書きかけ
これはただのレポート用紙である。
何の変哲もない、レポート用紙である。
このレポート用紙は厚みから枚数は300枚程度と推測されている。
しかし度重なる実験で被験者がいくら書いても埋まる事はなく。
被験者が開く頁はまばらであり、また開かれた頁は何も書かれていないことが確認された。
このレポート用紙を認識した瞬間から被験者はひたすらにレポートを書き続けるようになる。
被験者が意識を失うまでこの行動は続き、またその間の記憶を被験者は所持していない様子。
この場合の意識を失うとは、被験者が睡眠不足や空腹により気絶する事を指す。
またレポートに取り付かれる被験者にも一定の基準があり、
すでに睡眠不足、空腹状態にある被験者はレポート用紙を見ても何らかの反応は見られなかった。
対象を間接的に見る事は可能で、現在は被験者によって書かれたレポートは監視カメラによって常に確認されている。
レポート用紙に書かれた内容は被験者の傾向や知能指数に関わらず、….や….など、実際に学会に発表されたものもある。
[実験1]
被験者を2名用意。
被験者Aにレポート用紙を視認させ、レポートを書き始めた後、被験者Bにそのレポート用紙を取り上げさせる。
結果、被験者Bは被験者Aの書いていたレポートの続きを書き始めた。
被験者Aは意識不明、現在に至るまで回復の兆しなし。
[実験2]
レポートに火を放つ。
結果、一時はレポート用紙も灰と化したものの、暫くすると時が戻るかのように再生した。
同様に灰を別の場所で密閉保管したが、灰は壁をすり抜けて、燃える前に置かれていた机上に戻っていた。
[参考]
これは、以前このレポート用紙を担当していた….氏の殴り書きである。
いつかこのレポート用紙にも終わりが見えるかもしれない
何千、何万もの被験者が書いたレポートがこのレポート用紙から溢れるかもしれない
最後の被験者がこのレポート用紙に取り付かれて、開いた頁が文字で埋め尽くされていたら
このレポート用紙は死ぬのだろうか
現在、….氏は行方不明で、遺体も発見されていない。
…./../.. ..:..、監視カメラに映ったのち、その姿は確認されなくなった。
「何処か(ドコカ)」の部屋に通じる扉と、部屋の中にいる「何物か(ナニカ)」
扉の材質は木製のように見えるが、燃えたり破損したりすることはない
また部屋内でのGPS等による座標の特定は不可能
部屋内は6畳程の白い壁に囲まれた空間、窓はなく、見えているものは扉のみである
被験者が部屋に入った際、全員が「視線を感じる」と発言していた
中でも数名の被験者は「壁、扉以外の何かに触った」と発言している
赤外線カメラ、その他手を尽くしたが、部屋の中の物は確認出来ず
見た目はゴキブリ、動きもゴキブリ
現時点でオリジナルと呼ばれる個体は2匹存在する。
オリジナルが人の視界に入ると、99匹の分裂体が半径100m内のどこかに現れる。
オリジナル、分裂体共に生殖能力はなく、また一向に寿命で死ぬ気配は見られない。
分裂体は物理攻撃や毒などで退治可能だが、現在オリジナルを退治する方法は見つかっていない。
オリジナルは破損しても頭を中心として再生していき、頭のみとなっても約1分で完全に再生する。
[実験1-a]
頭を中心として再生しているので、頭を半分に分けて経過観察する。
どちらかの頭は再生せず、片方の頭のみが再生することが確認された。
再生しなかった頭は再生したオリジナルが食したことを確認。
[実験1-b]
上記の実験に加えて、再生しなかった頭をオリジナルに食われないように密閉容器に入れ、隣の部屋に置く。
オリジナルは暫く頭を探している様子、頭を置いた隣の部屋の壁に張り付いていた。
頭の方は3日後、密閉容器から忽然と消えた、監視カメラにも確認されている。
[実験1-..]
..回目の実験。
今までのとは違う反応が見られた。
どちらの頭も再生を初め、共にオリジナルとしての性質を持つ2匹となった。
その人が最も会いたい人間に化ける、写真では痩せた少女のような影が映っている。
危害を加える事はなく、収容所でもとても大人しい。
人と会話するのが好きなのか、職員を見ると近付いていく様子が見られる。
「箱」は7㎝の六面体、側面は全て黒く塗られている。
この箱は物をすり抜ける事が出来るが、時速1㎜と動きは遅く、監視さえしていれば脱走の心配はない。
物理的干渉によって箱の移動は可能であるが、重力の影響は受けないのか、空中に留まる事を確認している。
[耐圧実験]
現在20tまで耐え切る事を確認。引き続き調査が必要。
[掘削実験]
世界一固いとされるウルツァイト窒化ホウ素を使用。
1日掛けて掘削作業は行われたが、共に削れることはなく、掘削失敗。
現状不可能とされる。
最近発売されたPlayStationVR。
友人の口車に乗せられ、流行気取りに買ってみた。
とりあえず操作に慣れる為に体験版のタブを見る。
色々なゲームの情報が流れる中、一つ目に留まったものがあった。
「死~体験版~?」
どうやら臨死体験が出来るゲームらしい、こんなものもあるのか。
興味本位で僕はそのゲームのアイコンを選択した。
最初に見えたのは向こう岸の見えない川だった。
川を渡る橋の前には、一本の木と一人の老婆が。木には沢山の衣服が乾かされている。
恐らくこれが三途の川と奪衣婆なのだろう。中々に忠実である。
…僕は奪衣婆に服を剥ぎ取られた。ここはそこまで忠実でなくてもいいと思う。
橋を渡り終えると、豪華な寺院に通される。
法廷を思わせる造りから見るに、閻魔裁判が繰り広げられる場所なのだろう。
僕の思った通り、恰幅のよいおじいさんが中央の席に着いた。
「これより、裁判を始める」
閻魔大王が懐から巻物を出し、それを読み上げる。
「お前は昔、犬を虐めたそうであるな」
閻魔大王に言われてふと思い出す。僕が一度だけ蹴ってしまった犬。
昔っから僕にばかり吠えて、ある日飛び掛かってきたから、思わず足が出ちゃったんだっけ。
故意だったわけではないが、虐めたようなものである。僕は肯定の意を示した。
「では判決を下す、お前は―――」
「…」
画面が真っ暗になった。
どうやら体験版ではここまでらしい。目の前に本編購入画面が表示されている。
自分で思った以上に話に引き込まれていたらしい。
正直こんな気になる所で止められるとは思っていなかった。
続きが気になる、そんな思いで購入画面に進む。
本編のダウンロードが始まった所で、値段を確認していない事に気付く。
場合によってだが、今月は苦しくなるかもしれない。
「…値段が、ない?」
いくら購入画面を見返しても、そこにあるのは\しか表示されていない。
バグか何かなのだろうか、後で報告しておかなければ。
まあ高々ゲーム1本、そこまでお財布がダメージを受ける事もあるまい。
明日には友人にVRの感想でも伝えなければ―――
そこで、僕の意識は途切れた。
オリジナルの、と言うより昔出してたネタの書き直し。
たまに新規だったり。
猿夢、と言う怪談話を知っていますか。
電車の中で乗客が一人ずつ殺され最後には自分が殺されてしまう、そんな夢を見た人のお話です。
僕はその、猿夢と逆の夢を見る。
つまり、電車の中で人を殺し続ける夢を見ているのです。
活け造り、抉り出し、挽肉、…様々な殺し方を実行してきました。
どんなに人を殺したくないと思っても手は勝手に動きますし、
夢から覚めたいと願っても朝が来るまで目が覚める事はありません。
例え夢であっても人を殺している事実に、僕は段々と塞ぎ込むようになっていきました。
そして夢で人を殺す事に耐えられなくなった僕は―――
―――気が付けば、僕は電車の中にいました。
猿夢の中の乗客側に、僕はなってしまった。
背後からは、あの、恐ろしいアナウンスと乗客の悲鳴が聞こえてきます。
僕のすぐ後ろの乗客が、首を絞められて悲鳴をあげる事なく殺されていきました。
次は、僕の番です。
死にたくない、夢から覚めたい、僕は殺されたくない一心でした。
しかし無情にも夢は一向に覚める気配もなく、かといって僕を殺すアナウンスも聞こえてきません。
僕が恐怖に身を強張らせてどれくらいの時間が経ったのでしょう、静かな声が車内に響きました。
“これで少しは懲りただろう、自殺なんてやめてくれよ?”
目が覚めると、僕は病院のベッドの上でした。
僕が落ちたビルの下に植え込みがあり、奇跡的に助かったそうです。
もし僕が死んでしまっていたら、あの電車の中で殺されていたのでしょうか。
夢の中で殺される恐怖か、人を殺す罪悪感か、選ぶのは簡単でした。
僕は怖かったんです。
電車の中で何をされるか解らない、もしかしたら永遠に苦痛を与えられるかもしれない。
僕は夢から逃げて自殺する事も出来なくなってしまった。
そして、今日も僕は人を殺す。
私、運命の人に会ったの。
ついこの間捨てられちゃったばかりだけど、この人に会えたからむしろ幸せ。
会えるのは雨の日だけ、あの人が傘を差してくれるから。それが目印。
私はいつも後ろからそっと見てるの、今はまだそれだけでいい。
時折私の熱い視線を感じてくれるのか、後ろを振り向いてくれる。
でも傘ごと振り向かないで、そんなに揺らされたら気持ち悪くなっちゃう。
いつか貴方は私に気付いてくれるかしら、受け入れてくれるかしら。
「聞いてくれよ兄貴ぃ、俺、最近ストーカーされてるみたいでさぁ~」
「君をストーカーだなんて、その子には悪いけれど、気が狂ってるんじゃないか?」
「最初は時折だったんだけど、今じゃいつも見られてるような感じで…どうしよっかね…」
「そう感じるだけだろう? 気の持ちようだと思うけど」
貴方が中古で買った傘に私は憑いていた。
雨の日、傘を差してもらえる度に、私は貴方に同調できる。
前の持ち主は勘が鋭い人で、すぐに売られちゃった。
けれど、貴方は私に気付きそうにもないもの。
ねぇ、もうすぐ私は貴方自身に憑けるの。そうすればもう傘なんていらないわ。
ずっと一緒に、ね?
ずっと人を疑い続けていた。
人の心を見たかった、見たいと思ってしまった。
だからこれは、その罰だと思うのです。
私は今日も一人で過ごす。
(親すら信じられなくなって、一人暮らしをするようになった)
私は今日も一人、講義を受ける。
(馬鹿みたいに騒いでいるより、一人の方が気楽だった)
私は今日も一人、家へ帰る。
(少しずつ変わっていく自分に気付かないふりをした)
そして私は今日もまた、静かな一日を始めようとしていた。
「やあ、隣いいかい?」
そう言いながら馴れ馴れしく私の隣の席に座った男。
(空いてる席なんていくらでもあるだろうに、何故わざわざ)
男は何を考えているのか、私の方を向きながらニコニコと話しかけてきた。
「ねぇ、君はそんなに何を見ようとしているんだい?」
冷やり、と背中を汗が伝う。
男は私に手を伸ばす。触れられた肩に痛みが走る。
(気付きたくない、考えたくない、私は――)
「始まりは心の臓から、今は肩まで来てる」
このままじゃ首まで来ちゃうんじゃない?
私の首筋をなぞりながら、男は笑みを溢す。
その男の瞳の中―視線を注がれた私の首筋に、また一つ、眼が開いた。
昨日は僕の隣部屋の子がいなくなった。多分、そろそろ僕の番だと思う。
僕は神さまだった。
あ、痛い子認定しないでください。本当の事なんです。
君たちがいる世界だって、本当に神さまがいないって証明出来るかい? 出来ないよね?
まあとにかく僕は神さまなんだ、僕のこの世界では。
僕が住んでいるのは白い部屋で、隣同士が見えるように窓ガラスが嵌められてる。
一応ドア側の正面にも窓ガラスがあって、声こそ届かないけれどお互いの姿は見えるんだ。
ここの施設に収容されている人たちは、皆、神さまなんだって。
皆が皆、自分の世界を創っていて、皆が皆、理想の世界を目指している。
時折そんな僕たちを見に来るかのように、色んな人が窓を覗いては去っていく。
そこに少ししか会話はないのだけれど、それでも僕は楽しかった。
話を戻そうか。
多分、この施設にはもう僕しかいない。
僕の視界は狭いけれど、その視界の中でさえ動くものは誰もいない。
以前部屋の外にいた慌ただしい人たちさえも見かけない。
静寂の中、僕は静かに目を閉じた。 それが終わりの合図だった。
僕は誰にも認識されない。
思えば、僕の人生は否定だらけだった。
親には何をしても叱られたし、何もしなくても叱られた。
だから僕はいなくなりたかった。
ある日、学校のクラスメイトから無視された。
僕の事を認識できた数少ない友人達も、他の人を真似して見えない振りをし始めた。
そうして、僕を認識してくれる人はいなくなった。
物には触れるし動かせるけど、他の人は動いた物を認識しても僕を認識してはくれない。
僕の親だった人たちは、気持ち悪いと家を引っ越してしまった。
僕は家に一人ぼっちになった。
人の住まない家に来る者は誰もいない。
ある日、僕の家が壊されることになった。新しい家を建てるんだって。
僕の家が壊されていくのを、僕はただ見ている事しか出来なかった。
その日から僕の家無し生活は始まった。
雨の日も、風の日も、僕は一人だった。
僕が消えた夏が過ぎて秋になり、冬が来て、そして春が訪れた。
僕はもう誰にも見えなくなってしまった。
誰にも見えてないから、気付かれなかったんだ。
ある日、僕が交差点を渡っていると信号無視のトラックが通って行った。
何かにぶつかったと言う感覚はあったのだろう、
運転手は窓から顔を出したけれど、交差点を一通り見渡してからトラックに戻ってしまった。
そんな光景を横目に見ながら、僕は一人交差点に横たわっていた。
僕の人生は何だったのだろう。
僕は誰にも気付かれずに死んでいくのか。
――寂しいなぁ
声はもう、出なかった。
箱、と言えば当然無機物である。
でもこいつ動くぞ!どこからか声も聞こえてくる!
最初は他の人たちに「こいつ遂に頭やられたか」みたいな事言われた。
真っ黒い箱。箱と言うより、立方体に近いのか?
この箱を空けた事はない、つまりは中身を見たことがない。
もしかして中身はちゃんと臓器とか生物としての何かが詰まっているのか?
気になってきた、よしちょっと確認してみよう。
―――ここから先の記述はなく、本人自身も行方不明である。
現在捜索中であるが、男が部屋から出た記録はない。
また男の言う「箱」も見付からず、この件に関しては何も解っていない。
男の部屋にはこの手記だけが残されており、手掛かりは今尚見つかっていない。