Friendboy42

1

「本当に腕っ節が弱いんだな、江洲は」
また同期に笑われた。
「江洲にこの仕事は向いてねんじゃねえの?辞めちまえば?」

財団日本支部。人材が払底していることもしかりだが、そもそもその気性からか博士たちでさえもエージェントを抜かしてでもオブジェクトを率先して収容するようなここにおいて、共振パンチのひとつさえ撃てない江洲研究員は冷遇されていた。
女性職員の横を通りすぎればクスクス笑われ、エージェントたちには「仕事を増やさないでくださいよ」と嫌味を言われ、何かの実験につけば一番に記録係を命じられる。
「部下がKIAなんてなれば俺の責任も問われちまう」
もはや上からはロシアンルーレットのごとく扱われていた。

「おや、箱買いかい。相変わらずたくさん剥くんだねえ」
「あはは」
購買のおばちゃんだけは優しかった。江洲は購買のおばちゃん以外の世界を守る必要があるんだろうかとすら考えていた。

「また君は退職願を出しに来たのか」
「記憶処置さえしていただければ退職できるはずですよね!?」
「駄目なものは駄目だ」
「何故です?」
江洲は食って掛かる。
「同期はみな高い地位について多くの部下を率いている。僕はずっと下っ端で燻ってる。僕の代わりなんていくらでもいるんじゃないですか?人材不足だからって足手まといの僕を雇っておくメリットが財団にあるんですか?」
「あるから雇ってるんだ」
「ふざけたことを」
「とにかくこれは受け取れない」
サイト管理官は退職願を放り投げると、見えない速さで手刀を退職願に打ち込み、退職願はすっぱり斬れた。

SCP-TCG-JP-Jを剥きながら、江洲は今日も鬱々としていた。
「紙切れいじくって遊んでるだけの奴になんの意義があるんだよ…」
ふとサイト緊急警報が流れたが、どうせ収容違反だ、そこにいってもエージェントが苦労するだけだ。
江洲は札をいじり続けていた。

2

「避難は済んだか?」
白衣の男が、機動部隊に問われる。
「いや、全員の避難は確認はできていない。だがもうやってもらうしかないだろう」
「まあそうなんだろうが…」

白衣の男が頭を抱える。

「まったく、何者なんだ、通信断絶なんか引き起こしたやつは…!」

数時間前、本部から連絡があった。受話器を取ると、電話の主は荒い息をあげていた。
「よかった、やっと繋がったんだな」
「どうしました、焦って」
「君たちの支部に電話もメールも何一つつながらなかったんだ、そっちに人員を送り込んだが彼らは君たちに近づく前に死んでいるみたいでね」
「なんですって?」
「おそらくカオスゲリラどもだ、こういうことをしでかしたのは…と、推理はどうでもいい、とにかく警戒してくれ」
「不届き者にですか」
「それもそうだが…やっこさん、クソトカゲを外の世界に招待しやがった」
「…今、何と?」

他の支部とは連絡が取れている、そのうえでこの支部にクソトカゲをおびき寄せたと考えられるという。狭い島国に尋常じゃない量のSCiPがあれば狙われるのも仕方ない。だが電話のあと、狙い澄ましたようにトカゲが出てきてしまっては対策のしようもない。

3

ふと廊下に機動部隊の足音が聞こえる。
「どういうことだ、こっちに来てるのか?」
江洲も避難準備をはじめようとした。窓から飛び移れば逃げることはできるだろう。窓を開けたその時だった。
「ふむ、ここに肉塊がいたか」

目の前に、あまりに大きな爬虫類がいた。

驚く時間すらなくあんぐりと開いた口に江洲は飲み込まれた。

「…死んだのか、俺は」
よくわからない真っ暗な空間に、江洲は立っている。
「…一応は財団研究員として神様はあんまり信じちゃいなかったが」

そこはどう考えても、あの世と解釈せざるを得なかった。あの時、あそこで食われたんだから。

「あの世ではない、江洲新風よ」
そこには、よくわからない形状しようもない靄のかかった人型がいる。
「…あんたは」
「我が名はYehom」
白い男はそう語るが、今までにどこかで聞いたような名ではあった。思いつきもしなかったが。
「ここはどこなんだ」
「説明しても信じないであろうよ」
男は笑っているように見えた。
「どういうことだ、俺は、そもそもあんたはいったい…」
「戦うのだ」
彼は一枚の札を手渡す。
「…《SCP-076 アベル》?このカード…剥いたことないな」
「それはそうであろうよ、我もこの札を作るのには大変な労力をかけるからな」
「…つく…る…?」
「さあ、戻るのだ、戦場に。我が選んだ者よ」
ふと下に穴が空いた気がした。その光る人型からどんどん落ちるように遠ざかり、いつしか見えなくなった。

「…貴様、なにをした」
怒れるトカゲがそこにいた。

光る札。そうだ、アベルならこのデッキと相性が合うな。なんでこんな時にデッキ構築なんて考えてるんだろう。
「無視をするな」
再び迫ってくる。だがその進行を、ごく普通の感覚で江洲は札をかざして止めた。

「お前が噛み付いたのは、”ねこ”だよ」
白い、眼力の強い”ねこ”を噛んだ哀れなトカゲに、思わず微笑んでしまう。
機動部隊がそこに飛び込んでくる。
「なにをしている、あんた!さっさと逃げろ!」
「あんたたちが逃げろ。これは俺の闘いだよ」
「しかし」
機動部隊が呆気にとられるなか、後ろから別の靴音が近づいた。

「しっかりやってくれ、江洲」
「これを…管理官は知っていたのですか?」
「お前が勝ったら全部説明しよう」
「…たっぷり聞かせてくださいよ、管理官」

構えた江洲の目に迷いはない。

「おいトカゲ」

パートナーオブジェクト、《SCP-040-JP ねこですよろしくおねがいします》をディスクにおいて。

決闘クロステストしろよ」

これは、後にTCG特殊部隊隊長となる江洲の、財団に記録されている最初の決闘であった。