天神様の細道





子供2人、研究室にて

「時に竹林くん。君は"ヒーローごっこ"についてどう思うかね?」

おどろおどろしい暗褐色の髪、頭から生えた2本の角、眼球のマークで埋め尽くされた白衣。奇妙な容姿をしたその男性が、怪獣のフィギュアを弄りながら至って真剣なトーンでそう質問してきた。

「"ヒーローごっこ"と言いますと?」

「いやあ。竹林君はそういう子供っぽいことをどう思ってるんだろうなーって。」

博士はいつも子供っぽいです、なんて言ったら怒られるだろうか。だけど現に彼のデスクの上は数千数百にも昇る特撮フィギュアで溢れているし、普段の発言や行動だって少年時代のままだ。もっとも彼自身にその自覚があるかどうかはわからないけれど。

「特に悪い印象は抱いていませんが。」

「よし、じゃあ今ここでやってもいい?」

この人は何を言っているのだろうか。明らかにここは研究室の中であり、ヒーローごっこではなくオブジェクトについての論文をまとめたりプレゼンテーション用の資料を作成するべき場所だ。私は常日頃から彼の発言に呆れさせられ、それでいて惹きつけられる。仕方がない、私も付き合ってあげることにしよう。なぜだかわからないけど毎回そんな気持ちにさせられるのだ。

「いいですよ。さあ、かかってきなさい怪人フジョ―。」

「え?あ、僕が悪役なの?」

ふふ、困ってる困ってる。ふと、仕方がないなんて言いつつも彼といると楽しいと感じている自分に気づかされる。私もただ大人ぶっているだけで本質的には彼となんら変わりないのかもしれない。

「ここは話の流れ的に僕がヒーロー役でしょ?せっかく変身ポーズも練習してきたんだけどなぁ…。」

「そう簡単にこのサイトは渡しませんよ。正々堂々と勝負してください。」

その通り。そう簡単に渡すものか。助手が頑張って書類整理をしているすぐ向かいのデスクで、呑気に怪獣フィギュアの鑑賞会なんか開いている博士にこのサイトは任せられない。あと、もう少しだけ彼の困った表情を見ていたいという邪な気持ちもあったりしたりする。…ほんのちょっぴりだけど。

「お願いだよ竹林くん。ほら、昨日食べたがってた新作のお饅頭買ってきてあげたからさ。」

「ほんと!?ありがとう!…ごほん。えーっと、ありがとうございます。いただきます。」

いくら硬派な私だからってお饅頭を引き合いに出されては無力も同然だ。他の職員は失礼にもこれを餌付けだとかなんとか呼んでいるらしいが、断じて私は餌付けなどされていない。ただ単純に甘いものが好きなだけなのだ。でも、彼が私の食べたがっていたものを覚えているという事実だけで普段の何倍もお饅頭が美味しく感じるのはなぜなのだろうか。

「竹林くんってさ、甘いものが絡むと急に子供っぽくなるよね。」

「そうでしょうか。…これおいしいですね。」

博士よりはマシですよ、と心の中で呟いたその瞬間だった。廊下に大きな足音が鳴り響くと同時に、研究室のドアがバタンと勢いよく開いた。

「不条博士!!!」

そこにいたのは鬼気迫った表情(?)をした濃霧院博士だった。

「ん、どうされました?濃霧院博士」

「どうされたって、貴方また私の研究室に目玉の落書きしましたよね!?」

濃霧院博士はある意味彼の最大の被害者だ。外見が宇宙人みたいなことが災いして彼に3時間以上も問い詰められたり、彼の宇宙人論なるものを何度も聞かされたりしている。そして今度はーーまた、という発言からしてもう既に何回かやられたようだけれどーー研究室への落書き兼監視を仕掛けられた様子で、私は彼の監視役として厳重に注意しなければならないと決心した。

「まあまあ、濃霧院博士には宇宙人の疑惑がある以上、監視しないわけにはいかないでしょう?」

「でしょう?じゃないんですよ!…はぁ、本当にもう。いいですか、確かに私は海王星人ですけどね…」

と、濃霧院博士が自身の起源(?)についての話をしだしたその時だった。

「よし、今のうちに逃げるよ!竹林くん!」

突然彼は私の手を取ると研究室の窓を開けて飛び出した。といっても研究室は1階なのだから特に凄いことでもなんでもないが。

「いいんですか?折角濃霧院博士自身から起源についてのお話を伺えるチャンスでしたのに。」

「いいの!実はまだバレてないんだけど、彼の研究室にもう1つイタズラを施しておいたんだよね。さ、バレる前にさっさと逃げるよ!」

「なんですかもう1つのイタズラって!待ちなさい!」

「やっべ聞こえちゃってるし!竹林くん、スピードアップ!」

これだ。彼はこうやっていつも私をワクワクさせる。私を子供に戻してくれる。それこそ、まるでお饅頭を食べた時みたいに。彼の行動のせいで私が貧乏くじを引くこともあるけれど、結局私は彼のそういうところも含めて彼を好いているのだろう。私は、今さっき決心したことすらすっかり忘れてこう言った。

「わかりました。どこまでもおともしますよ、不条博士。」


つまらないに掻き消される

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私はSCP財団という組織に勤務している。簡潔に言えば、世界に蔓延る異常存在どもを確保し、収容し、保護するお仕事。当然楽ではないが、その分やり甲斐を感じられるし、何より給料の払いが良い。労働環境は…まあ、ボチボチだ。

いつだったか、私は昔Anomalousアイテムの研究をしていた。それがこの組織における私の初任務だった。最初は驚いたよ、童話の中のマジックアイテムが現実に存在するなんて思ってもみなかったからな。
だが、慣れてくれば俄然興味を唆る代物でもあった。私は研究に打ち込んだ。それがどんな異常性を持っていて、どのような形で発現させるのか。楽しくて仕方なかったよ。毎日毎日、日が沈むまで考えた。
そして論文を発表したんだ。あるAnomalousアイテムの異常性を通じて観測可能な原理と、それを応用した対ミーム技術に関する提案。論文は高く評価されて、私は無事次のクリアランスに上がることができた。

次に担当させられたのは、SafeクラスのSCiP。そいつはAnomalousアイテムの比じゃないほど神秘的で私を興奮させてくれた。当たり前だが、私は一心不乱にそいつを調べ上げた。文字通り隅から隅まで、わかっているところからわかっていないところまで全てだ。幸い、生命の存続に影響を及ぼうようなヤツじゃなかったから、Dクラスでの実験も気兼ねなくできた。
こうして私はオブジェクトの性質を完璧に把握し、その上で従来より大幅にコストを下げた特別収容プロトコルの実施を進言した。これもお偉方から良い評判を貰って、私はさらに良い立場に就くことができた。

それから間もなくして、私は最近発見されたばかりのEuclidクラスオブジェクトを任されることになった。このまま行けば直ぐにAクラス職員にだってなれる。私はすっかり調子づいていた。
しかし、中々そいつの全容は掴めなかった。そもそもの大前提として、今までのAnomalousやSafeとは危険性が段違いだった。直接触るどころか、迂闊に近づけば一瞬で死ぬ可能性すらある。私は怯えていた。
やむなく、私はDクラス職員を用いることに決めた。良心の呵責が何度も心を咎めたが、私は無理にそれを押さえ込んで実験を始めた。Dクラスを殺したその日、私は家に帰る気力などなく、研究室の机に突っ伏したまま日の出を迎えた。
その後、何度も何度も実験を繰り返して、やっとオブジェクトの異常性とその出自を掴んだ。私はなんとか論文を仕上げ、しばらく後にクリアランスが上がったという報せと、Keterクラスオブジェクトの担当責任者に選出されたとの報せを受けた。そこには三分の達成感と、七分の空虚があった。

件のKeterクラスオブジェクトは、まさにセフィロトの王冠と言うに相応しい凶暴性と残虐性を備えていた。全身から火を噴き出し、掌から火の玉を投げつけ、人間を見境なく無差別に焼死させる人型実体。
私は残った気力を絞り出して、そいつの研究をスタートした。いつまでもクヨクヨしていたって仕方あるまい、大義と犠牲はついて離れぬものなのだと自分に言い聞かせて。
財団の持つ優秀な科学技術、そしてDクラスを用いたオブジェクトへの直接的な接触。資料を集め数式を眺め、使えるものは全部使って様々な観点から研究した。そして遂に、そいつがとある古代文明と関連していることが判明し、それを報告書に追記しようとした矢先のことだった。

収容違反だ、と誰かが声を上げた。そいつは収容室の扉を滅茶苦茶に溶かし職員を焼き殺して、確実にこちら側に向かって来ていた。私は何が起こったか理解できなかった。理性では分かっていたつもりだが、本能がそれを拒否していた。
ところが、そいつが私の目前に立ってこちらに掌を向けて来た時、私の頭は突如として平静を取り戻した。私は自分の人生が一瞬のうちに駆け抜けていくのを肌で感じ、ああこれが走馬灯なのかなんて呑気なことを考えていた。
やはり実験に人を使うことは許されない行為であって、これはその罪に対する罰なのかも知れない。でも、これは私が、いや、私達が世界を守るために取捨選択した結果なのだ。一概に悪だと決めつけられる訳がない。
例えもし私が悪だとしても、それでも私の人生には何か意味や価値があるはずだ。私は最初に「この仕事はやり甲斐がある」と言ったね。私はこの組織に所属してから、片時も財団の最終目標を忘れたことはなかった。私が財団の一員として、世界を恐怖から守っているという実感があった。



私の人生は、決して無意味で無価値なんかじゃないんだ。







































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SCP-███-JP

Rate-21

アイテム番号: SCP-███-JP

オブジェクトクラス: Keter

特別収容プロトコル: SCP-███-JPは、サイト-81██のKeterクラス人型生物収容室に収容されます。SCP-███-JPを用いた実験には、レベル3以上セキュリティクリアランス職員の許可が必要です。

説明: SCP-███-JPは、全長約2.3mの人型実体です。

常に全身から由来不明の火柱を発生させており、また掌から不明な方法で火球を放出することが可能です。

非常に好戦的かつ人類に対して極めて敵対的な性質であるため、O5評議会の審議によりKeterクラスに分類されました。

補遺1: SCP-███-JPは、旧██文明と何らかの関連性を有していることが判明しました。

補遺2: 20██/██/██に発生したインシデント███-JP-001において、SCP-███-JP担当職員を含む計18名の職員が死亡しました。

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