対象: D-15879
インタビュアー: ██研究員
<録音開始>
██研究員: では、実験XXX-2から現在までのことを、順を追って説明してください。質問は都度行います。
D-15879: あー、わかった。えーと、SCP-XXX-JP-1? なんか、あの鳥の化け物みたいなやつに捕まって、摘まみ上げられて…いや、うーん、悪いけどこの辺りはよく覚えてねぇな。すげぇ晴れてて…めちゃくちゃ高い所だったとは思う、どんくらい高かったんだろうな。
██研究員: 高度はおよそ600m程度と見られています。SCP-XXX-JPの外観は見ましたか?
D-15879: 高ぇな。ビルの外観は見たと思う。つるつるした感じの、こう、近代的、って感じのやつだった。や、でも、外に引っ張り出されてすぐに飲み込まれたから、よくわかんねぇ。
██研究員: わかりました。続けてください。
D-15879: 続けるつってもな…飲み込まれた後はあんまり…多分すぐ気でも失ったんじゃないか。意識があってもぞっとしねぇけど…。
██研究員: 覚えている部分だけ答えてください。わからない部分や思い出せない部分は飛ばして結構です。
D-15879: んじゃ、目が覚めたとこの話するよ。あれは多分、展望台のとこより高いとこだと思う。屋上っぽい、って言うかあのビルの屋上なんじゃねぇかな。気が付いたらそこにいて…あの化け物もすぐそばにいた。そんときは浮いてなくて、こう、ぺたんって座ってる感じだったか。じっとして何もしてないような、ぼーっとしてるように見えたな。
██研究員: SCP-XXX-JP-1は動いていなかった?
D-15879: 最初はな。でもすぐ動いたよ。しばらく見てたら、ぐいっと上向いて…ちょっと体を揺するみたいにして、んで、勢いよく下向いて、なんか吐いたんだ。塊みてぇな変なもんを、ゲロッて感じで。
██研究員: 内容物は見えましたか?
D-15879: あー…えーと…たぶん人だ。人の一部みたいな…ああ、いや、そんでそんときに気が付いたんだが、その、俺と化け物の居た屋上みたいな場所だけどさ、それでいっぱいだったんだ。多分巣なんだろうな、巣材なんだ、それが。
██研究員: それ、について具体的に言ってもらえますか。
D-15879: だからその、あいつの吐き出した…人間の、一部みてぇな…食べ残し、違う、食べ終わってる…。
██研究員: D-15879?
D-15879: 待ってくれ、難しい…あれは…なんて言ったらいいんだ? なんつーか…溶け残りの人間…? そう、あの化け物が食べられるところだけ溶かし切った、バラバラの残りカスみたいな、そんな感じだ。上半身だけになってたり、頭がなかったり、脚だけ腕だけ、そんなもんが屋上いっぱいに積みあがってた。それで、そいつらは、…バラバラだけど、全部生きてるんだ。
██研究員: 生きている…動いたり、言葉を発したり、していた?
D-15879: ああ。手だけで這いずったり、呻いたり、立ち上がろうとのた打ち回ったり、どれもこれもそんなことをやってたよ。だけど、ひどいのは、恐ろしいのはそこじゃない。全部、ゆるされてることだ。
██研究員: 許されている?
D-15879: ああ、そうだ、いや、変なことを言っているのはわかってる。でもそうとしか言いようがないし、これは絶対に間違いじゃない。全部、全員、ゆるされているんだ。あの天使に飲まれてしまったらお終いなんだ。あいつに飲み込まれて、溶かされて吐き出された後のやつは、みんな、ゆるされている。罪はすべてあいつが溶かし切ってしまうからな。俺もだ。俺は、俺もゆるされた。あいつの喉の奥で溶かされてしまって、俺の罪はゆるされてしまった。なあ、あんた、わかるか? これがどういうことか、本当にゆるされるってことが、どういうことか、わかるか? わかるわけねぇよな、あんたはあの化け物の笑った顔を見てないんだからな!
██研究員: D-15879、落ち着いてください。
D-15879: 落ち着けって、あんた、[罵倒の為削除]…ああ、くそ、悪かったよ。だけど、その…怖い。怖いんだ。ゆるされるってことが、こんなにも恐ろしいことだなんて知らなかった。
██研究員: 続けられますか? 必要であれば休憩を取りますが。
D-15879: あー…少し…いや、大丈夫だ、大丈夫…[数十秒間沈黙] それで…なんだっけ? ゆるされ…あの天使が、いや違うよな、ええと…気が付いたら屋上にいた、ってとこまで話した、んだよな、うん。
██研究員: そうですね。他にSCP-XXX-JP-1の行動はありましたか?
D-15879: そうだな…残りカスのやつらを吐いた後も、しばらくぼーっとしてたな。こっちには目もくれてなかった。多分、俺のことももう巣材としか見てなかったんだろう。
██研究員: SCP-XXX-JP-1が他のなにかを見ているような様子は?
D-15879: いや、多分なんも見てねぇと思う。強いて言うなら、空の方を向いてた、ってくらいで。そのあとすぐにそっちの方へ飛んでったしな。最初にあの展望台で見たときみたいに、羽もねぇのにフワッと浮いて。
██研究員: そうですか。屋上から脱出したことについては覚えていますか?
D-15879: ああ、覚えてる。つっても、ただ走って逃げただけだけだけどな。あいつが飛んでってから、辺りを見渡してみたら端に非常口があって…金属のドアの、普通のやつだよ。そこに逃げ込んだんだ、とにかくあの屋上にいたくなくて。
██研究員: なるほど。それで?
D-15879: 扉の先は階段で…無我夢中で降りてるうちに、気が付いたらぼろいビルの横にいて、警備員みてぇな奴に捕まって…それで全部じゃねぇかな。ああ、そういや600mくらいって言ったか、それにしちゃ階段が短かったと思うけど、そのくらいか。
██研究員: わかりました。他に何もなければ、インタビューを終えます。
D-15879: あー、特にもう…いや、ひとつ気になってることがある。
██研究員: どうぞ。
D-15879: 俺はあいつに喰われて、ゆるされてしまった。でも、ゆるされたのなら、あいつの喉の奥で溶けたのが罪なら、どうして俺はどこもなくしていないんだろうな?
██研究員: …記録しておきます。ここまでにしましょう。インタビューを終了します。
<録音終了>
終了報告書: D-15879の「許された」という発言を受け、罪状の記録、被害者遺族および交友関係にあたる人物の記憶、意識などが調査されましたが、実験XXX-2以前との差異は見受けられませんでした。これにより、SCP-XXX-JP-1が捕食行動の基準にしているとみられる「罪」は、おそらく法律上の罪状とは関係ないものであると再確認されました。