SenkanY

『財団気象部門の気象予報はですね、降水確率が50.00%を上回った時に傘を持っていけばいいって、諸知さんが言っていましたよ』

男にとって、それは非常に珍しい事であった。男の人生に於いて、他人の言葉を覚えているなど早々無いことであった。よく考えてみれば、それ以外には、旧友からの命令しか無かったのである。


「あなた…」

「SCP-███-JPの添付資料5A~3Cまでの資料のコピーを出してくれ」

「えっ、えぇ。分かりました。多分大丈夫ですけど、少し待っていてください」

そう彼は言って、奥に入った。男はそばのテーブルに腰掛けて待つことに決めた。この場所の香りは変わった。あの香りは、今は代わり、新しい香りが立ち込めている。須臾の間に、男はそんなことをぼんやりと考えていた。

「お待たせしました。これを。 資料は今出してきますね」

彼は私にタオルを差し出した。既視感があった。いつの日だったか、あの女もまた、私に同じことをした。
私はただ資料がほしいだけなのに、あの女は用途も説明せずにタオルを渡してきた。あの時と、同じだ。

「こちらが当該の資料になります。ご確認ください」

「ありがとう」

「博士?」

「何かね?」

「なぜ、博士は傘を持たずに出ていたんですか?」

その質問に、うまい切り返しは思いつかなかった。男は正直に話すことに決めた。

「雨は、嫌いではないし、傘を持つのは腕が疲れるのでね」

びしょ濡れのその男は、ファイルされた資料をそのままケースに仕舞い込んで、腰を上げる。

「あ、そうそう」

「いつも言うように、勤務中は私のことを博士と呼ぶんじゃあない。伯父さんと呼びなさい」

「嫌です」

そう、男は彼に尻を蹴り上げられて図書館を去った。