生き物の長さの話
まず読む前に、
ほとんどの動物は全長と書き、うつ伏せに寝かせた際の口吻の先から尾の先端までの長さをイメージしながら執筆すればOKです。
逆に体長という言葉を使うことを極力避けて下さい。
これだけ意識すれば、9割問題無いでしょう。もちろん、1割くらい問題が起こることがありますが、それは尾や口がないとか直立歩行している場合などだと思います。もちろん、それ以外で問題がある生き物もいるのですが、細かいことが気になる方や「あれ? この生き物の全長ってどこを測ればいいんだ?」となった場合、力になれれば、と思いこのエッセイを執筆しました。
何故「体長」表記だとダメなのか?
SCP記事の執筆時、最も注意すべき点は個人的にここだと思っています。学名のエッセイでも似たようなことを書きましたが、学術的な世界では「どこの長さを測っているのか?」を正確に伝える必要があります。そのため、生物のタイプごとに「どこからどこの長さをどのように測るのか?」「その測り方の長さをなんと呼ぶのか?」が厳密に決まっています。では、「体長」だと何がダメで正確に伝える事ができないのでしょうか? それは、「体長」という呼び方が広まりすぎており、「どこからどこを測った時に体長と呼ぶのか」が直感的に伝わりにくいためです。一つ例を出しましょう。
「SCP-XXXは体長30cmのモリフクロウです」
どんな大きさのモリフクロウをイメージしましたか? そして、それはどこからどこまでの長さですか? 多くの人は「木に留まったフクロウの足の裏から頭頂部まで」が30cmほどのフクロウをイメージしたのではないでしょうか? それは何故行けないのでしょうか? 実は木に留まった鳥類は人間で言う「和式トイレを使用中の姿勢」に近い姿勢をしています。そのため、実は状況次第では立ち上がることがあり、座った状態で30cmならば、完全に足を伸ばせば50cm近くにもなります。長さがコロコロ変わる部分を測ることが特に学術的に無意味なことはわかるかと思います。ただし、「足を固定した状態で立てば見える程度の高さの板で視界を遮る」など非常に限定された状況でしか鳥類が完全に立つことはありません。その羽根により脚の大部分が見えないために起こった勘違いによるイメージ、これが問題なのです。では、もう一つの例です。
「SCP-XXXは体長10cmのダイオウサソリです」
どのような大きさのサソリをイメージしたでしょうか? 手のひらに乗る程度? 小指より短い程度? 実はサソリの肛門は毒針のある球状に膨れた節の外側の付け根にあります。言い換えると、生物学的に厳密に言えば、あの毒針部分だけが尻尾であり、残りは胴体なのです。つまり、毒針部分を除いた長さを体長と呼ぶべきでしょう。いやいや、あの長い尾の部分は尾部と呼ばれ、残りの節を胴部と呼びます。なので、胴部の長さを体長と呼ぶべきかもしれない。貴方はどちらだと思いますか?
このように、体長と呼んだ時の一般的なイメージと、専門的な知識を持った人間のイメージが乖離してしまう例が多数あります。そして「体長」と呼んだ場合、それを書いた側がどの意図で書いているのかが、明確には伝わりません。ここは非常に重要で、込み入った問題です。なぜなら、いくら学術的な論文といえど「爬虫類を専攻する学者でも、ヒトデの測定法を知らないことがある」というのが実情なのです。そのため、自分の専攻外の生物の大きさを論文中で言及する場合、その測定法が正しい測定方法であるかは微妙な部分になってしまいます。そもそも、生物学の世界は常に人手不足(研究がお金にならず、種の数が膨大で、殆どの種は専攻する大学が世界中どこにもない)であり、海外の希少種などは入手が困難であるため、アマチュアマニアが書くこともよくあります。また、論文以外の場面でも、生物を実際に目にしたり、捕らえて測定するのは、多くの場合、学者ではなく狩人であり、そういった人間から聴取した「全長」や「体長」は、なにかを取り違えている可能性は非常に高く「私は正しい測定方法を用いて、この部分のこの長さを測りました」という表明が必要になるのです。よって、生物学の世界では混乱しやすい「体長」という表記を極力使わず、各測定方法ごとに定められた手法と単位を使う慣例ができています。
その関係上、以下の長さの単位は聞き慣れないものも多数あるかと思いますが、字面により一般的にもどこを測ったのかがわかりやすい表現が多いです。日本語のマジックですね。海外でも似たようにどこを測ったのかがわかるように表記されています。ということで、「体長」がどの単位を示すのかが分からない。という説明をした上で、以下の文章では、「体長」を動物の長さの総称として扱います。
一番基本になるのが「全長」
図鑑などで、動物の長さの単位として使われるのは「全長」です。これは冒頭でも書いたように
「仰向けに寝かせるなどして、背骨など全ての骨を真っ直ぐに伸ばした」
「口吻の先から尾の先端までの最大の長さ」
を指します。この際、毛や触覚は含みませんが、鳥類の羽根は含みます。注意すべき点としては、「ハツカネズミ」や「エゾシカ」など、生きているならば背を丸めていたり、首を垂直に立てた状態が標準的な動物の場合、全長と実際のイメージが乖離することは多々ありえます。そのため、完全に伸ばしている状態であることをしっかりと認識する必要があります。また、厳密にいうと、全長は「生物の正中線上の頭部からの最大長」を指します。一部の生物に上の表現が通用しない場合は、これを意識すると解決するかと思われます。
ただし、この「全長」は、図鑑などに表記する際、同種の死体が一定量採取できる場合にのみ限定的に使われることが多く、四足動物の場合、学術的にはあまり使われることがありません。後述の「頭胴長」を読むとわかりますが、多くの場合1個体を対象とするSCP記事としては微妙な表現です。
実際には「頭胴長」を使うことが最も普遍的
「全長」を使う場合、実用上では問題が幾つか発生します。例えば「ニホントカゲ」など、自切を行うスキンク属は尾が切れている事が多いことはイメージし易いかと思います。もちろん、捕獲の際に切ることも多分にあるでしょう。実のところ、野生動物の大半が尾部に様々な損傷を負うことが多いのです。複数匹の平均が必要な場合などもSCP記事には稀に見られますが、その場合、尾部の損傷状態によって大きなバラつきが発生することが予測されます。つまり、全長と書いていても、尾部をどれだけ損傷しているか、時に全く損傷していないのかがわかりません。そこで使われるのが「頭胴長」です。
「仰向けに寝かせるなどして、頭蓋骨や背骨など全ての骨を真っ直ぐに伸ばした」
「口吻の先から尾てい骨基部(簡易的には肛門)までの最大の長さ」
この長さを「頭胴長」と呼びます。どこからが尾の基部なのかがわかりにくいサンショウウオや爬虫類、鳥類などでは総排泄孔(肛門)を使用するのが普通です。学術的な世界で「体長」といった場合、この「頭胴長」を指すことが正式に定められています。ただし、基本的に「頭胴長」という単語を聞き慣れない一般向けの説明などに「体長」が使われ、混乱を避けるため、論文などで「体長」表記を使用することはありません。
頭胴長にはもう一つの利点があります。例えば「パンサーカメレオン」のオス(マダガスカル西海岸側の平均)は全長40cm弱になりますが、頭胴長は25cm弱であり、特にカメレオンは尾を丸めるため、実物を見た印象は27cmほどでしょう。このように尾が非常に長い動物の場合、実物を見た時の印象に近いのは後者であることも特筆すべき点です。
損傷による差や骨格と生体の差がほとんどなく、実際のイメージにも近いことがあり(例えば、トカゲの再生尾には骨がありません)、ヘビ類などの尾が極端に短い生物を除くと生物学的には頭胴長が最も基本となる表記です。
全長が測定しにくい大型哺乳類には「体高」
「全長」や「頭胴長」は生物の長さの単位として正確ですが、生きている大型哺乳類に用いる場合、背筋や頭蓋骨、首を伸ばす必要があり、犬、ラクダ、キリン、ライオンなど殆どの場合、正確な測定には困難を伴うことが多いです。そういった場合に用いられるのが、「体高」です。
キ骨(肩甲骨の最も高い部分)から地面までの高さ
を測り、「体高」と呼びます。ただし、「体高」と書いた場合、地面から頭頂部までの高さ、と誤解を生みやすいことや、競馬の世界では「体高」というと頭頂部までの高さであることなどから、紛らわしい場面では「肩高」とも表記します。動物園では、幅を自在に狭めることができる檻(保定檻)を完備している事が多く、これで身動きできないほどにはばをせばめて大型動物を拘束し、「体高」測定や治療の際に用います。恐らく、財団でもこれを完備していることが想定され、生きたまま収容することを目的とした財団では、正確な測定の難しい「頭胴長」ではなく、こちらの「体高」表記を使う可能性は十分高いでしょう。
鳥類の「翼開長」
鳥類も生きている場合、仰向けに寝かせて測定することが困難であり、「全長」も「頭胴長」も測定しにくいことはわかると思います。しかし、大型哺乳類とは違い、木に留まった姿は人間で言う膝を抱えたまま腰を上げて座った姿勢であり、正確な測定には使えません。そのため、鳥類学では(時にコウモリや一部の昆虫などの翼のある生き物でも)、「翼開長」を主に用います。これは
「左右の翼を完全に広げた時の(初列風切羽を含む)翼の」
「先端から先端までの直線距離の長さ」
を指します。鳥類の体長には羽根を含むことに注意してください。鳥類学では「翼開長」のみを使い、生物学的には「全長」と「翼開長」の双方を併記するのが一般的です。ただし、似たような単語として「翼長」は、翼角(手首の関節)から最長の初列風切の先端までの長さを指すので注意が必要です。
実際に創作で用いる際では、「全長」と「翼開長」の相関を、数値だけで想定するのは、かなりの経験が必要になります。例えば、全長40cmのモリフクロウならば翼開長は88cm前後で、木に留まった時の足の裏から頭頂部までの長さは30cmくらいです。これを資料も見ずに即答できるのは、筆者に猛禽類等の動物飼育経験がそれなりにあるためであり、一般的には困難が伴うでしょう。もちろん、そもそも資料を探すことも難しい可能性が高いです。よって、「全長」と「翼開長」のどちらか一方を表記すれば十分だと思います。この場合、鳥類の全長は「飛行時の姿勢」で「嘴の先端から尾羽根の端までの長さ」であるため、その生物の大きさを直感的にイメージしやすいのは「翼開長」の方かと思います。
カメ類の「甲長」
カメ類は首を最大まで伸ばした状態での測定が難しいこと、野生個体では尾部を損傷しやすいこと、どんな場面でも甲羅が損傷を負っている可能性が低いことなどから、甲羅の縦の直線距離である甲長がよく用いられます。測定方法として用いられるのは専用の器具、もしくは引き戸を使って、首を完全に引っ込めた状態にて甲羅を挟み込み、その幅を測定する手法が用いられます。
魚類の「全長」と「標準体長」
魚類の場合、吻端から尾びれ末端までを全長と呼びますが、タイなどのように二叉状の尾びれを持つ場合、尾びれを自然にひろげた状態か、自然にすぼめた状態かで全長が変わってしまいます。これは計測者(学者か漁師かの、違いであることが多いです)によっても異なりますが、基本的には自然にひろげた状態を測定します。他に、尾びれ末端は欠損しやすいので、尾びれの中央のいちばん窪んだ部分を基準とした尾叉長が使われることもあります。
ただ、全長や尾叉長の場合、尾びれは破損しやすいため、魚類学などの学術的場面にはあまり使われず、標準体長が使われることも多いです。
標準体長とは吻端から尾柄部の椎骨の末端までの長さで
測定時は水平な台の上に置いた魚体の、尾びれの付け根の肉が薄くなっている部分までの長さです
骨がないためにそこから尾びれを急角度に折り曲げることができる部分が椎骨の末端に当たりますが、実際に魚体を見ながらでないとイメージがつきにくいのが難点です。 なお、標準体長とは英語の Standard Length を日本語に翻訳したもので、日本語の「体長」とは全く関係がなく、標準体長を省略して体長と呼ぶことは出来ませんので注意してください。
また、チゴダラやソコダラの仲間のように、体の後方が先細りになっていて採集する際にちぎれやすい魚種の場合には、吻端から肛門までの長さをもって肛門前長として指標に用いる場合もあるなど、種と目的によってさまざまな計測法があり、場面によって使い分けます。
貝類の「殻長」と「殻径・殻幅」
水棲動物の体長の長さは、実は多種多様です。陸棲動物と比較して形態の差が激しく、先ほどの「全長」や「頭胴長」も全く機能しない例が多数存在します。わかりやすいのが貝類でしょう。貝の場合、身の部分は基本的に無視され、貝殻の長さを測定します。巻き貝の場合、
殻頂(殻の最も上端にあたる部分)から水管溝(殻の最下端)までの長さを殻長と呼びます。
また、貝殻の最大幅のことを殻径または殻幅と呼びます。
二枚貝の場合は、殻長でも表記できますが(貝殻の接合部の飛び出た部分から口の一番遠いところまでに当たる)、多くの場合は、最大幅である殻径または殻幅で表記するのが一般的です。これは陸棲貝であるカタツムリなど、平たく潰れた巻き貝でも同様です。
頭足類の「全長」と他の単位
タコやイカなどの頭足類も厳密には貝類に含まれますが、殻は体内に形骸器官として残るのみである(いわゆるイカの甲)ため、殻長や殻幅を用いることはありますが、あまり一般的ではありません。
頭足類は基本的には「全長」ですが、外套膜(いわゆる胴の部分)の最大長である外套長や開いた触腕の幅であるレッグスパンを測定する場合も多いです。またこの時の「全長」には、全長の定義上、正中線上にはない触腕(イカに2本ある長い腕)を含みませんが、触腕以外の腕は含みます。よって、他の腕と比較して触腕のみが長いダイオウイカ属などは見た目よりも「全長」が短い印象を受けます。
カニ(クモ)の「甲長・甲幅(全長)」と「レッグスパン」
カニの体長を測定する場合は、カニの甲羅の縦幅である甲長と横幅である甲幅のどちらかを使います。全長には正中線上以外の部分(ここでは目)を含まないため、一部の例外を除いて全長=甲長です。どちらを使うかは、種によって異なり、慣習的に決まっていますが、基本的に長い方が使われる傾向があります。また、同時によく使われる表現として、
足を最大まで開いた時の爪の先から爪の先の直線距離(カニの場合横幅)をレッグスパンと呼びます
これはクモ類でも同様で、頭部先端から腹部後端までの直線距離を全長(ややこしいことに学術的場面でも、クモ類は全長を体長と呼ぶことが多い。頭胴長=全長であるためである。ここではあえて全長と表記する)と呼ぶ他に、大きさをイメージさせたい場合、レッグスパン(クモ類の場合、足を最大まで伸ばした際の縦幅)を併記することが多いです。これは、タカアシガニなど、足の長さが非常に長いタイプのカニやクモは全長とレッグスパンの差が激しいことも多く、また、状況次第では全長だけでは実際のイメージや説明に不足であることが挙げられます。
ヤドカリはシールド長を使う
タラバガニやヤシガニなどもヤドカリの仲間ではあるのですが、ここではホンヤドカリ属やヨコバサミ属などのヤドカリらしいヤドカリを指します。ヤドカリ類は巻き貝の中に腹節を隠してしまうため測定が難しく、腹節自体がグルリと横向きに巻いているため、全長を正確に測ること自体が困難です。また、カニ類と違い、頭胸部の甲羅が前甲と後甲の2つに分かれており、カニの甲長測定のルールに従うと、この前甲と後甲を合わせた縦の長さが甲長に当たります。しかし、後甲は柔らかく、保定の仕方や標本の状態によって長さが変動してしまい、実際には正確な長さの指標としては使えません。よって、
前甲中心の縦の直線距離をシールド長(状況により横幅のシールド幅)とし、体長の指標としています
なお、巻き貝を背負わないヤシガニなどの場合は、カニ同様に前甲と後甲を合わせた中心直線距離を測定し、甲長とします。腹節を含む長さは基本的に変動が激しいため、学術的には用いません。
エビは頭胸甲長
エビは非常に直感から外れた長さを測定します。
サソリ
ヒトデ
特別収容プロトコルでは体重を使え、説明には体重を使うな
実際問題として動物園などの飼育現場では、個体の大きさを測る際には「体重」を主に使います。鳥類、特に猛禽類の「体重」は飼育上、非常に重要です。よって、「収容プロトコル」では「体重」を用いるのが普遍的だと思われます。何故でしょうか? それは非常に簡単なことに「生きている間、体重は常に変化し続ける」ということが挙げられます。つまり、「体重は体調のバロメータとしての役割を果たす」が常に変動するため説明には向かず、「体長は変動しないため説明時の指標には使いやすい」という当たり前のことです。ここが意外と落とし穴となっているため、気をつけましょう。
太っていれば非常に重くなり、病気などで極限に痩せれば軽くなり、物を食べた時にはその分増加する「体重」は、その時の状態により常に変化を続けるため、個体の説明であるSCP報告書にはあまり適していません。ですが、特に鳥類は飼育上のストレスや気温で食べる量がかなり変化する上、鳥類は飛行という性質上、体重は極限まで落とされていることが普通であり、また、羽毛によりどんなに痩せても見た目が変化せず、雑食の鳥類と違って、特に常に餌を与え続ける訳にはいかない猛禽類や昆虫食の鳥類は、体重を測って餌の量を飼育者の直感的に変動させるのが一般的な飼育方法です。他にもクマやウマなどの大型動物でも、体重を定期的に測定し、餌の量を割り出します(この餌の量は、飼育者の職人芸的な直感に基づくものなので、収容プロトコルには餌の量そのものを書かないようにするのが無難でしょう)。測定の難しい各種「体長」と違い、「体重」は計器に乗せるだけなので簡単なのもポイントです。
この辺がSCP記事としては非常に微妙なラインなのですが「特別収容プロトコル」では「体重」を用いて餌の量を調整するように表記し、「説明」では各「体長」を用いる、というのが、正しいことになります。(もちろん、そのSCPの特性によってかなり変化するとは思われますが、適時変えて下さい)微妙な問題ですが、細かいことにこだわるならば、この辺りを注意してみるといいでしょう。
おまけの飼育方法の話
実のところ、生き物の飼育の根本は職人芸です! 経験から導き出された勘に頼り、個体差に対応するため、臨機応変に飼育方法を変更することが一般的です。
そのため、収容プロトコルでその生物の飼育方法がわからない場合、存在しない別紙を参照して回避して下さい。
家畜(イエイヌやイエネコを含む)の飼育方法は、大抵の場合手順化され、手順を間違わなければ飼育が可能です。また、ある程度、メジャーなペットに関しても、飼育手順は明確かつ簡易な文章化がなされているでしょう。
ですが、多くの生き物はそうではありません。それら生物の飼育をイメージして収容プロトコルを執筆していると痛い目を見るでしょう。
特に爬虫類や両生類などの陸棲変温動物は、他の動物で上手く行った経験を元に、その生物固有の生態や生息環境などから飼育手順を推測し、経験による勘で暗中模索することが非常に多いのです。そして、それは時に個体によって適時変更を加えることも珍しくありません。
場合によっては、飼育方法が確立されておらず、飼育が非常に困難だとされる種(例えばマソベササクレヤモリやヒヨケムシ類など)もそこそこいます。
また、上手く飼育できている人でも、自分がなぜ上手く飼育できているかを、学術レベルで正確に把握できていることは非常に稀です。
何故なら飼育に関する環境条件(湿度や温度、通気性、光量、水質、給餌間隔、給餌量、餌の種類etc.etc…それらの時経変化やトータルバランス)が非常に複雑すぎて、簡単に導き出せる話ではないからです。
また、長期的なスパンで見た場合、本来の寿命が20年の生物でも、4年しか生きられない飼育方法を気付かずにしてしまうことも多々あります。もしそれを実行したとしても、それに気が付くのは飼育開始から4年後でしょう。それまで生体は元気なので、知りようがないのです。というか、多くの飼育生物が本来の天寿を全うすることは稀でしょう。多くの生き物は、現時点での最適解を実行しているだけに過ぎないことが普通なのです。
そのため、複数の熟練者の意見が食い違うことも珍しくありません。例えば、ある人が「22度以下の低温飼育がカギだ」という生物を27度設定で上手く飼う人もいたりします。
それでは22度飼育が間違っているのか? というと、実は全然違って、高気温を避けるために使った、エアコンによる湿度低下と飼育ケージの高い通気性が本当のキーポイント。
27度で上手く飼っている方は、住んでいる場所の湿度が低く、通気性の非常に高いケージを使っていたので上手く行っていた。22度設定の人は、温度湿度が好適なので、多少通気性が悪くても飼育可能だった。なんてことがザラなのです。
そのため、どちらも言っていることは間違っていないのに食い違うのです。
でも、それらの証明は、数十匹の同じ生物を様々な環境で飼育し、沢山殺して得られる証明です。ほとんどの生物で、そんな実験はされていません。故に飼育者は暗中模索を強いられます。
何が言いたいのかというと、例えば収容プロトコルで不要に室温などを指定すると、飼育者からすれば、かなり飼育環境の自由度が下がるのです。例えば、爬虫類飼育初心者にありがちなミスとされているのが、指標を数値化しやすい温度だけに絞ってしまい、通気性や湿度のバランスを意識しないこと、なんて言われています。
32度までは平気、とされている種でも、湿度が高くて蒸れている場合、30度でも熱中症になってしまったり、逆に36度の高温でも通気性と湿度のバランスが取れていれば耐えていたりします。
これら実情を踏まえた上で、収容プロトコルでの正解の執筆方法とは何か? そう、書かないことです!
上でうだうだ書いた内容は、ほとんどの場合、SCPの面白さとはなんの関係もありません。ただただ、知らないで書くと重箱の隅をつつくのが好きな人間につつかれるから注意せよ、というだけの話。書かなければ重箱も存在しないのです、
実際、特定の生物のお世話の仕方なんて、学者レベルの人間であっても、専門職である動物園の飼育員や専門的なペットショップの店員、どころか偏執的なアマチュアマニアの方が得意だったりします。動物園でも繁殖不可能とされている生物を、アマチュアマニアが幾度となく成功させている光景も珍しくない世界なのです。(余談ですが、特にドイツ人のアマチュアマニアは凄いです)
だからこそ、飼育手順そのものは、存在しない別紙に丸投げ、または財団の職員という専門家に任せる形にして、収容プロトコルでは触れない。これが一番よい結果を生むでしょう。
さて、以上の知識を用いて、表記する場合、先述したモリフクロウならば「全長40cm、翼開長97cm」と表記するのが正しい例です。全長が40cmのモリフクロウならば、木に留まった際の足の裏から頭頂部までの長さはだいた30cmほどになります。思った以上に長い? それは鳥類をうつ伏せに寝かせる、いわば飛行姿勢になると関節が可動して長く伸びるためですね。ちなみに「ダイオウサソリ」の場合、毒針を含めて完全に真っ直ぐ伸ばした際の長さですので、「全長15 - 30cm」ほどになります。