——俺は後数分で死ぬだろう。
だからこそ、ここにこのメモを置いておこうと思う。
まず俺が言いたいこと。君への贖罪がまだ終わって無いにも関わらず、このような結末になってしまったことを謝ろうと思う。
君すら救えず、ただ淡々と「人のため」を思って行動する。君からはどう見えただろうか。
あの時、車に気付かず、殺してしまった愚か者を君はこの程度の贖罪で許してくれるだろうか。いや、許してもらえなくてもいい。ただ、俺に贖罪の意識があったことを知って欲しいだけだ。
君を救いたかった。でも救えなかった。救うためにこの能力を得たにも関わらず。
君にできなかった分、ほかの人のために尽くそうと。自分にできる範囲のことなら全てやった。いつか君を救えなかった日を変えることができると信じて。
それなのに、それなのに。
運命って言う奴は残酷なもんだ。君を救う前に僕を殺すとは。
この依頼を断ることもできた。でも、それじゃ自分の存在意義に反してしまう。だから僕はこの依頼を受けた。
こっち側で会えなくても、そっちで君に会えると信じて。
ああ、まだ死ぬ前だっていうのにも関わらず、思い出が走馬灯のように駆け巡る。
ピアノを連弾したこと、コンクールで金賞を取ったこと。なによりも君の「別れの歌」。未だに君の音色が蘇ってくるよ。
……そろそろ時間だ。やっと君の所へ行くことができるよ。まずそっち側で会ったら直接謝罪させてくれ。
そして、君がいいと言ってくれるなら、また連弾をしよう。
それでは。今でも君のことを愛しているよ。
ここはとある一軒家。一本のナイフが黒く、鈍く光っていること以外は、他と変わらない。
「まだ間に合う」、「考え直せ」、「悪いことはやめるんだ」。
静止を促す。ナイフは困惑しつつ、男に刺さった。
そう。男は命を差し出したにも関わらず、依頼を成功させることは出来なかったのだ。
ここはとある一軒家。一本のナイフが男の胸を赤く染め上げていること以外、他と変わらない。
男の顔はどこか嬉しそうだった。男のわずかな意識の中で響いていたのは悲鳴ではなく、ラジオから流れていた「別れの歌」だった。
君のメモを見たよ。あれはしょうがないことだったのに、まだ引きずってたの?
それもわざわざ人生をかけてまで償おうなんて…。君は本当にバカだ。
あの時からちっとも変わってりゃしない。そんなことをしてさ、私が喜ぶと思う?君の彼女だってこと忘れてない?
もうバカ!君には私の分も幸せになって欲しかったのに…。それでも私に会いたいっていう気持ちは伝わってきたよ。ありがとう。でもこっちで直接会ったら謝罪しないでほしいな。君といられるだけで幸せなんだから……。
案外こっち側も悪く無いよ。街のみんなだって優しくしてくれるし、こっちは平和でのどかな所だよ。こういうところでこそ、連弾したいね。
君を待っています。いつまでも。酩酊街より 愛を込めて
男が目を覚ます。そこは一面花の世界。月は出ておらず、雪も降っていなかった。