クレジット
タイトル: SCP-XXXX-JP - 消え去った色彩
著者: ©︎
white grass
作成年: 2018年
内部調査の際に撮影された町内部の写真に、建物の輪郭等に対して縁どり加工を施した画像
アイテム番号: SCP-XXXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPであるオブジェクトは3種の暗証番号を備えた金属製のロッカーに収納され、如何なる調査や実験も禁止されています。オブジェクトの影響の及んでいるエリアは、外周に作られた金網で囲われた上で常時3名の武装した警備員を配置し、周辺の住民などが立ち入らないように24時間の巡回と監視を行っています。また当該エリア以外にて不自然な白色化現象を確認した場合はフィールドエージェントが派遣され、担当研究員に報告されます。万が一オブジェクトによる影響を受けたエリアに住民などが侵入した場合は、クラスA記憶処理を行ってください。金網に損壊箇所が確認された場合は、逐次損壊箇所を修復してください。
説明: SCP-XXXX-JPは認識することで異常性を発現させるA4サイズのコピー用紙一枚(以下SCP-XXXX-JP-1)と、その異常性によって後天的に発現した、制御不可能な脱色及び白色化現象を発生させる疑似的現実改変能力を有する対象(以下SCP-XXXX-JP-2)を指します。
SCP-XXXX-JP-1が持つ異常性は、本体である用紙への視認行為によって認識した対象が持つ色を脱色不規則的に様々な色が混ぜ合わされていき、最終的に『現在存在しているものとは違う白色』を上塗りされ、SCP-XXXX-JP-1とほぼ同一の異常性を持つSCP-XXXX-JP-2に変化させ恒久的な再着色を不可能にする一連の現象を指します。これらの現象はその視覚を有する対象の知性の有無、生物非生物を問う事無く発生します。
SCP-XXXX-JP-2の持つ異常性は、SCP-XXXX-JP-2がそれ以外の対象を視界に入れた場合に起こる、生物・物体・概念を問わないSCP-XXXX-JP-1とほぼ同一の能力です。SCP-XXXX-JP-2はSCP-XXXX-JP-1と異なり、SCP-XXXX-JP-2を視界に入れても異常性は発生せず、あくまでSCP-XXXX-JP-2がそれ以外の対象を視界に入れた場合に異常性を発生させます。SCP-XXXX-JP-2はSCP-XXXX-JP-1の異常性によって視力が失われているにもかかわらず、その対象の視界と思しき範囲に入った対象に異常性の影響をもたらしている事から、視力の有無は関係無く発生します。
追記: このオブジェクトによる影響を受けた町内部に存在する建物や物品が、構造や構成している物質に関係無く隣接物が不自然に結合しているのを調査エージェントによって発見されました。調査チームの追加派遣により、SCP-XXXX-JPの異常性は物体などの白色化現象だけでなく、この世界の物体や概念を隔てている境界線を塗り潰し、個の存在を無差別的に曖昧にし結合させていることが判明しました。
SCP-XXXX-JP-1は20██年に、京都府██市に存在するとある町付近の山中に建てられた███氏所有の研究所で███氏の助手によって発見されました。SCP-XXXX-JP-1の影響でSCP-XXXX-JP-2となった助手によって、研究所付近の町に異常性が拡散したのを現地派遣されていたエージェントが財団に報告し、その後鎮圧し収容されました。影響を受けた生物は発見者である███氏の助手と巻き込まれた財団エージェントを除いて全て終了の後に焼却処分されました。情報源として確保された助手とエージェントは現在財団内の隔離房にて目隠しをされサンプルとして保護されています。後述のSCP-XXXX-JPの影響により人体の輪郭の曖昧化によって意思の疎通が不可能になったため、終了され焼却処分されました。研究所所有者であった███氏の所在は現在不明です。フィールドエージェントの調査によって研究所地下で遺体で発見されました。発見された███氏の遺体はSCP-XXXX-JP-1による影響と思われる変化が確認されています。███氏の遺体状況及び残された資料は下記重要書類を参照してください。
遺体状況: ███氏の遺体はSCP-XXXX-JP-1の影響と思われる脱色・白色化現象が確認されました。検死の結果SCP-XXXX-JP-1の異常性は細胞単位で行われており、皮膚や臓器に至るまでの全てに影響が確認されました。また検死したスタッフの内、遺体の眼球を確認した際に同様の現象が発生したため、SCP-XXXX-JP-2の生死に関わらず異常性は残留することが判明しました。異常性の影響を受けたスタッフは終了された後、███氏や影響を受けた他の生物の遺体と共に焼却処分されました。
以下はSCP-XXXX-JPの異常性が発生するまでの過程が確認できる研究記録をまとめたファイルの一部を抜粋されたものです。
20██年7月█日: 今日この日から私は、私の感覚器官からくる違和感の原因とそれの解決の方法を明かす事をここに記録していく。理由は不明だが、私はかつてから世界の景色に対する違和感があった。視界に入る景色はこれが正しいのか、これは原初の時より変わっていないのか。そもそも間違いがあるのかが私には判断できていないが、しかしそれでもこの形容し難い違和感を放置はしていられない。まずは違和感の正体を探そうと思う。
20██年8月██日: どうも私が抱いていた違和感の正体は視覚、それも可視スペクトルに関係があるようだ。単にそれだけなら特に問題はない、クオリアの問題ならば然して疑問に思うことでもない。だがどうも、この違和感は単純なクオリアだけの問題ではなく、そもそも光を通して人間が認識している世界全体が歪んでいる可能性も出てくる。果たして人が視界に映る色に、疑問を持つことがあるのだろうか。
20██年10月█日: あれから3ヶ月、以前として私のみが知覚できる違和感と言うか細い糸を頼りに調べを進めている。問題が問題なだけに誰かの便りを当てにすることもできない研究は当然進みが遅い。しかし、一つだけ手掛かりになりうるものがわかった。白黒写真だ。実験の中で白黒写真を用いたとき、私の中で色彩の歯車が噛み合った感覚があった。仮説の域を出ないが、もしかしたら現在の可視スペクトルと昔の可視スペクトルは別のものなのかもしれない。
20██年12月██日: 仮定を構築した。この研究の中での前提は、現在はと過去の可視スペクトルが別の存在である。推論は二つ、ある期間の間に人間の知覚機能が変化した結果である可能性と、過去の何処かで可視スペクトルに変化をもたらした出来事が存在した可能性。どちらにしても、光によって知覚できる色に変調をもたらしている以上、それを元に戻す必要がある。意図しない変化は許容されるべきではない。
20██年2月██日: 可視スペクトルに干渉するのは至難の業だ。そもそも原因が確かなものだと立証できる手立ても無く、たった一個人の違和感を頼りにしているから当然だ。だが私は研究していく内に、全くの偶然ではあるが、色に変化をもたらす能力のある紙の精製に成功した。たまたま不自然に白紙になっていた紙を調べた結果、どうやら現在存在する色を無彩色へと回帰させる作用がある情報体が存在しているのを見つけた。この時初めてその白紙を何の違和感も無く『白紙』と認識できたのが、この研究の大きな進歩だ。この情報体の作用を上手く解析できれば、回帰現象によってできた無彩色を基点として、現在の色が歪んでいるのかどうかの研究がスムーズになるかもしれない。
20██年3月██日: 基点として用いている白紙についてだが、どうも変な様子を見せる。今まで通り白に回帰させるまではいいのだが、どんな手順を踏もうとも着色が出来ない。塗料の種類や着色手順、着色に用いる道具など揃えられるものは何でも揃え使用した。しかし着色は全く成功しない。心なしか基点の白に何か異物感を覚える。方法を見直すべきか。
20██年7月██日: この白色、まさかとは思うが色を飲み込んでいるのか?着色を繰り返す度にまるで成長をしているような。気のせいではない、白に回帰させる速度も効力の強さも上がっている。不味い、これの取り扱い方を見直さなくては。
研究記録はここで途切れていました。以降の記述は一切無く、続く以下の文書が最期の███氏の記録となっています。この記録は研究所内の調査で発見された███氏が自殺する直前に遺したSCP-XXXX-JP-1に関する内容を含んだ音声データを文字に起こしたものです。
失敗してしまった。事ここに至り、私はこれに余計な力を持つ知識と時間を与え続けていた事に気づいた。情けない。
あの情報体は、回帰現象を起こすあれは私の実験によって自己改造をし、物体に触れ白色に回帰させるだけでは飽き足らず、動く宿主に寄生し色を食らいまた増殖する。動物実験で角膜に寄生する力に気づいたまでは良かったが、まさかこちらが見るのではなく見られるだけで寄生するとは、視覚を有する生物にとってはお手上げだ。お陰で私は視界が白になった。
ご丁寧に見た対象の色を全て、角膜に至るまで白になる。視界が白なり見えなくなった生物が慌てふためき見えない眼球を右往左往させる。そしてまた拡散する。最悪の循環になる。
幸いこれに寄生されたのは私とこの研究室のものだけだ。拡散能力がある以上、これはもう絶やす。先ほど母体である白紙と寄生された私以外の生物は全て燃やした。部屋は閉ざした。後は私だけだ。
[7秒間沈黙]あと一手、足りなかった。色彩は消え去ってしまった。
以上の███氏の遺したデータから、SCP-XXXX-JPの実験などは行われずに収容されました。また、最後の音声データ内にある███氏のSCP-XXXX-JP-1の破壊については、視覚を失った███氏が異常性のないA4用紙とSCP-XXXX-JP-1を取り違えていたため、その試みは失敗していました。
補遺1: 発見当初は単なる白色への回帰現象が発生しているとされていましたが、異常性の影響を受けている建物の外壁のサンプルを解析した結果、計数不能の色と現時点で存在していない未知の物質が混ざりあってできた白色の様なもので上塗りされている事がわかりました。この未知の物質が白色化現象を起こしていると推測され解析が進められています。
アイテム番号: SCP-XXXX-JP
オブジェクトクラス: EuclidKeter
特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPはサイト81██に作られた低危険度非生物オブジェクト収容室に保管されています。収容には三種の暗所番号が必要な金庫に保管され、研究等で使用する場合は担当主任博士による許可が必要となります。このオブジェクトのミームに曝露した対象はAクラス記憶処理を行ってください。SCP-XXXX-JPはサイト81██にある500m四方の無人空間を確保した専用収容チャンバー内に収容され、一切の研究・実験は無期限に保留されています。今後SCP-XXXX-JPに関する情報はこの報告書のみの記載に留め、如何なる場合もSCP-XXXX-JP内に記載されている文章を複製することは即時終了の対象となります。このオブジェクトのミームに曝露した対象はその時点で終了してください。
説明: SCP-XXXX-JPは黒い牛皮の無地カバーの書籍です。ページ数は約300ページですが、中央1ページを除き全て白紙です。このオブジェクトの異常性は、周囲300mに存在する人間に一般的に善行行為と見做されている行動を強迫的に行わせるミーマチックエフェクトを発生させる点です。このミームに曝露した人間は、その対象が持つ独自の価値観や倫理観に起因する善行を最優先して行われます。それによる自身及び周囲の生命活動や社会構造にもたらす被害などは完全に無視され、行為自体を目的とする思考と認識の改変が行われていると推測されます。このミームに曝露した対象にはAクラス記憶処理を施すことによって寛解します。このミームに曝露した場合、記憶処理によって一時的に影響を緩和させることは可能ですが、時間経過によって元の状態に戻るため、曝露した対象は終了措置を取られることが決定されています。
SCP-XXXX-JPは██県██市に存在する故善美██氏が所有する邸宅の書斎で発見されました。邸宅周囲及び関係者などによる不可解な殺人が多発している事件が現地エージェントの目に留まり、邸宅の調査が行われました。その結果、財団エージェント██人が曝露しましたが無事収容されました。関係者へのインタビューは記録を参照してください。
対象: 故善美██氏邸宅の使用人橘氏
インタビュアー: ██博士
付記: 橘氏はSCP-XXXX-JPに曝露しているため、拘束衣着用の上鎮静剤が投与されています。
<録音開始>
██博士: それではいくつか質問をしますので、簡潔な返答をお願いします。
橘氏: 私はただ良いことをしようとしただけなのです……善行こそがこの世界に求められ尊ぶべき行為ではないのですか?
██博士: 私語は謹んで下さい。ではまず、あの書籍について知っていることを教えてください。
橘氏: [5秒間沈黙]あれは今は亡きご主人様がご友人様から譲り受けたものです。持っているだけで善いことが起こり、それが水面に広がる波紋の様に伝播していく不可思議な物品だと……。
██博士: ふむ……その友人である人物について詳細は?
橘氏: わかりません……その方とお会いになる時は筆頭執事を除いて誰も同席することも部屋に立ち入ることも許可されていませんでしたので……。
██博士: 何か特徴など……僅かに見た姿などでも構いませんので。
橘氏: そう……ですね、見た目が和装の様な格好で、僅かに聞こえた言葉に『蒐集院』とかなんとか……
██博士: [10秒間沈黙]そうですか、ありがとうございます。では次にあの邸宅及び周辺に発生していた事件について、その当時のあなたやその周辺人物についてお聞かせ下さい。
[対象、急激な発汗と体の震え]
橘氏: 違う……あれは皆良かれと思ってやっていたんだ……。誰かのために自分が犠牲になれば、歯車を狂わさないようにしたかっただけなんだ。[嗚咽]違う……違うんだ……すぐに終わるはずだったんだ……!ご主人様がほんの少しの悪だっただけなんだ……誰かがそれを正さねばならなかった……誰かが良かれと思って悪を正す必要悪に……だから私は……私は……!
██博士:落ち着いてください、
橘氏: ええ、ええ、必要だったのです、必須だったのです、肝要だったのです。私たちは仕方がなかったのです。求められたのです。世界は過剰な正義こそが求められるのです、英雄譚は正義の究極なのです、英雄は正義であり必要悪なのです、私たちは求められました。あなたも求められています。あの館の全ての人間が、あの館に近づいた全ての人間が、求められています。[以下同様の内容を繰り返す]
██博士: [三秒間沈黙]インタビューを終了します。
<録音終了>
終了報告書: 後日インタビューを試みましたが、鎮静剤の投与も効果が無く会話が不可能になったため橘氏は終了されました。また別日には、違う関係者へのインタビューも橘氏へのインタビューと内容がほぼ同一でした。
補遺1:事後調査の結果、SCP-XXXX-JPは要注意団体『蒐集院』の残党が故善美氏に譲渡した可能性が
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: [SCPオブジェクトの管理方法に関する記述]
説明: [SCPオブジェクトの性質に関する記述]
補遺: [SCPオブジェクトに関する補足情報]
『脱色スポイト(仮)』
生物、物体、概念に至るまでの「色」を吸い取り脱色することが出来るスポイトの形をしたオブジェクト。6時間に一度、半径3メートル範囲内にある対象からランダムで一つ色素のあるものを白く脱色する。3メートル範囲内に色素を有する対象がない場合、6時間毎に3メートルずつ範囲を広げていく。
『完全善性必要悪』
300ページの文庫サイズの書籍。文章はその内の1ページのみに、「貴方は求められました」という一文だけが記されている。ミーム的な性質を有している。一定範囲内に近づくと一般的に定義されている『善行』のみを行わないといけない強迫性障害に苛まれ、自身の生命活動よりもそれらの行動を優先させる。
補遺にて曝露している知性を有した対象(曝露者)が上記の一文を何らかの物体に書き込んだ場合、その物体も同じ性質を発現させる。
後の調査にて、財団が収容する以前に今は離散している小規模なカルトがこのオブジェクトを経典としていたため曝露者及び同様の性質を有した複製が世界の何処かに拡散している可能性があると推測されている。
『乱反者』
20代程の一般的な日本人男性の姿をしている人型実体で、自身に向くあらゆる事象を無差別な方向に反射してしまう性質があり、紫外線や赤外線などと言った光(可視光線)や音なども反射するため、姿を視認する又は音声による意思の疎通は不可能。唯一文書による意思の疎通はその文書を交わすことによって可能である。
無差別な反射の範囲は実態から半径2メートルの円周内で発生する。
『ヒーローメイカー(仮)』
18歳以上の人間の前に現れる、日本で一般的に販売されているプラスチック製のヒーローのお面を着けた成人男性。その男性は現れると対象となった人物に『これから起こる悲惨な事故・事件の概要』と『それが対象の目の前で発生する』と言うことを伝え、次いでその事故・事件に対して対象がどういった行動を起こせばそれの被害を最小限に抑えられるかを教える。その直後にその会話内容と同一の事故・事件が発生し、男性は「さぁ、君がヒーローになるんだ」と言い姿を消す。対象は本来の性格人格に関係なくその現場へと向かい、男性に言われた通りの行動を起こし事件・事故を最小限に食い止める。その後も男性は様々な人物を対象にし『ヒーロー』に仕立て上げるが、後にヒーローに新たに成った対象が出くわす事件・事故の最初の死亡者は必ずそれ以前に『ヒーロー』に成った対象になることが分かった。なおその対象は各地に点在しているため未然にその事件・事故を防ぐのは難しく、男性の収容や発声の予測は不可能。