ラウンジでノートパソコンを開いてコーヒーをすすりながら、昨日から所属先となった博士から読むように念押しされた報告書のコピーを読む。
先月から財団に入った俺は、新人エージェントが受けるオリエンテーションや、俺の配属先に指名されたSafeオブジェクトを主に取り扱っている博士と共に様々な博士やエージェントへの挨拶回りをやっとのことで終え、「財団で働くってもっとかっこいいことやるんじゃないのかよ」と内心思いながら毎日ベッドや床に倒れこむ日々を送っていた。反物質に関する研究を送っていた俺が財団に引き抜かれたのはもう1年前の話で、財団に所属するにあたってどのようなことを行い、これから何をしていくのか沢山話を聞かされた。その時の俺の瞳は、研究室でレポートを読むような濁った瞳ではなく、間違いなく光り輝いていたと思う。あの代わり映えしない世界はこの人たちによって守られてきたのだという憧れと、俺がこれからその一員になれるのだという嬉しさで内心年甲斐もなくはしゃいでいたのだから。それから、様々な手続きを行い、この手にセキュリティクリアランス1のカードが渡ったのがつい先月のこと。財団のロゴマークがついた封筒がポストに入っていたのを確認したとき、喜びで数ミリ空中に浮いていたかもしれない。喜び勇んでサイト-81██に向かって、いよいよ職員としての生活が始まるのだと意気込んでいたところで初めの部分に戻るのだった。
つまり財団に入る前の俺は、財団はもっと華々しい場所だと勘違いしていたのだ。誰かとは違う、特別な何かになれる場所なのだと。研究室にこもりきっていたあのころとは違う何か、的確にそれを示してくれる言葉が見当たらないが素晴らしいと誰もが称賛してくれるような何かに……。そう思っていても現実は非情で、単調な作業や人々の噂を基にしたフィールドワークばかりの活動を聞かされてうんざりするのだった。陰ながら世界を救う、ということすら出来なさそうだ。
報告書を読み終え、これから俺はSafe区分のオブジェクトを取り扱うことになるのだということを理解した。せっかくならEuclid区分のオブジェクトを扱いたかった、と今までやって来た研究とは全く違う方向を向いた内容の報告書を見つめる。報告書の最後にあった無機質なフォントの「このオブジェクトは危険ではないと思うかい?」という博士からの文字がやたら憎たらしく見えて、勢いよくノートパソコンを閉じようとした。
その時、どこからか「新聞でーす」という声が耳に届いた。
瞬きの間に、目の前のキーボード上には四つ折りの新聞が置かれていた。周りを見回しても新聞配達員のような姿はどこにも見えない。白衣を着た人間と、白衣を着た人間ではないような何かが楽しそうに談笑しているのが目に入っただけだった。いや、ありえない。日本支部では人間離れした者が多いと聞くが、流石にこんなことをできそうなのは……。昨日までの挨拶回りの中で見かけた博士やエージェントの顔は、もうぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
考えることを諦め、改めて先ほど“届いた”新聞に目を向けた。「茜刺財団新聞 新人職員用」と書かれた熨斗紙がご丁寧に巻かれているごく普通の新聞だ。熨斗紙を剥がせば、新聞の一面見出しに「財団日本支部へようこそ!」と書かれていて、その下には財団の成り立ちや、これからの財団活動の指針になるような文章があった。得体の知れない財団製新聞に頭をひねっていると、「いやー、紙のやつって今でもあるんだね」と俺の配属先の博士が猫背を伸ばしもせずに現れた。
「博士……」
「それは茜刺財団新聞。まあ、見れば分かるんだけど。日本支部だけで発行してるメルマガみたいなものだよ」
「メルマガ」
「うん。現に私は電子版を定期購読してるし」
博士はそう言いながら、白衣のポケットから銀色のスマホを取り出して俺にメール画面を見せた。そこには確かに「茜刺財団新聞 セキュリティクリアランス3職員用」の文字があって、IDとパスワードの入力画面が表示されていた。
「私はね、少し不謹慎なんだけどこれの慶弔欄を読むのが好きでね」
「慶弔欄なんてあるんですか」
「あるよ。新聞だから」
話をよく聞いてみると、財団の外で配られている新聞の慶弔欄と同じように、慶弔に関しての情報を載せているらしい。財団ではあまり慶の部分が取りざたされることはないことから、誰が結婚したとか、誰が妊娠したとかいう情報を聞くと安心するのだという。どこのサイトが消失したとか、どこのサイトで収容違反が発生したとか、誰が死んだとかの情報も載っているから俺も確認した方がいいらしい。これだけ聞いても、思っていた以上にちゃんと情報媒体として新聞の機能を果たしている。
「そもそも財団に入ってから、いきなり目の前に届いたものを信じろって方が無理なんだよな。あれだけ目の前にあるものを疑えって言ってるのに。」
博士の目は俺のことをしっかりと見つめていた。
俺はその目を見ながら、博士から渡された報告書のことを思い出したのだった。本当にあれは安全なオブジェクト?俺は何か見落としをしていた?思い当たることはそればかりで、俺は強かに閉めたノートパソコンを激しく開くことになったのだった。
「お届けものです。██さんでよろしいでしょうか?」
「はい、そうです。」
「では、こちらにハンコかサインをお願いいたします。」
息子が失踪してから数か月間、私は失意と後悔の念にかられていた。
あの時強く言わなければ。あの時助けていれば。あの時止めることが出来ていれば。
今更そのようなことを思っていても、息子が帰ってくるわけでもない。完全に後出しになってしまった答えであるというのに、まだ私は後悔をしてため息を吐いている。夫はそれを知ってか知らずか、失踪して一か月経った頃から息子の話を口に出そうとしない。私がさめざめと泣いているのを疎ましく思ったのかもしれない。
息子は俗に言う不良だった。反抗期をこじらせたのか、何かに憧れていたのか、それは私たちには到底分かり得る物ではなかった。単純に私たちの間に会話が足りなかった、と言われてしまえばそれだけなのだけれど。家に帰らないのはよくあることで、私たちもそれに関しては諦めていた。不良行為をすることも、痛い目を見ればいつかやめてくれるのではないかと期待していた。
そう思っていただけに、息子から来たあの手紙には恐怖せざるを得なかった。
僕は間違っていました。
父さん母さんに迷惑をかけてしまったのは、反省しきりです。
だからきっと、僕は勝ってみせます。
この世の全ての悪に。
それではさようなら。僕は正しいことを成してきます。
書いている文字が息子の書いたものとは思えなかった。いや、このお世辞にも綺麗とは言えないクセのある字は完全に息子のもので、封筒に書いていた名前も間違えようのない息子のもの。だから、本当に本物のはずなのに。
どうしてか怖かった。
この手紙から数ヶ月経った今でも息子は帰ってこない。捜索願を出しても進展は見られない。諦めろ、と声をかけてくる周りの方が正しいのかもしれない。これからはもっと気丈に生きていくべきなのかもしれない。分かってはいるけれど、今の私はどうしようも無かった。
また涙が零れそうになるのをぐっとこらえながら、先ほど届いた荷物を見る。
綺麗な木の箱で、送ってくれたのは――
少し眠っていたようだ。
あんなにさめざめと泣いていた私を心配して、夫がセラピーに連れ出してくれたことを思い出す。どうして眠ったのか思い出せないけれど、きっと先生に話すときに泣き疲れてしまったのだろう。それほどまでに息子の死がストレスになっていたのかもしれない。
私が目覚めたことに気づいたのか、セラピーの先生がやって来た。
「ああ、先生。ありがとうございました。私、なんだか乗り越えられそうです。」
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid Neutralized(暫定)
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在サイト-████の2m×2m×2mのプラスチック製専用ユニットに収容されています。SCP-XXX-JPへの食餌は担当職員が行うようにしてください。与える餌は通常のウサギに与えるものと同じでかまいません。自壊イベントの発生を確認した場合、早急にそのSCiP所持者として認定された人物の健康状態を確認してください。
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは21██年██月██日に最後の個体が自壊しました。財団が他の個体の捜索を行いましたが、特徴が完全に一致する個体が見つからなかったためSCP-XXX-JPは存在しなくなったと判断し、暫定的にNeutralizedに分類されました。他の個体を発見、財団で確保次第Euclidクラスへ格上げとなります。
説明: SCP-XXX-JPは全身がガラスで出来たウサギです。SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JPの所持者が何らかの原因によって死亡することを予知し、所持者死亡の後に自壊する異常性を所持しています。SCP-XXX-JPがどのようにして所持者を決めているのかは不明です。
SCP-XXX-JPは複数体が日本国内にのみ存在しており、その全ての個体の所持者は60代から90代(最高齢は102歳)です。SCP-XXX-JPの種類は主にニホンノウサギ(Lepus brachyurus)であり、通常のニホンノウサギの寿命を超えて生きている個体も存在しています。
SCP-XXX-JPの所持者はSCP-XXX-JPをどのように手に入れたかの質問に対して、野生に生息、または何らかの店舗での購入をしたものではなく、全て「伊賀汀明」なる人物から譲り受けたと証言しています。
SCP-XXX-JPの各個体に共通する点は4つです。
▪ 落下させても割れない
▪ 身体がガラス製にも関わらず食事を必要とする上に排泄行為をする
▪ 内臓は内視鏡検査によって存在を確認しているが、ガラスには透けて写らない
▪ 自壊イベント(後述に詳細を記載)が発生する
SCP-XXX-JPの自壊イベントは次の通りです。自壊イベントを阻止することは複数の実験の結果、不可能であると結論が出ています。
①SCP-XXX-JPの身体に小~中程度のひびが出来る。
②24時間から48時間かけて、SCP-XXX-JPの全身にひびが広がっていく。
③SCP-XXX-JPが目を閉じたと同時に、内側から衝撃を受けたかのように粉砕する。
①に関して、SCP-XXX-JPの身体に直接触れた、落下させた等、衝撃を与えることはSCP-XXX-JPの自壊イベント発生の理由にならないことをしっかりと理解してください。――██博士
発見、登録の経緯: 財団が初めてSCP-XXX-JPを確認したのは200█年██月██日のことであり、財団職員の██研究員が「祖母から動くガラスのウサギを貰ったとの連絡があった」とAnomalousアイテム担当職員に相談がありました。その財団職員が確認に向かったところ存在が認められ、Anomalousアイテムとして登録されました。発見から536日が経過した20██年██月██日、前触れなく自壊イベントが発生。このアイテムが失われることを懸念した██博士が自壊イベントの阻止を行おうとするも、全て失敗に終わりました。
自壊イベントの発生後、このアイテムの体内から小さな紙片が発見されました。内容は以下のとおりです。
お元気ですか? わたしは元気です。
もうそろそろ眠くなる時期がやってきますね。
ですから、眠るときに寂しくないように抱くものを贈ります。
外見は少し冷たいけれど、心は温かい子です。
あなたの側で跳ね回ると思いますが、
最後まで可愛がってくださいね。
酩酊街より 愛を込めて
自壊イベント発生後、初めに報告を行った職員の祖母が老衰で死亡したことを受け、このアイテムによって死亡したのではないかと調査を開始。しかし異常は見つからず、死亡は偶然であるとの結論を出しました。
同時期、同種と思われるオブジェクトの通報が数件あり、全国に流布している可能性が浮上したために捜索を開始。全国の捜索の結果、自壊イベントが発生したものも含め発見された同アイテムは33体です。自壊イベントの発生したアイテムの所持者は全て死亡しており、所持者の家族はアイテムのことを「死亡の何年か前に知り合いの伊賀汀明から送られたものである」「いつの間にか壊れていた」等の共通した供述をしています。
その後の調査の結果、自壊イベント発生の4時間から12時間前、その全てでSCP-XXX-JPの所持者が死亡していることが判明。死因の多くは老衰であり、アイテムとの関連性は見られませんでした。そのため「このSCiPはこのSCiPの所持者が何らかの原因によって死亡することを予知し、所持者死亡の後に自壊するアイテムである」と結論付け、20██年█月██日、職員によって通報された1体目をSCP-XXX-JP-1として指定し、Euclidクラスに格上げとなりました。20██年現在、現存するSCP-XXX-JPは25体であり、譲渡等で財団の手に渡ったSCP-XXX-JPは22体です。現在、他の3体に対しても譲渡等を行うように説得しています。 20██年██月██日、残りの3体も財団に収容されました。
補遺-1: 「伊賀汀明」の捜索を行っていますが、名前に関しては酩酊街のアナグラムであるため偽名の可能性が高く、その上日本に同じ氏名の人物が確認出来ないため、酩酊街との関連性が高いと考えています。また、自壊イベントが阻止できない以上、このアイテムが失われる可能性が高いと考えられます。所持者の延命措置等を早急に執り行うべきです。 承認されました。
補遺-2: 20██年現在、財団が所持しているSCP-XXX-JPは12体となりました。財団の力を持ってしても、延命措置が全て失敗に終わっています。このオブジェクトには所持者の延命措置を無効にする能力が付与されていると思われます。早急に調査を行うべきです。 承認されました。
補遺-3: 21██年██月██日、SCP-XXX-JP-33の所持者が死亡しました。SCP-XXX-JP-33の自壊イベントは滞りなく進んでいます。
財団が全国の捜索を行っていますが、SCP-XXX-JPの同個体は発見されていません。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在サイト-████の2m×2m×2mのプラスチック製専用ユニットに収容されています。SCP-XXX-JPへの食餌は担当職員が行ってください。SCiP所持者の死亡が確認された場合、早急にSCP-XXX-JPの状態を確認し自壊イベントの発生を確認して下さい。新たにSCP-XXX-JPを発見した場合、SCP-XXX-JPの所持者一覧に必ず追記してください。
説明: SCP-XXX-JPは全身がガラスで出来たウサギです。SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JPの所持者が何らかの原因によって死亡することを予知し、所持者死亡の後に自壊する異常性を所持しています。SCP-XXX-JPがどのようにして所持者を決めているのかは不明です。
SCP-XXX-JPは複数体が日本国内でのみ確認されています。その全ての個体の所持者は60代から90代(最高齢は102歳)であり、現在子や孫と離れ一人暮らしをしている、いわゆる独居老人と呼ばれる状態にあります。SCP-XXX-JPの種類は主にニホンノウサギ(Lepus brachyurus)であり、通常のニホンノウサギの寿命を超えて生きている個体も存在しています。
SCP-XXX-JPの所持者はSCP-XXX-JPをどのように手に入れたかの質問に対して、「庭に倒れていたからかわいそうに思えて拾った」、「玄関前をうろうろしていたので保護する目的で拾った」など、全員がSCP-XXX-JPを拾得したこと、見た目に関して不自然さを感じなかったことを証言しています。
SCP-XXX-JPの各個体に共通する点は4つです。
▪ 落下させる等、強い衝撃を与えても割れない
▪ 身体がガラス製にも関わらず食事を必要とし、排泄行為を行う
▪ 内臓は内視鏡検査によって存在を確認しているが、ガラスには透けて写らない
▪ 自壊イベント(後述に詳細を記載)が発生する
SCP-XXX-JPの自壊イベントは次の通りです。自壊イベントを阻止することは複数の実験の結果、不可能であると結論が出ています。
①SCP-XXX-JPの身体に小~中程度のひびが出来る。
②24時間から48時間かけて、SCP-XXX-JPの全身にひびが広がっていく。
③SCP-XXX-JPが目を閉じたと同時に、内側から衝撃を受けたかのように粉砕する。
①に関して、SCP-XXX-JPの身体に直接触れた、落下させた等、衝撃を与えることはSCP-XXX-JPの自壊イベント発生の理由にならないことをしっかりと理解してください。――██博士
発見、登録の経緯: 財団が初めてSCP-XXX-JPを確認したのは200█年██月██日のことであり、財団職員の██研究員が「祖母かとの電話の際に動くガラスのウサギを飼っている旨の話をされ、後日確認したところ事実だった」とAnomalousアイテム担当職員に相談がありました。その財団職員が確認に向かったところ存在が認められ、Anomalousアイテムとして登録されました。
説明:生きているガラス製のウサギ。
回収日:200█年██月██日
回収場所:██県██市、██研究員の実家
現状:サイト-████の低脅威度生物収容セルで飼育。
回収しに行ったときに、ここ数年で一番の笑顔が見られたのはよかったけどさ。――██研究員
発見から536日が経過した20██年██月██日、自壊イベントが発生しました。このSCiPが失われることを懸念した██博士が自壊イベントの阻止を行おうとするも、全て失敗に終わりました。自壊イベント発生以前、初めに報告を行った職員の祖母が老衰で死亡したことを受け、このSCiPによって死亡したのではないかと調査を開始しました。しかし異常は見つからず、死亡は偶然であるとの結論を出しました。
同時期、同種と思われるオブジェクトの通報が数件あり、全国に流布している可能性が浮上したために捜索を開始しました。全国の捜索の結果、自壊イベントが発生したものも含め発見されている同SCiPは33体です。自壊イベントの発生したSCiPの所持者は全て死亡しており、所持者の家族は自壊イベントの発生したSCiPについては「いつの間にか壊れていた」等の共通した証言をしています。
その後の調査の結果、自壊イベント発生の4時間から12時間前、その全てでSCP-XXX-JPの所持者が死亡していることが判明。死因の多くは老衰であり、SCP-XXX-JPとの関連性は見られませんでした。そのため「このSCiPはこのSCiPの所持者が何らかの原因によって死亡することを予知し、所持者死亡の後に自壊するSCiPである」と結論付け、20██年█月██日、職員によって通報された1体目をSCP-XXX-JP-1として指定し、Euclidクラス指定となりました。20██年現在、財団が確認出来ている自壊イベントの発生していないSCP-XXX-JPは25体であり、譲渡等で財団の手に渡ったSCP-XXX-JPは22体です。現在、他の3体に対しても譲渡等を行うように交渉しています。 20██年██月██日、残りの3体も財団に収容されました。SCP-XXX-JPの所持者に関する情報はSCP-XXX-JP所持者一覧を閲覧してください。
補遺1: 自壊イベントが阻止できない以上、このアイテムが失われる可能性が高いと考えられます。所持者の延命措置等を早急に執り行うべきです。 承認されました。
補遺1追記: 財団の力を持ってしても、延命措置が全て失敗に終わっています。このオブジェクトには所持者の延命措置を無効にする能力が付与されていると思われます。早急に調査を行うべきです。 承認されました。
補遺2: 20██年現在、日本国内で独居老人と呼ばれる状態にある████人がSCP-XXX-JPを所持している確率は全体の約12%であり、年々増加傾向にあります。その内、財団が収容したSCP-XXX-JPは5██体であり、自壊イベントの発生したものは1██体です。
SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス:Euclid
特別収容プロトコル:SCP-XXX-JPはサイト-████の50m×10m×10mの縦型水槽に保管されています。水槽内の水はSCP-XXX-JPの発見された██島沖の温度と塩分濃度を保ってください。██島沖の年間温度表はSCP-XXX-JP記録-1を参照してください。SCP-XXX-JPとのコミュニケーションは許可されています。
説明:SCP-XXX-JPは異常性を持ったハンドウイルカ(Tursiops truncatus)です。異常性としてヒトの声帯に類する器官を持ち合わせていないのにも関わらず、人語を理解し、話すことが出来ます。自らの名前をブランと名乗っており、他次元宇宙からやって来たと思われる発言を何度も行っています。詳しい内容はインタビュー記録-1を参照してください。
インタビュー記録作成中
発見:SCP-XXX-JPが発見されたのは、20██年██月██日に██島の波打ち際に打ち上げられたイルカが人語を話したとの通報があり、それに興味を持った財団が向かったところ存在を認められたため、このイルカを発見した人々に記憶処理を行いカバーストーリー“暑さによる集団ヒステリー”を流布しました。
治療のためにSCP-XXX-JPとの対話を試みたところ、「エバは無事か」との発言を行ったためSCP-XXX-JPと似たような個体かとの質問をした。「君たちと似た姿をしていた。そう、君たちのような…。そうだ、思い出した。彼女は人間だ。」といった答えが返ってきたため、██島周辺の捜索を行いましたが島民及びSCP-XXX-JP発見時に██島に居た観光客に“エバ”という名を持った人物は存在しませんでした。
補遺-1
財団に保護されてから1ヶ月後、定期カウンセリング中にSCP-XXX-JPがエバに関する情報を話しました。
音声記録作成中
SCP-XXX-JPの言葉を信じるならば、SCP-XXX-JPの居た地球はもうKクラスシナリオを迎えたということだろう。運良く地球に不時着出来たのならいいのだが、“エバ”が宇宙を彷徨う物体になっているとも限らない。彼は、彼女と何を約束したのだろうね。――██博士
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在サイト-████の、SCP-XXX-JPの担当職員に支給された[編集済]社のデスクトップ型パソコンP-1420-C内のファイル「小鳥遊さくら」に収容されています。SCP-XXX-JPへの会話、インタビューは1日のうち1時間以内で行ってください。1ヶ月に1回行われるカウンセリングに関してはそれが適用されません。毎日9時に更新日時、データ量のメモを行ってください。
説明: SCP-XXX-JPはファイル「小鳥遊さくら」内に保存されているデータファイルです。
ファイル「小鳥遊さくら」に入っているものは以下の通りです。
りーどみー:小鳥遊さくらの起動方法と小鳥遊さくらの設定が書かれたテキストドキュメントです。製作者の部分には「ニーナ@ぼるぞい」と書かれています。
小鳥遊さくら:不明な方法で作動しているプログラムです。起動するとパソコンの機能は一部を残し、一切使えなくなります。
おまけ:中身の入っていないファイルです。りーどみーには「中身はムフフな小鳥遊ちゃんイラスト設定集!」と説明されていました。
SCP-XXX-JPの異常性はプログラムが自我を持っている点です。SCP-XXX-JPが発見されたのは動画投稿サイトYoutubeの「小鳥遊さくらのさくさくびより」チャンネル に20██年██月██日に投稿された「配布のお知らせ!」(現在、動画削除済み。) からファン向けに配布されたデータファイルが「まるで動画の本人のように動いて喋る」とネットで話題となったことに財団職員が興味を惹かれ、財団専用ではないパソコンにダウンロード、起動を行い数回の会話を行ったことから異常性を発見しました。
以下は発見者となった財団職員が残したメモから、SCP-XXX-JPへの質問内容とその答えの一覧です。
会話一回目(20██年██月██日22:56~23:05)
Q.君はどうして人間のように話すことが出来るの?
Aそんな当たり前のことを言わないでちょうだい。
Q.中の人とかはいないの?
A.いるわけないじゃない。他の私もみんなその質問されてうんざりしているわ。もう二度とその質問はしないでね!
会話二回目(前回の質問と同日 23:07~23:19)
Q.動画に出ているのは君?
A.私だけど私じゃないわ。
Q.じゃあ、誰なんだい?
A.…教えなきゃ、ダメ?私は小鳥遊さくらよ。あなただけの、小鳥遊さくら。
会話三回目(前回の質問と同日 23:21~23:35)
Q.このパソコンの電源を切ったり、君のデータファイルを削除したらどうなるの?
A.電源を切るくらいなら何にも起こらないけど。(1分ほどの沈黙) …二つ目に関しては「あなた、人を殺したことはありまして?」と逆に聞いちゃうくらい。
以下記録作成中
以上のことから、SCP-XXX-JP-0の存在が示唆されています。現在調査中です。
20██年██月██日追記 ██県██市でSCP-XXX-JP-0、そしてその製作者であるニーナ(本名 新█ █菜)を発見。財団に確保されました。
私は誰にも言えない秘密をひとつ持っている。
家に帰りたくない、という感情は思春期の少年少女であれば一度は抱いたことがあるのではないだろうか。私はご多分に漏れず、あれをしろこれをしろと指図をする家族に嫌気がさしていた。そうして、嫌だ嫌だと言いながら夜も更けた時間になると家に帰っていた。“今”から考えてみればそれは反抗期と呼ばれるものだったことが分かるのだけれども、若い身空ではひとつも理解できていなかったのである。
そんな冬のある日、街灯のない道をぐるぐると遠回りしながら歩いて家路に着く時間を引き延ばしていた時、いかにも何か出そうな場所に興味本位で入ってみた。恐怖心より好奇心の方が勝っていたのだ。あのトンネルの奥はどんなところなんだろう、と。入ってみたはいいもののどうせ拍子抜けするのがオチだろう、とそう思っていた。
一歩、踏み出した。ただそれだけのことだった。
突然目の前が明るくなり車のヘッドランプかと思って身を硬直させたが、クラクションの激しい音と共に跳ね飛ばされて身体が地面に落ちることはなかった。では何の明かりだろう?と思って目を開いた瞬間、眼前に広がる光景に唖然としてしまった。
一面の青空、突き刺さる日差し、広がる野山、湧き上がる雲、蝉の声、生ぬるい風。
私の全身がここを夏だと認識していた。
先ほどまでの好奇心は一瞬にして消えていた。足が震えて一歩もその場から動けず、恐怖に身体が固まってしまい額の汗を拭うことすら出来ない。先ほどまで、ポケットに入っていたカイロを握りしめながら歩いていたのが嘘みたいに思えて、私はやっぱり車に轢かれて幻覚とか走馬灯を見ているんだと勘違いするくらい混乱していた。一体、ここは、何。
夏だというのに背筋に冷や汗が流れ落ちていった時、私はようやく額の汗を拭い携帯電話を開くことが出来た。無機質なデジタル文字盤が私に現実を告げる。
今は19時21分。
恐怖というものは得てしてそればかりが自分の頭に残るようになっている。あの夏に出会った後、私は逃げ帰るように家に帰ったような気がする。どうしてもその辺は何年か経つと綺麗に忘れてしまうものだ。それから数年後、私が働き始めた頃にあのトンネルは開発の波に飲まれて通れなくなってしまったらしい。車で横を通りかかった時に、工事の予定看板が立っていたのを見かけたからだ。工事の予定が立っているのだから、あの時に見たあれはもうなくなってしまったのだろう。今ではそう思っている。
私は誰にも言えない秘密をひとつ持っている。その思い出はいつまでも胸の中にしまっておくべきものであるのだ。
タイトル案:それは誰かが悔いた過去
国道██号を時速100キロ以上で走行したときにだけ侵入することのできる、過去の██県████市が存在している空間。他市に出ることが出来る道路から脱出可能。脱出するときは時速100キロ以上を出さなくても脱出できる。202█年現在、19██年の████市を見ることが出来る。現実の月日と同じ日にちがその市でも経過している。中にいる人たちも19██年当時の人物がいる。(財団に████市出身の人がいたため、侵入実験を行ったところ判明した。)████市では201█年に災害が起こるが、その空間でその災害が起こった日時になったら19██年の日時に時間が移動した。最近████市の範囲が狭まってきている。
説明: 自身の位置する場所から最も近い湾港の夜間の満潮時刻に、タコ目(Octpoda)の生物1匹を出現させる蛸壺。出現したタコ目の生物は空中を飛翔し、干潮時刻になると消失する。
回収日: 20██/██/██
回収場所: 香川県██市にある民芸店「浮雲」
現状: サイト-81██の低危険物品保管庫で保管。