子供2人、研究室にて
「時に竹林くん。君は"ヒーローごっこ"についてどう思うかね?」
おどろおどろしい暗褐色の髪、頭から生えた2本の角、眼球のマークで埋め尽くされた白衣。奇妙な容姿をしたその男性が、怪獣のフィギュアを弄りながら至って真剣なトーンでそう質問してきた。
「"ヒーローごっこ"と言いますと?」
「いやあ。竹林君はそういう子供っぽいことをどう思ってるんだろうなーって。」
博士はいつも子供っぽいです、なんて言ったら怒られるだろうか。だけど現に彼のデスクの上は数千数百にも昇る特撮フィギュアで溢れているし、普段の発言や行動だって少年時代のままだ。もっとも彼自身にその自覚があるかどうかはわからないけれど。
「特に悪い印象は抱いていませんが。」
「よし、じゃあ今ここでやってもいい?」
この人は何を言っているのだろうか。明らかにここは研究室の中であり、ヒーローごっこではなくオブジェクトについての論文をまとめたりプレゼンテーション用の資料を作成するべき場所だ。私は常日頃から彼の発言に呆れさせられ、それでいて惹きつけられる。仕方がない、私も付き合ってあげることにしよう。なぜだかわからないけど毎回そんな気持ちにさせられるのだ。
「いいですよ。さあ、かかってきなさい怪人フジョ―。」
「え?あ、僕が悪役なの?」
ふふ、困ってる困ってる。ふと、仕方がないなんて言いつつも彼といると楽しいと感じている自分に気づかされる。私もただ大人ぶっているだけで本質的には彼となんら変わりないのかもしれない。
「ここは話の流れ的に僕がヒーロー役でしょ?せっかく変身ポーズも練習してきたんだけどなぁ…。」
「そう簡単にこのサイトは渡しませんよ。正々堂々と勝負してください。」
その通り。そう簡単に渡すものか。助手が頑張って書類整理をしているすぐ向かいのデスクで、呑気に怪獣フィギュアの鑑賞会なんか開いている博士にこのサイトは任せられない。あと、もう少しだけ彼の困った表情を見ていたいという邪な気持ちもあったりしたりする。…ほんのちょっぴりだけど。
「お願いだよ竹林くん。ほら、昨日食べたがってた新作のお饅頭買ってきてあげたからさ。」
「ほんと!?ありがとう!…ごほん。えーっと、ありがとうございます。いただきます。」
いくら硬派な私だからってお饅頭を引き合いに出されては無力も同然だ。他の職員は失礼にもこれを餌付けだとかなんとか呼んでいるらしいが、断じて私は餌付けなどされていない。ただ単純に甘いものが好きなだけなのだ。でも、彼が私の食べたがっていたものを覚えているという事実だけで普段の何倍もお饅頭が美味しく感じるのはなぜなのだろうか。
「竹林くんってさ、甘いものが絡むと急に子供っぽくなるよね。」
「そうでしょうか。…これおいしいですね。」
博士よりはマシですよ、と心の中で呟いたその瞬間だった。廊下に大きな足音が鳴り響くと同時に、研究室のドアがバタンと勢いよく開いた。
「不条博士!!!」
そこにいたのは鬼気迫った表情(?)をした濃霧院博士だった。
「ん、どうされました?濃霧院博士」
「どうされたって、貴方また私の研究室に目玉の落書きしましたよね!?」
濃霧院博士はある意味彼の最大の被害者だ。外見が宇宙人みたいなことが災いして彼に3時間以上も問い詰められたり、彼の宇宙人論なるものを何度も聞かされたりしている。そして今度はーーまた、という発言からしてもう既に何回かやられたようだけれどーー研究室への落書き兼監視を仕掛けられた様子で、私は彼の監視役として厳重に注意しなければならないと決心した。
「まあまあ、濃霧院博士には宇宙人の疑惑がある以上、監視しないわけにはいかないでしょう?」
「でしょう?じゃないんですよ!…はぁ、本当にもう。いいですか、確かに私は海王星人ですけどね…」
と、濃霧院博士が自身の起源(?)についての話をしだしたその時だった。
「よし、今のうちに逃げるよ!竹林くん!」
突然彼は私の手を取ると研究室の窓を開けて飛び出した。といっても研究室は1階なのだから特に凄いことでもなんでもないが。
「いいんですか?折角濃霧院博士自身から起源についてのお話を伺えるチャンスでしたのに。」
「いいの!実はまだバレてないんだけど、彼の研究室にもう1つイタズラを施しておいたんだよね。さ、バレる前にさっさと逃げるよ!」
「なんですかもう1つのイタズラって!待ちなさい!」
「やっべ聞こえちゃってるし!竹林くん、スピードアップ!」
これだ。彼はこうやっていつも私をワクワクさせる。私を子供に戻してくれる。それこそ、まるでお饅頭を食べた時みたいに。彼の行動のせいで私が貧乏くじを引くこともあるけれど、結局私は彼のそういうところも含めて彼を好いているのだろう。私は、今さっき決心したことすらすっかり忘れてこう言った。
「わかりました。どこまでもおともしますよ、不条博士。」
つまらないに掻き消される
私はSCP財団という組織に勤務している。簡潔に言えば、世界に蔓延る異常存在どもを確保し、収容し、保護するお仕事。当然楽ではないが、その分やり甲斐を感じられるし、何より給料の払いが良い。労働環境は…まあ、ボチボチだ。
いつだったか、私は昔Anomalousアイテムの研究をしていた。それがこの組織における私の初任務だった。最初は驚いたよ、童話の中のマジックアイテムが現実に存在するなんて思ってもみなかったからな。
だが、慣れてくれば俄然興味を唆る代物でもあった。私は研究に打ち込んだ。それがどんな異常性を持っていて、どのような形で発現させるのか。楽しくて仕方なかったよ。毎日毎日、日が沈むまで考えた。
そして論文を発表したんだ。あるAnomalousアイテムの異常性を通じて観測可能な原理と、それを応用した対ミーム技術に関する提案。論文は高く評価されて、私は無事次のクリアランスに上がることができた。
次に担当させられたのは、SafeクラスのSCiP。そいつはAnomalousアイテムの比じゃないほど神秘的で私を興奮させてくれた。当たり前だが、私は一心不乱にそいつを調べ上げた。文字通り隅から隅まで、わかっているところからわかっていないところまで全てだ。幸い、生命の存続に影響を及ぼうようなヤツじゃなかったから、Dクラスでの実験も気兼ねなくできた。
こうして私はオブジェクトの性質を完璧に把握し、その上で従来より大幅にコストを下げた特別収容プロトコルの実施を進言した。これもお偉方から良い評判を貰って、私はさらに良い立場に就くことができた。
それから間もなくして、私は最近発見されたばかりのEuclidクラスオブジェクトを任されることになった。このまま行けば直ぐにAクラス職員にだってなれる。私はすっかり調子づいていた。
しかし、中々そいつの全容は掴めなかった。そもそもの大前提として、今までのAnomalousやSafeとは危険性が段違いだった。直接触るどころか、迂闊に近づけば一瞬で死ぬ可能性すらある。私は怯えていた。
やむなく、私はDクラス職員を用いることに決めた。良心の呵責が何度も心を咎めたが、私は無理にそれを押さえ込んで実験を始めた。Dクラスを殺したその日、私は家に帰る気力などなく、研究室の机に突っ伏したまま日の出を迎えた。
その後、何度も何度も実験を繰り返して、やっとオブジェクトの異常性とその出自を掴んだ。私はなんとか論文を仕上げ、しばらく後にクリアランスが上がったという報せと、Keterクラスオブジェクトの担当責任者に選出されたとの報せを受けた。そこには三分の達成感と、七分の空虚があった。
件のKeterクラスオブジェクトは、まさにセフィロトの王冠と言うに相応しい凶暴性と残虐性を備えていた。全身から火を噴き出し、掌から火の玉を投げつけ、人間を見境なく無差別に焼死させる人型実体。
私は残った気力を絞り出して、そいつの研究をスタートした。いつまでもクヨクヨしていたって仕方あるまい、大義と犠牲はついて離れぬものなのだと自分に言い聞かせて。
財団の持つ優秀な科学技術、そしてDクラスを用いたオブジェクトへの直接的な接触。資料を集め数式を眺め、使えるものは全部使って様々な観点から研究した。そして遂に、そいつがとある古代文明と関連していることが判明し、それを報告書に追記しようとした矢先のことだった。
収容違反だ、と誰かが声を上げた。そいつは収容室の扉を滅茶苦茶に溶かし職員を焼き殺して、確実にこちら側に向かって来ていた。私は何が起こったか理解できなかった。理性では分かっていたつもりだが、本能がそれを拒否していた。
ところが、そいつが私の目前に立ってこちらに掌を向けて来た時、私の頭は突如として平静を取り戻した。私は自分の人生が一瞬のうちに駆け抜けていくのを肌で感じ、ああこれが走馬灯なのかなんて呑気なことを考えていた。
やはり実験に人を使うことは許されない行為であって、これはその罪に対する罰なのかも知れない。でも、これは私が、いや、私達が世界を守るために取捨選択した結果なのだ。一概に悪だと決めつけられる訳がない。
例えもし私が悪だとしても、それでも私の人生には何か意味や価値があるはずだ。私は最初に「この仕事はやり甲斐がある」と言ったね。私はこの組織に所属してから、片時も財団の最終目標を忘れたことはなかった。私が財団の一員として、世界を恐怖から守っているという実感があった。
私の人生は、決して無意味で無価値なんかじゃないんだ。
アイテム番号: SCP-███-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-███-JPは、サイト-81██のKeterクラス人型生物収容室に収容されます。SCP-███-JPを用いた実験には、レベル3以上セキュリティクリアランス職員の許可が必要です。
説明: SCP-███-JPは、全長約2.3mの人型実体です。
常に全身から由来不明の火柱を発生させており、また掌から不明な方法で火球を放出することが可能です。
非常に好戦的かつ人類に対して極めて敵対的な性質であるため、O5評議会の審議によりKeterクラスに分類されました。
補遺1: SCP-███-JPは、旧██文明と何らかの関連性を有していることが判明しました。
補遺2: 20██/██/██に発生したインシデント███-JP-001において、SCP-███-JP担当職員を含む計18名の職員が死亡しました。
- ありきたりすぎますね。DV。 -- JohnDoe
- この記事は評価が-3を下回った為、「低評価による削除」の対象となりました。この通知から72時間後までに、評価-2以上にならなければ削除となります。詳しくはこちらを参照して、適切な対処を行ってください。 -- AlanSmithee
- うーん、面白みがないですね。DVです。 -- RichardRoe
- 記事としては短すぎると思います。DV。 -- JaneSmith
- "エッセイ"タグに分類される記事を参考にしてみてはどうでしょうか。今のままでは陳腐すぎて、DVされるために生まれたようなことになってしまっています。 -- JaneDoe
- 著者様はきっと心を込めてこの記事を書いたのでしょう。しかし私にはこの記事こいつの人生に意味や価値があるとは思えませんでした。DV。 -- JohnSmith
つまらないに掻き消される
僕は平凡な男だった。1971年の大阪生まれ。幼少の頃に父を亡くし、心優しい母の手で大事に育てられた。父の遺産もあり、人並みに遊んで食べて寝て、何不自由ない生活を送ることができた。僕は反抗期を挟みながらも順調に成長し、母親似の穏やかな性格になっていった。
僕が高校2年生に上がろうとするとき、とある女子生徒から放課後の校舎裏に呼び出された。彼女は酷く赤面しながら、「私と付き合って下さい!」と半ばやけっぱちな口調で言い放った。それは彼女にとっても、そして僕にとっても人生で初めての出来事だった。僕は微笑みながら、「こちらこそ。」と言った。僕もまた、彼女が好きだった。
それから3ヵ月が経った頃、母が倒れた。末期癌だった。母は「あなたに心配をかけたくなかったの。ごめんなさいね。ごめんなさいね。」と何度も何度も謝ったが、僕は構わず嘆き続けた。自分の命よりも息子の無事を願う母の気持ちと、そんな暖かな母親の病状に全く気付いてあげられなかった己の愚かさを思うと、嘆くより他はなかった。
僕は医学部を受験することを決心した。もう2年生だから時期的には遅いかも知れないけど、ただほんの欠片ほどでも母の役に立ちたいと思った。僕は猛勉強を始めた。平日も休日も構わず机に向かい、空いた時間は残さず利用し、がむしゃらに打ち込んで、それでも、落ちた。たった5点だけが足りなかった。
そして2ヵ月後、母はただ「あなたは良い子なんだから、人を幸せにできる力を持ってる。1人でも多くの人間を幸せにしなさい、それが私の最期のお願いです。」と言い残したっきりもう2度と目を覚まさなくなった。僕は自分の無力さを恨んだ、責めた、苛んだ。それしかできなかった。
ふと、僕に声をかけた人がいた。今や僕の恋人になった女子生徒だった。僕はそこでやっと母の最期の望みを思い出した。僕はまず、一心不乱に勉強に打ち込んで恋人らしいことを何一つしてやれなかった僕に全く呆れもせず
ついてきてくれる彼女を幸せにすると決意した。
結局、僕は文系の大学に入り、そこでまた猛勉強した。大学を出たら結婚して彼女に少しでもいい暮らしをさせてあげるために。あっという間に3年間が経ち、僕はその大学を首席で卒業することができた。就職活動も問題なく、彼女とささやかな結婚式も挙げた。そんな幸せの絶頂にいたある日、1通の手紙が届いた。
「SCP財団」。それがメッセージの送り主の名前だった。どうやら目的は勧誘のようだったけれど、詳細はどこにも記載されておらず、ただ「興味がおありでしたら、是非こちらまでお越しください。」との文言と一緒に無機質な地図が添付されていただけだった。
3日後、僕は地図に載っていた場所に来ていた。なんでかは僕自身にもわからない。強いて言えば、何となく面白そうだったからだろうか。けれど地図の場所には何もなく、しばらく周囲をウロウロしていると突然背後から声をかけられた。そこにはキッチリとしたスーツを着た若い男性が立っていて、彼は自身を人事係だと名乗った。
そこからはトントン拍子だった。労働環境や年収を事細かに提示されて、頷いた次の瞬間に色々な検査を受けさせられ、気づけば僕はそこの職員になっていた。だけど後悔はしなかったし、何より給料が他のどんな企業と比べてもダントツに高い。僕はSCP財団の職員として、これから頑張っていくことにした。
最初はその異様な環境に戸惑っていたけれど、すぐに慣れて、僕はAnomalousアイテムの研究を任されるようになった。僕は努力を厭わない気質だからドンドン研究成果を上げて、3年が経つ頃にはEuclidクラスオブジェクトを担当するようになっていた。そこでも僕は熱心に研究を重ね、5年が経過する直前にはKeterクラスを任されるようになった。
そのオブジェクトは、飛んでもなく危険なシロモノだった。体中から火を噴いて、手から火の玉を飛ばし、人を焼き殺すという凶暴性と残虐性を併せ持った人型実体。僕は今まで以上に張り切ってそいつを研究し、Dクラスを使った実験も行い、そしてそいつがとある古代文明と何らかの関係性を持っていることに気づいた直後のことだった。
収容違反だ、と誰かが声を上げた。そいつは収容房を滅茶苦茶に溶かし職員を焼き殺して、確実にこちら側に向かってきていた。そいつが僕の目の前に立って僕の顔面に手の平を向けてきたとき、僕は自分の人生が一瞬にして目の前を駆けていく光景を見た。
僕は母の最期の望みを叶えるため、妻を幸せにするためここで働いてきた。でもその反面、僕は実験に多くのDクラスを使い、そして見殺しにしてきた。僕は人間として正しいのだろうか、間違っているのだろうか。間違っているとするのなら、僕の人生に意味は、価値はあるのだろうか。それは多分死んでも分からないと思う。だけど、それでも、僕は願おう。
どうかこの人生が、意味のある、価値のあるものでありますように。
俺は目を覚ました。目の前には机があった。さっきまで確かにテスト勉強していたはずなんだが、どうやらいつの間にか突っ伏して寝てしまったらしい。数学ってのはどうにも面倒くさくて、眠くなってしまうから仕方がない。
それにしても変な夢を見たなと、さっきの出来事を思い返してみる。が、変にぼんやりしていて端的にしか思い出せなかった。まあ、あれはただの夢なんだし、深く考えるのはやめておこう。
俺は背伸びをすると、趣味の怪奇創作サイトを漁り始めた。勉強時間に見合った遊びの時間を取らなければ割が合わない。取りあえず最近投稿された記事の欄を眺めていると、妙に評価が低い記事があった。どれだけ酷いのか見てやろうと俺はリンクをタッチした。
アイテム番号:Scp-xxx-Jp
オブジェクトクラス:ketre
特別収容プロトコル:Scp-xxx-jpはサイト-81██に収容されます。日に3階の食事を与えてください。実験にはDクラスを用いてください。
説明:scp-xxx-jpは全身から火を出す人です。非常に敵対的であり、手から放出する火炎弾で人間を焼き殺しあす。また、とても身体能力が通常の人間の5倍あり、IQも150を超えています。
補遺1:scp-xxx-jpが脱走しました。これにより担当職員を含めた18名が死亡しました。
補遺2:scp-xxx-jpの担当職員の残した手紙から、scp-xxx-jpはとある古代文明と関係していることがわかりました。
これはあまりにも凄惨だ。きっと執筆ガイドどころか通常の記事すら読んでいないに違いない。俺はため息を吐いて、こう呟いた。
「著者は必死に書いたのかもわからんが、この記事お前の人生には意味も価値も全くない。フォーマット崩れは消えてくれよ、DV。」
つまらないに掻き消される
僕は平凡な男だった。1971年生まれ。幼少の頃に父を亡くし、心優しい母の手で大事に育てられた。父の遺産もあり、人並みに遊んで食べて寝て、何不自由ない生活を送ることができた。今日はそんな僕の人生の話をしようと思う。
僕が小学校高学年の頃だったか、晴れた夏の日だった。僕は2人の友人と近所の森へ虫取りに来ていた。カブトムシ・クワガタ・セミ、色々な昆虫を追い回して、すっころんで、笑いあった。12時が近くなるとお腹も空いてきて、みんなでお弁当を食べた。母親が早起きして作ってくれた弁当の味は今でも覚えている。
お昼を食べ終わると、僕らは腹ごなしに木登り競争をすることにした。誰が一番高い木に登れるかどうかを競って、優勝した人には名誉と栄光が授けられるというもの。僕もかなり頑張ったのだが、結果は惜しくも2位だった。優勝した友達はその森の中でも1・2を争う大木のてっぺんまで到達していた。
しかし、ここからが問題だった。その友達が木から降りられなくなったのだ。僕ともう1人の友人はなんとかしてその子を助けようとしたが、子供の力では到底無理だった。結局、日が沈もうとするころに大人の人が来て、その友達はやっと助かった。僕は自分の所為で友達をこんな恐ろしい目に遭わせてしまったことを後悔した。
そして僕は中学校に上がった。しばらくは何事もなく、至って平穏な日常だった。
しかし、1年生のある日の事。僕は自分の友人が他校の不良グループに絡まれている現場を目撃した。頭が真っ白になった。塾の帰り道でもう日も暮れていたし、なにより人通りが非常に少ない場所のため誰か助けを呼ぶこともできない。その頃は学生1人が携帯電話なんて持てる時代でもなかったから、友達を救えるのは僕しかいなかったのだ。
だけど相手は地域でも有名な不良グループだし、出て行ったら僕も暴力を振るわれるかもしれない。そう考えると恐ろしくなって、僕はその場から走って逃げた。これで良かったのだろうか。僕は言い知れぬ罪悪感を抑えながら、一心不乱に家を目指した。
僕が高校2年生に上がろうとするとき、とある女子生徒から放課後の校舎裏に呼び出された。彼女はひどく赤面しながら、「私と付き合って下さい!」と半ばやけっぱちな口調で言い放った。それは彼女にとっても、僕にとっても人生で初めての出来事だった。僕は穏やかな笑みを浮かべて、「こちらこそよろしくお願いします。」と言った。僕もまた、彼女が好きだった。
それから3ヵ月。母が倒れた。末期癌であった。母は「あなたに心配をかけたくなかったの。ごめんなさいね。ごめんないさいね。」と何度も謝ってくれたけど、僕は構わず嘆き続けた。自分の命よりも息子の無事を第一に願う母の気持ちと、そんな素敵な母親の病状に一切気付いてやれなかった自分の愚かさを思うと、嘆くより他はなかった。
僕は医学部を受験することを決心した。もう2年生だから遅いかもしれないけれど、欠片ほどでも母の役に立ちたかった。僕は猛勉強を始めた。平日も休日も構わず勉強して、空いた時間は残さず利用して、がむしゃらに打ち込んだが、落ちた。あと5点が足りなかった。母は「いいんだよ。あなたが生きてるだけで、私は幸せです。」と慰めたが、それでも自分を呪わずにはいられなかった。それから2ヵ月後、母は「あなたは少しでも多くの人間を幸せにしなさい。それが私の最期の願い。」と告げたっきり息を引き取った。僕は自分の無力さを恨んだ、責めた、苛んだ。それしかできなかった。
ふと、僕に声をかけた人物がいた。今や僕の恋人となった女子生徒であった。僕はそこでやっと理解した。母の望みは、一心不乱に勉強に打ち込んで恋人らしいことを何一つしてやれなかった僕に、全く呆れもせずついてきてくれる彼女を幸せにすることだと。
結局、僕は文系の大学を卒業して、彼女と幸せな家庭を築いた。穏やかで幸せな日々だった。3年経つと子供も生まれ、僕は父親としてより精を出して働いた。そんなある日のことだった。
僕は妻と息子と一緒に、とあるショッピングモールへ買い物に来ていた。おもちゃ屋さんに寄って新作のゲームを買ってあげたり、家族三人でアイスを食べながら談笑したり、平凡で幸せな日常だった。だけど、平和は一瞬にして崩壊した。
突如として断末魔が響き渡り、僕らはそれが聞こえた方向へ走り出した。そこには全身から火を噴いた人型のバケモノがいて、周囲の人々に火の玉をぶつけては燃やし、殺戮を続けていた。僕らは直ぐにその場を離れようとしたが、バケモノは僕らを異常なスピードで追いかけてきた。
そんなとき、僕は悠長にも母の顔を思い出した。心優しかった母、だけど僕が無力だったために死なせてしまった母。そうだ。小学校の頃の友達も、中学の頃の友人も、全部僕が無力だったせいで救ってあげられなかったんだ。でも今は違う。僕は妻と息子を救える。
僕はバケモノにしがみつき、身体が燃え上がる苦しみを耐えて叫んだ。「ここから逃げろっ!」って。その瞬間、僕の頭の中に色々な思い出が駆け巡った。
あの森、あの路地裏、あの病室。後悔がフラッシュバックする。だけど、僕の心は不思議と満ち足りていた。ごめんな、救ってあげられなくて。きっと今更仕方ないんだろうけど、それでも僕は謝ろうと思う。僕は最後の最後に善人になれたんだろうか。良い人間になれたんだろうか。それはわからない。
だけど、それでも。こんな僕の人生にも何か意味があったなら、ちょっとでも魅力があったなら、僕は最高に幸せだ。
どうかこの人生が、良い物語でありますように。
俺は目を覚ました。目の前には俺の机があった。さっきまでテスト勉強をしていたはずなんだが、どうやら突っ伏して寝てしまったらしい。数学ってのはどうにも眠くなって仕方ない。
それにしても変な夢を見たな、とさっきの出来事を思い出してみる。しかし、あまりにもぼんやりとしていて何があったかは想起できなかった。仕方ない、あれはただの夢なんだから。
風呂から出ると、俺は趣味の怪奇創作サイトを開いた。勉強時間に見合った遊びの時間を取らなければ割が合わない。取りあえず最近投稿された記事の欄を眺めていると、妙に評価が低い記事があった。どれだけ酷いのか見てやろうと俺はリンクをタッチした。
アイテム番号:Scp-1728-Jp
オブジェクトクラス:ketre
特別収容プロトコル:Scp-1728-jpは収容できていません。全職員はscp-1728-Jpを見つけてください。
説明:scp-1728-jpは全身から火を出す人です。非常に敵対的であり、手から放出する火炎弾で人間を焼き殺しあす。また、とても身体能力が通常の人間の5倍あり、IQも999を超えています。
発見理由:scp-1728-jpはショッピングモールで人を襲っていたため財団がそれを知り収容されようとしましたが、逃走されてしまいました。現在までscp-1728-jpは再度発見されていません。なお、scp-1728-jpがショッピングモールにて殺害した人数は、子供0人、男18人、女0人でした。このことから、scp-1728-jpは男のみを殺害するとされています。
これはあまりにも凄惨だ。きっと執筆ガイドどころか通常の記事すら読んでいないに違いない。俺はため息を吐いて、こう呟いた。
「著者は必死に書いたのかもわからんが、この記事には意味も魅力も全くない。フォーマット崩れは消えてくれよ、DV。」
つまらないに掻き消される
僕は平凡な男だった。
1971年の大阪生まれ。父を幼少の頃に亡くし、心優しい母の手で育てられた。父の遺した遺産もあり、人並みに遊んで食べて寝て、何不自由ない普通の生活を送ることができた。僕は反抗期を挟みながらも順調に成長し、母親に似た誠実で穏やかな性格の青年になった。
僕が高校2年生に上がろうとするとき、とある女子生徒から放課後の校舎裏に呼び出された。彼女はひどく赤面しながら、「私と付き合って下さい!」と半ば乱暴な口調で言い放った。それは彼女にとっても、そして僕にとっても人生で初めての出来事だった。僕は少しニヤつきながら、「こちらこそよろしくお願いします。」と告げた。僕もまた、彼女を心から愛していた。
それから3ヵ月。彼の母親が倒れた。末期癌であった。母は「あなたに心配をかけたくなかったの。ごめんなさいね。ごめんなさいね。」と何度も謝ったが、僕は嘆き続けた。自分の命よりも息子の無事を祈る母の気持ちと、そんな母の病状に気づいてあげられなかった自分の愚かさを思うと、僕は嘆くより他はなかった。
僕は医学部を受験することを決心した。ただほんの欠片ほどでも母の役に立ちたいと思った。僕はひたすら必死に勉強をして、そして落ちた。たった5点の差異だった。母は「いいんだよ。あなたが生きてるだけで、私は幸せだ。」と僕に言ったが、それでも僕は自分を呪わずにはいられなかった。そして2ヵ月後に母は死んだ。僕は自分の無力さを恨んだ、呪った、嘆いた。それしかできなかった。
ふと、僕に声をかけた人物がいた。今や僕の恋人となった女子生徒であった。僕はそこでやっと理解した。母の望みは、一心不乱に勉強に打ち込んで恋人らしいことを何一つしてやれなかった僕に、全く呆れもせず着いてきてくれる彼女を幸せにすることだと。
結局、僕は文系の大学を卒業して、彼女と幸せな家庭を築いた。穏やかで幸せな日々だった。3年経つと子供も生まれ、僕は父親としてより精を出して働いた。そんなある日のことだった。
僕は妻と息子と一緒に、とあるショッピングモールへ買い物に来ていた。おもちゃ屋さんに寄って新作のゲームを買ってあげたり、家族三人でアイスを食べながら談笑したり、平凡で幸せな日常だった。だけど、平和は一瞬にして崩壊した。突如として断末魔が響き渡り、僕らはそれが聞こえた方向へ走り出した。そこには、全身から火を噴いた人型のバケモノがいた。バケモノは周囲の人々に火の玉をぶつけては燃やし、殺戮を続けていた。僕らは直ぐにその場を離れようとしたけど、バケモノは彼らを異常なスピードで追ってきた。
僕は母を思い出した。心優しかった母、しかし僕があまりにも無力だったために死なせてしまった母。でも今は違う。僕は妻と息子を救える。僕はバケモノにしがみつき、必死に叫んだ。「ここから逃げろ!」って。その瞬間、僕の頭の中に色々な思い出が駆け巡った。子供の頃に食べた母のおにぎりの味、友達を虫取りした故郷の森、初めて告白された校舎裏、そして母と妻と息子の笑顔。
僕は幸せだった。平凡だけど幸せだった。死因はいささか異常だけど、僕は妻と息子のために死ねて本当に良かった。もし僕の人生に意味があったなら、ちょっとでも魅力があったなら、僕は最高に幸せだ。
俺は目を覚ました。目の前には俺の机があった。さっきまでテスト勉強をしていたはずなんだが、どうやら突っ伏して寝てしまったらしい。数学ってのはどうにも眠くなって仕方ない。
それにしても変な夢を見たなと、さっきの出来事を思い出してみる。しかし、あまりにもぼんやりとしていて何があったかは想起できなかった。仕方ない、あれはただの夢なんだから。時計を見ると針は既に10時を回っており、俺はまだ風呂にすら入っていないことに気づいた。なにはともあれ、俺はまずひとっ風呂浴びることにした。
風呂から出ると、俺は趣味の怪奇創作サイトを開いた。勉強時間に見合った遊びの時間を取らなければ割が合わない。取りあえず最近投稿された記事の欄を眺めていると、妙に評価が低い記事があった。どれだけ酷いのか見てやろうと俺はリンクをタッチした。
アイテム番号:Scp-1728-Jp
オブジェクトクラス:ketre
特別収容プロトコル:Scp-1728-jpは収容できていません。全職員はscp-1728-Jpを見つけてください。
説明:scp-1728-jpは全身から火を出す人です。非常に敵対的であり、手から放出する火炎弾で人間を焼き殺しあす。また、とても身体能力が通常の人間の5倍あり、IQも999を超えています。
発見理由:scp-1728-jpはショッピングモールで人を襲っていたため財団がそれを知り収容されようとしましたが、逃走されてしまいました。現在までscp-1728-jpは再度発見されていません。なお、scp-1728-jpがショッピングモールにて殺害した人数は、子供0人、男18人、女0人でした。このことから、scp-1728-jpは男のみを殺害するとされています。
これはあまりにも凄惨だ。きっと執筆ガイドどころか通常の記事すら読んでいないに違いない。俺はため息を吐いて、こう呟いた。
「著者は必死に書いたのかもわからんが、この記事には意味も魅力も全くない。フォーマット崩れは消えてくれよ、DV。」
君と僕、あの夏の打上花火
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの発生が確認された場合、機動部隊な-2("風情の守護者")により対象及び対象を目撃したと思われる人物にクラスA記憶処理が施されます。それ以外の人物に関しては、後述されるSCP-XXX-JPの記憶改変能力のため特別な処置は必要とされません。
説明: SCP-XXX-JPは、日本国内において7月31日~9月1日にかけて低頻度で発生する異常現象です。SCP-XXX-JPは、以下の条件に該当する男女1組を対象として発生します。
- 両者とも良好な健康状態である
- 両者とも同一の打上花火を直接視認している
- 相互に強い好意を抱いていて親密かつ良好な関係性にある
SCP-XXX-JPの第1段階として、対象は未知の方法で相互の位置を特定し、その時点で最も効率的なルートを使用して互いの距離が1m以下になるよう接近を開始します。接近が完了すると、対象同士は手を繋ぎながら最も付近にある川辺まで移動します。半径3km以内に川辺が存在しない場合、対象はその場に留まります。
第2段階として、対象同士は抱擁を行い「私はあなたに好意を抱いている」という旨の発言を3~5分間に渡り何度か繰り返します。その後、対象は抱擁したまま平均20~30秒程度の接吻を行います。接吻が終了すると、対象は徐々に紅潮するとともに体温の指数関数的な上昇を開始します。
第3段階として、対象の体温が約1700~2200℃に到達した時点で上昇は停止し、同時に対象の臀部から由来不明の火花が噴射します。対象は約360km/hの速度で鉛直方向に上昇を始め、地表から約700m地点に達するとともに認識災害性を持つ強い光と巨大な爆発音を放ちます。これらを認識した人物は、「光と音は打上花火のものである」という形に記憶が改変され、以後いかなる処置を用いてもこの影響を取り除くことはできません。なお、対象自身は記憶改変の影響を受けないことに留意してください。
最終段階として、対象がそれぞれの現住所に不明な方法で瞬間的に移動し、SCP-XXX-JPは終了します。この際、SCP-XXX-JPによる体温の指数関数的な上昇などで受けた対象の身体的な損傷は全て完治していますが、炎上した衣服が復元した事例は確認されていません。
君と僕、あの夏の打上花火
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの発生が確認された場合、機動部隊な-2("風情の守護者")により対象及び対象を目撃したと思われる人物にクラスA記憶処理が施されます。それ以外の人物に関しては、後述のSCP-XXX-JPが持つ記憶改変能力により特別な処置は必要ありません。
説明: SCP-XXX-JPは、日本国内において7月31日~9月1日にかけて低頻度で発生する異常現象です。SCP-XXX-JPは、以下の条件に該当する男女1組を対象として発生します。
- 両者とも良好な健康状態である
- 両者とも同一の打上花火を直接視認している
- 相互に強い好意を抱いていて親密かつ良好な関係性にある
SCP-XXX-JPの第1段階として、対象は未知の方法で相互の位置を特定し、その時点で最も効率的なルートを使用して互いの距離が1m以下になるよう接近を開始します。接近が完了すると、対象同士は手を繋ぎながら最も付近にある川辺まで移動します。半径3km以内に川辺が存在しない場合、対象はその場に留まります。
第2段階として、対象同士は平均20~30秒程度の接吻を行います。この際、対象は周囲の状況による心理的影響を全く受けないことが判明しています。接吻が終了すると、対象は徐々に紅潮するとともに体温の指数関数的な上昇を開始します。対象の体温が約1700~2200℃に到達した時点で上昇は停止し、同時に対象の臀部から由来不明の火花が噴射します。
第3段階として、対象は360km/hで鉛直方向に上昇を開始し、地表から約700mに到達した時点で認識災害性を持つ非常に強い光と巨大な爆発音を放ちます。これらを認識した人物は、「光と音は打上花火のものである」という形式に記憶が改変され、以後いかなる処置を用いてもこの影響を取り除くことはできません。その後、対象はそれぞれの家に不明な方法で瞬間的に移動し、SCP-XXX-JPは終了します。なお、SCP-XXX-JPによる対象への身体的な損害は全く無いことに留意してください。
補遺: SCP-1500-JPにおいてSCP-XXX-JPの発生が確認されました。現在、SCP-XXX-JPの発生範囲に関する議論が行われています。