Six-TF TEST SITE
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは模した人型収容セル内に収容されています。また、SCP-XXX-JP-A群は人型あるいは動物収容セルに入れ、定期的にSCP-XXX-JPと監視の元、精神安定用のイベントとして「江洲先生のカウンセリング」を行わせてください。
説明: SCP-XXX-JPは東京に心療内科の江洲メンタルクリニックを経営していた本名、江洲椎泥という名前の成人男性。および彼が雇用、捕獲していた動的オブジェクト群です。
SCP-XXX-JPは身体能力、知性などは健康的な一般の人間の範疇を出ず、能動的な異常性は有していません。ただし、受動的に自身に対するScipが持つ精神に影響する異常性に対する極めて高い耐性を持っています。現実改変の類も精神汚染の要素を持った場合、全て影響を受けません。
SCP-XXX-JPが発見されたクリニックは東京██市郊外にあり、増改築が繰り返されており、また動かすことも困難あるいは危険度の高い状態の異常性オブジェクトがクリニック内部から多数確認されたのと、発見時にSCP-XXX-JP自身がクリニックを含めた自身の処理を一任してきたため、周辺一帯の土地を財団の手によって買い取りそのままクリニックを収容セルとして改築、周辺の土地ごとサイトとして再利用する作戦が木社博士によって申請。承認され現在はサイト-████が創設されSCP-XXX-JPおよびSCP-XXX-JP-A群はサイト████の管理下に置かれています。
SCP-XXX-JPインタビュー記録
インタビュアー: 木社博士
[記録開始]
木社博士: ではSCP-XXX-JP、これからインタビューを開始する。
SCP-XXX-JP: あの、こちらのルールだと私もこれからSCP-XXX-JPと名乗った方が良いのですか?
木社博士: いや、そんなことは無い。あくまでこちらの呼称だ。好きに名乗ってもらって構わない。それより、先ずは件のクリニックが如何様にああなったかと言う流れだが。
SCP-XXX-JP: とは言っても。別段私の人生にはおかしな物は無かったのです。ただ、臨床心理士としての資格を取り、開業して2年くらいでしょうか。不思議な人がぽつぽつと、いや。変わった人が来るのは職業柄珍しくもないのですが。なんというか……物理的におかしいような方を見かけるようになりました。
木社博士: 自然におかしな存在を見かけるようになったと。
SCP-XXX-JP: ええ。境目は私からしてもわかりません。ですが、ごく普通にカウンセラーをやって、それを続けていたら気が付けば私が診る患者の中に人とは思えぬ方が混ざってきた。
木社博士: 特殊な切欠は無かった。何も? 本当に?
SCP-XXX-JP: はい、何も。元より通常の精神状態じゃない人ばかり診ていたものですから、明確に踏み越えた境界は……ちょっとすいません、難しいです。ただ、不思議な存在であればあるほど、そこには驚愕が見えるようになりました。ある方はなぜ私を抱こうとしないのかと。ある方は殴ろうとしないのかと。それらは虐待や性的な依存からくる不安定さではなく……もっと自分の中の確固たる法則が崩れたかのような驚愕が見えたのです。
木社博士: 天が落ちるような、或いは日が西から昇るように?
SCP-XXX-JP: ええ。それだけならやはり強固な妄想と矛盾を起こした反応かとも思いました。ですが彼らはほら、スーパーナチュラル、いや魔法かな。えっとそちらの公的な用語だと確か……
木社博士: 異常性。
SCP-XXX-JP: それです。その、異常性が実際にそれぞれあり、また異常性では私のカウンセリングは揺るがなかった。そのせいで……すいません。彼らはひどく私に依存をし始めた。病める者が縋りつくという域を超えて。
木社博士: その反応にもまた異常なところが見えた?
SCP-XXX-JP: これに関しては恐らく異常性という意味合いではありませんがね。彼らの多くはひどく、物理的にできそうもない普通のやり取りに飢えているのですよ。私はその心の隙間に滑り込んでしまった。しかしこうなっては一般の人たちを雇うわけには行かないと、一部の「彼ら」の関係者を雇い入れたりもしました。不可思議な存在は徐々に集まり、そして……危険な者まで出てきた。
[1分沈黙]
SCP-XXX-JP: あの。本当に私の精神は「彼ら」の異常性でおかしくはなっていないのですか?
木社博士: うむ。詳しいデータまでは話せないが、そちらの精神や認識は一切の異常性やミームの影響を受けていない。改変された様子もない。
SCP-XXX-JP: なるほど。では……私が殺したのは、ただ単に私自身の判断というわけだ。
木社博士: 痕跡はクリニックの各所にあったが、やはりオブジェクトを少なからず無力化せしめたと。
SCP-XXX-JP: 殺したのです。物理的に危険な力の人もいたのです。いるだけで周囲を殺すような存在も。だから……殺した。異常性を持った患者に協力までさせて。カウンセラー、いや人として失格の行いなのはわかっています。
木社博士: 裁かれるに値する所業だと?
SCP-XXX-JP: はい。だが、殺さねばより多くの人々が危ないような相手まで来ていた。なにより他の患者たちの安全もある。出させてしまえば互いのために危険だ……そうだ、彼らを確保し、保護し、診療するためには……
木社博士: そのためにクリニックを拡張し、収容を続けてきたか。
SCP-XXX-JP: はい。ですが結局は、素人がなにも知らぬまま一人でやってたきた真似事だった。車輪の再発明どころじゃない。貴方達のようなノウハウのあるプロがこの世に居たのなら、最初から全て任せておけばよかったのに。
木社博士: だが、現実的にここに貴方が収容されていることで、安全に管理下にあるオブジェクトが多数存在するのも事実だ。貴方自身がその全てを収容していたわけではないにせよ、だ。是非や正誤の判断は財団がすることよ。
SCP-XXX-JP: 恐縮です。患者のケアに協力できることがあるのなら、あるいは彼らのような他の「異常性を持ったオブジェクト」と呼ばれる方々を大人しくさせられるのなら……微力ながら、私は協力を惜しみません。
木社博士: 感謝する。場合によっては助力を願うやもしれん。が、釘を刺すようだが現時点において貴方自身の自由や独断の行動は看過できない。あくまで収容される側のSCP-XXX-JPとして扱われることを了承願いたい。
SCP-XXX-JP: ええ。今や私も、患者側というわけですね。
[記録終了]
SCP-XXX-JPの財団職員としての雇用を提案する。あれは既にオブジェクトとして扱う方が齟齬が多かろう。 - 木社博士
回答:保留。
アイテム番号: SCP-1391-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1391-JPは標準人型収容セル内に収容されています。新たな所有物がセル内にて判明した場合は即座に押収、解析の後保管庫の区分けに応じて収容してください。
説明: SCP-1391-JPは頭部に爬虫類の形質を備えた成年に該当するアジア人男性です。「元来人を食べる生物だったが、不便なので自身を改造し人以外も摂取できるようになった」と主張しています。何度かの摂食実験によってその雑食性は立証されていますが、その自己改造に用いた手法がどのような手順によるものかは完全に解明しきっていません。
SCP-1391-JPは脱皮のような形式で人間に酷似した皮を首部の周囲から出し、頭部全体に被せ変形させる事により、外見のみを人間へと擬態する能力を有しています。SCP-1391-JPが言うにはこれは自分の種族全体が標準的に有している能力だそうです。SCP-1391-JPはまた精神状態が同族と比較していくらか不安定な部分があるとも自己申告していますが、SCP-1391-JPと同種族の他個体がいまだ確認されていないため、これらの発言の真偽は確定していません。ただし、インタビュー等によって自身の知能に対するややプライドの高い精神傾向及び孤独感を感じているような挙動を随所に見られます。またそれらの記録を用いた精神分析の結果においては、人類から逸脱した心理的な異常性などは確認されていません。
SCP-1391-JPは自称「発明品と研究資料」と呼ぶ複数の物品を保有しています。今まで確認された物は財団の技術でも再現可能ではありますが、前述の自己改造を鑑みて異常性を持ったオブジェクトが混じっている可能性を否定できないため、全ての物品の取扱いはSCP-1391-JPからの情報を踏まえて注意して扱うべきです。
摂食実験記録摂食内容 | SCP-1391-JPの反応 |
---|---|
標準的な茶碗1杯分の米 | 「おかずは無いのか?」と訴えながらも完食。 |
糠漬けのキュウリ5本 | 「今度は米が無い」と言い完食。 |
マクドナルド・ハンバーガーセット | 完食。食べたことが無いのか興味を前面に押し出していた。 |
チーズケーキ1カット | 完食。砂糖の甘味を味わい慣れていないようで困惑の感情が見られる。 |
未調理の豚コマ肉500g | 完食。しかし生であることに躊躇を見せた。 |
腐敗したバナナ1房 | 完食。特筆した反応無し。一定の腐敗などに対する耐性は強いようだ。 |
トラフグの卵巣(1匹分) | 完食。ただフグ毒の成分を美味とは感じないようで終始不快感を見せていた。 |
終了したDクラス職員から採取した各部位体組織5kg | 完食。食べ飽きて嫌気が差したような顔をしつつ最後に「しかし残すのも忍びない」とのコメント。 |
石油系プラスティックのペレット100g | 「食えるわけがないだろう!」と拒否。説得を重ね、軽くかじらせてみたが消化できず嘔吐した。動物が有機的に分解不可能な物は摂取できないと思われる。 |
インタビュアー: █研究助手
[記録開始]
█研究助手: それではSCP-1391-JP、あなたの詳細についてインタビューを行います。
SCP-1391-JP: とは言ってもね。大方の事は話したし、どうせ私が外で過ごしてきた痕跡やデータは調査も研究も既に済ませているのだろう?
█研究助手: ええ、それはまあ。あまり深くあなたに開示はできませんが。
SCP-1391-JP: やはりな。私も前は出自を誤魔化して様々な論文を書いたりしたものだが。自身の存在も含めて、こうも全て容易く解析されるとなると……複雑と言おうかね。
█研究助手: まあ、財団はそういったことをこなすための組織でもありますから。
SCP-1391-JP: だとしても、私も余人には理解すら及ばぬ知性の持ち主……とまで表現すると大袈裟かもしれないが。故郷では、そういった存在とも言える振る舞いをしていたのも事実だ。まあ、そこは私の底が浅いと言うより、純粋に君たちの方が高度な学術的組織として一日の長がある、ということかな。
█研究助手: 否定はしませんよ。SCP-1391-JP: ふむ、悪くない自負だ。よろし、では質問を。
█研究助手: SCP-1391-JP、あなたは人を食べる生命体だと聞きましたが、そういった衝動に餓える様が見られないのですが。
SCP-1391-JP: うむ。かつてはそうだった。が、私は私自身を改良したのだ。考えてもみたまえ、人肉と言う物に拘泥する生物のどこが文化的と言える?
█研究助手: はあ。
SCP-1391-JP: ある種の動物は確かに特定の物しか食べられない。しかし、それは往々にして明らかに生態として行き詰っていたり、特殊な環境下に適応しすぎたから起こる物だ。ましてや人肉と言う捕食対象として不安定な代物に依存する状態を安易にピラミッドの頂点と喜べるか? ではなにかね、人類は肉食獣しか食べないから頂点なのかね!
█研究助手: わ、わかりました。あなたのスタンスは充分理解していますから!
SCP-1391-JP: すまない。少し取り乱した……ともかく、だからこそ私はこの不自然な状態の食性を、自己改造してより安定させたというわけだ。君たち人類のためと言うよりは利己的な話だよ。
█研究助手: ではもう我々人類に対して、その。食指が動くという事はないと?
SCP-1391-JP: 食って食えなくもないというべきか。だがことさら食べようとは思わん。君は自分が研究者としてではなく食材として優秀であると言う自信を持っているのかね? ならば失礼かもしれんが、実にまずそうだと言わせてもらおう。何より話相手を食べるのも気が引ける。
█研究助手: そ、そうですか。えっと、では……例えば、好ましい食べ物などは。
SCP-1391-JP: サラダが好きだ。大豆製品なども悪くない。ベジタリアンと言うわけではないが、生まれてこのかた生の植物性タンパク質等を取る機会など無かったものでね。実に新鮮で気に入った。
█研究助手: なるほど。
SCP-1391-JP: まあ、大体のことは複数資料にデータ化してあるはずだ。それらは君らに譲渡したはずだが。
█研究助手: ええ、ですからこれはあくまで確認の一種ですよ。もうそろそろ良いですかね。
SCP-1391-JP: そうか。では最後に私も聞きたいことがあるが、いいかね?
█研究助手: 私が回答できるとは限りませんが。
SCP-1391-JP: 別に財団とやらの情報をよこせと言っているんじゃないよ……なあ。人間にとって私は何に見える? 怪物か、それとも英雄か?
█研究助手: ……その、私個人の感覚で率直に言わせてもらうと、一応まともな会話は成立する人型オブジェクトだなとしか。すいません。
SCP-1391-JP: そうか、そうか。理性的な答えだと思うよ。ありがとう。
[記録終了]
以上のインタビュー後、SCP-1391-JPは財団の指示に対し精神状態をより安定させ従うようなりました。
SCP-1391-JPに接触する職員は、その請求が承認されればSCP-1391-JPの有していた資料を読むことが可能です。
20██年1月█日
私は博士。手記を綴るとしよう。さて、我々は人間のみ食べる種族だが……それは本当に優れているのか?
肉食動物とて、ビタミンは草食動物の内蔵等から摂取している。また生肉であることも重要だ。だが我々はいまや人肉を調理して食べている。私は調理人肉病とも言える栄養の偏りを指摘したが、黙殺された。
皆は人肉を万能食材のように考えているが、私に言わせれば思考停止の楽観論だ。極端に人口は推移し、成体になる期間も長い。過ぎた雑食故の雑多な酵素や常在菌、蓄積する不純物や個体差のリスク。ハッキリ言って人肉食を特別視する事自体理解できない。
私は、人喰い生物とは突然変異的にニンゲンを除く食物にアレルギーにも似た未知の拒絶反応を起こす生態を有した種族なのではないだろうか、と一種の仮説をたてた。
つまり拒絶反応や抗体の働きを制御し、栄養を摂取する酵素を生成、コントロールできるよう「改良」すれば良いわけだ。
20██年1月██日
完成だ。指向性元素型薬品の一種として[検閲済]を改良して作られたこの錠剤を用いれば人肉だけに括る必要はなくなる。
被験体としてまず私自身が服用したが、全ての飲食に支障は無い。人肉も食べられるままだが、公平に見て不味いと言わざるを得なかった。
その後時間をかけて検査したが私の心身に問題は無かった……にも関わらずだ!
錠剤の服用を皆に勧めた途端、勿体なくも唾棄の言葉を山ほど頂いた。人肉食を全面的にやめろとまでは言わない、そう譲歩しても奴らはニンゲンに毒されたか同情したかと見苦しく叫ぶ始末だ。
私以外に理性的な思考ができる者は存在しないのだろうか?
よし、もう薬を勝手に散布してしまおう。操作型分子ミストにしてコンプレッサで撒けば範囲内のどこに居ても作用するはずだ。
20██年2月█日
成功だ!
皆があらゆる物を食べられる事に戸惑ってはいる。だが、これで良いのだ。
人肉食のみに依存した不安定さからの脱却。これで我々は人類へより安定した対処が可能となる。リスクは回避された。
まあ、多少の混乱もあるが。自傷行為や喧嘩が散見している。急激に食性が変わったことから来る一時的なショックだろう。
反応がやや予想より強いが、保守的な思考からの反動だろうか?
20██年2月█日
村の住民に共食いをする個体が出た。父さんも食われた。食べたのは隣のおじさんだ。何が起こっている、どうしてこんなことに?
おかしい。我々に共食いの習慣など無い。物理的に不可能ではないが、しかし共食いをさせる効果は薬に無い。
だがあの時のおじさんたちの言動は、明らかに何かしら破綻していた。異常だ。
分析、分析をするに。人肉を食べる行為を土台として依存、執着する文化が薬で突発的に奪い去られ、その補完として新しい「食べる者」として禁忌を含んだ価値観が再構築された。
それは同族とを喰らいあうことだったのだ。到底信じがたい心理状態だ。
それに……最初に薬を服用した私に共食いの兆候がないのはなぜだ。自己診断と計測を行ったが変化が全く見られない。
20██年2月█日
村は全滅した。
正気を失った者たちに応戦する形で、対人用に発明していた武装により殲滅した。私が殺したのだ。親兄弟も、友も。
今は家族や各々の死体から生態情報を記録している。私は、何をやってしまったのだろう?
いや……もう見当はついている。思えば異常なのは私の方だ。皆と比べて精神的変化が無さすぎた。ある種のアイデンティティが元から欠損していたとしか思えない。
人肉食を不便としか感じず、共食いも追いつめられた動物が起こす行動にしか考えられない。これは人類の精神分析においては正常だ。だが人を喰らう行為を基本とした精神性、社会性を構築している生物が、仮にその社会基準に従う形で診断したとすれば。おそらくは。私は先天性の食人障害(Man-eating disorder)だ。
20██年4月█日
皆の死だけで全てを断定するのは科学的思考とは言い難い。未だ仮説は推測の域を出ず、私がMEDであると断定・分類できる量のデータも個体もない。
それに食人障害の存在を認めても、必ずしも私と同じ精神的欠落の形とは限らない。もっと強い人肉食への忌避や拒絶かもしれず、その精神状態では自然に集団から淘汰されていただろう。
私は途方にくれ、同族が地にも居ないかと探索を始め……私の種族とは異なる食人種を発見した。幸い彼らは好意的で、自分らは裏より人間の数を制御する自然摂理の使者だと主張していた。だがそれは非論理的だった。
社会の裏で人を食す形をとる必然性が無く、前提として人類の数も全く制御できていない。かと言ってハイペースに食人を行い繁殖したとしても生態系のバランスが崩壊しすぐ死に絶えるだけだろう。
私はそういった道理を何度も何度も言い含め、教化した。
20██年4月██日
彼ら全員を完全に納得させてから指向性元素薬の散布を開始。散布後70時間を超える頃には集落の全員が殺し合いを始める。
私は1時間以内に全てを殲滅し、彼らの全生体情報を採取した。
20██年8月██日
探索が終わらない。なぜ誰もが私と同じ薬に耐えられない。
あれからいくつもの種族を絶滅させた。恐ろしいのが、探せば食人種が比較的容易に見つかる事実だ。
そしてそれらは皆、あまりにも「人喰い」であることに精神を依存させていた。時に獰猛、時に知的ではあるがどこか妙に脆い。歪だ。
まるで、人類の敵として生きることでのみ存在の証明を許されているかのようだ。私はそのお膳立てを壊して回っているという訳だ。私は何だ。人を喰らう同類を滅ぼし続ける化物なのか。
もう人喰いを探すのにも疲れた。
20██年██月██日
財団を発見。投降を行う。
財団は調査を続けていますが20██年現在もなお、SCP-1391-JPの同種族は1体も確認されていません。SCP-1391-JPの持つ物品群の標本資料としての肉片や、詳細情報が記載されているのみです。発見当初、収容されていないSCP-1391-JPの同種族個体群が存在すると思われたためオブジェクトクラスはKeterでしたが、念入りな調査の結果僅かな生活痕跡や各種資料から事実上今残っている個体はSCP-1391-JPのみであると確定したためEuclidへの格下げが承認されました。
ただしSCP-1391-JPと別種族の人肉を喰らう未知の種族がまだ複数種類存在することがSCP-1391-JPの所有する物証、及びSCP-1391-JPがかつて個人的に試行していた生体実験の記録によって示唆されています。ケースによってはまた別のオブジェクト申請が必要と思われます。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト81██のSafeクラス書類オブジェクト標準ロッカーに収容してあります。
説明: SCP-XXX-JPは青森県[編集済]寺から発見された経文です。これを霊的存在及び一部の異常性を持った物品に接触、ないし間接的な接触、あるいは内容の文面を読み上げることにより一定の干渉を可能とします。
同県において除霊行為を行う存在が噂を調査した結果、霊的実体への干渉を行っていた成人男性█████を財団に保護、当初は彼が人型オブジェクトである前提で収容措置が進みましたが、異常性の主体が男性が[編集済]寺から発見し所有していたSCP-XXX-JPの効果によるものと判明。男性█████へは発見の経緯をインタビュー、記録の後に記憶処理を行い解放しました。現在男性にSCP-XXX-JPに関する異常性の類は確認されていません。
実験記録-7 ██年01月██日
霊的実体SCP-██年██月██日██-JPの終了処分として使用。
寺院出身者のDクラス職員にSCP-XXX-JPの文面を読み上げさせる。SCP-████-JPが苦悶の後に分解、光の粒となって消失を確認。
実験記録-11 ██年09月██日
霊的実体SCP-███-JPに使用。Dクラス職員に文面を読み上げさせるが、文章の一部読解に齟齬が発生。SCP-███-JPに対し3分間苦痛を与えた後、効果消失。Dクラス職員は復帰、激昂した霊的実体の攻撃により死亡するが、それまでに経文を持って腕を振り回すことで物理的干渉による反撃が成立していた。
実験記録-12 ██年09月██日
霊的実体SCP-███-JPに使用。空手有段者のDクラス職員に着せた服の内ポケットにSCP-XXX-JPを入れ、身体接触による終了を命じた。霊的実体SCP-███-JPは職員が入った途端に襲いかかるが、この時に物理的相互干渉の成立が確認される。10分間にわたる格闘の結果SCP-███-JPをDクラス職員の手により終了することに成功。
実験記録-38 ██年10月██日
破壊不可能な特性を持つ[編集済]に使用。金槌にSCP-XXX-JPを巻きつけDクラス職員に殴りかからせた結果、[編集済]の打撃による破壊に成功。Dクラス職員が撲殺されるまで[編集済]に欠損を与え続ける。Dクラス職員が死亡後に[編集済]は出血と欠損から衰弱し死亡、異常性を喪失。その際「いやだ」「たすけて」「やめてくれ」となにかに許しを請う単語を喋り続けた。
補遺:██年██月██日
実験を行った一部オブジェクト発見地域のヒューム値がスクラントン現実錨を使った状態と類似した現実改変が困難な状態になっている事実を調査によって確認。また、霊的実体が出現するに辺り存在した噂や一部オブジェクトの係累とされるデータが消えていることが██博士から指摘。霊的実体へのSCP-XXX-JPの効果が一般的に成仏と評されるようなものではなく抹消、それも実体のみならず関連した事象に対し強固に働くものであるという仮説が立てられました。
補遺2:██年██月██日
干渉困難な霊的実体の終了処分にSCP-XXX-JPを用いることは審議の結果、凍結措置となりました。以降SCP-XXX-JPは単純な収容措置のみに留め、クロステストの類を基本的に禁止します。
ある意味ではこの効果は当然と言えるだろう。世界宗教の類は魂の存在は肯定すれども、概ね迷信の類として幽霊の存在を否定している。なればその価値観に基づいて作られたものは霊を成仏させるのではなく「お前など存在しない」と存在を否定、抹消させる方が教義に即しているだろう。
この経文は元来の御仏の教えに従い、ヒューム値や現実改変に至るまで強制的に均しているのだろう。なぜなら宗教的に見てもそれらのオブジェクトや霊的実体は「信じてはならぬ迷信」の存在だからだ。
されば、他の世界宗教にもこのSCP-XXX-JPと同様のオブジェクトがある可能性についても警戒、確保に当たるべきやもしれん。 - ██博士
全て畏れるもの
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 財団職員は総員努めてあらゆるオブジェクトにまつわる名称、プロトコルなど全てにおける用語を過度に略することを禁じます。また会話に「あれ」という単語が一定以上に増えた職員はレベルに関わらず全員が言語分析の後、必要に応じてBクラスの記憶処理及び催眠処理にかけられます。
説明: SCP-XXX-JPは、会話行動と文書を媒体に侵蝕していくミーム的影響を持った行動形式の一種です。現時点において発症した███人の内、61%が40代以降の人間であり、壮年男性が最も多く発症しやすいと確認されています。が、あくまでそれは大まかな傾向に過ぎず残りの発症者には女性や若年層も確認されています。
SCP-XXX-JPの第一の特異性は財団職員がオブジェクトの取り扱いについての固有名詞及び動詞等を主に「ここはあれで通じるだろう」「無意識にあれと呼称したが特に問題は発生しなかった」という理由から「あれ」という単語へと置き換えすぎた際に発生します。この場合明らかに会話として類推不可能な領域まで会話の文章中に「あれ」の数が増えているにも関わらず、正確に会話相手との意思疎通が可能になります。この会話を第三者が聞けば不自然な「あれ」の羅列であると認識することは可能ですが、会話の受け手側になった場合それを意識する事はできません。
また複雑な収容手順などの指示や質問も「あれ」だけで通じ、重度になると単語のみならず文脈全てが「あれ」となります。そして「あれ」を用いた会話の受け手となった存在にもこの特異性は感染しますが、この際に感染する期間や確率はそれぞれ受け手の個人差が大きく特定ができていません。この時点ではまだ記憶処理によって影響の除去は可能です。また、記憶処置をした後の80%以上の職員は特に「あれ」を使ったところでこの再影響は確認されませんでした。
第二の特異性は重度の感染者が「あれ」を用いた会話を長期間使用した際、あるいは記憶処理をしても尚「あれ」と言いすぎる癖を直せず再度感染した一部の場合にのみ観測される新たな異常です。ミーム汚染に感染する前に出力した文書、データ等も含めた感染者が今まで記録した文字媒体の情報が全て「あれ」という文字の集合体に置き換わります。しかし第一の特異性と同じように、影響された者同士ならば元の意味を解読可能なようです。またこの状態の情報的に置換された「あれ」の文字列を400文字以上連続して見ただけで「あれ」を言っていない職員でも低確率で更に第一の特異性をミーム感染する事が示唆されています。
財団は情報復元を試みていますが、一定の成果をあげるものの文字情報の全ての修復は未だ成し遂げていません。
事件記録 XXX-JP-1 19██年08月██日
サイト81██で「あれ」という単語を多用して部下と意思疎通を行う、何らかの影響を受けているであろう博士を確認。
音声記録:
█博士:おい、君。[データ削除済]を念のためあれしてあれで処置してくれんか。データによればあれする事で完了するはずだ。
███:はい、わかりました。赤色で良いんですね。
█博士:ああ。それで大人しくなるのは実験済みだ。
███:わかってますよ。
メモ:なお実際に行われた収容手順は完璧でした。
事件記録 XXX-JP-4 19██年10月██日
エージェント4名が「あれ」のやり取りだけで通信しているとの報告を別エージェントから受ける。即座にBクラス記憶処置を行い3名が復帰。
音声記録:
エージェント・█:あれをあれしてあれであれあれてあれするとあれなんじゃないか?
エージェント・██:しかしあれがあれなってあれるあれがあれーれということもあるだろう。
エージェント・鯉滝:ああ。全てを決めつけるのは早計だ。あれ。
エージェント・███:あれあれ。あれ、あれあれあれ。あれあーれ、あれ。あれあれ?
エージェント・鯉滝:そういう事もありえるのか……実にその、あれだなあ。
メモ:どうやら意思疎通自体は汚染の度合いにあまり関係なく、互いに意識することもないようです。
事件記録 XXX-JP-16 19██年01月██日
財団外部の店舗で、あれという単語を過度に使う財団職員の映像記録を店の監視カメラから確認。映像から前日にSCP-███-JP関係の仕事についていた██研究員と判明。映像修正と記憶処理を行う。
映像記録:
██研究員:すいません、これの大型のって入荷してますか?
████店員:ええ。確かあったんじゃあないかな……探してみますよ。
██研究員:すいませんねえ。どうにもこれが無いとどうにもその、そこがこれで。
████店員:[店舗の在庫を探しながら]いやわかりますよ。僕にもそういう時ありますから。
██研究員:いや……しかし、あれですよね。そこに無いとあれが困る時も多いっていうか。ええ。こうですし。
████店員:あー。気分だけの問題じゃないんでしょうけど。でも大事ですよね。おっ、ありましたよ。
██研究員:あれですか。いやーありがとうございます。あれがあれしてて助かりますよ。
████店員:あ、いえ。それでは[編集済]円です……はい、確かに。
██研究員:どうもあれ。明日はあれをあれであれきますよ。あれ。
████店員:ええ、良かったですね。ありがとうございましたー。
メモ: 少し珍しいタイミングのパターンですが、影響の進行度合も多少個人差や時間差のムラがあるようです。
事件記録 XXX-JP-1██ 20██年06月██日
なおこの事件の後日本支部全域において以下の文面のポスターを貼ることによって大きな改善と影響の激減が見られました。O5-[編集済]に影響を確認。即刻記憶処置を行った。後に日本支部全体に対し「あれ」の多用に対する厳重な禁止通達が下る。
事件記録 XXX-JP-[データ削除済] 20██年01月██日
「あれ」ではなく「それ」での影響パターンを確認。
元々の単語が持つニュアンスとしての使い勝手や性質の問題か、あるいは単純な使用頻度が影響しているのか軽度の感染が一件確認されるのみだった。
補遺1:影響範囲と伝わる度合及びその利便性を明らかにするため、というかつてSCP-XXX-JPの影響下にあった█博士による7度にわたる実験の提言は、既に充分な事件記録が出揃っていることにより全て却下されました。以降もSCP-XXX-JPについての実験が許可される予定はありません。
補遺2:20██年██月██日に█博士及び同時期に研究に携わった5名が独断で秘匿していたSCP-XXX-JPの媒体となる重度感染の文書と、財団全体への映像媒体による大規模な発信準備、財団職員以外への[データ削除済]に関する作成資料を[編集済]研究主任の報告により確認。█博士以下6名は拘束、後に処分されました。
インタビュアー:█尋問官
█尋問官:それでは録音を開始します。█博士……博士?
█博士:裏切ったか[編集済]めが……これも全ては財団のためだとなぜわからない。新たな段階への転機なのだぞ。今すぐ皆協力すべきだ。
█尋問官:博士。ここは尋問と確認の場であり、貴方のやろうとした行為の正当性を証明する機会ではありません。
█博士:[5秒沈黙]
█尋問官:今さら何を言おうとあなたの目的は達成されない、ということもおわかりですよね。念のためですが。
█博士:わかっている。何が聞きたい。
█尋問官:貴方はどうしてこのようなことをしたのですか? なにがどう財団のためになると?
█博士:財団職員同士では既存の会話より齟齬をきたすことなくスムーズに情報が伝わり、そうでない第三者には伝わらない。情報戦においてこれは要注意団体などの相手にも確実なアドバンテージとなることは一目瞭然だ。
█尋問官:なるほど、しかし財団全体に広めてしまっては、外で秘密裏に活動する人材はどうするのですか。傍で聞かれればおかしいとバレてしまいますし、それに職員にも財団以外での生活があります。
█博士:会話の受け手自体は職員でなくても意味は伝わる。少なくとも日常会話には支障はない。後は音声媒体などの指令でミーム感染させなかった一部の人材のみを外で活動させるよう、人員や通信編成を見直せば良い。
█尋問官:現実的な手段ではありませんね。解決すべき問題や不明瞭な点も多い。
█博士:だが成功すればより無駄のない統制された連携が成り立つ。何より、そう何よりこれからの大規模な影響次第ではあるいは財団のみならず……
█尋問官: SCP-XXX-JPの影響が見られるのは財団職員だけのはずですが。
█博士:今はな。君も私が独自に研究した[データ削除済]資料があることは知っているだろう。全ての財団を掌握した後のミームが更にどう変化するか? どう次段階に進むか……?
█尋問官:[溜息をつく]不確実性に満ちた無意味な賭けです。何よりそれでは組織としてのアドバンテージも何もなくなる。
█博士:だが旧態依然に縛られた古臭い方式に拘っては人類の進歩などない。私がかなり前に一度感染したのも、余人よりわずかながら経験を積み高めていた知性がほんの少し他より早めに、あるべき次段階へと進んだだけだと思うがね。
█尋問官:詭弁ですね。
█博士:どうかな。とりあえずの利点が明瞭としているSCP-XXX-JPならいいが……変化とは必ず起こる。より不便な、あるいは害のある他の形式が出るやもしれん。その前にSCP-XXX-JPを受け入れる方が賢い選択だと私は判断するが。
█尋問官:だとしても貴方の独断で全てを決める権利はありません。もういいでしょう、その行動原理は充分わかりました。貴方には後日処分が下ります。それでは。
[記録終了]
メモ:なおこの事件からSCP-XXX-JPに「SCP-XXX-JPの影響を財団全体に広めなければならない」という精神的な更なる影響性質があるのではという仮説の意見が出ましたが、以降の感染者の調査においてその要素は全く見られませんでした。
あれァれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ
あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ
あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれ
あれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれあれだから。
やはり、私はどうやらSCP-XXX-JPに感染しているようだ。しかし自覚は無い。本当にそうなのかとも戸惑ってしまう。
どうすればいいのだろう。当然の言葉が通じぬようになったのはむしろあちらの方なのだ。私自身が感染しているのか本当に信じることができない。ただ私のみが害悪をまき散らす不治の存在となったのならば、この場は自ら命を断てば済む話なのだが。しかしこの状況となって深く実感したが、そもそも言語とは常に変化し利便性の高い物へとなっていくものだ。
それが不便な変化であるのならともかく、ごく当たり前かつ円滑にコミュニケートできる変化ならば、これはごく当たり前のシフトではないだろうか。
いや、事実。これまでもこの世界では無数にこんな置き換わりが幾度となく起きていたのではないだろうか。
恐らくは相当に稀有な重度の感染へと達したであろう、今現在における私の眼には。このミームの影響下にないとされる彼らの文字が筆舌に尽くし難い……何かを取りこみ続けた異形のおぞましいそれに見えるのだから。
だが私個人の主観的判断こそ絶対と断言することもできない。ミームとはそういうものだ。無責任なようだがとりあえず私の処遇は財団に任せようかと思う。この文章を読んだ人が今いったいどのような状態でどこまで何を解読できるかは謎だが、願わくば……そう、財団職員の円滑な意思疎通ができている状態であることを。
██研究員