遠野司書の記憶の片隅

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私は一本道を独りで歩いていました。落ち葉が落ちたままに散らばったその道は、私独りにはとても広すぎる道でした。

ふと顔を上げると、向こうの方から歩いてくる影がありました。しかしながら、私には……その時の私には、「それ」が何なのかはわからなかったのです。「それ」には気を留めずに歩いていると、落ち葉を踏みしめる音に、何か別の音が混ざり始めました。それは、冬の日の朝に、水溜りに張った薄い氷を踏み割るような、そんな音でした。

「気持ちの良い冬の音がするでしょう、お嬢さん」

私に話しかけてきた「それ」は、灰色のツイードジャケットを羽織って中折れ帽を被った、いささか古風な、しかしこれといって変わった点の見当たらない老紳士でした……ただ一点、彼の両目があるべき位置に、ふたつの大きな穴がぽっかりと空いていることを除けば。

もちろん私は彼と会話をするつもりなどありませんでした。私は声をあげて、その場から駆け出そうとしました。しかし、何故か私の体は動きませんでした。口から漏れる息はいつもより熱く、そして幾万の綿毛を含んだように重く不快なものでした。その間にも「それ」は一歩、また一歩とこちらへ歩みを進め、それに比例するかのように私の呼吸も徐々に速く、そして荒々しくなっていきました。

「それ」の空っぽの目と目が合った瞬間、大事な何かが頭からするりと抜け落ちたような感覚を味わいました。抜け落ちた何かを埋めようとして私の頭の中で響くのは、冬。

「はい、確かにこの音は冬、透き通っていて輝かしくて、それでいて懐かしい、私があの日体験した冬、です」

そう答えた私に、財団の職員と名乗る男は淡々と次の言葉を告げました。

「今日という日は何の異常もない、太陽が一周してしまえば毎日の喧騒の中に埋もれてしまうような、ごくありふれた冬の一日、そうですね?」
「はい……私があの日、あの人……いえ、『あれ』に出会った時に見たのとはまるで違う、代わり映えしない冬です」


そう呟きながら落ち葉の絨毯に体を投げ出しつつあった彼女を、男はそっと抱えた。

「……忘れて仕舞えば雪のように溶けゆく儚き悪夢だと言うのに、何故貴方は何度も、忘れて仕舞うことを拒むのでしょうか」

彼女が意識を失ったということは、Aクラス記憶処理が完了したことを意味する。それでもほら、ふつふつと、若芽の萌ゆる音が、再び訪れる、春の音が。



















(下書きここまで)


(以下オマケ)











執筆したSCP-JP

SCP-281-JP 帰郷
Homecoming

SCP-712-JP ヒアシンス侯爵夫人の眠らないお茶会
March. Hyacinth's Sleepless Teaparty

執筆したTale-JP

茜色の特異点
the Madder-red Singularity










The Edge of Lib. Tono's Memory



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一番最後でもいいからさ 世界の涯てまで連れてって7



























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