鴉羽博士の巣

タグ:人間型 負号部隊 軍事 儀式

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: サイト-81██の人型オブジェクト収容房に収容されている。

説明: 西行の行なった反魂の秘法と(長谷雄草紙に記載のある鬼の秘術)を用いて作り出した兵士のSCP。

西行の行なった反魂の秘法を「正しい」方法で再現し、その過程に改変/改良を加えることで人型実体の製造に成功する。
訓練無しで銃火器や航空機などの兵器を扱うことができる。強力な爆発や、「桜の木でできた楔」を頭部か心臓に突き刺すことで殺害可能。逆に言えばそれ以外の方法では殺せない。
外見も変更可能だが、変形する対象の体組織を儀式に取り入れなければならない。

SCP-XXX-JPの体組織が通常の人間の体内に入ると、SCP-XXX-JPと同等の存在(SCP-XXX-JP-1)に変化する。
ただこの場合は外見の変更ができないほか、細胞が対象の体組織に置換されるまで7日間を要し、移植から80日後に消滅するデメリットがある。

補遺1: 和歌山県・高野山において蒐集院の残党の拠点が発見されたが、現場にいたフィールドエージェントからの通信が途絶えた。
これを受けて財団機動部隊が投入されたが既に拠点はもぬけの殻となっていた。拠点内ではSCP-XXX-JPの量産体制が整っており、蒐集院の残党がSCP-XXX-JPを利用した財団施設への襲撃を計画していたことが判明。以降、対SCP-XXX-JP用に訓練された機動部隊が重要施設に配備された。

また、中華人民共和国・遼寧省でもSCP-XXX-JPと思われる人型実体の報告があり、一部は中国支部の収容下にある。アジアを中心とする旧日本陸軍の主戦地における調査が現在計画されている。

午後3時、スイーツを食べて休憩するのが、私の日課だ。
食べるのものは日によって変わるが、今日は自作のイチゴタルトだ。タッパーに入っているタルトの数は2つ。
1つ目に手を伸ばしたその時だった。
ドアの誰かがノックしている。
「氷菓さん、います?」

心臓が急に早鐘を打ち始める。
彼、鴉羽博士だ。彼とも時々この休憩時間を過ごすのだが、これまでは自分から誘っていて、彼の方から来たことは一度もなかった。
顔が赤くなるのを感じる。一気に熱を帯びていく。

このままじゃ、顔を合わせられないよ…。

「氷菓さーん…いないのかな?」
その言葉を聞いた時、私はいつの間にかドアを開けていた。
当然だが、正面には彼がいた。勢いよく開けたせいか、彼の顔には戸惑いが浮かんでいる。
「あれ、取り込み中でしたか?」
「いや…!そんなことないですよ!そうだ、ちょうど休憩してたので、一緒にお茶でもどうですか!?」
自分でも早口だと認識していた。また顔が赤くなるのを感じ、顔を伏せる。
「いいんですか?それじゃ、お邪魔しちゃおうかな」

机を挟んで向かい合うも、目を合わせるどころか彼の顔が見れない。
「どうかしたんですか…?」
ついに、彼が声をかけてきた。
彼の目には、心配事があるように見えているのだろうか。確かに、心配事はある。しかし、それが目の前にいる彼の事であるとはよもや思うまい。
私は、慌てて飲み物とイチゴタルトを出す。彼にはレモンティーや紅茶を飲む文化が無いらしく、飲むのはいつもウーロン茶だ。

「そういえばこのイチゴタルト、美味しいですね。どこで売ってるんです?」
「あ、あの…このイチゴタルト、私が作ったものなんです…。」
何度か彼に出していたが、自分で作ったことを話したことはない。彼の目が見開かれ、目線が手元のタルトと私の顔を行ったり来たりしている。彼の顔が少し赤くなる。
「あ、あの、すごく美味しいです。ごちそうさまでした」
こちらまで顔が赤くなる。もうどうにかしてほしい。

ふと時計を見ると、休憩時間はあっという間に過ぎていた。いつもの時間を10分も過ぎている。
その事に、ほぼ同時に気付いたのだろう。彼はお礼を言って、部屋を後にした。
彼と一緒にいると、どうしても時間が早く感じてしまう。
時間はいつだって同じ早さで流れているはずなのに。自分はその時間を知覚する能力があるはずなのに。

彼はイチゴが苦手なはずだ。しかし、イチゴタルトを食べた時のあの顔には、偽りなき感情が出ていた。
あの顔が見たくて。

そこまで考えて、ふと気付いた。
…何考えてるの、私!

自分の作ったものを食べてくれる人は他にもいるが、これまで彼ほど感情を出した人物はいなかった。

しかし、私は邪推してしまった。
もし彼がタルトを目的に私のところに来ていたとしたら…?
自分の考えたことに嫌気が差す。しかし、その考えは頭の中にいつまでも、粘っこい泥のように残り続けた。

今度は私から彼を誘う。今日は自作ではなく、近所のスイーツ店のものだ。
彼がタルトに手を伸ばし、食べる。彼の顔がこちらを向く。
「いつもと味が違いますね、コレ」
彼が席を立つのを覚悟した。しかし、彼は穏やかな顔でこちらを見ている。
「…そんなところだと思いましたよ、氷菓さん。タルトを目的に来てるんじゃないかって」
「え、いや、そんなつもりは…」
「大丈夫ですよ、氷菓さん。氷菓さんとのこういう時間が好きなんですよ」
彼は相変わらず穏やかな顔でこちらを見ている。
私は席を立ち、彼に近寄って、顔を埋める。彼は微動だにしなかった。

この時、涙を流していたことに気付いたのは、後になってからのことだった。