アイテム番号: SCP-LOVE-JP-J
オブジェクトクラス: K-true love
特別収容プロトコル: SCP-LOVE-JP-Jはサイト-81██の映像保管用ロッカーに被覆して保管されています。SCP-LOVE-JP-Jの閲覧を希望する職員はサイト管理者に許可を求めて下さい。主幹研究者である魔慶博士が受け持つSCP-LOVE-JP-Jの元番組について質問を希望する者は魔慶博士を訪ねて下さい。めちゃ、くわしいです。
説明: SCP-LOVE-JP-Jは放送が終了した娯楽番組(以降、元番組と呼称)に感銘を受けた視聴者によって、作成された二次制作の動画です。SCP-LOVE-JP-Jの題材に使われる元番組は、映画、ゲーム、バラエティと多様ですが、取り分けアニメが扱われる事が多いです。SCP-LOVE-JP-Jは元番組と同じ番組の構成で進行します。元番組の映像を抽出した静止映像、もしくは元番組を想起する静止画像が本編に使用されます。本編には音源は無く終盤に元番組のオープニング曲もしくはエンディング曲が付けられます。SCP-LOVE-JP-Jの制作に、元番組を企画制作した放送事業社、出版社、制作会社の関係者が直接関与した事実は有りません。SCP-LOVE-JP-Jを制作した動画の投稿者は、元番組名と放送回数を合わせた題名をSCP-LOVE-JP-Jに付けて、元番組の放送時間に合わせて動画共有サービスに投稿します。
SCP-LOVE-JP-Jの異常性は、物語を想起できる情報が無い静止画像で本編が構成されているにも拘らず、SCP-LOVE-JP-Jから視聴者に対して未知の原理で物語の進行が伝わっている点にあります。SCP-LOVE-JP-Jの視聴者がネット上に挙げた発言を分析すると、番組についてコメントした内容が同時間帯で多数の視聴者と認識が一致しており、視聴者達は番組の内容を共有し認識している様子が読み取れました。この異常性は放送時間帯で流れた最初の放送にのみ発生しており、その後、SCP-LOVE-JP-Jを見直しても本編の静止画像から物語が伝わる異常性は発生しませんでした。
SCP-LOVE-JP-Jの視聴者は、視聴後に多幸感が芽生え数日間は穏和な気持ちで生活する様に成ります。SCP-LOVE-JP-Jの視聴を経験した者が、次の放送時間帯に流れるSCP-LOVE-JP-Jを視聴しなかった場合、ひどく気分を害する様になり翌日から苛立つを募らせて、攻撃的な態度で人に接する様になります。それにより視聴者達による事故や暴力沙汰にまで発展する事もあり、事件の発生数が放送の回数が進むにつれて増えています。
2017年4月██日、██県の██民族資料館で大声を発しながら親子連れの来館者に対して、執拗な暴言を投げ掛けていた若者達が補導される事件がありました。当局が行った若者達への事情聴取の中で、SCP-LOVE-JP-Jを見逃した事を理由に述べた事が、財団に知れる事となり存在が発覚しました。
付記: 元番組名が第12.91回と銘打った題目で動画共有サービスに投稿される予定日に合わせて、SCP-LOVE-JP-Jを視聴したユーザから建設的な発言をしていた者に接触し、視聴時の状況を観察させてほしいと取材を申し入れ、承諾を得た四名の協力者を都内某所のホテルに招待した。視聴者には各自の視聴環境機材を部屋に持ち込ませ、リラックスさせた状態で視聴できるよう酒類など嗜好品を提供した。視聴者達が異常性を受けた際に体調の変化やミーム汚染度を測定する機器を各部屋に設置し、視聴者達を観察する作業場を同ホテルの一室に設えた。観察室のモニタを通して視聴の様子をリアルタイムで確認する。
補遺: 2017年4月██日、梟博士からSCP-LOVE-JP-Jの異常性は元番組の存在が関連していると提言がありました。博士の提言について有識者の間で審議が行われてますが、元番組と異常性との関係について調査は保留されております。SCP-LOVE-JP-Jの異常性が元番組と関連していた場合の事を考え、本報告書では元番組を想起できる表現を別の言葉で置き換えています。
放送日: 2017年4月██日 24:00-24:15
番組名: [業物達が集いし処]
<観察開始>
00:00 放送開始。画面中央に[鞘と言う名の性別不明の主人公]と[剣と言う名の女性の主人公]が広大な[戦場地]を[徒歩]で進めている静止画像が映し出される。
魔慶博士: 放送が始まった。視聴者の様子はどうですか。
土子女史: 皆、嬉々とした表情をしており、楽しんでいる様です。
魔慶博士: 好きな番組を前にすれば当然の反応です。続けて観察しましょう。
土子女史: 情報端末を使って何やら発言を始めた様です。
魔慶博士: 発言先とハンドルネームは聴取済みです。発言内容を確認してみましょう。放送が始まったなどの発言が多いな。ここまでは至って普通ですね。
02:00 最初の静止画像が続く。
土子女史: 聞いていた通りの静止した映像が続いています。
魔慶博士: [凄い]とか[楽しい]とか発言が多くなってきた。それも一人や二人で無い。同時刻に多くの視聴者が同じ感想を述べている。彼等にはこの映像から共通した何かを読み取れているのか?我々には静止した映像でしか見えないが、彼等には物語が進んで見えているというのか。
土子女史: 視聴者の脳波はリラックス時に発生するα波が発生しています。脈拍数は少し高いですが、ごく自然な興奮の状態でいます。現在、SCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生していると思われますが、ミーム汚染者の特徴的な測定数値は診られません。その他の測定データも一般人の平常時と同じ測定値を示しています。
魔慶博士: 視聴者はSCP-LOVE-JP-Jの異常性下にあるが、情報災害や認識災害の被害を受けておらず、正常な状態であると?そんな事があるのか?しかし、始まったばかりです。このまま監視を続けます。
05:00 最初の静止画像が続く。
土子女史: 物語の内容と思しき発言も増えました。[まさかそんな所に刺客が潜んでいた]とか、[新井と言う名の刺客]と[狐と言う名の女忍者]が登場した様子や、[新井はいつ見ても怖い]、[狐は美しい]など、場面が変化した様子を皆で共有している様です。
魔慶博士: この静止した映像から新しく登場した人物を話題にしているのか。何かヒントになる様な映像の変化を視聴者は感受したのだろうか。画像解析班、映像から何か特徴は見られますか?
解析担当 : 特徴のある映像の乱れや画素の変化は有りません。モニタに送られるストリーミング情報にパケット欠落が生じてデータの補間が行われた様子も無く、極めて安定した静止画像の映像が配信されています。静止画像の間に別の画像を割り込ませるサブリミナル効果が利用された形跡も有りませんでした。
魔慶博士: そうか、映像の異常は無いのか。全く見当がつかない。
10:00 最初の静止画像が続く。
土子女史: [相変わらず動きが少ないアニメだな]、[作画が雑過ぎる]等、否定的な発言も出ている様です。[激しいバトル展開だ]、これは905号室の██様の発言ですね。やはり彼等には内容が見えているのでしょうか。
魔慶博士: 発言の通りだと、今主人公達は[お互いに戦い合いを]している。その様子に呼応する様に、[やばい]とか[頑張れ]とか応援する発言が出てきている。本当にSCP-LOVE-JP-Jと彼等の間で未知の原理が働いて物語を伝えているのか。その存在を認めろと言うのか。
土子女史: 博士。思うのですが、視聴者の間で何か取り決め事があったとか、人為的な演出を行っているのではないでしょうか。ある種の言葉遊びを楽しんでいるとか。
魔慶博士: その疑問は私も考えていた。他人の発言から意図を汲んで次の発言に繋げて、皆で物語を展開している様な、連想ゲームやインターネットミームの状況が再現している。それが事実だとしたら、目の前で起きている事を我々の手で再現させる事は容易いと思っている。
14:00 最初の静止画像が続く。
土子女史: 放送が終わりに近づいて来ます。招待した視聴者達は感想の書き込みを続けています。放送が終わってしまう事を悲観している発言が多いです。
魔慶博士: [まさか第一話のアレがこの回の伏線]に皆反応している。今放送している話は、話が良く錬られた内容なんだろうな。私もぜひ見える様に成りたいものだ。
14:30 最初の静止画像が消え、元番組のオープニング曲が流れる。
土子女史: 約15分間の本編が終わりました。この後はオープニング曲かエンディング曲のいずれか放送され番組が終了します。[国歌斉唱が始まった]という発言が多く寄せられてきました。
魔慶博士: 我々の知っている国歌とは違う様に聞こえるが、視聴者には未知の原理で音源が変換されて国歌が聞こえているのだろうか。
15:00 曲が終わり、放送が終了した。
土子女史: 放送が終了しました。各室の資料者は満足気味に寝る支度を初めています。
<観察終了>
分析: 彼等はSCP-LOVE-JP-Jの内容を楽しんで認識している。私はSCP-LOVE-JP-Jの調査を受け持つ事になり説明を聞いた時には、幾多の報告書にある情報災害や認識災害の類かと先入観を持ってこの観察に臨んでいた。SCP-LOVE-JP-Jの視聴者には観測上の異常が見られなかった。SCP-LOVE-JP-Jと彼等の間で働く未知の原理が何なのか、SCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生する為の条件が何であるのか、今回の観察からでは解明できなかった。しかし、我々の手で異常性の事象が再現できれば、視聴者が見たSCP-LOVE-JP-Jの異常性が本物であるのか自演による虚像であるのか、一目瞭然となるであろう。
付記: SCP-LOVE-JP-Jの異常性を発生する条件を追求する為、魔慶博士は各種の動画共有サービスで会員登録を済ませた。元画像の利用については制作・著作の権利を有している出版会社と制作会社、放送権を持つ放送事業者に交渉担当部隊"金の袖下”を派> 遣させ、二次利用の許可を了承頂いた。
実験記録LOVE-JP-J-02-1 - 日付2017年4月██日
実験方法: 前回放送されたSCP-LOVE-JP-Jの映像を使用し、動画を投稿。
実験結果: SCP-LOVE-JP-Jの異常性は出なかった。動画を見た視聴者から、元画像の盗作行為を避難する発言が多く寄せられた。
分析: : 再現検証のセオリーとして同一の物を扱うのが最適解と思っていた。異常性が発生していたSCP-LOVE-JP-Jを使用すれば再現するかと思ったが、どうも良くないらしい。次の検証に支障を来すので現アカウントを凍結し、新たに会員登録を行う。
実験記録LOVE-JP-J-02-2 - 日付2017年4月██日
実験方法: SCP-LOVE-JP-Jの動画構成を参考にして、元番組の映像を一部使用し動画を作成。動画を投稿した。
実験結果: SCP-LOVE-JP-Jの異常性は出なかった。動画を見た視聴者から、辛辣な意見でコメント欄の表示許容数が満了の状態(いわゆる炎上)となった。
分析: 再現検証とは言え、供給した我々に向けられた意見は否定的なものが多く、非常に心苦しくなる。現アカウントを凍結し、新たに会員登録を行って、出直すとする。
実験記録LOVE-JP-J-02-3 - 日付2017年4月██日
実験方法: SCP-LOVE-JP-Jの動画に制作会社から承諾を得た未公開の画像を使用し、付加価値を付けて動画を投稿した。
実験結果: SCP-LOVE-JP-Jの異常性は出なかった。未公開の画像を見た視聴者から、好感的な意見もある中、画像の信憑性を疑う意見でコメント欄の表示許容数が満了してしまった。
分析: 元番組の製作会社から起用した素材を使用しており、ある意味クオリティは高いものと考えていたが失敗であった。そして、コメント数の割には手本としたSCP-LOVE-JP-Jの動画再生数には遠く及ばず。動画再生数が思う様に伸びず。悔しい。
実験記録LOVE-JP-J-02-4 - 日付2017年4月██日
実験方法: 元番組の構成を真似つつも、素材を全て一から起こす。国内外から一線で活躍している制作スタッフを起用した。元番組の作成手法と同じ撮影機材を導入し、動画を作成。投稿した。
実験結果: SCP-LOVE-JP-Jの異常性は出なかった。視聴者からは「手の込んだ二次創作止まり」とのコメントが多かった。
分析: 多額の投資したが普通の動画作品でしかなかった。しかし動画再生数は飛躍的に伸びた。動画の紹介枠に金色の帯が付いた点は嬉しいが、未だ原理の究明に至らない。ここまでの実験で異常性が発生しなかった事から、観察実験で視聴者達が発言した状況は人為的な演出では無いものと考える。
2017年4月1█日 梟博士からSCP-LOVE-JP-Jの報告へ提言
付記: SCP-LOVE-JP-Jの報告を読んだ梟博士から関係者に提言が挙がった。
魔慶博士とそのチームで調査しているSCP-LOVE-JP-Jの報告を拝読しました。SCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生する原理を究明するとあるが、実験結果を見る限り乖離が進む様に感じている。SCP-LOVE-JP-Jを終了した番組の二次制作放送と設定した点にも疑問を持っている。報告にある様な異常性が出た二次制作放送は、現在調査中の元番組だけでは無い。過去にも似た放送事例があり、古くは19██年██月██日の児童教育番組に登場していた児童がぬいぐるみに見えた放送や、待機を求める静止画像に映像が切り替わり視聴者に番組の裏で行われている出来事を印象付けた放送など、過去に本編から何かしらの情報が視聴者に伝わった事例が多々あった。SCP-LOVE-JP-Jの異常性を発生しているのは動画では無く、元番組だと私は考えている。関係者に措いては、再考の検討を御願いする。
2017年4月1█日
梟 鍔九郎
2017年4月1█日 O5-JPから梟博士の提言へ見解
梟博士の協力には感謝する。しかしながら、元番組をSCP-LOVE-JP-Jと位置付けする貴君の提言は保留とします。SCP-LOVE-JP-Jの異常性が確認できたのは元番組の放送終了後からであり、元番組が放送していた間に異常性が発生した事例が無い。SCP-LOVE-JP-Jの異常性および異常性が発言する条件について調査中の状況であり、貴君の指摘にある元番組と異常性との関連性を調査する理由まで調査は発展していない。但し、現段階では我々でSCP-LOVE-JP-Jを造り上げる事が出来ない以上、調査の焦点をSCP-LOVE-JP-Jの投稿者に切り替える事とする。
-ところで、魔慶博士。全[削除済み]話ある元番組は視聴済みだろうね?2017年4月1█日
O5ーJP
-申し訳有りません。直ちに視聴を済ませます。
2017年4月1█日
魔慶 良子
付記: SCP-LOVE-JP-Jの異常性を発生させる条件について、投稿者からSCP-LOVE-JP-Jについてインタビューを行った。
対象: SCP-LOVE-JP-Jを投稿した投稿者 ████(氏名)28歳男性(会社員)
インタビュアー: 魔慶博士
場所: 日本支部 サイト-81██ ██号応接室
<録音開始, 2017年4月1█日 13:30>
魔慶博士: 貴方がSCP-LOVE-JP-Jを投稿している理由を聞かせて下さい。
████: [元番組名]が終了して不安が募って来たから、ですかね。[元番組名]の第一話から毎週欠かさず見る様になってから、こう毎日が楽しく過ごせる様になって来ました。放送日が待ち遠しくなる期待感に加えて、生活をゆっくり楽しめる事に努めようと意識する気持ちをこの番組は教えてくれました。番組が終了して、もうあの[殺伐とした世界観]に触れる事がもう無いのだと思うとすごく寂しい思いがする様になったのです。
魔慶博士: それで[元番組名]の構成を模倣して毎週の放送時間に併せて、動画を投稿している。丁寧に今後の放送予定日とタイトルもSNSで周知するまでに。そして貴方の動画に同じ気持ちを持つ視聴者も多いのも事実です。ご存じでしたでしょうか、貴方の制作する動画は本編は静止画像であり何の物語進行も無い中で、視聴者には何かを見えている様な不可思議な事象が備わっている事を?
████: はい。
魔慶博士: それでは貴方は、動画の中に物語性を盛り込む事は行っていない、という事でしょうか?
████: そうです。ですが、他の視聴者の発言から、こう何て言うか、想像力が掻き立てられるというか、登場人物達が動いて見える様になってくるのです。[厳しい掟]の中で、主人公達が[反目]しあい[戦い生き抜いて]いる光景が。そうして視聴者達と共有しているのです。
魔慶博士: 物語の要素が感じ取れない静止画像から視聴者は何を感じ取って物語を見ていると思いますか?この異常性を発生させている原因は何か御存知でしょうか?
████: 異常性とか原因などについては解りませんが、はっきり言える事があります。それを説明するには、そうですね、色鉛筆と画用紙を用意できますか?絵で説明したいのですが。
(魔慶博士は外部のスタッフに連絡を入れ、色鉛筆と画用紙を部屋に持ち込ませた)
████: これは第12.96回の放送で使用する画像のイメージ案です。絵心が無くて御見苦しいかぎりですが。どうでしょう。
魔慶博士: とても上手に描けてますよ。あら、この絵は。
████: 貴方には見えるでしょうか。例えば、第12.6回に[剣という名の女の主人公]と[鞘という名の性別不明の主人公]がお互いの[主君への忠誠心]を確かめ合って語る場面があります。[主君の懐刀として刃こぼれこそすれ主君からこぼれは致さぬ。誠の忠義は我にある]と。
魔慶博士: あぁ、確かに!観察実験の時には静止画像から何も感じる事が無かったのに!今ははっきりと見る事ができる。[剣という名の女の主人公]と[鞘という名の性別不明の主人公]が[切磋琢磨]して語り合う姿が見えてきました!
████: そうです。拙い絵ですが貴方には見えるはずです。貴方は自分の時間を視聴に費やし、作品に触れ作品の良さに気付いたからです。
魔慶博士: そんな!私にもSCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生するなんて!これは一体。
████: 恐らく、いえ、きっと貴女が描いても同じ様に見る事ができるはずです。共通の愛情を持つ者にしか解り得ない世界を共有している。貴女の言う異常性が成す行為の原因。それは作品に掛ける愛情だと私は思うのです。
魔慶博士: 愛、情?
████: [元番組]はそれに気付かせてくれたのです。貴方もきっと身に覚えがあるはずです。第[削除済み]話で衝撃的な終わり方をして不安や焦りを感じた事でしょう。早く続きを知りたいと思ったに違いありません。そして第[削除済み]回での逆転劇。万人を納得付ける纏め方に感激したはずです。その後も主人公達は[戦の国]を離れ[修羅の国]に旅立ち、続きを予想させる終わり方をします。貴方はその時何を思いましたか?
魔慶博士: それは、彼等の行く末に無事を願ってました。
████: 登場人物を気遣う、これはもう愛情を持って作品に接している事に他なりません。作品が教えてくれた愛情が私を動かし続きを制作させようとする、愛情が視聴者に光景を見せる。誠の愛を我々が共有しているからです!
(数分間、二人の号泣が続く)
魔慶博士: ううぅ、お願いが有ります。我々の理念としてSCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生した場合、私にはSCP-LOVE-JP-Jを収容する義務があります。異常性が発生した実績あるSCP-LOVE-JP-Jを提供して頂けないでしょうか。
████: はいぃ、解りました。提供します。今後はどれだけ投稿が続けられるか解りませんが、協力しましょう。
魔慶博士: [数秒の沈黙]ありがとうございます。これでインタビューを終了します。
<録音終了, 2017年4月1█日 13:30>
付記: SCP-LOVE-JP-Jの制作工程を教えてもらい、████のアカウントを共有する承諾を頂いた。魔慶博士はSCP-LOVE-JP-Jを作製し、第12.95回としてネット上に公開した所、SCP-LOVE-JP-Jの異常性が発生した。今後は████と連携してSCP-LOVE-JP-Jの制作と異常性の調査が続けられる。企画・制作・財団
「恋は盲目」という言葉がある。恋をしている時は相手に夢中で色々と見えない処があるという風刺だ。恋がやがて愛に変わると見えない事は殆ど無くなる。良くも悪くもだ。作品に愛を感じた魔慶博士、彼女の愛情から作られたSCP-LOVE-JP-Jは異常性を発現した。これで我々に新しい調査の課題が示される事となった。愛するが故に本来は見えないはず事柄が見える様になる。この不可解な原理を魔慶博士、いや我々はさら追究していく決意が求められている。[元番組]の第二期の放送が決定されるまで。
2017年4月1█日
O5ーJP
付記: 2017年4月1█日 サイト-81██の全職員に対して、SCP-LOVE-JP-Jの主幹研究員である魔慶博士に関する注意喚起の通達が行われました。取り消し線が掛かっている語句は通達の際に削除しています。
【重要文書】
サイト-81██の全職員各位魔慶博士に関する注意喚起
SCP-LOVE-JP-Jの主幹研究員である魔慶博士の研究報告を閲覧して、SCP-LOVE-JP-Jの異常性(概要:見えない筈が見える)を誤解して、彼女の研究と関係の無い相談で訪ねる者が多くなっており、研究の進捗を妨げる要因にまで発展しています。
今後、SCP-LOVE-JP-Jに関して彼女との質疑応答を希望する者は、前もってメールによるアポイントメントを結ぶ様に心掛けて頂きたい。これを以って注意喚起とします。
以下は、彼女へ寄せられた相談内容です。反例として掲載します。
- 可視化経営、独我論、共感覚、潜在能力の発掘等をテーマとした講師依頼
専門外の相談は対応しません。
- レビー小体型認知症(Demintia with Lewy Bodies; DLB)への疑い
彼女は健康そのものです。問題ありません。
- 女性の実年齢
- 写真の人間の残りの寿命
- 「みえない人は見えるようになるのに。見える人には見えなくなるの、なぁに?」
子供との遊戯は嫌いでは無いそうですが、答えるのに疲れてます。
- 空想物語に登場する不可視物体への視認経験
スタンドとか亜人とか死神とか百太郎など数えたら切りがありません。
- 彼女と赤い糸で結ばれているか
相談者と対象者の間に結びつかない様、既に手配済みです。
- レアポケモンの居場所
- 思春期の子供を持つ親の相談
SCP-014-JP-Jとの会話で良ければ、本人も喜んで協力するそうです。
- 赤外線の視認経験
- 潜在バグ取りの調査協力
お前のバグだろがこれは貴方の仕事です。
- SCP-020,SCP-126,SCP-040-JP等の視認経験
有りません。宜しく御願いします。
- 写真の中にSCP-096が居るかどうか
この手の冗談は許しません。この相談者は処罰しました。
2017年4月1█日
サイト-81██ 管理者
我々は実に頭の固い集団である事をつくづく実感する。もっと柔軟に物事を理解できるよう[元番組]の視聴をお奨めする。脳を軟化させるのに最適だからである。
さて、今日は第12.96回の放送実験日だ。結果が待ち遠しい。[楽しい]
2017年4月2█日
O5ーJP
主人公達集合の放送静止画像。左より、[鞘(Saya)、獣の従者(Bow)、剣(Sabel)]
あ、うん。まぁ、見える。
O5ーJP
・過去に作成し、批評を頂いた記事です。
# 現在、某小説サイトで勉強中でして、本活動を休止中。
3)[異邦人]
1000JPコンテストに投稿した作品。
・久保田早紀さんの『異邦人』の歌詞に感銘して、無謀にもディスカッション無しで挑戦。
・頂いた批評の様に、自身の悪いクセ(ラノベっぽい文体で書く)が出て、財団の世界観にマッチせず、反省。
2)[射幸心]
ディスカッションで読んでもらい、インパクトが足らない点を受け、保留中。
1)[赤ペン・ドーナッツ先生]
J記事で初投稿するも、インパクトが足らず、dv削除。
アイテム番号: SCP-1000-JP-甲
オブジェクトクラス: Safe Neutralized
特別収容プロトコル: 現在SCP-1000-JP-甲はサイト-8125のSafeクラス保管用ロッカーに被覆して保管されています。SCP-1000-JP-甲を使用し調査を行う際は、レベル5の職員へ申請を行ってください。
説明: SCP-1000-JP-甲(甲とも呼称)は、縦26cm×横18cm(B5判)の大きさと610頁の本としての厚さを持つ、運行時刻表に似たポータブル電子端末です。甲は206█年に活動を始める千尋旅行会社が提供する、時間旅行サービスの旅券としての役目を持ちます。甲は時間旅行の運行と利用者情報を管理するシステム"SCP-1000-JP-乙(乙とも呼称)"が活動している間は、旅券や電子端末としての利用が可能です。SCP-1000-JPおよび乙は、206█年に所在が判明するため、201█年の現在から実態を調査する事は出来ません。同旅行会社職員への聴取により判明した、SCP-1000-JPおよび乙の特性は次の通りです。
SCP-1000-JP 株式会社千尋(SENJIN)のCEO千羽俊之の先祖が造り上げた汎用型機関運用装置です。201█年8月2日現在、SCP-1000-JPの所在が判明していません。SCP-1000-JPは甲の所有者の所在地と活動年月日を認識する事ができ、所有者を特定の年代と場所に転送する機能が備わっています。SCP-1000-JPの影響下にある被験者(SCP-1000-JP-1と呼称)を転送先の条件に組み込む事で転送場所の絞り込みが可能になります。SCP-1000-JPは物体の転送を行う対象を識別する印として、将棋の駒を模した極小の割符を生成します。割符は甲にも備わっています。 |
SCP-1000-JP-乙 SCP-1000-JPを制御の管理下に置き時間旅行サービスを実現する時間運行制御システムです。千尋旅行会社の親会社である株式会社千尋が開発し、時間旅行の試験運用段階まで実現してます。乙はSCP-1000-JPの各機関をコンポーネント(component)に見立て、時間旅行制御の多重処理を行います。SCP-1000-JPが生成した割符が備わっている甲へ、利用者が時間旅行に必要な情報を配信し、運行業務のサポートを提供します。 |
頁 | 表示内容 |
---|---|
001-008 | 全体図と地域別の日本地図が表示されていました。地域の名称は各年代別に纏められており、必要に応じて補足情報を引き出すインターフェース機能が表示されていました。 |
009-010 | 時刻表の利用方法が表示されていました。利用者が希望する年代への旅行先の条件を決定し転送されるまでの工程について説明書きの表示がありました。 [1:旅行先選択] 利用者は時刻表欄に表示されている[年月日][所在地][人物像(性別と年齢)]の構成する一覧表から、旅行先を選択します。年月日はユリウス暦もしくはグレゴリオ暦で表示します、和暦への切り替えも可能です。 [2:旅行先状況] 選択した転送先の状態や補足情報が表示されます。転送先の時間帯に応じて危険度をアイコン化して表示されます。乙は転送先の気候・地形・治安状態・被験者の状態(プライバシーの考慮)等の要素を総合的に判断し、危険の指標を[1:安全][2:注意][3:警告][4:危険][5:渡航禁止]の5段階から決定して利用者に表示します。利用者は危険度の内容を検討に入れ、転送先の時間を設定します。 [3:旅行先転送] 設定した情報が表示され最終の確認が求められます。内容に合意し[指定の旅行先に転送]を選択すると、甲の所有者は指定した年代・場所・人物の付近に転送されます。 |
011-600 | 時刻表一覧と表題された頁に[年月日][所在地][人物像(性別と年齢)]の構成で一覧化した旅行先の情報が表示されています。試験運用時では512年から201█年までの旅行先候補数1024件が表示されていました。 |
601-610 | 付録と後書きを表示していました。 |
甲は、███県███群███村在住の68歳男性からの通報を財団のエージェント職員が受け、同日中に調査員2名を男性の元へ派遣し、男性へのインタビューから甲の存在が判明しました。
補遺1: 201█年7月28日付 活動の記録
対象: ███県███群███村在住 68歳男性(SCP-1000-JP-1)
インタビュアー: エージェント 田澤、松尾
場所: ███県███群███村在住の68歳男性宅
付記: 201█年7月28日07:00 エージェント 田澤の携帯電話にSCP-1000-JP-1から「自分が体験している不可解な事象について説明するので来てほしい」との連絡がありました。エージェント田澤は同チームのエージェント松尾を引き連れて、███県███群███村にあるSCP-1000-JP-1の自宅に向い、SCP-1000-JP-1へのインタビューが行われました。
<録音開始, 201█年7月28日 9:10>
エージェント田澤: 今朝、私の携帯に連絡頂きましたが、私の業務用携帯番号は誰から知りえたものでしょうか?
SCP-1000-JP-1: 御前さんからだよ。
エージェント田澤: えっ?ですが、私の業務用携帯を知る者は僅かなのですが…。貴方は何者ですか?
SCP-1000-JP-1: 前回の今日の終わり近くになって御前さんらが到着して、名刺と連絡先をくれたのだよ。まぁその辺りから説明が必要だよな。長くなるが順に説明してやるわぃ。
エージェント田澤・松尾: …宜しく御願いします。
SCP-1000-JP-1: 理由とか理屈は解らないのだが、何時の頃か儂は今日…7月28日という日付に縛られる様になったのじゃ。映画や小説の流行でいうループとかいう状況に逢っているんだわ。朝起きて、いや、正確には0時00分00秒から7月28日を過ごして23時59分59秒より1秒を過ぎると、7月28日0時00分00秒の寝とる状態に戻る事を、ずーっと繰り返してきているんだわ。此処までの話しでちゃんと着いてきているか?
エージェント田澤・松尾: 大丈夫です。
SCP-1000-JP-1: そうか、流石は専門家だな。色々試してみたが一日で行くことが出来る距離まで出向いても、必ず、7月29日を迎えられず必ず7月28日0時00分00秒には自宅で寝とる状態に戻らされる。或るとき不注意で死んだ事もあったが、それでも7月28日0時00分00秒に自宅で寝とるんじゃよ。デスルーラだよな、がははは。
エージェント田澤: デスルーラを知っている御老人に会ったのは初めてですよ。
SCP-1000-JP-1: どういう因果かワカンネェけど、儂なりにこの境遇に応じて過ごしてきたわけじゃよ。町中の飲食店のメニューを全て制覇し、書店や図書館の書物も全て読破し、レンタルビデオの陳列作品は全て観賞した。町を制覇したら隣接する県の界隈も全て制覇。最短ルートで目的を絞りつつ日本全土を旅行したりもした。やることに詰まったらネットに興じ、親しい友人や孫、親族と何度も語ったし。3万日を超えてから数える事も無くなったな。
エージェント松尾: はあ、すごいっすね。
SCP-1000-JP-1: もっと若ければそれこそ女遊びにも精を出していただろうがな、流石に歳で無理じゃわ。あと言っとくが、犯罪の類はやらんかったぞ。御蔭で学なぞ持ち合わせておらんじゃったが、昔よりも物事がはっきり理解できる様になったわい。この間マリリン・ボス・サヴァントに質問してやったら結構意気投合してメールを交換する様になったんじゃ。「もっと早く御逢いしていたら御付き合いを考えていたかも」って返信あったわい。
エージェント田澤: あの…本題…。
SCP-1000-JP-1: おおそうじゃった。流石に人生を数回分も過ごしてたら、事態を変えようという気になりだしてな。この状態から脱出する打開策を模索していったわけじゃ。色々足掻いた所で、有効だったのは匿名サイトの書き込みまくった事じゃな。最終的にホラー掲示板の████████っていうスレに自分の境遇を書き込んだ処を、田澤、御前が見つけてくれてコンタクトを取ってきたんだ。見てるだろ?このスレ。
エージェント田澤: うん、見てる。
エージェント松尾: 見てんのかよ、業務中だろ。仕事しろよ。
SCP-1000-JP-1: まぁコンタクト出来るまでの間、探り合いもあって結構時間が掛かってしまい、合えたのが深夜23時頃だったな。大方此方の状況は伝えたが流石にタイムアップなので、連絡先を貰ったわけだ。昔は苦手じゃったが電話番号も一瞬で覚えられる様になったわぃ。
エージェント松尾: コンタクトの件は解りました。ループに陥る様になった切っ掛けとか事件とか覚えは無いですか?
SCP-1000-JP-1: それこそ星の数程に考え抜いてみたが、さっぱりじゃよ。前日も畑仕事に精を出していたくらいだし、合った者も顔見知りばかりじゃわい…。ループに至る要因はさっぱりじゃが、一つよく解らん連中を見かける様になったくらいじゃな。
エージェント田澤: 解らん連中?
SCP-1000-JP-1: 12:00頃になると背後にいつも知らない顔の連中が3名ほど居ってな。1名は旅行者の様子でもう2名はガイドの様であったわ。儂が12:00頃に自宅にいるといつも庭先で見かけるんじゃ。出向いている時は知らんが、同じだろうな。知らん顔だし特に気にも留めてなかったがな。御前さん達の仲間じゃなかろうて。
エージェント松尾: …その連中を確認しますので、もう暫くいても良いですか?
SCP-1000-JP-1: ええよ。じゃが、そいつら、とっ捕まえるには二人ではちと厳しいんじゃなかろうか?冬眠熊とかいう機動部隊も要請した方が良いんじゃなかろうか?
エージェント松尾: …田澤。
エージェント田澤: …言ってないし。
<録音終了, 201█年7月28日 9:50>
付記: エージェント田澤と松尾は、庭先を一望できる二階の居間に案内され、12:00迄待機しました。12:00にSCP-1000-JP-1自宅の庭先に、旅行者と見られる男性が1名が前触れ無く出現しました。続いて制服姿の男性2名も出現し、辺りを確認した後、3名は町の方へ向かって歩き始めました。バスの停留所に3名が到着した事を確認した後、機動部隊へ-1("冬眠明けの熊") の扮する定期便バスが停留所に到着。エージェント田澤と松尾もバスに乗り込み、3名の身柄を確保しました。
対象: 千尋旅行会社職員 30歳男性(職員A)、28歳男性(職員B)
インタビュアー: エージェント 田澤、松尾
場所: 日本支部 サイト-81██ ██号収容セル内
<録音開始, 201█年7月28日 19:30>
エージェント松尾: 此方の疑問が解消できたら、皆さんの拘束を解いて旅行の続きを勤しんで頂きます。色々思う事があろうと思いますが、協力を御願いします。貴方達が出現した目的、理由は何ですか?
職員A: 私達は千尋旅行会社の職員です。私共は快適な時間旅行を御客様に提供する事をサービスとして提供致します。当サービスは試験運用中でして、█████様のガイドと身辺警備が私達の役割となります。
エージェント松尾: 旅行という事は此処が目的地ですか?そしてどこから来られたのですか?
職員B: █████様の希望されました旅行先が201█年7月28日でした。彼の祖父の時代とあり、観光が目的です。
職員A: 私達は206█年から来ました。
エージェント田澤: 206█年の未来から来ましたって、マジかよ。エージェント松尾: 貴方達が出現した事と███村の男性とは関連性があるのですか?
職員B: 旅行先はこの時刻表に乗っている旅行転送先の候補から選びます。時刻表には年月日と場所、人物像が記載されています。人物像には性別と年齢のみ記載してますが、弊社の運行管理システムでは特定人物と関連付けし管理します。今回の条件では201█年7月28日███県███群███村在住の68歳男性を選択した事で、先程の男性に到達する仕組みとなっています。運行システムにおける男性の役割は道標であり到着駅です。
エージェント田澤: おっさんが201█年7月28日をずっと過ごしているのは何故だ?
職員A: 当社の運行システムは任意の人物を年月日と場所で縛る事で、旅行転送先を識別する事を実現します。私達はガイド役ですので運行システムの仕様は把握しておりませんが、上司の言うには同じ日を繰り返し体験させる事でその場所と人物との間でなんらかの作用が発生するそうです。磁場とか地場とか申していたかも知れません。その作用を運行システムは検知出来るそうです。
エージェント田澤: 理論はさっぱり解らないが、駅の様な役目になる事について、おっさんには許可を貰っているのか?
職員B: わかりません。私達はガイドでしかなく、運行システムに設定する内容については、会社の上部で決める事になっています。
エージェント松尾: つまり強制ですか…。話を整理すると、貴方達の会社が所有する運行システムは、特定の年代の人物を日付で縛りつける能力を持っている。人物を日付で縛る事で運行システムは転送先として利用している。ここまでの理解で良いですか?
職員A: はい。良いです。
エージェント松尾: 貴方達が持っていたこの時刻表で移動先を選択する操作を行う。この時刻表は運行システムの一部…端末の役割を持っている。正しいですか?
職員B: はい。正しいです。
エージェント田澤: …戻る時は、どうするの?自分達が居た年代の近い条件を選ぶ必要があるの?例えば、俺が使ったとして、この…201█年7月…、おい松尾、これ見ろよ。
エージェント松尾: …201█年7月31日、████県█████市█████って、サイト-81██の区域だ。俺たちの職場じゃないか。…29歳女性…人事部にアクセスして名簿を……あぁ、29歳女性は一人だけだ。早乙女先輩だ。
エージェント田澤: マジかよ。7月31日ってあと3日間じゃねーか。
職員A: 戻る場合ですが、時刻表の方で出発時の年月日と場所を把握しておりますので、次の旅行転送先の候補として表示されます。その際、出発時に1秒加算された内容で表示されます。
エージェント田澤: 丁寧な回答、どうも。この駅の役目になった人は記載の日を過ぎるとどうなるの?
職員A: 駅の役目の人物は、日付に留まります。その為、翌日にはその人物は不明の状態となります。
エージェント松尾: 日付に縛られるから日を跨げない。翌日以降から存在しない、行方不明と同じ状況になるのか。まずいな…。例えば201█年7月31日を過ぎても早乙女先輩の居る201█年7月31日に行って、早乙女先輩を一緒に連れ戻す事は出来ますか?
職員B: 出来ません。時刻表1冊につき旅行転送の対象は1名のみです。例えば手を繋いでいたとしても時刻表を持っている方のみ転送します。また時刻表を2冊持って行き、1冊を駅の役目の人物に渡して、旅行転送を実行しても日付から離れる事は出来ません。
エージェント田澤: …201█年7月31日以降の旅行転送先の候補が記載していないのだが、これはどうなの?
職員A: 現段階ではまだサービスの試運転です。本格的に運用が決まった際に駅の数を増やす計画があると上司は言いました。201█年7月31日以降の駅の候補ですが、201█年7月31日の場所の関係者を大量に採用するそうです。
エージェント松尾: とにかく上への連絡を急いだ方が良い。また後で聞くかも知れないけど、今回のインタビューはこれで終了します。
<録音終了, 201█年7月28日 21:30>
付記: インタビュー終了後、エージェント田澤と松尾は、サイト管理者に接見し、SCP-1000-JPの存在と財団職員への危険性が高まっている状況を報告しました。事態を重く判断し、サイト管理者より全O5職員に一連の状況が伝わり、全O5職員一致で非常事態の宣言と作戦の立案が始まりました。エージェント田澤が連絡をくれた男性に電話を掛けた頃には既に7月28日 24:00を過ぎており、男性の応答は得られませんでした。
補遺2: 201█年7月29日付 活動の記録
【最重要機密文書】
異邦人捕獲計画
作戦指令書
作戦決行日: 201█年7月31日 00:00
発 令 日: 201█年7月29日 07:00
日本支部理事会、同支部O5職員一同1.訓令
206█年に活動する「千尋旅行会社」はSCP-1000-JPの特性を利用し旅行運行システムを開発し、同年に旅行サービスの試験運転を行っている事が判明しました。SCP-1000-JPの所在は同団体関係者でも限られた者しか認識されておらず、現在からSCP-1000-JPの実体を調査する事は不可能です。また同サービスの本稼働の際には現財団職員を同システムに強制的に組み込む計画の事実が関係者への事情聴取から判明しました。この事から同団体は財団の弱体化が目的と考えに至りました。本事案より、日本財団は試運転中の旅行サービスへの妨害工作を行い仮要注意団体「千尋旅行会社」への旅行運行システム停止、SCP-1000-JPの譲渡を同団体に通達する特別行動を計画、実行する事を日本支部理事会および全O5職員の全一致で決定しました。同システムに直近で組み込まれる人物は、我が日本財団の女性職員でSCP-682の収容違反対応にも何度か参入しているエージェント早乙女華蓮(Karen Saotome)となっております。本事案に我々が黙認した場合、8月1日以降より同士の存在が消える事を意味しており、人的損害は基より、財団は未来の要注意団体からの侵攻阻止を許したという汚点を残す事になります。また本事案は時間性逆理論いわゆるタイムパラドックスの性質を持ち、日本支部理事会および全O5職員の間でも、論理性を含む議論が行われました。議論の結果を踏まえ、本事案は財団の真価が問われる重要な問題と改めて認識し、行動を起こすとの結論に至りました。
作戦決行を7月31日と定め、ごく限られた日数で体制を構築する必要があります。既に要請を出し、対応中の部門が有りますが、改めて日本支部全職員に向けて、作戦決行と支援要請を発令する事を宣言します。2.作戦日程201█年7月29日 日本支部 O5-壱
日 時 行動内容 行動拠点 7月29日 08:00 日本支部サイト管理者へ作戦通達 日本支部作戦指令室 7月29日 10:00 財団本部及び各国支部へ応援要請 日本支部作戦指令室 同日 15:00 作戦参加者への受入体制確立 大収容セル███1号内 7月30日 21:00 作戦参加者への最終説明 日本支部サイト-81██大ホール█2号内 同日 23:00 収容体制 確立 日本支部作戦指令室 同日 23:00 作戦行動 確立 大収容セル██1号内 7月31日 00:00 作戦行動開始 大収容セル██1号内 同日 17:00 第一次判定会議 日本支部作戦指令室 同日 21:00 第二次判定会議 日本支部作戦指令室 同日 23:00 捕獲者の収容・監視の体制を確立 大収容セル███2号内 同日 23:30 要注意団体へ運行停止を通達 日本支部作戦指令室 8月1日 00:00 作戦行動終了 大収容セル███1号内 同日 02:00 最終判定会議 日本支部作戦指令室 同日 03:00 作戦終了 日本支部作戦指令室 3.目標
- 旅行サービスの利用者121名および同伴の旅行会社職員245名の身柄拘束。
- 利用者及び旅行会社職員が所持するSCP-1000-JP-甲の回収 (推定366冊)。
- 上記1.2.の行動過程で可能な限り、SCP-1000-JPの被験者(旅行転送先数の1024件と同数)と接触し、運行サービスの停止、すなわち「繰返す日々の終焉」を伝達。
4.作戦参加者に向けた案内
- 7月30日18:00(仮)まで作戦参加者の受付を行っております。作戦の活動に協力して頂けるエージェントは、日本支部の作戦運行サイトから進行中の作戦名コード[██████]を選択し、参加登録のリンクから手続きを進めて下さい。また作戦参加の自薦他薦は問いません。参加登録の手続き後、簡単な質問を幾つか行われます。
- 作戦参加の申請が済まれた方へは、作戦計画と内容の詳細とSCP-1000-JPの関連情報及び作戦行動中に貸与するSCP-1000-JP-甲の使用方法を開示致します。
- 作戦に関する不明点や質問については、作戦運行サイトの作戦運用部が提示してます[質疑応答(Q&A)]に御目通して下さい。他意への受け付けは同広報部の問い合わせまで連絡を御願いします。
- 作戦行動に必要な言語サポートは、SCP-1000-JP-甲の持つ情報補佐機能を利用する事で得られます。詳しくは作戦参加手続き後に開示される説明書を確認下さい。
- 作戦参加者は作戦決行日の前日7月30日21:00に日本支部サイト-81██大ホール█2号内に集合して頂き、作戦行動への最終説明を行います。
- 7月29日15:00より遠方参加者向けに宿泊施設の手続きなど受入対応を開始します。参加登録の手続き後、[受入手続き]より案内します。
- 作戦本部は既に数十名の適任者へ作戦参加の要請を通達してます。作戦参加の経緯について作戦本部から開示する事はありません。また、作戦行動内容と参加者自身の能力と照らし作戦履行が難しいと判断に至った際は7月30日20:45まで辞退を受け付け致します。辞退の経緯や理由等のプライバシーは遵守されます。
- 7月31日00:00作戦行動開始した以降、作戦終了もしくは作戦変更(中止)の指示が下りるまで、作戦行動の拠点となる大収容セル██1号から離れる事が出来なくなります。
以上
【補足資料】
人事ファイル
氏名: 早乙女華蓮 (Karen Saotome)
セキュリティレベル: レベル2
職務: 上級フィールドエージェント。必要に応じて、SCP-682の収容違反時の捕獲要請への参入有り。
所在: サイト-81██を中心に日本各地を巡回中。御用の際は電話で。圏外の時はサイト-81██管理者まで。
経歴: 19██/█/██、秋田県出身の女性。年齢は██。実家は████宗████寺の住職であり、父親は男子の誕生を切望するも4000gと女子として生まれる。この時見た目より体重がある事に両親は異変と気づき、地元の大学病院に検査を受けた処、“ミオスタチン関連筋肉肥大”(myostatin-related muscle hypertrophy)と診断さる。父方の家系に体格が大きい者が多い事から遺伝によるものと推測されている。幼少期より抜群の身体能力を見せるが、周りの同年代との体格差に悩む時期があった。学生時代、周囲の期待もあって柔術とレスリングに傾倒し、数々の国際大会で優秀な成績を残すも、 20██年/█/██の国際大会で試合後の薬物検査で陽性が判明。事件に発展し協会から記録、登録を抹消される。この後の調査で対戦相手国の選手がSCP-███の被験者であり現実改竄による影響であった事が解り、これを機に財団との接触機会が増え、20██/█/██に正式入団。機動部隊█-█("█████████")の隊員となりました。
同部隊の解散後はフィールドエージェントとしての活動を開始。時折、機動部隊の経験と特異な身体能力が買われてSCP-682の収容違反時の捕獲要請への参入する事もある。人物: 明るくさっぱりとした性格。
以上
補遺3: 201█年7月30日付 活動の記録
【最重要機密文書】
異邦人捕獲計画
第1次中間報告書
作戦決行日: 201█年7月31日 00:00
報 告 日: 201█年7月30日 19:00
日本支部理事会、同支部O5職員一同1.作戦参加者数
7月30日18:00時点での参加表明人数の集計結果を以下に記します。
部名 参加者数 構成 EN本部 45 エージェント(45) JP支部 145 エージェント(143)他(2) RU支部 15 エージェント(15) FR支部 8 エージェント(8) PL支部 9 エージェント(9) ES支部 13 エージェント(13) KO支部 11 エージェント(11) CN支部 17 エージェント(17) TN支部 10 エージェント(10)
以上
付記 : 7月30日23:30 大収容セル██1号内に作戦関係者、作戦支援スタッフ、医療スタッフ、機動部隊と総勢500名余が集結しました。大収容セル中央の50m四方に檀上が設置されており、作戦行動管理部門の作業スペースが設けられました。檀上には情報処理スタッフと、機動部隊十数名が待機していました。帰還地点の役目を担うエージェント早乙女と彼の部下も既に檀上に居り、作戦行動の最終点検作業を行ってました。付近には作戦行動を控えているエージェント達が転送先の年代に見合った服装を纏い、服飾スタッフが最終点検の確認を行ってました。
大収容セル██1号内の壁面上部に設置されている大型スクリーンに財団日本支部のロゴが表示され、時刻が23:45に成ったと同時に作戦司令本部からのアナウンスが大収容セル██1号内に流れました。
<録音開始, 201█年7月30日23:45>
作戦司令本部 : 司令部より作戦参加者各位へ。作戦行動開始30分前となりました。行動順A-05-0001番から0050番に割当っている行動隊員は最終点検と共に中央檀上の待機区画まで御越し下さい。
情報処理スタッフ : 行動順A-05-0001番、日本支部エージェント徳永さん。
エージェント徳永 : はい。
情報処理スタッフ : 旅行転送先の最終確認です。512年 近江国高嶋郷三尾野 38歳男性、補足情報ですが、古墳時代終末期の日本で第26代継体天皇の出生地域に近く、中規模の集落に転送されると予測しています。我々の到着による混乱を避けるべく、早朝に被験者と接見して説明を行って下さい。
エージェント徳永 : 了解。出来る事なら現地人と交流を試みて楽しみたかったけどな。
情報処理スタッフ : かなり古い年代ですので未開の要素が多く遭遇されると思われます。ですが、くれぐれも現地人への暴行や破壊活動は行わないよう、細心の注意を払って下さい。混乱や事態が悪化する様であれば、早期撤退を視野に作戦行動を切り替えるよう、念頭に入れて下さい。
エージェント徳永 : 了解です。でも1番目はプレッシャーあるよな。必ず生還して次に繋げるとするよ。
エージェント早乙女 : 宜しく頼みます。気を付けて。
情報処理スタッフ : 00:00になります。出立体制に入って下さい。
エージェント徳永 : じゃあ、行ってきます。
[補足: エージェント徳永の周りの空間が光り、エージェント徳永の姿がゆっくり消えていった。1,2秒後、エージェント早乙女の後部よりエージェント徳永の姿がゆっくりと現れてきた。]
エージェント早乙女 : 早い帰還だな。まるで手品を目の前で見せ付けられている様な感じだ。
エージェント徳永 : …戻れたのか?ふう。任務完了、か。
情報処理スタッフ : 御疲れ様です。怪我や病気など身体に異常はありませんでしょうか?
エージェント徳永 : …問題無い!被験者との接見に手古摺ったが、説明は済んだ。ただ、件の旅行者とガイド職員は目撃していなかった様だった。空振りだった。
情報処理スタッフ : 詳細はあちらの情報スタッフが活動について記録を致します。御渡ししていた甲を行動順A-05-0002番のエージェント亀井さんに渡して下さい。
エージェント亀井 : 御疲れさん。結構、しんどい様子だな。大丈夫か?
エージェント徳永 : 甲の情報サポートがあるとは言え、未開地へ踏み込むわけだから緊張は当然。精神面の疲労が大きいかな。でも大丈夫だ。危険が少なくて良かった。
情報処理スタッフ : 御疲れ様です。報告後、飲食コーナーと仮眠区画で休息して下さい。次の旅行準備が整いましたら情報スタッフまで連絡してください。
エージェント亀井 : よし、次は俺だ。準備は出来ている。
<録音終了, 201█年8月1日 00:10>
補遺4: 201█年7月31日付 活動の記録
報告番号: 1000-A-05-0007
報告者: 日本支部 エージェント 田中
調査対象: 593年7月13日 大阪府大阪市平野区長吉長原 24歳男性
結果: 捕獲者なし。
調査報告: 旅行転送先の対象は村人の青年でした。他の村人と異なり目筋が通っており、利発そうな男性でした。繰り返していた日が終わると告げると、どの様に過ごしてきたか、話してくれました。繰り返す日の中に縛られている事に気付いた時、最初に行った事は山に通う事でした。山の草花を片っ端から食べて、食べられるもの、食べるのに適さないもの、食べてはいけないものを学習したとの事です。次に徒歩で一日で辿りつける所まで歩き、植物の群生範囲や動物の生息範囲を把握していたそうです。他に全て生活に直結した理に適う調査を行ったそうです。その為、動植物の知識量が膨大に備わっていて、説明も論理的でした。当然ですが、努力の裏付けがあった知識が身についていて、鍛えられた天才像を見せ付けられている様でした。
報告番号: 1000-A-05-0012
報告者: 日本支部 エージェント 三好(機動部隊2名派遣)
調査対象: 603年3月22日 奈良県生駒郡斑鳩町 29歳男性
結果: 旅行会社職員1名と旅行者1名及び甲2冊を確保。
調査報告: 旅行転送先の対象は高貴な役人でした。早朝から仕事に励んでおり声を掛けるタイミングが難しい状況でしたが、目処が付くと此方に来て説明に応じてくれました。繰り返す日が終わる事を告げると「やっとこの日の相談雑務から解放される」大層喜んでおりました。事情を聴くと、この日だけで役人や村人など100人余りが彼に相談しにくるそうで、相談と回答を繰り返す事にうんざりし、自分の時間を確保する為に、人数分の回答を手紙に記して渡すだけの準備をしていたとの事です。しかし今回でこの日の質疑応答から解放されるのなら、10人一度に質疑応答を行って驚かせてみるのも面白いかも、と微笑んでいました。
報告番号: 1000-A-05-0035
報告者: 日本支部 エージェント 米倉(機動部隊2名派遣)
調査対象: 1185年3月22日 香川県高松市屋島 年齢不明男性
結果: 旅行会社職員1名と旅行者1名及び甲2冊を確保。
調査報告: 私の対象は武将でした。私の到着に驚く様子も無く、繰り返し日々の事と終焉を伝えると、至高の一射を御見せすると言い海辺に向い、敵味方大勢が見守る中で敵方が設えた扇の的を見事に射抜きました。男性曰く、数え切れない程の失敗と切腹を重ねてた末、終いは波風の動きも体感し失敗は稀なり、と申しました。源平合戦をパノラマで見られた事はこの上無く感動しました。
報告番号: 1000-A-05-0055
報告者: 米国本部 エージェント E・ベンソン(機動部隊8名派遣)
調査対象: 1600年10月21日 岐阜県不破郡関ヶ原町 59歳男性
結果: 旅行会社職員3名と旅行者4名及び甲7冊を確保。
調査報告: ビックネームに逢えるミッションが与えられた事に神に感謝しています。行先に到着後、男性は此方の身なりを察して家臣の警戒を解いて下さり会話の機会を貰えました。繰り返し日々の終焉を告げると満足の笑みを浮かべ、一日の行動に同席する事にも承諾を頂けました。男性は戦の総大将で繰り返し日々の中で最小限の被害で決着を付ける采配を模索してました。また戦中にも係わらず旅行者の一団が本陣に来るので、本陣裏の山に特別の観覧席を設え観戦させていた事を聞いた時には男性の器の大きさを感じました。男性曰く、初めは負けてばかりで何度も捕まっては処刑もされたが、試行の末、敵の動向が明確になり、特に小早川への扱い方が判明してから楽になったとの事。それでも島津だけは制止できず薩摩恐るべしと申していました。
報告番号: 1000-A-05-0066
報告者: 日本支部 エージェント 真田(機動部隊2名派遣)
調査対象: 1620年4月21日 東京都台東区千束四丁目 25歳男性
結果: 旅行会社職員1名と旅行者1名及び甲2冊を確保。
調査報告: 対象は至って凡庸な男でした。この界隈は遊廓で男は足蹴に通っていたそうです。街中の遊廓全て通い、あらゆる技巧を試したと豪語していました。一応、繰り返しは終わると告げると、折角金を減らさずに遊べていたのにと悔しんでいました。同じ男として羨ましくも滑稽で憎めない奴でした。SCP-1000-JPの被験者全ては必ずしも非凡に到達する訳では無いという事でしょう。
報告番号: 1000-A-05-0076
報告者: 日本支部 エージェント 三島
調査対象: 1905年5月27日 鎮海軍港 57歳男性
結果: 捕獲者なし。
調査報告: 対象に合って驚きました。軍港と聞いて整備関係者だろうと思ってましたが、艦隊司令長官でした。繰り返し日々の終焉について話すと納得された様子で戦艦三笠内の長官室に招いて下さりました。落ち着いた様子で此れで戦を終決できると言われました。聞くと圧倒的に不利な条件下で敵艦隊に大打撃を与えられる編隊と航路を編み出したはは良いが、戦闘は夜まで続き、その日の内に決着出来なかったとの事でした。件の旅行関係者の訪れは無かったとの事でしたので、此方も早々に引き上げる事を告げると、奮闘せよとの激を貰いました。
<録音開始, 201█年7月31日07:30>
作戦司令本部 : 司令部より作戦参加者各位へ。作戦行動に於ける注意と指令を発します。先程87回目の旅行転送から帰還したエージェントより、旅行者を同伴しない要注意団体職員がスタンガンなどの武器を携帯して襲撃してきたとの報告がありました。幸い軽傷で済みましたが、この事案を受けとめ、各エージェントはこれからの作戦から機動部隊員と共に行動するべきか、各自で検討を御願いします。現在、機動部隊員の増員を手配中です。機動部隊の掩護が必要な場合は情報スタッフまで連絡下さい。以上。
<録音開始, 201█年7月31日07:35>
報告番号: 1000-A-05-0245
報告者: 日本支部 桑名博士
調査対象: 1969年12月██日 東京都新宿区████████████ 36歳男性
結果: 捕獲者なし。
調査報告: 私の対象は作家の様でした。職場の近くの公園に猫と戯れていた処に声を掛けて、繰り返す日々を伝えたところ、すごく困った顔を向けられたのが印象的でした。聞くと最近発表した作品もヒットせず連載が短命に終わった様で、次にヒット作が出ないと雑誌社との契約も打ち切られて事務所の縮小を余儀なくされるとの事。酷くスランプが続いていた状況だが、幸い繰り返される日々を過ごして時間的余裕も持てるようになり、アイデア捻出にと多くの書物や映画を見て回ったそうです。それでも光るアイデアは早々起きず、そこにループ終了の御告げが入って、相当焦りが見えました。その内、ようやく此方の体形に気が付いたのか、「君、面白い恰好してるね?何頭身?ちょっと猫持ってもらえる?」と言い出してきました。私に興味を示したのか色々聞かれました。取りあえず、未来から来た不思議な骨董屋さんと嘘ついて、幾つか無難なAnomalousアイテムを紹介すると、妙に目が輝きだして「いけるかも知れない」と言われました。良くわかりませんでしたが元気に成られて何よりです。
報告番号: 1000-A-05-0333
報告者: EN支部 エージェント ロバート・キャメロン(機動部隊8名派遣)
調査対象: 1175年██月██日 京都府京都市東山区清水 16歳男性
結果: 旅行会社職員3名と旅行者3名及び甲6冊を確保。
調査報告: 対象は狩衣姿の青年でした。彼に影響が終わる事を告げると納得されて、今夜の破戒僧退治について来ても良いと話されました。破戒僧は、近隣の武士達に戦いを挑んでは武器を押収する強烈な武器マニアだそうで、地元の明主から退治を相談された事が最初だそうです。最初は全然勝てず返り討ちに合っていたそうですが、流石に何万回も戦っていれば、敵の動きや癖も知れる事になり、最近は汗もかかずに勝ち伏せる戦い方も見出したそうです。ただ、簡単に勝ち過ぎると破戒僧は自暴自棄になって腹を切ってしまうらしく、適当に苦戦してようやく勝った方が敵も納得して家来になる事を申し出るそうです。只、体臭がキツイのが此方の泣きどころだとも言ってました。夜の決闘時間頃に件の旅行者を見かけたので、機動部隊を連れて戻り、事を成し遂げました。
報告番号: 1000-A-05-0462
報告者: 日本支部 エージェント 三隅
調査対象: 940年3月25日 茨城県猿島郡北山 年齢不詳男性
結果: 捕獲者なし。
調査報告: 私の対象は武将でした。此方に気付いたので今日を繰り返して迎えて無いかと尋ねると、特に驚いた様子もなく此方に耳を傾けて話を聞いてくれました。彼に行動を共にして良いかと聞くと、邪魔しなければと了解を頂きましたが、彼の行動に此方が困惑する事になりました。早朝、陣を固めた後に付いてこいと言われ付いて行くと、遠方の茂みにいきなり矢を3本射出しました。聞くと敵が潜んで大殿を襲うと言い、茂みに着くと確かに敵3名が倒れていました。その後も在らぬ方向に矢を放っては敵が倒されており、傍目で見れば無駄の無い無駄な動きに感じました。午後2時頃より本格的に本陣と敵と間で交戦状態に入りましたが、対象は私を小高い丘へ案内して「戦が終わる処を見せる」と申しました。持ち主が解るよう特別に家紋を入れた矢を3本取り出し、暫く風向きを観察した後、遠方に届くよう空高く矢を1本放ちました。此処までの道筋が出来上がるのに何度も試行を重ねて、ついに1本目で敵の総大将を狙える様になったと申してました。武士がましてや謀反者が帝を騙るなど烏滸がましい、とも申してました。
報告番号: 1000-A-05-0788
報告者: 日本支部 エージェント 原田(機動部隊2名派遣)
調査対象: 961年4月5日 京都府京都市南区唐橋羅城門町 40歳男性
結果: 旅行会社職員1名と旅行者1名及び甲2冊を確保。
調査報告: 私の対象は平安時代の貴族でした。早朝に謁見し話をすると、今までの境遇に納得された様子でした。陰陽寮の天文得業生への採用試験を前日に控えていて、当初は試験への準備不足も合って一夜漬けで臨もうとしてたとの事でしたが、文字通り一日漬けの日々を繰り返す状況となってからは、時間に余裕が持てた事を利用し図書寮の蔵書を読破する事と多くの者と会う事に注力したそうです。今を平安と言えど、身分の差は大きく従五位以下は中々人として観てもらえない。陰陽寮では世の摂理から離れた物事に触れる事になるであろう、ならば人の間に住む人間と手を組んで事を成し得れば、人の意識も変わるはず、と男は申してました。男は有名らしく昼頃に件の旅行者を見かけたので、機動部隊を連れて戻り、事を成し遂げました。
報告番号: 1000-A-05-0865
報告者: 日本支部 エージェント 仲本
調査対象: 1582年6月21日 京都府亀岡市荒塚町 54歳男性
結果: 捕獲者なし。
調査報告: 早朝に旅行先へ到着した為か、亀山城とかいう城の寝所で寝ていた武将が対象だった。男が目を覚ますと当然驚きも見せたが、此方の振る舞いからループの関係者と気付いた様だった。定石どおり伝えると、幾度と主君を倒してみて最高の苦痛を与え方を披露し、その後は自分が天下を導くと豪語してました。後は皆が知っての通りだと思う。俺は哲学者で無いが、上司の1000通りの倒し方より1000通りの展望をこの男は模索するべきだったと思っている。道具も利用者次第って事だ。
報告番号: 1000-A-05-0912
報告者: TN支部 エージェント ポン・チェン(機動部隊2名派遣)
調査対象: 1802年4月23日 茨城県つくば市谷田部 40歳男性
結果: 旅行会社職員1名と旅行者1名及び甲2冊を確保。
調査報告: 対象は農家の主でした。合って話を持ちかけると繰り返されている日々の状況に納得された様子で、家に案内されました。農家に似合わない程の蔵書量を有しており、研究者に似た風格を感じました。男に繰返しの日々が終わる事を告げると、絡繰り機械の設計に必要な基礎学問の取得や設計の構想は準備できているので、ようやく何日も掛けて製造に取り掛かかれると喜んでました。手始めに警備用絡繰り人形"ころすき成り"を作りたいと言ってました。
付記 : 7月31日23:30 大型スクリーンには捕獲対象者の人数、甲の回収冊数が表示されており、目標数値に到達していた。甲に表示されている時刻情報1024件についても1件を除き、被験者への接見2047件と目標が達成されていた。作戦行動中、機動部隊の要請が数件発生したが、人的な被害は無く、一連の作戦行動は全て完了していた。
大型スクリーンに財団日本支部のロゴが表示され、時刻が23:30に成ったと同時に作戦司令本部からのアナウンスが大収容セル██1号内に流れました。
<録音開始, 201█年7月31日23:30>
作戦司令本部 : 司令部より作戦参加者各位へ。只今よりO5-壱による作戦行動への訓令があります。
O5-壱 : …此度の作戦に従事した関係者諸君に、感謝と慰労の意を申し上げます。御苦労でした。諸君らの働きにより目標達成に至り、大いに役目を果たしました。諸君らの奮闘に答えるべく、是より司令本部は206█年の要注意団体「株式会社千尋」との交渉に臨みます。関係者諸君らには7月31日23:59まで待機して下さい。
エージェント松尾 : 交渉が成立すれば早乙女先輩が消える事が無くなるわけだが…。
[補足: 23:45]
[補足: 23:55]
[補足: 23:57]
エージェント松尾 : 本部から続報が来ないな…もう後3分を切っているんだけど…。
エージェント早乙女 : 確証は全く無いけど、言っとくわ。また皆に逢える気がするんだ。ああ、ループするんだっけか。作戦行動の開始に戻るから合うのは当然か!
エージェント田澤 : フラグ立て無いで下さいよ。自分で。
エージェント松尾 : 冗談じゃないですよ。先輩を取り残して明日を迎えるなんて。
[補足: 23:59]
エージェント早乙女 : 私達は最善は尽くしたんだし、上の働きぶりを信じましょう。
エージェント田澤 : 働きって言っても、旅行職員に「人質は預かった。大人しく機械止めて降伏しろ」って手紙渡して職員を未来に送り返すだけじゃん。相手が応じなかったら俺達の苦労、無駄になるじゃん。
エージェント松尾 : 田澤!ふざけるのもいい加減にしろよ!全く、上の様子はどうなっているんだ!
エージェント早乙女 : 時間だな。
[補足: 8月1日 00:00]
エージェント田澤・松尾 : あっ。
<録音終了, 201█年8月1日 00:00>
補遺: 7月31日23:59:59に到達した時、エージェント早乙女の周りの空間が光り、エージェント早乙女の姿がゆっくり消えていきました。その後暫く時間が経過しましたが、エージェント早乙女の姿が現れる事はありませんでした。
補遺5: 201█年8月1日付 活動の記録
付記 : 201█年8月1日 00:00 エージェント早乙女が消えた事で、作戦関係者の中でざわつきが生じてきました。暫く時間を置いた後、大型スクリーンに財団日本支部のロゴが表示され、作戦司令本部からのアナウンスが大収容セル██1号内に流れました。
<録音開始, 201█年8月1日 00:04>
O5-壱 : …あ………ガガガ…ガタッ…………………あー……作戦関係者諸君…遅れてすまない……司令本部は「株式会社千尋」との交渉を開始します。関係者諸君らは8月1日 02:00まで待機して下さい。
エージェント田澤: 雑音が酷いな、上の方も混乱しているよな…。
エージェント松尾 : これから本領か…。
<録音終了, 201█年8月1日 00:06>
付記 : 8月1日01:30 大型スクリーンに財団日本支部のロゴが表示され、作戦司令本部からのアナウンスが大収容セル██1号内に流れました。
<録音開始, 201█年8月1日01:30>
作戦司令本部 : 司令部より作戦参加者各位へ。只今よりO5-壱による作戦行動への説明があります。
O5-壱 : …関係者諸君、御待たせして済まなかった。司令本部は要注意団体「株式会社千尋」との交渉が終わりました。この件について、株式会社千尋のCEO千羽俊之氏より説明があります。
エージェント松尾: 要注意団体のトップか…。
[補足: 数秒沈黙]
千羽CEO : 株式会社千尋のCEO千羽俊之です。この度の件で、貴財団の関係者様ならびに弊社時間旅行サービスの試運転体験に御参加されました御客様各位に、多大なる御迷惑を御掛け致しました。深く御詫び申し上げます。
[補足: 千羽CEO、深い御辞儀を行う]
千羽CEO : 既に御存知と思いますが、弊社の開発した時間旅行サービスならびに運行システムは、過去に実在する人物を糧としています。その人物の尊厳を踏み台として私共の開発した旅行運行システムは構築されました。どの様な考えを持って、この設計思想に至ったのか、万人に御理解頂くには難しい理論の説明が必要になります。然しながら。どの様な理由であれ、手段を選択したのは私自身であります。問題の発端は私であり責任が有ります。
エージェント田澤: 確かに万人には、無理だよな。
エージェント松尾: だまれ。
千羽CEO : 私の一族は研究を生業にしておりました。時間旅行は祖父と父が長年追い求めていた夢であり、その夢は私が引き継ぎました。ようやく私の代で運用化への道が開けました。運用の実現にあたって選択を求められました。他人の人生を犠牲にする技術です。時間を超える方法は206█年でも皆無です。我々が持つ技術が唯一の実現方法で代用技術はありませんでした。夢の実現に莫大な投資も行いました。夢かモラルか。私は当然の様に夢を選択してしまいました。
[補足: 十数秒沈黙]
千羽CEO : 先人が残した「無理を通せば道理が引く」の言葉通り、自分の勝手な都合を他人に押し付ける設計思想の上で実現させた夢でした。そして、貴財団の職員を始め、多くの方をサービスに巻き込んでしまいました。重ねて御詫びを申します。次に貴財団の職員が旅行転送先に選択された理由について御話し致します。私共は貴財団から召還を受けるまでは貴財団の存在を知りませんでしたが、彼女の事は選手時代の時を覚えておりました。当時私は小学生で柔道を嗜んでいました。彼女の活躍は素晴らしかった事を覚えており、ふと彼女の消息が気になってしまい、運行システムを私的に利用して選手時代の行動の記録から、201█年に追跡して現在の勤務先を特定致しました。ここでも、私のモラルの低さが原因で貴財団の皆様に御迷惑を御掛けしてしまいました。誠に申し訳ありません。
[補足: 千羽CEO、深い御辞儀を行う]
エージェント田澤: マジかよ、そのシステム使ってみたい。
エージェント松尾: だまれ。だまれ。
エージェント徳永: いや、過去の行動を追跡できるって、そのシステム怖いな。
千羽CEO : この度の問題を重く受け止め、一連の責任を取りCEOを辞職致します。辞職にあたり、今回の時間旅行サービスの計画中止、運行システムの停止と放棄を実行致します。また先程、貴財団の最高責任者の皆様との間で、運行システムのコアの部分を206█年での貴財団と弊社で共同管理し、問題の収束に向ける事で御理解を頂けました。どうか、貴財団の皆様、弊社のサービスを御利用下さりました御客様、弊社社員の皆に御詫びと御理解を頂けますよう宜しく御願いします。
エージェント松尾: …206█年に成ってから、SCP-1000-JPを共同管理…。
エージェント田澤: 上との合意じゃあ、仕方無いよな。
千羽CEO : あと今回の被害者である貴財団の女性職員ですが、明日8月2日00:00に其方の檀上に転送されるようプログラムを組んでおきました。帰還が確認できた後に運行システムを停止する事とします。
エージェント田澤: よし!
エージェント松尾: 先輩は戻れるんだ!よかった!
O5-壱 : 千羽CEO、重大な決意の表明を述べて頂き、有難うございました。私達日本支部の理事会及び全O5職員は彼の表明を受け入れ、事態の終着と致します。本作戦行動は終了と致します。また、当財団で拘束していた千尋の顧客と職員も解放し御帰還頂きます。皆さん、御疲れ様でした。
付記 : アナウンスの最後をO5-壱が締めくくり、大型スクリーンの財団日本支部のロゴが消えました。作戦参加者は互いに安堵や歓喜を表しました。中央檀上に居る集団から歓声が聞こえ、暫くして檀上を中心にパーティー仕様の飾りつけを行う集団へと変わりました。
補遺6: 201█年8月2日付 活動の記録
【最重要機密文書】
異邦人捕獲計画
終了報告書
作戦決行日: 201█年7月31日 00:00
報 告 日: 201█年8月02日 10:00
日本支部理事会、同支部O5職員一同1. はじめに
201█年7月29日に本作成を発令し、7月31日の作戦決行により要注意団体「千尋旅行会社」の試験運用サービスと「株式会社千尋」の旅行運行システムを停止する合意を同団体の最高責任者(CEO)と交わし事態は収束しました。206█年に存在するSCP-1000-JPならびに千尋の関係機関について、同じく206█年での当財団と共同で管理運営する事も合意に付け加えています。この合意は千尋CEOを作戦司令本部に召還した折、彼と同伴した206█年での財団O5職員に託しました。201█年8月2日現在、今回の作戦行動により我が国の歴史が大きく改変した事実の報告はありません。過去改変の有無については継続して調査を進めております。
201█年8月01日 02:00の作戦行動終了の発令により、終了報告書を纏め上げ以下より報告を致します。
201█年8月2日 日本支部 O5-壱
2. 作戦行動の経過
月日 時 作戦行動 7月29日 07:00 作戦の発足 7月30日 23:00 作成体制の確立 7月31日 00:00 作戦行動の開始 同日 22:30 作成目標の達成 同日 24:00 SCP-1000-JP 被験者 女性職員 消失 8月1日 00:04 株式会社千尋 CEOとの直接会談 同日 01:30 千尋CEOと事態収束への合意 同日 02:00 作戦行動の終了 8月2日 00:00 SCP-1000-JP 被験者 女性職員 帰還 8月2日 10:00 解散 3. 作戦行動の結果
3-1. 目標確保
確保対象 総数 確保数 残数 達成率 旅行サービス利用者 121 121 0 100% 千尋旅行会社 職員 245 245 0 100% SCP-1000-JP 甲 366 366 0 100% 3-2. 被験者との接見結果
総数 1:安全 2:注意 3:警告 4:危険 5:渡航禁止 被験者数 1024 956 37 18 13 0 成功 1022 956 36 17 13 0 失敗 0 0 1 1 0 0 達成率 100% 100% 97.2% 97.2% 100% - 補足1: 注意案件の失敗(1)ですが、被験者の方が襲ってきた為、接触を断念。
補足2: 警告案件の失敗(1)ですが、目的条件と異なる街に到着。接触を断念。システム側問題と推測。3-3. 被害状況
参加者 総数 健康 軽微疲労 軽傷 重傷 死亡 エージェント 271 151 75 45 0 0 機動隊員 88 51 26 11 0 0 その他 2 0 0 2 0 0 4. 通達
財団職員各位
206█年06月 千尋旅行会社の試験サービス開始のプレスリリースまでの間、O5職員の許可無く財団職員による以下の調査および探索行動を原則禁止とします。業務上、調査活動の中で偶然にも遭遇した場合は、速やかにO5職員へ報告し以降の指示を仰ぐよう、遵守して下さい。違反者は追跡、特定、拘留されます。
- 株式会社千尋、千尋旅行会社、及び 千尋グループ と各関連施設
- 千羽俊之氏とその親族、近親者、交友関係者
- SCP-1000-JP 及び 関連する施設
- 201█年8月に収容したSCP-1000-JP-甲
201█年8月2日 日本支部 O5-壱
5. 総括
諸君らの奮闘によって、一定戦果を納めたばかりか、財団職員の人的損害も無く事態の収束が実現できた事は大変喜ばしい事である。遥か未来からの襲撃という稀有な事件において、我々の真価が問われた。之に対し諸君らの研鑽の成果によって、勝利に繋がったものと私は確信している。対象の要注意団体としての脅威性は無くなり、事態の早期収束に到達できた。此度の事件で財団職員一同は財団の真価を証明したと言えよう。
「神明は、ただ平素の鍛錬に力め、戦わずして既に勝てる者に勝利の栄冠を授くると同時に、一勝に満足して治平に安ずる者より直ぐに之を奪う。古人曰く、勝て兜の緒を締めよ」 これは日露戦争で連合艦隊解散の辞として東郷平八郎が読み上げた訓示であり、今回の作戦に准えて、諸君らに捧げる結びの言葉とする。一層の精進をされたし。
財団日本支部理事 獅子
以上
アイテム番号: SCP-1000-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1000-JPは株式会社千尋(以下千尋と呼称)の私有地にある山の地下2048mに巨大な地下施設の中に収容されています。SCP-1000-JPは201█年8月02日に206█年の時代の財団と同時代の株式会社千尋との共同管理下で監視する事が、両組織との間で合意が成されました。206█年6月に千尋の収容建造物は財団の収容工法で改造され、SCP-1000-JP-乙の維持管理と平行して、財団と共同でSCP-1000-JPの研究が続けられております。
説明: SCP-1000-JPは、206█年に活動を開始する株式会社千尋のCEO千羽俊之氏の所有する汎用型機関運用装置です。SCP-1000-JPの全貌は、縦幅10m横幅90m奥行き40mの巨大な機械仕掛けの時計の内部に似ており、金属や木製の柱や歯車や振り子等が密集しています。装置正面に相撲の土俵を想起させる檀上が配置されており、現在でのスイッチやレバーといった複数の操作器具が配置された作業卓が檀上に幾つも配置されております。
SCP-1000-JPには以下の機関が備わっており、利用者は檀上の操作器具を操る事で、各機関を単独的および複合的に利用する事ができます。体験を循環して学習させる機関 SCP-1000-JPの被験者に、一日を繰り返し体験させ経験を蓄積させ学習させる事を目的とした機関で、以下の機能から成り立っています。 1)現状の世界を複写し運行する機能 学習させたい被験者がいる現状の世界をそのまま複写した世界を構築します(複写した世界を複写世界と呼称)。複写世界を現状の世界と異なる時間軸で運行する機能を持ちます。複写世界が発生した際、被験者は現状の世界と複写した世界の両方に存在しますが、御互いの存在を認識する事はありません。 2)記憶を転移する機能 複写世界にいる被験者の記憶を、現状の世界にいる被験者に転移する機能を持ちます。複写世界で観測した時間 に応じて、複写世界で被験者が体験した記憶を現状の世界の被験者に植え付ける事が出来ます。この機能は一定量の記憶を蓄積する事が可能です。 3)多重管理機能 機能1)の複写世界の生成と機能2)の記憶の転移をプログラマブル(programmable)化して、SCP-1000-JPの利用者の指示を反映できる管理機能を持っています。利用者は、複写世界の生成と廃棄を任意の時間単位で制御する事が可能となり、 機能2)と連携して、特定の時間単位で被験者が体験した記憶を連続で蓄積させる事が可能となります。複写世界の被験者が、死亡した事を契機に記憶を転移するよう自動的に処理する事が可能です。 |
特定年代の世界へ干渉する機関 収集した土壌から特殊な磁場を検出して土壌の年代を特定する機能を持ちます。この特殊な磁場は、上述の循環による体験学習を行わせた被験者からも検出されます。SCP-1000-JPは、日本全土の各地層のサンプルを管理しており、土壌の磁場を辿って特定した年代の世界へ干渉する事ができます。また被験者から発する磁場を探索する事も出来、被験者を認識し、被験者を通じて年代の世界へ干渉する事も可能です。 |
物体の転送を実現する機関 SCP-1000-JP-甲を持つ物体を転移する機能を持ちます。SCP-1000-JP-甲には、将棋の駒で模った木製の小さな割符が納まっており、割符を認識して転送を行っております。割符は本機関で生成します。 |
██████山の麓には、かつて千尋村(せんじんむら)という約1000人前後の集落があり、44█年頃に日本全土から特異な体験を持つ者が寄り集まって村が形成された事と、SCP-1000-JPが、村民達が代々の研究を重ねて15██年に完成させた事が、千羽氏の所有する文献に記載があります。
SCP-1000-JPを開発した村民が残した文献には、各機関を扱う方法、SCP-1000-JPを構成している各部品の修理交換の方法が記されており、千羽氏の一族が所有する研究機関により、SCP-1000-JPの特性を昇華した旅行運行システムとなるSCP-1000-JP-乙が206█年に完成します。SCP-1000-JPの特性がどの様な理論で実現できるのか206█年の千尋の研究機関で調査を続けていますが、解明に至っていません。
補遺7:
付記: 8月1日にエージェント早乙女華蓮が消失した直後、O5職員の居る作戦司令本部室の緊急連絡口から2名の男女が入ってきました。暫くの間を置き、女性より紹介があり、O5職員と対象者の間で非公式でのインタビューが行われました。
対象: 株式会社千尋 千羽CEO 、SCP財団日本支部 O5████華蓮
インタビュアー: SCP財団日本支部 O5職員
場所: 日本支部作戦指令室
<録音開始, 201█年8月1日0:10>
O5-弐 : 全O5職員が一同に揃う中でインタビュアーを執り行うのも、久しぶりだな。
████華蓮 : インタビューの前に、御願いがあるのだけれども、私の苗字の部分は検閲で伏せて下さい。大した理由では無いのですが御願いします。
O5-拾 : 良くわからないけど、まあいいわ。でも、驚いたわ。O5職員しか通過できないこの部屋の緊急連絡口から入ってきた事といい、相応の歳をとった貴女といい。想像付くけど、206█年の財団ではO5職員に従事しているのね。
████華蓮 : その通りです。此方は 株式会社千尋 の千羽(Senba)CEOです。御存知の様にSCP-1000-JPの所有者であり、件の旅行運行システム開発の中心人物です。
千羽CEO : 株式会社千尋 の千羽です。此の度の件で貴財団の皆様方に 多大なご迷惑を御掛けし申し訳ありませんでした。
O5-壱 : 当事者が来られたという事は、此方の意向について返事を持ってきたという事ですかな。
████華蓮 : はい。時間旅行サービスの試験運転の裏で、財団へ攻撃を開始しましたが失敗に終わり、降伏しに参りました。
O5-壱0 : そうか。千尋の千羽とか言ったな、詳しい話を聞かせてもらうじゃないか。
████華蓮 : 犯行の首謀者は私です。
全O5職員 : ?!
████華蓮 : 千羽CEOは犯行には直接関わっておりません。彼と彼の職員を脅し、SCP-1000-JPと運行システムを使用して財団に攻撃するよう私が働かせました。
O5-捌 : …O5職員となった君が何故そのような行動を?納得いく説明はあるのか。
████華蓮 : …今日7月31日の事件はよく覚えてます。当時は、ある財団職員の家族がSCP-1000-JPに暴露された事から、SCP-1000-JPの存在が判明しました。今回同様、206█年に千尋旅行会社が計画する運行サービスにたどり着き、サービスを中止に追いやって事態は収束しました。SCP-1000-JP-甲を収容して作戦が完了した以降は、多忙な毎日を送ることになります。長年財団に身を置いていると、当然の様に重症を負うし、当然の様に仲間の最後を看取る事もあり、幾度の苦悩と苦痛を繰り返して、長い毎日を重ねた末、私にもいつしか心境の変化が芽生えました。財団への不信感です。
O5-拾 : 華蓮…。
████華蓮 : …老齢に差し掛かり、自慢の肉体にも陰りが見えだして、御払い箱になる頃かと想っていた折、O5職員に抜擢される機会を得ました。そして、あの甲の存在を思い出しました。O5職員であれば収容中の甲を自由に扱えます。久しぶりに甲を扱ってみると、収容時には何の変哲も無い紙の束に変わっていた甲の様相が変わっていました。時同じくして、千尋の開発計画が進んでいたのでしょう。甲の内容が日増しに刷新してきました。当時の報告書を掘り起し読み進める内に財団への復讐計画を思いつくようになりました。
O5-肆 : …本業の財団運営とは別に、SCP-1000-JPの接取計画を秘密裏に準備。株式会社千尋、及び千尋旅行会社のサービス試運転と合わせて施設を占拠。SCP-1000-JP及び運行システムを接取した、という事だな?
████華蓮 : はい。攻撃の計画は以下です。財団職員の過去の活動報告書を基に、財団職員が接触した人物をSCP-1000-JPに暴露させます。財団職員が被験者と接触する機会に合わせて千尋の職員を派遣させ、持たせたスタンガンやその他様々な方法で、財団職員を無力化させます。無力化した財団職員に甲の割符を仕込み、SCP-1000-JPを操作して財団職員を例えば太古の彼方にでも転送します。ちなみに派遣する千尋の職員は、実は同社製の精巧なガイド機能を持つアンドロイドです。
O5-玖 : アンドロイドだったとは。今回の作戦で千尋の職員を大量に確保したが、どれも人間と遜色ない動きを見せていたぞ。
千羽CEO : 我社の主力製品の一つです。
[数秒沈黙]
████華蓮 : 現状のSCP-1000-JPの運行システムでは集団で同一の移動先に転送できる処理能力が有りません。その為一旦は工作を行わせる千尋の職員を各年代に移動し、各財団職員の居る年代に転送する事としました。それは旅行サービスの試運転をそのまま計画に織り込む事で、隠れ蓑になると考えました。財団へ強襲する日を本日8月1日とし、強襲の妨げになる私を翌2日に転送しました。私の部屋に私宛にSCP-1000-JP-甲に内臓している割符を私のペンダントに忍ばせました。割符の詳細はSCP-1000-JP-乙の報告書に記載していますが、SCP-1000-JPは割符の所有者を甲と同じく転送対象として識別し処理する事が出来ます。こうして8月1日に私を転送して作戦を実行するつもりでした…。>
O5-壱0 : 8月1日には君も乗り込むつもりだった?
████華蓮 : その通りです。ですが、各年代に転送した千尋の職員が誰一人とも帰還しない。この時代の財団の活躍により千尋の職員と旅行者が全員確保されてしまい、そこで初めて、財団への反旗が失敗した事に気づきました。
[数秒沈黙]
████華蓮 : 後は身の処し方を考えるだけでした。私に嫌疑が掛かるのも時間の問題です。これでも子や孫、曾孫を持つ親です。転送した若い私にも処分が下りる事が無いよう、幕引きを考え降伏に参りました。私の処分について御任せします。
[数十秒沈黙]
O5-壱 : 15点だよ。そんな作戦じゃあ財団の乗っ取りは出来んよ。
O5-弐 : 儂ならもっと早い時期、財団日本支部の発足期に██████と██████を消して財団を無かった事にしてやるかな。
O5-参 : O5-弐、滅多な事いうと処分されるぞ!ははは!
O5-玖 : おお、あいつか。久しく忘れていたわ。いや俺だったらSCP-████-JPに甲を持たせてそいつ等に送りつけてやるわ。慌てる様を見てみたいわ!
O5-柒 : 甲を持たせれば自在に転送出来るんだろ?それこそ慰安旅行と偽って、一網打尽に出来るのではないか?あはははっ!
████華蓮 : ?!な、何を言い出しているのですか…。
[数秒沈黙]
O5-陸 : …華蓮君、君は嘘をついている。いや、ひょっとして誰かを庇っているのではないかね?
████華蓮 : そんな…私は嘘を申してません。先程も申した様に千羽CEOは、計画に加担しておりません。
O5-玖 : …7月28日の財団に通報入れた老人。アレの存在だよ。
O5-参 : …なぜ老人が財団の職員と連絡先を知っており、千尋の旅行者一行が来る事も知っていたのか。本気で財団を襲おうとするなら彼の行動はあり得ない。
O5-弐 : 財団職員が到着するよりも前に、誰かを派遣して事件が発覚するよう指示したのでは無いのかね?
████華蓮 : そ…そんな…。
O5-拾 : …私達なのですね。貴女に、財団を襲わせるよう、指示したのですね。
[十数秒沈黙]
O5-弐 : 財団を巻き込み、総力で各年代のSCP-1000-JPの被験者に接見して最善の一日を選択させる。御使い程度のミッションと言え、移動先で下手な行動は日本の歴史を変える問題になるかも知れん。確かに財団職員でしか扱えない活動ではあるな。
千羽CEO : …御義母様、もう良いではないでしょうか。恩義ある方々を悪者にしたくない気持ちは大事ですが、事実を明らかにして次に繋げる事も重要ではないでしょうか。
████華蓮 : …そうね。
O5-拾 : 話してちょうだい。
████華蓮 : 私がO5職員に抜擢され、ここ中央会議室に呼ばれました。そこにはO5-拾の貴女がいて、O5職の引退と引き継ぎが行われました。引き継ぎが終わると貴女は、忘れていた7月31日の出来事を語りだしました。そして当時のO5職員の連名で作戦指示書を渡されました。今回の犯行計画です。
[数秒沈黙]
████華蓮 : 私は指示書の受け取りを拒否して反対の意を申しました。しかし貴女は、これは日本の在り方に担う重要な仕事で、何より私にとって大事な事だから必ず完遂させる事、当時のO5職員の総意でもあると言われ、私は引き受ける事としました。
O5-参 : ははは、傑作じゃないか。全員クロだぞ。
████華蓮 : 最初の一報をくれた███村の男性が翌日に行方不明になったのは、田澤と松尾が現地に到着する前に、財団職員である私の娘を派遣しました。娘は男性に田澤と松尾のプロフィールと田澤の携帯番号を教えて通報させた。繰り返す日々を送っている自分の境遇と、12:00に旅行者一行が来る事を田澤達に説明する様に御願いしたわ。また彼にも甲にも備わっている割符を持たせて、7月29日00:00経過と同時に8月1日00:00に転送するようプログラムし、行方不明の状態を作り上げました。あとは、御承知の通りです。
[数秒沈黙]
O5-拾 : よく話してくれました。もう十分でしょう。
O5-壱 : 後はどう収束させるかだが…どうでしょう、千羽CEO。SCP-1000-JPの運用停止と放棄、財団と貴社とでSCP-1000-JPを共同管理する事を、皆に表明して頂きたいのですが、御願いできますでしょうか?
O5-陸 : しかし、我々は先程まで非を認めさせようと交渉に臨む姿勢でいたが、事情を知った今、それは酷な御願いになるのでは無いか?
千羽CEO : いいえ、是非御手伝いさせて下さい。私も御義母様の考えを御聞きした時、私なりの幕引きを構想しておりました。私も社の経営を次の世代に託そうと考えていた時期でもあります。私が謝罪し退く事で貴財団、弊社の御客様、弊社社員の皆様の溜飲が下がり、前進できる力に成れば、私も嬉しいです。そして、その役目は今の私にしか出来ないと理解しています。
████華蓮 : 俊之さん…貴方には、辛い役目を負わせる事になってしまって…。ごめんなさいね。
O5-壱 : 千羽CEO、御理解と御協力に感謝致します。
O5-伍 : なあ、一つ良いか?我々は今回の件で、SCP-1000-JPの存在も千羽CEOの一族の事も掌握する事ができた訳だが、早いうちにSCP-1000-JPを探し当てて回収に踏み切るとか、未来の財団職員が対応したら、今回の様に大掛かりな事を行わずに済むのではなかろうか?
O5-拾 : それには反対しますわ。傍から見ると大掛かりな演劇のようでしょうけど、彼の祖先がSCP-1000-JPを作りあげた事も、彼の会社がSCP-1000-JPを運用した事も、SCP-1000-JPの被験者が体験する出来事も、我々が行動した事も、全てひっくるめて日本を形成に関わっているはず。台本のある劇を大勢で演じているみたいだけど、きっと何か重要で大事な理由があるのよ。
O5-伍 : そうかのう、やはり、やはりそうなるのか。結局は謎だけが残るわけか。
O5-玖 : その通りです。ですが、我々は謎に付き合う事に関しては専門家ですから。これで良いのではないでしょうか。
O5-柒 : 承認するぞ。
O5-拾 : では、改めてO5職員の皆様にも御伺いします。████華蓮の処分ですが、私は処分不要と思います。処分が必要と思う方は申し出て下さい。
O5-零 : ……………………………………聞き方、ズルい。
O5-肆 : 誰も異論なぞ、無いじゃろ。
全O5職員 : 処分の必要なし。
<録音終了, 201█年8月1日 1:00>
付記 : 日本支部作戦指令室内 音声ログ 201█年8月1日21:00-21:10
<録音開始, 201█年8月1日21:00>
████華蓮 : もう体調は大丈夫なのですか?連日の作戦で御疲れでしょう。休まれてはどうですか。
O5-拾 : ありがとう。休憩は執っているから大丈夫よ。今回の作戦が一人も死傷者を出さず無事終わった事で少しほっとしているの。それに貴女と一緒に居られる時間も限られているし。色々と御話しが聞けて良かったわ。
████華蓮 : …私も肩の荷が降りたようで、だいぶ楽になりました。
O5-拾 : このスクリーンを観て御覧なさい、作戦に参加したメンバの大半はまだ残って、貴女の帰還を祝う準備をしているそうよ。
████華蓮 : 何か理由に付けて祭り騒ぎしたいだけだと思いますよ。ほら、田澤と松尾だ。あんなにはしゃいでテキパキと準備しやがって。
O5-拾 : 誰が言い出したという訳でもなく成り行きで事が運んで行ったみたい。ふふ…でもこんな大事な事、やるなら私達O5の承認が必要よねぇ?
████華蓮 : …ああ、懐かしい…。さすがに皆若いな。あ…。
O5-拾 : どうかした?華蓮…!
████華蓮 : あなた…………動いている……生きていて……。
[十数秒沈黙]
O5-拾 : ……貴女があの大事な人を此処で観られる様に、必ず貴女に命令を下します。その涙に、改めて誓うわ。
[数十秒沈黙]
<録音終了, 201█年8月1日 21:10>
付記 : 日本支部作戦指令室内 音声ログ 201█年8月1日23:30-21:45
<録音開始, 201█年8月1日23:30>
千羽CEO : …御義母様、そろそろ私達の時代に戻る時間です。曾孫たちが待ってますよ。
████華蓮 : そうね。皆様、今回の作戦行動にあたり御苦労様でした。
全O5職員 : 御疲れ様でした。
████華蓮 : 成り行きとは言え、皆様に再び御逢いできた事、懐かしい顔ぶれを観れた事、本当に良かったと思っています。私達は戻り財団の後方を支え続けます。御世話になりました。
O5-参 : 財団を頼んだぞ!
O5-伍 : 頑張るんじゃぞ!
O5-零 : ……………………………………b
O5-拾 : 元気でね。貴女の成長が見れて本当に嬉しかった。
[数十秒沈黙]
<録音終了, 201█年8月1日 21:10>
付記 :
異邦人達はO5職員の前に深く一礼し、最後に別れを惜しむようにちょっと振り向いていました。退出した後、会議室の扉の隙間から光が漏れだしていましたが、暫くするとゆっくりと光が消え元の静寂に戻りました。
付記 : SCP-1000-JP 報告書
アイテム番号: SCP-1000-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1000-JPは株式会社千尋(以下千尋と呼称)の私有地にある山の地下2048mに巨大な地下施設の中で、厚さ3センチメートルの強化ガラス板で1辺15メートルの立方体形の水槽内に収容されています。水槽の外郭は耐爆・耐衝撃性を持つ鉄筋の柱で格子状に囲まれています。
SCP-1000-JPは定期的な食物の摂取は必要としませんが、著名な知識人や高い知性を持った人物の遺体が確保できた場合にだけ与えられます。SCP-1000-JPの特性による補食が完了した後、再び遺体を回収し遺体は適切な処置を行って下さい。
説明: SCP-1000-JPは両生綱無尾目アマガエル科アマガエル属に分類されるニホンアマガエル(学名:Hyla japonica)の手足が生えたオタマジャクシ(tadpole)に似た生物です。姿形はオタマジャクシですが、目や鼻や口は本来ある配置に定まっておらず、年を追う毎に少しずつ目や鼻や口の配置が移動します。206█年6月時点では全長8mあり、SCP-1000-JPの存在が確認された58█年10月の頃は全長2cmであったとの記録があります。年間でおよそ54mm程ずつ大きく成長しています。
SCP-1000-JPは定期的な食事を必要としませんが、動物を食料として提供した場合、SCP-1000-JPの特性を用いて食事をとる場合があります。
SCP-1000-JPの異常な特性は4つあります。1つ目は、SCP-1000-JP認識できる物体もしくはSCP-1000-JPが認識できる物体の概念をSCP-1000-JPの体内で複製する能力です。複製された物体は、SCP-1000-JPの体内で正常に活動します。複製する対象はSCP-1000-JPの全長より大きな物体でも、SCP-1000-JPの体内に納まります。SCP-1000-JPより大きな物体が体内に納まっている際、SCP-1000-JPの全長はほとんど変わる事が有りません。SCP-1000-JPはこの特性を利用して、複製した物体を体内で消化して補食します。特に知性を持つ動物の脳を好んで補食する事が、過去の文献から判明しています。
2つ目の特性は、複製した物体が動物の場合、複製された動物の記憶を複製した元の動物の脳に移植する能力です。SCP-1000-JPは記憶の移植について複雑な条件でも制御できる様で、例えば複数の動物を複製し、数匹を対象として複製した元の動物に記憶を移植する事が出来ます。この能力の有用性ついて、206█年6月時点の研究でも論議があり、複製した動物へ、SCP-1000-JPに捕食された恐怖心を植え付ける事で、SCP-1000-JPから遠ざけさせて、SCP-1000-JPが同じ対象を捕食する事を回避する行動では無いかという説があります。
3つ目の特性は、SCP-1000-JPは自己の外皮を切り離して、外皮と接触した物体を転送する能力です。SCP-1000-JPは、切り離した外皮を追跡する感覚を持っており、外皮との交信を通じて接触した物体をSCP-1000-JPのそばに引き寄せる事が可能です。SCP-1000-JPはこの能力を使用して、捕食対象をSCP-1000-JPのそばに転送して、捕食行動を行っています。
4つ目の特性は、土壌内に残る磁力を基に年代を追跡できる能力です。SCP-1000-JPにはナマズ(Silurus asotus)に見られる電気受容能力に似た感覚で、土壌内に残る僅かな磁力を分析し経過年数を特定します。この能力がSCP-1000-JPの生態とどの様に関わっているのか、206█年においても研究が続けられています。
SCP-1000-JPは58█年に後述の村の水田で見つかり、飼育していた童が「自分の頭に二つ分の自分の記憶が出てくる」「片方の記憶は最後に食べられて終わる」と言い、頭痛を訴えていた処を、同村の有識者が調査し異常性と共に存在が判明しました。
補遺1: 千尋のCEO千羽俊之氏は千葉県████市████群の██████山の麓にかつて7世紀から18世紀まで存在していた千尋村の子孫であり、千羽一族は代々██████山の所有を継承しておりました。千尋村は日本全土から特異な体験をした者が集って村が出来上がり、村独自の文化と風習、価値観で成り立っていました。
SCP-1000-JPは58█年同村の有識者達の手に渡り研究が進められました。145█年3月頃にSCP-1000-JPの持つ4つの特性を駆使して汎用的な利用を目的とした汎用型機関運用装置SCP-1000-JP-丙が開発されました。この装置は206█年06月に千尋が開発した多機能推進装置SCP-1000-JP-乙の前身にあたります。SCP-1000-JPは丙から延びている数本の直径50cm大の金属製ケーブルと直結されてます。
補遺2: 206█年6月の報告書提出を機に、SCP-1000-JPの名称を"絶対捕食者"と登録しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-81██のSCP-XXX-JP専用特別区画の地下収容施設に収容されています。サイト施設地下の耐爆構造区画内に設けられた収容セル内にSCP-XXX-JPを収めた耐衝撃性装置を配置しています。SCP-XXX-JPは50cm立方の耐衝撃性を有する厚さ3cmの強化ガラスで形成した収容箱の中心部に、詰め糸でSCP-XXX-JPを固定した上、水で満たした状態で収容箱に格納されています。収容箱に納めたSCP-XXX-JPの監視と非活性作業を操作できる制御機器を備え、振動を抑えるために耐衝撃材を詰めた1m立方の耐衝撃性装置に納めています。SCP-XXX-JPが活性状態に遷移した際、耐衝撃性装置の外郭に設置されている監視パネルから制御機器を介してSCP-XXX-JPの非活性作業が行えます。SCP-XXX-JPが活性状態に遷移した際は同収容セル内に待機させているDクラス職員に非活性作業の作業を行わせます。
インシデント事案 XXX-C-1の発生により特別収容プロトコルの内容が改定されました。SCP-XXX-JPの収容条件に耐衝撃性への考慮が解除されました。これまでの収容構造および遠隔監視室から24時間の監視体制は継承し、SCP-XXX-JPの活性遷移までにかかる所要時間が12時間より下回る状況になった際は非活性作業にあたるDクラス職員を2名に、所要時間が8時間を下回る状況になった際は3名に増員し、Dクラス職員による非活性化作業をシフト交代で行わせて下さい。
説明: SCP-XXX-JPはアメリカの一般的な99セントショップで販売されているプライベートブランドの歩数計(pedometer)です。前面に6つの文字を表現できる7セグメントの液晶パネル画面とシリコン製の小さいボタンが備わっています。背面にはベルト等に掛けられる取り付け器具があります。一般の歩数計と同じく、歩行などによる軽微な振動に反応してデジタル数値が加算して表示する機能、ボタンを押すことで表示していた数値をオール0に初期化する機能が備わっています。SCP-XXX-JPは歩数計と同じ動作を行っている間は非活性の状態にあります。SCP-XXX-JPの特異性は2点有しています。1点目の特異性はSCP-XXX-JPが活性状態に遷移した場合、SCP-XXX-JP-1に聞こえる程度の音量で重低音が鳴り、液晶画面は7セグメントで表現できる小文字の英文"gogogo"に表示が切り変わりバックライトが点灯します。"gogogo"の表示はボタンが押されるまで表示が維持されます。SCP-XXX-JP-1がSCP-XXX-JPのボタンを押下した場合、SCP-XXX-JP-1の周囲で事故が発生します(SCP-XXX-JPの影響で発生する事故を事故イベントと呼称)。SCP-XXX-JP-1は事故イベントに巻き込まれますが、無傷もしくは軽傷で事故から生還します。事故イベントの被害規模はSCP-XXX-JPの活性状態に遷移してからボタンを押下するまでの待機時間が関係している事が、SCP-XXX-JP-1へのインタビューで判明しています。
2点目の特異性は、事故イベントに遭遇したSCP-XXX-JP-1に強い幸福感と性的絶頂に似た精神的高揚が生じます。この影響は事故イベントを経験する回数を増す度に強くなっていきます。
SCP-XXX-JP-1は、最後の事故イベントとなる航空機墜落事故から奇跡的に生還した事で世間からの注目が集まりました。SCP-XXX-JP-1の一連の行動を不審に思った米国の財団本部は関係機関を通じて、事故イベントに遭遇中のSCP-XXX-JP-1を捉えた映像の記録を入手し、事故イベント直前に手提げのカバンに手を入れ何らかの所為を行っていた様子を確認しました。その頃、SCP-XXX-JP-1は、奇跡を特集としたテレビ番組の収録で来日していた事より、財団本部から日本支部へSCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-1の確保の要請を入れました。日本支部は成田空港にてSCP-XXX-JP-1の身柄を確保。SCP-XXX-JPを回収しSCP-XXX-JP-1への事情聴取の中で事故イベントと特異性との関係が判明しました。
補遺1: 201█年09月██日 成田国際空港内でSCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-1の確保を目的とした囮捜査が空港関係者協力の下で実施。SCP-XXX-JP-1の出国手続き中に応対していた財団職員が扮した税関職員および旅行者が体調不良を訴え次々と倒れこむ事態となりました。同じく財団職員が扮した危険物処理班によって周辺区画の隔離処置が行われ、SCP-XXX-JP-1を含む20人に対して外部と隔離しサイト-81██に搬送する緊急措置が実行されました。 SCP-XXX-JP-1には健康診断の必要性を説明し数日の滞在延長に応じさせました。
補遺2: 201█年09月██日 サイト-81██ 医療施設内で行われたSCP-XXX-JP-1へのインタビュー記録を以下に記します。
インタビューログ: XXX-B-001
日付: 201█年09月██日 15:00 サイト-81██ 医療施設内の待合室
対象: SCP-XXX-JP-1(アメリカ国籍28歳女性)
インタビュアー: エージェント田澤、菊池女史
<記録開始>
菊池女史: 健康診断は全て終了しました。あと30分程度で診断結果が判明します。異常が無ければ帰国の許可が下ります。帰国の手続きは此方で調整いたしますので希望の時刻があれば申して下さい。
SCP-XXX-JP-1: そ、そう。それで所持品の方は返して貰えるのでしょうね?
エージェント田澤: 勿論です。ただ現在も調査中でして診断結果が解る頃には所持品の調査結果も揃うと思います。何せ事件が事件だけに科学汚染や細菌テロの可能性も視野に入れて調査してますので時間が掛かっている点については御理解下さい。
SCP-XXX-JP-1: そう、ならいいわ。その所持品に変化とか無かったかしら?
エージェント田澤: 今のところ特に変わった事は聞いていませんが、ただ洗浄したら綺麗に輝くようになったとかくらいでしょうか。
SCP-XXX-JP-1: か、輝いたって歩数計の事!?今、どんな状態なの!?
エージェント田澤: どうされたんですか、落ち着いて下さい。いえ、御持ちのアクセサリーを此方で磨きまして輝きが増した、という事を御話ししたのですが…。歩数計については特に変わった状況を聞いておりませんでしたよ。
SCP-XXX-JP-1: あ…アクセサリー、そう、そうよね。磨いてくれたのね。ありがとう。
エージェント田澤: …歩数計の心配を成されているようですが、そうとう大事なものなのですね?
SCP-XXX-JP-1: まぁ…あれでも主人の形見なのよ。
エージェント田澤: そうでしたか…それなら御心配もなさりますね。宜しかったら御主人のその形見について御聞かせ下さりますか?
SCP-XXX-JP-1: ええ、いいわ。主人とはハイスクールで知り合ったの。主人は将来を有望視されていたアメリカンフットボールプレイヤーでUSAフットボール主催のキャンプにも参加して大学のコーチ陣やNFLスカウトから一目置かれる選手だったわ。私は当時チアリーディングに所属していて試合の度に意気投合して交際を深めていったの。お互い同じ大学に進む事も決まって卒業間近の試合中に、主人が腰を強打する事故に合ってしまったの。長くリハビリを続けていたんだけど選手としての復帰はできなかったわ。
エージェント田澤: 選手生命が絶たれてしまった…ですね。
SCP-XXX-JP-1: 特待生として大学への進学が白紙になってしまい、主人は地元の企業に就職するって聞いたとき、私は主人と離れたく無いなって思って、学生の内に籍を入れ一緒に生活をする様になったわ。企業に就職したのは良いけど、アメフトではスターだった主人も一般企業の中では開花せず、成績が思う様に伸びなかった時期があって相当ストレスをため込んでいた様だったわ。そのストレスの発散が食欲に向いてしまって、主人は太るようになっていったわ。
エージェント田澤: よく、アメフト選手って良く食べると聞きますが…。
SCP-XXX-JP-1: ええ、そうね。腰を痛めてから運動をしなくなって良く食べれば当然よね。ストレス発散でもう一つ悪い癖が身についてしまってたわ。住居がラスベガスサマリン地区に在った事もあって、主人は週末かならずカジノに出掛けていたわ。成績が振るわず給料が低かったのを気にしてギャンブルで儲けようと考えていたのかしら、よく「プロ何とかポットを引いて、また君に人生の逆転劇を見せてやる」とか言っていたわ。
エージェント田澤: たぶん、プログレッシブジャックポットの事ですね。複数のゲームマシンで当たった賞金をプレイヤーへの払い出しとは別で蓄積していき、払い出し条件を満たした以降に当りを引いたプレイヤーが賞金を総取りできるゲームシステムですよ。
SCP-XXX-JP-1: そ、そう。詳しいのね、貴方。よく解らないけど、どんどん貯まっていくとか言ってたわ。ギャンブルにのめり込む様になってから益々彼の体重が増える様になって、いよいよ運動させないとマズイと思い持たせたのが歩数計なの。歩数計で週末は2万歩を越さないと家に入れてあげないと突き放してウォーキングをさせる様にしたわ。あの巨体で2万歩を歩かせると半日は掛かるからカジノに行く暇も無くなるんじゃないかなって。健康にも良いから強く言い聞かせて言ったわ。
エージェント田澤: すごいですね。それで成果はどうでしたか?
SCP-XXX-JP-1: それがね。ある週末にウォーキングに行かせていた主人が、ラスベガスの繁華街で車に轢かれたと警察から連絡が入ったの。病院に搬送されたけど事故で即死していた様なの。ウォーキングに行かせて何でラスベガスで事故に合うの?って思ったけど、警察から加害者の証言を聞くと、主人は信号が歩行者停止の状態に気が付かない程、必死に手に何かを持って振りながら横断を始めた、という事なの。それを聞いて理解したわ。主人はウォーキングに行くふりをしてカジノ通いを続けていたのよ。で、歩数計を手で振って歩数をごまかしていたんだわ。もう悲しいやら呆れるやら…その時は茫然と立っているのがやっとだったわ。ほんと、今でも思うけど呆れた主人だったわ…。でもね、私をいつも気にしてくれて、すごく優しかったわ。
エージェント田澤: 御主人に渡した歩数計が今は形見として御持ちになられているのですね。
SCP-XXX-JP-1: そうね、一人になった寂しさもあるのかしらね。持っているだけでも主人と繋がりが有る様な感じがして、いつも持っているわ。
エージェント田澤: …少し間を挟みましょうか。何か飲みたいものが有れば申してくださいね。
<記録終了>
インタビューログ: XXX-B-002
日付: 201█年09月██日 16:00 サイト-81██ 医療施設内のカウンセラー室
対象: SCP-XXX-JP-1(アメリカ国籍28歳女性)
インタビュアー: エージェント田澤、菊池女史
<記録開始>
菊池女史: 診断結果が出ました。僅かに高血圧の傾向を示す数値が見られますが、概ね問題の無い結果でした。
SCP-XXX-JP-1: そう、あとは所持品の検査結果だけね。いつ結果が判るの?
エージェント田澤: 検査の方は完了してます。御預りしている全ての所持品について科学的生物的な汚染は有りませんでした。
SCP-XXX-JP-1: それじゃあ、早く返してほしいわ。
菊池女史: 御返却する前に所持品について聞きたい事が有ります。全てを御話し頂けたら返却いたしますよ。
SCP-XXX-JP-1: な…なによ、それって私が何か隠し事しているかの様な言い方じゃない!
エージェント田澤: そうですね。我々は、貴方がまだ何か隠していると考えてます。
SCP-XXX-JP-1: ちょっと貴方達!ふざけるのもいい加減にしなさいよ!
菊池女史: 落ち着いて下さい。こちらのタブレットに出る映像を見て下さい。201█年04月██日 御住所に近いショッピングモールの中を監視している映像の写しです。画面右下に白いブラウスの女性が映っていますが、この女性は貴方ですよね?次のシーンで通路の天井から吊るされていた大型のシャンデリアが落下します。結構破片とか飛び散っており下敷きになった者や破片に当った者など多くの死傷者が出た惨事でしたが、貴方の傍にシャンデリアが落下したのに無傷でその場に立ち竦んでいました。その後になって貴方が倒れて込むシーンが映っておりました。落下直前のシーンに戻します。貴方の姿をクローズアップしてみますと、見辛い中でも肩から下げているカバンに手を入れて何か探っている様ですね。
SCP-XXX-JP-1: …そう、それがどうしたのよ。私の手荷物だからどう扱っても問題ないでしょう?
菊池女史: ええ、その通りです。次に見て頂きたい映像ですが、201█年05月に貴方は████国に単身旅行されてますね。201█年05月██日に███市の████劇場でオペラの上演中に銃乱射事件が発生しておりましたが、劇場内の監視カメラに貴方が観覧席に居る様子が見られました。先程と同様に貴方の姿をクローズアップしてみますと、カバンに手を入れて何か探っている仕草をされており、その後に銃乱射事件が起きました。そこでも他の乗客の返り血等で汚れはしたものの無傷で生還されていました。
SCP-XXX-JP-1: …で、結局なにが言いたいのよ。
菊池女史: 最後になりますが、201█年06月に████国で起きた航空機墜落事故の現場を衛星から捉えた映像になります。北緯██東経██の洋上に事故機が浮上しており周りに多くの浮遊物が確認できます。事故機の左翼上に人が横たわって居る様に見えており、解像度を上げてみると女性でした。勿論現状では生還した報道の事実が有りますのでこの女性は当然貴方なのですが、よく見ると凄惨な事故に合われたはずなのに、裸に近い状態で、その、自分で、楽しんでいる様子が移っておりました。
SCP-XXX-JP-1: !…やだ…誰も見てないと思ったけど、貴方達イヤラシイ…わね。それに衛星の映像って貴方達、一体何者なの?
エージェント田澤: 事実を解明する為には国外の監視映像や衛星写真など機密性の高い情報も機関を通じて入手できる団体といった処でしょうか。一連の事故に貴方が関与していると私達はそう捉えています。カバンを探っていた先程の映像ですが、画像解析に掛けると僅かにですがカバンから光が漏れているのが見えました。そして事件の直前ではカバンの中から発していた光が消えている様にも見えました。また待合室での会話を思い出して下さい。光…輝いていると言った時に貴方は歩数計の事を心配されていました。カバンの中で探り操作していたのは歩数計ですよね?
SCP-XXX-JP-1: [10数秒の沈黙]
エージェント田澤: それぞれの事故との関連性を貴方から御聞かせ頂けたら良いのですが、答えたく無い様であれば無理強いしません。それに此処まで状況が揃えば後は私達の独力で歩数計の特性を調べる事も可能です。大事な御主人の形見である事は承知ですが、返却は諦めて頂きます。
SCP-XXX-JP-1: …そうよ。歩数計よ。これにはきっと、主人の魂が宿っていて……そうよ、主人だわ!主人が常に私を事故や事件から身を守ってくれる御守りだったのよ!ようやく理解したわ!
エージェント田澤: どの様にして貴方の身が守られるのか、プロセスを説明して頂けますか?
SCP-XXX-JP-1: …事故から私を守ってくれるように祈りを重ねながら歩数計を毎日振っているの。そして私の身に危険が迫っている事をこの液晶で教えてくれるのよ…ふふふ…そしてその時が来たらこのボタンを押す事で事故から私を救い出してくれるのよ…。
エージェント田澤: …今迄に利用した状況について、もう少し詳しく説明して頂けますか?
[SCP-XXX-JP-1は、SCP-XXX-JPを利用した状況や、SCP-XXX-JPが活性状態になりボタン押下するまでの待機時間、事故の被害状況について説明しました。説明の内容を表で以下に記します。]
発生日 遭遇状況 待機時間 3月2█日 アメリカ ラスベガス郊外サマリン地区のショッピングモール██████にて児童が持つ風船が破裂。怪我人無し。 数分 3月2█日 アメリカ ラスベガス郊外サマリン地区██████通りで隣に居た男性が洗車中の放水に掛かる。怪我人無し。 数分 3月3█日 アメリカ ラスベガス郊外サマリン地区██████通りで乗用車のパンク事故が発生怪我人無し。 約1時間 4月█日 アメリカ ラスベガス郊外サマリン地区のショッピングモール██████のエントランスにてシャンデリアの落下事故が発生。買い物客2名が下敷きとなり死亡。落下時の破片による重軽傷者4名。 1日と約7時間 4月█日 ラスベガス中心██████通りにて乗用車同士の衝突事故が発生。乗人合わせて1人死傷。 1日と約1時間 4月1█日 ラスベガス中心地区カジノ店██████にて乱闘事件が発生。警官観光客合わせて3人重軽傷。 23時間20分程度 4月2█日 ラスベガス中心地区レストラン██████に強盗襲撃事件が発生。従業員観光客6人重軽傷。 23時間40分程度 4月2█日 ラスベガス中心地区██████ホテル前にてギャング団同士の銃撃戦が発生。ギャング構成員2人死傷。 1日と5時間 5月██日 ████国███市の████劇場でオペラの上演中に銃乱射事件が発生。演者観客合わせて21人死亡、45人重軽傷。犯人は機動隊の突入時に自殺。 4日と約8時間 6月██日 ████国着███機の航空機墜落事故。████国の████国際空港に向かう洋上で右翼エンジンが爆発し機体が大きく損壊し墜落。乗員乗客325人中生存者1名。事故直前には████を名乗る集団が機内を占拠していた事が後の調査で判明。 18日と約10時間
菊池女史: 危険の察知から時間を置いている事に人為的な意図が感じられますが、衛星で観測された行為と関連しているんじゃないでしょうか?ひょっとして回数を重ねる度に楽しんでいたのではないですか?吊り橋効果の様に事故から生還できた安堵感が転じて興奮や快感を得たかったからでは?
SCP-XXX-JP-1: な、なによ、さっきから失礼な女ね!私のせいで事故が起きたとでも言うの!冗談じゃないわよ!劇場の時は銃を持った集団が檀上に上がってきて一斉に観客の殺害を始めたから歩数計を押しただけよ!航空機事故だってハイジャック犯が事故機に乗り合わせていて機長始め次々と邪魔になりそうな人達を殺害してきたから、身の危険を感じて歩数計を押しただけよ!私が事故を引き起こしたのでは無いわ!!
エージェント田澤: …まぁ、事故発生が先だったか後だったか。今は解らなくても良いですよ。でも、4回目から8回目は事故の間隔が短いですね。傾向を調べようとしていたのでしょうか。
SCP-XXX-JP-1:[沈黙]
エージェント田澤: …待機時間と被害との関連性の一つについて、恐らくですが、1日間の経過が境で人的被害の有無があるようですね。成程。あと個人的な質問ですが、今迄に日本へ訪れた事は?
SCP-XXX-JP-1: 無いわよ!今回が最初。パスポート見れば判るはずでしょ!
エージェント田澤: ええ、その通りですよ。念の為にね。だいたい理解しましたので十分です。御待たせ致しました、御預りしてました所持品を返却致します。
[田澤がそう言い終わると同時に財団職員がSCP-XXX-JP-1の旅行カバンと手さげカバンを持って扉を開け、田澤に引き渡して再び扉が閉じられた。田澤の方からSCP-XXX-JP-1に所持品が渡されるや、SCP-XXX-JP-1はカバンの中にある宝石箱を取り出し、ゆっくりと少し蓋を開けて内容物が二人に見えない様に覗き込んだ。SCP-XXX-JP-1が蓋に手を掛けた際に鈍い音が宝石箱から発せられ僅かにSCP-XXX-JP-1の頬が明るくなった様子を、机越しにいる田澤と菊池も確認できた。]
<記録終了>
終了報告書: インタビュー終了後、SCP-XXX-JP-1にはSCP-XXX-JPの記憶をAクラス記憶処理で消去し、SCP-XXX-JPの代用として同型の歩数計を渡して帰国させた。汚染除去の名目で押収したSCP-XXX-JPの構造分析を行ったところ、歩数計の内部に結婚指輪の存在を確認した指輪の内郭表面に次の文章が刻まれていた。
補遺3:We be against the world,I will protect you even if it costs my life.
(たとえ世界を敵に回しても、私は私の命に代えても君を守る。)
201█年10月付のラスベガス・レビュー・ジャーナルより転記
奇跡の女性、交通事故により急逝 201█年10月██日 午後ラスベガスサマリン地区のショッピングモールの駐車場で軽乗用車による追突事故が発生しました。この事故により歩行中の女性キャサリン・カニンガムさん28歳が全身を強く打ち、病院に搬送されましたが間も無く死亡が確認されました。軽自動車を運転していた同地区に住むトーマス・トンプソン78歳を逮捕した。事故当時、トーマスは駐車場に停車するつもりでブレーキを踏むところ誤ってアクセルを踏んでしまい、正面にいたキャサリンさんを跳ねたとの事でした。キャサリンさんは201█年6月に████国で起きた航空機墜落事故の生存者として話題となり、奇跡の女性とも報じられた事がありました。
SCP-XXX-JP-1への記憶処理は万全を期して行われました。処置後の認識テストではSCP-XXX-JPは同型の歩数計について主人の形見や指輪の混入などの回答は無く、歩数計としか認識していませんでした。報道にあった事故当時SCP-XXX-JP-1が歩数計を取り出していた事については、肉体が記憶していた条件反射的な行動としか考えられません。ーーサイト-81██配属 記憶処理班リーダー████氏
補遺4:
SCP-XXX-JP-1の死亡事故より程なく、SCP-XXX-JPが活性状態に遷移しました。活性遷移の通報を受け、同収容セル内に待機させていたDクラス職員に非活性作業を指示。SCP-XXX-JPは非活性状態となりました。その後、16時間50分6秒後(60606秒後)に再びSCP-XXX-JPは再び活性状態に遷移。次は16時間39分後(59940秒)に活性状態に遷移する状況が発生しました。
SCP-XXX-JP専用の耐衝撃性装置は、SCP-XXX-JPと同型の歩数計を用いた衝撃実験では計測震度5.0の直下型地震が発生しても振動が検知しない結果を出しており、100回の衝撃テストでも同じ結果になりました。収容セル自体も内部に免震構造を入れており相乗の効果も有してます。SCP-XXX-JPが活性状態に移った当時、SCP-XXX-JP専用特別区画の付近で震度2以上の揺れが観測された事実はなく、耐衝撃性装置への干渉はありませんでした。収容責任者としては、何等かの機会でSCP-XXX-JPの活性条件から振動性が関連しなくなったとの見解でいます。また、SCP-XXX-JPを天地逆に設置しておりませんので、今回の報告にあります活性状態下のデジタル表示に変化が生じた点も同様の考えでいます。ーーサイト-81██配属 収容スペシャリスト████氏
本事案より、SCP-XXX-JPの収容プロトコルが議論され、SCP-XXX-JPの収容条件に耐衝撃性への考慮が解除されました。
補遺5:
観察ログ: XXX-D-15
記録内容: SCP-XXX-JPの非活性作業を行うDクラス職員(以下SCP-XXX-JP-2と呼称)と収容監視者 三上、加納との会話の記録
記録場所: ██県███市 サイト-81██ SCP-XXX-JP遠隔監視室
記録開始: 201█/10/██ (01:15:04)収容監視者 三上: SCP-XXX-JP-2、何度も言ってますがSCP-XXX-JPの前に全裸で座って待つのをやめて下さい。服は定期的に支給しているはずです。服を着て下さい。
SCP-XXX-JP-2: う、うるせーな!嫌ならこっち見なきゃいいだろ!どうせアレの度に服が汚れるし、床の上だったら[削除済み]もホースで放水して排水溝まで飛ばせばすぐ綺麗になるしよぉ!!
収容監視者 三上: そういう訳にはいきません。服の着用を御願いします。それにSCP-XXX-JP-2、もう4日も睡眠を執らないで非活性作業を続けています。Dクラス職員と言えど体調が心配です。睡眠できないのであれば交代要員を派遣し治療に入ってもらいます。
SCP-XXX-JP-2: わ、解ったよ!交代は勘弁してくれよ!今回のコレが終わったらさ、今後は服着て作業するからさ!アンタも解っているだろ?この装置のこのボタンを一番使いこなせるのは俺だけだって事をさ!服着るし寝るから、俺からこの仕事を取り上げるのだけは勘弁な!そ、それよりもうすぐだろ!そろそろ時間が来たんじゃないのか!
収容監視者 三上: こちらの予測が正しければ、あと20秒で時間になります。
SCP-XXX-JP-2: YES!来るぞ来るぞ来るぞーっ!こっちは何時でも準備OKだぜー!
[SCP-XXX-JPの収容セルに配置された操作パネルの前にSCP-XXX-JP-2が待機する。三上の発言終了後20秒ほど経って鈍い音と共に歩数計のデジタル画面が光る]
SCP-XXX-JP-2: 来たーっ!押すぜーさっさと押すぜー!!それ!…くる…くる…くる…あ…ああ……ああああああ来たー!うおおおぁ!」
[SCP-XXX-JP-2、SCP-XXX-JPのボタンを押下。その直後SCP-XXX-JPの収容セルの上部に配置していた蛍光灯の一つが破裂した。SCP-XXX-JP-2に破裂による被害が無いが、SCP-XXX-JP-2は幸福感に満ちた表情を見せ全身を激しく痙攣させ、絶叫と共に床に倒れた。]
収容監視者 加納: SCP-XXX-JP-2にSCP-XXX-JPの特性を確認。SCP-XXX-JP、非活性状態に移りました。これより活性タイマのカウントを開始します。
収容監視者 三上: 今回も予測通りの時間で活性状態になった。前回に比べまた666秒早まって活性が発生している。このまま進むと、活性状態が平常的に起きるようになるのだろうな。
記録終了: 201█/10/██ (01:21:50)
アイテム番号: SCP-1072-JP-J 赤ペン・ドーナッツ先生
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-1072-JP-JおよびSCP-1072-JP-Jの影響下にある人物(以下SCP-1072-JP-J-1)は、サイト-8141のネット環境の整った標準人型収容室に収容されています。。SCP-1072-JP-J-1には一般人と同じく1日三回の食事を与えてください。SCP-1072-JP-J-1から食事支給の拒否があった場合はそれに従ってください。SCP-1072-JP-J-1には2週間に1度、通常の健康診断、ストレス診断を行ってください。
SCP-1072-JP-J-1には、収容室の出入り及びサイト内の行動について許可が下りていますが、SCP-1072-JP-J-1の収容意思を尊重する様にしてください。SCP-1072-JP-J-1のストレス行動緩和のため、職員との会話を許可しています。。。
SCP-1072-JP-Jが作ったSCP-1072-JP-J-nの処分については、SCP-1072-JP-J-1に摂取の有無を確認した後、品質劣化した物から廃棄してください。
説明: SCP-1072-JP-Jは不可視の存在意思であり、SCP-1072-JP-Jの影響下にあるSCP-1072-JP-J-1が作成する書類もしくは情報端末上のプレーンテキスト(以下、テキスト)に文字を発生させ意思の疎通を可能としています。SCP-1072-JP-JはSCP-1072-JP-J-1の作成したテキストの完成をもって活性化し、テキストに記載している文章について添削を開始します。添削の結果、文章に誤字や脱字、表現の誤りが有った場合、書類の場合は余白に、情報化されたテキストファイルであれば、文章に続いて、赤字による添削の結果が追記されます。添削の対象となった文章の末尾には(SCP-1072-JP-J曰く同胞が指摘の文章の位置が解るよう、身を挺してテキストにぶつかった後)、赤色の句点が発生します。。次にSCP-1072-JP-J-1が気付く周辺に衛生が保たれる状態でSCP-1072-JP-J-nが一個発生します。SCP-1072-JP-J-nは見た目上は市販されているプレーンドーナッツそのもので味、品質、摂取の栄養効果も同じです。。。SCP-1072-JP-J-1がSCP-1072-JP-Jから指摘された内容を確認し発生したSCP-1072-JP-J-nを完食すると指摘文章は消え、指摘された文章がSCP-1072-JP-Jの指摘していた内容に変わり、文章の末尾には句点は黒色に変わります。文章の末尾に句点が無かった文章については、文章末尾に赤色の句点が発生しSCP-1072-JP-J-nが発生します。SCP-1072-JP-J-nを消化せず、赤い句点を残したテキストを手本に別のテキストを作成した場合、赤色の句点が引き継がれる様に作成したテキストに追記されます。。。
SCP-1072-JP-Jの特異性は、SCP-1072-JP-J-1に対して著しい疲労感と虚脱感を与えます。文章作成能力の低下を招き、書類作成を必要とする活動の進行に影響を与えます。。文字や句点、ドーナッツに対して激しい嫌悪感が芽生える様になり、また潜在的に句点がドーナッツに見えてしまうという幻視事例の報告がありました。。。。
SCP-1072-JP-Jは、20██/09/██に 宮田博士の旧友である████大学経済学部の██████教授からある同ゼミに所属する大学4年生今井████氏の身辺に異常性があるとの連絡があり、財団が調査しSCP-1072-JP-Jと学生を収容しました。。連絡の前日、██████教授は今井████氏にレポート報告が遅れている状況について追及した処「完成させたレポートが誰かの手に拠って赤字で注意書きが書かれる妨害工作に遭遇している」「誰だか知らないけど、よくドーナッツが周りに置かれるようになっている」「新手のストーカーかも知れず警察に相談しようか悩んでいた」との回答があったそうです。。。
インタビューログ: 1072-JP-1-001
日付: 20██/10/██ サイト-8141の取調室
インタビュー形式: SCP-1072-JP-Jへの質疑欄およびSCP-1072-JP-Jからの回答欄を書式化したテキストを用意し、質問は学生に伝え質疑欄に書かせています。次にSCP-1072-JP-Jには回答欄に回答を記載させています。これらを交互に行っています。宮田博士はインタビューの様子を記録しています。テキストのやり取りをログ形式に変換した内容を以下に記します。
対象: ████大学経済学部██████教授ゼミの大学4年生・男性・21歳 今井████
インタビュアー: 宮田博士
<記録開始>
宮田博士: SCP-1072-JP-J….今井████君に付き纏う理由は何ですか?
SCP-1072-JP-J: ドーナッツ先生だ!
宮田博士: ………は?
SCP-1072-JP-J: 私の事はドーナッツ先生と呼ぶがいい。SCP-1072-JP-Jなど番号は知らん!
宮田博士: ドーナッツ先生、今井████君に付き纏う理由は何ですか?
SCP-1072-JP-J: 今井████君の前は████████(現在活躍中の作家名)を担当していた。あいつより今井████君の方が文章作成力が劣っていると解り、████████(作家)から今井████君を指導せねばという思いに至ったからである。
宮田博士: ████████(作家)?
SCP-1072-JP-J: 先週末に秋葉原の████会館で行われた、████████(作家)のファン感謝祭でサイン会があってな。今井████が一番先頭に並んでいてな。サインと引き換えにファンレターを渡していた。しかし、この時の手紙がまぁ誤字脱字が多かったのでな。それに大学4年といえば就職活動で筆記試験やレポートを書かされる事はあるだろう。今のレベルで社会に送り出すにはいささか心配になってのぅ?添削の対象者を今井████君に切り替える事にしたのだ。むっはははは!
今井████: (口頭発言)あっ、そうです。僕████████(作家)の作品が大好きでして、███████(作家)に逢えると思ったら、この思いというか感情の思うままを手紙にしたためて人目も気にせず渡してしまいました。
SCP-1072-JP-J: まぁ、プロと素人の文章を比べてしまうのも酷かとは思ったが、将来有望な若者を指導するのも私の役割であり本望でもある。答案作成力を鍛え、論理性を鍛え、表現力・構成力を鍛える事に繋がる。そして表現力が豊かに成れば、喜怒哀楽の感情を表現力豊かにして魅力的な人になる。すなわち人間形成に寄与する事になる。人格の向上は本人を取り巻く環境にも変革をもたらし、個の向上は全への底上げとなり、延いては国家レベルの文化の発展をもたらす事になる。私の啓蒙活動の意味がそこにあり、第一歩として今井████君の指導から始める事とした。
宮田博士: はぁ…。今井████君を添削する事について、事前に彼から承諾を得てはいるのでしょうか?
SCP-1072-JP-J: もちろん、最初に完成させたレポートに、これから添削指導する旨を書いて、添削を始める事にしたわい。断りもなく指導に入るわけ無かろう。
宮田博士: (口頭発言)どうでしたか?
今井████: (口頭発言)…そんなの、解るわけないじゃないですかー。完成原稿を置いて席を立ってしばらくして戻ってみたら、「これより君の添削指導に入るドーナッツ先生だ。宜しくな!」って書かれていて、悪戯以外の何物でもないじゃないですかー。
宮田博士: 続けます。今井████君を担当する前は████████(作家)の添削指導をしていた。この認識で良いですね?
SCP-1072-JP-J: その通り。私が自己の存在に気付いた時、████████(作家)が書いた原稿が認識できる事、その原稿に対して注釈を入れる能力が備わっている事を理解した。同時に私の周りには多くの同胞が待機しており、誤りの文章を見つけてくれることが分かった。私と同胞は正しい文面について協議し、添削内容が決定すると、次に同胞は自らの身を犠牲にして原稿上の訂正すべき文章の末尾に向って体当たりする。私は同胞の血とその亡骸を受けて、同胞の血で指摘内容を書きしるし、添削を入れた事が████████(作家)に解るよう、同胞の亡骸をそばに置く事としている。
宮田博士: (口頭発言)それって、死体遺棄じゃないのか。生々しくなってきたぞ。
今井████:(口頭発言)そういえば████████(作家)、ひどく疲れ切っていた様子でした。此方から話しかけても反応が薄かったし、少し太られた様でしたし。
SCP-1072-JP-J: ████████(作家)の書く文章も相当酷いものだったぞ。誤字脱字、句点無しは当然だし、全体的に怪しい日本語が散見するし。文章添削のエキスパートから見て許せない所為を幾つも行ってきているし、無駄としか思えない文体をさも芸術ですと言わんばかりに書き上げてくる。例えば、ページの中央に主人公の心情を表現すると称して、たった一言だけ書いていた。手抜きじゃないか!
「はやく、貴方にあいたい…」
そうかと思えば今度はページ全部に、
好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き! 好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き! 好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き! 好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き! 好き!好き!好き!好き!好き!好き!好き! 溢れんばかりの感情を表現しました…って、執念深くて、怖いわ!
またある時は、注意を払う表現の文字「む?」で、
む? むむむむむ? むむむ? むむむむむむむむむむ? むむむむむむむむむむむむむむむ! 困惑が波の様に強まる様子を表現しました….って、自由すぎるだろ!!
最たるは、心の虚無感を表現したとかで、
2ページ丸々何も書かなかったことだ!もう落丁事故で返品されるぞ!知らんぞ!
今井████:(口頭発言)…これ、この調子で続けるんですかぁ?
宮田博士: (口頭発言)…同感だ。巻いていく。
宮田博士:ドーナッツ先生、今井君の添削指導を辞めていただくには、どの様な条件が必要でしょうか?
SCP-1072-JP-J: 簡単な事だ。文章力の上達ぶりが解れば、次の指導対象に出会ったら際に添削指導は今井君から離れる。完璧な内容の完成稿を作り上げる事が出来れば良いのだ。但し、簡単な文章を数行とか、文章のコピペで嵩を増すとか、インチキは対象外だ。能力が向上した後、他に添削を必要としている人材と出会う事だな。今井君より重症な患者を立ち合わせる事だな。
宮田博士: 彼よりスキルが低い者を紹介すれば良いのですね。早速Dクラス職員から…。
SCP-1072-JP-J: 目の前におる。
宮田博士: ………えっ?
SCP-1072-JP-J: 今井████君より文章力より低い人物が目の前におる。宮田博士、君だよ。吾輩は職業柄いかなる状態の書類について目を通す事が出来る。そして君がこれまで作り上げてきた報告書も読ませて貰ったが、非常に御粗末な出来で、何度も再提出を喰らっている事も知っている。上位監督者の評価査定でも君の報告内容の出来に嘆いていた事が記載されていたぞ。でももう大丈夫。私が君の担当にあたるから、直ぐに精度の高い報告書を作れる様になるぞ。むっはははは!
宮田博士: 私達は世界最高クラスのプロ集団で構成されており、難易度の高い基準をクリアしたものが職員として選抜されています。私も然りです。本人を前にしてですが、学生以上の能力を有していると考えています。
SCP-1072-JP-J: その通り。財団は世界最高クラスの頭脳集団を有している。しかし、それは全体としての評価だ。個人では能力差は当然あるし得手不得手も含んでいる。君の場合は知識量、記憶量はずば抜けているが、抽象概念を正確に文言として変換する事に苦手意識を持っている様に君の作品から感じたぞ。
宮田博士: 財団には報告書の作成を助ける様々なツールやサポートがあります。単純な誤りを見つけるだけでなく、文章校正や前後の文章から適切な文章を評価し予測する互換機能、貴方の役割そのままです。よって添削指導は不要です。
SCP-1072-JP-J: 確かにそれらのツールは素晴らしく正しく機能している事は解る。しかし能力開発と効率化は異なる次元である。能力の向上には指導が必要である。私の見解では指導が自動化できる未来はまだ十分に先だ。そして私は十分に必要とされる存在である。
宮田博士:(口頭発言)ぐ…。
SCP-1072-JP-J: 宮田博士、この場の三者は言わば硬直状態にある。私を収容したい宮田博士。今井████君を指導したい私。私を収容するという事は必ず誰かと一緒に収容する事になる。現時点では私の庇護にある今井████君がそうだ。私を収容する事即ち今井████君も収容する事になるだろう。はたして今井████君はどう思うだろうね?
今井████: (口頭発言)そうなんですか?宮田さん…。
宮田博士: (口頭発言)…一時的に今井████君を収容する事になる。先生の指導で今井████君のスキルが上がり、先生から合格を貰えば、スキルの低い者へ担当替えが行われる。代替要員の調達は問題ない。
今井████:(口頭発言)そんな…。僕、困ります。これから就職活動とか卒論とか大事な時期だし。長期間、拘束されるの、本当に困ります!
SCP-1072-JP-J: 宮田博士。私は大人としての交換条件を提案しているつもりだよ。私の方針に従うと、今井████君が私から合格がもらえる迄、添削の指導から離れるわけにはいかない。もし宮田博士が自分のスキル不足を正しく認識して、私の添削指導を受ける意思を示せば、特別に方針を曲げて、博士の指導に移ろうという事だ。
宮田博士: つまりスケープゴートになれと?
SCP-1072-JP-J: 生贄とは人聞きの悪い。自ら率先して指導を得たいという生徒には寛容な気持ちで受けるというのが先生の本懐ではないか。むっははははっ。手始めに今回のインタビュー記録書の添削から指導を施してやろう。がんばろうな!今井████: (口頭発言)…あ…何かその…すみません、御願いします。
宮田博士: 解りました。ドーナッツ先生の指導を受けます。
SCP-1072-JP-J: うむ。心得た!
今井████: (口頭発言)宮田さん、ありがとうございます!!。
宮田博士: …ドーナッツ先生、仮に先生の添削内容にこそ、間違いがあった場合…
SCP-1072-JP-J: 先生の添削に間違いなど、無いっ!!
宮田博士: まぁそうでしょうけど、方針として添削が間違っていた場合はどの様な処置になりますか?
SCP-1072-JP-J: …輪切りした竹輪の一つを、先生が食べる。
宮田博士: えー何それ、そこは指摘した文章には添削を適用しないとか、ドーナッツを食べなくても無償で文章を更新するとか、発生させたドーナッツを消しますとか、そういう救済の処置は適用しないのですか?竹輪の輪切りなんて食べても大したボリュームでも無いでしょう。アンフェアですよ。それになんで竹輪なんですか!バームクーヘンでも食べてくださいよ!いや、タイヤでいいですよタイヤ!
SCP-1072-JP-J: あくまで仮の話だ。先生の添削に間違いなど無いから、その様な事は考えなくても良い。
宮田博士: (口頭発言)…今井████君。句点を10個ほど書きなさい。
今井████: (口頭発言)えっ?でもそれじゃ…。
宮田博士: (口頭発言)いいから書きたまえ。
補足説明: 今井████氏は質問欄に"。"を10個記載した。書き終えた後、記載した句点は全て赤色に変わり、机にSCP-1072-JP-J-nが10個発生した。
SCP-1072-JP-J: あっ!御前、何という事を…。同胞の命を何だと思っているのかっ!酷い奴だな。ドーナッツに栄光あれ!さぁ!ドーナッツを食え!つ◎
宮田博士:(口頭発言)インタビューを終了します。
<記録終了>
補遺1: インタビュー終了後、SCP-1072-JP-J-1が記録していた報告書に赤字で添削の記載が多数発生し、机にSCP-1072-JP-J-nが22個出現した。SCP-1072-JP-J-1は今井████氏と一緒に机上のSCP-1072-JP-J-nを全て平らげた。
補遺2: インタビュー終了後、今井████氏にはAクラスの記憶処理を適用し、カバーストーリー「経済ゼミの強化合宿」「大食い訓練」を適用し、帰宅させた。
補遺3: SCP-1072-JP-Jの記載内容より████████(ラノベ作家)の身辺を調査した処、ファン感謝祭の1か月前に脳梗塞で急死した█████出版の編集員████████氏の存在を確認した。████████(ラノベ作家)は業界でも遅筆で有名であり、入校時期が近くになるとよく編集員████████氏との間で喧嘩する事が多かった。編集員████████氏は深夜残業する事が多く、ドーナッツを主食代わりに食べる事があった。
補遺4: 以下を記す。インタビュー終了後、SCP-1072-JP-Jの報告書を提出したSCP-1072-JP-J-1は、サイト-8141の空いている人型生物収容室への転室の申請を提出した。サイト-8141の総務課にSCP-1072-JP-J-1が出向き、転室届出を提出していた際、SCP-1072-JP-J-1の手に持つビニール袋にはSCP-1072-JP-J-nが十数個入っているのを手続きを対応した職員は目撃していた。
SCP-1072-JP-J-1は「完璧な書類を作れる様に俺はなる。」と言い残し、Dクラス要員を代替とする収容プロトコルの適用に反対して収容室に入り込んでいった。
補遺5: 以下を記す。
本報告に対して現実改変が施されております。現実改変への対処措置を実施していただけるよう進言します。
申請却下。提出後の現実改変は見られない。また赤い句点程度の追記についてはSCP-1072-JP-Jの特性による物とし不問とする。精進に励む事。Study.Complete.Perfect.(O5-JP)
補遺6: 以下を記す。
SCP-1072-JP-J-1がいつもSCP-1072-JP-J-1-nを持ち歩いている様子より、最近ではサイト内ではSCP-1072-JP-J-1の事を「ドーナッツ製造機」「ドーナッツ召喚士」「ドーナッツマスター宮田」「ピン・で・ドーナッツ屋」と噂されています。
最近、SCP-1072-JP-J-1が収容室内で書き残したと思えるメモを発見した。本報告書に資料として添えます。
くそったれ
"言葉使いが下品です。バラの養生を致します。に訂正する事。"
。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。