笑いとは張り詰められていた予期が突如として無に変わることから起こる情緒である。―カント
その部屋には、五人の男の人がいました。
珍しい書籍を詰め込んだ本棚、世にも奇妙な魚たちが泳いでいる水槽、ぞろりと並べられた大小様々な動物の精巧な剥製、怪しげな輝きを放つ世界各地の風変わりで貴重な品々…そこは、ある男の人のコレクションを飾り立てた、“驚異の部屋”でした。男の人は、それらを見せようと、友人たちを招待したのです。
そこに集められた物の中で、最も友人たちの興味を惹いていたのは、部屋の真ん中に座っている、十六歳ほどの女の子でした。
少しばかり色が薄い彼女の右腕は欠けていて、そこからは、何とも言いがたい素晴らしい薫りを放ち、月のように淡く輝く、月下美人のような花が咲いていました。
友人たちは、そのような不思議なものを見るのは初めてでしたし、男の人は、まさにそれを見せるがために彼らを家に招いたのです。彼らはその子をじろじろと見ては、綺麗だ、美しい、と褒め称え、その度に女の子は微笑を浮かべました。
さて、男の人たちは、ワインを空け、グラスを手にとって、様々なことを語らいました。女の子は、窓の外に見える月をぼうっと眺めていました。
すると、どういうことでしょうか、部屋にあった鳥の剥製のひとつが、小刻みに震え始めたのです。
そして、唐突に綿を詰め込まれた翼をばさりと広げ、かつての獰猛な心持ちを思い出したかのように浮き上がると、持ち主である男の人目掛けて飛びかかりました。
爪が眼に食い込んで、左の目玉がずるりと出てきました。剥製は男の人の頭をつつき、彼の髪の毛や頭皮を喰い破り、ピンク色の脳をあたりに撒き散らします。
男の人は、ふらふらと歩きながらも、
「きいきい、きいきい、聞こえるか!?ご覧、ご覧、ご覧あれ!ほら、多くの鳥が鳴いている!多くの鳥が叫んでいる!空に歌い、地を蹴り、ああ、しかし!今の彼らを聞こうではないか!彼等には声がない、羽根がない!刀を加えても、これでは誰も悲しまない!」などと、あらんかぎりの大声で叫んでいます。
友人たちは、この残酷かつ不気味で意味のない出来事に、ただただカタカタと身を震わせ、腰も抜けて、事の成り行きを見守るしかありませんでした。
女の子は、視線を男の人に向けましたが、怖がりもせずに黙って座っていました。
不意に、水槽の中から、白黒のウイングチップの靴とロイヤルブルーのスリーピース・スーツを着用した、顔が影で隠された男の人が現れました。
そのせいで、何匹かの魚は床に落ちて、力なく跳ねています。
「微笑もう、そして笑おう!」とその人は言って、本棚に隠されたカメラを示します。
すると、友人の人達は、「なあんだ、ドッキリ番組か」と納得し、ある人などは、突然登場した有名人にサインをねだりました。
それから、皆で、血を流している男の人も一緒に、笑いました。
なぜかって?そのドッキリが余りにも手が込んでいたからです。
……ほら、まだ男の人は脳漿を垂れ流してる。
「『剥製』! 動物の皮をしっかり乾かして、中に芯を入れ、あたかも生きているかのように見せられた……死体さ! みんなはこれらを単なる物言わぬ隣人と思っているんじゃないかな? それは間違いだ! それらはバッチリ動くし、もちろん、笑いの種になる! ほら、こんな風に! 笑えないことなんてないんだ! そういうことを伝えるために僕らはここにいる! だから、みんな! 笑おう! 笑うってのは良いことだ!みんなで一緒に……」
〆の台詞を中断して、男の人……ラフィー・マクラファーソン氏は、部屋の真ん中に座る、花を生やした少女を見ました。
彼女は、ちいっとも笑っていなかったからです。微笑みの一つすら浮かべていませんでした。
「……麗しいお嬢さん。 どうして笑ってくれないんだい?」
その言葉に反応して、女の子は微笑みました。しかし、それが『麗しい』という言葉のせいであることは、マクラファーソン氏にははっきりとわかりました。
笑ったことはあるかい?氏はそう訊ねます。よくわからないわ、と、女の子は答えます。
「……しあわせ、というのはわかります。 わたしが、うつくしい、と思われること。 ……でも、笑う、というのは……ううん。 ちっとも、ちっとも、わかりません」
たどたどしく、少女は話します。しゃべる、ということは、自分にとってふさわしくないことだ、と彼女は思っていました。
マクラファーソン氏は、つかつかと女の子に歩み寄り、両方の人差し指で、彼女の頬っぺたをくいと上げました。女の子は、今までそんなことをしたのは一度もなかったので、何だかヘンテコな表情になってしまいました。
「うん、うん。変わったヒトだね、君は。でも大丈夫だ!必ず君を笑わせてあげるよ!誰にだって笑う権利、いいや!義務がある!愉快なものを見て、思いっきり笑うっていうね!それは人間には、否、ヒトの形をしたものにはすべからくあるものだ!次こそは君も笑って、僕らと一緒に笑ってくれるだろう!」
それから、マクラファーソン氏はカメラに向かって一礼しました。
男の人はいなくなってしまって、二重螺旋のマークをつけた人達が、彼女を部屋から別のところに連れ出しました。
その人達は、日本生類創研で働く人たちで、女の子は、その企業の用意した収容施設に入れられました。
そこにも、マクラファーソン氏は現れました。
『電灯』をテーマにした、胎児が交尾をしながらロナルド・レーガンによく似た腫瘍をフラクタル状に発達させ、「この壁を壊しなさい!」という有名な演説をパッヘルベルのカノンに乗せて唄う、というドッキリは、日本生類創研の人々を大いに笑わせました。
しかしながら、女の子は、少しも笑いませんでした。
そのあと、職員の変死と失踪、それに関係していると思われる奇妙な男に気付いた彼等は、すぐさま彼女を施設から追い出しました。
厄介事の処理を、財団に任せることにしたのです。
そういうわけで、彼女のいる財団の標準ヒト型収容ユニットにおいても、ドッキリが開催されました。
テーマは、『怪奇部門』。
ユニットに出現した、“緋色の七”というプラカードが貼られた扉を開くと、そこには偽物の処置110-モントークを幾度となく受ける、偽物の緋色の王がいました。博士たち、エージェント、機動部隊隊員、Dクラスはゲラゲラと笑いました。
偽物の処置110-モントークがとっても滑稽だったからです。
でも、それを見ても、やっぱり女の子はくすりともしませんでした。
財団は、女の子をより一層深いところに隔離しました。自分達の足元で、残虐なSkipが我が物顔で悪事を働くのが許せませんでした。
精神の安定のためにかけられる、容姿に関する無数の称賛の言葉を聞いて幸福感を感じること以外に、女の子のするべきことはありませんでした。
さて、マクラファーソン氏は、その日の別の収録を終えました。『シルクロード』が、そのビデオのテーマでした。
ひたすらに伸ばされた老婆の銀色の髪の毛の上で、特別な相手、ちっとも笑わない女の子のことを彼は考えます。
彼女を何としてでも笑わせなければならない、と彼は固く決意していました。
一瞬の出来事でした。美しく輝く花を持った女の子は、カメラにも映らぬような刹那の間に、収容ユニットからいなくなっていたのです。
さて拐われた女の子は、いつの間にか目隠しをされていました。しかし、彼女は動揺していません。平然とその目隠しを取り外し、辺りを見渡しました。
そこはジャングルでした。熱帯の蒸し暑い、大きな木々の隙間というべき場所でした。
少女は眼を見張りました。
その空間一体に、己の右腕に生えたものに良く似た花たちが咲き誇り、素晴らしい芳香を漂わせていました。
ジャングルの黒々とした樹木の遥か向こうには、数え切れないほどの星が、彼女の花のように輝いていました。
ずうっと部屋の中にいた彼女にとって、初めて見るものが溢れていました。
その幻想的な光景の中で、女の子はあるものに眼を留めました。
それは、足元にいた蟷螂です。蟷螂は、その大きな、しかし人からしてみれば小さな鎌で蛾をむんずと捕らえ、頭をかじっているのでした。
そして、少女の視線に気が付いたかのように、首をかしげるような仕草をしました。
女の子はかがんで、その捕食活動をじいっと見つめました。
蟷螂はちまちまと、蛾の頭から流れ出る透明な血液を啜っています。顎でその肉を砕き、咀嚼し、貪るのです。賤しく、無心に、ただ餓えを充たすことに対する、深く、真摯な、無意識の喜びをもって……。
後ろの木陰から出てきたマクラファーソン氏にも全く気付かずに、少女はそれを眺め続け……突然、笑いだしました。
蟷螂が生きてそこにいる、それだけのささやかなことが、とてつもなく愉快でたまりませんでした。
……それは、とある哲学者が、歪な木の根の存在に吐き気を覚えたのと、同じようなことです。
……それは実に奇妙な笑いかたでした。マクラファーソン氏だって、涙を流しながら、嗚咽の混じった奇声を上げ、腹をよじって笑う人を、そうたくさん見たわけではありません。
……もちろん、彼女が笑ったのが、これが初めてだったから、こんな不思議な笑いかたになってしまったのです。
「あはは……これが、笑うってこと、なのね」
発作が終わった女の子は、花を傷つけないように、そろそろと立ち上がりながら言いました。その言葉は、いつにもましてふらついていました。
「あはは、ええと、こういうのを、おかしい、とか、ユカイ……って言うの?」
その問いに、顔の見えない男は頷きます。男は、笑顔です。
「ユカイ、ユカイ。みんな、こんなふうに生きてるってことなのね。生きているって、こんなにもおかしくって……こんなにも、笑えることなのね。ほんとうに、ほんのちょびっとだけ、花にはわからなかった、動いているヒトのこと、それがわかったわ」
やあっとわかってくれたようだね。 黒いスーツの男は、笑顔のまま、彼女に語りかけました。
「『生きる』ってことをテーマとするドッキリ、よかっただろう? そう、こんな風にさ、生きるってことは、とんでもなく滑稽で、笑えることなんだ。 人間にとって、いいや! この宇宙に在るすべて存在にとって! ……だから、一緒に笑ったことを、笑顔を忘れちゃダメだよ!僕たちと一緒に笑ってくれて、本当に本当にありがとう!綺麗な綺麗な、生きている君よ!」
それを聞いた女の子は、心の底からにっこりと笑いました。
さて。
翌日、床に横たわって冷たくなっている、ヒトのふりをしすぎた植物の女の子……SCP-1027-JPの一個体が、収容ユニットから回収されました。
顔にまだ笑みを残したその死体をどう処理しようか、財団の職員たちが決めあぐねている間に、いつの間にかそれはなくなっていたとのことです。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1及びSCP-XXX-JP-2はカバーストーリー”崩落の危険”の元、財団によって封鎖されます。近隣の監視施設には警備員3人が配備され、関係者以外の侵入を防止します。
SCP-XXX-JP-Aはサイト-8141の標準人型実体収容室に収容されます。実体が協力的な態度を示した場合には、審査の後、嗜好品などが支給されます。1日につき5時間ほど、2000ルクスの光を照射し、定期的に給水を行ってください。実体の食糧についての研究が進行しています。研究が完了するまでの間、担当者はSCP-XXX-JP-Aの経過観察を行い、空腹を訴えるなどの実体の異常な振る舞いが確認された場合、研究主任である阿賀場博士に連絡をして下さい。
説明: SCP-XXX-JPは異常性を有する、██県に存在する旧████学園校舎です。████学園校舎は5棟が放射状に並べられて存在しており、その性質の違いから、普通教室棟、体育館、講堂、図書・資料室棟の4つの校舎はSCP-XXX-JP-1に、実験教室棟はSCP-XXX-JP-2に指定されています。
SCP-XXX-JP-1内部には空間異常が発生しており、内部の光度は窓からの採光とは無関係に常に2000ルクスを保ち、温度は平均30℃で一定しています。これらの異常性は、校舎の壁で仕切られた境界内の区画でしか作用していません。建造物の建材は内部の特徴のために異常な耐性を有しており、財団の保有する非異常的な道具では破壊できませんでした。唯一、校舎の正面玄関のみが外部からの力により開けることが可能であり、それ以外の窓や非常口からの侵入は不可能です。
SCP-XXX-JP-1内の各所には腐葉土壌(調査により、市販のものと一致していると確認された)が散布されており、キキョウ(学名Platycodon grandiflorus)やハクチョウゲ(学名Serissa japonica)などの五枚の花弁を持つ植物種が自生しています。これらの植物からは、異常性は確認できませんでした。また、植物を養育するために、各校舎の水道には、屋上の雨水集積装置と連結したスプリンクラーが多数設置されています。図書・資料室棟においてのみ、ユリ科の植物が多量に確認されました。
SCP-XXX-JP-1内でヒト女性が特定の儀式を行うことにより、SCP-XXX-JP-Aへの変形が発生すると考えられています。儀式の実行は倫理委員会により差し止められています。発見された資料などから纏められた儀式の過程は次のようになっていると考えられます。
1.レンガを用いて、炉のついた祭壇を組み立てる。
2.炉に火をともし、バイカルアザラシ(学名Pusa sibirica)のひげ5つを燃やす。
3.頭を大地に伏せ、[編集済]と5回唱える。
4.煙を消し止める。
5.対象、ないしは対象の母親の子宮を[編集済]。これは対象の手によって行わなければならない。
6.以上の行為を夜間に行う。
SCP-XXX-JP-Aは、SCP-XXX-JP-1内に存在した4体の実体です。上述の儀式によって変形した████学園の生徒であると考えられています。実体は人間型ですが、腕部、両肩部、胸部から、上皮構造から発芽したとみられる形で多数のユリ科(Liliaceae)の植物に酷似した器官が生成されており、また、膝関節よりも下の脚部はユリ科植物種の根に変化し、校舎の壁や床に癒着するようにして張り付いています。”球根”部分は確認されていません。
実体群は人間的思考力や発話能力を有していますが、一切の食糧を取ることができません。実体へのインタビューを鑑みるに、SCP-XXX-JP-Aは不明なプロセスにより、体表の植物群を介した光合成のみによって生存しているものと考えられます。実体の根の深さのため、SCP-XXX-JP-Aの回収は困難となっています。奇跡論式掘削機の投入により完遂されました。現在、すべての実体はサイト‐8141に輸送され、同所で管理されています。
追記:サイト‐8141にて、SCP-XXX-JP-A体組織の一部を解剖したところ、植物に見える器官からは、水管や骨片などの棘皮動物によく見られる特徴が確認されました。逆に、ユリ科植物が持つと考えられる組織は発見されていません。DNA鑑定の結果、ウミユリ綱(Crinoidea)に似た遺伝子を持つことが判明しました。実体が光合成を行っている可能性は否定されました。収容プロトコルは変更されます。
各実体へのインタビューログは以下のものを参照してください。
対象: SCP-XXX-JP-A-1
インタビュアー: エージェント・山城
<録音開始, [2019/02/20]>
エージェント・山城: こんにちは、█ ██(SCP-XXX-JP-A-1の本名)さん。
SCP-XXX-JP-A-1: あの、エージェントさん。私はいつになったら……私の家に帰れますか?
エージェント・山城: ……正直に言いましょう。わからない。君たちの異常性も、どうやったら元に戻るかも、全くわかっていません。
SCP-XXX-JP-A-1: ……(対象はうつむき、沈黙する)
エージェント・山城: こちらでも、君たちが元の姿に戻れるよう、研究を続けています。…今日、君に聞きたいのは、あの学園で行われていた儀式について、なのですけれども。
SCP-XXX-JP-A-1: (対象はエージェント・山城の言葉を遮り、大声を出した。)知りません!何があったかなんて、全然知りません!巻き込まれただけなんです!なんで私にできるんですか!そんな[削除済]みたいなこと!私はただ普通に過ごしてただけなのに!なんで!
エージェント・山城: すまない。落ち着いてください。
SCP-XXX-JP-A-1: ……はい。ごめんなさい。……でも、儀式の事については、本当に私は何も知らないんです。信じてください。お願いします。
エージェント・山城: じゃあ切り口を変えましょう。生徒たちの失踪が報告されたとされる2月12日の事について、何か覚えていますか?
SCP-XXX-JP-A-1: うーん。確か、こんなの(植物状器官のこと)をはじめて見たのは、朝の事だったと思います。その前の日は、普通に授業を受けて、部活に出て、家でご飯食べて、普通に過ごしてから寝た、と思います。いつも通りに、当たり前に暮らしてたのに……。
エージェント・山城: その後、目覚めた時には教室にいたんですね?
SCP-XXX-JP-A-1: そうです。起きたら、いつの間にかあそこにいたんです。なんでそうなったのか、私にはさっぱりわかりません。早く……家に帰りたいです。皆さんがよくしてくれてるってのはわかるんです、でもここは怖い……。お母さんとお父さんの顔が見たいんです。
<録音終了>
補遺: SCP-XXX-JP-A-1の家族は、現在のところ発見されていない。
対象: SCP-XXX-JP-A-2
インタビュアー: エージェント・水島
<録音開始, [2019/02/22]>
エージェント・水島: ██ ██(SCP-XXX-JP-A-2の本名)さん?落ち着きましたか?
SCP-XXX-JP-A-2: 落ち着けると思う?あんなバカみたいな機械で図書室をぶっ壊したアホ共に連れ去られて?しかも██(SCP-XXX-JP-A-3の本名)を私から引き離す。いい加減にして。で、何?私はアンタ達にバラバラにされてホルマリン漬けにでもなるの?
エージェント・水島: あなたが行儀良くしてくれるのならば、我々はあなたを尊重します。その逆も然りです。
SCP-XXX-JP-A-2: フン。[罵倒]。アンタ達もあいつらと一緒よ。██はそのせいで飛び降りまで考えてたのに。いい?あの図書室はあの子のための場所だったの。それを好き勝手に滅茶苦茶にして……。あの子には私がいるし、私にもあの子が必要。どこかに飛んで行ってしまわないように、キッチリと手をつなぎたかったのに。そのために花園を作ったのに、アンタ達が……。
エージェント・水島: ここに造ればいいのではないでしょうか?
SCP-XXX-JP-A-2: [罵倒]![罵倒]!
エージェント・水島: ……未来のことを考えましょう。尊重する、ということは、例えば、あなたと██さんが交流できる機会を増やす、というような事でもあります。それとも、多大なリスクを払って彼女と駆け落ちしますか?私は推奨しませんが。
SCP-XXX-JP-A-2: ああそう。じゃあやらせてもらうわ。██のためにね。(以後、対象はすべての質問に対して無反応だった。)
<録音終了>
補遺: SCP-XXX-JP-A-2の2回の収容違反の失敗の後、SCP-XXX-JP-A-2とSCP-XXX-JP-A-3の面会が一週間に一度許可された。面会の習慣化とSCP-XXX-JP-A-3の説得の後、SCP-XXX-JP-A-2の収容態度はやや軟化した。
対象: SCP-XXX-JP-A-3
インタビュアー: エージェント・秋野
<録音開始, [2019/02/23]>
エージェント・秋野: おはようございます。調子はいかがですか?
SCP-XXX-JP-A-3: 普通。██(SCP-XXX-JP-A-2の本名)は?
エージェント・秋野: 機嫌は良くないようですけども、元気ですよ。
SCP-XXX-JP-A-3: よかった。でも、たまには会いたい。
エージェント・秋野: 了解しました。上に通達しておきます。話は変わりますが、どうしてあの儀式に参加したのですか?
SCP-XXX-JP-A-3: ██がやるって言ったから。
エージェント・秋野: なぜ彼女に従ったのでしょうか?
SCP-XXX-JP-A-3: 私の手を取ってくれた。
エージェント・秋野: そうですか。では、消えた生徒の方々について何かご存知ですか?
SCP-XXX-JP-A-3: 知らない。██以外の人なんていたの?私には何も見えなかった。
<録音終了>
対象: SCP-XXX-JP-A-4
インタビュアー: エージェント・潮路
付記: 実体は収容室の床で五体投地に似た姿勢を取っており、強い恐怖、怯えの感情を示していた。
<録音開始, [2019/02/21]>
エージェント・潮路: おはようございます、██ ██(SCP-XXX-JP-A-4の本名)さん。どうして怯えているのですか?何を怖がっているのでしょうか?よろしければ聞かせてもらいたいのですが……。
SCP-XXX-JP-A-4: 失敗した。失敗した。
エージェント・潮路: 何に失敗したのですか?失敗をしてしまったことが恐怖の原因なのですか?
SCP-XXX-JP-A-4: 私は取り残された。こんなはずではなかったのに。…私も、図書室の蒙無き輩、進化を解しない愚か者の同類だった。[不明瞭な発音]に見捨てられた。
エージェント・潮路: ██(SCP-XXX-JP-A-2)さんと██(SCP-XXX-JP-A-3)さんの事でしょうか?
SCP-XXX-JP-A-4: あの二人は皮相的にしかものを見ていなかった。くだらない些事のために力を行使した。それ故に[不明瞭な発音]選ばれなかった。更なる愚か者は認識ごと貪られた……何も残っていない。ざまあみろ。(対象は数秒間沈黙する)でも、でも。私はどうして選ばれなかった?
エージェント・潮路: 何に選ばれるのか、私に説明できますか?
SCP-XXX-JP-A-4: お前らに言って、それでどうなるっての?何が変わる?
エージェント・潮路: 我々は貴方たちのような異常存在を多く収容し、ある程度理解しています。『なぜ選ばれなかったか』を解明することは出来るかもしれません。
SCP-XXX-JP-A-4: (対象は25秒の間沈黙する)[不明瞭な発音]よ。……”アルコーン”の一つ、と言えば通じる、かもね。彼らは空の果てから来て、私らを撫でる。そのうちの理性在るもののみが、煙となって上昇する。そう教わった。……じゃあ私は一体何なの?私はその手を、五本の指を見ることすらできずに、大地に磔になった。もっと高く飛びたい、ここではないどこかに行きたいって、そう願ったのに。
エージェント・潮路: ふーむ。では、貴方がその”アルコーン”なるものを知ったのはいつでしょうか?どのようにしてそれと関わってきましたか?
SCP-XXX-JP-A-4: 傍目には、████学園で出会ったように見えると思う。でもそれは間違いで、実際には生まれる前から私はアルコーンと共にあった。このことを論理的に示すのは難しいけど、でもそういうことになった。私のからだと同じように、私の記憶も情報の列であって認識の流れなんだから、[記述不可能]の触手を伸ばせばいくらでも変容させられる。彼は私たちの祈りに応じてくれた。そう思っていたのだけど、違ったのかな。ちゃんと声も届いていたのに。何がいけなかったんだろう?
エージェント・潮路: 貴方たちが変容したのはあの場所での儀式によるものであると考えていますが、そのことについては何かわかっていることはありますか?
SCP-XXX-JP-A-4: ……儀式は、私たちを[不明瞭な発音]世界へ導くためのものであった。断じてこんな姿になるためのものじゃなかった。私たちは目を閉じ、耳をふさいで、暗い宇宙にチャネリングし、[記述不可能]の輝きを感じる……そういうものであったはずよ。飛翔感はなくって、ただ沈み込んでいくような感覚だけがあった。そうしたら……体から……こんな……[不明瞭な発音]外面ばかりをまねたような……(対象は取り乱し、床にうずくまる。医療班が収容室内に入り、鎮静剤を注射する。)
<録音終了>
████学園は、2019/02/12までは通常通り、女子高等学校の校舎として使用されていたと考えられます。2019/02/13での、保護者による学園生徒の集団失踪届を受けた警察の調査によって異常性が発覚し、その後財団により収容が確立されました。関係者にはクラスB記憶処理とカバーストーリー”修学旅行先での大規模事故”が適用されました。
追記: 財団記録部門の調査により、保護者であるとして記憶処理された人物のうち、おおよそ半数が記録上存在しているのみであったか、無関係の人物であったことが発覚しました。同部門は、この出来事の原因について調査を行っています。
その後の財団による調査により、以下の物品が校内から発見されました。これらから、異常性の発覚前から何らかの異常存在、ないしは異常現象の封じ込め違反が学園内部で発生していたと考えられています。SCP-XXX-JP-Aでない生徒と教職員███人の行方はまだわかっていません。
天文学:星々の記録 一部抜粋。一般に販売されているものとは大きく異なる内容。
あなた方は感じているでしょう。星がどのように動いているか、そして叫んでいるか。我々は知るべきです。星がどのように動き、らとぉるしているのか。[データ欠落]はくるくると回っています。あなた方の心に願いを秘めてください、そして沈黙しなさい。星々について考えを巡らせ、囁きあいましょう。けれども、箱の鍵はしっかりとかけておきなさい。願いは錨となるでしょう。
数学2B 更なる理解へ:第五版 序文より一部抜粋。上と同様に、一般に販売されているものとは大きく異なる内容。
時は来ましたか?さあ手を握って、暗闇を作りましょう。星々が、我らの祖先の単細胞生物が、そして貴方の母親の子宮がそうであったように、すべては闇から生まれました。そして、暗闇の内に我らは去っていきます。怖がることはありません。架空であったものは肉を経て、更なる架空になります。我らも[データ欠落]。これは同じですが…残念なことに、そこには煙はありません。我らは[データ欠落]に隠されます。ぷるんでら・そ・せえあきっく。瞳を閉じて。貴方の魂は腐っていきます。だからこそ、加工が必要なのです。朝照ではありえません。夕暮れです。
一部が復元されたメール 校舎内のコンピューターから発見された。
To:████████@gm█il.com
From:████████████████████@yah█o.co.jp
件名:懸念事項
本文:非常に難しいことになっているのはわかっている。しかし、お前には伝えなければならない。
新██ 設█、彼は危険だ。
あの男をオレは知ってる。彼がどこから来たのかは知らんがな。あの蛇たちの図書館か、鉄嫌いの妖精たちの森か、我らの友たる五番目の財団か、あるいはそのどこでもないか。しかし、彼が何をしているかは知ってる。彼は親切から[データ欠落]。[データ欠落]しかし[データ欠落]と言えるな。私は彼のことがとても気にかかっている。彼の親切が落下を妨げるかもしれない。
にもかかわらず、お前は彼に対して妙な感情を持っていないか?これ以上の逸脱を示すのならオレは出ていく。
To:████████████████████@yah█o.co.jp
From:████████@gm█il.com
件名:安心してください
本文:大丈夫です。[データ欠落]の選別も済みました。何の問題も起きていません。彼女らの欲望は重い。平穏を求めるあまりに家族を置き換えた子もいます。安息を求めるのも我らが本質であり、ゆえに暗い。更に驚異的なことに、巫女二人の影の友それぞれが自我を持ちました。海百合が我らを見ておられる証拠ですよ。一人、真に第五的な子もいましたが。彼女の道と我らの道は一致しないでしょう。残念なことです。
彼に関しては、ええ、難しいところです。確かに彼のことは気になっています。なぜ彼はあのようなことをしているのでしょうか?彼と私らが見ている所は同じであるように思えます。しかし、何かが違う。もっと彼と話してみます。
日記帳 一部抜粋。ロッカーから発見された。行方不明になった生徒のものであると考えられている。
9/27
(省略)
10/15 心理学の授業。カウンセラーの彼は熱心に話すものなのか。子供の自我発達期の環境応答の一つとしてのイマジナリー・フレンドと、[データ欠落]が及ぼす影響、忘れ去られたそれらの虚構について。[データ欠落]。[データ欠落]はまだこの学校にもいるという。
(省略)
2/12 2+1+2=5。理解した。イマジナリーフレンドが、誰のためのものだったのか。
走り書きのメモ 土壌の中から発見された。
奴はもうだめだ。あの男に骨抜きにされてる。本人は否定するだろうがな。
何のためにここを選んだのか忘れていやがる。星型の校舎構造が大事だったんだろうが。
アイツはいつも保健室通いだ。大の男が、阿呆らしい。
オレは抜ける。
回収された音声記録 校舎内において発見されたスマートフォンからサルベージされたもの。
男性の声: こんにちは。今日はどんな要件なんだい?
女性の声: ……私たち、結構長い付き合いになってますよね。
男性の声: うん、そうだね。君が転校してから、ええっと、9か月ぐらいは経ったんじゃないかな。
女性の声: 先生、どうして私を見ないんですか?
男性の声: うん?私は、ちゃんと見ているつもりだが。
女性の声: 嘘だ。(声の主は突然に取り乱す)[不明確な音声]!いつもあの百合ばかりを見て!どうして!
男性の声: 彼にはちょっとした縁があってね。魂なき輪の内で袖すりあって、それで様子を見に来たのさ。しかし、なかなか彼が顔を出してくれないせいで、思っていた以上の長丁場になってしまった。……影法師とはいえ、彼も子供だからな。子供にはなるべく親切をしようと思っているが、なかなか難しい。
女性の声: ……そうだとしても。
男性の声: 何だい?
SCP-XXX-JP-2は████学園の旧実験教室棟です。SCP-XXX-JP-2内の空間では、温度は1.5℃前後、日射量はほぼ0ルクス、気圧は300気圧という値を常に示します。これらの特徴が深海で観測される値に近いことは留意するべきです。これらの異常性は、SCP-XXX-JP-1と同様に、校舎の壁で仕切られた境界内の区画でしか作用していません。SCP-XXX-JP-2内部には、多数のボイスレコーダーが散乱しています。これらは、周囲の異常環境にもかかわらず、完璧に作用します。ボイスレコーダーの解析は進行中です。
補遺: [SCPオブジェクトに関する補足情報]