オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:当オブジェクトはサイト-8141の人形収容室に収容されます。当オブジェクトの生命活動に危害を及ぼさないよう、8時間ごとに適切な食事と水を提供しなければなりません。また後述の異常性のため、当オブジェクトと物理的に接触してはいけません。
説明:当オブジェクトはヒトの11歳の少女のように見えます。白髪であり検査の結果メラニン色素が極めて少なかったため、先天性白皮症と思われます。その他健康上の問題はありません。
当オブジェクトに他のヒト(以下「対象」)が触れると、対象は意識を失いその場に直立したまま「寂しい」と断続的に声に出し続けます。1およそ1分間ほど続いた後対象の意識が戻ります。実験と前後の検査の結果、この異常性の影響を受けることで身体に何らかの変化が生じることはありませんでした。
20██年、██県██市のアパートの住人から警察に、当オブジェクトの存在を知らせる通報がありました。翌日財団は当オブジェクトを確保した後、近隣住民にカバーストーリー「子供の遊び」を適用しました。
インタビュー記録
対象:当オブジェクト
インタビュアー:林博士
[録音開始]
林:それではこれから、あなたにいくつか質問をしていきます。
(オブジェクトが無言でうなずく)
林:まず…あなたが自分の異常性、おかしいところについて知っていることはありますか?
(オブジェクトは黙っている)
林:…何か喋ってくれないとこちらも困ります。知っていること、1つでもあれば教えてください。
(しばらくの沈黙の後、オブジェクトが喋り出すが、声が小さくて聞き取れない)
林:よく聞こえませんでした。もう一度言ってもらえますか?
オブジェクト:…可愛げがない。無口。気持ち悪い。世間知らず。考えなし。不器用。
林:…確かにおかしいところとは言いましたが、そういうことを聞いているんじゃありません。あなたが誰かに触ると、その人は寂しいと声に出し続けます。それは知っていますね?
(オブジェクトが無言でうなずく)
林:ならそれについて知っていることをお聞きしたい。
オブジェクト:…触ったらずっと言い出す。それだけです。
林:それは我々もわかっていることです。他に何か知っていることはありますか?
(オブジェクトが無言で首を振る)
林:そうですか…では次に、あなたがここに来る前のことを教えていただきたい。
オブジェクト:…学校のみんなが羨ましかったです。みんなはお母さんやお父さんに、殴られたり蹴られたり、物を投げられたりしていないみたいなんです。だから、普通よりすごく恵まれてるな、羨ましいな、って。
林:…なるほど。最後にひとつ、今この建物に居て、どういう気持ちですか?
オブジェクト:…寂しい、です。
林:寂しい、と…質問は以上です、ありがとうございました。
(オブジェクトが無言でうなずく)
[録音終了]
補遺:上記のインタビューから、異常性による発声は当オブジェクトの感情や状況と関係があると推定されます。