Hare_the_Midair
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syougi

将棋ソフトで検討中の、SCP-1326-JP-1の実験開始から計97手目の局面。先手は、と金と金将、後手は、と金3枚と香車と金将を持駒として所持している。この後先手は6七玉と指し、詰みの局面を回避した。

アイテム番号: SCP-1326-JP

オブジェクトクラス: Safe

特別収容プロトコル:SCP-1326-JPは、現在、以下の8サイトに分けられ、標準Safeクラスオブジェクト用ロッカーに保管されています。
サイト-8181(SCP-1326-JP-1-1からSCP-1326-JP-1-16,SCP-1326-JP-3)
サイト-8182(SCP-1326-JP-1-17からSCP-1326-JP-1-22)
サイト-8184(SCP-1326-JP-1-23からSCP-1326-JP-1-29)
サイト-8185(SCP-1326-JP-1-30からSCP-1326-JP-1-33)
サイト-8187(SCP-1326-JP-1-34)
サイト-8188(SCP-1326-JP-1-35からSCP-1326-JP-1-37)
サイト-8189(SCP-1326-JP-1-38,SCP-1326-JP-1-39)
サイト-8190(SCP-1326-JP-1-40,SCP-1326-JP-2)

また、万が一、SCP-1326-JPが全て流出した場合に備えて、全てのSCP-1326-JPは、対局に用いられるのを防ぐため、緑色の塗料と糊を塗られた状態で、保管されます。

説明:SCP-1326-JPは、外見上、41枚1組で構成された将棋の駒に見えます。
SCP-1326-JP-1は、SCP-1326-JPの内、歩兵18枚と香車、桂馬、金将、銀将各4枚と飛車、角行各2枚と王将1枚と玉将1枚から構成された40枚の将棋の駒です。

SCP-1326-JP-1の異常性は、SCP-1326-JP-1-1からSCP-1326-JP-1-40までの全てを使って、対局しようとした場合に発現します。対局しようとした2人の内、先手はSCP-1326-JP-A-1に変化し、後手はSCP-1326-JP-A-2に変化します。(ただし、本報告書の視認性を著しく損ねるため、特別に、引き続きSCP-1326-JP-A-1のことを、先手、SCP-1326-JP-A-2のことを、後手と呼称します。)まず、先手と後手は、対局前に取り決めた手合いに関係なく、先手の側に角が1枚無く、後手の側に香が2枚無い、通常とは異なる方法で並べた後、それ以外は通常のルールで対局を開始します。並べ方が異なることについて指摘する行為は、全て無駄な結果に終わりました。SCP-1326-JP-1による対局の内容は、先手と後手が誰であれ、将棋のルールの理解に関わらず、いかなる状況であっても、毎回完全に同じものとなります。

対局開始から2分後、先手の投了によってSCP-1326-JP-1による第1局が終わると、その際の意思に関わらず、その直後に第1局とは異なる並べ方で、第2局が行われます。第2局では、対局開始時に盤面に無かった自らの駒の着手によらない使用と、対局開始時に盤面に存在した自らの駒の着手によらない取り外し、さらに着手によらない自らの駒の裏返しが行われます。通常の成駒とは異なり、裏から表に駒が表返ることがあります。第2局が終わると、その直後に第1局、第2局とも異なる並べ方で、第3局が行われます。第3局では、第2局での異常性に加え、本来動かせない位置への自らの駒の着手が行われることがあります。この新たな異常性は、先手にのみ発現します。第3局が終わった後、先手は、自らが四段に昇段しプロ棋士になったという強い確信を抱き、後手は、強い自殺の衝動を抱きます。これらの精神汚染に対して、いかなる記憶処理も効果を発揮しませんでした。

第1局が行われている間、先手と後手はともに、周囲からの呼びかけに応答しますが、第1局が終わってから、第3局が終わるまでの間、周囲からの呼びかけに対して、最早応答することはありません。第2局以降、将棋盤を蹴り上げるなどして、先手と後手の対局を妨害した場合、先手と後手は、その直前の盤面を将棋盤上に正確に再現して対局を再開します。たとえ将棋盤が無い状況であっても、紙に書いたり、お互いの記憶と指を使うことによって、将棋を再開します。これらの異常性により、対局が第1局の終了まで進行した後は、先手と後手を日常生活に復帰させることは不可能だと結論付けられています。

SCP-1326-JP-2は、「師匠」と書かれた将棋の駒です。SCP-1326-JP-2の異常性は、将棋の存在を知らない人を含む、あらゆる対象に対して、「SCP-1326-JP-2は、いかなるゲームにも使うことが出来ない」という観念を抱かせる点にあります。この観念に対して、いかなる記憶処理も効果を及ぼしませんでした。また、40枚のSCP-1326-JP-1とSCP-1326-JP-2が容器の中に混ざっている場合、SCP-1326-JP-1とSCP-1326-JP-2の材質が同じであるにも関わらず、SCP-1326-JP-2は決して手に取られることさえなく、そのまま残ります。

SCP-1326-JP-3は、SCP-1326-JP-1とSCP-1326-JP-2の回収以前に、SCP-1326-JP-1とSCP-1326-JP-2を収納していた駒箱です。外見上は、奨励会1を退会することになった段位者に対して、奨励会から贈られる退会駒の箱に見えます。SCP-1326-JP-3の異常性はまだ明らかになっていません。研究の結果、SCP-1326-JP-3は異常性を持っていないことが明らかになった為、オブジェクト指定を外れ、廃棄処分されました。

実験記録1326-JP-1: 以下は、201█/10/03から201█/10/04にかけて3回に渡り実行された実験によって得られた結果の内、特筆すべき記録を1つの表にまとめたものです。実験は、SCP-1326-JP-1の実験担当者である金子博士の他に、財団職員とプロ棋士を兼業する佐藤研究助手の立会いの下、行われました。

実験開始からの合計手数 SCP-1326-JP-1による対局の状況
1-4手目 1手目で先手が、7六歩と角行が盤面に無いにも関わらず自らの角道を開けた。その為、4手目の7七角成で、先手番の多くの駒がただで取られることが確定。その直後先手番は投了した。なお、投了時の作法を先手番と後手番の内どちらかが知らない場合においても、先手と後手はともに、礼を行った。
5-10手目 先手と後手はともに香車が2枚無い状態で第2局を開始した。その後、後手は7手目(先手の手番中)で右側の香車を本来存在すべきマス(9一)に戻した。これは駒の配置後にルールを無視した初の事例。なお3回の実験において、先手はこの行為に対して気にした様子はなかった。先手が8手目に初めて右側の香車を将棋盤上に戻すと、10手目で後手が左側の香車も本来存在すべきマス(1一)に戻した。佐藤研究助手と将棋ソフトによる分析によれば、情勢は互角であった。
11手目 11手目において、先手が8手目において盤面に戻したはずの右側の香車を盤面から取り外した。駒の取り外しが行われた初の事例。しかしながら12手目で先手は両側の香車を元の配置に戻した。
16手目 後手が1七の歩を裏返し、と金にした。通常のルールによらない成駒の初の事例。 今後もしばしばこのような成駒が行われる。
19-21手目 先手が5五の歩をと金にした。先手の通常のルールによらない成駒の初の事例。ただし20手目において5五のと金が歩に表返り、駒台の歩を裏返し、と金にした。後手番だったためこのと金は用いられず、21手目ではまた別の歩がと金になり駒台のと金は歩に戻った。 以後先手にのみこのように頻繁な成駒が行われる。
26手目 後手の方が先手よりも駒の戦力が高いこともあり、26手目を境に後手が優勢となった。佐藤研究助手は、両者の将棋に対して、「どちらも第2局目の当初よりかなり上達しているが、後手は戦力差の他にも実力の差がはっきりあるくらいに格段に上手くなっている」という感想を述べた。
36手目 先手がと金2枚を龍馬1枚を通常のルールによらず成駒しながら、香車2枚を取り外した。
47手目 先手が投了して第2局が終了。最終的に先手は、と金3枚と成桂を通常のルールによらず成駒し、後手は、と金3枚と龍馬1枚を通常のルールによらず成駒していた。 佐藤研究助手は、「先手はアマチュア2段くらいの棋力があるが、手番の度に違う人物が指している感じがする。後手はアマチュア3段くらいだろうか」と分析した。
47手目 第3局が始まる。先手はと金5枚を並べ、後手はと金3枚と龍馬1枚を並べた。第1局や第2局に見られた駒欠けは見られなかった。
55手目 異常性のために通常の将棋と非常に異なる盤面ではあるが、両者は囲いを作ろうとしている様子が伺える。先手が、と金7枚と竜王1枚を通常のルールによらず成駒したが、同時に角行を盤面から外した。 これは、駒の取り外しが行われた最後の事例である。第3局が始まってから、第2局までと比べて、着手までの時間が長くなっていた。
61手目 先手が一手で金を二マス動かした。先手は以後しばしばルールによらない駒の移動を行う。これまでのルール無視は気にしていない様子だった後手は、これに対して3例とも驚愕の表情を示した。
79-86手目 後手は対局を有利に進めていたが、79手目で突然全ての後手の駒を表側の状態にした。その後、徐々に自らの駒を裏返し始め、86手までには78手と同じ水準の駒の戦力になった。
94手目 後手は、成ることが単純に有利になる駒の全てを成駒した。後手はしばしば先手の玉将をルール上の詰みとするが、先手はそれを全てルールによらない駒の移動により回避した。
106手目 先手の成ることが単純に有利になる駒の全てが成駒した。
128手目 116手目から、後手の駒は徐々に表に返り始める。その結果、123手目でルール上の詰みとなり、後手はそれを打開できないまま、後1手で玉将を取られる状況になるまで差し続けた。投了後の後手の自殺方法は、実験ごとに違いがあった。佐藤研究助手は、「確かに、最後の方の先手の指し手は、プロの四段と同じくらいの実力があった」と分析した。

回収: SCP-1326-JPは、201█/10/01に、プロ棋士の、██ ██ 七段が、自宅で将棋盤に頭を何度を打ち付けた後、周りからの制止を振り切り、舌を噛み切って死亡した際に発見されました。SCP-1326-JP回収時の関係者にはAクラス記憶処理が施され、██ ██ 七段の死亡には、カバーストーリー「日頃の不摂生による突然死」が適用された後、財団により回収されました。なお、その際の先手は、██ ██ 七段の弟子であり、201█/9/30に終了した三段リーグ2により昇段した、新四段のプロ棋士であったため、奇跡的に日常生活に復帰しました。

その後の調査で、SCP-1326-JPは、██ ██ 七段の弟子であり、三段リーグに11期在籍しながらも年齢制限により退会した、当時無職の██ █ 元三段が、200█/██/██に自殺する直前に、奨励会から送られたものだということが判明しました。██ █ 元三段は、彼が1級であった時に、交通事故で家族を全て亡くしていたため、SCP-1326-JPは師匠である██ ██ 七段が引き取りました。

補遺: SCP-1326-JPの研究が全て終了した後、201█/10/31付で、佐藤研究助手が将棋のプロ棋士に専念するため、財団を退職しました。