遠野司書の記憶の片隅

凪のバスルーム

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calm01.jpg

SCP-XXX-JP-Aからの景色。

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: 現在、SXP-XXX-JPはサイト-8164に移築されています。SCP-XXX-JP-A周辺の定期観測は1週間に1回のペースで実施されます。臨時の観測が必要である場合は、担当主任の許可を得て行ってください。

説明: SCP-XXX-JPはかつて京都市[編集済]病院の病棟として使用されていた建造物の、2階浴室の出入口扉です。完全に閉じた状態のSCP-XXX-JPを室外から6回ノックして開いた場合、SCP-XXX-JPは浴室内ではなく、SCP-XXX-JP-Aと指定される特定の地点へ接続されます。

SCP-XXX-JP-Aは位相変調空間内の砂浜に位置します。この砂浜は外周約4kmの島嶼を取り巻く海岸線の一部をなしています。自然環境は地球と大差なく、ヒトの生存に悪影響はありません。

天体観測の結果から、SCP-XXX-JP-Aの位置は西太平洋上の北緯███████、東経███████地点に相当することが判っていますが、実際の当該地点に陸地は存在しません。島内では複数の人工物が発見されているものの、人間の存在は確認されていません。

財団による確保当時、SCP-XXX-JP-A付近には以下に示す複数の物品が置かれていました。いずれの物品にも異常性は確認されていません。

  • ビーチパラソル
  • アウトドア用の折り畳み椅子
  • クーラーボックス
  • A4判のノート(資料XXX-JP-01と指定)
  • ボールペン

資料XXX-JP-01には21ページにわたって日記らしき文章が書き込まれています。記述内容および筆跡鑑定の結果から、著者は████年4月から8月にかけて[編集済]病院に入院していた日本人女性“凪浦百合子”(POI-4094と指定)だと考えられています。

資料XXX-JP-01(抜粋)

5.3
先生に勧められたので、今日から日記を書いてみる。
といっても私は出歩けないし、書くことはあまり思いつかない。
だから、夢の話を書くことにする。いわゆる夢日記というやつ。

5.4
私はベッドで目を覚ます。街の中心に公園があって、その公園の中に私のベッドがある。夢はいつもここから始まる。
夢の舞台はいつも同じ場所。路地の多い街で名前は凪浦という。私の名字と同じ。和風の古い家が多いけど、レンガの建物なんかもある。テレビで時代劇とか大河ドラマばかり見てるから、その影響かも。

5.10
明晰夢を見るのにはコツがある。説明は難しいけれど、一度コツを掴んだら、いつでも何もしなくても見られる。
明晰夢の中では、そこが夢の中だとなんとなくわかって、自由に動けるようになる。
でもなんでもアリではない。物を思い通りに操ったりとか、瞬間移動とかはできない。これは人にもよるのかな? 少なくとも私は無理。

6.13
この街には海がない。どちらの方角も山に囲まれている。昨夜は街の外れまで行ってみた。山のふもとで道は途絶えて、その先は暗い森だった。空は晴れているのに、森の奥は夜のように暗い。足を踏み入れようとすると、後ろからおじいさんに話しかけられた。そちらに行ってはいけないと言う。なんだか怖くなって引き返した。

7.21
東の市場で見かけない人に会った。街の中で会う人の顔はだいたい把握しているのだけど(自分の夢だし)、その人の顔は知らなかった。大きなつづらを担いだ男の人。
その人は豆田彦兵衛と名乗った。明るい人で、タヌキみたいにお腹が太い。行商人をやっているらしい。

7.30
また豆田さんに会った。
豆田さんに、いま欲しいものは何かと聞かれた。何よりも一番欲しいものは何かと。
私は海が見たいと答えた。ボートに乗って世界中を航海したいと言った。

8.9
取引を持ちかけられた。豆田さんは私に海と舟をくれる。私は代わりにこの街を渡す。そんな取引。
私は断った。舟があっても私の身体では漕ぎ出せないから。けれど、それなら代わりの身体もくれるという。
街のことなんて私に聞かれても困るのだけど、私は同意した。
正直期待はしていないけど、本当にここを抜け出せるのなら儲けものだ。

───ここからは現実の話!───
8.12
豆田さんの言ったことは本当だった。本当に海に行けたのだ。
海は、写真で見るよりずっと広かった。
砂浜にはパラソルが立っていて、海の上には大きなボートもあった。ボートというより、クルーザー? そんな感じ。
貰った身体もいい調子。
今すぐにでも舟に乗ってみたいけど、残念ながら空は雨だ。出航は晴れを待ってからが良い。

8.13
今日もずっと雨だった。残念。
浜辺を走ったり、水に入ったりして遊んだ。

8.14
今日も雨。いくらなんでも長すぎる気がする。
でも気長に待とう。止まない雨はない、とも言うし。

8.16
雨。5日連続。
波も高くなってきた。風も強い。雨というより嵐だ。
すこし怖い。

8.18
嵐は止まない。
雨と風の音を聴きながら、まるで泣き声のようだなと思う。
だとしたら、何がそんなに悲しいのだろう?
泣き止んでほしいと思うけれど、私にできることはない。

8.19
今日も雨。

8.19 追記
嵐の海を見ながら、うたたねをした。
夢を見たけれど、内容は覚えていない。
夢の内容を思い出せないのは久しぶり。街を手放したからかな。
でも悪い夢ではなかった気がする。

起きたら頬が濡れていた。私は泣いていたみたいだ。どうして?

8.20
昨日の嵐が嘘のように凪いでいる。ようやく出発できそう。
慣れ親しんだ浜辺には、なんだか後ろ髪を引かれるけれど、この機会を逃す手はない。

この日記は置いて行くことにする。
いつか私と同じように、誰かがこの砂浜にたどり着いたら、
そしたらその人はあなたはこの日記を読んでくれるだろうか。

海に来てから、あの街の夢は一度も見ていない。私はそういう取引をしたから。
後悔はしていないけれど、少し寂しいのも事実なのだ。
だから、よかったらあなたにも、あの街のことを知ってもらって、
そして今度眠るとき、私の代わりにあの街を訪れてほしい。
そのときは、私は元気だと伝えてほしい。

そうでなくとも、晴れを待つまでの暇つぶしには、なると思うから。

潮風が気持ちいい。

いってきます。
海の向こうで待っているね。

補遺1: ████/08/12以降、POI-4094は病状の急変によって昏睡状態に陥っていました。08/20 22:00頃、2階浴室内にて死亡しているPOI-4094を病院職員が発見しました。家族および病院職員が常時看病に当たっていたにもかかわらず、POI-4094が浴室へ移動する様子は目撃されていません。

同日深夜、“国立成長医療研究センターの信楽”と名乗る人物が病院を訪れ、研究目的と称してPOI-4094の遺体を引き取りました。しかしながら成長医療研究センターに信楽なる職員は実在せず、引き取られた遺体の行方は不明です。

補遺2: ████/08/27放送のSCP-568-JP内“オオタ・ニュース”のコーナーにて、“アンソン多島海でビスクドールの乗った漂流船が発見された”とのニュースが報じられました。同放送によれば、発見されたビスクドールは日本語を話し、“京都出身のユリコ”と名乗っているとのことです。SCP-XXX-JPおよびPOI-4095との関連性について調査が進められています。











(下書きここまで)


(以下オマケ)











高瀬川の左腕、身元判明 富山の会社員男性

 京都府警は23日、京都市下京区の高瀬川で7日未明に見つかった左腕は、富山県富山市の会社員、小杉友晴さん(31)のものだったと発表した。
 府警によると、小杉さんは6日から会社の同僚数名と共に京都市内を訪れていたが、6日深夜に四条河原町付近で同僚と別れて以来、行方がわからなくなっていた。身元はDNA鑑定によって判明した。発見現場周辺からは小杉さんのものと思われる眼鏡の一部や衣類の断片も見つかっているが、小杉さん本人の行方については生死も含め依然不明。府警は、6日深夜から7日未明までの間に小杉さんがなんらかの事件に巻き込まれたと見て、広く情報提供を呼びかけている。

(信濃中央新聞、████年3月24日朝刊)










The Edge of Lib. Tono's Memory



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一番最後でもいいからさ 世界の涯てまで連れてって1



























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