アイテム番号: SCP-CN-013
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: オブジェクトはサイト-CN-71の猫用品を配備した小型房へ収容されます。現在はケア研究員によって監視及び飼育が行われています。オブジェクトへは毎日、成年に達したオスのイエネコが一日に必要とする栄養素を満たすキャットフードを提供します。毎週、お気に入りのツナ缶を少量与える事が適当でしょう。対象の精神状況から引き起こされる絶食傾向へは強く注意を払わねばなりません。
オブジェクトの身に着けていた鞄及び内部の物品はサイトの非危険物品収容ユニットへ保管されます。
説明: SCP-CN-013は一体のオスのイエネコ(Felis catus)です。体毛は黒く、黄色い瞳には切れ長の瞳孔が見受けられます。頸部には半径3cmの中空のガラス球が未知の手段によって埋め込まれています。ガラス球の内部では人型をした青い煙霧状の内容物が絶え間なく揺れ動いています。球体の二分の一はオブジェクトの体内へ埋没しています。オブジェクト頸部周辺の皮膚へ接触する事でその一部分の存在を触覚可能です。
オブジェクトは言語を明瞭に理解し、また反応する事が可能です。検査の結果人間と似通った精神を持つ事が判明しました。行動には明らかな抑鬱傾向、対人嫌悪、食欲不振が示されます。突然に怒り吠え、あるいは独り泣き咽ぶ様子が観察可能です。オブジェクトは研究員との交流の際、往々にして頸部に存在する異物の除去を要望します。
オブジェクトは███年██月█日、マカオの聖安多尼アントニオ堂区で回収されました。当時賈伯楽カブラル提督街において継続的に発生していた咳嗽、及び青い煙の噴出がフィールドエージェントであるケヴィン・イップの注意を引きました。エージェントは購入したペットキャリーによって対象を一時的に確保し、サイト-CN-71へ迅速に移送しました。全ての目撃者にはCクラス記憶処理が適用されました。オブジェクトは痛みに耐えかね本来の所有者の元から脱走したものと推測されます。
本来、オブジェクトの腰部には茶革の肩掛け鞄が括りつけられていました。オブジェクトの旧所有者が物品を便利に携帯する事を試みたためと推測されます。内部からはオブジェクト旧所有者の所持物であると思われる大量の物品が発見されました。内、更なる調査の価値が期待される物品は以下:
- オブジェクトの頸部に嵌った物体と同一の特徴を持つ七つのガラス球体。“Ai.L”の文字が刻印されている。球体の一部表面にはオブジェクトの筋繊維組織が付着している。使用後にオブジェクトの身体から摘出、廃棄されたものと思われる。
- 用紙一枚。内容は以下: “奇術の類は得意ではない。カサンドラに頼まれた時には、気持ちはやまやまだが実力が追いついていないと弁明した。それでも全力を尽くして、私に作る事の出来る最高の霊魂保存器を用意した。決して専門品にも引けを取らない筈。それでも、あなたのボーイフレンドの魂が猫を依り代に命を保てる時間は決して長くはない。愛する人のためそれ程に尽くせるあなたに尊敬の念を抱く。終わりを迎えるまでにどうか心の準備をしておくように。-Ai.L”
- 若い男女の写ったポラロイド写真。写真の下部には“最高の水彩画家とそのガールフレンド、そして彼女の猫♡”と黒いマーカーの文字列が記述される。男性は病衣を身に着けベッドに横たわり、女性はベッド手前の椅子に腰掛けている。両者はお互いの手を握り、カメラに向かって笑顔を向けている。オブジェクトは枕元で腹部を露出し寝転がっている。女性の着用するやや風変わりな暗灰色の長衣に留意する事。また、写真内のオブジェクト頸部に異物は見られない。
補遺:
██月█日█時、オブジェクトの鞄内部に存在する四辺形、柄付きの化粧鏡が呼び鈴に類似した音を発しました。鏡面は発光し、絶え間ない上下の反復運動によって文字を描きました。十分後、鏡面は正常状態へ回復しました。
文章記録:
魔法通信網よりカサンドラ様からの文書が伝達されました:
あなたのボーイフレンドについては本当にお気の毒です。Ai.Lは自分の事で手一杯ですから、あなたのためもう一度霊魂保存器を用意してくれる事は恐らくないでしょう。香港で彼女を捜す事もお勧めしません。C.C.名義上の所在地が香港だとしても、実際には粤港澳ユエガンアオ地区のどこにも存在してはいないのですから。あなたは香城シャンチァンに行った事がありませんね。私が居なければ行く事も出来ないのです。その上、香城に行けたとしても、招待されていない学院部外者が学院へと入る事は根本的に不可能です。ですからあちこちを捜し回る事は止めなさい。ましてやあなたは傷を負っているのでしょう。
百歩譲って、あなたが学院へ入れたとしましょう。そこでAi.Lを見つけ出したとして、彼女があなたのためにまた保存器を作ってくれる保証はあるのでしょうか? あなたの手元へ最も早く届いた一セットを精錬するため、私と彼女がどれだけ消耗したかご存知ですか? 彼女には無駄にして良い時間などないのです。私は冷酷なわけではありません、ただあなたに事実を認識して欲しいだけです。あなたの猫にはもう二つの命しか残っていません。仮にもっと多くの保存器があったとして、また余命を僅かに引き伸ばす事しか叶わないでしょう。その猫は既に十六回の輪廻の光陰に付き合って来ました。まさかその事に少しも心が痛まないとでも言うのですか?
彼を生き返らせる事を諦めて下さい。現実的な行いでないとはっきり認識すべきです。何故己を駄目にするのですか。人を甦らせる術式が実現したという記録は存在しません。何故僅かな希望に縋り自ら苦痛に身を預けるのですか。既に図書館はあなたを指名手配しています。あなたの身体には分類管理者の鞭打ち傷が刻まれているのでしょう。特別な措置をせねば、傷はひたすらに蛇の如く這い回り、蛇の如く、肉体を少しずつ綺麗に食べ尽す事になります。あなたが保存器にまつわる思考を捨て去る事を望みます。盗み出した本を返却しましょう。ひょっとすると、今ならまだ大目に見られるかもしれません。
もう二度と、「眼と眼で通じ合える」といった類の愚かな言葉を告げないで下さい。今のあなたはまるで中世で迫害を受けながら生きているかのようです。顔をご覧なさい、とても二十と何歳かには見えない。表世界の霊魂と朝な夕なを共にして、死を待ちわびてでもいるのですか? この有様を見て彼が喜ぶとでも思っているのですか?
あなたは彼と出会うべきではなかった。
私はあなた達二人の付き合いを快く思ってはいませんでした。ただ、彼と共にいる時のあなたの笑顔に気づいて、あなたを応援する事に決めました。彼があなたにこのような苦しみをもたらすと解っていたならば、彼と会わないよう勧めたのに。申し訳ありません、私はもうあなたのそのような姿を見たくはないのです。どうかお願いです、やり直してましょう。舞台裏の世界に帰りましょう。我々の全てを受け容れる場所、我々の属する場所へ。今回の不愉快な旅行の事は全て忘れましょう。
私はただ、次のカヴンで元の明るく朗らかなあなたに会える事を願っています。
調査によると、重篤病通知書内で宣告を受けた男性は██美術学院水彩専攻学生の███です。二年時の診断において食道癌が早期発見され、治療のため入院しました。指導教諭によれば"情熱に溢れた筆致で自身近辺の物事を捉える事に長ける。非常に写実的な描画スタイルと独特な色彩表現を併せ持ち、好んで燃えるような情感を曝け出す。稀に見る若者だ"との事。
留意事項として、在校時の作品《切望》に描かれた若い女性の容貌は、ポラロイド写真中の女性と一致したものです。更なる情報収集が進行中です。潜在的タイプ・ブルー個体の出現に対応するため、現在調査活動が計画されています。
アイテム番号: SCP-CN-022
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 財団情報部門は該当異常現象の頻出する地域を厳戒に監視して下さい。食肉加工場数十棟の管理ポストに財団のフィールドエージェントが配置されます。SCP-CN-022現象の発生時は、カバーストーリー"注水肉"を用い、影響を受けた地区へのアクセスを制限して下さい。SCP-CN-022より産出された食品は全て回収し、その後適切に処分されます。
説明: SCP-CN-022は広東省深圳セン市、広州市、及び珠海市の範囲で発生する一連の異常現象です。現象の全ては肉類製品加工場内で、通常11.00p.m.-4. 00p.m.の間に発生します。オブジェクトのプロセスが開始された場合に発生する現象は以下:
- 天井もしくは懸架されたベルトコンベアーから、10-12体の金属製、鉤針状の物体がひとりでに投下されます。鉤針の先端は同数の人型個体(以下SCP-CN-022-1と呼称)の踝を貫いており、同個体を吊り下げてベルトコンベアーへと移送します。SCP-CN-022-1実体の皮膚及び内臓は除去され、腹部は切開されています。注意すべき点として、実体の顔面特徴は発生時加工場内に存在した従業員と非常に類似します。
- 3-5分後、SCP-CN-022-1の口中から大量の液体が散布され、伴って突如霧状の気体が出現します。産出された液体には多量の液体アンモニア、リン酸アンモニウム、リン酸カリウム、エストロゲン、及びその他数十種の化合物が含有されます: 分析の結果によると、液体の組成は市場によく見られる肥料、除草剤及び殺虫剤製品と一致したものです。霧状気体の主要成分はピレスロイドです。
- 液体に接触した箇所からは、5-15秒後に、稲、小麦、トウモロコシ及び大豆、またそれらに限らない様々な農作物が成長します。植物は2分以内に開花し種実を生成します。この時点でSCP-CN-022-1個体は手を伸ばして植物を摘み取り、自らの腹部へ収め始めます。
- 全ての植物の摘み取りが完了した後、SCP-CN-022-1の開腹部はひとりでに閉じ合わさります。その後5分間、個体内部からは機械動作音、及び家禽/ 牛や羊の哀しげな叫び声が聞き取られます。またSCP-CN-022-1の筋組織及び脂肪が肉眼で視認可能な速度で除去されていき、最終的には骨格構造のみが残されます。
- この時間中、オブジェクトの体内からは冷凍食品、肉製品、インスタントラーメン、パン、ジャム及び缶詰製品を含む数種の加工食品が落下します。
- SCP-CN-022-1の骨格が落下、その後強力にローラーされ粉末化します。この時点で異常現象は終了し、未知な女性個体の号令が聞き取られます: "次!"
SCP-CN-022によって産出された加工食品の大部分には、SCP-CN-022-1の散布した液体由来の化学物質が含まれています。また、肉製品からはヒト及び家畜数種のDNAが検出されました。但し、それ以外の異常特性は認められません。異常現象発生時、プロセスの途中で現場から移動させたSCP-CN-022-1個体は、2分後にその全てが完全な灰と化しました。現在までの観察において、オブジェクトに知覚あるいは知性の兆候は見られませんでした。
経緯: █/██/2016、家禽屠殺場の夜間当直職員一名が、加工場のコンベアーに人間の死体が現れたと通報を行いました。警察の到着時、既にSCP-CN-022-1個体は消失していました。但し、大量の加工食品は依然として元の場所に存在しました。
工場内の監視映像に全ての過程が収められていた事から、財団職員が異常現象の存在を確認しました。この事件は虚偽通報として処理され、目撃者全員にBクラス記憶処理が適用されました。加工場の管理者へは、仕事の多大なストレスと不安定な精神状態が、その職員に幻覚を見せたのだと説明しました。
補遺CN-022-1: 現地のフィールドエージェントによって、加工食品の包装袋から一枚の青い用紙が回収されました。上部に文字列が印刷されている他、手書きの筆跡も見られます。抜粋は以下:
“Make Art, Not Bullcrap”コンテストへの参加応募に感謝します!
異常芸術が観衆を傷つけるべきではありません。
そうせずとも深遠な意味を持たせる事は可能なのです。
主催: C.C.美術学会
協力: 芸術科主任
参加者番号: 121-322
作品種別: 芸術装置|有機|写実暴力
知覚/知能を持つ実体を使用していませんか? 詳細に説明して下さい: いいえ。人型実体は事務所を通して買い付けられました。また、教員による改造を経て、性能と操作システムにおける少々の不安定さは除去されました。この材料の使用は学会に許諾済みです。
作品説明: 現代の食品加工産業には圧搾と屠殺が溢れている。動物だけには限らない。労働者と消費者もそこに含まれる――私達は皆、同じ生産ラインの上に居る。
推奨展示地: 珠江デルタ地域、肉類加工場
この文書を精査する過程で、スタッフは次の声を聞き取りました: "次はこんなヌルい名前のコンテストじゃなくても良いよね?"。身体年齢12-16歳程度の、恐らく女性の声であると推測されます。この現象が再度発生する事はありませんでした。検査の結果、文字自体はいかなる精神影響効果も持たない事が証明されました。
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学徒諸君、起立!!
皆とは初対面だな。まずは自己紹介から始めよう。私は劉、家政科教務の主任だ。同時に料理学会の顧問教諭でもある。もしもまだ学会に加入しておらず、また料理について興味を抱くのならば、授業後に参加申込を受け付けるとも。
礼。学徒諸君、御早う!
大変宜しい。では、席に着いて。
知らず知らずの内に一学期が過ぎ去っていった。諸君は学院での生活に慣れる事が出来ただろうか? 我等が聖クリスティーナ学院の他所とは違う先進的な校舎と教育課程に、皆は戸惑いを得た事だろう。だが心配無用。諸君は間もなく学院へ順応し、そして学院と、その全てを創り上げた学長殿を強く誇りに思う事となる。私はそう深く信じているよ。
さて、本題に入ろう。料理学会主催、新春のワークショップへようこそ。これより授業を始めよう。
このワークショップでは、皆にささやかな春節料理の調理法を伝授する。授業の後、諸君は諸君の家族がたいそう仰天する御馳走を作れるようになる。絶対と保証しよう。最初の授業では諸君に年糕ネンガオの作り方を教える。皆、私の手順に従い後を追うように。そこの調理器具には無闇に触れない事。外のものとそっくりな見た目だが、ずっと先進的なものである。些か危険でもあるから、くれぐれも、くれぐれも慎重に扱うように。
まず、餅米粉400克グラムをこの袋から――おっと!袋こそ小さいが、無尽蔵に餅米粉が出てくるぞ!しかも、なんとダマにもならない!そこで、餅米粉に澄麺ドンミンを加える……そうだ、そこの袋から取り出したまえ。
次は蔗糖と片糖ピェンタンを切り分ける。傍にまな板が無いかな? 糖を並べよう、その前に手袋を着ける事を忘れぬように。素手で直接触ってはなら――
……そのまな板は、上に置かれたもの全てを等しく切開するのだ。君がそこに置いた手も含めて。従って、度を越して衝動的な行動は慎むように。宜しいか。宜しいか。ウィルソン、君は泣いているのか。こんな小さな怪我で泣いてはいけない、男の子だろう? シャーマン嬢、彼を医務室へ連れて行きたまえ。心配無用、彼の手は元通りになる。本当だとも。
しかし手袋を着けている限りは怪我する事も無い。諸君は切られた糖を手袋越しに掴んで、水と共に鍋へ加え、煮溶かす。然る後、糖水にココナッツミルクと少々の油を加え、充分混ぜ合わせる……食材が些か奇怪に見えるだろうか? 当然、我々が使用する菜種油とココナッツミルクの全ては、西キャンパスの農業学会が特別に栽培した材料から作られた新鮮なものだ。彼等の学長殿に対する敬慕と新一年生への祝福に満ち満ちている。故にこれらの色と匂いについては気にせぬように。至って正常な現象なのだから。
これで年糕の生地は出来上がりだ。うむ、まだ蒸しへ辿り着いてはいないが、しかし諸君の作った生地には私とて食指を動かさずにはいられん。次は生地を各自の容器に注ぎ、大蒸し鍋へ入れる事。何? どの鍋かだと? 部屋の中央で絶え間なく湯気を出している一番大きい蒸し鍋だ。物理科の反エントロピー科学による実用成果の一つで、なんと諸君等二十六人に加え私の年糕全てを投入可能な内部容量を持つ。何分間か蒸したら完成だ。
待ち時間の内に、年糕を食べる事の効能を少しばかり御教えしよう。第一には原材料だ。餅米には豊かなビタミン、ミネラル物質、そして……バーニイ、そう、そこの大声で御喋りしているバーニイ君。申し訳無いがちょっとこちらに来てくれたまえ、急いで。そう、そして私が手に持つコンニャクと同じく食物繊維が含まれている。食物繊維は身体の健康にとって非常に重要だ。身体の廃物を排出する効果を持つ。バーニイ君が今披露しているように……
良いかいバーニイ、君は授業の補佐をしてくれている故、警告処分は一回だけにしておく。座席に戻って静かに…コンニャクは返却するように。
続けよう。また、年糕には本来「年年高ネンネンガオ」という寓意が込められていた。家族と年糕を分かち合う事には祝福の意味がある。年糕を食べ終えた後、もしかすると本当に高くなれるかもしれないな。また、旧歴元旦の慣習として食肉は控える事が望ましい。とても縁起が良いとされているんだ。年糕は胃腸を静調する助けにもなる。食後、数日の間は肉を食べたいとは思わないだろう。
ふむ、宜しい。蒸しはほぼ終わっただろう。私が見て…うわ!?
諸君! 急げ! 年糕を捕まえろ、奴等が逃げる!!
あー、何体かには逃げられてしまったが、しかし遂に我々の年糕は完成した。学院から居なくなった年糕はどうするのかだと? 各種の意外な事故によって学外へ散逸した存在については心配無用だ。時代遅れの外界ではあれらを許容出来ないだろうが、ああした存在の処理を専門とする組織も存在する――多くの卒業生がその組織で働いていると、耳にした事は無いだろうか? 彼等に新年の贈り物が届くならば喜ばしい事だ。しかし、皆が苦労してこしらえた年糕がこのような有様を迎えた事は少々残念だ…諸君には私の分を差し上げよう!
れ…礼は不要だ! これは教師として当然の行いである。
と…ともあれ! 本日の授業はここまで。明日は煎蘿蔔糕ジンルオポガオの作り方を教える。時間を忘れないように! 良い新年を、学徒諸君、また明日!