下書き
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こんにちは。皆さん、異常歴史学研究室へようこそ。席について下さい。早速始めましょう。

私は鈴屋健蔵と言います。専門は鎖国下日本の超常コミュニティです。今回のオリエンテーションを担当します。テーブルのお茶はご自由にお飲み下さい。それから、質問もいつでもご自由にどうぞ。

さて、そもそもなぜ財団は歴史学者を必要とするのでしょうか。
超古代文明の兵器を収容するため?まあ当たらずとも遠からずです。

大きな理由の1つは、異常存在の収容や研究に歴史学の知識が必要であるからです。時空間転移してきた貴族や武士にインタビューしたり、異常存在にまつわる内容が書かれた古文書を解読したり、財団に歴史学者の仕事は沢山あります…質問ですか?はい、いいですよ。

- 先生は実際に時空間転移してきた人にインタビューをしたことがありますか?

ええ、あります。
と言っても時空間転移はある程度珍しい現象です、少なくとも人工的な輸送でない限りは。なので片手で数えられる程度です。非常に貴重なサンプルと言えますね。実際、文献以上に詳細な当時の話を聞くことができるわけですから、これ以上の研究材料はなかなかありません。そう言うわけで時空間転移してきた方々は歴史学者、それから民俗学者や心理学者にとっても興味深い研究対象なわけです。

- 歴史学者、民俗学者はわかりますが、心理学者にとっても興味深い研究対象というのはどういうことでしょうか?

えっと、私は専門外なので知り合いの心理学者から聞いた話をそのまますることにします。
物質は気体液体固体の三態を取る…というのは小学校の理科でやる話ですが、気体にさらにエネルギーが加わるとプラズマになり、固体をさらに冷却すると何とかアインシュタイン何とか…みたいな状態になるらしいです。つまる所、昔の物理学は所詮「身の回りの環境における物質」しか見ていなかったんですね。そして今の心理学もまた、彼ら曰く「現在の現実における知性」しか見ることができていないそうです、そういうわけで、違う時代や違う次元から来た知性体サンプルは異常心理学者の大好物なわけです。これ以上詳しいことは心理学の先生に聞いてください、歴史学の話に戻りますよ。

さて、我々の仕事のうちで最も多いのは古文書の解読関係です。この研究室にも古文書のコピーが山ほどありますし、皆さんが最初に割り振られる仕事もそれ関連でしょう。
日本支部設立後、蒐集院から引き継いだオブジェクトの関連文書については優先的に解読が進められ、60年代までには概ね全てデータベース化されました。とは言ってもオブジェクトの収容に直接関係しないため後回しになった資料はまだ残っていますし、散逸した資料が再発見されたり、あるいは新発見のオブジェクトの付随物として回収されることもあります。
間違えても不用意に読み上げたりしないで下さいね。一応、異常ミームや情報災害の検査はクリアしていますが、何が起きても知りませんよ。

-実際、何かが出てきたことがあるのですか?

もう1つは、歴史の研究をするためです。と言っても皆さんが財団の外で見てきた歴史ではなく、その裏で展開され、そして秘匿された、「裏の歴史」とでもいうべきものですが。

歴史のターニングポイントには多くの場合裏があります。皆さんが歴史の教科書で見た人物も実は裏の顔を持っていたかもしれません。何しろ財団の歴史学者の間では「明智光秀は蒐集院のメンバーだった」という説が有力視されていますから。

私の研究分野から一例を挙げましょう。

佐賀県に行ったことのある方はいらっしゃいますか?行ったことはなくても、場所くらいは知っているでしょう。そう、長崎の東側ですね。その場所こそが重要です。長崎は鎖国下にあって唯一西洋と触れられる場所であり、佐賀藩はその警備を幕府から命じられていました。つまり西洋由来の異常物品は幕府や朝廷、つまり蒐集院の勢力より先に佐賀藩の目に触れていたと考えられます。

1852年に佐賀藩が設立した精錬方という組織をご存知でしょうか。これは表の歴史でも知られた、当時としては珍しい科学研究機関ですが、その裏の顔は異常物品を研究する組織だったという仮説が提唱されています。実際、現地での発掘調査の結果は明らかに異常な構成の機械類や日本語に翻訳された魔道書などの存在を認め、仮説の検証に一歩近づきました。

その後佐賀藩は戊辰戦争において大きな戦果を挙げ、内閣総理大臣の大隈重信を始め、政界で重要なポストに就いた人物を多く輩出します。異常技術の兵器としての実用化に成功していたのか、藩出身者にも裏の顔があったのか。これらが今後の課題です。

さて、その今後を担う若き学者の皆さんにこのお話ができた事、大変嬉しく思います。埋もれた歴史の影を照らし出す事に興味があるなら、異常歴史学研究室は皆さんを歓迎します。次は仕事場でお会いしましょう。
















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