- 翻訳SCP-CN-337(ツキガエル)
- 翻訳SCP-CN-205(終わらないサッカーゲーム)
- 翻訳SCP-CN-010(アイアイ)
- 救いの神
- 愛に時間を
- 名にしおう封筒
- Trick or Trick
- 執行博士の人事ファイル
アイテム番号: SCP-CN-337
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-CN-337はSite-CN-09の4号研究室内のビオトープに収容し、給餌の必要はありません。SCP-CN-337が活動期に入っている間、すなわち毎回の満月の時期には、オブジェクトが月光を直接受けることができる区域に移動させ、活動を最小に抑えなければなりません。天候上の理由によりオブジェクトが活動期に月光の直射を受けられないときは、活動期終了まで液体窒素を用いて活動状態を抑制してください。SCP-CN-337が月光の照射を受けることない活動期が3度連続した場合、4度目の活動期を正常に過ごさせるため、人工降雨や収容場所の移動といった人工的手段によって月光の照射を確保することが認められます。
SCP-CN-337-Bは同サイトの8号収容区に収容し、SCP-CN-337-Aは出現時にその都度制圧してください。
説明: SCP-CN-337の外観は両生綱無尾目の動物に類似していますが、いずれの既知の種にも属しません。オブジェクトの体長は17㎝、体重は███gであり、異常性を有する部分の材質については起源が明らかではありません。体表は背部が濃緑色、腹部は黒い斑点のある白色です。SCP-CN-337は眼球を持たず、代わりに本来眼部があるべき場所に光沢のある玉石のような物体が嵌め込まれていました。レントゲン検査の結果、同物体がオブジェクトの大脳に包まれる形で存在しており、不明な材質で、自然界に類似するものがない構造の鉱物であることが分かりました。
SCP-CN-337は非活動期には、視力を持たないにもかかわらず通常のカエルと同様の行動を行うため、未知の感知手段を有していると推測されています。
SCP-CN-337が活動期に入る満月の時期、オブジェクトは光とともに異常に高い熱を放出します。満月を過ぎるとオブジェクトは衰弱し、活動量は著しく減少します。活動期のSCP-CN-337は何かを求めているかのような行動を行い、観察の結果、それが月光の照射であることが判明しました。活動期のSCP-CN-337が月光を照射されると、発光量は変わりませんが、放出熱量は激減し、活動期経過後の衰弱期間も明白に短縮されます。
SCP-CN-337-Bは研究員である王林博士による規則違反の結果、出現しました。王林博士は2010年█月█日にオブジェクトの定例試験を申請しましたが、許可が降りる前にオブジェクト頭部の玉石状物体を40%切除し、、、秘密裏にサイトから持ち去りました。王林博士は13時間後に拘束され、物体は彼の自宅で回収されました。しかし物体をSCP-CN-337の頭部に再接続することはいかなる手段を以てしても不可能であり、物体はSCP-CN-337-Bに指定されました(以下、CN-337-Bと呼称)。
SCP-CN-337-A(以下CN-337-A)は人型実体です。SCP-CN-337が4活動期にわたって月光の照射を受けないままであったとき、オブジェクトの頭部から煙が発生し、凝集してCN-337‐Aが出現します。CN-337-AはSCP-CN-337を拾い上げ、施設を破壊して月光の照射を受けられる場所への移動という形で収容違反行為を起こします。CN-337-Aに対しては物理的な損傷を与えることができません。またオブジェクト本体に攻撃した場合、いかなる攻撃であってもCN-337の反撃を引き起こしますが、その手段は四肢による直接的な殴打であり、威力も通常の成人と同程度であるため、一般に致命傷を与えるには至りません。CN-337-Aは攻撃者が弱ったとみると殴打を中止することから、自由意志と理性を有すると考えられています。CN-337-Aに対する自主的な攻撃は許可されておらず、レベル3以上のクリアランスを有する職員は安定した状態でのCN-337-Aとの交流が可能で、交流の記録は分類の上保管されます。CN-337-Bの分離以降、CN-337-Aはオブジェクトの非活動期にも一定の確率で出現するようになりました。このときのCN-337-Aは外見上明らかに希薄であり、極めて攻撃的ですが、CN-337-Bを接近させることで安定化し、CN-337-Bをオブジェクト本体に再接続しようと試みますが常に失敗します。
CN-337-Aが正常に出現した場合、その挙動は従前と同様です。
補遺1:以下はSCP-CN-337と関係を有すると考えられる資料『天寰宇志』からの抜粋です。
“洞庭湖水八百里、水中に獣、千万有り。
澧水に蟾1有り。眼なくて玉を生やす。平素は尋常の蟾と同じく、野良に遊ぶ。望月の夜、光を発し、身は火に似る。月光を取りに出で、妖を隠す。この蟾、性は柔和にして、争うことなく、ただ一生月光を求める。月光を得られざること四月あれば、頭玉に煙霧生じ、一人の人を成す。刀槍・水火もその身を侵すこと能わず、ただ蟾を携え、一夜百里を行き、一筋の明月の光を得る。蟾の頭玉はこれ天の成せるものにして、採りては薬となり、服しては不老長生を得る。然しながら蟾は魂魄を裂かれる苦しみを受け、霧の人癫狂し、十数年の歳月修養し、漸くにして戻す。或る時、任侠の2方士、天下を歩いて霧人の癫狂に遭う。方士、霧人を妖と見なし、良きものであるを見抜けず、これを退治す。嗚呼、嘆かわしき哉.
補遺2:インタビューログI-CN-337-T133
2011年█月█日、CN-337-Aがオブジェクトの非活動期に出現しインタビューに応じる意志を示しました。以下はLiu博士がCN-337-Bを持ち、筆談で行ったインタビューの記録(複写)です。Liu博士:あなたの状況は大変思わしくないようです、何か我々があなたに援助できることはないでしょうか。
CN-337-Aは一定時間、Liu博士の文章を注視した。
CN-337-A:ありがとう 回復できた しかしいつまた狂って人を傷つけることになるか自分でも分からない
Liu博士:この玉はまだあなたに必要なのですか?
Liu博士:どうやって作るのですか?
CN-337-A:[閲覧禁止、原文でも当該箇所は削除済] 今の世界でもまだ有効か分からない
Liu博士:あなたは「狂っている」時、この玉を見ることで平静に戻れることに気付いていないのですか?
CN-337-A:分からない 私と一族の者は 皆[判読不能]を失ってしまって 未だに探し出せていない 私が人を傷つけないようにしてくれてありがとう 私は一族の最後の一人になってしまった 私は死にたいわけではない だけどもし私が人を傷つけるようなら 殺してくれてかまわない
Liu博士:[削除済。Liu博士個人の極めて感情的な発言]
CN-337-A: 私は また狂うみたいだ 早く離れてくれ
上記の文言を書いた後、CN-337-AはCN-337-Bを手に取って繋ぎ直そうと試み、失敗に終わった。
付記: I-CN-337-T133原文の閲覧には、セキュリティクリアランスレベル5又はその保持者の許可が必要になります。
アイテム番号: SCP-CN-205
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-CN-205についての知識が一般人に知られるのを防ぐため、財団は██市内でのテレビおよびラジオ電波を、UHFの周波数[編集済]とFM周波数[編集済]の範囲で技術的に遮断してください。研究施設には常にテレビ及びラジオを2台以上準備し、上記の信号を常に受信・記録してください。
説明: SCP-CN-205は、本来ならば19██年に終了しているはずの地元サッカーリーグの試合です。当該試合が後半のロスタイムに至ったある時点で、両チームの選手、審判その他のスタッフ、放送関係者の全員が原因不明の消失を遂げました。但し中継をおこなっているテレビの周波数[編集済]、FMラジオ[編集済]では試合の中継電波を受信し続けており、これによれば試合はまだ進行中であり、放送関係者が「正常」に仕事を継続していることになります。現在に至るまで、信号は全て24時間間断がなく試合を中継し続け、関係者も試合を中断させようとする素振りは見せません。
長期の観察を通じ、確定した情報は下記の通りです。
1. 試合は人類にとって既知の場所では行われていない。
2. 試合の開催地は通常のスタジアムと外観上同様である。
3. 開催地は時間進行が地球と異なっており、1昼夜が16.72時間である。
4. 開催地には降雨、降雪、霧などの気象変化が存在する。
5. 開催地の昼の空は通常、オレンジ色を示す。
6. 観客席に大量の結晶様の物質が出現している。
また、以下は現時点では完全に確定されていない情報です。
1. 夜間には「月」が2個出現するが、灯りのために「黄昏」時にのみ見える。
2. 全長3~5m ほどの四足を持つ飛行生物が2度出現した。
3. 1対2でアウェイチームがリードしている。
収容過程: SCP-CN-205は当該年の最後の試合であり、ホームチーム(SCP-CN-205-1)はアウェイチーム(SCP-CN-205-2)にこの試合で勝利しなければ格下のリーグに落とされることになっていました。SCP-CN-205-1はロスタイムに至っても█:█でSCP-CN-205-2にリードを許していましたが、試合終了前に両チームの選手、審判、その他スタッフ、放送関係者の全てが突然消失しました。ただし観客は異常性の影響を受けませんでした。テレビ・ラジオ放送を視聴していた人々も、財団が周波数を遮断するまでの█分間にわたり、継続して放送を受け取っていました。
消失現象が起こったスタジアムは、事後長期にわたり閉鎖され検査を受けましたが、いかなる手がかりも発見されませんでした。現在、このスタジアムはすでに撤去されましたが、SCP-CN-205に関する放送は工事の影響を受けることなく継続しています。
補遺: SCP-CN-205a
SCP-CN-205のオブジェクトクラス修正の申請(██博士)
SCP-CN-205の現状を考慮すると、その危険性は最大に見積もっても、一般民衆が持つ世界観が揺らぐということです。しかしこの危険は技術的な手段で十分に回避可能であり、オブジェクトクラスをSafeに変更することを提案します。
補遺: SCP-CN-205b
申請却下。(O5-CN-█)
██博士のSCP-CN-205研究に費やした努力に感謝を表する。オブジェクトクラスの変更申請については、SCP-CN-205-1に対するSCP-CN-205の重要性、およびSCP-CN-205-1がSCP-CN-205-2をリードする状況が未出現である点を考慮すると、試合終了時もしくはSCP-CN-205-1がリードする事態が発生した場合、新たな異常性が発現する可能性は拭えない。よって、申請を却下する。
アイテム番号: SCP-CN-010
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-CN-010は3m×0.55ⅿ以上の面積を持つ平面の存在しない収容室に、1台のテーブルとともに収容してください。SCP-CN-010-1を床上に直接寝かせることは禁じられています。また、人間がSCP-CN-010の収容室に侵入することは厳禁です。
説明: SCP-CN-010-01の外観は3m×0.55mの1枚の木製の扉です。 SCP-CN-010-02は長さ約50㎝の木の幹です。SCP-CN-010-03は常時SCP-CN-010-02上に存在するマダガスカル島産キツネザルです。
SCP-CN-010-01が自身より面積の大きな平面に接する時、SCP-CN-010は“休眠”状態に入ります。休眠状態において、SCP-CN-010を収容している部屋に霊長類に属する動物が進入すると、SCP-CN-010は直ちに“活動”状態へと移行します。室内の霊長類は部屋から脱出することができなくなり、同様に室外からの侵入も不可能になります。
活動状態に入ると、SCP-CN-010-03は自身の中指を用いてSCP-CN-010-02に対し「タッピング」3を開始します。このとき中にいる人間は、室外から巨大な打撃音がすると感じます(ヒト以外の霊長類も同様に打撃音を感知するかは不明です)。
SCP-CN-010-03がSCP-CN-010-02の樹皮を食い破ると同時に、SCP-CN-010-01は強い外力によって開かれます。その後、1本の巨大な指状の物体がSCP-CN-010-01内から出現し、室内の霊長類を引っ掛け、あるいは刺し貫いて、SCP-CN-010-01内に引き入れます。以上の過程が終了すると、SCP-CN-010は活動前の状態に戻ります。
SCP-CN-010-03がSCP-CN-010-02内から取り出した餌を食べる場面を録画によって確認したところ、[データ削除済]と判明しました。
SCP-xxx-JP:救いの神
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:SCP-xxx-JPはサイト-81██の標準人型収容セルに収容します。収容手順は標準人型オブジェクト用プロトコルに従うほか、食事面で甲殻類アレルギーに配慮してください。月に1度、オブジェクトの鬱症状に対する精神医の診察が行われますが、担当医はあくまで診察に留め、独断で治療行為を行わないよう注意してください。
説明:SCP-xxx-JPは199█年に東京都で出生したとされる日本人男性です。オブジェクトは収容以前に民間人から受けた複数回の暴行により、██ヶ所に渡って傷害の痕跡があります。左目は失明しており、右足に若干の歩行障害を残しています。
SCP-xxx-JPの異常性は、何らかの負傷・疾病もしくは死亡状態にある生物(以下「対象者」)をオブジェクトが直接視認している状態で、異常性の発揮を望むことによって発現します。この行為によってオブジェクト及び対象者の斜め上方に、オブジェクトと向かい合う形でSCP-XXX-JP-1実体が出現します。
SCP-XXX-JP-1は多くの職員に「仏像のような」と形容される容姿の、目視による測定では身長約182㎝の人型実体です(SCP-XXX-JPは「神様」と呼んでいます)。財団の美術史学者の観察によれば、平安時代末期の日本で製作されていたタイプの仏像に酷似しており、外見による性別の推定は困難です。笑顔とも冷淡とも判別しがたい表情をしており、この特徴は同時代の仏像の顔貌に広くみられます。SCP-XXX-JP-1は音声による会話が可能ですが、常にSCP-XXX-JPとのみ会話を行い、第三者によるコミュニケーションの試みには一切反応を返しません。ただしSCP-XXX-JPに対して発せられたSCP-XXX-JP₋1の発言を、第三者が聞き取ることは容易です。
SCP-XXX-JP-1が出現すると、SCP-XXX-JPは対象者を健康な状態に回復してくれるようSCP-XXX-JP-1に対して懇願します。それに後続する現象は、パターンA・Bに大別されます。
パターンAは、SCP-XXX-JPの懇願に対してSCP-XXX-JP-1が頷く動作をした場合です。対象者は未知の過程を経て瞬時に回復します。この過程が財団収容下における管理された実験状態で発生したことはありません。しかしオブジェクト収容以前に民間人によって撮影された記録及び彼らの証言から、パターンAが過去確かに発生していたことが確認されています。
パターンBは、SCP-XXX-JP-1がSCP-XXX-JPに対して首を左右に振る動作をした場合です。対象者の回復現象は起こりません。その後SCP-XXX-JP-1は、SCP-XXX-JPの懇願を聞き入れなかった理由を口述します。要旨は、SCP-XXX-JPが異常性を発揮しようとした動機が、純粋に対象者のためを思う真の利他性から出たものでなく、何らかの利己的動機を含んでいたという指摘です。
パターンA・Bいずれの場合であっても完了後にSCP-XXX-JP-1実体は消失します。ただし、財団収容下におけるSCP-XXX-JP-1出現実験は全てパターンBの結果に終わっています。
SCP-XXX-JPは、その父親が経営する新興宗教団体において「救世主」「生き神様」「救い主様」といった通称で呼ばれており、█歳頃から最低でも██回にわたりパターンA事象を発生させていたと思われます。
しかしながら記録によれば、オブジェクトが██歳になる頃からパターンAが出現する確率は顕著に低下していき、██歳頃には全ての異常現象がパターンBに置き換わるようになりました。このため父親をはじめ教団関係者はオブジェクトに失望し、執拗な虐待を繰り返すようになったとみられています。
SCP-XXX-JPは過去の体験から、SCP-XXX-JP-1を出現させる試行を行うことに抵抗感を抱いていますが、職員の指示には従順です。
実験ログ
日時:201█年█月█日
実験者:██博士
実験場所:サイト-81██標準実験室
実験内容:終了済Dクラス職員の死体1体を用意し、SCP-XXX-JPに復活させるよう指示。
実験結果:パターンB。SCP-XXX-JP-1は、復活できないと非難されるのではというSCP-XXX-JPの心配を利己心として指摘した。直後、SCP-XXX-JPは██博士に向かって土下座をして謝罪した。以下はその会話記録。SCP-XXX-JP:すみません!すみません!
██博士:どうしたのかね?
SCP-XXX-JP:(泣きながら)すいません!……オ、オレ、俺が、余計な事考えたから、あなたの大切な人を、生き返らせれなくて……
██博士:待ちなさい。大切な人とはこの死体のことかね。これは単に君の特異性を確認する実験のために持ち込んだものだ。私は生前のこれと面識はないし、生き返らなかったからといって君を責めるつもりはないよ。
SCP-XXX-JP:(土下座したまま、博士の表情を盗み見るように顔を上げるが、再び落とす)すみません。
██博士:そう謝ってばかりいなくてもいいよ。
SCP-XXX-JP:でも、実験を失敗させてしまって……。
██博士:実験は失敗ではない。できなかったという事を確認できた、それも科学では重要なことなんだ。
SCP-XXX-JP:ごめんなさい……。
インタビューログ
日時:201█年██月██日██博士:█谷██美さんの頸髄損傷を治そうとした時のことを教えて欲しいんだが。
SCP-XXX-JP:(驚いた表情で博士を見つめる)
██博士:君が中学時代に治そうとした同級生のことだ。
SCP-XXX-JP:(俯き、涙を流し始める)
██博士:落ち着いたらでいいから話して欲しい。
SCP-XXX-JP:……█谷さんは、電車の事故で…首を怪我して、体のほとんどが動かせなくなったんです。
██博士:彼女は、君ともそれ以前から仲が良かったんだよね?
SCP-XXX-JP:はい。彼女のお父さんとお母さんが、車椅子を押してきて……病院でも治らない、もう神様にすがるしかないって言われました。
██博士:その神様とは、私達がSCP-XXX-JP-1と呼んでいる存在のことだね?
SCP-XXX-JP:(うなずいて)俺、本当に█谷さんに元気になってほしかったんです。それで手を握って「絶対助けてあげる」って約束して、神様を呼んで、やく、約束したのに……(嗚咽)。
██博士:だがSCP-XXX-JP-1は拒否した? それは何故か言ったかね?
SCP-XXX-JP:神様は、俺が本当にその人のためを思ってないからって……治したら、█谷さんが俺のことを、好きになってくれるかもしれないと思ってるって……(声を上げて泣き始める)。
██博士:続けて。
SCP-XXX-JP:█谷さんは泣き出して……お母さんが俺に掴みかかって、「どうして!どうして!」って。それで倒れた俺の顔を、お父さんが蹴ったんです。「このエロガキが!」って怒鳴られて、何度も、何度も蹴られて……。
██博士:それが、左目を失明した原因なんだね。
SCP-XXX-JP:……はい。
オブジェクトに対する精神治療の適否について研究者の意見は一致していません。█研究員を中心とするグループと、██博士を支持するグループが論争を重ねています。
-「SCP-XXX-JPは自己収容に近い状態にあります。彼の鬱症状の原因になっている虐待と罪悪感の記憶は、異常現象をパターンBに留めるのに役立っているからです。すなわちオブジェクトは虐待の過去ゆえに、パターンA発生を成功させて虐待を免れたいという『利己心』を強く持たざるをえず、それゆえにパターンAは抑制されているのです。
憂慮すべきは、財団収容下においては虐待が行われていないことです。パターンA発生に失敗しても誰にも責められないという体験が繰り返されることは、自己収容性質を弱めるおそれがあります。SCP-XXX-JPには意図して短気な研究者をあてがい、パターンA発生を強要するように指示すべきだと考えます。オブジェクトの恐怖心と鬱症状は維持されるべきです。」(█研究員)
-「現在の収容方法がSCP-XXX-JP-1の思う壺でないか、疑ってみるがいい。あの仏像もどきの言葉が本心である保証はどこにもない。奴の能力が治療や死者の蘇生だけに限られるのかどうかも、誰一人確かめたわけでもない。単にSCP-XXX-JPはそれしか願ったことがないというだけだ。SCP-XXX-JP-1は実際には、SCP-XXX-JPの利他心などどうでもよいのかもしれない。もし奴に悪意があり、その真の能力が『SCP-XXX-JPが望んでいる』ことを条件に発動できる強力な現実改変だとしたら? SCP-XXX-JP-1は、SCP-XXX-JPを苦悩に満ちた状態に置き続けることで、いずれ彼が世界を呪うようになるのを待っているのではないのか? 君達は思い出すべきだ。奴に最も似ているという仏像が作られた平安後期が、末法思想が一種の終末論として流行していた時代だということを。」(██博士)
██博士の推測については検討中ですが、現時点では収容状態継続のため、オブジェクトへの精神治療は保留されています。
SCP-xxx-JP:愛に時間を
オブジェクトクラス:Safe
特別収容プロトコル:SCP-xxx-JP及びそこから取得したデータは、インターネットその他有線・無線を問わず外部との通信機能を有する機器と接続されてはいけません。通信機能を有しないコンピュータ及び記憶媒体に取得する場合も、セキュリティクリアランス4以上の職員の許可を要します。SCP-xxx-JPの研究担当者には忠誠度診断65以上の職員を充てることとします。担当から外れる場合、本人が希望する場合には記憶処理を受けることができます。
説明:SCP-xxx-JPは財団が地球愛星者同盟との交戦の際、破壊した研究所跡から接収したスーパーコンピュータに保存されていたデータです。当初このコンピュータは「測定不能の演算速度と記憶容量を持つコンピュータ」としてanomalousアイテム指定されていましたが、その後コンピュータは通常の優秀性を持つのみで特異性はなく、特異性を持っているのはその中の一部のデータであるという説が浮上し、研究者間の意見が一致を見たために同データがSCP-xxx-JPに指定されました。
SCP-xxx-JPは自己の内部に、電子的に表現された仮想的ブラックホールを作り出していると考えられています。高重力に見られる時間の遅れのため、SCP-xxx-JP内ではブラックホールからの距離によって、時間の流れにずれが生じます。SCP-xxx-JPは非演算中のデータを事象の地平面の内部に置き、その極めて時間の流れの遅い領域を、現実時間にリンクさせています。そして演算中のデータをブラックホールから離れた領域に位置させることにより、相対的に超高速演算を可能にしているというのが研究者の意見です。さらにブラックホールに接続されている平行宇宙からデータの出し入れをすることで事実上無限の記憶容量を保有しています。この平行宇宙も仮想空間内に存在するか、または現実の平行宇宙であるのかは研究者間でも意見が分かれています。
仮想存在であるブラックホールが、現実存在であるコンピュータ回路そのものの時間に影響を与え、演算を高速化できるメカニズムは不明です。また現実に時間的干渉を行っているブラックホールが、高重力による被害を周辺に及ぼさずコントロールできる仕組みについても、未だ未解明のままです。
「理不尽に聞こえるだろう。『ビデオゲームの中で雷の魔法を使い、ゲーム機自体に電力を供給している』と言うようなものだからな。だが、私が自然言語で表現できる限り、これが最も平易で、しかも実態に近い説明なのだ」(上級研究員███████博士)
上記システム維持のための機能的プログラムと思われる部分をSCP-xxx-JPから除くと、大部分が学術論文およびその参考資料と思われる膨大な量のデータで構成されています。解読は困難を極めましたが、SCP-████、SCP-████およびSCP-███-JPの言語に僅かながら似ている部分があり、現在部分的な解読が進行しています。おおよその性質が判明していますSCP-xxx-JPはオブジェクトを執筆した存在によって「タイヤン星系惑星ティーチュー」と呼称される惑星に棲息する、レンレイなる生命体についての観察記録であるらしいことが分かっています。
しかし執筆主体については、解読完了部分にはほとんど記述がないため不明です。ただし後述の地球愛星者同盟からの通信文、および断片的に解読された内容から、また異なる惑星の知的生命体であると考えられています。
追加記録xxx-20██/█/█
SCP-████関連電波受信記録との比較によって、データを音声化した際の周波数のおおよそが推定されました。これにより以下3種類の単語が、特定の周波数(20~4,000Hz)の範囲内に収まっていることが判明しました。
・固有名詞(タイヤン、ティーチューを含む)
・惑星ティーチューに原生する生物の種名
・レンレイの文化的概念を現すと思われる単語の一部
これらは単語の性質から考えて、観察対象であるレンレイ語を流用した結果と考えられてます。したがってレンレイ種族はこれらの周波数の範囲内で言語伝達を行なうものと推定されました。
以下はSCP-xxx-JPの解読完了部分の一部抜粋です。
【タイヤン星系第5惑星ティーチュー概説】
惑星ティーチューの中心部は液体および固体鉄、外側は珪素を主成分とする固体殻で構成され、天体体積の大部分を占める。外殻表面の過半部は一酸化二水素を主成分とする液体層が覆っており、大気層の主成分は窒素および酸素である。
惑星ティーチューには知的生物は存在しない。
準知的生物が原始的な文明を築いており、レンレイと自称する。「知的生物による干渉なくしては、複数種の準知的生物が平和共存することはない」という、宇宙生物学上周知の経験則はティーチューにおいても成立している。レンレイを除く準知的生物はティーチューに極僅かな個体しかおらず、異種の準知的生物は既に滅亡しているか、もしくはレンレイに対して回避・擬態行動を取っている。レンレイにより捕獲されているものも存在する。
レンレイは総個体数約7000000000おり、約200のグオと称する群れに分かれている。各グオごとの個体数は均等ではなく、最多数個体を有するチョングオと呼ばれるグオは、全レンレイの実に1/5に当たる約1300000000個体以上を有する。一方、最少の個体しか有しないグオは約800個体しかいない。
各群れとも縄張りには非常に貪欲である。レンレイの居住に適さない寒冷地を除き、惑星ティーチューでは小型の陸地も含めたすべての陸地が、いずれかのグオの縄張りになっているか、縄張りを争われている。
レンレイは外殻のうち液層で覆われていない部分に棲息する。レンレイは一酸化二水素の液体を頻繁に摂取する必要はあるものの、その液中では長時間生命を維持することができない。なぜならレンレイは酸素分子を恒常的に摂取し続けることが生存に不可欠であるにもかかわらず、一酸化二水素を分解して酸素分子を製造する組織を自己の体内に持っておらず、大気から直接補給する以外の摂取手段がないためである。したがってレンレイは、一酸化二水素液の液面を移動中の個体を除き、惑星表面に露出している固体層上に棲息している。
この生物学的制約が、レンレイのティーチュー大気圏内以外――とりわけ外宇宙――への進出を困難にしている。
追加記録xxx-20██/█/██
新規に解読された文書の一部抜粋です。
炭素系生物には多く見られることだが、レンレイは呼吸器から出し入れする大気に振動を加え、その振動を他の個体に感知させることによって情報を伝達する。
とはいえ、いかなる振動がいかなる情報を意味するかを決定する記号規則は、レンレイ全体では統一されていない。記号規則はグオによって、またグオの内部でも著しく異なることが少なくなく、合計3000種以上の記号規則が存在する。ただし全ての記号規則を熟知している個体は存在しない。一個体が習得している記号規則は通常せいぜい数種類に限定されており、ただ一種の記号規則しか習得していない個体が最も多い。
ゆえに二個体以上が意志を通じ合う際、その全員が共通して使用できる記号規則が無い場合には、個体同士の意志伝達は困難を極める。準知的生物に過ぎないレンレイにとって、知的生物のように記号規則を直ちに理解し記憶することは不可能だからである。
その場合、次善の策として、両方の記号規則を習得している第三の個体に依頼し、その個体を媒介して情報を通じ合うという、非効率な方法が用いられる。
レンレイは2種型の有性生殖生物である。つがいを作り、時には双方の親子兄弟、もしくは幾体かの個体を含めて彼らがジャーレンと呼ぶ小グループを構成する。
レンレイの規範では、ジャーレンとは相互にアイし合っているべきものである。
レンレイ言語 | 標準中国語(音) | 意味 |
---|---|---|
タイヤン | 太阳(taiyang) | 太陽 |
ティーチュー | 地球(diqiu) | 地球 |
レンレイ | 人类(renlei) | 人類 |
グオ | 国(guo) | 国 |
チョングオ | 中国(zhongguo) | 中国 |
ジャーレン | 家人(jiaren) | 家族 |
アイ | 爱(ai) | 愛 |
-「この事実は、SCP-xxx-JPに記録されているレンレイなる生物が、他ならぬ地球人であることを立証しています。ただしSCP-xxx-JPは単に中国の文化についての記録ではなく、明らかに人類に対する総論を述べていると考えられます」(█博士)
-「SCP-xxx-JPがなぜ中国語を採用しているのかは、単に個体数最多の「群れ」――つまり国家――の言語でレンレイの言語を代表させたに過ぎないのではないでしょうか」(████博士)
追加記録xxx-20██/██/██
新規に解読された文書の一部抜粋です。
ティーチューの生物の多くは、ティーチューとタイヤン星との位置関係に従い、周期的な生殖行動の盛んな時期を迎える。これは惑星ティーチューの楕円軌道のため、タイヤン星との位置関係によって環境が変化することが大きな理由である。
ただしレンレイはこれに依存せず、タイヤン星の位置と無関係に生殖行動を行うことができる。
ただしレンレイも、グオによっては文化的行動として、タイヤン=ティーチュー間の位置関係に応じて性行動を盛んにする場合がある。一例を挙げると、あるグオではシェンタンの祭り4と呼ばれる日に性行動が極めて盛んになる。
相当多数のグオにおいて、レンレイには他種の生物から生殖器を切断し、コレクションを作成するという奇妙な慣習がある。レンレイはしばしば生殖器コレクションを異性の個体に譲渡し、このことは性関係の開始もしくは維持を要求するサインとなる。ただし他のサインとしても譲渡される場合があり、また生殖器コレクションを譲渡せず、単に飾って置かれることも多い。生殖器コレクションの作成が伝統的芸術として捉えられているグオも存在する。
-「どういうことだ? そのような慣習が『相当多数の』国にあるとは思えない。これは本当に地球なのか? 中国語と考えられたものは偶然の一致ではないだろうか。実際は全く別の異星人か、もしくは何らかの平行世界における人類を研究したものではないか」(██博士)
解読部分xxx-00011についてはその後、花束のことではないかという説が出されています。
追加記録xxx-20██/██/█
新規に解読された文書の一部抜粋です。
アイというのは「特定の個体について、他の個体に対して不平等な取り扱いをしたい」という欲求のことである。奇妙なことに、これがレンレイたちが最も崇高と考えている欲求なのである。
アイを動機として不平等な扱いを受けたレンレイは、そのアイに対して感謝しなければならない。
ただし準知的生物に過ぎないレンレイは、情動を科学的に測定する機器を発明していない。
アイによる不平等な取り扱いは、アイを向けられたレンレイに利益を与えるとは限らない。アイの結果が、対象への単なる暴力や搾取、支配に過ぎない場合も多い。
すなわち、レンレイはアイの存在を科学的に立証することはできないし、アイによっていかなる行為がなされるものであるかも明確に定められていない。にもかかわらず、アイはレンレイによって崇拝される情動であり、その批判は禁忌である。
レンレイの科学者もまた、アイの存在を科学的に立証しようと試みたことがある。
その手法は彼らが準知的生物に過ぎない点を考慮してもお粗末なものであった。レンレイの原始的な近縁種であるホウズ5の幼体が、自種族の肌に似せた繊維に触れることを好んだ。そのことをアイと称した。ただそれだけだったのである。
追加記録xxx-20██/██/██
新規に解読された文書の一部抜粋です。
ここまで読んだ知的種族の読者は、次のような疑問を持つであろう――それでは、強力なレンレイが、弱いレンレイに対して自己の利益のために不当な仕打ちをしても、その動機をアイだと主張して押し通せば、正当化されるのではないかと。
そのとおりである。
そのような場合には、弱いレンレイが強力なレンレイのアイを疑うこと自体が罪とされ、弱いレンレイに対して思うがままに攻撃を加えることが許される。それによって強力なレンレイは、弱いレンレイをますます容易に支配することができるようになる。このような掟は知的生物には存在せず、少数の準知的生物にのみ存在するものである。
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この支配関係はジャーレン集団において特に強固に発揮される。レンレイにも法は原始的な形ながら存在するが、ジャーレン集団内部での行為だというだけで法が適用されない場合が多々ある。> これはレンレイのジャーレン集団そのものが本来、暴力による支配関係に大きく依存しているためである。
レンレイの法は、最もフォーマルなものに限ってではあるが、グオごとの多数決によって決定される。しかし各個体は、それぞれジャーレン集団における自己よりも弱いレンレイへの支配力を手放したがらないために、ジャーレン集団内に法的ルールを導入することを躊躇うのである。そのためレンレイは、ジャーレン集団での支配関係が法を無視した形を取ることを放置することを容認する傾向にある。
このようなジャーレン集団の特性は、集団内での強者が弱者から搾取をおこなったり、犯罪行為を強要するのに、本来的に極めて適している。
そのためレンレイの犯罪組織はジャーレン集団を模倣して作られることが多い。レンレイの犯罪組織のメンバーは、その構成員をジャーレン集団における地位になぞらえる。
下位構成員がその直近の上位者を「兄」(同一のつがいから先に誕生したオスを指す)、組織の最高権力者を「父」(自分を誕生させたつがいにおけるオスを指す)を意味する記号で呼ぶことが多い。犯罪組織そのものがジャーレン集団を意味するのと同じ単語で呼称される場合もある。
-「宇宙人の考え方というのは実に新鮮なものがあり、学ぶことが多いと考えます。地球人の家族と犯罪組織が酷似している、か。今まで考えたこともなかった」(██研究員)
-「人間の家族愛について、この宇宙人は酷く歪んだ誤解を抱いているようだ。愛という感情が、自分の欲望を正当化するための概念であるかのような……。まあ、これが本当に人間のことだとすればだが」((上級研究員███████博士)
追加記録xxx-20██/██/██
新規に解読された文書の一部抜粋です。
犯罪組織の支配者以外にも、「父」の記号で表示される代表的なものに、レンレイの古代伝説および「宗教」に登場するモンスターがある。
全レンレイの約半数が信じる宗教によれば、神はいつの日か宇宙から惑星ティーチューへ飛来し、一部のレンレイだけを選び出す。選ばれたレンレイは永遠の快楽をもたらす異空間へと連れ去られるとされている。神に選ばれなかったレンレイがどうなるかは伝説によって細部が異なるが、ティーチューに置き去りにされるだけというのが最も平和的な伝説の結末である。実際には神によって殺戮されると唱える伝説がはるかに多い。
さらに不幸な結末を予言する伝説によれば、神に殺戮されたレンレイは、選ばれたレンレイとは別の循環時間型上位次元へと送り込まれる。このレンレイ達も永遠に生きるが、この空間においてレンレイを待っているのは永遠の幸福ではなく、永遠の苦痛である。
この恐るべき殺戮とそれに伴う他個体の永遠の苦痛を、多数のレンレイが待ち望んでいる。われわれの社会では稀代の大犯罪者のみがこのような心性を持ちうるが、レンレイにおいては通常である。いや通常であるどころか、この殺戮をいかに激しく望んでいるかということが、レンレイ社会では「信仰」と呼ばれる美徳なのである。
レンレイは己の「信仰」の「強さ」を誇示しようとするのを好む。その手段は、神に関する異なった伝説を支持している者への憎悪をおおっぴらに表明し、可能ならば物理的にさえ攻撃してみせるのである。
地球愛星者同盟による通信文
貴財団が先日の我々との交戦の結果奪取した地上衛星のひとつから、貴財団が取得したであろうデータについて勧告がある。即刻、その破棄を勧告する。あのデータは、人類自身を人間不信にさせるための異星人によるデマゴーグだ。我ら地球愛星者同盟は、地球奪取の目的を持ってスパイ活動をしていた異星人を撃滅した際、あのデータを回収した。だが、それは囮に過ぎなかった。我々にあの汚らわしいデータを拾わせ、地球社会に撒き散らさせるためのエサだったのだ。
我々と貴財団は常に友好関係にあるわけではない。異なる道を歩み、時には刃と銃を向け合うことがある。だが異星人のこのような悪質な偽情報に誑かされ、それを事実であるかのように触れ回るほど、貴財団は愚かではないと信ずる」
█> 補遺
地球愛星者同盟の勧告が正しい可能性は捨てきれない。むしろそうであれば良いと私も思う。だが少なくとも我々の現在の心理学や関係諸科学では、SCP-xxx-JPに誤りや矛盾を見つけられないのも事実だ。SCP-xxx-JPは外宇宙の生物学者が、我々を真剣に観察研究していった結果であると、素直に受け取る覚悟をすべきだろう。数百年か、もしかするとより短い期間のうちに、我々の社会科学もまた同じ結論に達してしまうかもしれない。
我々はいつかは受け容れるのだろう。倫理や道徳、信仰、そして愛さえも――人類が持っていると信じてきた、あらゆる崇高な感情全てが、ただの欲望とその正当化の組み合わせにしか過ぎなかったという真実を。だが、その真実は今の社会にいきなりぶつけるべきではない。人類自身を人間不信に陥らせるべきではない。それは『赤ん坊はコウノトリが運んでくる』と信じている3歳の幼女の目の前で、性交渉を実演してみせるほどに不適切だ。真実は“軟着陸”されるべきだ。真実ができる限り少ない不幸しか伴わないように、やがて来る解明に備え、社会制度をそれに耐えられるよう微修正しながら、人類はゆっくりと知っていくべきだ。それには、まだ時間が必要なのだ。(O5-1)
アイテム番号:SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:回収されたSCP-xxx-JPは低危険物ロッカーに保管してください。未回収のSCP-xxx-JPの出現を予測する方法は確立されていませんが、出現の際オブジェクトを可能な限り特異性未発揮のまま回収するため、プロトコル“無差別郵便テロ警戒キャンペーン”を継続してください。プロトコルの成果により警察に持ち込まれたSCP-xxx-JPは、財団の潜入エージェントを通して偽造品と交換・回収してください。
説明:SCP-xxx-JPは特異性のないビニールで包装された、各100枚組の長形3号サイズの封筒セットです。SCP-xxx-JPは通常、「何らかの組織・団体」のオフィスもしくは代表的人物の自宅に、近隣の文房具店名義で商品として配達されます。対象団体に関連や法則性は確認されていません。SCP-xxx-JPのどの一枚にも、その封筒を通常の方法で発送した場合に「送り主」と自然に見做される位置・大きさで、当該団体名がプリントされています。団体のメンバーは、いずれもSCP-xxx-JPを注文した記憶がありません。しかしかなりの確率で、受領者はその封筒を使用してしまいます。これは単に外観上の自然さから、別のメンバーが注文したものか、あるいは自ら注文して忘れてしまったのだと錯覚するためです。
SCP-xxx-JPの特異性は、オブジェクトを一枚でも通常の方法で使用し、発送を有効に行うことで発揮されます。具体的には以下の行為が欠けている場合、オブジェクトは特異性を発揮しないことが分かっています。
・宛先の明記。
・正当な料金の支払(切手の貼付など。着払いや料金後納も、手続きを問題なく行えば可能です)。
・有効な方法での配達依頼手続(ポストへの投函のみでも成立)の完了。
なお、受取人転居などの理由で、結果的にSCP-xxx-JPが相手方に届かなかった場合でも、特異性は妨げられません。
特異性が発揮されると、SCP-xxx-JPにプリントされていた「送り主」団体の全構成員は、その団体名の文言を忠実に体現した存在になるように改変されます。
以下はSCP-xxx-JPを受領した団体の一部に関する記録です。
団体名:██高校写真部
実態:クラブ活動としての実態はほとんどなし。同校では校則上いずれかのクラブの参加が義務付けられており、部活動に不熱心な学生のたまり場と化していた。
曝露結果:幽霊部員が皆無となり、全員が熱心な写真撮影の愛好家となった。
団体名:██大ソフトテニス同好会
実態:テニスを掲げているが、実際にはメンバー同士、または他大学の学生と広範な性的交流を持つことが主目的のグループ。
曝露結果:全員がソフトテニスに熱心に打ち込むようになった。数年後に国際大会に出場し有名になった████選手は、本サークルでテニスを始めた代表的人物である。
団体名:██大アニメ研究会
実態:上記大学のアニメファンサークル。メンバーの一部は、年2回ほど既存のアニメキャラクターを用いたポルノグラフィックな短編漫画集を創作・発表するのが通例であった。
曝露結果:メンバー全員の参加のもと、最新の同人誌が発行された。内容は技術面、経済面、美術史、女性学、記号論、ポスト構造主義等様々な観点からアニメーションについて考察した全584ページの論文集(上下巻)であった。ほとんどが売れ残ったにも関わらず、メンバーは同誌の出来栄えに深い満足を示した。
団体名:祖国を愛する日本人同盟
実態:外国人移民排斥を求めるデモとヘイトスピーチを主な活動内容とする団体。
曝露結果:メンバーは外国人への敵意を大幅に喪失した。代わりに遺跡発掘ボランティアの参加、伝統芸能の習得などに余暇時間の多くを割くようになった。
団体名:海のいのちを奪うことを許さない市民グループ
実態:反捕鯨団体。
曝露結果:多くのメンバーが海岸にて釣り客に対し暴力行為を行い、逮捕された。その他のメンバーは鮮魚店、寿司屋を襲撃し、同様の結果となった。なお、河川や湖沼で釣りをしていた人物を襲った者はいなかった。
団体名:痴漢冤罪被害者の会
実態:痴漢冤罪で無実を勝ち取った元被疑者と、現在係争中の被疑者が計8名。及び彼らの家族と支援者で構成される人権団体。
曝露結果:冤罪被害者本人たち以外の、家族・支援者のメンバーが立て続けに痴漢で逮捕された。メンバー最年少で、代表者の息子である13歳の少年だけが逮捕を免れていたが、半年後になって逮捕された。逮捕当日は彼の14歳の誕生日であり、刑事責任年齢に達すると同時に特異性が発揮されたものとみられる。なお「冤罪被害者」8名のうち2名のみ、新たに痴漢の疑いを掛けられたことは、彼らの事件が実際には冤罪でなかった疑いを生じさせる。
201█年█月█日現在、メンバー中28%の者の無罪が確定。残りは係争中である。
団体名:いじめ殺人被害者の会
実態:いじめによって家族を失った被害者遺族の団体。主な活動は、いじめの被害児童や保護者の相談受付、学校に対する勧告など。
曝露結果:[削除済]
団体名:有害ゲームに子どもを殺された親たちの会
実態:強姦殺人の被害少女の両親が中心となった、ゲーム規制のための圧力団体。同事件は加害者がTVゲームファンであったことを大々的に報道された。
曝露結果:メンバーは全員、様々な原因で1人以上の子を失った。多くがスポーツ試合 ゲーム中の事故死であった。数名の児童は一見不可解な原因で死亡し、所持していた携帯電話やスマートフォンからSCP-████のデータが確認された。
なお、すでに長女を殺されているため条件を満たしていると思われた代表者夫妻の次女も死亡した。これについて、財団職員D-5963086から当時の事情を聴取した。D-596308は「あの女子中学生は可愛かったから襲っただけだよ。別にゲームは関係なかったぜ?」と回答。ポリグラフ検査で偽証無しと判定された。
団体名:SCP財団日本支部
実態:省略。
曝露結果:曝露せず。サイト-81██の表の顔であるフロント企業宛てに届けられた小包から発見される。秘密組織としての性質上、財団名を明記した封筒を使用する機会がなく、██事務員が不審に思いながらも引出しに死蔵していたもの。SCP-xxx-JPの存在を財団が把握した後、関連を疑った██事務員が提出し、収容された。送付元は財団の存在を知っていると判明。
団体名:██川のほたるの会
実態:██川流域の自然環境回復につとめ、蛍の自然繁殖を試みる市民のグループ。
曝露結果:メンバー全員が行方不明となった。相当数のメンバーについて、「河原に向かって歩いて行った」という目撃証言がある。同年の夏、周辺地域にてゲンジボタル(Luciola cruciata)が急増した。特異性の結果である蛍とそうでない蛍を判別することはできなかった。
団体名:ちゅーりっぷの会
実態:児童福祉団体。
曝露結果:メンバー全員が行方不明となった。彼らの自宅やよく行く場所にそれぞれチューリップ(Tulipa gesneriana)の花が各一輪ずつ落ちていた。本人達の消滅およびチューリップの出現について、その途中経過についての記録及び証言はなく、すべて目撃者及び録音録画機器の存在しない場所で発生したと考えられる。
団体名:あじさい会
実態:老人福祉団体。
曝露結果:「ちゅーりっぷの会」と類似した結果となったが、花の種類はアジサイ(Hydrangea macrophylla)であった。チューリップと異なる点は、花は一輪ずつではなく、いわゆる「手まり咲き」と呼ばれる花の集合体の形で発見された。
団体名:にこにこヒマワリの会
実態:障害者福祉団体。
曝露結果:「あじさい会」とほぼ同様に、通常ひとつのヒマワリ(Helianthus annuus)と見なされている花の集合体が各一組ずつ残されていた。特筆すべき点は、一部の筒状花7が黄色ではなく黒色であった。黒の筒状花は3本の弧状に並んでおり、研究者たちは「人間の微笑んだ顔に見える」と報告した。DNA解析の結果、遺伝子異常に起因することが判明。色彩異常以外の特異性は認められない。
-「なんで福祉団体ってのは花の名前を付けたがるんだ?」(██研究員)
団体名:龍神会
実態:広域指定暴力団██組傘下の暴力組織。
曝露結果:同団体の活動する市内各地にて、巨大な爬虫類様生物██体が出現。機動部隊に-8("地域猫")を初めとする数チームの部隊が出撃。 [削除済]の犠牲を出しながらも事態の収拾に成功した。それぞれの特異性発現地において、カバーストーリー「集団幻覚」「特撮映画ロケ」「連続爆弾テロ」及びそれによる「動物園からの猛獣の脱走」が適用され、目撃者の記憶処理が行われた。
補遺1:特異性発揮済の封筒の残りを、団体名を書き換えて使用し、別団体に対し特異性を発揮させようとする試みは全て失敗しています。特異性未発揮の封筒による同様の実験は、物理的文字消去によって本来プリントされた団体に対する特異性が消去できる保証がなく、現在保留中です。
補遺2:SCP-xxx-JPを届けた文具店を調査した結果、全てのケースにおいて、SCP-xxx-JPを商品として取り扱った記録は存在しませんでした。ポリグラフを併用した尋問でも、店員にその記憶はないことが確かめられています。このため、単純に真の送付元が文具店の名を騙っているだけと考えられていますが、真の送付元について手掛かりは掴めておらず、目的等も一切不明です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス:Safe Keter
特別収容プロトコル:現在、SCP-xxx-JPは収容されていません。確保された場合、収容にはエリア-81██内に専用に設置された特殊金庫が使用されます。その周辺半径6004000m以内は原則的に立入禁止とし、例外的に必要な場合にはエリア管理者の許可を得てください。その際に特別に許可された物品以外の私物は一時保管所に預けてください。一切の許可のない金属製品の持ち込みは厳重な処分の対象となります。特に機械類は金属円盤型部品を用いていないことが内部検査によって確定した場合以外許可が降りません。また航空機がエリア上空を通過することも認められません。SCP-xxx-JPを確保した財団職員は、直ちにエリア-81██へ連絡を取り、指示に従って搬送してください。搬送中はオブジェクトを個人の財布や機械類をはじめ、金属円盤型の物品から可能な限り引き離すよう努力してください。
説明:SCP-xxx-JPは移動しながら外観を不定期に変異させていますが、常に「直径約40㎝程までの、主に金属で構成される円盤」という共通点を持っています。これはSCP-xxx-JPが、数分~数日ごとに上記の性質を持った物体と自己の位置を入れ替え、同時にそれに“化ける”ためです(以下、この現象を「転移」と呼びます)。転移の距離限界は未確定ですが、確認された最大の転移距離は1408mで、最も頻繁に転移する物体はコインです。オブジェクトと転移先の物体の間にどのような材質の障害物があっても、転移に支障を生じさせることはできません。
なお、SCP-xxx-JPが“化けた”円盤の両面が異なっていた場合でも、転移後のSCP-xxx-JPはその片方のみを両面が模倣します。たとえばSCP-xxx-JPが日本国発行の10円硬貨に転移した場合、両面ともに10の数字が書かれているか、もしくは両面とも平等院鳳凰堂があしらわれているかのいずれかです。以上が第一の異常性です。
SCP-xxx-JPを所持した、あるいは自在に取り出せる状態にある人間(SCP-xxx-JP-1)が他人(SCP-xxx-JP-2)となんらかの意見対立場面に遭遇したとき、SCP-xxx-JPは第二の異常性を発揮します。この異常性は、意見対立の解決をSCP-xxx-JPを用いたコイントスで行いたくなるという精神汚染効果であり、対立の性質上コイントスが明らかに無意味であっても、その効果は失われません。たとえば初歩的な科学的事実についての記憶が食い違っており、どちらが正しかったか、その場に持っている書籍で直ちに真実を確かめられる場合であっても、両者はコイントスに執着します。
ただし第二の異常性は、SCP-xxx-JPからごく近距離に存在する人間にしか有効ではありません。したがって意見対立が電話のような遠隔通信手段を介している場合、SCP-xxx-JP-1側のみが一方的にコイントスを要求します。この際、SCP-xxx-JP-2側から「お前がコイントスをしても私には結果が見えない」等の合理的な説明を受けてもSCP-xxx-JP-1は聞く耳を持ちません。この場合はほとんどのケースで、SCP-xxx-JP-2側がコミュニケーションを打ち切ることになり、ほどなくしてSCP-xxx-JPは転移していきます。
コイントスが行われると、物理的妨害が入るなどの極少数の場合を除き、以下の事象が発生します。一連の事象を「イベントxxx」と総称することとします。イベントxxxについては主に中央アジアに伝わる民話に酷似のものが複数残されています。民俗学的証拠に照らし、オブジェクトが遅くとも14世紀頃には存在していた可能性が示唆されています。
1.SCP-xxx-JP-1、2とも、SCP-xxx-JPの両面が同じである事実に気づきません。
2.SCP-xxx-JP-1は必ずSCP-xxx-JPの存在する面に賭け、従ってコイントスに勝利を収めます。
3.直後にSCP-xxx-JP-1は、SCP-xxx-JPを手から取り落とし、ほとんどの場合SCP-xxx-JP-2側へと転がっていきます。この現象はSCP-xxx-JPがSCP-xxx-JP-1の精神に作用して無意識的な動きを強制することで起こるものと考えられます。
4.SCP-xxx-JP-2はSCP-xxx-JPを拾い上げ、両面が同じであることに気付きます。
5.SCP-xxx-JP-2は一連のコイントスを、SCP-xxx-JP-1が意図して行った悪質なイカサマであると断定し、激怒して強く非難します。
6.SCP-xxx-JP-1はSCP-xxx-JPが両面が同じ「エラーコイン」であったと知らなかったと弁明しますが、SCP-xxx-JP-2は聞き入れません。
7.SCP-xxx-JP-1、2ともに相手方に対し、非常に強い永続的な悪感情を抱きます。SCP-xxx-JP-2は自らをコイントスによる詐欺の被害者・SCP-xxx-JP-1を加害者と考え、一方、SCP-xxx-JP-1は自らがその冤罪の被害者・SCP-xxx-JP-2を加害者と考えます。
イベントxxxの全てが終了した後、SCP-xxx-JPは周辺の金属円盤に再転移することで移動し、SCP-xxx-JP-1のもとを離れます。
近年、インターネットやSNS上において、SCP-xxx-JP-1もしくはSCP-xxx-JP-2であったと考えられる者同士のコミュニケーションが急増している事実が報告されています。これらのコミュニケーションは、典型的には以下のような態様と結果になります。
SCP-xxx-JP-1は、他のSCP-xxx-JP-1がネットワーク上に投稿したイベントxxxの体験談を発見すると、自分と同じ体験をした人がいることに感激し、通常以上に積極的なコミュニケーションを図ろうとする傾向にあります。彼らは「俺も似たような体験をしたんだよ!」と積極的に自己開示をし、「たまたま持っていたエラーコイン」による不運を慰め合うとともに、SCP-xxx-JP-2側の「話を聞かない態度」や「偶然を認めようとしない狭量さ」についてあげつらいます。
SCP-xxx-JP-2についても、同様に他のSCP-xxx-JP-2とコミュニケーションを取りたがります。そしてSCP-xxx-JP-1側のコイントスにおける卑劣なイカサマと、それが発覚した後の往生際の悪さについて語り合い、やはり憎しみを増幅させていきます。
またネットワーク上でSCP-xxx-JP-1とSCP-xxx-JP-2が遭遇した場合には、口を極めた罵倒のメッセージをぶつけ合います。両者とも、相手方のみならずそれを擁護した第三者に対しても侮辱と罵りをぶつけ、ほどなくその第三者をも巻き込んで、さらに対立に関わる人数を増加させていく傾向にあります。
以上のような経過を経て、SCP-xxx-JP-1群とSCP-xxx-JP-2群はそれぞれ相手側による憎悪を絆とした集団を形成し、徐々に拡大しています。
SCP-xxx-JP関連と思われる書き込みのデータや使用された機器を調査したところ、ミーム汚染の検出は一切なく、これらはネットにおける特異性のない炎 上フレーミング現象を結果的に発生させているに過ぎないと考えられます。
しかしながら、多くは単なる罵り合いに収まってはいるものの、暴力事件による逮捕例も散発的に報告されており、SCP-xxx-JPによる社会的被害の増大が憂慮されます。具体例はインタビューログxxx-20██/█/██/を参照してください。
ネット上の会話をきっかけに発生したと報道された暴行事件の被疑者(本名、█本█裕、25歳男性無職。以下、SCP-xxx-JP-1-Aとする)が、SCP-xxx-JP-1と見られたことから、財団のエージェント█が雑誌記者に偽装して接触。インタビューを行った。
エージェント█:やあ█本君。留置生活お疲れだったね。
SCP-xxx-JP-1-A:(うなだれて)……すみませんでした。俺、なんであんな事しちゃったのか……被害者の御家族には本当に、なんとお詫びすればいいか……。
エージェント█:ああ、そういうのはいいよ。私はこの事件を客観的な立場から取材しているんだ。君のことは匿名にするから、安心して好きに話してくれ。
SCP-xxx-JP-1-A:あ、そうなんすか。(顔を上げ、リラックスした様子を見せる)
エージェント█:早速話を聞きたいのだが、一体なぜあんな事件が起こったんだね。
SCP-xxx-JP-1-A:(謝罪の台詞を書いたメモを手で丸めながら)元はと言えば、[被害者名]が原因なんだよ。[共犯者のハンドルネーム](以下、単に[共犯者]とする)さんは一方的にサギ師呼ばわりされたんだ。ネットでも酷えって盛り上がって。で、[被害者]がツイッター使ってて特定できたんで、家に行って謝らせてやろうってことになったんだよ。俺らは謝罪させるだけのつもりだった。ちゃんと謝れば許してやるつもりだったんだぜ。相手の態度が悪かったから殴ったんだよ。
エージェント█:[被害者]さんと[共犯者]さんは元友人で、飲み代を誰が払うかでコイントスをしたんだったよね?
SCP-xxx-JP-1-A:ああ、そしたら偶然コインが、ミスプリント? あ、エラーコインっての? まあいいや。両方表のやつでさ。[共犯者]さんはサギ師のレッテル張られたんだよね。たまたまなのに酷え話だろ。
エージェント█:それが冤罪じゃなく、[共犯者]さんが本当に騙そうとしていた可能性は?
SCP-xxx-JP-1-A:そうは思わなかったな。つーかよ。わざとだって証拠もねえだろ。証拠もなく人をサギ師呼ばわりする方が悪いじゃねえか。
エージェント█:しかし偶然、エラーコインをコイントスに使ってしまうなんて、滅多にあることじゃないだろう。[共犯者]さんが疑われたのも無理がないとは思わないか?
SCP-xxx-JP-1-A:いや、よくあるんだよ。ネットで俺もあったって書き込み沢山見たんだ。ソースはいくらでもある。
エージェント█: エラーコインがそこまで沢山あると思う?
SCP-xxx-JP-1-A:知らねえよ! 役所がいい加減に造ってんだろ!……実際、俺も同じような体験あったんだよ。だから[共犯者]さんのムカつきがよく分かるんだよね。
エージェント█:その君の体験というのを教えてくれ。
SCP-xxx-JP-1-A:俺ん時はツレと……もうツレでも何でもねえけどな。次の日の野球の話だったな。阪█が勝つか巨█が勝つかでコイン投げたんだよ。それがたまたま両方裏のコインでさ。わざとやったわけでもねえのに、卑怯者と、インチキ野郎と抜かしやがった。どんだけ腹立つか分かる? わざとじゃねえのにインチキ呼ばわりされんのがさ。
エージェント█:翌日の試合結果にコイントス? それに意味があるかい? 試合の結果は明日になれば、コインと関係なく出るわけだろう。
SCP-xxx-JP-1-A:まあな。でもそんなもんだろコイン投げなんて。
エージェント█:君はいつもそんな風に、何かで判断に迷ったり、人と意見が分かれたりしたとき、よくコインを投げるのかい?
SCP-xxx-JP-1-A:いや、あんまりしないな。
エージェント█:今まで何回ぐらいコイントスしたことがある?
SCP-xxx-JP-1-A:覚えてない……やったことないかも。そん時たまたましたくなったんだよ。
エージェント█:なるほど。今日はどうもありがとう。
なお、SCP-xxx-JPの転移現象の詳細については以下の文書を参照。
目的:SCP-xxx-JPの転移できる物体の範囲を確認するための実験。平凡なタイプのコイン以外の物体に転移できるかどうかを確認する。
方法:実験室内にSCP-xxx-JPと試験物体を設置し、転移が起こるのを最大240時間待つ。
実験記録xxx-JP-あ
物体:日本円の十円玉(昭和30年発行)
結果:26分後に転移。
コメント:ギザ10と呼ばれる、側面に溝があるタイプの十円玉。別に問題がないことが分かった。(██博士。以下の実験コメントは全て同博士による。)
実験記録xxx-JP-い
物体:神功開宝8
結果:45分後に転移。
コメント:現役の通貨でなくても良い事、中央に穴が開いているタイプのコインでも問題ないことが分かった。
実験記録xxx-JP-う
物体:日本円の五円玉を模したチョコレート
結果:転移せず。
コメント:外見だけではダメか。
実験記録xxx-JP-え
物体:市販ボードゲームに付属していた架空通貨の貨幣(プラスチック製)
結果:転移せず。
コメント:プラスチックでも無理と。本物のお金でないと駄目なのかな。
実験記録xxx-JP-お
物体:日本円の一万円札
結果:転移せず。
コメント:まあ、コイントスにお札は使えんよな。
実験記録xxx-JP-か
物体:明刀銭9
結果:転移せず。
コメント:青銅製だが、形状は円でない通貨。お金であってもやはり円形でないと駄目なのかもしれない。
実験記録xxx-JP-き
物体:陶貨幣10
結果:転移せず。
コメント:一応通貨だが、やはり土製品も駄目か。金属であることが条件なのか。
実験記録xxx-JP-く
物体:メダルゲーム用のメダル(アルミ製)
結果:29分後に転移。
コメント:お金である必要はないらしい。
実験記録xxx-JP-け
物体:デザインの施されていない鉄製円盤(直径3㎝、高さ2㎜)
結果:52分後に転移。
コメント:社会的な意味は求められていないのか?
実験記録xxx-JP-こ
物体:デザインの施されてない鉄製の円柱(直径3㎝、高さ6㎝)
結果:転移せず。
コメント:高さがありすぎると駄目だということかな。ともかく、1つずつやっていてはキリがない。いっぺんに行こうじゃないか。
実験記録xxx-JP-さ
実験方法:██博士の提案で、実験方法を変更。転移の可能性がある物体多数を実験室内に置き、24時間体制での撮影をおこなった。両面が同じものは片面に刻印を施し、全物体をガラステーブルに置いて上下から撮影することで、転移の有無を容易に視認できるようにした。その結果、転移したものとしなかったものの例は以下の通り。
転移した物体:円形に近い形状の全ての金属製貨幣類、メダル類。ビールの王冠。キーホルダー用のリング。銀製の腕輪。三角縁神獣鏡。様々なサイズの歯車(比較的小サイズのもの)。ボタン電池。シーチキンの空き缶の蓋(円形)。自転車のギア。シャーレに満たした水銀。
転移しなかった物体:石貨など金属以外の物質を主材料とする貨幣、メダル類。円に近い形状に畳んだ千円札。同様に畳んだポリマー紙幣。タカラガイ。ペットボトルの蓋。パチンコ玉。350ml入りジュースの空き缶(アルミ、スチール共)。オイルサーディンの空き缶の蓋(長方形)。大型の歯車(直径50㎝程度から)自転車の車輪。マンホールの蓋。試験管に満たした水銀。
コメント:「社会的に金銭として使用されているか、されたことがあるか」は全く無関係であり、物理的条件を満たしているものなら何にでも転移するようだ。条件は金属製、円盤状、大きさの上限は直径40センチちょっとか。また、高さが半径以上になると、転移しないようだ。(██博士)
この実験の10日後、収容違反事件xxx-20██/██/█が発生した。
08:42
実験室に安置されていたSCP-xxx-JP(当時の外観はイタリア発行の1ユーロ硬貨)が突如として消失。同じ位置に百円硬貨が残されていた。当初の予想で転移距離限界と考えられていた600m以内にいた全職員の所持金を確認したが、オブジェクトが転移した物品と考えられる不審な物品は発見できなかった。09:16
職員食堂にてエージェント███が小銭入れから取り出した百円硬貨が、目の前で指輪に“変身”したと報告。SCP-xxx-JP消失当時、エージェント███がいた場所は実験室から1400m以上離れていた。09:18
60m離れた廊下で、突如██事務員の左手薬指が、歯車とともに落下。結婚指輪に転移していたSCP-xxx-JPが歯車に転移したため、指が切断されたと考えられる。09:22
エリア管理者より発令。「エリア内の全機械の点検。不審な金属円盤が混入していないか確認せよ」10:01
█████博士のオフィス時計内部から、何らかの瓶のものと思われる金属製の蓋を発見。10:53
休憩室内の簡易救急箱に入っていた風邪薬の小瓶から蓋が消失していたことが判明した。代わりに五百円玉が乗っているのが確認された。
以降、エリア内においてSCP-xxx-JPの痕跡を発見することはできなかった。
誰かの財布に紛れ込んでエリア外に脱出したものと思われる。
上記収容違反の後、過去のSCP-xxx-JP発生記録を調べ、出現地と次の出現地の中間地域において、不審な事象が発生していないか調査した。その結果、オブジェクトが通過したと推定される地域には主として機械類の不可解な故障および、それに伴う事故が有意に多く報告されていることが分かった。
SCP-xxx-JPの転移現象に起因すると考えられる事象には、以下が含まれる。
・大規模な車両事故
・数百人単位の犠牲者を出した列車、船舶、飛行機事故
・原子力発電所の緊急停止
・軍事用システムの誤作動あるいは緊急停止
・Keterクラスオブジェクト収容のための機器の故障
「SCP-xxx-JPが単に些細な揉め事をばら撒きながら逃げ回るだけの、小者のオブジェクトだと思ったのは大きな間違いだった。いや、これが伝承に書かれた700年前には、実際そうでしかなかったのだろう。だが人類社会の方が、SCP-xxx-JPにとって余りに都合良く発展してしまった。その脅威を、最大限に引き出すような形で……我々は、前回幸運にもあれを収容できたと思った時に、もっと用心すべきだったのだ。オブジェクトが転移したこともない何倍もの距離まで、安全範囲を確保しておくべきだったのだ。」(██博士)
名前: 執行 明しぎょう あきら
職務: 主に歴史的オブジェクトの研究。オブジェクト及びanomalousアイテムの背景調査。カバーストーリーの立案。財団内の研修感想文の代筆アルバイト。
所在: サイト-81██、頻繁にSCP-███-JP内、フロント企業█████社
人物: 執行博士は19██年に兵庫県で出生した日本人男性です。財団雇用前は民間の大学で助教授をしていました。専門は犯罪心理学でしたが、他に広範な博物学の知識を有しています。
執行博士は自身の自宅及び勤務する大学が所在する██市内で発生した複数回の猟奇殺人について、容疑者として逮捕されました。無罪を主張していましたが裁判で死刑判決を受け、その後D-37564として財団に雇用されました。
D-37564はDクラスであるにもかかわらず、強い好奇心をもって実験に臨んだことが当時の研究職員に証言されています。彼はしばしば自身が被験者となっている実験について、有用な先行実験や比較実験がなされていない、あるいはDクラスの浪費を避ける手段が尽くされていないと意見を述べ、実験手順の修正を求めることがありました。一部職員は反抗的として彼の終了を要請しましたが、日本出身で彼レベルの学識を持つDクラス職員は希少であったため、Dクラスの多様性保持の観点から終了を見送られました。
Dクラスとしての彼が特異な能力を発揮したのは、異世界ポータル型オブジェクトの探索任務においてです。D-37564は異世界を構成する地質や生物相等様々な観点から、我々の世界との極めて比較上有用な観察を行い、逐一報告して生還したことが何度もありました。当初高い評価を得ました。彼は極めて狭い範囲についての報告を詳細にすることで時間稼ぎを行い、危険度の高い遠方に踏み込むのを避け、その結果として詳細な報告と生還功績を実現していたことが、本人の自慢話によって判明しています。ある異世界では、D-37564は19時間の探査を尽くして膨大な量の報告を行いましたが、ポータルから離れた距離は最大8mでした。この結果は彼の功績の平均値に近いものです。
あるときD-37564は、曝露した文書内容の真偽によって反応を変化させるSCP-███-JPの被験者となった際、本来使用するはずであった文書の代わりに、「D-37564は[自身が訴追された猟奇殺人の記述]の真犯人である」旨の記述をしたメモを曝露させ、その反応をもって自己の無実を証明しました(事件記録文書SCP-███-JP-20██/██/██参照)。財団は彼には記憶処理と、十分な社会的ステータスの伴った偽造経歴、刑事補償法に則った額の補償金を提供された上で解放するとの提案をしましたが、D-37564は「面白いから」研究者として財団に留まりたいと述べ、現在の地位を得ました。
執行博士が犯人とされていた事件は、そうでないなら超常的事象を抜きにした説明が不可能であるため、現在財団による再調査が進められています。
研究者としての執行博士の特徴は、よくいえばミーム汚染や精神汚染の認定に対する慎重な態度です。ありていにいえば、執行博士は人間の本性に悪を見出すのが大好きです。オブジェクトに曝露した一般人による凶行を、他の研究者が汚染効果と認定しようとする時、博士は大抵「待て。本来の性質が状況のせいで表面に現れただけかもしれない」と主張します。そしてその通りだった場合には、博士は非常に満足気にうなずき、数週間はそれでニヤニヤと思い出し笑いを繰り返します。
補遺1:事件記録文書SCP-███-JP-20██/██/██による執行博士無罪説には、現在複数の職員から疑義が出ています。執行博士がSCP-███-JPに曝露させた文書は、博士とその事件を知っている人間が読めば一見、有罪説の様に錯覚しますが、実際には博士の行動を過剰に限定的に記述していました。つまり、執行博の実際の行動は、曝露文書と極めて些細な点で違っていただけで、猟奇殺人そのものは実行していた可能性が浮上したのです。執行博士が意図的にこのようなレトリックを使用したかどうかは不明であり、本人は笑って否認しています。
補遺2:補遺1について確認するため、殺人経験の有無によって反応を変える特異性を持つSCP-████-JPの被験者に執行博士が選出されました。結果、SCP-████-JPは執行博士が「殺人経験有り」とする反応を示し、博士は拘束されました。しかし博士は、自身が実験の40分前に、別のSCPオブジェクトについてDクラス職員を用いた人体実験を行い「殺し」ていたと申立て、その事実が確かめられました。同実験は認可されていたものでした。この実験によって執行博士は、過去の猟奇殺人とは無関係に「殺人経験」を得たことになり、SCP-████-JPによる博士の有罪認定は無効とされました。執行博士が意図的にDクラスを死亡させたかどうかは不明であり、本人は笑って否認しています。
SCP-JP:
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