本棚

目が覚める。
時計を確認する。
時刻は午前10時。ここ30回くらいの目覚めはこの時刻だ。
日付は8/31。曜日は木曜日。夏休みの最終日である。
セットしていない目覚まし時計の横では、見慣れたメトロノームが揺れていた。


部屋から出て、朝食にする。特に用意はなく、菓子パンが置いているだけだ。
当然のように両親はいない。まあ今日も仕事だろう。
僕は今日も、人に決められた予定はない。が、自分で決めた予定はある。
パンを食べたら着替えを済ませ、財布や水筒なんかの用意を終え、11時前に家を出た。


僕はまだ学生で、車やバイクの免許を取るのは高校から禁止されている。
だから今日くらい遠出するとなると、方法は電車くらいしかない。
駅に着くと丁度特急が来たので、それに乗る。まずは終点までだ。


ぼんやりと窓から流れる景色を眺めていたら、いつの間にか終点だった。
もう県は変わっている。
人の流れに乗って、改札を出る。
普段の通学ではここまで乗らないので、この辺りの景色に見覚えはない。


いい時間だったので、見慣れた牛丼チェーン店で昼食にする。
今日は貯金を全部持ってきたので、お金は余裕がある。
それでは、次の電車だ。


それから何度か特急や新幹線を乗り継ぎ、██についた。
太陽はもう落ちて、世界を照らすのは人工光だけだ。
ここまで何の障害もなく来れた。
宿の予約はしていないので、駅の近くで適当に空いている宿を見つけた。


人当たりのいいお婆さんが女将さんをやっている宿だった。
女将さんは、夕食直前のこんな時間に突然来た僕を、嫌な顔ひとつ見せず迎えてくれた。
ただ、受付の端に置いてあったメトロノームはあまり良い趣味じゃないと思う。
部屋に通され、荷物を置き、広間で夕食をとる。


夕食はなかなか美味しかった。
見慣れない料理も多かったが、幸いどれも舌に合った。
お金はかかるが、旅行を趣味にするのもいいかもしれない。


部屋に戻り、畳の上に転がる。
結構な金額を持ってきたつもりだったが、帰りの分は厳しいかもしれない。
どうやって帰ろうか。
夜行バスは安いと聞いたことがあるが、どうだろう。
そんなことをスマホで調べる。


風呂は、部屋についているシャワーで済ませた。
慣れないことをして疲れたので、とっとと寝よう。
普段のベッドとは違う、畳の上に敷いた布団の感覚に少し戸惑うが、すぐに眠りに落ちた。