デバン博士のサンドボックス

デバン博士は一番闇に隠されている人物だった。毎日実験室に引きこもって実験することが日常だったデバン博士とサイトの職員たちに、ある日、アイドルが現れる。


デバン博士の実験は成功した。

骨髄から抽出した細胞を基に肉体を複製し、ミーマティックスクリプトを組み込んだ映像を見せることで精神を構築する″人間の複製″技術。

しかし、スクリプトにマルチバイト文字が含まれていた事で、「複製」に致命的なエラーが生じた──

でばんちゃん第一話〉by Ikr_4185

2013年01月██日、事件記録

04:56 M.E.1が動き出すことを確認
05:03 SCP-039-KOの収容失敗
08:00 サイトの中の30%以上の職員の感染を確認
10:34 所属不明の武装集団の乱入を確認
10:45 M.E.の脱走を確認
[データ削除済]
19:32 全ての感染者の消火処理を完了
23:59 M.E.の終了を確認、事件終了

「フム。」

ノレマインはあまり気に入らない顔をしながら文書を見ていた。彼女が財団に持つ不満は山ほどあったが、今回みたいな重要な事件に関する情報も消してしまうのは確かに何かの問題がある。なぜなら、彼女がM.E.の後に続いて赴任した新しい司令官であるからだ。

でも、最も気に入らないのは違うところにあった。

追記: プロジェクト・ヴルカヌスの担当者、デバン博士の感染を確認

「これはかなりの問題ですね。」

ケーキ好きの彼女が今食べているケーキが甘くないと感じていた。良くない兆候だ。プロジェクト・ヴルカヌスとは韓国地域司令部から進んでいた代表的なSCP武器化計画だったんだ。記憶処理の効果を無力化させるSCP-039-KOの影響でなにが起こるかわからない。しかもあの「デバン博士」だ。

「頭が痛いですわ。」

何度思っても答えが出ない問題ほど面倒なものはない。彼女はそう実感しながらケーキを一口食べた。ノックの音が聞こえたのはその時だった。

「ノレマインさん、研究員のキュービックですが、入ってもいいでしょうか。」

「どうぞ。」

「はい。失礼します。早速本題に入りますが、デバン博士のプロジェクトの件です。デバン博士が途中にやめてしまって、困ります人が多いです。早く何とかしないと。」

「プロジェクト・ブルカヌスですか。何が問題ですの?」

キュービックは苦手な顔で答えてきた。

「それが…実験に使うオブジェクトのサンプルを確保出来なくて困っています。」

「サンプルとは?」

「説明が少し足りなかったですね。SCP-222の実験体が必要です。」

「SCP-222…あ!」

その時、ノレマインは頭の中でぶつかるものがあることを感じた。

「プロジェクト・ブルカヌスの詳しい計画書を持ってきて下さい。」

「どうぞ。」

キュービックは左手に持っていた書類を届けた。そして、書類を読んだノレマインははっきりした顔で口を開けた。

「デバン博士を使いますわ!」

ノレマインの計画は簡単だった。SCP-222にデバン博士をぶち込むとそこで現れるクローンまたは模造品は知識があるが、記憶がないはず、ならばいっそその人をデバン博士として扱うとてもシンプルな計画だった。元のデバンはかせ?それは財団の倫理では問題ないはず。Dクラスとでも使えばいい話だ。

「ええと、デバン博士を実験に…ですね?」

「そうですわ。」

キュービックは妙な顔をしていた。拒否感が少し残っているのかも知らない。

「貴方がそうしている気分を分からないのではありませんわ。でも、デバン博士の記憶は危険ですの。」

「分かりました。」

その時になってからキュービックはうなずいた。そもそも、SCP-039-KOの特別収容プロトコルによって感染者は即時射殺だった。今までデバン博士が生き残っているのも彼の頭の中の問題で、彼自身の命が問題にはならないはずだった。

「では、私はこれで失礼しました。」

「いつもありがとうございますわ。」

結果的に、デバン博士をSCP-222に入れて記憶がないクローンを作り出す実験は失敗しました。デバン博士は実験に従順的でしたが、クローンの場合SCP-039-KOの効果が残っていたのですぐ終了されました。色んな議論の果てに、デバン博士のクローンを作り出す前提から脱することなく、SCP-222を使わずにデバン博士の人格を複製する議論が可決されました。 - Marcus Cubic

2013年02月██日、日本支部理事会の会議録から抜粋

千鳥: 本人の要請によって韓国のデバン博士を日本支部に転出する要請書が届いたようだ。韓国地域司令部の司令官shfoakdlsノレマインによれば、彼はSCP-039-KOの影響を受けているみたい。
鳳林: 問題がよく分からない。詳しく教えてくれないか。
千鳥: こちらがデバン博士本人の要請書だが、直接読むのがいい。
鳳林: え?何?(しばらく沈黙)…まじか!なんで部外者がSCP-1008-JPの裏実験を知っているの?
千鳥: 分からん。とにかく、彼が要請するのは███番目の実験で保存されたSCP-1008-JP-Bの一部だ。
稲妻: その「要素」は?
千鳥: [データ削除済]

デバン博士の転出届けは無事に承諾されましたわ。デバン博士は「健康上の理由で日本支部へ転任する」ということになりましたの。 - Grace "shfoakdls"

デバン博士が眼を覚ましたのは夜中だった。窓の外から見える景色が妙な気分を起こさせる魔力があるが、デバン博士には何も感じることができなかった。

「ああ、日本か。」

「そうですね。ただいま到着しますね。」

隣に座っていたのはわざわざ韓国まで迎えにくれた日本支部の職員だった。名前は確か、ヤマモトだと紹介したっけ。本人は韓国支部への派遣の復帰中にたまたまだと言ったけど、すごくまじめな人だと思う。

飛行機が空港に降りてくるのに何の感想も出ないのは感情が鈍くなってきたのか、そうじゃなければ…

「デバン博士。」

「はい。」

「これは個人的な話ですが、今から見ることは忘れてください。」

この人は、デバン博士がどんな状況になっているのかよく分からないのが確かだった。でなければ「忘れろ」みたいな言葉はデバン博士に向かうことではないことを分からないはずがない。そんな気持ちも知らず、ヤマモトは話を続けていた。

「少々、独断みたいなものですが、ある方が博士に出会いたいと要請がありましたので、自分勝手にしたことをお許しください。」

「大丈夫だ。で、その方は?」

「今いらっしゃっております。」

「こんばんは。」

二十歳をちょうど超えたばかりの年だと思われる外観の女が立っていた。デバン博士は、取り戻した記憶の深いところから彼女のことが思い出した。そして、いくつかの疑問が発生した。

「あんた、確か…」

「そこまで。今はそれが重要ではありません。」

彼女はそう言いながらタバコを出して口に銜えた。

「タバコは嫌いなんですか。」

「私は吸わない。分かっているはずだが。」

「そうでした。考えみたら、あなた、お酒も口に付かない頑固な男でしたね。」

「フウ」っと煙を出した彼女は懐かしい表情をしていた。デバンには理解できないことだった。そもそも、彼女は…

「デバン博士、あなたがなぜ日本に来たのかは十分に理解しているの。でも、」

デバンは気づいた。確かに彼女は、悲しんでいた。今の状況は一つの事実を示している。

「ここにあなたの居場所があると思うですか。」

「居場所が欲しくてここに来たのではない。私が欲しいのは、」

「「研究の完成だ。」」

彼女の口から同じ言葉が出た。

「あなたは今も変わらない。毎日実験ばっかり。財団へのあなたの愛をO5の皆さんが知ったらすぐにでも復権させるはずだがね。」

「今さらそんなことは望んでない、だから。」

「日本支部の管理者をやめたの?」

「…。」

デバンは何の表情も出さず、そのまま立っているだけだった。注意がさっき横にいたヤマモトにそらされたが、いつの間にか彼はいなくなっていた。最初からこんな状況を作るための人だったんだろう。

「ヤマモト?彼はいないよ。当然、この話を聞いている人は誰もいない。」

秘密を守ることには徹底的な女だ。こんな仕掛けは今さら驚くこともない。デバンが聞きたい部分は別のところのにあった。

「なんで覚えている?全てを。」

「あなたと似た理由さ。でも自律的に行ったのがあなたとは違うのかな。」

「記憶補強薬Mnesticsか。」

「正解。」

「あんた、何年を戻してしまったの?」

頭の中で答えは出ている。でも、それを聞きたくない気持ちがそんな質問を出させたんだろう。デバンは自分の中の矛盾している感情を感じていた。

「60年。」

それは二十歳に見えるもんだ。記憶補強薬は肉体と記憶を若返らせる薬だが、副作用として跳ね返りの効果があって、30日分を超える薬の投与は肉体に負担が掛かる。つまり、彼女は今、ほんとに二十歳の肉体と精神を持っているのだ。

「だから覚えている。あなたが犯したことも。なんで日本支部へ戻ろうとしているその理由も。」

「理事会はこのことを承認するはずがない。」

「そう。これは私の独断、今、こうやってあなたと会うために。」