坂枝助手の管理資料室
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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1の収容室にはSCP-XXX-JP-1が出現した収容室が割り当てられます。現在、SCP-XXX-JP-1に関する実験は承認されておらず、監視もセキュリティー担当者を2名に限定して行ってください。

20██年現在、SCP-XXX-JPの再発生に備え単独隔離機動部隊Ω-XXXが編成されています。SCP-XXX-JPが再発生した場合、職員はマニュアルXXX-JPを読了の上、各サイト管理者の指示に従って行動してください。

説明: SCP-XXX-JPは20██/█/█に複数のサイトで同時多発的に発生した異常現象です。現在この現象により、████点のオブジェクトの消失、██名の職員が死亡するいう事案が発生しています。これによりO5評議会は本事案を最重要処理案件であると規定。SCP-XXX-JPの再発生に備え単独隔離機動部隊Ω-XXXなどの特任部署を設置しています。

SCP-XXX-JPの異常性は1体の実体と1つの物体(以下、SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2とする)が収容室内に出現した際に発生し、収容室内で保管されているオブジェクトの消失やそれらの研究、管理を担当していた職員に長時間の嘔吐やパニック障害に類似した精神障害を引き起こします。この際、オブジェクトは塵状の物体へと変化し離散、職員の症状に関してはその担当職員が収容室から離れていた場合でも発生し、これにより職員には重度の内蔵損傷や脳細胞の萎縮等の症状が見られるようになります。これらの現象や症状はSCP-XXX-JP発生が終了しても継続し続け、オブジェクトは完全に消滅し影響を受けた職員は内蔵破損などの重傷を負い、最悪の場合は死亡します。

現在、これらの症状の詳しい原理は未だ解明出来ていません。ですが検死解剖を行った結果、脳内から███████と類似した脳内物質が大量に発見され、これにより脳組織が刺激、破壊されていたことが判明。研究者間では脳下垂体への干渉による異常ではないかと予想されています。
担当ではない職員には何の異常も見られず、この事から、人間の選択が行われと思われます。その為、SCP-XXX-JPはある一定の知能を有する存在によって引き起こされた現象であると予想されます。担当研究者はSCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2の出現が異常性の発生に起因していると推測しており、被害にあった職員の治療と並行して調査を進めています。

出現する実体、物体の特徴
番号 概要
SCP-XXX-JP-1: 黒のスーツと黒のネクタイと思われる衣服を着用したヒューマノイド。表面組織は光沢のある薄い膜上の物体で覆われ、詳細不明な黒色の液体を内包していると思われる。顔面や指と言った細かい身体的構造は全て簡略化されている。
SCP-XXX-JP-2: A4サイズの紙。表面には手書きで収容室に保管されているオブジェクトに関する簡潔な説明が記入されいる。文体は口語的な表現が多く、最下部には執筆者による独白と思われる文章が書き加えられている。

SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2は不特定かつ複数の収容室内の天井部分から落下してくる形で出現し、SCP-XXX-JP-1は首吊り状態と思われる体勢(首部分にあると想定される縄などの物品は一切見られず、出現と同時に空中で静止するという形を取る。)で静止、SCP-XXX-JP-2は収容されているオブジェクトのすぐ側に着地するように落下します。

SCP-XXX-JP-1本体の直接的な実験や研究(解剖、クロステスト等)に関しては現在保留されており、対象が出現した収容室を活用することによって収容状態を維持しています。

SCP-XXX-JP-2に関しては使用されている紙に一切異常な点が見られなかった事から、低脅威度収容ロッカーに保管されています。現在、文章全てに筆跡鑑定を行い、全ての文章が別人によって書かれた物であるとは判明していますが執筆者の特定には至っていません。

補遺1: SCP-XXX-JPは20██/█/█のAM9:36に突如発生しました。当時、これの発生に伴いサイト内で活動していた職員や外部で収容任務に当たっていた機動部隊員、潜入調査中のエージェントが異常性に暴露し、収容途中だった生物型オブジェクトによる█件の収容違反が発生。また、一部ではサイト管理者の不在による機能不全も見られ各サイトや現場でおよそ███万ドル相当の被害が発生しました。

異常は主にサイト-8112、8177、8136、81██、444、1313、666で確認され、この報告を受けO5評議会はすぐさま残った人員によるオブジェクトの再収容を目的とした特別プロトコルΔ-2023を発令。職員数の極端な減少が見られたサイトには待機機動部隊と収容スペシャリスト部隊が急行し、事態の収拾を開始しました。また、再収容の際は各サイト機動部隊の指揮権を財団機動部隊中枢司令部に移行し、最高長官ピーター・ジェイムソン氏による指揮の下各支部機動部隊との連携により鎮圧を行いました。

SCP-XXX-JP発生から約5時間後、各サイトは機能を回復。発生した事案全ての鎮圧が完了し、O5評議会および各サイト管理者はすぐさま状況確認を行い臨時収容プロトコルの作成に取り掛かりました。その後SCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2を収容。臨時管理部門を設置する形で監視体制の構築を完了させました。

以下はSCP-XXX-JP-2に記入されていた文章の抜粋です。

補遺2: SCP-XXX-JP終了後、財団は急遽SCP-XXX-JP調査部を設立しました。調査期間はおよそ1年を費やし、エージェント・ピューマ、エージェント・春本、エージェント・ボルスクら3名が指揮する3班の調査部隊により██県██市の██街にてSCP-XXX-JPの発生と同時期に自殺を行った13名のリストアップが行われました。その結果、これらの人物らは全員が██・███という中小企業の社員であったことが判明しました。

概要: ██・███は19██年代から発足している中小企業であり、当初は流通業界で主流な企業であった█████(20██年現在は破産後解体済)から分派した会社であると判明。██・███は主に貿易業を主軸とした活動をしていたことが明らかとなっており、国外から輸入した家具等の物品を売買することで利益を出していたと思われます。しかし、19██年を境に突如業績が低迷。原因は未だ把握できておらず、一時は会社自体を解体、その後2000年代に再起業していたことが判明しています。

なお、業務に関しては不明な部分が多く、輸入した物品に関しても大半が売却済みでありその直後に紛失しています。ですが、それらの物品の殆どが財団が収容した異常物品である事も判明しており、SCP-XXX-JPが確認された収容室内のオブジェクトとも一致しています。

現在、上記の情報から██・███とSCP-XXX-JPとの関連性が示唆され、さらなる調査が進められています。なお、現地調査も行われましたが、企業があったと思われるビルは既に解体されており、証拠物品等は既に消失していると思われます。

補遺3: 以下の情報はセキュリティクリアランスレベル4以上の職員のみが閲覧可能です。




記事はここで終了です以下はバックストーリーなどをまとめた物です。


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アイテム番号: SCP-XXX-JP
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SCP-XXX-JPと類似する生物の画像

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8118の専用収容区画に収容されます。SCP-XXX-JPには1日に1度の食餌を与えてください。収容室内には2台の監視カメラが設置され、24時間体制で監視されます。

SCP-XXX-JPの担当職員は女性職員のみを起用し、男性職員およびその他のオスの生物との接触を防止してください。実験を行う際はサイト管理者の許可を得たうえで主任研究員である射場 夢子博士と副主任研究員である射場 重光博士に申請してください。

2000/11/7現在、特別プロトコルXXX-JP-Bにより200体のSCP-XXX-JPの収容に成功しています。サイト-8118所属の機動部隊つ-2“患い”はSCP-XXX-JP-Bからの情報を基にさらなる別個体の捜索、収容を行ってください。

特別プロトコルXXX-JP-Bの規定に則り、SCP-XXX-JP-Bには再度射場 夢子博士によるインタビューが行われます。これらの記録を閲覧する場合はサイト管理者の許可を得たうえで閲覧してください。

なお、SCP-XXX-JP-BとSCP-XXX-JP-B以降に収容されたSCP-XXX-JPとの接触は推奨されません。

説明: SCP-XXX-JPは全長162㎝の昆虫綱カマキリ目(学名:Mantodea)と同様の形状をした実体です。SCP-XXX-JPは個体群全体が高い知能を有しており、人類との会話も可能とします。なお、会話をする際は口器内の器官を擦り合せることで様々な音域で発声し、コミュニケーション概念(言語等のコミュケーションツールを指す)の学習に関しては念動力学的(一種のテレパシー理論に起因する)手法を用いることで瞬時に学習し使用します。

SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPの周囲5mの範囲に男性(以下、SCP-XXX-JP-A)が侵入した際に発生し、対象に対して重度の認識災害を引き起こします。この条件下に至った場合、SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JPを自身が最も好意を抱くと思われる容姿の女性であると認識し、即座に発情状態へと移行します。結果、SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JPを自身の居住区画に連れ込み、個体差はありますが最低で2日、最高で約1か月が経過した段階でSCP-XXX-JPとの生殖行為を行います。

生殖行為に至った場合、すぐさまSCP-XXX-JPの体内にある卵が受精15します。その後、卵内部では約6時間で細胞分裂と発生が始まり、およそ2、3日が経過した段階でSCP-XXX-JPは産卵を行います。そして、これらのプロセス完了してから約10分でSCP-XXX-JPの幼体(以下、SCP-XXX-JP-a)が卵殻を壊し始め出現し、この時点で20体程のSCP-XXX-JP-aが活動を開始します。

出産プロセス途中のSCP-XXX-JP-Aに関しては産卵時に大量の興奮剤と類似した物質を体内に注入され、これにより痛覚が鈍化させられます。そして、即座にSCP-XXX-JPによって一部捕食され、産卵終了後は自然治癒力を促進させる体液を投与されながらSCP-XXX-JP-aの餌として長期間活用されます。

SCP-XXX-JPはこれらの工程を円滑に行うため潜伏時は体色を透過させる事で姿を隠し、不可視状態を維持しながら活動します。そして、SCP-XXX-JP-Aとなる男性を発見した際の対象と接触し、増殖を開始します。

現在、SCP-XXX-JP-aの身体的特徴や知能が番となった生物に依存することが確認されています。この事から、SCP-XXX-JPの起源は「他の生物とも生殖が可能な蟷螂型の生物」であり、増殖の過程でより高度な知能と生物的に有利な体格、技能を獲得していったのではないかと研究者班は推測しています。

2000年現在、SCP-XXX-JPは既に複数のコミュニティー(およそ5体で1組)を形成しており、それぞれが生殖階級(生殖行為により個体数を増やす役割)として活動している事が判明しています。また、そのコミュニティー間ではテレパシー理論に基づく情報交換が常に行われており、これによる強固な共同体を形成する事である種の国家形態にも似た社会性を有している事も判明しています。

補遺1: SCP-XXX-JPの存在は1993年から世界各国で発生していた、「何人もの一人暮らしの成人男性が自宅内で不審死する」という事案を切っ掛けに発覚しました。当時、財団はそれらの事案現場にて発見された痕跡からこれらの事案には何らかの異常存在が関与していると予想し、専属の研究部門を設置したうえで調査を開始しました。ですが、SCP-XXX-JP群が有している能力やコミュニティー間の情報統制などにより、SCP-XXX-JPの正確な形態や全体の規模などの把握が出来ていない状態でした。しかし、これと同時期に財団日本支部は主導で機動部隊によるSCP-XXX-JPの細胞採取を行い、採取した細胞からSCP-XXX-JPの小型複製モデルを製造する事に成功。これにより個体の特徴や知能レベル、その他異常性への耐性や有効的な捕獲方法の調査が行われ、当時主任研究員であった射場 夢子博士によってSCP-XXX-JP個体に対するミーム的洗脳と工作員を用いた捕獲作戦が立案されました。

特別プロトコルXXX-JP-B

<特別プロトコルXXX-JP-B>

作戦実行担当: エージェント・拓斗

作戦立案者: 射場 夢子博士

作戦実行機動部隊: 裏工作機動部隊つ-Σ“虚像”

概要: プロトコルXXX-JP-Bは、最初期に収容されたSCP-XXX-JP(以下、SCP-XXX-JP-B)に対するミームエージェントを用いた捕獲および情報収集を目的とした大規模作戦です。

本作戦はおよそ1年の準備期間と4年の実行期間を有し、エージェント・拓斗を作戦担当官に任命し行われました。結果、SCP-XXX-JP-Bの洗脳が完了し、2000/3/12にSCP-XXX-JP-Bの自主収容を目的とした「発見シナリオ0911」、「██県██市の███警察署にて突如SCP-XXX-JP-Bが出現する」という偽装事案の発生に成功しました。作戦終了後、SCP-XXX-JP-Bに対するその他のSCP-XXX-JPに関する情報の聞き出しが行われ、これにより主要なSCP-XXX-JPのコミュニティーが潜伏している地点や現在のSCP-XXX-JPの規模が発覚。この情報を基にすぐさま機動部隊が出動し、複数のSCP-XXX-JPの収容に成功しました。

2002年現在、SCP-XXX-JP-Bのミーム汚染状態は維持されており、今後も情報の引き出しが行われます。なおこの作戦の効果は日本支部理事会、O5評議会も評価しており、本作戦は今後の知的異常生物実体の収容に関するテストケースとしても検討されています。

補遺2: 以下は射場 夢子博士によって行われたインタビュー記録です。




以下は閲覧が制限されています

職員コード
パスワード

「梁野博士。」

僕はやっとのことで彼を見つけた。

「……ん? ああ、『野々村』君。おはよう。」

博士を探す回るという行為。このサイトに配属され、彼と共に仕事をするようになってからもう何度目だろう。それもこれも、皆、この梁野武一という男の「癖」の所為だ。

今日も博士は廊下で寝転がっていた。この人はいつもそうであり、決まった場所に留まっていることがほぼ無い。その為、僕のように提出期日の迫っている書類の受け渡しを行う際に苦労する人間が後を絶たないのだ。その御蔭もあって、今じゃ配属したてのはずの僕の方が、他の職員よりもここいらの道に詳しくなってしまった。

「……おはようじゃないですよ。どれだけ探したと思ってるんですか。」

「ああ、それはそれは。」

この前だって別の職員が博士を探しまわり、挙句の果て、このサイト内で遭難してしまうという事件が起きたばかりだ。その職員が迷っていた時、当の本人がいた場所は会議室の机の下だった。この話を聞いた時、僕はその職員に大いに同情したのをはっきり覚えている。

ここへ来たばかりの頃は確かに驚いた。なにせエージェントに博士を紹介された時、案の定、彼は廊下で寝ていたのだ。しかも、丁度女性職員にセクハラまがいの行為をしている最中。彼は女性職員の足首を掴んだまま、引きずられて大爆笑していた。
自分の上司になるかもしれない人物のプロフィールぐらいは頭に入れていた。だから、僕は一時期は主任研究員にまでなった『立派な』職員だと言う勝手なイメージを持って、梁野博士の元へと向かったのだ。誰であろうと、そのような経歴を持っている人間だと知ったら、優秀な人間でかつ人格者であるという理由のない人物像を思い描いてしまうものだろう。しかし、結果はそれとは全く正反対だった。当然、僕はそのギャップに面食らってしまった。

「いや、ご苦労をかけたね。暇つぶしに本を読んでたらいつの間にか寝ちゃってたよ。」

「暇つぶしって……頼まれてた仕事はどうなったんですか? 」

僕は彼を探していた本来の目的を伝えたつつ、小脇に抱えている報告書の入ったファイルを持ち直した。

「頼まれた書類? ああ、うん。はいこれ。」

そう言って梁野博士は書類の束を取り出す。電話帳ほどもあるこのA4の束を何処にしまっていたのか、僕には皆目検討がつかない。僕はそれを受け取り、それぞれの書類をめくりつつ、じっくりと中身を確認する。

「……終わってますね。」

「終わっていたからこそ、暇だったのさ。」

そもそも、何で廊下でここまでの仕事ができるのか。自分のデスクで働いている自分がバカバカしくなる。こんなの納得できるわけがない。僕はそんな気持ちに加え、何か虚無感にも似た感覚を抱きつつ書類をファイルへとしまった。

だが、内心こんなことになるだろうと予想はしていたのだ。確かに、梁野博士はいつも廊下で作業していて、就寝の時ですらこのサイトの何処かで寝転がっている。それなのに、どういうわけか仕事だけはまともに終わらせるのだ。一体いつ、どこでそのような作業をしているのか。全く持って不思議であり、僕のような「ごく普通の」職員からしたら謎以外の何物でもない。このことに関して、理不尽と思っている職員は僕だけじゃないはずだ。以前、博士のこれらの行動を叱咤した主任研究員がいたが、博士の仕事の早さに勝てずに結果を残せなかったという事件以来何も言わなくなったのは記憶に新しい。

「……仕事が終わっているのなら別にいいです。でも博士にはちゃんとしたオフィスがあるじゃないですか。決まった場所にいてくれないと、正直探すのが面倒です。」

僕は博士に言った。これを言うのも何度目だろう。もう伝えたところで、彼が自分のオフィスで仕事をすることなんて無いと分かっているのに。本当はもっと、強い口調で声を大にした言葉をぶつけてやりたい。だが、そんなこと彼は何も気にしていないといった顔で聞くのだろう。本当に、何も気にしていない、何も感じていないという顔で。

「そう言われてもねえ。ここが一番落ち着くんだよ。」

博士は先程僕から言われた小言に対する返答をした。やはり予想通りの受け答えだった。その顔は、いつもと同じ穏やかな笑顔だ。

しかし、この人は本当に不思議だ。
僕がここに配属されて彼の下で働き出してから、彼が誰かを叱ったりだとか、誰かに対して何か文句を言ったりだとか、とにかく人に対して何か感情を爆発させた姿を一切見たことがないからだ。少し問題になるようなセクハラまがいの行為は良く話題には上がるが、彼が誰かに対して好意以外の何かをぶつけている姿など、断言出来るほどに一回も無い。そして、また不思議なのが逆に彼が誰かに何かをされたとしても、彼の中にある相手に対する好意の様なものが無くなることが決してないということだ。つまり、誰かを嫌いになるということが無い。コーヒーを服にこぼされた時も、悪口を言われた時も。大げさなことと思われるかもしれないが、彼はたとえ殺されそうになったとしても、その自分を殺そうとする相手にすら好意を抱いていると伝えるだろう。それほどまでに梁野博士という人物は、何かが人と違うのだ。

「……落ち着くとか、落ち着かないとか、関係無いでしょ。僕は困るって言ってるんです。」

僕は少し怒気の混じった口調で博士に文句を言った。しかし、相変わらず彼は何を言われても変わらない。

彼は僕と出会ってからずっと同じ調子で話し、同じ態度で接してきた。彼の僕に対する対応はあの時から全くと言っていいほど変わっていない。機械と触れ合っているとまではいかないが、声の調子、態度、身振り手振り、それらがまるで統一されているかのような印象を受ける。いや、僕だけじゃない。僕以外の人間とも、この彼の雰囲気は変わらない。まるで、器用に皆を平等に扱っているように。全てが平均化され、全てに好意を持っている。しかもその好意すらも平均化されていて、寸分の狂いもないのだ。そんな人間が本当にいるのだろうか。全ての人間と、完璧なまでに平均的に接することの出来る人間が。

ふと僕は足元に視線を移した。先程から博士が読んでいた文庫本がそこに置いてあったからだ。よくよく見れば、その本はとてもぼろぼろな状態で、紙が茶色に変色していた。一体いつから読まれているのか想像もできないほどにだ。表紙に印刷されたタイトルが目に入る。僕はそれを読んだ。

「……人間失格? 」

「ん? ああ、これか。これはね。」

博士の表情が少し物悲しげなものに変わる。この人がそういった感情を表に出すのを見たのは、僕が知るかぎりではこの時が初めてだ。

「私の半生のようなものだよ。」

「……半生? 」

彼は言った。人間失格が半生だと。 僕は頭に疑問符が浮かんだ。恐らく、あからさまに理解出来ていないといった風貌になっていただろう。そして、僕は少しだけその発言について考えてしまったのだ。
それほど壮絶な人生を生きていたのか、この人は。もしくは、登場人物と自分を重ねてる? 一体誰と。無難に行けば、恐らく主人公だろう。主人公と同じ人生。ふと、件の小説の大まかなあらすじを頭の中でなぞる。しかし、いや、今の博士からは想像できない。この人の人生。この人の人生?

「別に、この中の誰かに自分を当てはめているわけじゃないよ。」

「え。」

「ただ私は、これと共に生きて、これと共にここにやって来た。それだけ、私はこれと付き合い、それに費やすための時間が多かったというだけさ。」

まるで、僕の考えを見透かされたようだった。以前もこういったことがあった。僕が、心のなかでとどめた博士に対する悪態を、彼はそのまま口に出して再現してみせた事件だ。まるで、僕のことを、僕よりも知っているかのような物言いで、博士は言うのだ。その時だけ、僕は博士がまるで人間じゃないかのような錯覚に陥る。

「そうだ『野々村』君。」

「あ、はい。 」

僕は先程の思案を止め、唐突な呼び止めに何とか答えた。

「今日、新たに収容されるオブジェクトの一回目の実験が行われるんだ。君はここに来て間もない。だから、まだ収容手順の流れとかよく分かっていないだろう。それの見学がてらに連れてきてくれって主任が言ってたんだ。どうだろう。」

博士はゆっくりと起き上がり、僕の顔を見つめる。

「はい。分かりました。」

僕は二つ返事でその誘いに応えた。

「あ、それと最後に一つ。」

僕らが歩き出すと同時に、博士は再度口を開いた。彼が立ち止まると同時に、僕も立ち止まった。僕はそれに返事をする。僕の先を歩こうとしていた彼は、背を向けたまま話を続けた。

「今日の『子』は、私が見る限りとても怖がりだ。」

「……はい? 」

「気をつけ給え。わけが分からなくなって暴れだした子供ほど、扱いのむづかしい者はない。」

その時、僕はまだその言葉の真意が分かっていなかった。


「私は、『全ての他者』を愛しているんだ。」

僕は脇腹を押さえながら、痛む体に耐え悶絶していた。しかし、そんな僕の存在などには目もくれずに博士は喋り続けていた。

「だから、君のことも愛しているんだよ。」

サイト内の収容区画手前の廊下は辺り一面血の海となっていた。そこら中に人間だった物が散乱している。それらは既に肉片へと成り果て、一部ではゲル状に変異しているものまであった。視線を移せば、頭部と内臓が片隅にかためて置いてあるのが目に入り、ついこないだまで食堂で談笑していたはずの同僚たちの死体が山積みにされているのだ。暫く気絶していた僕は意識が鮮明になってはじめて、この光景を目の当たりにした。そして、その凄惨さからその場で吐き出してしまった。吐瀉物の中に交じる胃液の苦味が僕の舌を襲う。涙が滲み、ただ苦しいという感情だけが僕を支配していった。
護送中のオブジェクトが逃げ出すなんて。サイト内の事故。講習でも非常事態に備えてどう動けばいいかよく理解していたつもりだったが、ここまで凄まじいものだとは思いもしなかった。今日だけで、一体何人の人間が死んだのだろう。こんなにも簡単に人が死んでいくものなのか。誰にも気付かれない極秘施設の中で、こんな戦場が存在していたなんて。何人かの職員は生き残ってはいる。だが、ほぼ死にかけと言ったほうが正しいだろう。ある者は助けを呼ぶために悲痛な叫びを上げ、ある者は無くなってしまった両足を引きずったまま逃げようとしている。そのあまりの衝撃的な状況に、僕は思いの外、素直にその結果を受け入れることが出来てしまった。抗ったところで、どうにも出来ないという絶望が僕を飲み込んでいったのだ。
さきほど僕はそのオブジェクトによって壁に投げつけられた。その所為で今はこの血溜まりの上で腹ばいになって倒れている。体中に痛みが走り、まともに動くことすら出来ない。
死というものがすぐ目の前にある。生まれて初めての、本格的なそれを僕は感じた。

「君は凄い。これだけのことを、一瞬でやってのけたんだから。」

梁野博士が誰かと話している。僕は霞んでいる視界の中で、それを確かめた。その博士の声を頼りに、僕は何とか目と頭を動かした。

「……でも、これは君が好きでやったことなのかい? そうじゃなかったら君は本当に可愛そうな子だ。……ああ、かつて『他者』として認識していた者達のことも愛していたよ。だけどね? それも結局、死んでしまっていたらどうやっても愛することが出来ないみたいなんだ。……私は、まだそこまでには到達できていないらしい。悲しいね。私は。」

『他者』という言葉がとても引っかかった。博士の言うその言葉には、とてつもなく冷えきった物が根底にある。僕にはそう思えてならなかった。

この惨劇の中で、彼はどうしてこうも、いつもと変わらない平然とした態度で誰かと会話が出来るのだろう。そもそも、先程からしゃべっている内容自体が僕には理解し難いものだった。分からない。情報が少ない。いや、違う。分からないんじゃない。分かりたくないと言ったほうが正しいのかもしれない。そう思うと、僕のぼやけた頭でも嫌な想像ができてしまった。他に誰も居ないのなら、僕以外で会話を試みようとするものがいるとすれば、その答えはひとつだけだ。

「ん? やあ、『野々村』君。生きていたのか。私は嬉しいよ。」

博士が僕の存在に気がついた。その嬉しいという言葉が、どこと無く遠くを見て、恐らく僕のことを心配しているのではなく、そうすることが正解なのだという理由で行っているのだと感じた。

「……博士……一体、何を……。」

「彼女と話していたんだ。見給えよ、この光景を。彼女一人でやったんだ。どうだい? 凄いだろ。こんなことを一瞬でやってのけてしまうなんて。彼女は素晴らしい力を持っているよ。だけど、どうやらこれは彼女が望んだ結末ではなかったらしい。だから、私は彼女を慰めてあげていたんだ。だって可哀想じゃないか。……おっと、そうだ忘れていたよ。」

おもむろに博士は僕の業務用の携帯電話を僕の白衣の内ポケットから抜き取った。そして、先程の朗らかな口調とは打って変わって、とても真面目な言い方でこの惨劇についてを上層部に連絡した。周りでは、未だに阿鼻叫喚の声が鳴り響いている。

可哀想という博士の言葉が出てきた瞬間、僕は動けない体で心だけがざわついた。彼の口調は、本当に変わらない。いつもの日常を謳歌するときと全く同じなのだ。
僕の近くに博士が擦り寄り、倒れている僕を起こした。僕の背中を支え、壁が背もたれの代わりになるように座らせる。そして、僕は見た。博士と並んでいる、この惨状を創りだした当人を。そこにいる存在を明確な言葉で言い表すのにふさわしい言葉がある。それ以上でも、それ以下でもない。

「化け物かい? 」

博士が、まるで僕の心を見透かしたかのようにそう言った。まただ。また、この感じだ。僕のこの気持とは裏腹に、博士のその顔は本当に穏やかだった。

「確かにそうかもしれない。だけど、この子はただの臆病な『女の子』でしか無いんだよ。『野々村』君。それ以上でも、それ以下でもない。そうは思わないかい? だからこそ、彼女のこの行いを私は肯定してあげなくてはならない。じゃなきゃ、この子は自分の心を壊してしまう。君も、ただやったことを責められてるのは好きじゃないだろ? それと同じさ。そう、全く同じなのさ。」

「でも……こいつは、みんなを……。」

その瞬間、博士の表情が変わった。先程からの穏やかなものから一変し、そこには一切の感情の起伏も存在しないのだ。まさに鉄仮面だ。人間味というものが、消えて、無くなってしまったのだ。

「……『野々村』君。」

梁野博士が僕の顔に彼自身の顔を近づける。距離はほんの数センチ。彼は両手で僕の顔を掴み、ぐっと僕と自分自身との距離を縮める。

「私は、私の生涯を全くそれとは無縁なもので統一してしまった。だからこそ、私はそれを取り戻さなければならないんだ。私は皆を愛さなければならない。生きとし生けるものを、ずっと、心から愛し続けなかればならないんだ。私の『母』に注げなかった愛を、今こそ、私の中に創りださなければならないんだよ。じゃなきゃ、じゃなきゃ私は、きっと、恐ろしいモンスターになってしまう。やっと、やっとここまで来たんだ。私は、あそこにいる『彼女』も愛しているんだよ。『君』のことも愛しているんだよ……! だって、そうだろ……! 」

博士の目が、僕の目を見続ける。その目からは、何も感じられなかった。虚無。それが妥当だろう。空っぽなものが何求めたとしても、所詮は叶えられないのだ。僕は、その眼差しからそれを強く感じ取った。

いつの間にか周囲の声は止んでいた。というよりも、皆が梁野博士の言葉を聞いていたのだ。先程まで、殺戮の限りを尽くしていたそれも動きを止め、そこでは今の博士の悲痛な叫びだけがこだましていた。

博士は一旦僕から視線を離し、自身の周りを見回した。皆の視線が彼を見つめている。皆が皆、博士の先程からの文句に対して、恐らく僕と同じことを思っているのだろう。
博士は再度僕の方を見る。その顔は先ほどと変わって、いつものように笑っている。

「だから、私はここにいるんだよ。『野々村』君。 」

博士は最後にそう言って、何も言わなくなった。


機動部隊の介入により、事態は収拾された。僕と梁野博士は、この事件においての複数人いる内の生存者として保護された。そして、その後事件の概要について色々と聞かれた。当時の状況、オブジェクトはどのようにして人を襲ったのか。その他、なにか気が付いたことはなかったかなど。大体一時間ほどこれらの質問が続き、担当の職員の方と話して、僕は取調室を出た。扉を開けたそこには、僕と交代するのを待っていた梁野博士がいた。僕の出てきた取調室の向かいにあるソファーに彼は座っていた。

「終わったのかい? 」

博士が訊いてきた。僕は声を出さずに、小さく頷く。博士は、そうかと言って軽快に立ち上がり、僕とすれ違って部屋へと入っていった。横目で見たその顔は、相変わらずいつもと変わらない表情だった。
梁野博士に関しては、あくまで脱走したオブジェクトの活動を一時的に制御していたという名目で、ある意味今回の事件の功労者として扱われたらしい。だけど、僕はそうは思えない。あの人は、普通の人間とは違う。決定的な何かがずれている。あの、いつも温厚そうな顔に隠した物が、あの時、一気に漏れだしたんだ。僕にはそう思えて仕方がなかった。

「・・・だから、私は、ここにいる。」

博士が最後に言った言葉を復唱した。博士がここにいる理由。博士が、ここに自分の意志でいる理由。僕は少し放心的な動きをしながら、サイト内の廊下を歩いていた。一応の向かっている方向は僕のデスクのあるフロアへと続いてはいたものの、その足取りはおぼつかない。
僕は考えた。博士の言った言葉の意味を。

「私は全ての『他者』を愛している。」

僕はその言葉を思い出し、ふと後ろを振り返った。このサイトの、財団のとても無機質な廊下が延々と続いていた。

僕は思う。多分、あの人は、壊れているんだ。