Nagisa Sunayamaのアイデア帳

アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Euclid

特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8181の金庫室に収納します。Dクラスを除いた全ての職員はSCP-XXX-JPに記入することは禁止されます。もしも各地の教育委員会からSCP-XXX-JPの存在が報告された場合、財団フロント企業により速やかに回収を行います。

説明: SCP-XXX-JPは表紙に「理解力がしっかり身につく! ステップアップワーク」と書かれたA4サイズの数学の学習参考書です。内容は記名欄と小学校1年レベルの数学問題1問を除き全て白紙です。巻末の表示欄には“Entertainment & Enterprise社”と記載されており、SCP-092-JP等との関連が推測されていますが、現在までに関係者の特定には至っていません。

SCP-XXX-JPの異常性は師弟関係にある人物同士に発生します。SCP-XXX-JPを他人に渡した人物「出題者」、出題者から受け取った人物を「解答者」とします。解答者がSCP-XXX-JPの1問目を解くと、解答の正誤に関わらず自動的に2問目以降が1問ずつ追加されます。最初の49問は日本の中学1年の学習指導要領に基づく数学問題ですが、50問以降は中学2年レベル以上の数学問題も追加されるようになります。100問以降になると中学1年レベル以上の理科、地理、国語など数学以外の問題が追加され、150問以降は哲学的問題、200問以上は論理的に矛盾した問題が追加されます。以下は実験で確認された問題の例です。

問数 内容
問1 (-3)+(-5)を解きなさい。

解答者は1人で積極的に問題を解こうとしますが、ほとんどの場合は一定の問題数に達すると解答を諦め、出題者にSCP-XXX-JPを提出します。解答を確認した出題者は、解答した問題数や正誤に関わらず解答者を激しく叱責し、自分が傍につく形で解答者にSCP-XXX-JPを解かせます(解答者が複数人いる場合、出題者はその内の1人を優先します)。この間、解答者が何かしらの質問や要求をしても出題者がそれを満たすことはせず(たとえ生存に必要な要求でもです)、より一層解答者を叱責し、問題を解くよう執拗に要求します。

2人は外部からのあらゆる干渉も一切受けつけず、妨害されると徹底的に抵抗します。多くは約72時間が経過すると解答者が死亡し、異常性は消失します。

SCP-XXX-JPは███県████市の中学校で発生した生徒の死亡事件を機に、地元警察に潜入していたエージェントにより発見されました。事件が発生した中学校では208冊のSCP-XXX-JPが使用されており、全国の教育機関にもSCP-XXX-JPが存在しないか調査・回収が行われています。

インタビュー記録

対象: ███教諭

インタビュアー: エージェント・新藤

付記: 対象は中学校で発生した事件で、SCP-XXX-JPの出題者になった人物である。インタビューは警察官による事情聴取を装って行われた。

<録音開始>

エージェント・新藤: あなたが████(解答者の氏名)君と居たのはどこの部屋でしたか?

███氏: ……多目的室という教室です。去年までは1年7組の教室でしたが、今は半ば物置部屋のような場所です。私はそこで████に数学のワークをやらせていました。授業の後、放課後までそこに居たと思います。昼過ぎから夕方までずっと……。

エージェント・新藤: 他の業務もあるのに、あなたは████君のところから離れなかったんですか? 教師や生徒から止められることもあったでしょう。

███氏: 宿題の点検や、他の業務も結構抱えていました。ですが、頭ではやらないといけないと分かっていても……、他の何よりも彼に宿題をやらせることを優先していたんです。廊下の生徒が横目でこちらを見ているのも分かっていましたし、同僚からも咎められました。けれど、横槍を入れられたくなかった。だから部屋に内側から鍵をかけて、誰も入れないようにしました。

エージェント・新藤: つまり、実質的な監禁状態だったと?

███氏: ……否定しようがありません。

エージェント・新藤: 我々が教員の通報で駆け付けた後も、あなたは彼を解放しませんでしたね。逮捕されるということすらも頭になかったと?
███氏: あの子が

エージェント・新藤: 何故そこまでする必要があったのですか?

███氏:……私は、████に数学を教えたかった本当に、ただその一心だったんです……いや、そのつもりでした。

エージェント・新藤: だとしても、あなたが教育者として間違った行為をしたことは事実です。あなたは正しい方法で彼に教えるべきでした。

███氏: ええ。私は、あの子にきちんと教えてやれなかった……。

███氏: 途中、████が私に分からないと質問したんです。訊かれた私の中に抑えられない怒りがこみ上げてきました。一次関数の問題でした。こんな簡単なのも解けないのか、と。まだ習ってもいないのに……。そうして、私は彼の顔を平手で叩き、恫喝してしまいました。けれども、心の奥底では、こんなのは正しい教え方じゃない、今すぐ彼を解放するべきだと分かっていました。

███氏: 今だから間違いだったと言えるんです。ただ、あの時はあれが正しい判断だと思ってしまった。私の中で、正しい教え方が、間違った教え方に取って代わられてしまったんでしょう。あの子の泣き顔が目に浮かびます。どうして自分がこんな目に遭っているんだと、訴えるような眼差しでした。彼の気持ちを考えることを、正しい教え方を忘れていた私は、一体どうすれば良かったんでしょうか?

<録音終了>

終了報告書: SCP-XXX-JPは影響を受けた人間に対して、一時的に強制力を持つと推測される。出題者になった人間は一定時間、倫理的・法律的に適切でない行動もとるようになると

このインタビューから3日後、███教諭は自動車との接触事故により死亡しました。