<記録開始>
[D-1998の目が開く。付着物を手で払う仕草をしながら起き上がる]
[00:00] あー?なんだここ……海岸か?えーと、あいつら確かあのベッドで寝たらすぐ死ぬっつってたよな?意味わかんねー。博士ー?おい博士ー!
[声を張り上げながら海岸に向かって前進する。太陽を始めとした光源は確認出来ないが、時折足元を確認する動作中にD-1998の影が視認出来る]
[00:54] 誰も居やしねぇし。んー、何処行きゃ良いのかねこれ。つーか海しか見えねぇし。まぁいいけどさ、海好きだし。
[無言のまま歩行。D-1998の前方にブラウン管らしき物体が確認され、D-1998は歩行を停止する]
[01:15] あ?テレビか?なんだってこんなとこに……うわ何か映ってるし。そもそも電気何処から通してんだか。
[歩行を再開し、ブラウン管の近くまで近寄ると腰掛ける]
[01:48] よいしょっと。で、これ何だろかね……赤ん坊?鏡に映ってるみたいだが……は?嘘だろおい、おい、待てよマジか……。
[沈黙。乳幼児を抱えあげる女性が出てきたところで息を飲む音が観測される]
[02:03] これ……俺じゃねぇか。それにお袋……。赤ん坊の時の俺を抱えてやがんだ……。ああ、お袋の声も、この間取りも懐かしい……信じらんねぇ。
[映像が切り替わる。周囲に複数の児童が座っており、檀上に居る男性の話を聞いている]
[02:21] これは……小学校の入学式だな。一体何なんだ、俺の思い出でも映ってるのかね。あぁそうか、いまわのなんちゃらって奴なんだなこりゃ。
[映像が切り替わる。同年代の男児と取っ組み合い、互いに互いを非難している]
[03:04] 今度のは……あー、俺とあいつが喧嘩してる所だ。くだらない理由で喧嘩して、1週間くらい口聞かなくて。なんでだっけね……あー、そうそう、どっちがでかいクワガタ取れてたかってやつだ!これ見るまで忘れてたなぁ……。
[以下、同様のパターンでD-1998に関する映像記録が映し出される]
[17:28] いやー、高校のも中々懐かしかったなー。さてと、今度のは何、
[沈黙]
[17:55] 俺?おい、何やってるんだよ俺……。お、俺がお袋を怒鳴りつけて……俺が出て行って……。待てよおい、なんで包丁持ってんだ?止めろよおい、止めろ!
[D-1998が突如嗚咽する。映像では既に絶命しているにも関わらず、女性に包丁を振り下ろすD-1998の視点が移し出されている]
[18:33] こんなの覚えてねぇよ。何だよこれ、こんなの、悪いの俺じゃねぇかよ!ただの八つ当たりじゃんか!こんなしょうがねぇ理由でか?なんで俺は覚えてねぇんだよ畜生!俺は、俺は、まだありがとうも言ってねぇんだぞ!お袋はたった一人で、俺を育ててくれたってのに、それなのに、俺はこんな事しちまったって言うのかよ!
[D-1998はブラウン管を殴り続ける。その間も映像は切り替わり、逮捕時や裁判時らしき映像が流れている]
[23:09] あぁ、何で俺は何も覚えて無いんだ……。お袋は、あの時殺したって事なんだよな?いやまだ、生きてるのか?俺が知ってる事は、何なんだよ?お袋は俺の目の前で……なぁ、神様、聞こえてるんだろ。お願いだ、一瞬で良いんだよ。1分で良いんだ、もう一度お袋見せてくれよ……お願いします、そうじゃなきゃ俺……。
[映像が切り替わる。財団収容施設でのオリエンテーションの様子を写している]
[24:00] ……もう、ダメなんだな。あぁ……俺がここに連れて来られた時のだ。そうだ、何となく、ぼんやりだけど、そんな感じの事があった様な気がする。ピントの合って無い物見てる感じだけど。そうか、これで終わりなのか……。
[映像が切り替わる。SCP-███とD-1998が会話している]
[24:56] ……え?なんだこいつ……おいなんだこの[データ削除済]
[映像が切り替わる。[データ削除済]]
[25:35] なんだこの化物!俺なんでこんなのと[編集済]してんだよ!
[映像が切り替わる。[データ削除済]]
[28:14] うぁぁぁぁぁぁ……そうだよ、これで一緒の部屋に入った奴が生きたまま……
[D-1998が嘔吐する]
[30:46] 助けてくれよ……なんなんだよこれ……。覚えてないのに、覚えてるんだよ……。
[映像が切り替わる。[データ削除済]]
[32:01] おかしいじゃねぇか……。1ヶ月働いてれば減刑されるって、そういう約束じゃなかったのかよ……。
[映像が切り替わる。[データ削除済]]
[33:22] ……そうか。そもそもここに来た日にちすら、俺もう覚えてねぇのか。
[映像が切り替わる。下総博士と面談している様子が映し出される]
[36:02] あぁ、この辺だけは、鮮明に覚えてる。この実験に同意したんだ。もう身寄りも皆死んじまって、俺もやりたい事なんて無いんだって、その筈だったんだ。そう思ってたんだ。そうだ、そうだよ。だからここに居るんだもんな。……何だったんだろうな、俺の人生って。
[D-1998が倒れこむ。同時にブラウン管が消失する]
[D-1998の目が開く。付着物を手で払う仕草をしながら起き上がる]
[38:02] ……あー、ここどこ?
<記録終了>