さんどぼっくすさん

時刻はまもなく21時。
夕食も食べ損ねた筈なのに、不思議とそこまで空腹ではなかった私はサイトに併設されたカフェへと足を運んだ。
 
(珍しく空いてるなあ…)
 
いつもならこの時間でも結構な人がいるのだが…まあ年の瀬の影響なのだろう。
冷えた身体を暖めようと、私は温かい紅茶とアップルパイを注文した。
 
(ここ、ポットでサーブしてくれるから嬉しいんだよね)
 
品物を受け取ると、中庭の見えるカウンターテーブルの席についた。
落ち着いたジャズミュージックが流れる中でひとり、湯気のたつティーカップにそっと口をつける。
ふわりと、ベルガモットのやわらかな香りが鼻孔をくすぐった。
 
(はあ…生きかえるなあ……)
 
ほうっと一息をつき、パイを口に運ぼうとした──その時。
チリン、と軽やかな鈴の音が店内に響いた。
どうやら他に客が来たようで、ふと入り口に視線を移すと、見知った人物がそこに立っていた。
 
「…山月さん?」
「ん?って、げ、神恵さん!」
 
咄嗟に呼び掛けてしまった。
 
彼は山月龍介監視員。
物腰が柔らかく、誰からも好印象を持たれる財団職員のひとりである。
しかし、彼は極度の異常恐怖症であり、オブジェクトは勿論、異常性のある職員に対しても何かしらの拒否反応が起きてしまうという不幸な体質の持ち主であり…
勿論、私も例外ではなく。
反射的に距離をとられてしまうのである。
 
「げ、ってなんですか。げって。失礼な。」
「す、すみません!いや、でもそれは神恵さんが悪いんですよ、いつもからかうじゃないですかー!」
「あは、だって山月さん面白いんですもん。ごめんね。」
 
そりゃそうだよなと、私は苦笑いをした。
毎度のこと彼を困らせたり、悪戯が過ぎて時には泣かせてしまったり。
いや、申し訳ないと思ってはいるのだ。
普通に接したいと思うのだが…ただ、バラエティー豊かな彼の反応が面白くて、もっと見たいと思ってしまうのだ。
そのやりとりが本当に、本当に楽しくて──
 
彼自身も知らない、彼の秘密を握った上で。
私はなんて性格の悪いやつなんだろう。
 
 
いつの間にか、中庭には雪がちらつき始めていた。
空になったティーカップに新たに紅茶を注ぐ。
しばらくして山月監視員も同じテーブルについた。
まあ、5席隣だったけれど。
 
「そんなに離れなくても良いじゃないですか。傷つきます。」
「うぐっ…良いじゃないですかー、十分近いです!」
「…冗談です、本当に山月さんはからかいがいがありますね。」
「神恵さんはいつも意地悪ですよー…全く…」
 
少し口を尖らせた彼を見て、自然と笑みが零れ出る。
 
山月監視員は優しい人だ。
こんなに意地の悪い私にでも(物理的に距離は置かれるけど)話し相手になってくれるし、週一の茶話会にもなんだかんだで参加をし、顔を見せてくれる。
 
(私がこの身体じゃなかったら、もっと近づけたのだろうか)
 
私は、この身体の異常性を受け入れている。
受け入れるしかなかった、という方が正しいのかもしれないけれど。
後悔はしていない。
私は自分で望んで、財団の手足となったのだから。
 
それでも。
それでも今は少しだけ、普通のひとが羨ましい。
 
 
最後の紅茶をティーカップに注ぐ。
目に留まった卓上のシュガーポットから角砂糖をひとつ取り出し、紅茶へ落とし溶かしてみた。
基本的にはストレートが好きなので滅多に入れることはないのだが…。
 
どうしてだろう、今日は入れてみたくなったのだ。
 
「…あれ、珍しいですね。今日はお砂糖入れるんですか?」
 
思いがけない彼の言葉に、はっと目を見開く。
どくんと胸が高鳴ったのを感じて、私は気づかれないように下を向いた。
 
だって、思いっきり頬が赤くなっていただろうから。
落ちついて…落ちついて、冷静に。いつも通りの自分で受け応えよう。
 
「…今日は、甘いものが飲みたい気分だったんですよ。」
 
──嗚呼、本当に彼は優しい人だ。


 
 
 
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このテキストは画像の下に表示されます。

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXXX-JPを含む周囲一帯は財団で買い取られ、併設されたサイト-81██で監視カメラによる監視と管理を行います。現在SCP-XXXX-JPを用いた実験はいかなる場合であっても禁止されています。これまでにSCP-XXXX-JPおよびSCP-XXXX-JP-1、SCP-XXXX-JP-2の収容違反に繋がる行動は確認されていませんが、万が一確認した場合は速やかに機動部隊わ-6("庭師の鋏")による制圧を行って下さい。
 
説明: SCP-XXXX-JPは兵庫県██市の██山中に存在する閉館したペンションとイギリス式庭園、ならびに複数の人型実体です。周囲はセイヨウイチイ(Taxus baccata)の生垣で囲われており、生垣のゲートから敷地内に入ると周辺の天候とは関係なく必ず雨天になり、建物内部からSCP-XXXX-JP-1とSCP-XXXX-JP-2が出現します。
SCP-XXXX-JP-1は外見上およそ50代後半に見える2体の人型実体です。それぞれ男性体をSCP-XXXX-JP-A、女性体をSCP-XXXX-JP-Bと呼称します。SCP-XXXX-JP-2は外見上およそ10歳未満の児童に見える4体の人型実体で、それぞれSCP-XXXX-JP-C~SCP-XXXX-JP-Fと呼称され、出現する度に性別のパターンが変化していることが確認されています。
 
SCP-XXXX-JP-1は自らをペンションのオーナーであると装い、接近した被害者に対し「雨が止むまで休んでいきなさい」と促すことが確認されています。これに了承した場合、被害者は庭園を一望出来る建物内の一室に案内されます。天候が回復すると敷地内の庭園にSCP-XXXX-JP-2が出現し、それぞれ手を繋ぎ輪になって唄遊び1を開始します。この時被害者がSCP-XXXX-JP-2を目視、または唄を耳にすると自身が共に遊ばなくてはならないという強い衝動に駆られ、SCP-XXXX-JP-2と同じ行動を取ることが確認されています。数分後、半つる性やつる性のバラ2に酷似した未知の植物が被害者の体内から出現します。寄生した植物は生長を続け対象を徐々に衰弱させ、開花と共に宿主の生命活動を停止させることが実験によって判明しています。
その後、SCP-XXXX-JP-1及びSCP-XXXX-JP-2は建物内へ消失します。

補遺: [SCPオブジェクトに関する補足情報] テンプレート]]


 

①素手で触れた相手の持つ心的外傷を取り除く・和らげるが、かわりに自身の肉体が傷つく。
 相手の抱える重さによって受けるダメージも変化するSCiP。1140JPの関連もの
②サンタのスノーグローブのSCP。秋ぐらいにできればいいかな。
③観覧車の置物のSCiP
④雪の結晶でなんかやりたい