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一般人によって撮影された出現直後のSCP-XXX-JP

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはその性質上収容は不可能です。定期的にSCP-XXX-JPによって発生する異常と類似した行動をする不審者の情報をニュース番組やSNS上で流布します。SCP-XXX-JP出現が確認された場合フィールドエージェントを派遣、周辺住民へのインタビュー後記憶処理を行ってください。

説明: SCP-XXX-JPは全国各地の施錠された玄関扉前(主に一般家屋)に、午前1時〜午前3時の間に出現する存在です。SCP-XXX-JPは概ね人型をしており、出現は毎年2、3例確認されています。監視カメラ・ドアスコープ・外部からの観測者などではSCP-XXX-JPを観測できず、唯一すりガラスが用いられた扉でのみシルエットとして存在を確認することができます。

SCP-XXX-JPの行動は出現から時間が経過する毎に変化します。

経過時間 行動 備考
出現直後 扉にノックをし、低い男性の声で「開けてください」と発声する。 声量はごく小さなもので、声色は穏やかなものである。また、この時点より扉への内外部からの干渉が不可能となる。
約1分 扉を連続でノックし、「開けてください」と連呼するようになる。 声量は若干の増大を見せる。
約30分 扉へ強い衝撃を与え始める。発声の内容は前段階と同様。 声量は前段階からさらに増大する。声に焦燥感や切迫感が感じ始められる。
約1時間 前段階よりさらに強い衝撃を扉に加えるようになる。また、発声の内容は「開けてください」から「開けろ」へと変化する。 声量は前段階からさらに増大し、焦燥感や切迫感が顕著に感じられるようになる。
約2時間 SCP-XXX-JPが扉前から移動することはないが、扉への衝撃に加えて家屋の窓も同様の衝撃を受けるようになる。また、内容のある発声を行わなくなり、断続的な叫びをあげるようになる。 声量は周辺一帯が聞き取ることが可能である程度にまで増大する。
約2時間30分 扉、窓への衝撃に加え、家屋に存在する壁が同様の衝撃を受けるようになる。この場合もSCP-XXX-JPの移動は確認されない。また、発声を一切行わなくなる。 時折、SCP-XXX-JPのシルエットが悶えるように動くことが確認される。
約3時間 突如として全ての行動を中止し消失する。消失地点付近から人糞のものに似た悪臭が確認される。この悪臭は時間の経過とともに薄れ、5時間程度で完全に確認できなくなる。 これまでのSCP-XXX-JPのあらゆる行動は扉、窓、壁の破壊に至らない。

異動が決定した。異動先は東京のサイト-81██。危険性の低いオブジェクトが多数収容されているサイトである。私の専門分野がオブジェクトの研究に不可欠とあれば、行くしかないだろう。私は異動決定からすぐに荷物をまとめ、秋田から東京へ向かった。




SCP-1773-JP、ですか」
「そうだ。君には今度、これの実験に参加してもらう」

新しい生活に慣れ、研究にもある程度の成果が出始めた頃、私は上司である橋井博士から報告書を手渡された。

SCP-1773-JP。1枚のフライングディスクらしい。投げると、周りのイエイヌが回転して飛翔するとか。しかも追加実験では、イエイヌのぬいぐるみやイエイヌの着ぐるみを着た人間も飛翔してしまうことが判明している。誰が何のために作ったのかまったく不明の代物である。

「岩田くんから聞いたが、君は――」
「はい」
「まあいい。大丈夫だろう。詳細が決定し次第連絡するよ」

そう言って橋井博士はさっさと私の研究室から出て行った。

イエイヌ。橋井博士はおそらく、それに反応したのだろう。秋田での上司に当たる岩田博士と旧知の中である彼ならば、私が一度厳重注意を受けた身であることを知っているはずだ。あれもイエイヌだった。若気の至りというやつで、今思うとありえないことをしてしまったと反省している。岩田博士の、呆れたような哀れむような目が今も忘れられない。

後日、橋井博士から詳細の連絡を受け、私は部下を連れて地下の巨大実験場へ向かった。本来、広範囲にわたる異常性を有するオブジェクトの距離限界などを調査する場所なのだが、SCP-1773-JPの異常性とよく噛み合うということで実験場として採用されたようだ。飛翔したイエイヌが衝突して破壊されるような物もないし、なにより広い。新たな発見があるかもしれない。

「こっちOKです!」

部下が大声で叫ぶ。観測機器の準備、イエイヌやぬいぐるみのセット、何から何まで計画通り。今回は試験的に、おもちゃの犬耳をつけたDクラスを待機させているが、不服そうな顔をするのみで特に反抗の意思は見られない。後は、SCP-1773-JPを投げるだけ。これは私の役目だ。投げた瞬間に観測室に入り、イエイヌの軌道を観察する。

「いくぞ!」

私は腕をしならせ、SCP-1773-JPを思い切り宙に投げた。





気がつくと、私は体をありえない角度で曲げ、イエイヌやぬいぐるみ、Dクラスと共に宙を舞っていた。

「糸目博士!」

部下が観測室から飛び出して私の名を叫んでいる。

空を飛ぶという不思議な感覚の中で、私はあの
煮物の味を思い出していた。

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