因幡博士の設計企画書


HPC構文テスト

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取捨選択

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「サイガ様!」

大男が叫びながら司令室へと駆け込んできた。

「敵性両生類の個体数が急激に増加しました!今や数百単位で暴れています!」

「サイガ様」は男に背を向けたまま、眼前に広がる24のモニターを睨め付けていた。その三割は激しい銃撃戦の跡が残る廃墟を映し、残る七割は白黒の砂嵐に埋め尽くされていた。

「ミハイル、軍の状況を」

大男ーミハイル・ロックハートは報告を続ける。

「シガスタンからの増援部隊が全滅!北米連合共和国の最新兵器でも奴らの処理は間に合いません。しかも援護に来るはずの日本00軍との連絡が途絶。これでは奴らを食い止められません!」

サイガは大男を見ないまま苛立ちの言葉を投げる。

「でも、この任務はわたくしたちにしかできません!蛙ごときが何ですか!サイガの名の下に、+23.3°の住民たちを守り抜いてみせます!」

「しかしー」

大男の反論を制止しつつサイガは振り向く。

「軍の指揮に戻りなさい。臨時政府に総力を挙げて侵略者を排撃するよう伝えてー」

サイガの目は立ち尽くすミハイルを捉えた。それまで呆然としていた大男の口元が歪み、その胸から声が出力された。

「それには及ばないよ、サイガ君」

次の瞬間、大男の胸に虚空が開いた。穴は瞬く間にその直径を広げ、ミハイルの上半身全てを飲み込んだ。崩れ落ちる男の巨躯から、全く別の男がやおら身をせり出した。

「誰!?私の部下に何をしたの!」

「失礼、『廻天』の到着座標の設定ミスだ。でもお陰で面白い話が聞けたよ」

くたびれた白衣に身を包む初老の男と、たった今犠牲になった大男の鮮血をたっぷりと浴びた揺りかごが、この世界へと足を踏み入れてきた。

「僕の名前サイガ」

女が身じろぎする。男は愛想笑いを浮かべて言葉を続けた。

「詳しく名乗るなら、僕はS4-7、-203.5°のS。君は確かS5-11かな?」

あらゆる並行世界に救いの塔を打ち立てるという使命を教えてくれた師と自分の2人以外にも、何百何千もの「サイガ」が存在していることは女も知っていた。だが実際に会うのは初めてだ。

「貴方がサイガであるのなら、当然この世界を救う手助けに来たのですよね」

モニターに目を向けた男は即答した。

「残念だが、ノーだ」

「何故です?全ての並行世界を救うことが私の師匠、そして私の願いです。それがサイガの使命ではないですか」

「君の先代は確かに世渡りが凄く上手かったけど、普通はそんな綺麗ごとばかり言ってられないものさ」

男は表情一つ変えずに続ける。

「+251.7°の大旱魃を止めるために、隣のヒドローア界の海水を抜かなきゃならなくて。住民の移住先にこの世界が必要なんだ。哺乳類が文明を持つ世界は掃いて捨てるほどあるけどヒドローア人は替えがいないから」

「まさか、あの蛙どもをー」

司令室に更に大きな空間の歪みが発生したことを女は感じ取った。その中に潜む恐るべき魔獣の気配も。

「原住民の抵抗力を削ぐため部下たちに撹乱させる必要があったし、援軍の一つは先に世界ごと穴に落とす羽目になった」

モニターに映る壁の落書き、『サイガ来ル ウケイレヨ』の文字を一瞥して男が言う。

「この角度は君の管轄じゃ無かったはずだが?他の仕事はどうしたんだ」

「滅びようとする世界があるのに、誰が放っておけますか!」

「そうか、やっぱり君はまだ若いんだね」

いつの間にか、二人の周囲を取り囲むようにして、肌色の巨大な蛙が司令室に現れていた。三、五、十、いやそれ以上。彼等の血走る視線の先には、世界の放棄を迫られている女の姿があった。

彩芽サイガ君、君をここで散らせるのは僕の望むところじゃない。持ち場に戻ってくれ」

「ぐ…」

最早選択の余地は無かった。しばしの沈黙の後、彼女の身体は司令室の床へ沈み込み始めた。

「覚えてなさい!いずれ必ずこの世界を畜生どもから取り戻します…」

彩芽が世界から脱出したことを確認すると、男はヒドローアの民に告げた。

「済まないが、僕等にはこの世界の人々は救えない。彼等を亡ぼし、その礎の上に君達を入植させる。強い生命力、宇宙の摂理たるエントロピーに抵抗できる力を保全するために、君達には生き延びてもらわなければ。それが取捨選択というものだ」

救世主のお告げを聞く蛙たちは、その身体を震わせて「スマナイ」「スクエナイ」と繰り返す。

「救済の焔がこの世界を焼き払ったことを確かめよう」

そう言い残して西牙サイガは司令室を出て行った。


日常の匂いが未だに滲みこんだ瓦礫の中に、男は立っていた。彼の丈の長い白衣は埃と血で随分と汚れている。

「救えた…+251.7°では今頃、数百年ぶりに雨が降っている…」

男は天を仰いだ。はかない橙色の夕焼けと、きらめく星々が彼の瞳に入り込む。足元に転がる奇妙にひしゃげた血塗れの揺りかごが、風に揺れかすかな音を立てた。

「素晴らしい…」

見上げたままの顔から一筋、涙が流れた。歓喜の涙が。

──+0.0°基底宇宙の分割者


[下書きここまで]

使用した元記事
SCP-233-JP
SCP-280-JP
SCP-1780-JP
犀賀とSaigaの往復書簡より 彩芽
"犀賀派"に関する一次調査報告 より 回収文書A第4節

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