の声ではない声で何かを唱え始めた。かと思うと、私たちは全員気を失った。
それから気が付くと、いつの間にか朝になっていた。まず、あの男がいなかった。跡形もなく、出て行った形跡もない。外は晴れていた。陽の光が小屋の中へ差し込んでいて、そこで初めて部屋の全貌が明らかとなった。皆で驚愕した。床には血で大きな絵が描かれていた。私たちは何がなんだかわからなかった。
ふと、私は右手の親指に痛みを感じた。見てみると、ナイフで少し切られたような傷があり、血が出ていた。そして、私たちは絵の真ん中にある一枚の羊皮紙と、それに押された12個の拇印の存在に気がついた。内容は、見たことも無い字で書かれていて読むことはできなかった。全員が幻覚でも見ていたのか。はたまた幽霊に会ったのか。だが、本当の地獄はここからだった。
あの夜から、既に10年以上経った頃にそれは起きた。一番最初に被害にあったのは芹林だった。この時、私達はとっくの昔に大学を卒業して、芹林は働きながら奥さんと生活をしていた。貧しかったが、とても幸せそうだった。
私はというと、その頃はもう彼らとの付き合いも疎遠になって、通っていた大学の教授として働いていた。だがある日、伊藤から連絡があった。その内容は、芹林が指名手配されたというものだった。
容疑は殺人。殺されたのは芹林の奥さんだった。その死に様は、言葉では言えないほど惨たらしく、最早人としての原型を留めていなかったらしい。そして、心臓だけが抜き取られていたことも聞かされた。
肝心の芹林は失踪していた。そのタイミングなどから、警察は芹林が彼女を殺したんだと目星をつけたそうだった。その知らせを聞いて、私達はあの夜のことを思い出した。
誰かに助けを求めようとも思った。現に、鮎川が警察にそれを伝えた。だが、当然相手にされるわけもなく、あ拘束される一歩手前の状態だった。私も、どうしてか同じ警察署にやって来ていた。何を伝えようと思ったのか。誰が信じてくれるのだろうか。頭では分かっていたが、誰かに吐き出さなければどうにかなりそうだったのかもしれない。
鮎川を宥め、ともに帰路についた。そして、お互いの家族を守ろうと誓った。
しかし、それが甘かった。あの悪魔の力は、想像以上のものだった。
私達はこの24年間、助けを求めることすら出来ず、ただ、愛するものが殺される事に怯えながら生きていくことしか出来なかった。あの時、誰にも信じてもらえずとも、誰かに助けを求めていればよかったのだと心の底から後悔した。己の無力を、喉元に無理やり捻じり込まれるような感覚に襲われ続けた。
芹林の次は舞原、そして植野、次は花瀬と黒田さん。鮎川、██、紀文、伊藤、田端さん、最後に██。皆が皆、順番に、ただ順番に、大切な人、恋人を、妻を、娘を、あの男に奪われていった。
ただ目の前で、私の幼かった娘が慰み者にされ、生きながらにして腸を引きずり出される様を見ていることしか出来なかった。
あのバイクは、私達の愛した者達の苦しみを寄せ集めて生み出された、最低最悪な、クソの様な代物だ。
だが、私達もただ悲しんでいるだけではなかった。
ついこの間、芹林が帰ってきたのだ。私は皆を呼んで、彼を匿った。彼の姿は、最後に見た時とはかけ離れた格好をしていた。頬はこけ、目は窪み、白いひげが伸びきっていて、とても同い年の友人には見えなかった。そして、彼はあのバイクと共に立っていた。
芹林は、あの男からあのバイクを盗み出してくれた。彼は失踪したその日から、奥さんを取り戻そうと必死になっていたのだ。
そして、私達はあることを誓った。あいつから、これを奪い去ってやると。芹林はそれについても調べあげていた。そして、とうとうそれに必要な儀式を見つけ出したのだ。
それは、あのバイクに私達の命を捧げることだった。これは一種のプロテクトの様なものだ。あのバイクの直ぐ側で、私達12人の魂を捧げる。そうすることで、あの悪魔からあのバイクを守るというものだった。
私達はそれを実行した。今更、自らの命など惜しくはなかった。皆であのバイクを回した。死んでからも、執念で、あのバイクのバトンを渡していった。
途中であの悪魔の妨害もあったが、何人かはあのバイクを使って逃げ果せた。そして、とうとう私の元まであれはやって来てくれた。
もう、あいつに渡しはしない。私で最後だ。これで、儀式は完成する。今もなお、あの悪魔は私の近くで無駄な足掻きをしていることだろう。だが、それも終わりだ。あいつの力が弱まっているのを感じる。あれがあいつを強くするためのパーツだったのだ。だが、それも私達が取り上げてやった。いや、取り返したんだ。私達の愛しい人を。最愛の娘を。この提言は、私の最後の、あいつへの復讐だ。
奴は、いかなる手段を用いてもこれを取り返しに来るだろう。既に、奴は自力であのバイクのハンドルに触れることすら出来ないはずだ。だが、奴はきっとあのバイクをを奪いに来る。だから、これを読んでいる誰かにに頼みたい。誰も近寄らせるな。誰にも、あれに触れさせるな。あれは、あいつの力そのものだ。苦痛を糧にして生きる悪魔の武器だ。もう二度と、あいつの思い通りになんてさせてはいけない。
私は最後の時まで、一人の父親として、すべてを全うしたつもりだ。この信念は、決して揺るぎはしない。だからこそ、あなたに託したい。頼む。私の娘を、守ってくれ。
それが、最後の言葉だった。しかし、彼にとって、その言葉を残した男という対象は、彼の記憶にもなく、ましてやそこまでの関心を引くほどの魅力すら残していなかったのだ。
男は、その最後の言葉とともに息絶えた。息絶えるべくして、その場で息絶えたのだ。それが、男が自分自身に課した使命だったからだ。
「…あなたがたとえ、それを誰かに伝えようとしたとしても、私達の耳へと届くころには、その原型はどこかへと消え去っていることでしょう。」
彼は、自身の死とともにその大地に肉体を横たえていた男を見下ろし、そう呟いた。
「…あなたの物語はあなただけの物だ。そして、語り部たちはその真実を隠すことで、その物語の価値を高めることに躍起になる。恐らく、その真実が目の前にあろうとも、彼らはそれから目を背け、あなたの物語に表面的な深淵を齎すでしょう。ですが、所詮はまやかし。でも、いえ、恐らく、あなたの真実はそのまやかしにすら敗北してしまうのです。あなたの物語は、決して語られない。」
彼は、自らの懐に手を伸ばした。取り出したのは、一枚の紙だ。
「だから、私はあなたの語り部となりましょう。あくまで、私は全てを伝えることはしません。それが、物語の心理という物なのですから。」
男は、笑っているようだった。全てを終えたからか、彼の真意が、死した後の肉体に残る残留がそうさせたのか。最早、それは定かではない。定かにできる人間はもういないのだ。そう、いなくなってしまった。何故なら、彼の男は最後の一人だったからだ。
「共に作りましょう。あなたの物語を。」
彼は、その歩みを暗い森の中へと進めていった。そして、その姿はいつの日か思い出すこともできない程の彼方へと消え失せ、二度と戻ってくることは無かった。
おはよう、私は君を愛しているよ。
こんにちは、私は君を愛しているんだ。
こんばんは、私は君を愛しているんだよ?
私は世界中のみんなを愛している。この世の全ての『他者』を愛している。皆が同じに見えたとしても、いや、そう見えるからこそ、私は皆に均等な愛を注ぐ事が出来るんだ。
そりゃあ、私からすればみんな同じようなものだよ。顔があって、目があって、手足があって、足がある。皆そうじゃないか。何か違いがあるのかい? あるのなら教えてほしい。教えておくれよ。
え? ………。化け物?
あれが?
何処が。
あの『子』は、か弱い『少女』だよ。
ただ、人より少しばかり大きくて、歯もみんな尖ってて、爪が鋭くて、ちょっと『他人』を殺しちゃったりするけれど、それだけの『女の子』じゃないか。
私はみんなを愛しているんだ…。そう、みんなをね。ここ頃の底から。
…たとえ、それが底なしの穴だとしても。
たとえ、それが深い闇だとしても。
たとえ、それが永遠に続く旅路だとしても…。
私は『愛さなければならない』んだ。
…君の事も、『愛しているよ』?
心の底からね。