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クレジット
SCP-6005: カスカディア(Cascadia)
著者: Tufto作。これはSCP-6000コンテストのエントリー作品です。この著者の他の作品はこちら。
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ガブリエル博士: 名前、階級、担当を。
エージェント・ホーリー: 失せろ。
ガブリエル博士: 名前、階級、担当を。
エージェント・ホーリー: 何が目的だ? 俺をDクラスに降格させるのか?それともアリゾナに送るのか? どちらにせよ俺はあと1ヶ月で死ぬけどな。
ガブリエル博士: 名前、階級、担-
エージェント・ホーリー: これが俺にはわからない。今度は誰を使うつもりだ?バンクマンか?あの間抜けは向いてない。それともカーターか? あんたが求めてるのはオレゴンで一番腐ったたエージェントなんだろうな。
ガブリエル博士:もはや君には関係ないことだ。そのチャンスはあった。だが君は自らの手で潰した。
エージェント・ホーリー: どういうことだ?俺のやったことの何が財団の方針に反していたと?
ガブリエル博士: それに関しては後ほど話そう。 今は名前と階-
エージェント・ホーリー:わかったよ。 ダグラス・ホーリー、レベル3エージェント、担当はSCP-6005、アラバマ州ガルフ・ショアーズ生まれ、社会保障番号は215 -
ガブリエル博士: 十分だ。 今日、君がなぜここにいるか分かっているか?
エージェント・ホーリーはため息をつき、椅子にもたれる
エージェント・ホーリー: 正直、本当にわからない。
O5評議会命令
以下のファイルはレベル4/6005機密に指定されています。
無許可でのアクセスは禁じられています.
アイテム番号: SCP-6005 | レベル4/6005 |
オブジェクトクラス: Keter | 機密指定 |
アイテム番号: SCP-6005
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-6005収容計画は現在、ダグラス・ホーリー、ジョン・バンクマン2名のサイト-64所属エージェントによって調査が行われています。現在の調査対象(詳細は下記を参照)については構想の再編成段階にあり、これは25年12月12日に完了する見込みです。
SCP-6005-1によって被害を受けた者はサイト-64にて拘留され尋問を受け、家族には精神的衰弱の治療を目的とした州外搬送として伝えられます。対象の記憶処理及び解放は拘留から1ヶ月以内に行わなければなりません。研究目的で必要な限り対象は拘留されます。
地元メディア内でのSCP6005イベントと疑わしい事象は隠蔽されます。被害者の家族に対して適切なカバーストーリーが伝えられ、必要に応じて記憶処理薬が使用されます。家族へのカウンセリングや援助は現地の医療機関と連携し手配します。
サイト-1015に関連する記録は全てエージェント・ホーリーの管理下に移されます。現在の保管場所はサイト-64のE棟、証拠物保管室5Cです。
説明: SCP-6005は、1985年から現在までの間に発生した、カスカディア生物地域の森林地帯における1943人の消失を指します。消失した人々に関しての痕跡は見つかっていません。
SCP-6005は当生物地域やその周辺に住む様々な人物に対して影響を及ぼしてきました。被害者の性別、年齢、人種、収入、政治観、その他の社会的要素との相関関係は見られません。被害者がきわめて高い確率で精神衛生上の問題を抱えていたことのみが共通点です。そのため、今までにSCP-6005イベントの発生が予測されたことはありません。
SCP-6005のオブジェクト指定は、きわめて多くの失踪事案が同一のパターンで発生していたことに起因します。失踪の際、人物は単独で近隣の森林に出かけます。これは無計画に行われ、メモや他の説明もなく被害者はいかなる物資も持っていくことはありません。SCP-6005イベントの記録映像は未発見です。非異常な要因も検討されましたが、いずれも有力とは判断されていません。
財団の分析AIが非常に高い割合での失踪を検知した1992年、初めてSCP-6005は注目されました。世間でのSCP-6005の認知を防ぐ目的で行われた、被害者の家族と地元メディアに対する適切な隠蔽と記憶処理ののちに当アノマリーはサイト64にて収容されました。しかし、研究者及びエージェントはさらなる研究や収容のための手段を講じていません。
ガブリエル: 不可解だな。
ホーリー: 言葉は当てにならないことがある。俺たちの臨床的な表現や客観的な中立性そのものがある種のバイアスだっていうのは、誰も理解しない。
ガブリエル: よく分からないな。
ホーリー: これに配属されてるエージェントは、どいつもこいつも救いようのない無能だってことだ。誰も詳細を追求しなかった。地味で、明らかな手がかりもないと。どいつもこいつもこれをアノマリーとすら思わなかった。
だからタチの悪いレベル2や定年近いデブの老いぼれにあてがったんだ。サイト-64は一流部署だ。管理官と取り巻きはスリー・ポートランドに派手な遠征をしたり、とんでもない異常芸術をシアトルから強奪したりと、O5の気を引くのに忙しかった。子供が数人消えて試験用のAIが騒ごうが誰も気にしなかった。これがまだファイル上に残ってるってのが不思議なぐらいだ。
ガブリエル: 君は、私たちの組織についてかなり悪い見方をしている。
エージェント・ホーリー: いい加減にしろ。あいつらは俺に何をするつもりだ?聞いても意味ないだろうが、俺がどうやって死ぬのか知りたい。
ガブリエル: それは出来な-
ホーリー: じゃあいい。俺は一日中ここで腕組んで座ってるよ。インタビューが終わるまでは俺を連れて行けないんだろ?
ガブリエルはため息をつき、ペンを机に置く。
ガブリエル: 答えられない。知らないんだ。私の権限を超えているからね。私は記録の確認で来ている。
ホーリーはガブリエルを凝視し、一瞬微笑む。
ホーリー: こりゃ驚きだ
ホーリーはタバコを取り出し、火をつける。凝視は続いている。
ホーリー: いいさ、先生。あんたのゲームに乗ってやるよ。もう失うものはなさそうだしな。俺のゲームは幕引きだ。何を知りたい?
ガブリエル: 第一にだね?なぜ君がこれに配属されたのか、その理由を知りたい。それについてどう感じたかも。
ホーリー: 実を言うと、先生、俺が配属されたのは間抜けだったからだ。妙案を思い付けるぐらいに。
補遺 #1: 18年12月23日、アドラー管理官は、新たな調査案を持ちかけたエージェント・ホーリーをSCP-6005の要員として任命しました。提案されたのは、太平洋岸北西部地域に居住する様々な精神病患者に対しての夢分析の使用でした。これは、患者が持つ共通要素の特定を目的としています。ホーリーは、SCP-3007に関する研究における夢分析によって得られた有用な結果を指摘し、その分野が過小評価されている可能性があると主張しました。
アドラー管理官は、ホーリーに2名のエージェントと3名の研究者からなる臨時のチームを2ヶ月間、得られた結果によっては期間を延長する可能性も加味しサイト-64での研究のため提供しました。
1ヶ月後、ホーリーと臨時チームは150人中5人の夢に強い相関関係を発見しました。これらの夢は全て(多少の変動はあるにせよ)反復的で、森や木、自然界についてのものでした。それぞれの被験者が見た夢は以下の表で例示しています。
夢の日付 | 対象 | 被験者の説明 | 夢の説明 |
---|---|---|---|
19-01-06 | 6005-23 | 33歳女性、オレゴン州ポートランド出身。異常芸術コミュニティとの関わりあり。 | 被験者は「松の香りがする」深い森の端に立っていたと報告。森の反対側には巨大な山が見え、これに対して被験者は恐怖を感じる。被験者は山とは逆の方向へと走って逃げ、自身が以前よりも森の奥深くの地点に入り込んでいることに気がつく。山が木々によって見えなくなり、これによって被験者は安心したと報告している。 |
19-01-12 | 6005-142 | 44歳男性、アイダホ州レイタ郡出身、過去に異常な関係なし。レミントン社製のハンティングライフルを所有している。 | 被験者は森の中で鹿を追っており、進むごとに森が深くなっていったと報告。被験者はシカを撃つためにライフルを構える。しかし、ライフルに枝が絡まったことでシカを逃す。 |
19-01-18 | 6005-203 | 78歳女性、ワシントン州スカマニア郡出身。過去に異常な関係なし。 | 被験者は熱帯雨林で野生のベリーを採集している中、ベリーが急速に膨張し始めたと報告。被験者は手で頭を覆う。気がつくと何も無い空き地におり、急激なパラノイアを感じたと報告した。 |
19-01-19 | 6005-02 | 24歳男性、ワシントン州シアトル出身。現地の著名な無政府主義者で、過去に異常芸術家集団Are We Cool Yet?のメンバーであったと考えられる。 | 被験者はカブトムシになり木の枝の上で生活する夢を見た。木の枝は突然、中年男性に振り上げられた銃に絡まる。被験者は銃身へと這っていき、長い間覗き込んだ。 |
19-01-21 | 6005-09 | 19歳男性。ブリティッシュコロンビア州ハイダ・グワイ出身。過去に異常な関係は持っていないものの、著名な異常芸術家及びファースト・ネーションズ活動家のノラ・イヴァノフの甥である。 | 報告によれば、被験者は木々の間から太陽を見つめていた。被験者はこれによって大きな苦痛を感じるが、止めることを拒む。数分後、木々が太陽を覆い始め、感じていた痛みと不安が和らぐ。 |
以下の音声ログはエージェント・ホーリーと6005-09とのインタビューを記録しています。
日付: 22-01-19
インタビュアー: エージェント・ダグラス・ホーリー
二人目のエージェント: エージェント・ジョン・キャスパー
<ログ開始>
エージェント・ホーリー: —始まった、よし。これはエージェント・ダグラス=ホーリーとトム=イヴァノフ、正式には6005-09とのインタビューを記録したものである。
6005-09: えっと、あの、持ってま-
エージェント・ホーリー: すまない、ボク。もう少し待ってくれ。レベル3として、自身を監督官に任命する。副監督官はエージェント・キャスパー。今はシアトルのどっかにいるようだから意味ないな。日付は1月22日で後は云々、もうわかるだろ。
録音機器が机に置かれる音。
エージェント・ホーリー: よし、長くはかからない。見た夢について教えて欲しい。
6005-09: えっと、えぇ…
エージェント・ホーリー: ただ質問に答えてくれ。1日やってられるわけじゃないんだ。
6005-09: … はい、えっと、何ヶ月か前から見るようになりました。9月、だと思います。大学が再開したばかりで、そんなにいい感じではなかったんです。だから-
エージェント・ホーリー: ああ、ああ。そうだな、悲しい人生だ。夢の話はどうした?
6005-09: えっと、森の中にいるんです。いつも森にいて - よく変わります。それで太陽を見てるんです。
エージェント・ホーリー: 目に悪いよ。
6005-09: あのさ、夢だって。現実じゃ-
エージェント・ホーリー: 分かってる、分かってる。落ち着け。それは、えっと、どんな感じだった?
6005-09: 怖かった。眠れなかった。見続けなきゃいけなかった。小さい頃にウォルターって名前の子供がいて、一度そいつにさせられた。太陽を見ろって。
エージェント・ホーリー: で、木は?
6005-09: ゆっくりと来た。動けなくて、ただ見続けた、10分とかそれぐらいの間。動けなかった、考えれなかった。そしたら葉っぱが太陽を覆い始めた
エージェント・ホーリー: 木にくっ付いたままか?
6005-09: そう。そしたら良くなった。すごい暗くなって。
エージェント・ホーリー: 怖かったのは太陽自体か、それとも光か?
6005-09: 分から-光です、多分。人に見られてるって気がして。
エージェント・ホーリー: それで森は心地よかったと?
6005-09: はい、安全でした。誰もいなくて、ね。ただ木と、苔の匂いと、湿った地面があって。鹿を見た、遠くに。ツタが見えた。どんどん暗くなっていって、完全に光が無くなった。
擦る音が聞こえる
6005-09: ねぇ、本当に行かなきゃ行けない、用事があって。
エージェント・ホーリー: 1日空いてるってエージェント・ジョーンズに言ってただろ。
6005-09: うん。でも、行かなきゃいけない、ね?
エージェント・ホーリー: 普通の森についてはどう感じる?よくハイキングに行ったりするか?
6005-09: え?いや、そんなに。昔は、叔母のノラと一緒に。でも-
エージェント・ホーリー: ノラ・イヴァノフか?ああ、記録にある。今はアラスカにいる、そうだろ?
6005-09: 叔母の記録を持ってるんですか?
エージェント・ホーリー: ただ質問に答えてくれ。
6005-09: …いえ。いません。いなくなったんです。
エージェント・ホーリー: 興味深い。最後に俺たちが聞いたのは、州境をサー-… 活動家のグループと一緒に越えたってことだ。ノームで隠れるために。
6005-09: いや。そうしようとしていた。でもその1週間前に行方不明になった。なんで叔母の記録を持っているんだ?
エージェント・ホーリー: 実に 興味深い。
ペンで素早く筆記する音が聞こえる。
エージェント・ホーリー: よし。あのな、君をしばらくここに留めておく必要がありそうだ、
6005-09: 何?なんで?ここからいけな- 出ていかないといけないのに。
エージェント・ホーリー: 医学上の問題だよ。流行りの虫の症状が出てる。ごめんな。家族には知らせておくから問題ない。
6005-09: 嫌だ。外に出たい。森に行きたい。
長い沈黙
エージェント・ホーリー: 行きたいのか、今?
エージェント・ホーリーが録音を停止する。
ホーリー あのインタビューのことをずっと考えてる。あの時はわからなかった。
ガブリエル: 何が分からなかった?
ホーリー ただ、どういう繋がりがあるのかを知りたかった。失踪に関係があるのか、それとも何らかの異常がったのか、わからなかった。彼が話してることを聞いていなかったんだ。
ホーリーがタバコの火を消す。
ホーリー あの夜、彼は外に出ようとしていた。木のことを話し続けて。俺たちはまた拘束しなきゃならなかった。それで俺は、そうだな、彼をもう一回だけ見た。これについては後で話す。でも月日が経って、収容スペースをそこらの妙な睡眠習慣してる子供に割くわけにはいかなくなった。だから…
ガブリエル: だから解放したと。逃がすべきではなかった。それはプロトコル違反だ。
ホーリー: 何なんだよ、それしか考えていないのか?アドラーの指示だ。結果が欲しい、そのせいで貴重な収容セルが減らない限りは、ってな。一週間も経たずに消えた人物の記録が届いた。それまでにはもう予想してたさ。
その時、あいつはこれの規模に驚愕した。150人中6人がこの夢を見ていた。そしてその全員が1ヶ月以内に消えた。もしあれが地域全体に広まったなら
ガブリエル: 少なくとも何千人か。
ホーリー ああ。それがただの精神病なのか、俺たちには見当すらつかなかった。精神病をどう定義するんだ?厳密に、治療用の便宜的なものじゃなく。何千人と森の中に入っていって、2度と見つからなくなる。
ガブリエル: 恐ろしいことになるな。
ホーリー: 面倒なことになるんだ。
ガブリエル: まったく、君に心はないのか?私たちは人助けのために働いてるんじゃないのか?
ホーリーは笑う
ホーリー そうなのか?あんた何歳だ?50代ぐらいか。60代かもな。ここでは長いんだろ。まだ財団が人助けのために働いてると思ってるのか?
ホーリーは椅子にもたれ、頭を振る。
ホーリー: 俺たちはドラゴンの世界に住んでいる。そいつらは山の中とか紙の箱に隠れてる。だが、いるんだ。俺はそれの全てを知りたい。パズルのもう半分を見て、物事がなぜそうなのかを知りたい。ドラゴンたちは隠れているのに、どうして他のありとあらゆる場所に腐敗が広がっているのか。
ガブリエル: それが財団に入った理由じゃないのか?
ホーリー 多分違う。もう覚えていない。
ガブリエルは椅子にもたれかかり、こめかみをさする。ホーリーは2本目のタバコに火をつける。
とにかく、人が森に消えていったんだ。この子供も行きたがってた。そこは安全で、幸せになれると。何ヶ月後かに新しく情報が入った。森の夢を見続け、そして一人になりたいと人々が次から次へと去っていった。
ガブリエル: それが意図的なものだと思ったか?異常芸術のプロジェクトが失敗したとか?
ホーリー いいや。人目を引こうとはしていなかった。気づいたのは俺たちだけだ。ランダムで、標的もいなかった。どんな人間にも恐怖やトラウマを与えられるようなものだった。どうすればいいのか分からなかった。ただ、
ガブリエル: ただ?
ホーリーはゆっくりと微笑み、タバコを一服する。
ホーリー こんな感じのことを前に聞いたことがある。何年も前に。サイト-1015を崩壊させた共有夢。
ガブリエル: サイト- サイト-1015? あれは何年も前に閉鎖されたが。
ホーリー ああ。俺よりももっと前の代だ。知り合いだったクリストフが、そのサイトが崩壊した時に移籍してきた。何があったのか聞いたら、あいつらが解明できなかったことについて話してくれた。何度も人間を連れ込んでいたんだ。そいつらはケージを揺らしながら、庭園のことについて叫ぶんだよ。
ガブリエル: 庭園?
ホーリー ああ。何がそれを起こしているかは分からないと言った。何が起きたかは言わなかったし、少し経ってから自殺したんだ。でも驚いた、皆が森の夢を見始めたってところで。何か繋がりがあるんじゃないかと思った。
ガブリエル: それで、君はどうしたんだ?
ホーリー 1015のファイルを探した。何もなかった。記録が全て無くなっていた
ガブリエル: な、何だって?編集されていたのか?
ホーリー いや。削除されたんだ。エントリーはあった、だがファイルが無かった。
数秒間の沈黙
ガブリエル: サイト64の人間がそんなことをするはずがない。どのプロトコルにも反している。
ホーリー だから何だ?50、60だろ?この場所が昔はどうだったか覚えているはずだ。俺が入った時でも同じだった。誰かがミスをして、アノマリーを世界中に撒き散らして、記録が抹消される。そういうゲームをやってきた。
ガブリエル: 何だと?そんなに大規模だったのか?なら私たちがどこかで気づいただろう。
ホーリー 大規模ではなかったのかもしれない、小さかったかもな。数人の子供が同じ夢を見たぐらいで、それでどうなるんだ?大昔に引退した管理官を疑う奴はいない。そんなことに、俺は大して興味がなかった。重要なのは手がかりだった。
ガブリエル: 一体、君は自分以外の誰かを気に掛けたりしないのか?
ホーリー 単純さ。朝起きてコーヒーに匂いを嗅いで、とぼとぼ仕事に行く。皆そうだ。世界はこうだ。灰色のオフィス街と洗剤の薬品だ。
とにかく、俺はあの子供のとこに戻った。また外に出す前のことだ。俺は戻って、眠ってる熊をつついてみようと思った。
補遺 #2:
調査の当初の成功を受け、エージェント・ホーリーはワシントン州南部において破棄されたサイト1015との関連性の調査を開始した。エージェント・ホーリーは数年前にサイト64にて流布していた「噂」について思い出し、サイト1015においても同様の事象があったと述べた。しかし、さらなる調査によってホーリーは、サイト1015内の記録が何の説明も無く削除され、定期点検を名目にオハイオ州の収容施設へと移されていたことを発見する。
ホーリーは、噂がとある庭について言及していたことを思い出し、この件に関する調査の進展のため6005-09に2度目のインタビューを行った。
日付: 19-04-12
インタビュアー: エージェント・ダグラス・ホーリー
二人目のエージェント: エージェント・ジョン・キャスパー
<ログ開始>
エージェント・ホーリー: やあ、トム。調子はどうだ?
6005-09: 家に帰りたい。
エージェント・ホーリー: 信じないぞ。ごめんな。まだ君を森に行かせるわけにはいかない。
6005-09: だからなんだ。俺をこの場所に縛っておくことはできない。
エージェント・ホーリー: できるしやるさ。だが質問に答えてくれるんだったら、出すのを考えてやる。どのみち収容スペースは空けたいからな。
6005-09: … そう、わかった。何を聞きたいって?
エージェント・ホーリー: 庭園の夢を見たことはあるか?
数秒間の沈黙が続く。
6005-09: いや。無い。森だ。いつも森だった。ま、前にも言っただろ。
エージェント・ホーリー: 本当なんだろうな?トム。
エージェント・キャスパー: 手加減しろよ、ダグ。
6005-09: 知らないって言っただろ。
書類を漁る音が聞き取れる
エージェント・ホーリー: わかったよ。ごゆっくりお過ごしくださいな。
椅子を動かす音
6005-09: 待って。待って。
音が止まる
エージェント・キャスパー: 何だ?
6005-09: 庭園は見なかった。でもそこに何かがあったんだ。いくつか。そこにあるはずじゃない、間違ってるものが。
エージェント・ホーリー: 間違ってる?何が?
6005-09: あれ- あれはそこにあるはずじゃなかったんだ。骨壷、熊手、花壇、見たんだ。ただそこに座って、見た、覆われてた、あの汚いものに、俺-
エージェント・ホーリー: 汚いもの?
数秒の沈黙
6005-09: あれは間違ってた。わかる?あいつらは森を汚していた。自然じゃなくて人間のもの。森にはふさわしくない。ああいうのは太陽の下にあるべきだ。わかる?わかった?
エージェント・ホーリー: …いや、わからない。
椅子を動かす音が再び聞こえる。
エージェント・ホーリー: それで、そいつらはどこから来たと思うんだ?
6005-09: … 外。どこか、知- 知らない所。あれは森のものじゃない、そうでしょ?外から落ち込まれたものだ。それ以外は何も知らない。本当のことだ。もう行かせてくれないか?
エージェント・ホーリー: まだ少し-
エージェント・キャスパー: ああ、トム。解放しよう。ありがとう。
<ログ終了>
このインタビューの後、ホーリーは以前に調査した他の4人の人物に対して再インタビューを行い、夢の中での庭園、園芸、または造園に関係するモチーフや物体について尋ねました。一連の質問に対して4人全員が極度の精神的苦痛を経験したものの、以下のようなモチーフの実例を挙げました:
対象 | 夢内の要素の説明 |
---|---|
6005-23 | 対象は繰り返される夢の中で山が何回もロタンダ(19世紀イングランドの造園において典型的なもの)へと変形したと報告。これらのケースで、対象は自身の視界を木が遮った後に大理石が壊れる音を聞いたと説明した。 |
6005-142 | 対象は鹿狩りの最中、森の地面から飛び出す鯉を撃つために中止したと報告した。対象は流れる水の音を聞いた。全ての鯉を撃ったが、対象は「静かな暗闇」へと倒れ込む。 |
6005-203 | 対象は森の空地の代わりに荒らされた花壇にいた以外は、以前と似た夢を見たと報告した。夢について説明する際、特に強い苦痛を訴えため、インタビュー室から退出させた。 |
6005-02 | 対象は以前の夢において言及されたライフルで撃たれたと報告。対象は自身が大きな湖の中にいることに気づく。また周囲には数体の鯉の死骸が浮かんでいた。対象は極度の苦痛を感じたが溺れることはなかったと報告した。 |
これを受け、エージェント・ホーリーは何らかの現存する資料が調査に利用可能かを確認するため、旧サイト-1015の施設そのものの調査を行なった。19年4月19日、エージェント・ホーリー、エージェント・キャスパーは当地域の探索を行った。
>ログ開始<
森林内の空地に2名のエージェントが立っている。数百メートル先に廃墟と化した巨大なコンクリートの建物が見える。
コマンド: 始める。記録用に名前を言ってくれ。
エージェント・ホーリー: 了解。こちらエージェント・ダグラス・ホーリー、補佐はエージェント・ジョン・キャスパー。現在は旧サイト1015の周辺にいる。建物は前方にはっきりと見えている。他に何を言えばいい?
コマンド: 探索許可の番号だ。
エージェント・ホーリー: クソ。色々増えたな。これ持っててくれ、ジョン。
ホーリーは懐中電灯をキャスパーに渡し、リュックサックを漁る。
エージェント・ホーリー: あった… 4666266、これでいいな?それとも、俺の血液型も言わないといけないのか?
コマンド: 私に当たらないでくれ。基地にいる時にやっておくべきだった。それに、前回のインタビューで、君は適切なプロトコルを忘れている。
エージェント・キャスパー: 彼の言う通りだ、ダグ。
エージェント・ホーリー: 畜生。行くぞ、これを終わらせよう。
2名のエージェントが施設のメイン部分に近づく。完全に放棄され、やや崩れかけている。ほとんどの窓は割れているか、損壊している。建物の外部では瓦礫と植物が点在している。
エージェント・キャスパー: 緊張してるのか?
エージェント・ホーリー: いや、お前は?
エージェント・キャスパー: いいや。
2人は中央のドアに近づいて押す。外側の鍵は完全に壊れていると見られる。ドアが開くと壊れたロビーが現れる。大きな天窓が割れ、ガラスが木製の円卓に散乱している。植物小型の木も含めて割れたコンクリートタイルから伸びている。複数のドアが廊下へと続く。
エージェント・キャスパー: ここで何が起きたんだ?放棄されたサイトは撤去されるか、基本的な保護がされるんじゃないのか?
エージェント・ホーリー: いい質問だ。
コマンド: アノマリーが残っていないサイトは放棄されたままになる。経費削減になるし、カバーストーリーだってある。森のどこかにコンクリートブロックがあったからといって、何も問題にはならない
エージェント・ホーリー: 落書きは無い。ここに来た人間はいないようだ。
コマンド: 人口密集地からはかなり離れてるからな。
エージェント・ホーリー: ああ。
エージェント・キャスパー: 本当にアノマリーは残ってないんだろうな?
コマンド: ああ。無い。
エージェント・ホーリー: そうらしいな、どうやら。
コマンド: 無い。 その陰謀論的な戯言は終わりにして、そこから出ろ。やるべきことがある。
エージェント・ホーリー: 分かったよ。
ホーリーは先頭に立って、建物側面のドアを開ける。
エージェント・キャスパー: この道で合ってるんだろうな?
エージェント・ホーリー: 一つ目のドアを左、二つ目は右に行って階段へ、五つ目は下ったところ。そこに全部あるはずだ。ジョン、懐中電灯。
2人は懐中電灯をつけ、ホーリーが示した道をたどる。建物は老朽化しているものの、構造的な問題は無いと思われる。建具のほとんどは剥がされているが、その下にコンクリート製のものが数多く存在する。
エージェント・キャスパー: これは期待できるな
エージェント・ホーリー: 黙れ。周りを見ろ。まだ何かあるかもしれない。
2名のエージェントは部屋の中を見回す。一番奥にある赤いドア以外は何も見えない。ドアの下には、黒と黄色のテープが丸まった状態で落ちている。ホーリーはそれに近づく。
エージェント・ホーリー: おやおや。
エージェント・キャスパー: 何だ?
エージェント・ホーリー: この部屋には入って欲しくないようだ。
ホーリー ホーリーがドアの取手に手を伸ばす。
エージェント・キャスパー: ちょっと待て-
ホーリーがドアを開ける。反対側には空の、大型の貯蔵室が見える。
エージェント・ホーリー: 畜生。
コマンド: ギブアップか?
エージェント・ホーリー: いいや。
ホーリーは部屋に入り、懐中電灯で表面を照らす。部屋の角では天井が落下し、何かが瓦礫の下から見える。ホーリーはそれに向かい、懐中電灯で照らした。それは段ボール箱で、上部からは紙が飛び出ているのが見える。
エージェント・ホーリー: 大当たり。
エージェント・キャスパー: 彼らはなぜこれを見逃したんだ?
キャスパーはスポットライトで部屋中を照らし始める。
エージェント・ホーリー: いい質問だ。とてもいい質問だ。天井は後になって落ちたんだろう。もしそうならかなり好都合な配置だ。彼らが去ってく時に崩れ始めたんじゃないとするなら。
ホーリーは瓦礫から箱を引きずり出す。キャスパーは懐中電灯で照らし続けたが、止まる。
エージェント・キャスパー: ダグ?
エージェント・ホーリー: ああ?
エージェント・キャスパー: あの壷、最初からあそこにあったか?
ホーリーは素早く振り返り、キャスパーの指し示す場所を見る。高さ約1mのガーデニング用の壺が部屋の反対側に置いてある。
エージェント・ホーリー: いいや、無かった。コマンド、聞こえていたか?
コマンド: ああ。落ち着け。訓練を思い出せ。君たちはこれへの対策が十分ではない。その場所で非現実事象が発生してる可能性があると緊急対応チームに連絡している。
エージェント・ホーリー: 感謝する。箱を回収して出るぞ。
エージェント・キャスパー: 了解。
ホーリーとキャスパーは箱に向かい、瓦礫から引きずり出す。キャスパーはそれを拾い上げ、ホーリーは壺があった場所を照らす。今度は小さな金属彫刻で作られた智天使が見える。
エージェント・キャスパー: クソ。
エージェント・ホーリー: 大丈夫だ。危険ではないかも。
エージェント・キャスパー: 今までに、こいつが危険ではないところを見たことがあるのか?
エージェント・ホーリー: ごもっともだな。
ホーリーとキャスパーは部屋を出て、ドアへと急ぐ。ホーリーはその前に振り返って赤いドアを照らす。
人型の像がドアの前に立っている。十代後半の女性のようなプロポーションだが、全身は木でできている。葉が髪の代わりとなり、顔を隠している。
エージェント・ホーリー: もしもし?
像は頭を上げる。彫刻の顔は静止している。それはホーリーに向かって片手を上げる。その声は歪んでおり、編集によって聞き取ることが可能となった。
像: かつて、ここは廃墟だった。
像が一歩前に進む。
像: あなたは、天使ですか?
天井から流れてきた水が多数の木の枝を運び、像に当たる。像はそれらを木片へと崩壊させ、エージェント達の方に顔を向ける。
エージェント・キャスパー: クソが。
ホーリーとキャスパーは階段を登り、廊下へと向かう。水は彼らを追っているわけではないようだが、急速に動く波の音が聞こえる。壁のコンクリートでできていた部分が今は木製となっているが、侵入の妨げにはなっていない。エージェント達はロビーを横切るが、巨大な木がドアを塞いでいるのを発見する。
エージェント・キャスパー: クソが。.
エージェント・ホーリー: 黙れ。コマンド、他に出口は?
コマンド: 入ってすぐ右に行って、4つめの角を左にいくと非常口があるはずだ
エージェント・ホーリー: 了解。
ホーリーとキャスパーは廊下に出る。巨大な噴水が見え、そこから花が咲いている。
エージェント・キャスパー: 俺が何を考えてるかわかるか?
エージェント・ホーリー: いいや。走り続けろ。
エージェント・キャスパー: あの壺、急に現れたのか、それとも俺たちがただ気づいた-
エージェント・ホーリー: 言ったはずだぞ。走り続けろ!
エージェントが4つめの角を左に曲がる。歌声が聞こえる。歌は特定できない。
エージェント達はドアを開け、外に出ているのに気がつく。彼らは周辺の森林へとさらに数百メートル走り、止まる。
エージェント・キャスパー: クソが。
エージェント・ホーリー: それを言うのをやめろ。コマンド、もう安全なようだ、恐らく。
コマンド: 了解。回収が向かっている。情報は手に入れたか?
エージェント・ホーリー: キャスパーは箱を落としていない。
エージェント・キャスパー: まだ持ってる。持ってることを自分でも忘れていた…
エージェント・ホーリー: もちろん、こいつがプレッシャーの中で立派な仕事をしたということだ。
コマンド: 了解。回収、間もなく到着する。
<ログ終了>
この遭遇の後、サイト1015はサイト64からの機動部隊によって確保された。しかし、さらなる異常活動は検出されていない。エージェント・ホーリーは回収された文書の整理を始めた。雑多な文書が多く、纏められていなかったものの、今のところ関連文書が1つ回収されている。
文書6005-01: 対象6004-435による日記
私は起きて、部屋の中を歩き回る。窓が壁の高いところにあって、月を眺めさせてくれる。不親切な部屋では無いけど、十分に気を遣ってくれるわけでは無い。
彼らは疲れている。彼らは私を通して見る。不親切だからじゃない、力が残っていないからだ。彼らは自身で作ったコンクリートからにじみ出る。彼らにはもはや見ることすらできない何かを守るためのコンクリートから。
それで昨夜、私はまた庭を訪れた。
彼らが私たちに行くなと言ったのは知っている。でも、どうしようもなかった。花壇はひっくり返されていたけれど、土は芝生の上に散らばったままだった。私はそれを元の場所に戻した。他の人たちは気づかなかったんだろう。
初秋のようだった。ノラが作ったナイチンゲールを見た。それは私に歌い、私も歌い返した。空は曇っていたが、雨を約束する秋の雲だった。都会のどんよりとした空で見えるのと同じ雲だが、ここではもっと良い、庭園のために作られた雲だった。どうしてこんなことができたんだろう?
ニューヨークに庭園はあるのだろうか?路地は庭園なのだろうか?ボルチモアの雑草地帯は、バーブルの墓の一面に広がる緑と同じではないのか?それはサイレンの下で、高層ビルの間から太陽の光を盗む。
私は、交差する道- 友人達が愛情を込めて一つ一つ置いた砂利が散乱する道を見下ろした。そうすべきではないと分かっていたが、それも戻した。全て戻した、一つ一つ、噴水、四分庭園、八角形の墓、その遠くにあるカスケード。それらは薄明かりの中で青みがかる。
一瞬にして、それはまた自然に思える。そうあるべきだ、いつだってそうあるべきだった。ポートランド全体が草に覆われて、皆が横たわってロータスを食べ、赤と白で空をスケッチする。その空は続いている、シアトルへ、バンクーバーへ、ハイダグワイとトリンギットの海岸、カスケードが登りゆく中、遠くの谷で煙を上げるキャンプファイヤーへと。
それでまた見下ろしたけれど、正しくなかった。全てがコンクリートだった。自分はそうとは思わなかったが、天使がそうだと教えてくれた。それはマリアに遣わされた大天使で、残された緑は遠く離れた森林だけだと教えてくれた。
もう後戻りはできない。かつて、夢を見ていたんだ。でも今は目覚めゆく世界が夢のように思える。彼らが自分に何をしたのか頭では理解できる。だが戻れない。この場所はただの廃墟、監獄、彼らが守るそれの中心部へと続く灰色の壁。
力。それはいつも力へと戻る。
ホーリー: これを読んだら物事が横にずれた。彼女はかなり上手く書いた。
ガブリエル: 彼らに愛着を持つべきでは無い。
ホーリー: どうしたんだ?親切さについて話していただろ。
ガブリエル: ホーリー、君は彼らが放たれた時、何が起きるかを見なくて良いからな。私はかつてサイト19に勤めていた。私たちが学びたいからという理由で何百人ものDクラスが喉をへしをられた。
ホーリー: なら、お前も彼女ぐらい途方に暮れているな。美しい、そう思わないか?
ガブリエル: 説明してくれ。
ホーリー: 世界全体、調和の取れた世界。一種の、一種の協調。皆、一人ひとりが集まって一つになる。だがそのパーツ達は維持される。誰もが望んでいたことだろう?
ガブリエル: 私は違う。自然と不自然の違いは分かっている。
ホーリー: だがそれはどういう意味なんだ?時々俺は西にハイキングに行く。俺はカスケードを見上げるんだ。あの名前には本当に意味がある。良い具合に目を細めれば、それぞれが一つに溶け込んでいく、全て。一つの山がお互いにぶつかって、大地を裂いて、目も眩むような高さまで突き上がる。一つの巨大なカスケードが、それ自身をどんどん作り出していく、押し出されるにつれて。
ガブリエル: とても詩的だ。 だがそれがアノマリーの定義を変えることはない。
ホーリー: ジーザス。ドク、あんたは本当に財団プロパガンダのホールセールを丸呑みしたんだな。
ガブリエル: プロパガンダではない。真実だ。もし何かの霊的ネットワークが太平洋岸北西部の全体を蹂躙したなら、何が起こるか分かっているのか?君の小さなカスカディアの庭園は、私たちが今までに築いていた全てを破壊できるのだ。異常性は逸脱だ。奴らは時間の構造に付いた傷だ。現実上の不自然な成長だ。あの少女とその友達はヴェールを突き破って、街を破壊する-
ホーリー: 知らないくせにな。想像でしかない。俺は知らない。人生がそうなるとは思えない。何が自然で、何が自然でないか、あんたに決めることはできない。
ガブリエル: 君にもできない。
二人は数秒間見つめ合う。
ガブリエル: 野望というものは危険だ、エージェント・ホーリー。私はそれが人を腐らせるところを見てきた。
ホーリー: それがあいつらをより良くしたんだ、ドク。それ以外に何ができる。何が正しくて、何が適切か、お前にどうして分かるんだ?俺たちがここにいるのは、数千年にわたる突然変異のおかげだ。これが次の変異ではないと、なぜ言えるのか?なぜ俺たちは、何を収容すべきかそうでないかを事細かに定義しないといけない?俺たちは物事を改善できる。その力があるんだ。
ガブリエルは自身の腕時計を見る。ため息をついて、椅子にもたれかかる。
ガブリエル: 次に何が起きたんだ?
ホーリー: あぁ、ドク。それが問題なんだ。俺の足元に穴が空いた。
補遺 #3: その後数週間、ホーリーの調査は記録された文書の整理に当てられた。文書の中でも特に調査に重要であると判断された2点を以下に転載する。
文書#1: カストロ博士と6005-435の間で行われたインタビューの音声ログ、1984年
<ログ開始>
カストロ博士: こんにちは、6005-435。
6005-435: 私の名前はキャシー。
カストロ博士: あなたの割り当ては6005-435です。始めましょう。
6005-435: …はい。
メモ帳に筆記する音が数秒間聞こえる。
6005-435: あの-
カストロ博士: すません、少しお待ちください
メモに筆記する音は数秒間続き、突然止まる。
カストロ博士: よし、では。昨夜は何を見ましたか?
6005-435: …森。
カストロ博士: それだけですか?
6005-435: はい。
カストロ博士: 嘘をついているようだね。
6005-435: 本当のことです。
カストロ博士: [編集済み]が君に何を話したか覚えてる?キャシー。他の場所については?
6005-435: はい。
カストロ博士: 彼は何と言っていましたか?
6005-435: それが - それが不自然 だって。それは私たちを傷つけるために、頭の中に入れられていて、それは- それは間違ってるって。
カストロ博士: そうじゃない、キャシー。そういうことじゃない。彼は、君に何故それが与えられたかを話したんだろう。
数秒間の沈黙。その後カストロ博士がため息をつく。
カストロ博士:これはもう済んだことだと思っていたよ、6005-435。
6005-435: それは私の名前じゃない。
カストロ博士: 君の割り当てだ。庭園は不自然なんだ。それは人類による、自然への暴力行為だからね。それは自然の土を噛み砕く、そして木を燃やすことでしか作ることができない。彼が君に何を見せたか思い出せないのか?木について。
6005-435: でも、でもそうは思えない。
カストロ博士: それはそうだ。そう思えること決してない。キャシー、これは大事なことだ。そんな風に夢を傷つけてはいけない、わかるね?そんな風に森を傷つけてはいけない。自分がそれに対してやっていることを考えるんだ。
6005-435: は-はい。ごめんなさい。
カストロ博士: よし。謝罪は許しへの第一歩だよ。
椅子を動かす音。
カストロ博士: 次回は進展が見られるといいね、キャシー。[編集済み]がとてもがっかりするだろう。
6005-435: ここにいるの?
カストロ博士: 残念だけど、今日はいないよ。でも、もうじき戻るよ、
6005-435: …わかった。
<ログ終了>
文書#2: 1984年のSCP-6005オリジナルファイル。
05評議会命令
以下のファイルはレベル4/6005機密に指定されています。
無許可でのアクセスは禁止されています。
アイテム番号: SCP-6005 レベル5/6005 オブジェクトクラス: Keter 機密指定
アイテム番号: SCP-6005
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-6005は現在、永久的な自己収容を確実にするためヴァルパイン計画によって収容されています。しかしながら、SCP-6005-B実例は定期的に捕獲され、SCP-6005-C実例への変化を確かなものとするためサイト1015へ搬出されます。
説明: SCP-6005はテレパシー・フィールドであり、現在10,000人以上を内包しています。SCP-6005は外的な干渉を受けず自然な形成をしたと見られており、その広がりは太平洋岸北西部とアイダホ州にまで及びます。
SCP-6005に苦しむ人々(以下、SCP-6005-B実例)は夢を通してのみアクセス可能な共有環境(以下、SCP-6005-A)を作り上げました。SCP-6005-Aはヴァルパイン計画の実施が成功する以前、複数の様式が取り入れられた精巧な庭園の姿をしており、夢の世界の内部では太平洋岸北西部の大部分を覆っていたと思われます。
SCP-6005の一体となった精神感応力は基底現実に甚大な影響を与えました。SCP-6005によって促進された環境の変化、大規模なコミュニティーの形成が報告されています。このように、SCP-6005は基底現実にとって重大な脅威となっています。
ホーリー: 俺たちがそれを見つけたのは午後だった。日が沈みかけていた。箱はクソでいっぱいで、サイトのアノマリーが漏れていないか最後の紙まで注意深く整理しなくてはならなかった。俺はキャスパーと向かい合って座った。空は赤く染まって、俺の心は腹の中に沈んだ、
ガブリエル: なぜ?
ホーリー: なぜ?わからないか?俺たちがやったんだ。何があったにせよ、俺たちがやったんだ。
ガブリエル: 彼らには理由があったんだろう。収容はコツがいる仕事だ。
ホーリー: コツ- お前は何を言ってるんだ?あいつらは庭園を作ったかと思えば、次の瞬間には重度なトラウマに苦しんで森の中に消えたがる。あれは収容じゃない。あれは大量虐殺だ。
ガブリエル: 違う。いいや。私た- 財団はそんなことはしない。それは収容だ。
ホーリー: これは仕組まれていた。失踪は仕組まれていた。そして財団が忘れるほど深く埋められた。俺はこれをアドラーのところに持っていった。俺たちが見つけたものをあいつに見せた。あいつは少しも気に入っていなかった。豪華な謎解きができれば楽しいものだったろう。だがあいつの表情で全てを察した。「これは何でもない。」「君を担当から外す」そう言ってキャスパーに、あの哀れで、弱いクソ野郎に「もっとふさわしい」奴を見つけるまで担当を引き継がせたんだ。あいつの声は油だった。
ガブリエル: 君は彼の言った通りにすべきだった。
ホーリー: なぜだ?お前は人間だ。ロボットじゃない。Dクラス達が首をへし折られる必要があったのか?あのデータ収集は収容計画の一部ではなかったと?
ガブリエル: 私は19の前には別の場所にいたんだ。なくてはならない犠牲を見てきた。犠牲には価値があった。
ホーリー: あったのか?何のために犠牲にされたんだ?正常性?もはやどういう意味なんだ?どこまでが現実で、どこからが非現実なのか、どうして俺たちが決められるんだ?まずどうやって定義するんだ?
それが財団なんだよ。キャシーが言いたかったのはそれだ。力が全てだ。力で何が正しくて何がそうでないかを定義する。力で壁を建てて、線を引いて、何の意味もない、何も生まない規範を作って。財団が存在する理由はただひとつだ。自らを守って、自らを先に進ませるため。
ガブリエル: 自分自身の首を絞めるのか?ホーリー。これは反逆行為だ。
ホーリー: まだそう思うか?これを聞いた後でも?何千もの人が消えたと聞いた後でも?
ガブリエル: そうだ。常に。
ホーリーは立ち上がってガブリエルを見つめる。
ホーリー: ドク、あんたは19の前はどのサイトにいたって?
ガブリエルは数秒間ホーリーを見つめ、それからゆっくりと微笑み始める。
ガブリエル: その文書については補遺があったはずだ。
補遺 6005-1: ヴァルパイン計画の概要
ヴァルパイン計画は、[編集済]によって編成された大規模な心理的再配向プロジェクトです。[編集済み]は、SCP-4321収容において成功した夢分析の使用に着目し、SCP-6005がSCP-6005-Bによってどのように知覚され、使用されるかを変化させるための大規模な夢の操作を提案しました。
SCP-6005の基本的な構成要素はSCP-6005-Aと、その建築及び使用から生じる相互的な満足感と肯定的な人生経験です。したがって、ヴァルパイン計画の第一の目標は、SCP-6005-B間にSCP-6005-Aへの否定的な印象を生み出し、SCP-6005が自己収容に帰す第二の概念的領域を作り出すこととなっています。
これは薬物療法と心理的トレーニングを用いることで、「庭園」が自然との共生とは対照的に、自然に対して積極的に苦痛と害を強制するものであり、庭園の構築とそれに関わるあらゆる活動が庭園内の動植物相に対し積極的な害と痛みを与えるという概念を植え付けることで達成されます。
中心の「庭園」のモチーフは「森」のモチーフに置換されます。このモチーフは、森林での生活における「ジャングルの掟」的側面に重点を置き、森林の夢空間への成長と侵入を促します。これにより、森林に対して人為的に協調性の欠如としての位置付けを与えます。SCP-6005-B実例は、孤立、暗闇、森林被覆 や他の実例を避けることが、継続的な生存と倫理的な生活に不可欠であると教育されます。
この概念は一度植え付けられると、SCP-6005全域でのミーム的な自己複製に成功しました。84年9月20日時点で、SCP-6005は完全な自己収容下にあると判断されています。現在、SCP-6005の脅威は実質的に無力化されており、その構成員が正常性に重大な危害をもたらす可能性は低いと見られています。
補遺 6005-2: 変化段階にある6005-B実例とのインタビューのサンプル
[編集済み]: こんにちは、キャシー。
6005-435: こんにちは、先生。
[編集済み]: 今日の調子はどうですか?元気かな?
6005-435: はい。
[編集済み]: 君があまり食べてないと彼らが話していたよ。それから変わってるといいんだけど。
6005-435: 少しは。
[編集済み]: 良かった。
椅子が動く音が聞こえる
[編集済み]: 聞いて欲しい。キャシー。これは重要なことだから。最近、いくつか事件が起きたと聞いた。
返答はない。
[編集済み]: また庭園に行っているのか?
6005-435: …いいえ。
[編集済み]: 嘘をついているようだね、キャシー。
再度の沈黙。
[編集済み]: いいんだよ。何でも話して欲しい。そのためにここにいるんだから。君はここでは安全だ。だから-
6005-435: 子供扱いしないで。17歳だから。
[編集済み]: キャシー!
かすかな擦る音
[編集済み]: 私たちを信頼して欲しい、キャシー。ただ助けになりたいんだ。そのために私たちはここにいる。人々を助けるため。
6005-435: ただ…
[編集済み]: うん?
6005-435: どうしてそれが不自然になるのかわからない。私たちは明るくて自由な場所を作った。綺麗だった。何も引き裂いたりしなかった。しなかった- 幸せだった。ナイチンゲールの声を聞いたことがなかった。
[編集済み]: ナイチンゲールは森にもいるよ。
強く打つ音。
6005-435: 行きたくない。森には!前のままであってほしい。道を歩いて、腕を伸ばして、私は- どうして?どうして私たちはそうしなきゃ-
6005-435は泣き始める。
[編集済み]: ああ。キャシー。君にはがっかりだよ。前にも同じことをやった。
6005-435: わかってる、ただ- いやだ
[編集済み]: 本当に驚きだよ。君は賢い女の子だ。また忘れたようだね。彼らがどれほど叫ぶか知らないのか?どこで育つか、どこで生きるか、君がとやかく言うことじゃない。彼ら自身だ。彼らが育ちたいように育つんだ。
6005-435: わかってる。でもそうは思えない、ただ、思えない。
[編集済み]: 本当に忘れたんだね。思い出させてあげようか。
6005-435: い、いや。やめて。もうやめて。
[編集済み]: 分かってもらわないといけない、キャシー。
6005-435: 分かってる、分かってる、本当に。
[編集済み]: 嘘をついているね。
バッグのガサガサ音
[編集済みもう一度聞くんだ、キャシー。彼らの苦痛を。楽しいことではないのは分かる。だけど君が彼らに何をしているか知る必要があるんだ。彼らが反撃してくることはない、ただの木なんだから。
6005-435:** お願い…
[編集済み]: 前、私がここに来た時、君は私に何を訊いた?他の人たちは何と言ってたって?
6005-435: …あなたは、天使ですか?
[編集済み]: <笑い声> まあ、本当は違うんだがね、もちろん。ただ、私と名前が同じだけさ。大天使。マリアに何をすべきか、何が真実かを伝えに来た。そして私は今、君に何をすべきか、何が真実かを伝えるためにここにいる。
6005-435: ごめんなさい。
[編集済み]: いいんだよ。私たちは助けになるためにここにいるんだ。いつだって助けになるために。
<ログ終了>
ホーリー: "そして6ヶ月後に、神によって天使ガブリエルはガリラヤの街ナザレに送られたと。"
ガブリエル: 私に誇大妄想はないよ、ホーリー。私はただの医者だ。やるべきことをやっただけさ。
ホーリー: ああ。適切且つより良い収容、だろ?
ガブリエル: 倫理委員会は私の行動に何の問題もないと判断した。
ホーリーは鼻で大きく息を吸う。
ホーリー: だが選択肢はあった、ガブリエル。違うやり方があったはずだ。
ガブリエル: 君はどうだったと?私と君で何が違う?君は長年、財団のエージェントだった。君は私と同じぐらい共犯だよ。
ホーリー: 俺たち全員、毎日そうだ。だがお前は守られて、幸運で、世界の暗闇を避けることができて、お前がそうなってるとき、そしてお前が力に立ち向かうとき、お前には選択肢がある。キャスパーやアドラーがやったように、頭を下げて何も間違っていないと振る舞うことも、空が暗くて建物が灰色でも何も問題ないように振る舞うこともできる。俺がやったみたいにすることだってできる。
ガブリエル: それで、君は何をしたと?
ホーリーがゆっくりと微笑む。
ホーリー: 一つ、いつも気になってたことがあるんだ。あの庭園について、俺たちははっきりとした説明を受けたことがなかった。話題には上がる。だが、俺たちはそれがどういう見た目をしていたのか分からない。横になって雲を眺めるのに、一番心地よい場所はどこだったんだろうか。
ガブリエル: それが 君の気になったことだと?君は失敗した!彼らがなぜ消えていくのか突き止めるのに失敗した。
ホーリー: ああ。結局、その部分は簡単だった。
ガブリエル: そうなのか?
ホーリー: カスカディアが何か知っているか?ドクター。生物地域としての。
ガブリエル: 環境保護主義に特に興味はない。
ホーリー: コンセプトは単純だ。コミュニティ、いわば人々の生態系は特定の環境ゾーンと結びついた時、より理に叶うものになる。より調和の取れた生き方という興味深いアイデアだ。この全体の地域、山々や森林を持つこの地域が、周囲の世界を利用して互いに結びつくコミュニティーによって機能している。
ガブリエル: 魅力的だ。それに何の関係がある?
ホーリー: それが意味するのは、クソ間抜け、お前は自分自身で何やってるのか分かってないってことだ。
ガブリエル: そのような言葉遣いをする必要はない。私はただ財団の博士としての役割を果たしただけだ。
ホーリー: そうだ。奴らが恥を忍べないばかりに、隠して埋めなきゃいけなかった役割だ。お前は忘れている、テレパシー・ネットワークもネットワークだと。本質的に互いに結びついているものだとな。お前はサイキック・エネルギーを内側に向けることをしなかった。ただ都合がいい場所に隠しただけだ、
ガブリエル: 分からないな。
ホーリー: そうだ。お前に分かるとは思えない。お前には人が何なのか分からない、そうだろ?小さなオフィスに座って、数字を纏めて、素敵なスーツをプレスをかけてもらって。力がお前に何をもたらしたか分かっているのか?それともいつもこうだったのか?
ガブリエル: 協力する気がないのならここで終わりにしようか。こんなことをして、彼らは君をアリゾナに送るだろうね。
ホーリー: だからどんなことだ?さっきも言ったが、俺は自分がなぜここにいるのか分からない。
ガブリエル: 自分で言っただろう。私たちには力がある。君にはない。そして私たちは、君に消えて欲しいと思っている。
ホーリー: まあ、そういう見方もあるだろうな。ただ、一つ質問だ。
ホーリーが立ち上がる。
ホーリー: ここはどこだと思う?
ガブリエルは周囲を見回す。彼とホーリーはうっそうとした森の中、木彫りのテーブルに座っている。午後遅くで、日は曇っている。
ガブリエル: な、なんだ?
ホーリー: サイキック・エネルギーはただ内側に向かうわけじゃない。消えることはない。それは煮え立って、燃えて、新しい経路を見出す。お前が森になるように言った。だからそれを見出した。ユーコンからケープへ。
ガブリエル: 私たちはどうやってここに来たんだ?
ホーリー: お前に薬を盛ってここまで連れてきた。あとは森がやってくれた。驚きなのは、テレパシーの影響下にある人間は色々と気付かなくなるってことさ。なぜかって、俺は一回、部屋の角にあった立派な壺を見逃したことがあるんだ。
ガブリエル: わからない。クソが。何が起きてるんだ?
ホーリーが苦笑いをする。
ホーリー: 言葉遣いだ、ドクター。彼らにお前のことを教えた。お前が何をしたかもだ。皆ここにいる。お前の古い友人たちも。お前が彼らにに言ったように。
木々の間から人影が現れる。十代後半の女性のようなプロポーションだが、全身は木でできている。彫刻の顔は静止している。サイト1015のものと同じ像で、キャシー=ヒギンズが選択肢が残されていないと思った時に纏ったものと同じである。
ガブリエル: 誰- これは何だ?冗談か?
ホーリー: いいや。冗談ではない、彼らは知っている。お前が何をやったか、彼らが何を失ったか。彼らは皆ここにきて自らを失った。他に選択肢が残されていなかったから。
近くの木から木製の手が現れ、ガブリエルの肩を掴む。
ガブリエル: 外せ- 外せ!この野郎、ホーリー、これを外せ!
ホーリー: なぜ?それはただ力を行使しているだけだ。どんな破片でも取り返す。ドラゴンがまた吠えている。
木や地面からさらに手が現れ、それぞれがガブリエルの手足を掴む。ガブリエルはもがくが、抜け出すことはできない。ホーリーは笑い、再びタバコを取り出す。像は静かに見ている。
ガブリエル: こんな仕打ちはありえない!自然ではないぞ!私はやるべきことをやただけだ!私は-
手はガブリエルを木の方へと引きずり始める。樹皮に亀裂が入り、開き始める
ガブリエル: お前!止めろ、ホーリー!こいつらを止めろ!間違っている!お前に、何が自然かそうでないかを私に対して言うことなど出来ない!
ホーリーは振り返り、ガブリエルに顔を近づける。
ホーリー: お前にも出来ない。
ガブリエルは叫び、もがき続ける。手が彼を木へと引きずり込む。ホーリーは床にタバコを落とし、穏やかに口笛を吹きながら立ち去る。像はただ聞いている。
その日、後に雨が降る。タバコが溶け、地面に溢れる。土と見分けがつかなくなり溶け込んでいく。