アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8181の中脅威度生物収容施設にて、標準的な昆虫型オブジェクト用ケージを使って収容されます。不意の収容違反を防ぐため、常に高倍率ビデオカメラと2名以上の担当職員による監視体制を敷いてください。特に必要のない場合、SCP-XXX-JPに直接触れる、または極端に接近することは避けてください。
給餌は1日に2回、有事の際の安全確保のため、必ず配置してあるピンセットを用いて行ってください。SCP-XXX-JPが異常性を発揮し始めた時には即座に追加の餌を与え、活性化状態が収束するまで給餌を継続してください。
説明: SCP-XXX-JPは淡いグレーの体色を持つイエユウレイグモ(Pholcus phalangioides)の個体です。体長はおよそ12㎜で、この種類のクモにしてはかなり大型といえますが、毒は持っていません。長細く華奢な体格で、形の整っていない目の不規則な網を張り、虫の死骸や自分より小さい虫を捕らえて摂食するなど、通常のイエユウレイグモとほぼ同様の特徴と習性を有しています。網から採取したクモ糸のDNA検査の結果には、一般的な同種のクモとの差異は見受けられませんでした。SCP-XXX-JPの繁殖に関する試みは、個体数の増加に伴って収容違反の恐れが大きくなることと、交尾によって起こる影響が予測できないことから、現在のところ許可されていません。
SCP-XXX-JPは空腹ないし飢餓に陥った時、自身の周囲にある物体1を消失させ、代わりに消失した物体と同じ質量分の土2を出現させます。この「土への置換現象」はSCP-XXX-JPのおよそ半径5㎝、高さ2㎝以内をドーム状に覆う形で発生しますが、長崎県██市での最初の発見時には民家の一室にて約██cm2の床を置換させていたことが確認されており、最大射程は依然として不明です。射程距離内に複数の物体がある場合、よりSCP-XXX-JPに近い位置の物体から土に置換されていく傾向にあります。また、この現象はSCP-XXX-JP自身と、放出したクモ糸などSCP-XXX-JP由来の物質、SCP-XXX-JPが直接触れている物体及びSCP-XXX-JPが接地している場所、そしてSCP-XXX-JPが自分の餌になると判断したもの(非常に不規則的かつ曖昧な基準なので特定はできません)には作用しないようです。
SCP-XXX-JPの活性化は飢餓状態でしか起こらないため、充分な食事を得ている間には異常性が発現することはありません。ただし、基本的に臆病な平時とは異なり、活性化中は周囲の生物に対してとても攻撃的になることから、SCP-XXX-JPは自身の異常性について本能的に周知していると推測されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8181にて、物品保管庫内の標準収容ロッカーに保管されています。
レベル2以上のセキリュティクリアランスを持つ職員には、書式XXX-JPに従って申請書を提出し、サイト上層部にその旨が認められた場合、保管庫からの持ち出しと実験が許可されます。実験の際は安全のため、警備員1名以上を研究室に同行させてください。
説明: SCP-XXX-JPは竹製の赤い箸です。全長は20.1㎝、直径(太さ)は約7.8mmです。材料は日本産のモウソウチク、塗料は一般的な酸化鉄顔料で、それぞれ比較的高品質なものが使用されていますが、構成材質に目立った異常性はありません。20██年、当時表向きの職業として京都府██市██大学の准教授であった████博士が、偶然にも近所で開催されたフリーマーケットで購入し、使用中に異常性を発見したことで特定されました。現在、SCP-XXX-JPの出品者を追跡する調査が継続中です。
SCP-XXX-JPを用いて物体をつまむと、つままれた物体は急激に強度を失います。また、SCP-XXX-JPの影響を受けた物体は、元来の性質を無視して生物による摂食が可能になります。この「可食化」現象の限界や原理は今のところ不明です。「可食化」は基本的に物体がSCP-XXX-JPから離れることで終了しますが、生物に食べられた場合に限り解除されることはなく、通常の食物と同じように消化・吸収されます。調査の結果、「可食化」された物体は、質量や原子数の増減を全く伴わないまま、物質の組成だけが変化していることが判明しました。この変化した物質の組成は、既知のどんな原子配列、分子構造とも一致しないことが大半です。
対象とする物体に突き刺したり、単に触れさせただけの場合では「可食化」は発生しないことが確認されています。よって、つまむ動作が必要な性質上、液体や気体を「可食化」させることはできないと結論づけられています。さらに、チンパンジーなどの類人猿を含む動物にSCP-XXX-JPを使用させた場合、またはロボットアームなど他の道具を介した場合の実験では「可食化」が発生しなかったことから、SCP-XXX-JPには自身の使用者を判別する機能または知性が備わっていると考えられています。人間が使用した時にのみ物体を「可食化」させる理由は不明です。尚、SCP-XXX-JPを保持した生物または機械類には特に何の効果も及ぼしません。
付録: 実験記録XXX-JP - ████博士の研究記録から一部抜粋
事案記録XXX-JP-20██/9/5
対象: アルミ製の缶詰の缶
内容: 自宅にて一人で晩酌中、中身の魚介を食べようとしたところ、酩酊していたために誤って缶の端の方をつまんだ。
結果: 缶がぐにゃりと曲がり、ゴムのようにしなった。変化した物体は食べなかった。
分析: 実験というより、事故の記録なんだけど…SCP-XXX-JPの異常性を発見した時のことだね。いや、本当に驚いたよ。実際夢か何かだと思った。事後報告になってしまって本当に申し訳ない…
実験XXX-JP-20██/9/17-a
対象: 小石(千葉県███川で採取された安山岩)
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いて小石をつまむ。
結果: 小石は硬度を失い、非常に脆くなった。実験に参加したD-5308は、SCP-XXX-JPを用いて小石をつまんだ時の感触を「クッキーか、焼いたピザの生地みたいだ」と報告している。D-5308が「何だかこのまま食べられそうだ」とも発言したため、試しに食べさせてみたところ、「可食化」を発見するに至った。D-5308は味と食感について「転んで口に砂利が入った時と同じ味。あんまり美味しくはない。うまく言えないけどまさに"石を食べてる"って感じはする」と表現した。実験後、D-5308に採血を含む健康診断を行ったところ、体内のミネラル分が少し増加していた。
分析: あの日のことが夢じゃなかったとわかってまた驚いたよ。うーん…食べられるようになった理屈はわかんないけど、とりあえず石は不味いって覚えておこう。健康にはよさそうだけどね。
実験XXX-JP-20██/9/17-b
対象: 玩具用ゴムボール(一般に「スーパーボール」「ビックリボール」と呼ばれるもの)
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いてゴムボールをつまむ。
結果: ゴムボールは非常に柔らかくなり、形が若干崩れた。実験に参加したD-5309は外見と感触に関して「牡蠣か温泉卵に似ている」、味について「歯医者で型を取る時のアレみたいでとても不味い」と報告した。この時、変化した物体をD-5309が思わず吐き出してしまったことにより、「可食化」が解除される条件が発見された。中途半端に噛み砕かれたゴムボールは、一度溶けてから固まったかのようにえぐれていた。
分析: 変化した物体は吐き出すと元に戻るんだね。いや、吐き出すというより手を離したからか。お残しは許されないらしい。
実験XXX-JP-20██/10/3
対象: シュウ酸カルシウムの結晶体(1㎝角に成形したもの)
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いてシュウ酸カルシウムの結晶体をつまむ。
結果: 結晶体の外見にはそれとわかる程の変化はなし。実験に参加したD-5325は感触及び食感に関して「チューイングガムみたい」、味について「ほんのりパイン味。けど、本物よりも口の中がイガイガする」と報告した。実験に使用したシュウ酸カルシウムの結晶体は、事前にパイナップルから抽出したものだった。
分析: お待ちかねの毒物実験だ。毒物でも食べられるようになるってのは大発見だけど、この場合最も注目すべきは味の方だな。やっぱり元になった物体の性質に影響されるようだ。
実験XXX-JP-20██/10/20-a
対象: 炭化した牛のレバー
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いてレバーをつまむ。
結果: 変化前はとても噛み砕けないほど硬化していたが、実験に参加したD-5346は「可食化」物体の食感を「こんなに柔らかい肉を食ったのは初給料でフレンチ料理屋に行った時以来だ」と表現。ただし、食感とは裏腹に、通常の食用牛肉では考えられないほど生臭かったとの旨も報告されている。
分析: 思い立ったが吉日。普通の食品でも変化は起こるのか、という実験だ。決して失敗した夕飯を処分しようとか考えてた訳じゃない。結果は、まぁ…担当のDクラスには悪いことしたと思ってるよ。
実験XXX-JP-20██/10/20-b
対象: 腐敗したマダコの刺身
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いてマダコの刺身をつまむ。
結果: 変化前は焦げ茶色でしなびた外観だったが、つまむと急激に張りが戻り、色は緑になった。実験に参加したD-5423はこれを「自分はグルメなどといったものについては門外漢だが、これは最高級品に匹敵する美味しさだと思う」と絶賛した。ただし、D-5347は実験後、およそ3日に渡って味蕾の機能が衰え、味覚が極端に鈍化した。
分析: よし、大成功だ!…とは言い切れないなぁ。パイナップルのシュウ酸カルシウムが大丈夫でタコが駄目な理由は何なんだろうか?
実験XXX-JP-20██/11/9-a
対象: 一般的なビー玉
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いてビー玉をつまむ。
結果: 外見には特に変化なし。実験に参加したD-5409は「食べた限りでは完全に飴玉としか思えない」「味はソーダとかそんな感じだ」と報告。使用されたビー玉は、実験前日に████博士が購入したラムネ飲料のボトルに封入されていたものだった。
分析: 予想はしていたけど、結構色んなところからネタを拾って来るなコイツ。今回のは単に構成物質から原材料を逆算したってだけじゃ説明がつかないぞ…まさか、僕の記憶を参照した?使用してる者だけじゃなく、周りの人間についても知覚できる能力を持ってるのか?
実験XXX-JP-20██/11/9-b
対象: 無毒化処理が施されていないゴマフグの卵巣
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いて卵巣をつまむ。
結果: 変化前は通常の魚の内臓のように赤い色だったが、SCP-XXX-JPにつままれた部分から徐々に濃い紫色になっていき、またところどころオリーブ色の斑点が浮かび上がった。実験に参加したD-5410は当初、食べた物体について非常に満足そうな様子を見せていたが、食後7分ほどで腹痛を訴え始め、それからさらに32分後に突如として卒倒した。すぐに████博士の指示で医療チームが招集されたが、最終的にD-5410は死亡が確認された。尚、検死結果ではD-5410の死因は原理不明の壊疽による多臓器不全であり、テトロドトキシン(フグ毒)による中毒症状とは性質が異なるものだった。体内から回収された「可食化」後の物質の調査を継続中。
分析: 初の死亡事例。雲行きが怪しくなってきたな、今以上に慎重に扱わないと。
実験XXX-JP-20██/11/9-c
対象: 廃棄予定だったスポンジケーキの失敗作(████博士の同僚である██博士が作ったもの)
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いて、事前に切り分けられたケーキをつまむ。
結果: ケーキは外側が炭化して固くなっていたが、SCP-XXX-JPが触れた途端にふわりと柔らかくなった。実験に参加したD-5411は食感について「着古したTシャツでも食べさせられてる気分」、味について「やたらめったら甘い」と報告している。
分析: あの人が作る料理は普段からおかしいし、さぞや妙な結果になるもんだと思ってたけど、ほっとしたというか期待外れというか。これまでの実験を鑑みるに、何というか…より新鮮だったり、一般的においしいって言われそうなものほど悪い結果を出してるって印象を受けるね…
実験XXX-JP-20██/1/3
対象: 鯛の活け造り(非常に新鮮なもので、皿に盛られてからも動いていた)
実施方法: DクラススタッフがSCP-XXX-JPを用いて鯛をつまむ。
結果: [削除済み]。変化した物体は食べなかった。
分析: SCP-XXX-JPを用いた生体実験の禁止を提案します。自分で思いついたこととはいえ私の正月は台無しになりましたが、被害が少ない内に重要な発見ができたのは不幸中の幸いでした。
補遺: 実験XXX-JP-20██/1/3の結果を受け、SCP-XXX-JPを用いて存命中の生物をつまむことは禁止されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはその規模の大きさから移動させることが困難なため、SCP-XXX-JP周辺の半径500m 800m 1.2㎞圏内の土地は財団によって買収され、サイト-81██・エリアXXX-JPに指定されます。エリアXXX-JP内の様子は各所に設置された監視カメラを用いて常に駐屯施設・セクター██-γから監視し、一般人の立ち入りを厳重に制限してください。エリアXXX-JP内からSCP-XXX-JP-4が流出している、もしくはSCP-XXX-JP-11が侵出しようとしているのが確認された場合、対植物型オブジェクト鎮圧用枯葉剤と火炎放射器によって即座に排除してください。
SCP-XXX-JPの制御と使用許可ケースに関する機密マニュアル、運用手続XXX-JP-TZ9999が作成されています。レベル4以上のセキュリティクリアランスを持つ職員にのみ閲覧が許可されます。事案XXX-JP-20██/12/25-εの結果を受け、運用手続XXX-JP-TZ9999は破棄されています。以後、同文書は公的なマニュアルとしては扱われません。
O5-█の認可の下、SCP-XXX-JPの起動実験及び内部調査が進行中です。全ての実験並びに調査計画は凍結されています。ただし、SCP-XXX-JPを停止させる、またはSCP-XXX-JP-4並びにSCP-XXX-JP-11を無力化するための試みに限り、新たな実験計画を提案することが認められています。
説明: SCP-XXX-JPは座標としては北緯3█度、東経13█度、日本国██町の山岳部の北北東に所在する大型施設です。測量では高さ153.7m、横全長191.2m、奥行き115.8mと判明しており、また内部にはより広大な地下空間が広がっています。██回に及ぶ調査・探索にも関わらず、SCP-XXX-JP内部の全容は未だに把握できていませんが、暫定的に出入り口である「ゲートモジュール」、原理不明の発電システムが収められた「ジェネレータモジュール」、ビニールハウスによく似た人工的な農園設備を持つ「プラントモジュール」、システムの中枢であると考えられる「コントロールモジュール」という4種類の区画および機構が確認されています。
周囲の山と全く見分けがつかないほどに精巧な岩壁のレプリカ、植物を繁殖させることが可能な有機質の外装、既存のあらゆる探査装置に感知されないステルス性を備えており、通常時はこれらの機能によってほぼ完全に隠匿されています。この各種の隠蔽機能は特定の手順を踏むことで解除され、出現する「ゲートモジュール」から内部への侵入が可能になります。詳細は運用手続XXX-JP-TZ9999を参照してください。事案XXX-JP-20██/12/25-ε以降、内部への侵入は一度も成功していません。
SCP-XXX-JP内部の「コントロールモジュール」には、いくつかのボタンの上に簡単なピクトグラム(絵文字)が描かれた制御ユニットが配置されています。この制御ユニットのボタンを押すと、SCP-XXX-JPの「プラントモジュール」が稼働し始め、特異な性質を持った未知の植物が生成されます。SCP-XXX-JP-1~11 12と指定されるこれらは極めて素早く成長し、種子が埋められてからおよそ27分~3時間以内には新たな種子または果実をつけます。ただし、SCP-XXX-JP-4を除くこれら植物群の種子は、「プラントモジュール」内部の培養槽以外の環境では生育しないことが判明しています。SCP-XXX-JP-1~8のDNAを解析する試みと、新たにSCP-XXX-JP-9、-10、-11に指定された植物の研究が並行して進められています。尚、「プラントモジュール」は制御ユニットで指定された種類の植物を、ボタンが押された数だけ同時に生成することが可能で、今のところその機能の限界は不明です。
以下は、SCP-XXX-JPの制御ユニット上のボタンに描かれているピクトグラムと、それに対応する植物の一覧です。
# | ボタンに描かれているピクトグラム | 植物の主な特徴 |
---|---|---|
1 | N/A | 「プラントモジュール」に最初から生えていた、薄い藍色の蔦状植物。-4を除く全ての植物は、これを基点として生成される。 |
2 | 不明なヒト型生物が、丸い物体を手に持ち、口を開けている図 | ハンドボール大の楕円形の果実。オレンジ色の皮は簡単に剝がすことができ、中には半透明な白い果肉が詰まっている。試食実験にあたったDクラス職員の大半は「とても美味である」と証言した。栄養価が極めて高く、またカロリー保有量も多い。 |
3 | 不明なヒト型生物が、板状の物体を手に持ち、身体に宛がっている図 | 丸みを帯びた四角形の葉。鮮やかな赤色。多肉植物のように葉の内側がゲル状になっており、この物質は他の生物の自然治癒力を爆発的に高めることが判明している。 |
4 | 赤茶色の塗り潰しと、紫色の太い線 | 紫色のコケ植物。SCP-XXX-JPの外装と、「プラントモジュール」の培養槽に用いられている有機質層と同じもの。周囲の物質を有機・無機問わず積極的に吸収し、非常に短期間で成長・増殖する。地球上に存在する通常の土壌に代わり、他のSCP-XXX-JP植物群が生育できる唯一の環境要因。 |
6 | 不明なヒト型生物の頭部と、その内側に描かれた奇妙なマークの図 | 黄色と青のストライプ模様をした風船状の果実。皮を破ると内側についている微細な種子が飛び散り、ミントなどに近い爽やかな芳香と共にリラックス効果をもたらす。ただし、この種子を吸い込みすぎると昏倒して軽度の記憶喪失に陥る。 |
7 | 何らかの刃物のように見える尖った物体 | 薄い板状の緑色の果実。石英に匹敵する硬度の外殻を有する。また、表面がサメの肌のようにざらついており、触れた物体を深く傷つける。 |
8 | 黒いアメーバ状の物体と、その周りに点在する奇妙なマークの図 | 黒色の丸い果実。完熟すると皮が裂け、まるで口のような形になる。知性を有しており、近づいた生物に襲い掛かるが、基本的に貧弱で破壊も容易。 |
9 | 歪んだ円の中心に、十字の物体が配置されている図 | 銀色の皮膜で覆われた鉤状の種子。砕いて加熱すると[削除済み]と類似した特性を示す物質に変化する。これをスクラントン現実錨3の[削除済み]部分に用いた場合、理論上は従来のものと比べて稼働時の摩耗を約17%、電力消費量を従来の約26%抑えられると予測されている。 |
10 | 不明なヒト型生物が眠っていると思しき図 | 青黒いヘタがついたピンク色の果実。食した生物を仮死状態にし、超高温や極低温、真空、放射能汚染下といった極限環境での生存を可能とする。仮死状態は[削除済み]処置を行うことで解くことができる。 |
11 | 何らかの機械装置と思しき物体の図 | 寒色系の複雑な色味をした果実。食した生物の周囲に局所的な時空間異常を引き起こし、およそ1分~█週間ほど以前の過去へと転移させる。現在、最優先で研究が進められている。 |
12 | N/A | 事案XXX-JP-20██/12/25-ε以降、エリア-XXX-JP内で確認されるようになった新種。類人猿に近い身体構造を持ち、強靭に発達した四肢と鋭い牙、爪を武器とする。極めて敵対的。 |
SCP-XXX-JP内部の「コントロールモジュール」の解析と、生成される植物群の研究が進められています。また、SCP-XXX-JP-9、-10、-11の特性から、オブジェクトクラスを[削除済み]に改訂することが検討されています。現在、SCP-XXX-JPは事実上の制御不能状態にあり、周辺地域では流出したSCP-XXX-JP-4による汚染が深刻化しています。また、およそ█日に一度の間隔で新たなSCP-XXX-JP-12を生成し、どこからか外部に出現させているのが確認されています。オブジェクトクラスはKeterに改訂されました。
SCP-XXX-JPは19██年の吸収合併の際、蒐集院より管理を移譲されたオブジェクトのひとつで、残されていた文献資料では少なくとも西暦███年頃には現在の位置に存在していたことが判明しています。内部の床が奇妙に傾斜していたり、明らかに重力の影響および自重による損壊を考慮していない構造が散見されることから、SCP-XXX-JPはどこからか「落下してきた」ものだと考えられており、現代の地球の水準を大きく超えた科学技術も加味すると、SCP-XXX-JPは外宇宙もしくは異次元などの先進文明に起源があると推測されています。
補遺:SCP-XXX-JP-Aは、運用手続XXX-JP-TZ9999に従ってSCP-XXX-JPの「ゲートモジュール」が開いた時、稀に出現するヒト型の実体です。平均身長は1.7mほどで、胴体に比して極端に長い手足、縦に開く口腔、背中に複数並ぶ何らかの嚢胞らしき球体の器官、全身を覆う真っ黒な表皮などが主な特徴です。基本的に複数体が同時に出現し、多くは連携するように行動します。どの個体も極めて敵対的かつ好戦的な性格であり、特に人間を狙って攻撃する傾向にあります。
個体ごとにわずかな差異はありますが、SCP-XXX-JP-Aは刀剣と拳銃を合体させたかのような構造の武器と、通信機や生命維持装置を兼ねていると思しき簡易的なパワードスーツで武装しています。高い運動能力とパワードスーツによる防御力を備えているものの、現行の一般的な銃火器による攻撃が有効です。死亡する、もしくは行動不能な状態に陥ると、装備している武器またはパワードスーツが爆発するようになっており、捕獲や生体サンプルの取得は成功していません。
「ゲートモジュール」が開いた時にしか出現しない理由は不明ですが、研究者間では「SCP-XXX-JP-Aらが用いている空間転移の手段には何らかの制限があり、他者の手によって『ゲートモジュール』が開かれた瞬間に便乗する必要があるのではないか」という仮説が支持されています。
SCP-XXX-JP-Aは現在までに██回出現しており、全ての事例においてSCP-XXX-JPの内部へと侵入しようとしているかのような動きが確認されています。また、複雑で明白な規則性のある鳴き声を発することから、SCP-XXX-JP-Aは独自の言語並びにそれを操れるだけの知能を持つと推測されています。ただし、異常なまでの攻撃性と、行動不能に陥ると自爆する特性のため、対話の試みは難航しています。SCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-Aの関連性を調査中です。
財団の基本方針を考えれば褒められたものではないのはわかっている。しかし、向こうが我々の手を取る気がないというのであれば、こちらも相応の態度で事に当たらせて貰う他あるまい。連中の性格を考えるに、我々がSCP-XXX-JPを手放したところで、人類を無事に見逃してくれるという保証もないしな。幸い、奴らの死体は爆発すること以外に大した異常性は持ち合わせていない。SCP-XXX-JP-Aとの交戦、並びに殺害を許可する。 - SCP-XXX-JP担当職員最高責任者・████監督官
事案XXX-JP-20██/12/25-ε以降、20██/██/██現在に至るまで、新たなSCP-XXX-JP-Aは出現していません。
付録:20██/12/25、第██回目のSCP-XXX-JPの内部調査に際し、これまでで最多数のSCP-XXX-JP-A群が出現しました。対象は未確認の新型装備と一種の戦車に似た重機械を伴っており、生存者の証言では「個々の戦闘能力も向上していたように思える」「高度に訓練された兵士の動きをしていた」と報告されています。死傷者数は██人に及びました。
前回までの襲撃の経験から、出現に備え待機していた機動部隊ゑ-21("水虎")が対象と交戦。現場の判断によって爆発物の使用が許可され、対象の掃討には成功しましたが、█体のSCP-XXX-JP-Aが戦域を脱し、SCP-XXX-JP内部への侵入を許すこととなりました。
当該地域を管轄するサイト-81██管理者の指示の下、SCP-XXX-JPの内部構造に関する知識を持つ研究チームと、機動部隊ゑ-21("水虎")の構成員による臨時特殊部隊が編成され、生き残ったSCP-XXX-JP-Aの追撃作戦が実施されました。以下はSCP-XXX-JP内部へ向かった突入班と、外部からのナビゲート4を担当した研究チーム(便宜上「司令部」とされています)の間で交わされた通信記録の抜粋です。
XXX-JP-20██/12/25-ε通信記録-4
<記録再開>
[突入班がSCP-XXX-JP内部に突入してから2時間31分が経過している。この時点までに█体のSCP-XXX-JP-Aを無力化しており、突入班の追っている個体が最後の1体である。尚、同時点での突入班側の死傷者は█名。]
隊員A: 攻撃命中!!……効果なし。多少の傷は負わせたようですが、対象、未だ健在です!
部隊長: ようやく追いついたぞ。総員警戒!!
SCP-XXX-JP-A: [唸るような小さい鳴き声、直後に咆哮]
[重要度が低いため省略]
SCP-XXX-JP-A: [威圧的な低い鳴き声]
隊員B: あっ…司令部、奴が「コントロールモジュール」に逃げ込みました!どうすれば?
司令部: そのまま追ってください。彼らが「コントロールモジュール」に辿り着いて何をする気なのかがわからないので、攻撃はなるべく控え、まずは様子を見るように。
部隊長: いいのか?詳しい話は聞かされてないが、連中があれに辿り着いたら何か拙いことが起こるんじゃないのか?
司令部: 現状ではどうとも、なにぶんそこまで侵入されたこと自体初めてで…撤退も視野に入れつつ柔軟に行動してください。
部隊長: 了解。各員、散開して包囲しろ!
[重要度が低いため省略]
隊員C: 制御ユニット…だっけ?研究チームがいつも調べてる奴。あれに書いてある文字を読んでるみたいだ。
隊員A: ずいぶん困ってるな。もっとこう、勝手知ったる感じでスラスラ触るものかと思いましたが…
司令部: 困っている?
隊員A: えぇ。あー…これは近くから見てて何となくってだけの素人考えなんですが、もしやアイツ、あれの使い方に詳しくないんじゃないですかね。所属が違うとかで。
司令部: 彼らの中で、例えば私たちと同じく、兵士と研究者というように役割が分かれているかも、ということですか?しかし、それなら仲間に連絡を取らないのは………突入班、対象の装備の状態は?
部隊長: 装備か、そうだな…確かに、パワードスーツに幾らか損傷が見られる。特に腕の周りの機材はもうダメそうだ。なるほど、増援を呼びたくても呼べない訳だ。可哀想に。
[重要度が低いため省略]
部隊長: …嫌な予感がする。司令部、俺たちはいつまでアイツの知育玩具いじりに付き合ってりゃいいんだ?
司令部: ふむ…いい加減に頃合いでしょうか。わかりました。スーツの機能が死んでいるのなら好都合です、可能であれば生け捕りにしてくださ…
SCP-XXX-JP-A: [甲高い絶叫]
部隊長: なっ…!?クソッ、撃て!撃ち殺せ!!
[重要度が低いため省略。およそ3分52秒に及ぶ銃撃戦の後、SCP-XXX-JP-Aは鎮圧されたものと思われる。]
SCP-XXX-JP-A: [弱々しい不明瞭な鳴き声]
隊員C: 手こずらせてくれやがって…ふん、今さら命乞いかよ。
部隊長: おい、あまり不用意に近づくな。こういう後のない相手は大抵ろくでもない最後っ屁をかます気でいるもんだ。
隊員A: そうですね。さっさと縛り上げて研究チームの連中への土産にしましょう。
部隊長: 途中に置いてきた味方の誰かがワイヤーを持っていたはずだ。[隊員A]、[隊員B]、彼らと合流するまではお前たちで抑えつけておけ。俺と[隊員C]は念のために前後を警戒しておく。戻るぞ。
SCP-XXX-JP-A: [硬いものが擦れ合う音。歯ぎしりだと考えられている]
隊員B: 待ってください。何か…もしかして、喋ろうとしてる…?
隊員C: おいおい。今更ここに来て情でも沸いたか?変なこと言い出すなよ。もっと別のエイリアンだの異世界人だのならいざ知らず、コイツらに他人の言葉を覚えるなんて協調性は…
SCP-XXX-JP-A: ["絞り出すような痛々しい"絶叫]
部隊長: …今すぐ奴の手を撃て!!まだ武器を隠してやがっ…
[複数の悲鳴、爆発音。突入班のメンバーについては現在、行方不明扱いとなっているが、生存は絶望的だと考えられている。]
<通信途絶>
突入班からの通信が途絶した直後、唐突にSCP-XXX-JPの「ゲートモジュール」が閉門し、同時にSCP-XXX-JP外装から大量のSCP-XXX-JP-4が放出され、███m2に及ぶ広範囲を汚染しました。その際に放出されたSCP-XXX-JP-4の97.8%が取り除かれ、無力化されるまでにおよそ██時間を要しました。
事案XXX-JP-20██/12/25-εにおける最後のSCP-XXX-JP-Aの行動は、SCP-XXX-JPの内部機構およびその性質に深刻かつ決して優良ではない影響を与えたと考えられています。これを受けて、運用手続XXX-JP-TZ9999の破棄が行われました。
20██/1/8追記: SCP-XXX-JPの周辺地域において、SCP-XXX-JP-4が再び繁殖し始めていることが確認されました。また、新たなSCP-XXX-JP植物群であると思しきヒト型実体(SCP-XXX-JP-12に指定されています)についての調査が継続中です。
アイテム番号: SCP-777-J-EX-JP
オブジェクトクラス: Keter Thaumiel
特別収容プロトコル: SCP-777はサイト-17の家具及び洗面所、風呂場等を備えた標準的な人型生物収容室への滞在が認められています。30分に一度、サイト17の警備部隊が定期巡回に訪れます。さらなるセキュリティや安全予防措置の追加については現在、SCP-777の性質のため協議中となっています。
SCP-777には1日3回、通常の食事を支給してください。本人の希望があった場合、割り当てられている予算の範囲内で、食料品や娯楽用品を購入したり、製作して支給することが許可されています。SCP-777は1日5時間まで(移動に費やした時間を除く)の外出と、財団が管理している武術道場施設への出入りが認められています。
説明: SCP-777は典型的な異常性を持つ人型実体です。人種は不明ですが、概ねアメリカ系の白人のように見える容貌をしており、プラチナ・ブロンドの長髪とエメラルド色の瞳が主な特徴です。インタビューにおいては自らを「ダーク・ブレイド」または「漆黒の刃」と名乗り5、年齢は17歳であると供述しています。
現在、確認されている主要な異常性は以下の通りです。
- 常人離れした筋力、耐久度、敏捷性。あらゆる身体機能テストにおいて極めて高水準の結果を記録している。また、収容のきっかけとなった事案20██/██/██-J_"リーインカーネイション"や、事案SCP-076_20██/██/██-JにおけるSCP-682、SCP-076-2といった高危険度オブジェクトとの戦闘記録から、再生力及び自然治癒力も非凡な域にあると推測されている。
- 何らかの異相次元、または並行時空と推測される特異な領域から、自らの武装であるブレードとアーマーを取り出す能力。それぞれの表面に塗布されている黒い物質が、電磁波や赤外線を大きく減衰または高効率で吸収してしまうため、構造分析の試みは実を結んでいない。SCP-777はこれを「邪な呪術師に覗かれぬよう細工を施した」と主張しており、最初からステルス効果の発揮を想定して行われた加工であると考えられる。強度も高く、ブレードは超音速で飛来した銃弾を真正面から切断しても刃毀れが確認できず、アーマーは高周波振動破砕機を5分以上接触させても表面素材の剥離さえ見られなかった。
- 人間、特に異性を魅了する能力。担当職員間で実施したアンケートにおいて、SCP-777を「魅力的な容姿だ」・「どちらかといえば魅力的な容姿だ」、もしくは「好意的に感じられる人物だ」・「どちらかといえば好意的に感じられる人物だ」と答えた職員は全体の97.3%に達した。ただし、この能力に関してSCP-777は「決して意識して発動させているものではない」と主張している。
- 周囲に存在する水分子を操作する能力。SCP-777はこの能力を「アタック・シールド」、「水のエレメントがもたらす加護」などと表現し、あらゆる脅威から彼を事前に防護するよう作用することが大半である。また、SCP-777はこれを「我の忠実なる下僕にして、随一の盟友である『水竜神███████』の力である」と主張しており、実際にこの能力をより大きな規模で発動させた際には、多くの目撃者の間で「ドラゴン」と形容される姿のクラスⅤ霊的実体が出現することが確認されている。
SCP-777は財団の収容活動の限界を逸し得る能力を有していますが、彼自身は「己が背負った使命のため」として非常に協力的かつ従順な態度を示しており、いくつかの心理テストにおいても現在の姿勢が虚偽であると推論できるような結果は得られませんでした。実際に複数の事案において、財団の基本理念にも理解を示し、SCiPオブジェクトの安定化や無力化に協力した実績から、O-5評議会はSCP-777をThaumielクラスオブジェクトに分類することを決議しました。
SCP-777は基本的には「謙虚で礼儀正しい」と形容される性格です。ただし、やや女性に対して距離が近くなる傾向があり、あまりに目に余る場合は柔らかく注意することが許可されています。彼も紳士的なのですぐに引き下がってくれるでしょう。SCP-105を「我が妃」などと呼んでいた件についてはノーカウントとしておきます。
インタビュー記録SCP-777/1_"SCP-777の人格についての初期評価":
対象者: SCP-777 "漆黒の刃"
インタビュアー: █████████博士<録音開始>
█████████博士: こんにちは、777。ここでの生活にはもう慣れましたか?
SCP-777: ……其は我が真名マナではない。我は"漆黒の刃"、ダーク・ブレイド………
█████████博士: あぁ…そうでしたね、これは失礼しました。して、"漆黒の刃"よ。何故あなたのような方が我々の財団に?
"漆黒の刃": 博士よ……嗚呼、定めがそう告げるのだ。
█████████博士: 定め…ですか。定めとは、一体どのような…?
["漆黒の刃"はゆっくりと天井を見上げた]
"漆黒の刃": そう、定めだ…そして我にとっては誓いでもあり………いや。貴様らには理解らぬだろうな。世界を救うべき天命定めなど……。
█████████博士: なるほど……確かに、嘘偽りはありませんね。貴重なお話をありがとうございました、"漆黒の刃"。あなたに会えて幸いでしたよ………
<録音終了>
終了報告書: SCP-777はあまり多くを語ってはくれませんでしたが、少なくともその意志は本物であると私は思います。彼は財団にとって極めて重要な人材ですよ。我々が的確に彼をサポートすることが出来れば、ともすれば我々の救世主になってくれるかも知れません。それもすぐに会えるほど近くにいる、ね。さぁ、みんな!あの方と共に世界を救おう! - █████████博士
付録777-1: 20██/██/██、SCP-777は娯楽用品として楽器を要求しました。█████████博士はこれに応えてギターとその演奏法について記した教本を贈答しました。SCP-777は非常に短期間で演奏法を習得し、後の20███/██/██の外出中、路上で十数分間のライブを行い、多くのチップを獲得しました。SCP-777はこの際の収益と予算を合わせて「自室か道場でサメを飼えないか」という要求を行っています。現状不明な彼の素性について、要注意団体「サメ殴りセンター」との関連が疑われています。
付録777-2: 20██/█/████、小規模収容違反が発生。これに関わったSCP-777は最低限の簡潔な報告を行い、意味深な笑みを浮かべて以降は口を閉ざしました。SCP-777の性質上、尋問は多大な労力が必要となるか実質的に不可能であると判断され、彼に対するこれ以上の追及は凍結されています。
インタビュー記録SCP-777/2_"ダーク・ブレイド親衛隊設立の経緯について":
クレフ博士: 貴殿こそ私が待ち望んでいた御方です。
"漆黒の刃": 我は………
クレフ博士: この私、クレフは、いつでも貴殿に魂を捧げる覚悟ができております。
"漆黒の刃": ……では、真なる神器を手に取り、汝が真名マナを唱えてみせよ。
クレフ博士: 仰せのままに。私はサタンの子、"デスメタル"!慟哭のギターの主にして、ソン・ゴクーの血を引くサイヤ人の末裔なり!
"漆黒の刃": ならば共に世界を救おうぞ!!
"デスメタル": メフィストフェレスの涙に賭けて、いざ!!
[記録終了]
補遺-777: 以降、SCP-777とクレフ博士は定期的に面会を行うようになりました。本人らはこの面会を「"漆黒の刃"親衛隊による円卓会議」としています。
インタビュー記録SCP-777/3_"ダーク・ブレイド親衛隊への新規加入者その1":
ヨリック: ………私を呼んでいたのは貴方ですね、そうでしょう?
"漆黒の刃": 如何にも。
ヨリック: いったい私に何をしろというのですか?
"漆黒の刃": ヨリック。否、貴様の真名マナは、そう………”ダークハート・クールナンセンス”!吸血鬼、人狼、忍者の血を引く古代種族よ。さぁ、ガン・カタナを手に取り、我と共に来るのだ!!
"ダークハート・クールナンセンス": 主よ……承知致しました。これより我が身、我が命、貴方様に捧げます!
事案記録SCP-777_"██████████,█████████████":
クラック調査員: やぁ、SCP-777。
"漆黒の刃": …否。それは我が真名マナではない。ダーク・ブレイドと呼ぶのだ……
クラック調査員: おっと、こいつは失敬。まぁ、それはともかく、私に用があるんだろ?
"漆黒の刃": 正しくは貴様でなく、奥ゆかしき妖精サキュバスに、だ。あの娘は我が妃にこそ相応しい。通してくれるな?
クラック調査員: あーはいはい、用事はアイリスにか。申し訳ないけどダメだね、今日は███の予定が…
"漆黒の刃": [データ削除済]
クラック調査員: 仰せのままに、"漆黒の刃"。
インタビュー記録SCP-777/4_"ダーク・ブレイド親衛隊への新規加入者その2":
ブライト博士: 私は!私には一体どんなファンタスティックでロックな真名マナがあるんだ!?
"漆黒の刃": 親愛なる"ボボ"よ。我が忠実なる下僕にして愉快な語り部よ。貴様は我のためにコーヒーを淹れ、武具を磨き、常に我が視界にある如何なる人物よりも華やいで見えるよう尽くすのだ。
ブライト博士: あ、そりゃどうも………あんまりカッコよくないな……
"漆黒の刃": このクールな角兜もあげよう。
"ボボ": 友よ、コーヒーはデカフェですか?それともレギュラーで淹れます?
20██/██/██、サイト-17-監視カメラNo.██の映像記録:
クレイン博士: やぁおはよう、SCP-777。
"漆黒の刃": ……全く、どやつもこやつも……ダーク・ブレイドだ。
クレイン博士: ああ、わかってるよ、もちろん。謝るからさ。それで…そう、気分はどうかな、"漆黒の刃"さん?
"漆黒の刃": 悪くない。
クレイン博士: そりゃあ良かった、うん。…あぁそうだ、せっかくだし何か手伝えることはあるかい?
"漆黒の刃": すまないが、特にない。
クレイン博士: へぇ。それじゃ僕は仕事に戻るよ。グッバイ。
"漆黒の刃": さらばだ。
事案記録SCP-777_20██/██/██:
[SCP-777が出入りしている武術道場施設での映像。ブレードを両膝に渡し、瞑想を行うSCP-777の姿が写っている。暫くの間、充実した表情で座っていたが、SCP-777は突如道場の出入口に向かって話し始めた。]
SCP-777: 機械の子よ、其処に居るのはわかっている。
[ギアーズ博士がどこからともなく現れ、お辞儀をする。]
ギアーズ博士: ……流石ですね。これでは何もできません。
SCP-777: …嘘をつくな、機械よ。貴様は今も我を狙っている。
ギアーズ博士: まさか、ご冗談を。私にはあなたを狙う理由など……
"漆黒の刃": 神の怒りよ、我が敵を罰せよ!
["漆黒の刃"が虚空に向かって刀を振り抜くと、そこから強烈な電撃が迸り、ギアーズ博士に直撃した。]
ギアーズ博士: グワーッ!!
[ギアーズ博士は煙を吐きながら地面に膝を衝く。彼の体表を覆っていた欺瞞用人工皮膚が焼き捨てられ、体内の機械装置があらわになる。そこには無数の銃口が組み込まれていた。]
"漆黒の刃": 立て、機械の子よ。それで何をするつもりだったか教えてもらおうか…!
"機械の子": こんな機械を信用するんじゃなかった!
事案記録20██/██/██_"インシデント・オブ・スペース・デッカー":
エディソン博士: お望み通りSCP-682の報告書を持ってきたよ、Mr.ダーク・ブレイド。
"漆黒の刃": 感謝する、エディソン博士……それとも、こう言ったほうが良いかな。"宇宙刑事仮面マスクX"よ!
エディソン博士: ハハッ……流石だねダーク・ブレイド。そう、私だよ。もう君は忘れていると思ってたがね………フンッ!!
[煙幕のようなものが辺り一帯を覆う。煙が晴れると、エディソン博士は合成繊維のスーツと、バイザー付きのヘルメットを身につけた姿に変わっていた。]
"仮面マスクX": 貴様が犯した罪のツケを、今ここで払ってもらうぞ!
"漆黒の刃": …エディソンよ。今の我は最早、ダークサイドから抜け出し、光の誉れの下に居る。いつか貴様にも分かるだろう。私はいつの日か、ダークサイドの下で犯した数々の罪を償うつもりだ。もちろん、貴様が銀河警察に入り、私の命をつけ狙うようになった原因たるあの出来事のこともな……
"仮面マスクX": なら…… ["仮面マスクX"は懐から詳細不明の円筒状の装置を取り出す。基部と思しきパーツから眩く輝くレーザー光の刃が発生する] 踊ろうぜ?
"漆黒の刃": フッ…… [抜刀]
事案記録SCP-777_"ダーク・ブレイド親衛隊への新規加入者その3":
トレビュシェット博士: あなたが777ね?
"漆黒の刃": ダーク・ブレイドと呼べ。
トレビュシェット博士: ……「だいぶ暗いど」?
["漆黒の刃"はトレビュシェット博士に「フェニックスの尾」を使った。トレビュシェット博士は復活した。]
"漆黒の刃": エピファニーよ、我等と共に来い。地球ほしの生命を吸い上げる魔晄炉を破壊するのだ。
トレビュシェット博士: な、何だかよくわからないけど…エコ・テロリズムとストライキで地球が救えるっていうの?任せてよ!
["漆黒の刃"はエピファニーの白衣を掴んで乱暴に抱きかかえると、今まさに列車の通らんとする鉄橋の上から飛び降り、地平線の彼方へ消えた。]
20██/██/██、サイト-17-監視カメラNo.██の映像記録:
["漆黒の刃"は先の外出時にHot Topic2で購入した漆黒のTシャツとブラックジーンズを身につけ、バラの花弁を散らしたベッドに腰掛けている。そこに薄化粧をしたコルベット研究補佐官が紫の髪をなびかせて駆け込んでくる。]
コルベット研究補佐官: !!………ようやく……ようやく、戻ってこられたのですね、ブレイド……!
"漆黒の刃": あぁ、君のために戻ってきたよ。
コルベット研究補佐官: ["漆黒の刃"に身を預けつつ] もう二度と僕を置いて行かないで、ブレイド…! [涙を流す]
"漆黒の刃": [コルベット研究補佐官の顎に手を添え、彼の瞳を覗きこむ] 勿論さ。もう二度と君を置いて行かないよ、サルマン…… [恥ずかしがるコルベット研究補佐官を████████████。]
サルマン・"黒き追憶の鷹"・コルベット: ブレイド……
██████████博士: [二人を写真に収めながら] アツアツだね、お二人さん。
事案記録SCP-777_"無礼者への誅罰":
["漆黒の刃"は20██/██/██に購入が認められ、サイト-17の一画に設置された小型のサメを飼育している水槽の前に座り、瞑想に勤しんでいる。そこに、やや狼狽した様子のエージェント・ロードランナーが現れる。]
ロードランナー: 珍しいな、こんな場所で…って、お前が買ったんだから見に来るのは当たり前か…
"漆黒の刃": …貴様か。ちょうどよかった、話がある。
ロードランナー: うん?何か用か?
"漆黒の刃": 正しくは貴様のバイクに。
ロードランナー: へ?そりゃどういうこったい?
"漆黒の刃": 我はさる狂走の宴レースに馳せ参じなければならない。神々の末裔にのみ使うことを許された神器を得るために。ヤツにアレを渡すわけにはいかんのだ……彼の者の欲望に果てはない。
ロードランナー: ははぁ、何だかよくわかんねぇけど…そうだ、こういうのはどうだ?俺だってタダで渡すわけにゃいかねぇんだ、そんなに欲しけりゃ俺をぶっ殺して手に入れてみな!
[ロードランナーはホルスターから拳銃を引き抜き、"漆黒の刃"に狙いをつける。]
"漆黒の刃": 愚かな……
["漆黒の刃"はゆっくりと立ち上がり、刀の柄に手を添える。]
ロードランナー: てめぇのケツの穴に230グレインのジャケッテッド・ホローポイント弾をブチ込んでやるぜ!!
["漆黒の刃"は自らに放たれた10発の.45口径弾すべてを超人的な剣捌きで防ぎ、最後の一発をエージェント・ロードランナーの頭部に向け弾き返した。監視カメラからの映像が突如として途絶え、30分後に回復した時には死体はおろか、事件の痕跡すら何一つ残っていなかった。水槽のそばにはロードランナーのCZ-97B拳銃が彼の手にした多くのトロフィーとともに飾られていた。]
事件についての補遺: エージェント・ロードランナーはその後、Dクラス職員の寮の一角で、全くの無傷で発見された。SCP-777は事件後しばらくロードランナーのバイクを乗り回していたが、療養から復帰したロードランナーの嘆願を聞いた██████████博士が、SCP-777と話をつけてバイクを返却させた。SCP-777は尚もバイクを要求しており、近日中、財団の機動部隊などで採用されているバイクが1台払い下げられる予定。
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金属音が鳴る。
歪曲した鉄骨が軋みを上げ、湾曲した銅線が蛇のようにうねり、屈曲したチタンプレートが研ぎ澄まされていく。着実に周囲から金属を吸収しつつあるSCP-210-JPが、自身の知覚に直結させたカメラに捉える風景の中央には、まさしく異形としか言いようのない何かがそびえ立っている。
最後の脱走から3年目。当時の肉体の94%を失った"それ"は、耐腐食性の板金の容器に塩酸が満たされた檻の中で、長いあいだ沈黙を保っていた。財団はそれをほぼ無力化できたという事実に安堵しながらも、完全に満足してはいなかった。当然のことだろう。その怪物は決して、非科学的で理不尽な性質で物体を破壊するわけでも、生き物の精神を汚染して発狂させるわけでも、世界の理に干渉し現実を改竄するわけでもないが───しかし、どれだけ危険なアノマリーよりも多くの人間を殺害しているのだから。事の発端は、今や3000近い数の超常的アーティファクトを擁する財団の米国本部が、終了実験に使える手札を切らしたという理由で、世界各国の支部へ怪物の破壊を要請したことだった。
かくして渡海の喧騒に乗じ、財団の収容を出し抜いた狡猾な怪物はまず、酸によって溶解した自らの肉体を再生しにかかった。周囲に散乱していたあらゆる物質──脱走に伴って少なからず発生した犠牲者たちを含む──を食い荒らし、咀嚼し、呑み込んで、己が血肉へと変える。そのような過程を経て、怪物の肉体はゆうに5mを越すまでに成長しており、全身がいびつな形の棘を持つ甲羅に覆われていた。胴体からは上質な丸太を束ねたかのように太い剛腕と、増大した自重を分散するために無数の触手へと分かたれた脚部が伸び、冬の海岸線に打ちつける怒涛が如く波打っている。ひとつひとつが30㎝ほどもあるサバイバルナイフ状の犬歯が生え揃った口腔の上に据えられているのは、千年の憤怒と憎悪を閉じ込めた暗黒の瞳。全身から猛烈な蒸気を噴き出しながら、怪物は依然として脱皮と変形を試み、より巨大かつ凶暴に進化していく。
「何故だ」
唐突に、怪物の口元が蠢いた。熱帯の積乱雲から放出される暴風にも似た大音響が、濃密な殺意を帯びて虚空を震わせる。その声は、動物的な生理機能など存在しないはずのSCP-210-JPでさえ、どこか寒気を感じさせるほどの猛悪極まりない威圧感を孕んでいた。
「お前のような輩を知っている。土塊つちくれ、あるいは青銅、鉄くろがねで出来た人形。遥か天上に座す彼の者らの御使いよ。何ゆえ、我が道程に立ち塞がるか。私の腕かいなはお前たちを殺すために在るのではない。お前が具えている力とて、私を討つために在るものではないだろう」
その台詞に心当たりのある単語は含まれていなかった。SCP-210-JPが自分の思考回路に残存している全ての永久記録と経験記録を洗い出しても、民俗学の書物か何かにある記述に近いか、という推察しかできなかった。
「あなたの仰る言葉の意味はわかりません」
自身に接続したスピーカーを通して、210-JPは返答した。怪物は少し驚いたとばかりに肩をすくめ、息を上気させる。
「ですが、あなたが非常に危険な存在であり、現在私の後方で撤退を開始している人員にとっての脅威であるということは理解できます。よって、私は可及的速やかにあなたを無力化し、彼らと合流することが最善の行動だと考えます」
「愚かな」
怪物は210-JPの言葉を一蹴した。嘲笑とも憐憫ともつかぬ、その怪物の性格を思えば、不気味なまでに柔和な嘆息だった。昆虫のように節くれ立った無数の副肢がぞわぞわと砂をかき分ける。ゆっくりと、しかし確実に、怪物と金属の距離は縮まっていく。
「酔狂を通り越して滑稽でさえある。もはや地上のどこを探そうと、お前の同胞はらからは鉄杭の一本とて見つけられまい。理解しているのだろう?自分たちは既に敗北しているのだとな」
「あなたは…いったい何をどこまで…」
「屑鉄ごときが侮るなよ。私がどれだけの間、この醜悪な肥溜めの中で、薄汚く臭い生き血を啜ってきたと思うておる。その程度の些事は見慣れておるのでな、おおよそのことは察しがつく…しかし、私が口を挟むことでもないか」
人ならざる形相から冷笑を消し、怪物は再びその虹彩にコールタールじみた漆黒の悪意を滾らせた。常軌を逸した暴力性を秘める眼光が、有効化された即席の戦闘用ボディの各所に焦点を結ぶ度、怪物は全身を脈打たせて痙攣する。神々によって引き起こされた大嵐の暗雲が、裁きの雷を吐き出すべく蠕動しているかのようだった。
「…さて。お前を喰ろうても何の栄誉にもならぬが、邪魔立てするのであれば容赦はせぬぞ。何人たりとも、我が行く手を阻むことは能わんと知れ」
そう吐き捨てると、怪物は雄叫びを轟かせ、その巨躯からはまるで想像できない俊敏さで守護者へと襲い掛かった。分厚い頑強な牙と、数種類の重金属で組み上げられた刃が衝突する。エナメル質が合金を擦る不快な音。すかさず振り下ろされるブレード。強度の差は火を見るよりも明らかで、怪物の歯は口腔ごと斬り砕かれ、完熟したザクロを思わせる亀裂が頭蓋骨に走った。どう見ても致命傷だった。相手が普通のトカゲであったのなら。
怪物の頭部はほとんど真っ二つになり、飛び散った牙と棘の破片が自らの肉体に突き刺さっている。だが、それだけだ。怪物は死なず、その目は未だに激情の焔をたたえていた。あぎとが閉じられんとする。黄土色のよだれと血糊が混じった液体を垂れ流しながら、怪物の上顎と下顎は重工事用の万力を想起させるすさまじい力でSCP-210-JPの胴体を挟み込んだ。それと同時に、8つの指と大剣めいた馬鹿でかい爪を持つ6本の前足が殺到した。
怪物は自慢の再生力に飽かして、折れた爪牙を次から次へと"補充"し、やすりを掛けるように210-JPのボディを切削し始めた。組みついている怪物を振りほどくには、取り込んである石油やガスをエネルギー源とする一般的な──かつての金属生命体にとっては骨董品と呼べるほど旧式の──動力機関ではまるで出力が足りない。
だが、210-JPの対処は、冷静にして即座だった。咄嗟に肩の力を抜き、脚部を駆動させ、半ば背負い上げる形で怪物を"投擲"する。両者の間に蓄積していたエネルギーが一気に開放され、どっしりと膨れ上がった体重に翻弄される形で、怪物の巨躯が猛烈な勢いで射出された。飛翔する牙が、腕が、足が、触手が、甲羅が、棘が、眼球が、高度を失って砂利と擦れ合う度、衝撃と高熱でひしゃげ潰れていく。地鳴りと鮮血の飛沫が織り成す二重奏。やがて怪物は積まれてあった資材の山へと突っ込み、がらがらと崩れ落ちる大質量の下で停止した。
しばし訪れた静寂──30秒にも満たなかったが、相対する210-JPにはまるで永遠に等しく感じられた──を引き裂いたのは、怪物の歯が使い物にならなくなった自身の肉体を咀嚼する音だった。怪物は荒い呼吸を繰り返して莫大な酸素を消費しながら、目に映るもの全てを手当たり次第に腸はらわたへと詰め込んでいく。
再生する隙を与えてはいけない。そう判断した210-JPは鉄骨で組み上げられた脚部で地面を蹴り、背中に仮設してある虎の子のロケットブースターを始動させた。怪物に対抗するべくかなり大型化していた戦闘用ボディだが、その重量を差し引いても充分な推進力が働き、金属生命体は鋼の隼となって中空を疾駆した。倒すべき敵は目と鼻の先。錬鉄の矛が怪物の心臓を捉える。
しかし、爆発的な加速が乗った一撃は、不死身の爬虫類が突如として"破裂"したことで不発に終わった。怪物の表皮に少なくとも8箇所以上の弁が形成され、大量の血液をウォーターカッターの要領で吹きつけたのだ。210-JPは光学カメラだけでものを見ているわけではないため、目潰しとしての効果は薄かったが、いっとき姿勢を崩すには充分だった。
煩雑な巨体を捨て、俊敏さを感じさせる猟犬のような姿になった怪物が、たたらを踏んだSCP-210-JPを強襲した。体格に比していささか小さいものの、その背には都合2対4枚の翼と思しき部位まで形成されている。怪物は先刻よりも数段素早い動きで210-JPを攻め立て、そこだけは大きくディティールの変わっていない強靭な顎で喰らいついた。ほとんど抵抗する暇もなく、鋳鉄で象られた左腕が引き千切られる。明らかに意志のこもった塩梅で、怪物がニヤリと口角を釣り上げる。
それと同時に、210-JPの右腕から伸びるブレードが、怪物のいくつかある心臓のうち3つを貫いた。軽量化を重視して甲殻が省略された怪物の肉体は、さっきまでの堅牢さが嘘のようにすんなりと刃を通した。怪物がけたたましい咆哮を挙げると、わずかに遅れて、空間が歪んだかのような衝撃波が全周を薙ぎ払った。
痛苦にもがく絶叫。伝わってくる有機的な振動。全てを無視する。慈悲を与える余地は欠片ほどもなかった。210-JPは、半ば恐怖に衝き動かされるような心持ちで、不滅の魔獣を何十個もの破片へと解体した。銀色の尾を引く彗星が幾重にも閃き、そして───
場所が大規模収容サイトの近隣であったことも手伝い、応援の機動部隊が到着するのにそう時間はかからなかった。かの不死身の爬虫類を一目拝んでやろうと、または金属生命体の安否を確認するために、日本支部の研究員も集まり始めている。
「よくやってくれた、210-JP。外国とつくにには財団の名誉勲章を賜ったDクラス職員が居るらしいが、もしかすると、今度は君がSCPで初の受賞者になるかも知れないぞ」
「いいえ、私には勿体ないものです、博士。それに…」
「あぁ。切り刻まれたくらいで大人しくなるなら、本部の連中はコイツをKeterになんぞ分類してないさ」
専用のコンテナに収容されたSCP-682の、喉元にある小さな鰓は、弱々しくも未だごぼごぼと囀っていた。傷だらけで血まみれの瞼も、今はきつく閉じられているが、その下に巨大な怒りが燻っていることは想像に難くない。
「…しかし、こう言っちゃ不謹慎だが、個人的には少し残念だな」
「?」
「いや、こんなこともあろうかと、君に操ってもらえそうな装備をいくつか考案してたんだ。合体ロボ作った時にしこたま怒鳴られたせいで、なかなか理事会の承認が下りなくて…ついさっきやっと使用許可を取り付けてきたんだけど、これじゃ後の祭りだ」
「なるほど。ちなみに、どんな装備だったのですか?」
「決まってるだろ」
博士は不敵な笑みを浮かべた。その表情が先刻の怪物に似ていたので、210-JPは反射的に身構えてしまったが、すぐに思い直して次の台詞を待った。
「日本のロボットと言えば───」
後日、日本支部理事"升"が真っ赤な顔でSCP-210-JPの収容サイトにメールを送信したことは、また別の話である。
[断続的なノイズ]
…
[断続的なノイズ]
………
[ノイズ、不明瞭な音声]
…m…く曜ア…ラ………
………ントのナイトレディオタイムス、今夜も████からお送りしております。
時刻は午後11時34分。お風呂には入りましたか?歯磨きは?お休み前の一杯は堪能済みでしょうか。
一週間の最後、金曜日のこの時間。是非ともあと少しだけお付き合いください。
さて、台風も過ぎ去って段々と涼しくなってきた昨今、季節の変わり目はどうしても気分が沈みがちなものです。
そんな秋の始まりを表すかのように哀愁漂うこのナンバー、お聞き頂いております。
作詞・作曲は、いま話題沸騰中のアイドルユニット「Are We Cute Yet?」の茅野きさらと後醍醐勾。
世界的な総合総社「Science & Capital People財団」が音楽業界に参入して早█年、
彼らが芸能プロダクション「Star Crap Project」より送り出した第二のアイドル───
今年の7月に発売されたデビューシングルに続き、記念すべきセカンドシングルとなるこの一曲。
サブリーダー・御先稲荷さんのコメントによると、今回のコンセプトはずばり、「乙女の迷い」。
前作「恋の確保・収容・保護戦線」とは打って変わって、世の中の理不尽さに突き当たり、
理想と現実の狭間で葛藤する少女の心の叫びが、5人の奏でるハーモニーに乗って胸に迫ります。
…いやぁ、そうですねぇ。私もデビューした時から注目してはいたんですが、何と言っても、
茅野きさらさんの素晴らしい作詞センスが光っています。独特の世界観に彩られてはいるものの、
ただ難解なだけではない、ある意味では誰にでも共感できるような一貫したテーマを感じますね。
さて、お聞きくださいました曲は「Are We Cute Yet?」で「永遠の000-W」でした。
この後は、視聴者の皆さんから頂いたお便り[不明瞭な音声]から[ノイズ]…を…ませt…[一際耳障りなノイズ]
………って、ご紹介いたします。楽しもうね!
「───それで?」
「放送直後、首都圏で発生した異常事件は21件。うち8件が例の『博士』の作品絡みで、
他にも東弊重工の商品が6種、日本生類創研の実験体が3匹見つかった。残りは出所不明だ。
ラジオ放送をジャックした『博士』らしき奴のことも調査中だが、状況は芳しくない」
「要注意団体のバーゲンセールかよ」
「大抵はAnomalousアイテム止まりのオモチャだったけど…と言っても傍迷惑なのは同じか。
実を言うと、今朝方くらいから、本国の方でもAWCYに動きがあったって噂が流れてる」
せっかくの休日を丸ごと潰されたエージェントは、働かない頭を無理やりに駆動させながら、
こちらも諸々の事務仕事に忙殺されていた同期に最前線での顛末を語って聞かせていた。
本来であれば仮眠の一つでも取っておくべきタイミングであり、悠長に世間話などしている場合ではないのだが、
早過ぎる展開に呆れ果てた彼らの脳は、休息の時を有意義に過ごす方法を忘却してしまっていた。
「ボブルも唐突に放送を再開したっていうし…本当、何が起きてるんだ」
「さぁ…じきに研究者の先生方が発表するんじゃないの」
「研究者…研究者ね。あ、そうだ。そういや一つ奇妙なことがあったな。聞いておくか?」
「聞こう。今なら地球が爆発しても驚かない自信がある」
「今回一斉に出現したクソッタレどもは、回収できた証拠…特に商品の類ならネームタグや刻印だ。
そういうのを見る限り、かなり最近になってから製作されたと思しきオブジェクトが多かったんだと。
あと、何故か"音"に関係する異常性を発揮する奴も多かったな。火達磨になりつつ歌って踊るサルの人形とか」
「ふーん………あぁ、そっか」
「なんで納得してんだよ」
「いや別に」
とっくの昔に空になっていたコーヒーの缶をゴミ箱に叩き込みながら、事務員はぼそりと呟いた。
「連中も意外と負けず嫌いなトコあるんだな、と思って」
「は?」
───気が付けば、朝のラジオ体操が放送される時間帯だった。
いつ頃からかは覚えていない。僕の人生はずっと退屈だった。
何かにつけて「人の役に立ちなさい」というのが両親と祖父の口癖で、特にそれらしい努力をしたというわけではないけど、実際そういう風に生きてきたつもりだ。学校でクラスメイトが喧嘩していれば仲裁に入ったし、路地裏で不良に絡まれている女性を見つければ助けたし、悪い大人に騙された友達を救おうと自分なりにもがいていたら、ひょんなことから警察が動いて、最後には非合法組織の撲滅に一役買ったということで、ちょっと引くくらいのお礼をもらった時だってあった。でも、あれもこれも、色んな人の協力があってこそだったと思う。不思議なことに、僕が頼めば大抵の人は言うことを聞いてくれたし、断られた時でも、最初はつれない態度を取っていた人が、後になってから反省したり偶然僕のやろうとしていることに手を貸す形になったりして、結果的に事態が解決してしまう、なんて場合も少なくなかった。
今でも人を助けるのは好きだ。
単純に難しい問題が解決していくのは爽快だし、誰かが幸せそうにしている様子を見ると自分のことのように嬉しくなる。悪い人が痛い目に遭うのもかわいそうだけど、それはそれで仕方ないことだと思う。
けど。
そうしている内に、あんまり何もかも上手くいくものだから、元から趣味の少なかった僕は、いつしか人助けすらつまらないと思い始めた。いや、つまらないと言うよりかは、僕はこんなことをするために生きているんだろうかと、疑問に感じてしまったんだ。僕はしばらく塞ぎ込んで、あまり人と話さなくなった。
「財団」という組織が僕に接触してきたのは、そうなってしばらくしてからだった。
初めは困惑した、何せ映画でしか見たこともないような重武装の兵士が、たかが僕なんかを殺すために血眼で追いかけてきたんだから。偶然に偶然が重なって命だけは勘弁してもらい、穏便に話をつけられるようになった今でも、正直生きた心地がしない。
生きた心地がしないと言えば。
財団は世の中に蔓延っている漫画でしか見たこともないような異常な物品や生き物を集めたり、捕まえたりして、一般の人々に危害を加えないよう収容しているらしい。最初は僕もその”異常な何か”扱いだった。実際、僕にはよくわからない凄い力があるそうで、それを使って特に危険で凶暴な「オブジェクト」を「終了」してくれと頼まれた。
僕は…戦った。
もちろんそういう訓練なんて受けた試しはない。何度死ぬような目に遭ったかわからない。財団の人たちは僕が生きて帰る度に褒めてくれたけど、正直どうでもよかった。怖かった。ただ怖かった。
しかし、それでも、一つ確かなことがあった。
あの恐ろしい刺青の男の人と対峙した瞬間。
確かに僕は感じたんだ。恐怖の奥底で、何か、かちりと歯車が噛み合う音を。
男が自分で自分の喉を掻き切った時、勝利の実感と共に僕は悟った。
そうか、これが僕のやるべきことなんだ、と。
僕は財団の人に頼んだ、もっと「実験」を続けてくれと。
僕が望めば物事はそういう風に進んだ。僕は多くの凶悪な怪物を倒し、奇妙な物品を無力化した。これが自分の運命なんだと信じて。財団の人々は前にもまして僕を褒めるようになったが興味はなかった。部外者である僕が大きな顔をしていることをよく思わない人も多かったけれど。
ある日、僕はふとした拍子に、「終了」したオブジェクトの断片が回収されていく様子を見た。
明らかな違和感があった。既に壊れて機能を停止しているものに対してこう思ったのも変な話だったが、何というか、これは元々、"そう異常な性質など持っていなかったのではないか"。僕はサイト中を駆けずり回って、何なら外にも出ようとしたけど、止められた。誰も僕の頼みを聞こうとしなかった。この僕が頼んだのに、だ。
「どうして?僕は正しいことをやっているのに…」
そして、僕はついに、僕の力の使い方を自覚した。
世界の理が一変する。
宇宙は何事もなく運行されていく。
"お前は違う"
刹那、彼もしくは彼女、またはそれの肉体から、全ての神秘が抜き取られた。
誰がそれを為したのか?神か、悪魔か、それとも。
銃声が谺する。
対人用に設計されたホローポイント弾がSCP-1973-JPの頭部に突き刺さり、脳髄まで食い込んで破裂した。
即席で練り上げられた無数の金属の棘によって運動中枢が刺激され、それの四肢を不随意に駆動させる。
3秒後、続く第二波の突撃銃を用いた一斉射撃は、その無様で滑稽なダンスをより激しいステップへと変えた。
沈黙。
「対象、完全に沈黙。バイタルサインなし。目視でも無反応であることを確認しています」
『よろしい。ヒューム計測器の方は?』
「えぇ、数値は正常範囲内に留まっていますが…しかし、彼には無意味というお話だったのでは?」
『さてな。…どうだ、諸君らにはそれが何に見える?』
「何、と言われますと……」
「俺には死体にしか見えないね。それも親御さんの下には送り返せない類の」
「親御さんもクソも、この有様じゃあそもそも身元もわかんねぇだろ」
他の機動部隊員たちの意見も全て同じような結論であった。
誰がどこからどう見ようが、頭を念入りに抉り潰されたバラバラ死体にしか見えない、と。
『OK、OK、パーフェクトな仕事だった、諸君。今日の夕食は食堂のバーガーやタコスで済ませるのではなく、
ポンド20ドル以上のステーキにしておけ。ボーナスはジーン博士が保証してくれるそうだ』
『おいカーク、適当なことを……まぁ、そうだな。確かに、君らの功績は勲章ものではある』
遺体回収班が到着した。英雄の骸にはもはや、奇跡を起こす力は備わっていなかった。
宇宙は何事もなく運行され、いつか来たるべき時を憂い、再び蛹を探し始める。
過去、伝説的な職員たちの活躍によって、かの者の野望は崩れ去った。
しかし人類を守るべく活動する彼ら、SCP財団の戦いに終わりはない。
時と場所を変え、いま再び、巨大な悪意が動き始めようとしていた………
極東のとある小さな島国にて、容姿も年齢も様々な7名が極秘の会議を執り行っていた。
厳かな雰囲気を湛える獣のような男、日本支部理事"獅子"はただ一度詰めていた息を吐くと、携えていた七支刀を鉄板の床に打ちつけた。
「諸君」
思い思いに相談事に励んでいた小声が止む。
「諸君らも一度は聞いたことがあるはずだ。かつて北米本部にて発生した大規模収容違反、その原因となったオブジェクト…SCP-XXX、仮称コード"古代の破壊兵器"。アレとほぼ同様の存在が、再び現れようとしている」
伝統的な神官の装束に身を包んだ老年の男性、同じく日本支部理事の"升"が、仙人めいた長く白い髭を弄びながら問いを返す。
「はて。昨晩から上空に奇妙な電磁波が観測されたとの話は耳に入って来ていますが、それ以上の情報は調査してみねば分からないという状態であったはず。何故、そのように言い切れるのですかな」
同調の声が挙がる。恐らく事態を完全に正しく把握しているのは、担当エリアの人員の指揮に直接当たっていた"鵺"と、彼から報告を受けた"獅子"だけだろう。
「かつての事件の折、SCP-XXXを奪って攻撃を仕掛けて来たのは、あの要注意団体・"ワンダーテインメント博士"だ。そして今回、SCP-XXXと類似した……仮にSCP-XXX-2と呼ぶが、それの出現によって、既に多くの財団職員に被害が出ている」
ざわ…ざわざわ…。
困惑から一転、場の空気が瞬時にして張り詰めた。
「ついさっき、犯人からの声明が届いた。曰く、先刻の攻撃はSCP-XXX-2の試験運用に過ぎないという………そして、メッセージの最後には、こんな言葉が添えられていた」
"獅子"の背後に位置する大型モニターに、犯行声明の全文が表示される。徐々にスクロールされていくそれを、日本支部理事たちが固唾を飲んで見つめる中、ついに決定的な「決め台詞」が現れる。
"楽しもうね!"
高度6,000フィート地点、月夜の雲海で彼もしくは彼女は子供のような笑みを浮かべていた。いや、実際に笑っているかどうかは確認できない。ただ身体をくつくつと揺らすさまが、そのように見えるだけだ。その人物は、一時期流行した都市伝説の怪人「ンボボボさん」の容姿を再現したとされるゴムマスクを被り、何色かのクレヨンと、ラメ入りだったり立体的だったりするシールでベッタベタにデコレーションした紫の表紙のノートを弄びながら、気温も酸素濃度も絶望的に低い夜の高空で平然と佇んでいる。
「財団の偉い人たち、お手紙読んでくれたかなぁ」
最も主要な「リスペクト先」であるワンダーテインメント博士と同様、財団が総力を以てしても捕捉できない正体不明にして最悪の愉快犯。悪意に満ちた異常な「玩具」をばら撒き、他者の人生を貶めることを至上の悦楽とする"博士"。白衣の袖からは漆黒のボディスーツが覗いており、随所に走る銀色のライン・パターンが、時おり心臓が脈打つが如く深紅に明滅しているのだった。
「もうちょっとだからね。いい子で待ってるんだよ?」
"博士"は腰掛けている手すり部分を慈しむように撫で、眼下で蠕動する超重力内燃機関のけたたましい鳴き声に耳を澄ませる。5000年前、外宇宙より飛来した先進文明の古代兵器。元来、"博士"はこの手の大量破壊兵器にはあまり興味がなかったが、ワンダーテインメントが追い求めていた力の一端がこれだというなら話は別だ。前回の戦闘で損壊した箇所は、東弊重工や如月工務店に潜ませている間者に横流しさせたパーツで補っている。それは原型機の性能・機能を再現していたりしていなかったりしていたが、あるいは逸脱してさらなるスペックを獲得している部位すらも存在した。
「───さぁ、遊ぼうか」
「馬鹿な!アレの残骸は財団が回収していたはずだ!一体どこから奪われたというのだ!?」
日本人離れしたプラチナ・ブロンドの長髪を振り乱し、"稲妻"は激情のまま叫んだ。
「先日起きたサイト-81██でのインシデント……引き金はあそこか。どうしてもっと早くに気づけなかったんだ…!」
眼鏡をかけ、左腕にティッシュの箱のような分厚さの情報処理デバイスを装着した痩身の青年"若山"がテーブルに拳を振り下ろす。
「今すぐ機動部隊の出動を!!予算が幾ら吹き飛ぼうと構わんッ、奴を今すぐ叩き落とせ!!」
ギリシャの彫刻じみて筋骨隆々の大男、明るい橙色の道着の内からはち切れんばかりの殺気を放つ"鳳林"ががなり立てた。
「通常兵器では太刀打ちできん。以前は"抹殺エネルギー"などというふざけた仮称で通されていたあの光は、実際のところそんな生半可なものではない……まさか忘れた訳ではあるまいな、アレと同じ"人工ブラックホールエネルギー"で駆動するSCP-███-JPが出した被害を。事件███-JPはアノマリーが正当な管理人を失っていたために発生した事故だったが、XXX-JP-2とそれを操る"博士"は、意図的かつ効果的にあの大惨事を引き起こせるのだぞ!!」
"獅子"はすかさず怒鳴り返す。
「そんな……じゃあ、私たちにできることは、もう無いって言うの………?」
肩に大型の鷹を乗せた日本支部理事会の紅一点、"千鳥"が言う。その掌は、何かに耐えるように上着の袖を引っ掴んでいる。
「─────否。我ラニハ、アノぷろとこるガ残サレテイル」
混乱を、一際重苦しい重低音が断ち切った。喧々諤々の議論を交わしていた理事たちが一斉に息を呑み、押し黙る。会議室の最奥、糸のように細い照明の光が示す先へ、自然と視線が集まった。古めかしく青ざめた暗色の襤褸布を纏い、左目と口元のみが露出するマスクを装着した"鵺"の姿を全員が見た。
"升"はくゆらせていた煙管を取り落としたのにも構わず、
「あのプロトコル………とは、まさか」
「待ってください!!あ、あれは禁忌のプロトコルです!北米本部の二の舞になりますよ!?」
頬のこけた"若山"はただでさえ悪い顔色をさらに悪化させながら狼狽した。
「ダガ、他ニ手段ハ無イ」
しゃがれた、しかし大樹のように強く逞しい芯の通った声が、慄く理事たちの耳朶を打った。
「決断ノ時ダ。我々ハ命ジナケレバナラナイ………GATTAI──合体──ぷろとこるヲ超エル、神話ノ顕現。カノ日以来、米国ハコノ技術カラ手ヲ引キ、他ノ支部モソレニ倣ッタ。ジキニ我ラ日乃本国ノ民ニモO-5ヨリ沙汰ガ下ルダロウ。故ニ、是ガ最初デ最後ノ………禁忌ノ中ノ禁忌、GASSHIN──合神──ぷろとこるノ実行ダ」
ディスプレイが揺らめく。最初に掲げられた"GATTAI PROTOCOL"という表示を上書きするようにして、"GASSHIN PROTOCOL"の文字列が出現した。会議室、否、司令室の中央部分が激しい水蒸気を噴き出しながらせり上がる。合神・プロトコル発動のための操作盤だ。その滑らかな表面には、7つの鍵穴と生体認証機構、そしてプレキシガラス・カバー。また、カバーの下にはただ一つ、朱いボタンが鎮座していた。
「皆、承認ト云ウコトデ構ワヌカ」
"鵺"は穏やかに訊ねた。少しの間を置いて、「承認ッ!」の咆哮が連続した。暗闇の中、"鵺"を除く理事たちが立ち上がる。熱き血が滾る、猛々しき者達はそれぞれの懐から物理鍵を引き抜き、一つ一つ厳かに丁寧に回していく。誰もが、震える手をセンサーパネルに触れさせた。二重の封印が完全に解除される。ボタンが光り輝き、朱の地に黄金色で「天」という文字が浮かび上がった。
「……準備ハ整ッタ」
最後に"鵺"が言った。
「悔イナキ選択ヲ」
集中する視線は"獅子"へと移った。彼は七支刀を"千鳥"に預け、首に提げた勾玉を強く握った。深く息を吸って、柱の前に立つと拳を上げた。
「秘奥儀!日本流・収容禁術ッ!ファウンデーション・プロトコル……ッ!」
一瞬の休止。期待が高まる。かくして、彼は拳を振り下ろしプレキシガラスを粉砕した。
「GASSHIN!!」
かつてSCP-014-JP-Jに分類されていた少女、今は若輩ながらも財団職員として日々の職務に従事するとある女性エージェントは今日、サイト-8141で慰安目的の音楽ライブ・イベントが催されるということを知っていた。何もかも普通だ、きっと。けれども、彼女は職員寮の廊下で突然後ろから張り倒された。緊急警報がけたたましく鳴る。彼女は殴られるより他に仕方がなかった。……何者かが向こう側からやって来た。いつもと違って何か妙な服を着ていた。一例としては、髪の毛。サイト-8141の服飾規定は日本支部のサイトとしては緩い部類であったが、明るい緑と赤の髪の毛に、水色のエクステ(だと思う)までは網羅していなかった。また、例えばローブ。今日は、全く殆どがローブを羽織っていた。凝ったたぶん竜、鳥、虎、亀、つまりは四神の意匠を持つヘルメットを被ったセキュリティもいた。腰の警棒に加え、何か日本刀らしき長物を装備しているようであった。
それでも、非常事態だった。彼女とて困惑していたばかりではない。心配だった。彼女は、あからさまに国内法違反の銃火器を無数にぶら下げた小柄な女性職員を追い抜き、開いたエレベーターまで慌てて走った。まだ何人か乗れる余裕はあったものの彼女は「閉」のボタンを叩いた。指定する行き先はサイト-8141の中央管制室、及び重要区画への中継エリア。すると、エレベーターに備え付けられた平坦な小さいモニターがパチッと音を立てて起動した。スクリーンに映し出された顔を見て、彼女は目を輝かせる。
「カナヘビさん!あぁっ、神に感謝ですねもう信じてませんけど…!一体何が起こっておおおぁわああああぁぁ!?」
通常、その画面にはエージェント・カナヘビが映し出され、彼女をいじったり慰めたりしてくれるはずだった。しかし今回、彼はだらりと力なく手足を投げ出して、藍色の半透明の粘液で満たされたタンクの中を漂っていた。彼の尻尾だけは(あんなに長かったかしらん?)元気に動いて彼の生存を主張していたが、それでも何とも滑稽な眺めだった。彼は微笑んで、唇を動かす事無く、エレベーターのスピーカーから声を伝えた。機械じみた鋭さがあって、エージェントを深く恐れさせた。
「アイスヴァインちゃん!おぉアザナエル様、彼女を見つけてくれてありがとう!GASSHINプロトコルが実行された!サイト-8141には君が必要なんや!」
「絶対あとで[削除済み]してやる!!………というか、これ、何の警報なんです?」
「あらっ、回覧板受け取ってへんの?いま言うとるように、サイトが"メカ"モードに変形しとるんやで!」
「はぁ!?」
カナヘビは発言の内容の割には大真面目な顔をしており、まるでカナヘビじゃないように見えた。彼女が何か言う前に、エレベーターはウィンウィンと音を立て始めた。闇へ、ドアが開かれ、何者かが彼女の足を引っ張った。彼女はもがいたが無駄だった。身体はピッチピチのスーツにくるまれて、ジェット機のコックピットのような小さなチェンバーの中に閉じ込められた。そこには、操縦桿という奴だろうか、4つのジョイスティック(手元と両足に2つずつ現れた)、そして窓の代わりに巨大な全天周囲モニターがあった。が、肝心のスクリーンには今のところ、虹色のグルグル以外何も表示されていなかった。(何で私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだ。大体なんだ、このドラマやアニメが1クール終わって、新作が始まるまでの合間に放送されるZ級映画みたいな展開は)なんて思いながら、ためらいがちに手を伸ばしハンドルに触れると、ディスプレイが明滅してサイト-8141の周囲360°の景色が映し出された。端の方にウインドウが開いて、再びカナヘビの顔が映る。彼の甲高いボーイソプラノが耳介の内側に反響した。
「エージェント・アイスヴァイン配置完了。全財団職員注意!GASSHINプロトコル、スタンバイ完了ッ!」
けたたましい彼の声が……いやこれよく聞いたら他の人も混じってない!?
「カナヘビ。5人ノ研究員…否、勇者ハ集メラレタカネ」
「イェッサー!パイロットサウンドオフ!」
「ちょっと、何……」
彼女は抗議したが、虚しくも通信は切断され、また別のウインドウが開いた。今度はある4名の顔が同時に映っている。おぉ神よ、おぉ仏陀よ、彼女はこの顔触れを知っている。この最初の赤Tシャツは……
「天を貫けッ!!グランド・インテリジェンス・ハンサム───『育良』!!」
次は……なんだこれ…CG合成された何かの画像のようだが………
「パーフェクト・コンテインメント・ブレイン『神州』である。当ミッションの成功率は99.998%である。対象の徹底破壊を推奨。愚かな鉄屑野郎をスクラップにしてくれる」
御先さんは真っピンクのメイド服。……と、種別不明の恐らく何か哺乳類の耳らしきパーツがくっついたリボン。例のサークル活動で使用するものの新作だろうが、こんな場面でネタバレを喰らうとは思いもよらなかった。
「こんこーんっ♪超絶素敵アニマル天使『オサキュア』だワン!!狩りごっこですね!負けないんですからっ、にゃん♥」
最後は……虎屋博士か。まぁ、ここまでの流れからすると平常運転だ。狐のお面が縁日で売ってる感じの特撮ヒーローのそれにすり替わっている点を除いてだが。あとどうして唐揚げ弁当を持っているのか。
「フライドチキン・レンジャー『虎屋』───正義をお届けに参りまし熱ゥッ」
すると虎屋博士の膝の上で何かが蠢いているのが見えた。小動物のようだ。全体的に縦に長いシルエットで、細い尻尾がぴょこぴょこと愛らしい。
「あー、もしかして例のカワウソさん?」
エージェントは頭が痛くなった。
「何ですかこれ?あなたもですか?」
カワウソ───川獺丸従業員は、何だろう……カワウソ用の紳士服でバッチリおめかしを決め込んでいた。川獺丸がどこからか取り出したキーボードで文字を打ち込むと、電子的に合成された音声が聞こえて来た。
《えぇ、僕は至って正常ですよ、お嬢さん。何であれこの状況は人間にしか影響がないみたいで…けど、今この瞬間に僕たちが出来ることは、大してなさそうですね》
「なに言ってんですか!!XKのデッドラインは間近に迫ってるんですよ!?」
《すいません本音を言います!!正直めっちゃ楽しい!!!ワーイ!もっともっとー!!》
瞬間、エージェントは味方が居なくなったことを痛感し、同時にカワウソは好奇心が強い動物だというテレビで見た話を実感した。そうこうしている内に、カナヘビがまた話し出す。
「プロトコルGASSHINはセカンドステージに突入しました。全パイロットはシンクロニゼーション──同期──のスタンバイを開始してください」
地球の隅々にまで及ぶほど、財団の施設が世界を揺さぶった。(明らかに空を飛べるような形状に設計されていないのに)、馬鹿でかいロケットブースターで大地から裂けるように離れ、有り得ない速度でサイト-8141上空に急上昇し、1㎞以上は浮遊した。近づくにつれて、色々な無人飛行機(空飛ぶ新幹線とか機械のドラゴンなどと形容する他ない奇怪なものも混じっていた)………いや、サイト-8141と同様の財団施設が、カナヘビの怒号と共に躍動した。
「サイト-8113、8101、8103、到着しました!メインフレーム連結中!クサナギ・セイバー・リアクター、エネルギー充填率、150%から更に上昇!ノストロモシステム・オンライン!」
サイトとサイトは有り得ないぐらい滑らかに噛み合って、それぞれの断片の中からゴチャついた機械装置が出てくると、互いに結束してキツく引き寄せ合った。
「左腕展開!サイト-8123!8181!8154!変形開始!!」
───最初、"それ"は曖昧な輪郭をしているに過ぎなかった。
「右腕展開!セクター-8137!8105!8192!変形開始!!」
徐々に形を為し始めた"それ"は、
「脚部展開!サイト-81EA!8190!8186!変形開始!!」
吹き荒れる電磁パルスの嵐の中で輝いて、
「フライトユニット、アクティベーション!エリア-8102!変形開始!!」
巨大なその影はまさに平和の砦。全長150m、重量10万tを超すビッグ・マシン。圧倒的なパワーを誇る剛腕、熱核攻撃さえものともしない無敵の装甲、ドラゴンの翼を模したウイングを備える背部バックパック、全身に満載された最新鋭の銃火器と収容ユニット。黒光りするボディに、紅の差し色と黄金のオブジェが煌めく。
「───サイト-8141!ギアヘッド、ファイナル・ライド・オォーンッ!!」
それは、ロボット。
馬鹿げた事に、大型のヒューマノイド・ロボット。
だが、そのフェイスマスクと、胸部に燦然と輝くライオン型レリーフには断固たる自信が満ち溢れていた。カナヘビは勝利の雄叫びを上げる!日本支部の職員たちも(巻き込まれた女性エージェント以外は)一斉に叫ぶ!
「GASSHINプロトコル・コンプリート!!完成ッ!ジャパン・スキップ・カイザー、テイクオフ!!!」
遥か群馬県の上空。"博士"は得意げに口角を釣り上げた。
「へぇ。それが切り札ってわけ?」
怪人はせせら笑った。
「最近の流行りじゃないと思うけどねぇ、そのデザイン。まぁいいや、とりあえず小手調べだ」
"博士"は象牙色のクレヨンを取り出し、ノートに幾つかぐちゃぐちゃの丸を描き込んだ。光学迷彩による透明化が解除され、浮遊する古代兵器の下方に待機していたものがあらわになる。テニスコート何個分もの広さを持つ四角い倉庫に、そのままコックピットと羽根を取り付けたようなフォルムの輸送機だ。かくして、コンテナの隔壁が開き、格納されていた「それら」が無造作に地表へとばら撒かれた。
「東弊重工協賛!『博士のはたらくアリさん観察キット・シロアリ&ハネアリエディションティーえむっ』さ!存分に遊んであげてよね!」
突然、スクリーンがアリで埋め尽くされた。女性エージェントは驚愕に目を見開き、そのせいで生じた吐き気を堪えるので精一杯だった。彼女以外はそうでもないようだった。
勇気を振り絞って観察を続けると、どうやら本物というわけではなく、あちらも機械で造られたロボットらしかった。翅を持ち、空を飛んでいるものも居た。しかもアリにしてはデカい。というか、大型ロボットの視点でこれなのだから、あれ実は途方もないサイズなんじゃないか?座席がガックンガックン激しく揺れ動いている現実を無視するには、考え事を続けるのが一番だった。
「マルチアサルト・セキュア・ビイイイイィィィィィィム!!」
信じられない太さのレーザー光が、ロボットの全身各所の砲台から迸る。
「ドリルクラッシュ・コンテインメント・パアアアアアァァァァァァァァンチ!!」
ロボットが拳を振り抜くと共に、その腕から質量保存の法則を完全に無視した大きさのドリルが飛び出す。
「デスカッター・プロテクション・ブウウゥゥウウゥゥゥゥゥゥゥメランッ!!」
背部バックパックから2枚の飛行翼が取り外され、さも当然のように投擲される。
エージェントがコックピットでもみくちゃにされている内に、特売中のスーパーに駆けていく中高年女性を彷彿とさせるほど群がっていた巨大アリ・ロボットたちは、いつの間にやら全機が爆発四散していた。
「はぁ……ん?あれ?」
この調子なら自分は何もしないでもよさそうだ。早く帰りたい……思案すら放棄して疲労に身を委ねようとした瞬間、
「あれ?あれれ?なんか動き止まってません?」
ロボットがよろめき、彼女は慣性の法則に従って全体の動きから取り残された頭部をしたたかに打ちつけた。幸いコックピットにはシートベルトとエアバッグが完備されていたので大事には至らなかった。
「一体どうなって………!?」
「あ……アカーン!!"博士"からの精神攻撃や!サイト管理者執務室、つまり中枢制御ユニットに乗っとるボクを、直接狙いに来よった!!ウゴゴ………」
カナヘビが叫んだ。結構余裕ありそうだが、というかあんたがメインパイロットだったのか。自分たちが居る意味あるんだろうか。
「デンジャー、デンジャー」
特別収容プロトコル用人工知能"神州"(ちなみに女性エージェントはこの存在の詳細については事件の後から聞いた)が報告した。
「上空から高エネルギー反応。先ほど出現したアリどもの3倍のスピードで接近中。システム障害に注意せよ」
御先管理員は、語尾に動物の鳴き声をつけて話している内は、何とか煌めいていた。
「な、何のこれしき……!スカーレット・フライド・チキンのレッドペッパーでむせた時に比べれば大したダメージではありません!!」
虎屋博士は歯ぎしりした。
「"博士"!!アンタには、俺たちを止めることは出来ねぇぜ!!」
育良は声を張り上げた。
「よくわかりませんけどアレですか!?アレがこのサメ映画みたいな事態の元凶なんですね!?」
エージェントはがんばって正気を保った。
「機械系のオブジェクト……普通なら動力源を停止させるか、攻撃装備を破壊、無力化して収容するんですが………」
「"収容"!?それだ!!」
「えっ」
「エントロピー・エンフォーサー起動!アブソーブ・バリア・フィールド全開ッ!!」
財団の基本理念をたったいま初めて聞いたみたいな表情で育良が復唱した。その様子を見た虎屋が親指を立て、人工知能"神州"は再び演算処理に入った。きゅらきゅらと不思議な音がする。パソコンの作動音というより、歯車がいくつか噛み合わさって回っているような音だった。
「さすがは奈落の悪鬼、黒き翼の堕天使ですね!アイスヴァインさん!」
御先管理員は無邪気に笑った。ロボットの周囲をオーロラめいた光の皮膜が包むと、頭痛に喘いでいたカナヘビが徐々に調子を取り戻し始めるのが窺えたが、エージェントの心は晴れないままだった。
「精神攻撃波、減衰。シールド強度、さらに向上」
「馬鹿なっ!?有り得ない……あれは東弊どころか負号部隊にだって…クソッ!………気が変わった。少し本気を出してやるよ……やれ!あいつらを塵に変えろ!!」
育良は狭いコックピットの中でわざわざ立ち上がって腕を組んだ。
「とんだブラック経営者だな!!それでもおもちゃ職人か?アンタ、とんでもない大馬鹿だぜ!その才能を正しく使えば……本当の意味で、人々を笑顔に出来たかも知れないってのに……」
彼の台詞を聞いて、女性エージェントもまた話しかけた。彼女には何を言えばいいのかわからなかった、しかし確かに言葉を紡いだ。
「─────あなたに、いいえ、何者にだって!誰かの笑顔を奪っていい権利なんて、無い!!」
封じ込めていた14歳の日々が解き放たれた。彼女の心に再び、あの頃の火が点いたのだ。
「覚えておけ!!この特別収容手順は、世界に風穴を開ける!その穴は、暗闇へ立ち向かう人類の道となる!僕たちは信じる!私たちが信じる財団を!Safeを、Euclidを、Keterを、Ainを、Juggernautを!」
「財団神拳・デリーテッド級最終奥儀ッ!! 黄金のゴルディオン 超・スーパー・ 収容コンテイメント 違反ブリーチ!!!」
彼らは最後の言葉を叫んだ。外野から見ると、紅潮した顔面とタコ足配線じみて浮かび上がる首筋の血管が何とも不健康そうに見えた。
「俺たちのプロトコルは!!明日を創るプロトコルだああぁあああああああ────ッ!!!!!!」
刹那、彼ら勇者の咆哮に呼応して、幾千ものSCPオブジェクトが封じ込めを破った。呪いのアイテム、化け物、全く未知の概念、その他諸々お好きなように呼んでいいやべーやつらが"博士"の許へと殺到すると、怪人は憤怒と怨嗟の入り交じった絶叫で反撃した。
「おのれ………!!覚えていろSCP財団ッ!次こそ貴様らを……!!」
とある女性エージェントは、職員寮の自室で目を覚ました。ベッドに寝そべっている状態からだが、己の拳が高らかに掲げられているのが見えた。ひどく汗をかいている。
「……っぁ、ふぅーっ……」
何か悪い夢を見ていたようだ。こんなにうなされるほどショッキングな内容であれば、少しは覚えていてもよさそうだったものの、そんな悪夢をわざわざ思い出す気になるほど彼女は物好きでもなかった。少なくとも15歳を過ぎてからは。
「…顔、洗おう…せっかくの休みだし、夜には大きい楽しみも控えてるし。切り替えてかなきゃね」
彼女は今日、サイト-8141で慰安目的の音楽ライブ・イベントが催されるということを知っていた。何もかも普通だ、きっと。あの変な夢を除けば。顔を洗って身支度を済ませ、自室から出る。廊下をしばらく歩いた所には、入寮者向けの掲示板。アノマリーに関する物騒な話題は多くなく、主には直接の生活に関わることばかりだ。
20██/██/██(金) 「Are we cute yet?」ライブ・イベント開催のお知らせ
██/██(金)、サイト-8141の第3多目的ホールにて、財団内部の軽音楽サークル「Are we cute yet?」のライブイベントを開催します。「AWCuY」による歌唱・ダンスパフォーマンスの他、三国技師によるSCiPオブジェクトの収容ユニットに用いられる新技術についての講演会など、多彩なプログラムを予定しております。入退場自由としますので、ぜひお気軽にご来場ください。楽しもうね!
尚、詳細についてのお問い合わせは主催の管理部門・吹上人事官までお願いします。
イタリア坊主
カレー | 寿司 |
---|---|
おもち | しょうゆ |
幼女 | クソ野郎 |
警告
重要なアクセス制限: このページは日本支部理事会の決議のもと、サイト管理者権限により財団の最高機密に分類されています。許可なくアクセスを試みる全ての人員は即座に特定され、ミーム殺害エージェントによる終了が実行されます。
感染初期 | 軽度の頭痛と刺激過敏症、わずかな呼吸の閉塞感。感染者の体質によっては吐き気や寒気を訴えることもある。SCP-XXX-JPウィルスはこの時点では呼吸器系に留まっていると考えられている。自然に回復した例も確認されているが、ほとんどの場合、およそ3ヶ月以内に感染中期段階へと移行する。SCP-XXX-JPウィルスに対する完全なワクチン並びに抗ウィルス薬は開発されていないが、この段階であれば前述した「█████ウィルス」用の抗ウィルス薬によって高い確率で治療できることが判明している。 |
感染中期 | 散発的な重い頭痛、軽度の刺激過敏症、暗所での瞳孔の収縮。ちょっとした物音やモノとぶつかることに対して敏感に、また暗闇に対する恐怖が増大し、精神的に不安定化する。感染者へのインタビューでは「ずっと誰かに見られているような気がする」、「よく物陰に何か隠れているのではないかと考えるようになった」などという妄想を抱いている例が多かった。この状態に陥ると、およそ1週間以内にほぼ100%の確率で感染末期段階へと移行する。この時点でSCP-XXX-JPウィルスはリンパ系を通って脳へと到達、緩やかながらもその増殖に伴って頭頂葉を攻撃し、視覚、体性感覚、聴覚に障害をもたらす。また、これ以降は█████ウイルス用の抗ウイルス薬は効果を示さなくなる。現在、SCP-500を用いた臨床試験が計画されている。 |
感染末期 | 非常に強い幻覚症状と、それから来る極度の不安感及び恐怖、狂気。また幻覚症状に隠れがちだが、感染中期よりも深刻な頭痛を覚えたと証言する感染者も確認されている。この段階では、感染者は個人もしくは同じ感染者同士と複数人で常軌を逸した行動6を取り、自身の行動の結果引き起こされた事態について「自分たちを襲った怪物が行ったことだ」、「恐ろしい化け物に行動を強制された」といった旨を主張し、幻覚症状によって見た架空の存在があたかもその場に実在していたかのように振舞う。SCP-500を用いた臨床試験が計画されている。現在までにこの段階まで進行した感染者が回復・根治したり、症状が弱まったりした例はなく、極端な緊張状態が続いたのが原因で自律神経を失調し、ほとんどの場合そのまま衰弱死する。長期に渡って生存できた場合においても、永続的な強い幻覚症状のために感染者の社会復帰は絶望的とされる。 |
───
ワールズエンドちくわ大明神
神様も無責任だよな。被害者だけが可哀想って訳じゃないのに。
みんなの心をついばんで、赤い鳥さんは今日もすくすく成長中。

空の錨
名前: 黒陶由倉(コクトウ・ユクラ/Yukura Kokuto)
セキュリティクリアランス: 準四等研儀官・妖術師 レベル2(一部の重要な案件に限り、最大でレベル4までのクリアランスが別途に与えられています)
主要な担当業務: SCiPオブジェクトに関する研究調査並びに報告書作成、接触直後の最初期段階における未収容オブジェクトの現地調査(または対話)、無力化の提案が承認された高危険度オブジェクトの終了、和平交渉が不可能と判断された要注意団体への実力行使など。
所在: サイト-81██西棟5階 第3事務室7
来歴: エージェント・黒陶はかつては蒐集院の「第六〇一念術部隊"天之尾羽張"」に所属する研儀官のひとりでした。現存している資料はその多くが信頼性に欠ける曖昧な情報しか記載されていないため、それ以前の経歴には不明な点が多く見受けられます。
彼女に関する最古の記録は、19██年、██県██市██町に出現した異常存在への対処を行っていた蒐集院が、情報収集のために接触した現地住民だったという旨の報告書です。本人の供述や身辺調査の結果を総合すると、出身は日本の近畿地方南部に位置する何処かの山村であり、前述した事件の解決後にその素質を見出され、以降は民間人ながら蒐集院に協力していたと推測するのが最も自然であると考えられています。正式に財団のエージェントとして雇用されたのは、19██年の財団と蒐集院の合併に際してのことでした。
人物: 女性、身長147.█㎝、体重39.█㎏、日本国籍。腰まで伸びる濡羽色の長髪、八重歯、真夏でも着用している黒いロングコートなどが主な外見的特徴です。本人の希望で年齢は非公開となっていますが、たびたび干支が寅年だと公言していることと、その来歴からおよそ██歳前後であると推測されています。
余計な詮索は為にならないと教わらなかったかな。ここで働いてる君たちにとっちゃ周知の事実だと思ってたけどね。 - エージェント・黒陶
基本的に大雑把な性格で、つかみどころのない飄々とした言動が目立ちますが、面識のある職員からは「気さくで話しやすい」、「簡単な質問にも丁寧に答えてくれる」、「冗談好きで意外と可愛らしい一面もあるけど人間と喋ってる気がしない」、「何であんな若いの」、「たぶん吸血鬼かなにか」といった声も聞かれます。蒐集院時代の所属部署に準えてか、しばしば自らの身分を「妖術師」であると主張し、他者にもそう呼ばれることを好みますが、そのような役職は財団は疎かかつての蒐集院にすら存在しないという事実は周知されるべきです。
財団では設立以来、ヒューム値の増減による現実改変を伴わない事物・事象を操作する特殊能力や特異な技術8を、現代の主流科学で解明する試みが続けられており、エージェント・黒陶はその中での異常存在側からのアプローチにおける有識者の1人です。蒐集院に所属していた頃の経験から風土や宗教に関連する異常存在について造詣が深く、また彼女自身も一般に「[編集済み]」として知られる特異技術を習得しており、しばしばそれらを用いた実験などに参加することがあります。彼女のオフィス兼私室であるゴミ屋敷サイト-81██・第3事務室には[編集済み]を行使する際に用いる専用の道具が常備されています。ただし時折、サイト内の保安条項に抵触するような物品も確認されているので、そのような道具を見つけた場合は本人を同行させた上でサイト-81██管理局に届け出てください。
そのガトリングガンはいったい何に使うんですか? - ██事務員
何にって、もちろんバケモノへの攻撃だが。 - エージェント・黒陶
だいたいそれどうやって国内に持ち込んだんですか? - ██保安官
言わなきゃ…だめ? - エージェント・黒陶
尚、身体測定では生物学的、医学的に見てエージェント・黒陶の肉体には何ら異常性がないとの結果が示されており、彼女のような特異技術保有者が持つスキルそのものをSCiPオブジェクトと見做して収容の対象とするかどうかについては各所で議論が続けられています。このため、エージェント・黒陶が参加しているプロジェクトは、特異技術を持つ要注意団体へのカウンターに同等のスキルを運用するモデルケースとして、日本支部理事会の監督の下、厳重な管理体制に置かれています。エージェント・黒陶は研究目的もしくは有事の際を除き、[編集済み]を行使することは禁止されています。これと同様、仮に当人の意思でなくとも、正当な理由なくエージェント・黒陶に[編集済み]を行使するまたはクソッタレを蜂の巣にするよう依頼することは禁じられています。たとえあなたの愛する者を寝取ったアイツに復讐するためでも、エージェント・黒陶本人が依頼を快諾しても、です。
付録: エージェント・黒陶のオフィスから回収された物品のリスト9
物品:
所持:
備考:
メモ:
物品: 古典呪術「[編集済み]」を行使する際に必要な儀礼道具の一式
所持: 許可。ただし、刃物や化学薬品といった一部の危険物を除く。
物品: 古びたアザラシのぬいぐるみ
所持: 許可。
メモ: あぁ、よかった。大切なものなんだ、没収されたらGOCにでも亡命するところだったかも。 - エージェント・黒陶 ※エージェント・黒陶は確かに高危険度オブジェクトや要注意団体への実力行使を担うことが多い職員ですが、「そっちの方が向いてるんじゃね?」という指摘は厳禁です。本気にされた場合、無数の銃火器で武装した彼女を射殺しなければならないのはあなたです。
物品: SCiPオブジェクトに関する研究報告と財団職員の勤務風景をテーマとする情報雑誌
所持: 許可。不許可。
備考: 情報共有と娯楽提供を目的として、財団の物流部門と内部保安部門が協力して編集・発刊にあたっているもの。
メモ: やぁ██君、今月のヤングSCiP読んだよ。██研究員の作品なんだけど、アレはよかったねぇ、君と██博士の濃厚な…え?没収?なんで? - エージェント・黒陶
物品: ツュンダップKS750
所持: 許可。ただし、ガトリングガンの銃座に改造されているサイドカーを除く。
物品: コルト・パイソン357、ラドムVIS wz1935、ジェリコ941、FN P90、AR-15 9mmSMG、62式7.62mm機関銃、SAIGA散弾銃、ベレッタ451 EELL、AS50対物狙撃銃、KBP VKS ヴァイクロップ、ラハティL-39対戦車銃
所持: 全て不許可。
備考: どれも一般的な運用には適さない過剰な改造が施されている。
メモ: 私の[編集済み]は我流でね、昔の仲間にも散々「意味不明」だの「外法」だの言われたもんさ。 - エージェント・黒陶 そんなことより銃刀法とかテロ等準備罪ってご存知ですか? - ██保安官
物品: 未知の金属類で作られた奇妙な装置とベルト
所持: 不許可。現在はAnomalousアイテムとして保管中だが、SafeクラスSCiPオブジェクトへの分類変更が検討されている。
メモ: いや今回ばかりは本当に何も知らないって。昨日までただのオモチャだったんだってば。 - エージェント・黒陶
「おや、黒陶さん。施設内での仕事とは珍しいですね」
サイト-81██の一角、何の変哲もない廊下で、あるサイト内保安官はその女性に声をかけた。
「君が私のことを掃除屋か殺し屋としか認識してないのはよくわかった。実際強く否定できないのは非常にもどかしい」
艶やかな濡羽色の長髪が目を引く小柄な女性は、財団で働くエージェントの一人だ。土壇場での決断力に富み、多くのオブジェクトの収容に携わった生え抜きだが、平時の素行は決して良いとは言えず、保安官とは地元で有名な悪ガキと交番のお巡りさんのような間柄である。
「本日はどういったご用向きで?実は今朝からずっと、このサイトじゃあまり見ない職員の方々がちらほらやって来ていて…」
「必要以上の詮索は命に関わるぞ、ってのは君が最初に教えてくれた訓示だと思ってたんだけど……まぁ、君と私の仲だ。どうせ私の到着を待って関係各所には連絡が行く予定だったし、他でもない保安官サマに話すんだから後で咎めるなよ」
ややぎょっとして、保安官は肩をすくめた。この人は普段のらりくらりとしている癖に、時たま妙に常識的で冷静になる。…ずっとこうなら楽なのだが。
「と言っても、正直いつもの任務と似たようなものだけどね。ほら、うちは極稀に、SCiP一歩手前みたいな変な連中を雇用してるって聞いたことないかい?君なら何人かは顔馴染みかもな」
「えぇ。直接喋りもせずに、黙って後ろに立つくらいの関係ですが」
「その連中とSCiPを選り分けているのが私のような人間、ってことだよ。純粋な人の身でありながら、超常の力に触れている者。人事官曰く、人間じゃない奴の考えなんぞ人間用の精神分析で読み取れるもんか、って理屈らしい。私にとっちゃ妖術師の面目躍如だが、普通の定期カウンセリングとは別腹で時間を取らされるから、向こうは堪ったもんじゃないだろうさ」
「なるほど………」
正式な任務を受けてこの区画まで来ているということは、既に所持品のチェックなどは済ませているだろう。であればいつものように引き止める理由もない。残る自分の仕事は、管制室に戻って連絡を待ち、監視を続け、有事の際に備えるだけだ。
「あぁ、すみません。お時間を取らせました、私はここで失礼します。お気をつけて」
「了解。精々気をつけるよ」
インタビュー記録: 特別人事評価20██/██/██"Uirou Toraya"
対象者: 虎屋外郎博士
インタビュアー: エージェント・黒陶<録音開始>
エージェント・黒陶: 初めまして、虎屋博士。私はフィールドエージェントの黒陶由倉と申します。博士のご活躍はかねがね伺っております、お会いできて光栄です。
虎屋博士: 初めまして。いえいえ、そんな…ありがとうございます。
エージェント・黒陶: 本日はご足労をおかけして申し訳ありません。お上からの特命でして…あなたほど聡明な方ならおおよそ見当はつくでしょうが、まぁ、そういうことです。正直にお答えください、あなたが現在有している特質について、最近なにか変わったことは?
虎屋博士: 特に何も………不便なのも相変わらずですね。詰めているサイトの食堂の日替わり定食で唐揚げが出る回数が露骨に減っちゃって、若い職員に睨まれることが増えたくらいかな。なんでも私のこれ、あまりに見た目がリアルなもんだから、一度見ちゃうと匂いの錯覚までしてくるって言うんですよ。正直、勘弁して欲しいです……。
エージェント・黒陶: ご傷心、拝察いたします。
虎屋博士: ……………あ。そうだ。
エージェント・黒陶: 何か?
虎屋博士: いや…ほんの時々なんですけど、Dクラス職員に会うととても怖がられることがあるんですよ。なんでも「俺はチキンが見るのも駄目なくらい嫌いなんだ」って。
<重要度が低いため以下省略>
担当者の評価: 継続雇用可能。特に問題なし。
インタビュー記録: 特別人事評価20██/██/██"Owa von Bismarck"
対象者: 大和・フォン・ビスマルク博士
インタビュアー: エージェント・黒陶<録音開始>
エージェント・黒陶: 初めまして。私はフィールドエージェントの…
大和博士: 君、君、その挨拶は正しくないな。自分の死因の分析と統計を諦めて久しい私だが、君のことは印象深かったからよく覚えている。SCP-███-JPを収容した時だ。私は収容作戦の実行部隊から遠く離れ、遥か後方にあった指揮所を奴に嗅ぎつけられて、もうじき奴の放つ光によって重篤な認識災害を被るはずだった。そんな私を救ってくれたのが君だ、狂乱して後の活動を邪魔されるよりはマシだと、私の眉間を頭部ごと対戦車ライフルで木っ端微塵に粉砕して。いくら財団が超法規的組織だからと言って、あのサイズの火砲をこの国で拝んだのは久しぶりだったが…。
エージェント・黒陶: あー………あーはいはい、あの時の人か。巻き込まれた一般人の割には堂々としているというか、妙に偉そうだったから何も考えず撃っちゃったけど、あの時の人か!これはとんだご無礼を……。
大和博士: ふぅむ……あぁいや、うん、この際もう構わないとも。何故だかさっぱりわからないが、私は恨みの買い付け先でアドレス帳を作ったらば、広辞苑くらいの分厚さにはなるらしいからね。むしろ君みたいに素直に謝られたのは久しぶりだ!そうだ、ここへ来る途中、私好みのバーを見かけたんだ。今夜一杯付き合わないかね?
[エージェント・黒陶が左手を掲げる。待機していた機動部隊が現れ、一斉に銃口を大和博士へ向ける。]
エージェント・黒陶: お戯れを…そちらには生きて帰ってからお一人でどうぞ。お望みでしたら今すぐ特急便をご用意いたしますが?
大和博士: よし、わかった。君の上司にだけは死んでもならないと誓おう。
<重要度が低いため以下省略>
担当者の評価: 今すぐ解雇した方がいい継続雇用可能。特に問題なし。ただし、対象者の同僚にあたる職員らには、より重点的なメンタルヘルスケアを推奨する。
インタビュー記録: 特別人事評価20██/██/██"Toga Osaki"
対象者: 御先稲荷管理員
インタビュアー: エージェント・黒陶<録音開始>
エージェント・黒陶: どうも、こんにちは。…わ、本当に耳みたいだな… [咳払い] 失礼、つい。ご気分を害されたなら謝罪します。御先、稲荷…管理員で合ってるかな?
御先管理員: あっ、はい。本日はよろしくお願いいたします!
エージェント・黒陶: こちらこそ。それでは早速ですが、ひとつお伺いいたします。御先さんの耳…えっと、ご自身の特質について、最近何か変わったことは?
御先管理員: 変わったこと……あ………えっと、私の「静聴」についてはご存知なんですよね?
エージェント・黒陶: えぇ。実はここだけの話、稀有な性質だと思って私も気になっていたんですよ。生憎と私には血筋も才能も備わっていなかったもので……それが何か?
御先管理員: ……じゃあ、話が早いんですけど………その。私、何もしていない時にも「声」が聞こえる時があって。その「声」が…段々、近付いて来てるような…気がしてて……でも全然、確証とか、根拠とかなくって。あの、黙ってて悪かったと思うんですけど、昔の凄い神官さんとか巫女さんとかと違って、私、「静聴」しかできないし…気のせいかも知れないから、はっきり言えなかったんです。
エージェント・黒陶: ふむ……それは興味深い。いえ、よく話してくれました。私は研究者ではないのでお力になれるかはわかりませんが、上とよく相談しておきましょう。なに、あなたのように勤勉で清廉な職員を今すぐどうこうするほど、財団も堅物ではありません。
御先管理員: そ、そうですか。よかったぁ………。
エージェント・黒陶: ……あぁ、そうだ、もののついでと言っては何ですが。今度は仕事でなく、個人として会いませんか?
御先管理員: え?
エージェント・黒陶: この国の神秘を取り扱ってきた者の一人として、あなたの経歴には興味がある。ご実家の話とか…報告書や人事ファイルに載らない話、もっと聞かせて頂きたいな、と。
<重要度が低いため以下省略>
担当者の評価: あの耳めっちゃ触りたい現状、精神的には特に問題なし。ただし、本人が報告した事柄については調査が必要。折を見て再度、インタビューを実施することを提案したい。
インタビュー記録: 特別人事評価20██/██/██"Noumuin Takekuro"
対象者: 違います!Mchvhordhe Nollythltzaです!濃霧院武玄博士
インタビュアー: エージェント・黒陶<録音開始>
エージェント・黒陶: ………あー……………しょうがない、始めよう。こんにちは、濃霧院博士。
濃霧院博士: こんにちは!!初めまして!!
エージェント・黒陶: ず、随分とご機嫌ですね。何か嬉しいことでも?
濃霧院博士: いやぁ、実を言うと私、サイト-8122…あ、いま務めているサイトから、ほとんど移動したことがないんです。地球人とはかなり異なる外観をしていますから、民衆を混乱させないためにね。財団の方針であるからには仕方ないと割り切ってはいますが、やはり生活空間が極端に限定されているというのは、海王星人だって堪えます。ですので、私にとっては18██年の[削除済み]以来の小旅行というわけです!
エージェント・黒陶: なるほど、意外と普通に苦労なさってるんですね……では、質問の方に移りたいと思います。端的に言って、最近何か変わったことは?ご自身の異常性について、気付いたことはありませんでしたか?
濃霧院博士: 種族としての身体的特徴を、地球人目線で「異常性」の一言で切って捨てられている現状は甚だ不本意なのですが……いえ、いいえ、もう慣れましたとも。時にその質問、体調に何か変化はないか、という意味に解釈しても?
エージェント・黒陶: どうぞご随意に。子細の分析は他の研究者が勝手にやるでしょう、私はあなた方から話を聞き出すのだけが仕事ですから。
濃霧院博士: それでしたら、体調には全く問題ありません。至って健康ですよ。いくらなんでも███年も過ごせば、地球由来の細菌感染症や寄生虫にも抗体が出来ようというものです。
エージェント・黒陶: あぁ、うん…それは何より。…これで法螺や冗談で言ってないってんだから相当だな………。
濃霧院博士: 何ならフィールドワークにだって出られますよ?エージェント業に復帰するのもいいかも知れませんねぇ、成人と認められる年齢の前後が一番バイタリティに溢れているというのは、海王星人も地球人も同じですから!
エージェント・黒陶: ははは…ちょっと私にはなんとも言えません。今回の人事評価と体力測定、健康診断の結果次第じゃないでしょうか。続けますね。
<重要度が低いため以下省略>
担当者の評価: 継続雇用可能。特に問題なし。あれをクラス█-外宇宙起源存在に分類「しない」ことが収容プロトコルの一環だと言い張るなら従うが、それを遵守する我々には理由を明示して欲しいものだ。
インタビュー記録: 特別人事評価20██/██/██"Takigawa Ichiro"
対象者: エージェント・イチ(滝川 一郎)
インタビュアー: エージェント・黒陶<録音開始>
エージェント・黒陶: こんにちは、エージェント・イチ。噂はかねがね。何でも、SCiPオブジェクトを引き寄せる力をお持ちだとか。
エージェント・イチ: わぁ、初対面で自分の恰好にツッコまなかった人は久々ですー!これはこれは……ふむむ、なかなかの強敵………。
エージェント・黒陶: ……手短に済ませます。最近、ご自身の異常性について、気になることなどありませんでしたか?
エージェント・イチ: え?あー、無いですよ、そんなの。よく変なもんに出くわすのは昔っからだし、もう慣れちゃいました。けど、そのおかげで今、こんな風にすごい場所で働かせてもらえてるんですから、人生って何が起こるかわかりませんねぇ。
エージェント・黒陶: なるほど。SCP-███-JPの影響については?
エージェント・イチ: それ人事査定の時は毎回聞かれますけど、自分は全然問題ないです!エージェントは身体が資本ですからね、医者からも獣医からもお墨付き出てますし!
エージェント・黒陶: まったく同感です。大事無いならそれが一番かと。ところで……。
エージェント・イチ: ん?何ですか?
エージェント・黒陶: 10分ほど前、私が一旦退室した際には、こちらのペットボトルにはもう少し多くお茶が残っていたと記憶しているのですが。エージェント・イチ、心当たりは?
エージェント・イチ: ………バレました?
エージェント・黒陶: えぇ、まぁ。大方、中の液体に細工して、キャップを開けた瞬間にひどく吹きこぼれるようになっているとか、そんなところでしょう。今はこの程度だからまだ構いませんが……長生きしたければ自重を覚えたまえ。日頃の行いってのは一事が万事だ、素行不良はこの国じゃ一番嫌われる。それに、財団には陰険な大人も多いからな。喧嘩を売る相手は選べよ?
エージェント・イチ: はっ……はい……………。
<重要度が低いため以下省略>
担当者の評価: 継続雇用可能。特に問題なし。
サイト-81██、サーバールーム。
この施設の中では唯一、記録情報セキュリティ管理室・RAISAに繋がる──尤も、RAISAというシステムには独立した単体の主機が存在する訳ではなく、SCP財団が保有する無数の演算処理サーバーやデータベースがネットワークを介してリンクし、ひとつの総体として成立するクラウド・コンピューティングの形態をとっているのだが──端末が設置されている場所だ。休みなく稼働し熱を帯びるコンピューターの冷却のため、高性能の空調設備によって、人間には肌寒いくらいの室温が保たれている。特に日本支部とドイツ支部に見られる傾向として、節電を意識してか、照明はそこまで明るくない。
平時は必ず1名か2名以上、サーバールームの監視業務にあたっている者が居る。サイト内のあらゆる電子制御を司り、あらゆる情報が詰め込まれたメイン・サーバーは、SCiPオブジェクトに次いで極めて重要な監視対象だ。そして、今、サーバールームの監視室を撮影している防犯カメラには、サイトの治安を維持する内部保安チームのひとりが映っている。
─────否。
本当は、その監視室には誰も居ない。財団の社内システムを通じてサイトの内外へとアップロードされる映像は、ほぼ完璧に偽装されている。メイン・サーバーそのものが、財団内部の端末を足掛かりとして、巧妙なクラッキングを受けているからだ。ロッカーめいた長大なブレード型サーバーの横に居座り、支給品のタブレットと自前のノートパソコンを交互に睨めつける男は、半年以上前からこの機会を窺っていた。
財団だけが、超常現象、形而上学に興味を持ち、投資を行う団体ではない。何らかの目的、または私利私欲のためにSCiPオブジェクトを保有し、研究し、利用するそれらの組織は、ごく一部の例外を除き、「人類を異常存在の脅威から守る」ことを理念に掲げる財団にとっては厄介な外敵だ。既知の常識を覆す、より強大な「力」を手に入れた時、人間は往々にして暴走する。競争に勝利するため。それは、この地球上に棲息する存在にとって、ごく自然で当たり前のこと。
「───そう、厳しい生存競争に勝ち抜くための手法として、君の選択は至極当然の帰結だ」
男は耳を疑った。異動や殉職による配置換えは絶えなかったが、それでも、ここ半年でサイト-81██に関わる人事情報の大半は把握していた。監視の目を欺く偽装も施した。加えて今日は、例の「特別人事査定面接」にあたり、サイト全体に厳戒態勢が敷かれている。人員の増派こそ行われたが、一時的かつ微々たるものだ。ここを嗅ぎつけてどうこう出来る余裕があるとは思えない。
「………どうしました、今日は随分らしくないじゃないですか。こんな場所に何の御用です?」
「君と同じさ」
「と、言いますと…?あぁ、私はちょっと、システム障害に対応を。本来は専門外なんですがね、何分いま対応できる人員が私だけでして…でも黒陶さん、情報系ってわかる方でしたっけ?」
「いいや、私はパソコンだのスマホだのの話はさっぱりだ。だけど、いま君が探してるものの所在ならわかる」
平静を装って作業を続けるべく、努めてディスプレイにばかり視線を傾けていた「保安官」が振り向く。いつも通りの薄ら笑いを浮かべるエージェント・黒陶の手には、無骨な黒塗りのHDD機器が握られている。
「財団日本支部所属の特異性保有職員のリスト。履歴書だけでなく、心理プロファイルと最新の研究データも添えてね。我が方の優秀なハッカー、もしくは人工知能曰く、君が押し入った領域にはダミーデータしか入っていないそうだ……尤も、そう誘導したのも彼らだが」
動きが完全に読まれていた。───いつからだ?どこでしくじった?糸のように細い目の奥で、思考を回転させる。
ここで取るべき行動は何か。相手は1人だ。一方で、こちらの内通者は他にも居る。財団、もしくは同業他社の介入を受けて成果を挙げられなかった場合は、彼らと協力して脱出する手筈になっている。あのエージェントは組織化された機動部隊と異なり、単独での諜報活動を主とする人物だ。他のエージェントや機動部隊との合流はさせない、外の仲間が妨害してくれるだろう。幸い、今日このサイトにやってきた化け物どもと違って、彼女は普通の人間だ。体格では勝っているし、色々あって実際に取り押さえたこともある。ならば、行うべきはひとつだ。
一呼吸の内にその結論に至った保安官は、胸ポケットに差したボールペン型通信機の「緊急離脱」の信号を発するボタンを押し込むと、あくまであっけらかんとした態度で返答した。
「……嫌だなぁ。冗談よしてくださいよ。だいたい、そういう変なことやらかすのって、僕じゃなくて黒陶さんのキャラでしょう?」
「ははは、言ってくれるじゃないか。それで…君はどこの人間だ?蒐集院の過激派の残党か、それとも犀賀六巳の信者かな。日生創研や東弊重工が諜報員の類を抱えているとは思えないが…せめて本邦、大陸、西洋のどこから来た、くらい話して欲し───」
黒陶が長広舌を語り終えるより早く、多くの職員が善良なサイト内保安官だと思っている男は、自分より背の低いその女性に向かって豪腕を振るった。黒いロングコートの襟元を掴み上げ、たたらを踏ませて、両腕の自由を奪いつつ後ろに回る。銃刀法が存在し、犯罪発生率の控えめな日本では、大抵は民間人を財団の施設から追い返したり、職員同士の揉め事を諫めるばかりで任期を全うするサイト内保安官という立場には全く相応しくない。それは極めて鮮やかな手管であり、男が生え抜きの精鋭であることの何よりの証左だった。
「悪いですね、黒陶さん。こっちも仕事でさ」
「…これは驚いた。君、柔道以外も出来たんだ」
左腕で黒陶の細腕を拘束する男は、空いている右手で腰に提がった拳銃を抜き、こめかみに突きつける。男が財団の職員として現在の地位に就いて以来、幸いなことに一度も使われる機会がなかった、最新式の自動拳銃を。対人用のため、生物系のSCiPオブジェクト相手ではほとんど無力だが、しかし至近距離から頭部を撃ち抜かれて死なない「人間」は居ない。
「本当なら捕虜にして色んな用途に使いたいところなんだけど、生憎と今は時間が無い。そこそこの付き合いだし、何より僕は人殺しがしたいわけじゃないんだ。黙って怪我しといてくれるかな」
「そうか。じゃあ、少なくとも君は、人間を虫けらみたいに扱う連中の犬じゃないってわけだ」
男の胸に、妙に引っかかるものがあった。
「……あんたたちこそ、どうなんだよ。今日、あんたらがやってたこと、途中までは見てた」
黒陶が思わず取り落としたHDD機器を見ながら、男は時間稼ぎのための台詞を考えていた。安全な離脱のタイミングを期すべく、仲間達からの合図を待って。そして半分は本心から。
「何かの間違いで妙な力を押し付けられてしまった者を憐れむのは、まだいい。やれることをしてやって、ちょっとでも不便さをなくしてやろうって、そこまではいいんだ。けど………あんな、正真正銘の化け物は生かす癖に、Dクラス職員は簡単に殺すんだな。僕にはその矛盾がわからない。あんたたちは、人間を守るために戦ってるんじゃないのか」
背後に立ち、側頭部に銃を押し当てているので、黒陶は男の方に顔を向けようとしない。その表情は読めない。
「陳腐な質問だな。その程度の問題はとうの昔に結論が出ていて、何度も反芻されている。私たちが今さら口を出すことじゃない」
「結論って?」
「あぁ。Dクラスはね、死刑囚や無期懲役犯、もしくはそれに相当する重罪人なんかから選ばれてるんだ。あれらは見た目と性質が人間なだけの怪物だよ。それなら、人間らしい怪物の方がまだ有用だろう?」
「ふざけるな!!」
男は思わず、力を強めてしまう。黒陶の膝が部屋の床面に突く。やや不快そうな小さい呻きを発した以外は、黒陶は何も言わなかった。
「自分たちが……何をしてるのか、わかってるのか」
「無論だとも。というか、非人道的な行いは、どんな組織も多かれ少なかれ実施してるだろうさ。大体、表の世界のテロ鎮圧なんかにだって、警察や軍隊に犠牲者は出てるんだよ?人が死ぬのが嫌ってんなら、テロリストも殺されてるね。取り押さえて、真っ当な裁判で決着をつけたいのは山々だけど、向こうは容赦なく発砲してくるわけだから、軍警も応戦するしかない…結果、射殺……おや」
濡羽色の長髪の女性が、ようやく男の方を振り返る素振りを見せた。その口元は、底意地が悪く嗜虐的な笑みに歪んでいる。
「これって、今の君と私に似ているね。君は大層立派な倫理観と正義感をお持ちのようだけど、さて……」
「う…うるさい!!黙れ!!と……とにかく、我々はお前たちの方針など認めないっ」
「はは、つれないな。いや、実際、財団は最大限努力しているんだがね。けれど、どんなに収容しても化け物は沸いて出るし、人間は死ぬんだ」
黒陶の表情から笑みが消える。その瞳は、まっすぐ男の眼を見つめている。
「………なぁ。財団を悪と糾弾するのなら、君たちは私たち以上の何が出来る?私はね、時どき思うんだ。成果を得るために対価を要求する、この世界の摂理こそが間違っているのではないか、とね。財団は上手くやっているよ、その摂理を遵守して、人類文明を守るために……だから、私たち以上を望むというなら、君たちは摂理を超えて犠牲を踏み倒す道を選ぶしかない」
「あんた、何を言って……」
「───そして、熱力学第二法則からの逸脱は、最も典型的なSCiPオブジェクトの特徴だ」
直後、男の大腿部から鮮血が迸った。男は反射的に発砲しようとしたが、指が引き金にかかるよりも早く、黒陶の頭蓋骨が拳銃を叩き落としていた。困惑し、狼狽する男の視線が捉えたのは、異様な形に歪んだ黒衣のエージェントの脚。正確には、黒陶のブーツに仕込まれていたと思しきナイフ状の物体が広く展開し、それに赤い液体が付着している様子だ。
「がっ…ぁ、く…!」
夕刻、彼方の空から迫ってくる宵闇が如き漆黒の外套の陰から、少女と見紛うほど華奢な体格にはまるで相応しくない大型自動拳銃が引き抜かれる。黒陶は躊躇しなかった。光と音───火薬の匂い。再び飛び散る血液。男は床に転がった銃を咄嗟に拾おうとして、肩口から腕を潰された形だった。
「ぎゃあっ……あっ、ああっ…!」
「本当はな。化け物を倒すには化け物を使うのが一番なんだ。だって、人間は怪物と等価値になれないから。化け物どもの方が、世界に拠って立つ一個の存在としての性能が上だからだ。けど私たちは、自分が怪物になる道を選ばなかった」
2発。3発。エージェント・黒陶の射撃は空恐ろしいほど正確で、腕と足を中心に狙い移動力を削ぎつつも、間一髪で急所を外している。
「あぁああああぁぁァァぁ!!」
「……近年、その大前提が崩れつつあるのも、また認めるが。最後まで抗った事実も、また嘘じゃない」
黒陶は倒れ伏して喘ぐ男の前にしゃがみ込むと、胸元からボールペン型通信機を取り出して、通話スイッチをオンにした。何やら騒ぐ声が聞こえてくるようだったが、無視する。
「先達として忠告してやる。私たち人類を許さないために、人類に背く覚悟はあるか」
銃声が木霊する。
そして、沈黙だけが残る。
それは、死した「人間」たちへの追悼。あるいはちょっとしたRemember us.───だった。