初めは皆、アレのことをかわいいクマさんだと思っていたんだ。だがある時、あのかわいいクマさんはイカれちまった。いや、最初からイカれていたのかもな。とにかくクソッタレの殺人兵器になっちまったんだ。だからお前さんはどんなオブジェクトにも心を許すな。やつらは変わり続けるんだ。
目が覚めるとそこはベッドの上だった。思い出した。私は魚人共に誘拐されたのだ。部屋は薄暗く何やら空気は生暖かった。
少しだけ頭痛がした。両手両足、全てが縄が括り付けてありそれぞれがベッドの足に結んである。
額から汗が垂れてくる。急速に喉が乾いていった。私は深呼吸をした。そして少し落ち着いた後、頭を無理に上げ、部屋の内部を詳しく調べようとした。
部屋の奥には拷問道具が並べてあった。部屋の電灯に照らされ、この世の全ての不吉を孕んでいるかのように怪しく光っていた。亀裂が入った石壁に沿って壊れかけた机が並んでいる。そこの上にはペンチ、ノコギリ、ハサミ、千枚通し。等間隔で几帳面に並べられている。床には赤く黒ずんだものがベッタリとこびり付いていた。
恐怖に支配されかけた頭を一時的に現実に戻したのは隣の部屋から聞こえてくる音だった。石を擦るような音。ズルズルと気味の悪い音が聞こえてくる。咄嗟に173 が頭をよぎった。まさか。だが、一度そう考えてしまうとそうとしか思えなくなってしまう。
何が起きている。
扉に視線をやった。すると思いも寄らない人物が立っていたのだ。それは私の友人だった。
どうしてここに。そもそもここに来れるはずがない。
よく見ると何処か不自然だ。まず第一に、左目の下にあるはずのほくろがない。それは黒い背広を着てガラス玉のような目で瞬きせずこちらを凝視している。生気がまるで感じられない。
「おい!誰だお前は!」
次の瞬間、やつらが現れた。黒い背広に身を包んだ魚の頭を持つ2匹の生き物。374 jp、間違いない。
すると突然、あいつの姿をしたそれがこちらに近づいて来た。こちらが身構えるとそれは胸のポケットから何か丸いものを取り出した。人間の眼球。肌が粟立った。別の犠牲者の物なのだろうか。
そしてそれは眼球を口に放り込んだ。見ていて吐きそうになった。それは無表情で口の中にある眼球を舐め続けている。そして今度はもう一方の眼球を私の目の前に差し出したのだ。
「何故そんなことをする!お前らの目的は何だ!どうしてあいつの姿をしているのだ!」
私は絶叫した。しかしそれはその凶行をやめようとしない。私は口を閉じ精一杯拒否してみせた。
一瞬悲しそうな表情したように見えた。そしてそれはそのまま去っていったのだった。大きなため息が出た。しかし、よく考えるとまだ危機は去っていない。すると今度は魚頭の方が近づいて来た。
私は覚悟を決めた。大事なものを手放さないよう口を真一文字に結び、つばを飲んだ。奪われることはあっても差し出すような真似はしない。我々は甘く見ていたのだ。何がどうあれ、例のサイトには近づくべきではなかったのだ。どうか犠牲者は私で最後にしてくれ。374jpは変わってしまった。
視界が歪み暗転した。
眼球が口の中に入った。吐き出してしまおうか。しかし、口の中が甘い。味わってみて分かる。これはただのキャンディだ。眼球だと思ってしまったのは恐らく狂気に支配された私の幻覚だったに違いない。だが、よく分からない。すると目の前のそれがポケットから一枚の紙片を取り出した。読めと言うことなのだろうか。
初めは皆、アレのことをかわいいクマさんだと思っていたんだ。だがある時、あのかわいいクマさんはイカれちまった。いや、最初からイカれていたのかもな。とにかくクソッタレの殺人兵器になっちまったんだ。だからお前さんはどんなオブジェクトにも心を許すな。やつらは変わり続けるんだ。
白衣を着た男は薄汚れたベットの上で薄く目を開けた。暫くしてカッと目を見開き驚いたような表情をした。まるで先程までは別の場所にいたように。部屋は少し薄暗いように見え、生暖かいような不快な空気が漂っている。
頭を抑えた。頭痛を抱えているようだった。彼の両手両足にはくたびれた縄が巻きつけてあり、それぞれが僅かに錆びたベッドの足に結んである。彼はベッドから出ようとしたがその試みは縄によって阻まれた。
彼の額からから汗が垂れた。顔色が悪い。彼はゆっくりと部屋の空気を全て入れ替えるような深呼吸を行った。その甲斐もあってか顔色は少しだけ良くなり、彼は汚れたベッドから頭だけを辛そうに上げ、部屋の内部をゆっくりと見渡した。
部屋の奥には拷問道具が並んでいる。部屋の電灯に照らされ、この世の全ての不吉を孕んでいるかのように怪しく光っている。亀裂が入った石壁に沿って壊れかけた机が並んでいる。そこの上にはペンチ、ノコギリ、ハサミ、千枚通し。等間隔で几帳面に並べられている。床には赤く黒ずんだものがベッタリとこびり付いていた。
やがて、部屋の石壁から僅かに音が聞こえてきた。彼はハッとした様子でその壁を見つめた。どうやら隣の部屋からのようだ。ゴリゴリと石を引きづるような音が聞こえてくる。その音を聞いた途端、彼の顔が強張った。
彼は急いで部屋の一番奥にある銅色の扉に目をやった。そこには先程は居なかったはずの人間が立っている。扉の前に黒い背広を着た、彼と同じくらいの年に見える男が無表情で佇んでいたのだ。ガラス玉のような目で彼を凝視している。その目からは生気がまるで感じられない。
一瞬だけ白衣の男の顔に安堵の表情が浮かんだがそれはすぐに消えてしまった。そして彼は食い入るようにその男見つめた。何回か瞬きをした後、彼はこう言った。
「おい!誰だお前は!」
その質問に対して返答はなかった。しかし、それに答えるよう二体の得体の知れない生物が、幽霊のように壁を通り抜け、扉の前に立っている男を挟む形で現れた。黒い背広に身を包み、頭部が魚に置き換えられている。
そして隣に現れた生物には目もくれず、生気のない男は無表情で彼に近づいていった。彼が身構えると、男は胸のポケットから何かを取り出した。人間の眼球のように見える。そして間髪入れずにそれを口に放り込んだのだった。ペチャペチャと舌の上を転がす音が無音の部屋に響いた。そして一通り満足したのか、胸ポケットから別の眼球を取り出し、食べろとでも言うように彼の口に近づけていく。
「何故そんなことをする!お前らの目的は何だ!どうしてあいつの姿をしているのだ!」
彼は絶叫した。しかし聞こえてないかのように、男はそれを近づけていく。彼は口を閉じそれを拒んでみせた。
男の表情が一瞬曇ったようだった。そしてそのまま後ろを向き、扉を通り抜け部屋から去っていった。彼は大きなため息を吐いた。彼の吐いた息が部屋の空気と混ざり合う。そして彼は素早く残っている二匹の生物を睨みつけた。今度はその生物の片方がコツコツと彼の方に向かって歩みを進める。
彼はキュッと口を真一文字に結び唾を飲み込んだ。まるで大事なものを奪われてたまるかと言わんばかりに。しかし、それはジリジリと確実に彼に近づいていった。彼は獲物を狙う肉食動物のような目でそれを睨み続けている。だが、それの手が彼の肩に触れたとたんに先程の覇気は消え、彼は事切れたようにだらんと体をベッドに沈めてしまった。
それが彼の口の中に入った。初めのうちは顔をしかめていたが徐々に顔の強張りが溶けていく。
「何だこれ。ただのキャンディだ。」
首を傾げる彼を前にして男は一枚の紙片を胸のポケットから取り出し彼に見せた。