notyetDrのサンドボックス

アイテム番号: SCP-XXXX-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは真空保存した上で低危険度物品収容室に保管されます。財団が保護していたSCP-XXX-JP-AおよびSCP-XXX-JP-A'がすべて死亡したため、SCP-XXX-JP-A専用収容ユニットは破棄されました。有害性および危険性のため、新しくSCP-XXX-JP-Aを発生させる実験は無期限に凍結されています。

説明: SCP-XXX-JPは脊椎動物の血液に類似した成分組成を持つ液体です。SCP-XXX-JPは通常の血液と異なり、非常に強い酸性を示します。SCP-XXX-JPを経口摂取した陸上に生息する生物(以下、SCP-XXX-JP-A)は1週間ほどの期間をかけて肉体の構造を変化させます。SCP-XXX-JPの摂取によってもたらされる変化には肺あるいは気門の退化と鰓の発生および発達、鱗の発生、前腕を除く脚部の癒着などがあります。また、SCP-XXX-JP-Aの血液はSCP-XXX-JPへと変化します。呼吸器をはじめとする器官の急激な変化に伴い、SCP-XXX-JP-Aは高い確率で死亡しますが、一部のSCP-XXX-JP-Aは海水中での生存に適応します。なお、SCP-XXX-JPを経口以外の経緯によって摂取した生物および水中に生息する生物に対してSCP-XXX-JPは異常性を示さず、非異常性の強酸と同様の作用をもたらします。

ヒトを除くSCP-XXX-JP-Aは海中での生存に適応する以上の変化を起こしません。しかし、SCP-XXX-JP-Aとなったヒトの肉体はその後も変化を続け、より低温/高圧の環境に適した構造へと変化します。最終的にヒトSCP-XXX-JP-A(以降、SCP-XXX-JP-A')に適した環境は水深5000 m相当になると考えられています。陸上で再現された環境において、SCP-XXX-JP-A'を1年以上生存させる試みに成功した事例はありません。

SCP-XXX-JP-A'は水中における発声機能を獲得し、SCP-XXX-JP-A'同士で単純な意思疎通を行います。意思疎通の精度はSCP-XXX-JP-A'が本来使用していた言語に依存しません。また、SCP-XXX-JP-A'が発する音声は人間に対して強い依存性と悪影響を持ちます。音声への暴露は短期間では平衡感覚や意識の消失、長期間では人格の崩壊をもたらします。

SCP-XXX-JPは宮城県の廃棄されたビル内に設置されていた海水で満たされた大型の水槽から発見されました。また水槽の傍には数カ月前に失踪していた桂木 昴氏が横たわっているところが発見されました。桂木氏の人格は長期にわたるSCP-XXX-JP-A'の音声への暴露によって完全に崩壊していると考えられ、財団で保護されています。事情徴収の試みは成功していません。以下は桂木氏によって書かれたと考えられる走り書きの内容です。
文書XXX-JP

書きのこしとく、おれが正気でいるうちに。今もだいぶ支りめつれつだが、たぶん、明日はもっとひどい。今がいちばんましだろう。だれか、これをよむ人、アルキュネを海にかえしてやってくれ。おれにはできない。もう海にもどこにもいけないし、きっとこの、歌とはなれられない。おねがいだ。陸でくらせる体じゃなかった。おれはいくじなしだ。

よみ返したらまるで意味がわからなかったので説明する。上のアルキュネってのは水そう内にいるひと。海に返してやってくれ。

一回順を追って書く。せいりにもなるかもしれん。一番さい初はおぼれかけた夜に彼女の歌を聞いたことが始まりだった。いやもっと前だったか。みんな幸せになったから事故が起きたんだろう。とにかくおれは海に放り出され、そして気づいたら歌に彼女に抱きあげられていた。浜辺に連れて行ってくれるときにヒトじゃないとわかったが、気にならなかった。浜についてさよならと言われたときにおれは引き止めた。もう一回会いたいとたのみこんだ。そして一週間してアルキュネが浜辺に立ってるのを見た。夜見たときとちがってきれいな足で立っていた。でも声は失われていた。あの声があっては人と一しょにくらせないということらしかった。(後で聞いた。正しかった)
おれはそれでがっかりした。ひどい事を言った気もする。アルキュネは困ったように笑って二人ですごせる場所(人がいない)と大きな海水をためておける入れ物がほしいと絵でおれにいった。このビルを見つけてじゅんびが出来たころ彼女は一つのくすりビンを持ってきて半分のんだ。

多大な苦しみのはてにアルキュネは声を取りもどした。あんなに苦しむと知ってたらたのまなかった。いや、たのんだかな。頼むべきじゃなかったな。あの声を取り戻すことをねがわないなんて事があるか?

そうしておれは望んでいたものを手にいれた。はい初は幸せで天にのぼるような心地だった。それだけきれいな歌なんだ。どこまでも上に上がっていけるような。そう言ったらアルキュネは「水面であなたを見つけたようなことか」とふしぎそうに聞いた。かの女は空を[判読不可能箇所]つづきはしなかった。アルキュネは弱りはじめた。おれの頭は日に日におかしくなっていく。彼女をきずつけるかもしれない。かえさなきゃいけないが、おれはこのビルを出られない。
出たいとも思わない、なんで離れなきゃいけない?どうしろと。どうすればいい? この[以下判読不可能]

よみ返して気づいた。まだ半分のこってる。あれがあれば、おれも海にかえれる。一しょに。なぜ忘れていた? そうすれば一緒に歌える。さがさなきゃいけない。どこにある? ぬすまれたのか? あいつら? そんなことできるはずがない。メモ、おきたらアルキュネに聞く。最近はねているときが長くなっている。

彼女に言った。薬はあいつが持っていた。そして、おれにそれを与えることなく消えてしまった。ちょっと泣いて、歌って、それで終わり。気づいたら泡があって、弾けて、アルキュネはどこにもいなかった。それっきり。どうしておれをおいていった?許さないくすりをさがさないと。

見つからない。あれがあればまた会えるのに。探すことができない。もうまっすぐ立てなくなっている。このまま死ぬんだろう。ごめん、アルキュネ。きみの王子にはなれなかった。

財団管轄下のSCP-XXX-JP-A'は全て死亡した後に異常性を示さず、文書中で言及された"泡"の再現には成功していません。桂木氏とSCP- XXX-JP-A'を引き合わせる試みは全て桂木氏による"歌"の請願および否定という結果に終わっています。

別れの言葉というものが、どうにも苦手だ。愛らしきクソガキだった頃から今に至るまで、ずっと治らない。

塚原さんと最初に会ったのはおよそ二年前のことだった。自分が財団のエージェントになったごく初期、初めて出動した緊急事態の時に出会った人だ。財団での知り合いの中では最も付き合いが長い人の一人とも言える。とはいえ、これで記録の更新も停止になるのだ。別れを経験するのは今に始まったことではないし、お別れが言えるだけ恵まれていると言えよう。

「失礼します。桜庭です」
「どうぞ」

しかも、今回は返事が返ってくるのである。扉の向こうは荷造りの真っ最中だった。幾つものダンボール箱に私物が詰められていく。積み上げられた荷物の量を見るに、まだまだ先は長そうだ。明後日出立と聞いていた気もするが。彼の手際の良さを見るに、捗ってなおこの有様というわけだ。そうなる理由は簡単である。

「相変わらず物が多いですね」
「これでも大分減らしてるんですけどね。あなたも何か持って行きます?」

部屋の主、塚原上級研究員は几帳面に棚の上に並べられた品々を片手で示した。ちょっとした小物から実用的なものまで、細々と揃えられている。しかし、それらの私物に統一感というものはない。殆どが土産と貰い物だからだ。そして、塚原さんは比較的物を大事に取っておく人で、飾っておく人でもあった。曰く、多くのフィールドエージェントに懐かれる人間にはこういう物品の集合がよく発生するらしい。その結果がこのごった煮という訳だ。

「いや、これ塚原さんにって貰ったものじゃないんですか」
「その通りだし、全部持っていきたかったんですけどね。業務と関係しないものは控えろって釘を刺されちゃって」
「……まあ、塚原さんだったら移動先でも物増やしてそうですしね」
「否定は出来ませんけど。そういう訳なんで、大半は残念ながらここに残していく事になりそうです」

処分するのも忍びないから、形見分けを兼ねてこのサイトの職員たちに欲しいものを持っていってもらっている、とのことだった。道理で最近この部屋の前が賑やかなわけだ。別れを惜しむ職員が集まっているにしてはどうも表情が明るいと思った。それでいいんだろうか、と思いながらも促されるままに一本のボールペンを手に取る。裏返してみると、ノベルティの類だったらしく、見慣れたロゴが記されていた。財団内で見慣れた、という意味であり、つまりろくでもない企業だという意味でもある。

「ニッソのフロント企業じゃないですか」
「そうそう、日本生類創研に潜入した人が生還の記念にって。異常性はないですよ」
「そうでしょうけど。じゃ、これ貰っておきます」
「それだけでいいんだ? 松岡君とかはすごい量を抱えて行きましたけど」

同期の名前を出されて、桜庭は顔を顰めた。エージェントとしては尊敬しているし、人間としても決して嫌いではないが、ここで同列にされるには少し嫌な相手だ。共に不条理と戦うという時にあの不真面目さはいただけない。少々露骨に表情に出ていたのだろう、塚原さんは不思議そうにこちらを見た。「いいやつなんですけどね。ふざけたやつですが」と付け加えておく。

「業務中に平気で下ネタ飛ばしてきますからね、あいつ。仕方なしに乗ったらめちゃくちゃ蔑んだ目で見てくるし」
「一体何を言ったんです」
「やだぁ、まだ昼間ですよ塚原さん」

正直に言えば、男にゴミを見るような目で見られてもあまり嬉しくない。というか、女性であっても塚原さんのような人に軽蔑されるのは普通につらい。ありがたい事に、彼はそれ以上追及してこなかった。まあ、向こうも忙しいのだろう。そう思ったところで、彼が手を止めてじっと手元を見ている事に気付いた。ここまで会話していてもずっと手を止めずにいたから、少し興味が湧いて身を乗り出す。彼はこちらの様子にも気づいていないようだった。これも珍しいことだ。

「掘り出し物か何かです?」
「ん? ああ、個人的にね」

塚原さんは手にしていたものを机の上に置いた。小さな木箱で、蓋には小さく「SCP-932-JP 炭化した体組織の一部(異常性は確認されず)」と書かれていた。桜庭は932-JP、と小声で繰り返す。聞き覚えがあると強く思ったのだ。だが、番号だけで思い出せるほどまだ彼は修練を積んでいる訳ではない。

「藁で出来た小さいフクロウです。かなり賢くて、人にも懐く」
「……ああ。あの時の」

 赤い閃光が閃くように記憶が蘇った。エージェントとして初めて体験した緊急異常事態。サイト-81██で発生した要注意団体の潜入。鳴り響く警報と、燃え尽きた小さな煤の塊。思い出した。SCP-932-JP、同僚たちには簡単にワラフクロウ、と呼んでいたオブジェクトだ。そいつが身を挺して外敵に特攻したおかげで自分たちが間に合い、財団の機密と一人の担当職員が守られたのだ。その職員こそが塚原さんだった。そうか、あの時の煤を彼は持っていたのか。

「あれ、知ってるんですか?」
「はい。あの時駆けつけた中にいたんですよ、俺」
「あの時の! すみません、覚えてなかった。その時はお世話になりました」
「いえ、仕方ないですよ。ペーペーで全然役に立ってなかったし」

自分だって記憶は大分曖昧になっている。実際オブジェクトの詳細も番号だけでは思い出せなかった。試しに記憶を辿ってみて、欠落の多さに時の流れを改めて突きつけられる。財団での2年は長い。その間に多くのものを得て、多くのものを失った。あの時あの場所に居合わせた職員で今もこのサイトに残っているのは自分と塚原さんくらいだ。このサイトはそれなりに人の出入りが多い事を考えても、残酷な時の流れだと思う。

「そうか、あの時の新米さんが頼もしくなって」
「親ですかあんたは」
反射的な突っ込みを入れる。ああまた締まらない空気にしてしまうな、と思った。まあ向こうも一応は笑っているから及第点といった所か。ふと、この顔はあの時にも見たなと思い出した。安全が確認された直後、床に散らばった燃えかすを拾い集めているときだ。この日とはこういう笑い方をしていた。一体どういう別れの言葉を口にしていたのだろう。騒動の最中でそれどころではなく、新米には当然聞き取ることも出来なかったのだ。今になってその事が急に残念に思われた。
あの時の台詞がわかれば、今何を言うべきかもわかるだろう。「親かよ」だとか下ネタを振ってくる先輩の話しだとか、そういうのじゃない、ちゃんとした相応しい言葉が。それは確信に近い直感だった。
「……何か?」
「ああ、いえ。大した事でもないんですが」
 ただ、それをこの場で聞くことに躊躇するかどうかとは別問題だ。

形状記憶の天使 下書きディスカッション
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