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アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: レストラン「薬叉」跡地の土地及び店舗の権利は財団が保有しています。カバーストーリー"テナント交渉中"を適用し一般人の侵入を阻止してください。地脈の変化が確認された場合、機動部隊ろ-5("陰陽師")が「薬叉」内部の四隅の釈迦が彫刻された柱に対し再封印を施します。
説明: SCP-XXX-JPは、京都市██区のレストラン「薬叉」で発生する短期記憶影響現象です。SCP-XXX-JPは以下のような手順で発生します。
- 客が店員にメニューAを注文する。
- 店員は注文を理解し、キッチンに伝えようとするが、その直前に注文を忘却する。
- 店員が客に注文の再確認を行う。その際、店員は「メニューBとメニューCどちらを注文したか」という旨の質問を行う。
- 客は多少の困惑を見せるが、メニューBもしくはメニューCを改めて注文する。
- 注文が正常に伝えられ、客が最後に注文した商品が届く。
メニューAは全ての場合で、肉をメインディッシュとする限定メニュー(以下、対象メニュー)となることが判明しています。メニューB、メニューCについて規則性は発見できていませんが、対象メニューが選ばれる事例はありません。
全く対処を行わない場合、客が対象メニューを注文した際にSCP-XXX-JPが発生する確率は99.█%です。注文を受ける店員によるSCP-XXX-JP発生確率の有意差はみられません。
SCP-XXX-JP発生時の記憶について、多くの場合店員は何者からか視線を向けられている感覚を覚えたと報告します。客には非常に曖昧な記憶しか残らず、SCP-XXX-JPの発生がクレームに繋がる事例は現在まで確認できていません。SCP-XXX-JPの発生を認識するためには第三者による観測が必要となります。そのため、「薬叉」が2013年2月に開店してからSCP-XXX-JPは高頻度で起こっていたと考えられるものの、財団が事態を把握するまで5ヶ月と言う長い期間を要しました。
補遺1: 以下は、エージェント・斑鳩によるSCP-XXX-JPの初期調査における、録音記録の抜粋です。エージェント・斑鳩は対象メニューを注文した際にSCP-XXX-JPが発生しない場合の調査を行っていました。
調査記録XXX-JP-1- 日付2013/08/03
潜入職員: エージェント・斑鳩(薬叉の客として訪問)
対話相手: 加藤葵(薬叉の店長)
<抜粋開始>
[Agt.斑鳩は店員に運ばれてきた対象メニューのチーズ入り豚とラム肉のハンバーグを食べている]
加藤氏: 店長の加藤です。当店の限定メニューはお気に召して頂けたでしょうか。
Agt.斑鳩: あ、これはどうも。ラム肉は初めて食べたんですけど気に入りました。凄く美味しいですね。
加藤氏: それは良かったです。どの辺りを気に入って頂けたか教えて頂けないでしょうか。
Agt.斑鳩: 独特の癖のある味だなと思ったんですけど、その癖がチーズと上手く噛み合って絶品って感じです。
加藤氏: 本当ですか、そこはかなり工夫した部分なんですよ。
Agt.斑鳩: あの、もしかしてこのメニューで何か気になっている事でもあるんですか?
加藤氏: うーん、実はですね、このメニューは頼む人が全然いなくて売れ残る事が多いんです。
Agt.斑鳩: お店がこれだけ盛況しているのに不思議ですね。
加藤氏: そうなんですよ。テレビとか雑誌でお店の特集を組んでもらった時はお店の売りですって宣伝してるんですけどね。
Agt.斑鳩: 何か心当たりはありますか?
加藤氏: それがさっぱりなんです。お客様に感想を伺うと美味しいと言う感想しか返ってこないですし。
Agt.斑鳩: もしかして、どこかで悪評を流されていませんか?誰かの恨みを買っているとか。
加藤氏: 悪評ですか。他店からの嫌がらせとかあり得ない訳ではないと思うんですけど、どうやって調べたらいいんでしょう。
Agt.斑鳩: 私の知り合いでその手の調査のエキスパート、探偵のような仕事をしている人がいるのですが、もし良ければ紹介しましょうか?
加藤氏: 本当ですか、ありがたいです。
<抜粋終了>
エージェント・斑鳩が対象メニューの一部を持ち帰り成分調査を行った所、料理に使用されていた肉はヒト由来のものと判明しました。そのため、加藤氏に対してエージェント・斑鳩の知り合いの探偵と称して財団のエージェントを派遣して加藤氏と接触させ、身辺調査を行いました。加藤氏はSCP-XXX-JPの現象ならびにアノマリー全般に対する知識を有していませんでしたが、「薬叉」のオーナーが要注意人物として登録されているPoI-5835-JPと判明しました。PoI-5835-JPは要注意団体"石榴倶楽部の構成員1"の一人で、身の保証のために財団と内通している人物です。異常性の調査を進めるため、通例に従いカバーストーリー「集団食中毒」を流布し、「薬叉」を閉鎖する事が決定しました。
PoI-5835-JPはSCP-XXX-JPの収容及び調査に対して極めて協力的な態度を取っています。本事案の動機については「加藤氏を止めるため所持していたアノマリーを改変し薬叉の建築材料として利用した」との証言が得られました。PoI-5835-JPは異常性を持つ鬼子母神像を、加藤氏の母親の形見分けの際に取得したと話しています。改変前のオブジェクトの性質は、一定量の人肉を所持した人物が鬼子母神像を目視すると鬼子母神像から強い敵意を向けられていると認識するようになり、さらに半径10m以内に入ると昏倒し脳に急性かつ重篤な炎症が発生し死に至る物と説明しています。
PoI-5835-JPは鬼子母神像を4分割して「薬叉」の四隅の釈迦が彫刻された柱内部に入れた後に、京都市██区の地脈を利用した呪術的封印を施しアノマリーの性質を大幅に弱化させ、SCP-XXX-JPで観測された現象に改変したと述べています。SCP-XXX-JPは改変前の性質と異なり、脳の炎症など人体に被害を与える現象は確認されていません。
財団はPoI-5835-JPから「薬叉」及び土地の権利を買収し、SCP-XXX-JPの管理及び調査を続けています。PoI-5835-JPはクラスA記憶処理剤によって鬼子母神像、SCP-XXX-JPを作成する過程及びその現象に関する記憶を消去し開放しました。加藤氏はアノマリーの存在を認識しておらず直接関わりが無い事が判明したため、開放した後に経過観察を行います。
補遺2: 加藤氏を解放してから2週間後、加藤氏がPoI-5835-JPの自宅に住所を移しました。加藤氏に対して財団のエージェントが「石榴倶楽部の構成員の関係者」と虚偽の申告を行いながら接触し、加藤氏とPoI-5835-JPとの関係性について得た証言を以下に示します。
加藤氏の証言 XXX-JP-2 日付2013/09/10
私に父はおらず、母親は有名な料理人でしたが、物心つく前に母は失踪し私は養護施設に入っていました。お金も無く職員も厳しかったのであまり楽しい生活ではありませんでしたが、ある時から資産家の佐川と言う方から寄付を頂くようになり環境が良くなりました。私は顔も知らない佐川さんに感謝の手紙を送り、手紙のやり取りを続けました。佐川さんは私にとって唯一信頼できる大人だったので、事あるごとに佐川さんへ手紙を送り相談していました。今思うと良く付き合ってくれたと思います。
ある時、施設の数少ない楽しみの一つ、レジャー中に仕出し弁当が出ました。重箱に入った豪華なお弁当です。中身はハンバーグなど子供の好きな肉料理がメインでした。食べた事の無い味で、世の中にはこんなにも美味しい物があるのかと夢中になって食べました。あの瞬間に私の人生に彩りが生まれたんです。あの感動をもう一度味わうために料理人になったんです。私はその仕出し弁当の事を調べたのですが、弁当は誰かからの差し入れと言う事しか分かりませんでした。手がかりと言えば箸袋に黒い櫛のようなマークがあった位です。大人になってから似たマークのお店を探してみましたが見つかりませんでした。
佐川さんへの手紙に自分の夢を書くと、料理人になるならそのために必要な資金を出そうと言われました。私は流石に申し訳ないと断りました。ですが佐川さんは私の母を知っていたらしく、あの母の子なら絶対に一流の料理人になるから夢の後押しをさせてくれと強く説得されました。最終的に佐川さんのご厚意に甘えて日本で勉強をしてから海外へ修行に行きました。
この後の経歴はテレビや雑誌などでよく出ていたのでご存知だとは思います。腕を磨いて色んな賞を取って一流料理人として持て囃されたりしていました。ただ、料理人として成功はしたものの、あの仕出し弁当の味は見つからずじまいでした。世界で様々な食材に触れてきましたがどうしても同じような味わいの物が見つかりませんでした。
ある時、私が料理長を務めていたレストランに日本人の男性がやってきました。彼は私に日本で料理を作ってくれないかと依頼してきました。断ろうと思いましたが、彼の背広には、あの仕出し弁当の箸袋に付いていたものと同じマークのバッジが付いていました。彼は『石榴倶楽部』の『手塚』と名乗りました。初めて掴めた手がかりだったので、私はレストランを辞め手塚さんに付いていきました。日本に行くと手塚さんの自宅に招かれ、この肉で料理を作って欲しいと頼まれました。その肉はザクロ2、長年探し求めていたあの仕出し弁当の肉の味でした。ザクロの調理に罪悪感が全くなかった訳ではありませんが、夢に比べたら些細な事でした。私はザクロ料理の研究に没頭しました。
当時の味を再現してみると、確かに美味しいとは感じました。ですが、料理とは味だけで決まる物ではありません。不自由無い暮らしを手に入れ料理人生活で舌も肥えた私には、あの頃のような感動を味わう事は出来ませんでした。同じ味で駄目なら昔の味を超えてしまえばいいと私は研究を続けていました。
そんな時に、石榴倶楽部で手塚さん主催の会食の料理人を担当して欲しいと頼まれました。研究の成果を見せると、メンバーの皆さんは大変感動して下さいました。こんなにも美味しい物があったのかと言う感想をいただいた時にふと思ったのです。あれは昔の私の姿ではないかと。自分が感動出来ないなら代わりに他の人にあの感動、それ以上の感動を味合わせたいと思うようになりました。石榴倶楽部のために会食を作っていると、どうしても決まった人以外にもザクロを食べてもらいたいと思うようになりました。
佐川さんに細かい所を伏せてその件の話をした所、自分のやりたいようにやればいいと強く勧められました。手塚さんに相談すると、どうしてもと言うのなら協力しましょうと言ってくださいました。手塚さんは私のために京都の超一等地に店を作ってくださいました。お店の名前は『薬叉』で手塚さんがオーナーとなりました。京都と言うのは特殊な土地柄でして、土地もお金を積めば手に入ると言う物ではありません。あの立地を手に入れるために手塚さんはかなり苦労されたはずです。あの場所で駄目なら他の何処でやっても失敗していたでしょう。
出来たお店は連日大行列でしたが、何故か限定メニューのザクロ料理だけは売れませんでした。ザクロを食べて頂いたお客様に尋ねても美味しいとしか言って頂けず、何が悪いのかと連日店に残ってメニューの改良を続けてはみたのですが、何も変わりませんでした。そんな生活が続いていたある日、お店で集団食中毒が発生しました。食の安全には細心の注意を払っていたつもりでしたが、他の事に気を取られ過ぎて徹底出来ていなかったのでしょう。この時、一流の料理人と言う自信が足元から崩れていくような気がしました。
留置場に入り3何度も取り調べを受けた後に開放されたのですが、お店に行くとすでに閉鎖されていました。お店の中を見ようとしたのですが業者の方に怒られてしまいました。情けない店長ですよね。手塚さんは不在でしたが、手塚さんまで警察の取り調べを受けていた事が分かりました。自分のしてしまった事の重さに耐えきれず、佐川さんにもう自分にはもう料理人を続ける資格は無いと言う旨の手紙を送りました。
佐川さんに手紙が届いた頃でしょうか、手塚さんが息を切らして私の家に尋ねてきました。取り調べの影響で手塚さんの体調は悪そうでしたが、無理をして来られたようです。私が謝ろうとすると手塚さんはそれを止め、「君は至高の料理人だ、私の事は気にせず決して辞めたりしないで欲しい」と言いました。私が混乱していると、手塚さんが今まで隠していた事を明かしてくれました。どうも佐川さんが石榴倶楽部で襲名し名乗っている渾名が「手塚」で、私の知る2人は同一人物4でした。私の母は石榴倶楽部の会員だった時代があったらしく、佐川さんとも仲良くしていたそうです。母は私を産んだ際に人肉食を続けて良いのか悩み、石榴倶楽部と縁を切ったそうです。佐川さんは母が失踪した事をしばらく知らなかったようですが、擁護施設にいた私を探し出し陰ながら支えてくれました。弁当の件も、母が石榴倶楽部で考案していた調理法から再現したらしく、唯一母が残した物を私に伝えたかったと語っていました。
私は自分を恥じました。私の料理はいつも自分のために作っていました。佐川さんはいつも私の事を優先してくれていたのに。私は頭を下げ、今後は佐川さんの下で料理を作らせてくださいとお願いしました。佐川さんは未来ある若者の未来を奪うのは申し訳ないと断っていましたが、私は何度も何度も頭を下げました。佐川さんが「正直に言うと、君が手に入るのなら他の何を捨てても惜しくは無かったんだ」と言って笑顔を向けてくれた時の事を、私は一生忘れないでしょう。
実は私、薬叉でザクロの売り上げが伸びない時、探偵を雇って調べたんです。探偵さんからは売上不振は営業妨害のせいだと説明して頂いたのですが、それだけではあの売れ行きの悪さは説明が付かない気がするんですよ。薬叉ではお釈迦様の像から視線を感じる事がありましたが、あれはお釈迦様が私に「近くの幸せに気付きなさい」と諭してくれたのかなと。今は毎日佐川さんのお世話が出来て、すごく幸せですから。
調査結果により、加藤氏が新たにアノマリーと接触した痕跡は無いため特別な措置は不要と判断されました。
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