アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在カバーストーリー「校舎老朽化」を適用したうえで、四方を高さ20mの壁で囲っています。SCP-XXX-JP内部への侵入者がないよう、2つの出入り口に最低2人以上ずつの警備員があてられ、常時監視を行います。SCP-XXX-JPへ接触した被験者に対しては規則(SCP-XXX-JP用提示規則参照)を提示後、規則ごと収容を行ってください。また被験者が所有しているSCP-XXX-JP-1を即座に回収し、サイト-8122の低危険度物品収容ロッカーに収容してください。
下に提示された規則を必ず守っていください。
・生徒手帳(SCP-XXX-JP-1)を担当者に渡してください。
・担当者への暴力、または生徒手帳についての情報の共有は禁止とします
・こちらの判断があるまで、他者とのコミュニケーションは禁止とします
・自殺、他殺を禁止とします
・自身の罪に関して話をすることは禁止とし、全て部屋に用意された紙にまとめておくようにしてください
・担当者から規則が追加された場合、即座にこの紙への追加を各自行ってください
説明: SCP-XXX-JPは██県███市にある████年に廃校となった3階建ての校舎です。外装は薄汚れており、所々スプレー缶で「クソ教師」「くたばれ」「████」といった暴力的な言葉が書き殴られた跡がいくつも残っています。SCP-XXX-JPを囲うように設置された花壇には、当時植えられていたと思われる花が枯れ、散乱しています。SCP-XXX-JP内部は清潔な状態を保たれて、直前まで清掃が行われていたような形跡が常に残っているのを確認できます。
SCP-XXX-JPは██年前に逃走中だった連続殺人犯が、SCP-XXX-JPの入り口前で座り込み自らが犯した罪を懺悔し続けているのを近くの交番に勤務していた警官が発見、その後SCP-XXX-JP付近に設置されていた監視カメラの映像にSCP-XXX-JP内部に侵入する連続殺人犯の姿が映っていたことから異常性が発覚しました。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JP内部にある合計15個の教室に、高校生時代のクラスのどれかが1~5組、若しくはA~E組である人間が入ることで発現します。SCP-XXX-JP内の教室に入った被験者はSCP-XXX-JPとの接触後、異常なまでに「規則」という言葉や行動に執着を見せ始め、自身が犯した罪を周囲の人間に懺悔し、その後自身のこれまでの行動に対して罪悪感や嫌悪感を抱き始めます。更に時間がたつとそれらの感情は他者の行動にまで影響をし始め、被験者は周囲の行動に対し癇癪を起し始めます。
追加: SCP-XXX-JPとの接触後、被験者はSCP-XXX-JP-1を受け取ります(インタビュー参照)。SCP-XXX-JP-1の受け取り方法については映像を通して確認が行われましたが、すべて失敗に終わっています。SCP-XXX-JP-1は生徒手帳の形をしており、実際にSCP-XXX-JPで使用されていた物と被験者の名前が書かれていることを除いて、外見的な違いは全くありませんでした。
補遺: SCP-XXX-JPとの接触が確認された連続殺人犯がD-15646として財団に雇用されました。財団は即座にD-15646に対しインタビューを行いました。
対象: D-15646
インタビュアー: ████研究員
<録音開始>
D-15646: この度はこのような機会を設けて頂き感謝しています。
D-15646: 私が犯してしまった罪は全て償うことのできない非常に残酷なものであり許されない行動でしたが、せめて少しでも私の行動が役に立つことができたらと思っています
████研究員: 貴方は我々が把握しているSCP-XXX-JPの最初の被験者ですので貴方の経験内容はとても重要なものとなります。では、いくつか質問を始めます。
D-15646: はい。分かりました。きちんと全てお話します。
████研究員: ではまず、あなたがSCP-XXX-JP内部の教室に入ったのは何故ですか?
D-15646: あの時の私は自らの罪を認めることができず、とにかく逃げ回っていました。あそこの校舎に入ったのはなんとなくだったのですが、校舎内に入った途端…なんというんでしょう、その…とても懐かしくなったというんでしょうかね。
████研究員: 懐かしいというのは?
D-15646: あそこは私の母校ではないのですが、急に高校時代を思い出したというか…とにかく教室の中に入りたくなっていて、自分は今逃走中であるということも忘れて3-2の教室に入りました。あっ。えっと、私が高校生の時、3-2だったからです。
████研究員: なるほど。ちなみに教室が全部で何個あったかは覚えていますか?
D-15646: (5秒の沈黙)…多分15個だと思います。3年生のクラスが5組まであったので。
████研究員: わかりました。では次に、教室に入った時の周囲の様子などを教えてください。
D-15646: はい。中は一般的な教室と変わった様子はありませんでした。とても綺麗に机が並べられていて、その…。
(D-15646の言葉が突然止まる)
████研究員: D-15646?どうかしましたか?
D-15646: ……私は、今まで多くの罪を重ねてきました。でも、本当にそれは私だけの話でしょうか…?
D-15646: …そうだ。貴方達は、お前らは異常だ。どうして、どうして人を実験の道具なんかに使おうとしている!?
(突然D-15646が勢いよく立ちあがる)
████研究員: D-15646、落ちついてください。精神安定剤の準備をすぐに。
D-15646: 規則にそんなものはない、書かれていない!!規則を守らないなんて、あってはいけないことなんだ。なぜ規則を守らない?守らないで一体何の得があるのか?どうして誰も理解しないんだ!?
████研究員: 貴方が規則といっているものは一体—―。
D-15646: 何をふざけたことを言っているんだ、規則なら生徒手帳に載っていると何度も言っているだろう!?
(D-15646がSCP-XXX-JP-1を開いて████研究員の目の前につきたてる)
████研究員: ……ああそうだ。先生の言うとおりだ。私は、今まで間違っていたんだ。
<録音終了>
終了報告書: SCP-XXX-JP-1にSCP-XXX-JPの異常性を周囲に拡散する異常性があることが発見されました。インタビュー終了後、████研究員とD-15646に精神安定剤とBクラス記憶処理が施されました。████研究員は2週間の偏頭痛を経て職務に復帰しました。また、記憶処理後のD-15646にSCP-XXX-JPとの接触後からの変化が現れなかったことから、直接SCP-XXX-JPに接触した場合の異常性の無効化は不可能であることが判明しました。
メモ: 大事な研究員を失わずに済んだことは不幸中の幸いだった。とにかく、SCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-1について実験を進めていく必要があるな。 -███博士
インタビュー後、即座にSCP-XXX-JPとSCP-XXX-JP-1に対する実験が開始されました。
実験記録01 - 日付████/██/██
対象:
D-14235(高校生時代のクラスは1-1,2-7,3-6)、 D-14588(高校生時代のクラスは1-A,2-A,3-C)、D-15111(高校生時代のクラスは1-6,2-6,3-8)
実施方法:
SCP-XXX-JPへの接触
結果:
D-14235、D-14588はD-15646と同様に懐かしさを感じると証言した後、それぞれ1-1、3-3教室に入り異常性を発現。D-15111はSCP-XXX-JPに対して感情の変化は確認されず、教室に入ることもありませんでした。
分析:
どうやら高校生時代のクラスが6組以降の数字であればSCP-XXX-JPの影響を受けないようだな。クラスがアルファベットの場合A=1、B=2と認識されているのは試験等でクラス表記をA=1、B=2として記入することがあるからだろうか。 -███博士
追加: 実験後、双方とも自身の罪を███博士に懺悔した後、D-14235は常にうわごとを呟くようになり、D-14588は自殺を図りました。
分析: D-15646同様に自身の行動を懺悔する行動にでたがその後の行動に違いが表れた。規則に対する思いに個人差が表れたのだろう。 -███博士
実験記録02 - 日付████/██/██
対象:
D-14235、 D-14588
実施方法:
いくつかの「規則」を作り、提示する
結果: どちらも完璧に「規則」に従いました。
メモ: この結果は今後の収容に生かすことができる情報だな。 -███博士
実験記録03 - 日付████/██/██
対象:
D-15111
実施方法:
D-14235の所有していたSCP-XXX-JP-1を回収し、D-15111に開かせる。
結果:
SCP-XXX-JPの異常性を発現しました。
分析: ████研究員同様にSCP-XXX-JP-1の異常性を受けたようだ。ということはSCP-XXX-JP-1の異常性の条件は「SCP-XXX-JPの被験者がSCP-XXX-JP-1を開いて見せる」ではなく「SCP-XXX-JP-1を開いて中を見る」で間違いなさそうだな。 -███博士
実験記録04 - 日付████/██/██
対象:
D-13445(高校生時代のクラスは1-4,2-4,3-4)
実施方法:
マイク、ビデオカメラを装着した上でのSCP-XXX-JPへの接触
結果:
転写ログ参照
D-13445: あーマイクテスト。聞こえてるか?
███博士: 聞こえています。映像も確認できたからそのまま中に入ってくれ。
D-13445: おー了解。
(D-13445がSCP-XXX-JPへ侵入を行う)
D-13445: 中は…見えているとは思うがすげぇ綺麗だな。正直驚いた、壁のらくがきからは全然想像できないぐらいに綺麗だよ。俺が入るすぐ前に人でもいたのか?
███博士: そのまま全体を映してくれ。それと、何か他に気になった点はあるか?
D-13445: そうだな…。高校時代にダチとふざけあってたことを思い出したよ。はは、懐かしいな。(5秒の沈黙)…なあ博士。教室、そう3-4だ。できればそこに向かいたいんだが進んでもいいか?
███博士: …嗚呼。そのまま進んでくれ。
(階段を上がり3-4教室のドアの前に立つ)
D-13445: ここだな。まさかこの年で教室に入ることになるなんてな。…入るぞ。
(D-13445が教室内に入った為、教室の全体の様子が映る。映像を確認しても特におかしな点は見られない。)
D-13445: おい嘘だろ…?
███博士: D-13445、何か気になることがあったのか?
D-13445: 俺の、俺たちの教室だ。教室なんだよ、あの時の。3-4の教室なんだよここは。どうなってやがるんだ。
D-13445: ほら、この机。傷があるだろう。俺がふざけてコンパスでつけたんだよ。…うん、そうだ。覚えてる。
(映像に映し出された机に傷は無く新品であることがわかる。)
███博士: こちらから机の傷は確認できない。D-13445、周りの状況をもっと詳しく話してくれないか。
D-13445: 傷が見えないって…なに言ってんだよ、ほらここに—―。
D-13445: ………先生?
(映像には教卓が映っているが、それ以外に変わった点はみられない)
███博士: D-13445、映像では何も確認できない。今貴方の前には誰かいるのか?
D-13445: ……そうだ。どうして気付かなかったんだろう。先生、いつだって貴方は正しかったのに。
███博士: 返答してください、D-13445。
D-13445: 規則は、守るべきものだ。当然の話だ。破るものではない。貴方はそう教えてくれた。守るものだ。守らないで何の得になるんだ。どうして理解していたのに、なんで。私はどうしてしてしまったのでしょう。先生、本当にごめんなさい。許して下さい。
D-13445: 先生。
<ログ終了>
終了報告書: D-13445はその後通常通り収容されました。また、映像の再確認が行われましたが「先生」と呼ばれる人影は一切確認できませんでした。
補遺: D-13445への実験後、D-15646へのインタビュー録音を再確認したところ、一部のD-15646の発言にD-15646以外とは別の男性と思われる人間の声が重なって聞こえていることが発見されました。████研究員の最後の発言から、現在財団では声の主が「先生」であると仮説を立てたうえで音声鑑定を行っている最中です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス:Safe Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在現在サイト-81██の低危険度物品保管室に収容されています。
説明: SCP-XXX-JPは、木製の椅子(以下SCP-XXX-JP-1)とその上に置かれた1冊の本(以下SCP-XXX-JP-2)です。SCP-XXX-JP-2の表紙は白く、絵や題名などは一切書かれていません。
SCP-XXX-JPは20██/██/██に「友人の来瀬さんが行方不明になった」という通報を受けたエージェント・里野とエージェント・野峰が、来瀬氏の自宅で発見しました。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JP-2に接触した際に発現します。SCP-XXX-JP-2に触れた被験者は自分の意思に関係なくSCP-XXX-JP-1に腰かけ、SCP-XXX-JP-2を開いて読み始めます。またこの時、被験者とSCP-XXX-JP-1を引き剥がすことはどんな方法を用いても不可能であり、また被験者は異常なまでにSCP-XXX-JP-1から離れることを拒否します。
SCP-XXX-JP-2を読んだ被験者はSCP-XXX-JP-2の内容についてそれぞれ違った供述した後、その場から消滅します被験者が持っていたSCP-XXX-JP-2は、被験者消滅後にSCP-XXX-JP-1の上に同じ形で再び戻ります。この異常性はエージェント・里野がSCP-XXX-JPの確保の際に誤ってSCP-XXX-JP-2に接触し、「小説家を目指す女性の話」であったと供述した後にその場から消滅したことで判明しました。
また、SCP-XXX-JP-2の頁を数える試みは全て失敗に終わっています。 実験記録04により、SCP-XXX-JP-2の頁が50頁であることが判明しました。
財団では、通報をした来瀬氏の友人である阿波氏にインタビューを行いました。阿波氏にはインタビュー後、記憶処理が施されました。
対象: 阿波氏
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士: 来瀬さんと最後に会った時、彼女は何か貴女にいっていましたか?
阿波氏: はい。その…「珍しい小説が手に入った」と嬉しそうに教えてくれました。
██博士: その小説の実物は見せてもらいましたか?
阿波氏: いえ。私も気になってお願いしたんですけど、全然話を聞いてくれなくて…。
██博士: なるほど。…失礼ですが、貴方たちの関係を詳しく教えてくれませんか?
阿波氏: そうですね…。ただの友人というよりは、同じ道を目指す同士…という感じですかね。
██博士: 同じ道というのは?
阿波氏: 私たちは小説家を目指していたんです。それで、彼女は執筆のアイディアとして、珍しい小説を手に入れられたことを喜んでいたんじゃないかなって。そう考えれば私にそれを見せたくなかったことは納得がいきますし…。
██博士: なるほど。ちなみに、お二人は何か作品をお書きになったのですか?
阿波氏: いえ、まだ。でも、もう少しで終わりそうなんです。
<録音終了>
阿波氏へのインタビュー後、SCP-XXX-JPの実験を開始しました。
実験記録01 - 日付20██/██/██
被験者: D-14134
実施方法: SCP-XXX-JP-2への接触
結果: 「大ヒット映画のスタントマンの話」であったと供述。その後エージェント・里野同様に消滅。
分析: SCP-XXX-JP-2の内容が、エージェント里野の語った内容と異なっている事が確認された。 -██博士
実験記録02 - 日付20██/██/██
被験者: D-13542
実施方法: SCP-XXX-JP-2への接触、その後SCP-XXX-JP-1から立つように指示。
結果: D-13542は指示に対して「立てない」等と供述した後、SCP-XXX-JP-2を読み始めた。
「女性放火犯の1生を振り返る話」であったと供述した後、消滅。
分析: SCP-XXX-JP-1の異常性が発現されたのだろう。またしても内容が大きく違っている。 -██博士
実験記録03 - 日付20██/██/██
被験者: D-11434
実施方法: SCP-XXX-JP-2への接触
結果: 「強姦魔と14人の少女の話」であったと供述。その後消滅。
分析: これはここまでの実験での推測だが、SCP-XXX-JP-2の中身が最後にSCP-XXX-JP-2を読んだ人間に関する話に変化している可能性が高い。更に実験を進める。 -██博士
実験記録04 - 日付20██/██/██
被験者: D-14444
実施方法: SCP-XXX-JP-2への接触(推測通りであればD-11434に関する話に変化していると予想)
結果: 実験記録04映像ログ参照
██博士: では、D-14444。SCP-XXX-JP-2を手に持ってください。
D-14444: 了解した。(D-14444がSCP-XXX-JP-2に接触)…あれ?
(D-14444は突然自身がSCP-XXX-JP-1に座ったことに動揺を見せるが、これまでの実験と変わりはないため実験を続ける。)
██博士: D-14444、立ちあがってください。
D-14444: む、無理だ…。
██博士: 何故ですか?貴方は自分の意思で座ったわけではないはずです。理由を、詳しく話して下さい。
D-14444: ま、待っているからだ。それに、ここは俺以外に座ってはいけないから、だからだよ。これ以上にどんな理由があるんだ。あんたには用意されていない。これは俺の、俺の席だ。俺は待っているんだ。次は俺なんだよ。次は俺が主役になる。あんたじゃない。あんたじゃできない。俺だ。俺の為の席だ。俺なんだ。
(D-1444に、D-13542同様の不自然な発汗と心拍数の増加が確認される)
██博士: 落ち付いてください、D-14444。(一呼吸して)SCP-XXX-JP-2の頁を数えてください。
D-14444: あ…?(3秒の沈黙)…あ、嗚呼。了解した。えっと…。(SCP-XXX-JP-2を確認)…駄目だ博士、最後を開けない。おかしなことを言ってるとは思うだろうが開いても開いてもなぜか続く頁があるんだよ。一体どうなってんだこの本…。
██博士: いえ、分かりました。有難うございます。では、SCP-XXX-JP-2に書かれた内容について教えてください。
D-14444: …了解した。(SCP-XXX-JP-2を読み始める)
(5分後、D-14444はSCP-XXX-JP-2を閉じるが言葉を全く発さない)
██博士: (小声)これまでの実験には見られなかった動きだな…。
██博士: …D-14444?どうかしましたか?簡潔でいいので、SCP-XXX-JP-2の内容を話して下さい。
D-14444: (5秒の沈黙)完成した。
<ログ終了>
D-14444は最後の言葉を残し、今まで通り消滅しました。
分析: これは一体どういうことだ?SCP-XXX-JPにはまだ別の異常性があるのか? -██博士
実験記録04後、再度実験を行いましたがSCP-XXX-JPの異常性は完全に消滅しており、SCP-XXX-JP-2の内容を観覧することが可能となりました。(SCP-XXX-JP-2内容参照)
- 青峰愛
- 井上康
- 植田香枝
- 榎本真緒
- 岡田瑠夏
- 加藤尚樹
- 如月咲久
- 熊谷圭介
- 慶雲寺麻子
- 古賀美彩
- 櫻井秋吉
- 清水晴康
- 住野百瀬
- 関口亜楚
- 相馬一汰
- 谷崎伸一
- 千景密
- 綱川隼
- 手塚正人
- 兎之山奈菜
- 夏目忠邦
- 新妻アンヌ
- 布川音子
- 根元穂乃
- 野崎彩葉
- 服部亜紗妃
- 日向実二
- 船山真綜
- 平敷雪穂
- 保崎東
- 松野久美
- 水川歩
- 村上梅
- 女城朱桃
- 茂木彩
- 山田真冬
- 雪野一代
- 与嶺晃
- 来瀬愛梨
- 里野敬輝
- 瑠璃川時雨
- 連田彰浩
- 六夜斗波
- 和田詩音
- 確保なんて、収容なんて、保護なんて最初からできていない。
- 所詮、みんな私の物語の登場人物にすぎなかった。
- でも、長く待っているのは疲れるし、登場人物には輝くための順番だってある。
- だから私は椅子を用意してあげた。彼ら彼女らは、前の登場人物たちの話を読んで自分も輝けることを夢見た。
- この意味がわかるかしら?さて、これで私の物語はいったんおしまい。
- もう少しだと言ったでしょう? -阿波藍子
メモ: 39頁からの名前を見る限り、SCP-XXX-JP-2に記載された44名が全員SCP-XXX-JP-2の被験者であることは間違いないだろう。
しかし、この本は、偶然にしてはあまりにも出来過ぎている。彼ら彼女らの並び方は完璧なのだ。
エージェント・野峰と共に行動してエージェント・里野が誤って接触してしまったことも、多くのDクラス職員の中かD-14134、D-13542、D-11434、D-14444の4人を使って実験をしたことも。これらは全て偶然ではなかったということなのか?もしかしたら、こう考えている私の脳内ですら、こいつの物語の一部にすぎないのか?私の今座っている椅子は、本当に唯の椅子か?用意されたものではないと言い切れるか?私は、確かに多くの登場人物の話を読んでしまったのだ。しかし、今となってはSCP-XXX-JP-2はただの本にすぎない。
一体いつから、「阿波藍子」の物語は始まっていたんだ? -██博士
補遺: その後の調査で、来瀬氏の友人である「阿波藍子」という人物が存在していなかったことが判明しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在現在サイト-81██の低危険度物品保管室に収容されています。SCP-XXX-JP使用者は標準人型収容室に両手両足を固定した状態で収容してください。SCP-XXX-JP使用者の治療及び検査はSCP-XXX-JPの異常性から必ず女性のみで行い、完治後は記憶処理を施し解放してください。
**説明: **SCP-XXX-JPは洗顔用の石鹸です。████社で製造された石鹸と類似していますが、裏面に表示された原料・成分表の中に「痘痕も靨」「にきびはあなたの味方」等の言葉が印刷され、表の下には「顔以外の使用はお控えください。」と注意書きが印字されています。現在財団では23個のSCP-XXX-JPを回収、収容しています。
SCP-XXX-JPの第一の異常性は、女性がSCP-XXX-JPを使用した際に発生します。SCP-XXX-JPから発せられた泡が皮膚に接触すると、接触箇所からは無数の尋常性ざ瘡が発生します(以下、SCP-XXX-JP-1)。この時、SCP-XXX-JPを泡立てた掌にも同様に無数のSCP-XXX-JP-1が発生しますが、同時に使用された泡立て用のネット等には異常が見られなかったことから、人間の皮膚にのみSCP-XXX-JPの異常性が発生することが確認されています。
SCP-XXX-JP使用者がSCP-XXX-JP-1を知覚するとSCP-XXX-JP使用前の自己評価の高さに関係なく、「美しい」「可愛い」等の言葉で自身の容姿に対して肯定的な態度を示し、他者に自分を認識・接触してもらおうと積極的に行動し始めます。対照的に第三者がSCP-XXX-JP-1を知覚すると、「気持ち悪い」「怖い」等の感想を持ち、SCP-XXX-JP使用者に対して嫌悪感を抱きます。また、SCP-XXX-JP使用者にSCP-XXX-JPの使用の停止やSCP-XXX-JP-1の治療を進めると、SCP-XXX-JP使用者はヒステリックな反応を示し、暴力等を使ってSCP-XXX-JPやSCP-XXX-JP-1を守るような行動を起こします。
SCP-XXX-JPの第二の異常性は、SCP-XXX-JP-1に男性が接触することで発生します。男性と接触したSCP-XXX-JP-1は体温を上昇させ、平均して2mlほどの浸出液を排出します。排出された浸出液が男性の皮膚に接触すると、被験者の額から瞬時に心臓に類似した形の尋常性ざ瘡が発生します(以下、SCP-XXX-JP-2)。SCP-XXX-JP-2は出現時点で心臓の鼓動に似た活動を僅かに行っており、日を追うごとに活動が活発化していきます。同時に反比例するかたちでSCP-XXX-JP-2被験者の心臓は活動を弱めていき、SCP-XXX-JP-2出現から40週間前後に完全に停止します。
SCP-XXX-JP-2被験者は自身の心臓が停止しているにもかかわらず、今まで通りの生活を行うことが可能です。
心臓の活動停止以外に大きな変化は見られませんが、SCP-XXX-JP-2出現前とは対照的にSCP-XXX-JP使用者に対して非常に好意的な感情を抱くようになります。これは、事前にSCP-XXX-JP使用者と親密な関係が一切ない場合でも同様です。SCP-XXX-JP-2被験者の大半がSCP-XXX-JP使用者に対し、「一緒にいると安心する存在」「大切な存在」等と証言します。
追記: 20██/██/██、SCP-XXX-JP使用者が自宅で遺体となって発見されました。室内には、発見当日に██県の開催されていたアイドルグループの握手会の入場チケット、雑誌の切り抜き、ブロマイドが数枚散乱していました。また遺体には顔や掌以外にも全身にわたってSCP-XXX-JP-1が発生しており、多量の浸出液が排出された形跡が残されていました。検査の結果、SCP-XXX-JP-1の浸出液内には人間の精液と同様の成分が含まれていることが判明しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは収容されています。中央部に0.9%食塩水をL用意し、1日に2回、Dクラス職員による食塩水の交換を行ってください。
SCP-XXX-JPは金魚と類似した姿をした魚です。財団では現在2匹2匹のSCP-XXX-JPを確認し保護しています。
SCP-XXX-JPは常に地面から2m以上の高さを浮遊しています。
SCP-XXX-JPの異常性は、
・SCP-XXX-JPと共に密閉された空間に人間が入る
・SCP-XXX-JPの半径2m以内に人間が入る
の2つ条件が揃うことで発現します。
SCP-XXX-JPの被験者は、SCP-XXX-JPとの接触15分後に喉の乾きを訴え始めます。
追加: SCP-XXX-JP収容室の水換えを担当していたDクラス職員が死亡しました。解剖中にDクラス職員の体内から匹のSCP-XXX-JPが出現しました。特別収容プロトコルの変更が行われました。
世界は鮮やかに染まり、マーガレットの香りをふわりと纏わせる。そんな真新しい感覚は、一瞬にしてわたしの心を奪い、全てをぐちゃぐちゃにかき乱した。
小さい頃から真面目だけが取り柄だった。
しわのない清潔な制服と整った白いリボン。
校則通りの長さのスカートと靴下。きちんとまとめられた長い黒髪。
礼儀正しい態度と目上の方への正しい敬語。常に5分前行動に心がけ、提出期限を破らない。
毎年クラスの学級委員長を務め、クラスの為に尽力した。
おかげで先生からの期待も、クラスメイトからの信頼も厚い。
まさしく模範生徒と呼ばれるにふさわしい姿。
わたしは自分の性格が嫌いではなかった。
わたしには幼馴染がいた。彼女はわたしとは正反対だった。
自分なりにアレンジされた制服とリボン。
何重にも折られて短くなったスカートと靴下。人工色で染まるウェーブのかかった髪。
先生に対する反抗的な態度。遅刻ばかりして、課題すら出さない。
毎日注意しても、彼女は笑って返すだけ。
おかげで先生からは飽きられて、クラスメイトからの笑いも絶えなかった。
それでも彼女は、嫌われていなかった。
彼女はいつもクラスの中心にいた。彼女は人に好かれていた。
しかし、わたしは彼女が好きではなかった。
ある日、クラスメイトの1人がわたしの落としたプリントを一緒に拾ってくれた。不意に触れた指先に鼓動が跳ね上がる。それが初めての体験で、一目惚れであることを理解するのは、そう難しい事ではなかった。
その日、私は初めて授業を真面目に受けれなかった。ただ窓の外を眺めて、鮮やかな世界に見とれることしか出来なかった。
わたしは、いつもと同じ帰り道にマーガレットの花が沢山咲いていることに気がついた。その中から1本だけ摘むと、わたしはその場に腰を下ろした。1枚摘んで力を少し込めれば、花弁はぷちっと音を立ててひらりと地面に消えていく。
「すき、きらい、すき、きらい…。」
花占いを信じていた訳では無い。更にいえばそれは、人生で初めての花占いだった。おまじないになればいいな。そう思っていた。彼に想いを伝える少しの勇気が欲しかったのだ。たとえそれが些細な一目惚れだとしても、相手からいい返事が貰えなくても、それで構わなかった。ただ、真っ直ぐに伝えたかった。そのための勇気が欲しかった。
そう思っていたから、許せなかった。
「どうしてなの」
骨と骨のぶつかる鈍い音と手に伝わる肌とぬるりとした感触。人と血の混ざり合う生臭い匂いとマーガレットと香り。わたしに押し倒された彼女は、何のことかわからないという顔をして、次々に自身を襲う鈍い痛みに、「許して」とか細い悲鳴をあげ続けた。
彼女とわたしは正反対。嗚呼なんて可愛い顔だろう。羨ましかった。どれだけ彼女が校則を守らなくても、授業を受けなくても、失敗をしても、彼女はそれ以上にとても可愛いかった。だから人から愛された。正反対のわたしはどうだ?本当に先生やクラスメイトはわたしを信用していたか?
違う。わたしは可愛い幼馴染みと他人を繋ぎ合わせるだけの都合のいい紐だ。知っていた。分かっていたけど、どうして伝えたかった。
「どうして、どうして、どうして!」
わたしの体は次第にふわりと宙に浮き始めた。わたしの体はゆっくりと鉄に変わり始めた。鉄の耳では彼女の制止の声なんてもう聞こえなかったし、鉄の手では彼女を殴る感触なんてもう感じなかった。鉄の脳みそではぐちゃぐちゃな彼女を顔を見ても、可愛いとか、可愛そうだとかも、全く思わなかった。ただただ無心で、わたしは彼女を殴り続けた。
風が吹く。マーガレットの花弁が一斉に舞い上がり、わたしの口や目を通じて体内に入り込んだ。わたしはそれを全て受け入れた。体いっぱいに広がるマーガレットの香りはわたしの心を奪ってぐちゃぐちゃに混ぜ始める。それでもあの憎たらしい光景だけはわたしの脳裏に張り付いて離れない。
わたしは彼を呼びだした。彼はいくら待っても来なかった。彼は、彼女と歩いていた。そして、抱きしめて、指を絡ませて、キスをした。
「どうしていつも貴女なの」
乾いた銃弾の雨は世界に反響しながら、彼女の体と私の瞳を濡らして穴を開けた。もうその時にはわたしはわたしが分からなくなっていた。藍色の襟と真っ赤なリボンだけがわたしをわたしだと優しく教えてくれた。鮮やかな世界が広がる中でわたしは、地面に横たわってこちらを見つめる、1枚の花弁だけ残こされたマーガレットを見つけた。
わたしは、「きらい」で終わったあの花占いで、 最後の1枚を摘むことを忘れていたことをようやく思い出した。
ここ最近、嫌な夢を見る。
5缶目のビールを開けて一気に中身を流し込めば、ぬるくなった液体が俺の喉をごくりと鳴らした。その、なんとも言えない不快感に溜息をつきながら俺はぐしゃりと髪を掻き乱す。
最近の俺はなにかがおかしかった。どうやら最近、悪夢を見るようになったらしい。目覚め時にはそれの内容は全く覚えていない。でも、変に高まる鼓動とじっとりと汗で濡れた手がそれの恐ろしさを俺に教えてくれた。おかげで俺は寝るのが怖くなった。目の下の隈は日を置くごとに酷く黒くなり、体は鉛のようにずしりと重く沈んでいる。
それでも「またあの夢を見るんじゃないか」と考えてしまえば、眠ることなんて出来なかった。
寝室の電球が切れた。ここ最近、こいつを酷使しすぎた。だから、そろそろ寿命かなと内心思っていたが、実際に切れると部屋の暗さと静けさに思わず動揺してしまう。はたして換えの電球があったか、俺は少し焦りながらも部屋のクローゼットの扉を開けた。
薄暗くて整理整頓がされていないそこに、運良く一つの電球が存在していた。
手に取るとそれが普通の電球と少し形が違っているのに気がついた。電球自体にスイッチがついている。押してみたけど特に何を起こらない。
ふと、電球があった場所を見てみれば、小さな紙が置かれていることに気が付く。紙の内容は随分と簡潔なものだった。
「金平糖を入れてお使いください…?」
きゅっと電球の頭をひねれば、なるほど、確かにガラス部分は外すことができる。中には金平糖に限らず小物だったら沢山入りそうではあった。
俺は頭を押さえて、ここ最近の記憶を辿ろうとする。しかし、酒で満ちただけの脳みそは悲鳴をあげるばかりで全く役に立ってくれなかった。幸運のツボやら宝石やらを土産に訪ねてくる美女とは何度か玄関で顔を合わせたことがある。でも、俺は、いつこのヘンテコな電球を買わされたのか。
俺は電球を持って寝室を出た。酒の匂いの広がった部屋に再び入って、テーブルに置かれた小さな茶色い箱の小さな扉を開けた。中には小さな瓶が6個並んでいる。中身たちは部屋の明かりに反射して一斉に瞬く。
まるで星を捕まえたみたい。小さい頃にはそんなことも言っていた。星の形をしたそれは星を食べてみたいという小さな俺の夢を、両親が叶えるために与えてくれたものだった。それでも今では、その星たちはただの糖分摂取に過ぎなくなった。小さくて口に入れやすい。そして程よく甘い。ただそれだけの存在になっていた。
箱の隣に置かれた電球をもう1度眺める。
損はない。そう思った。どうせ酒にでも酔って騙されて買わされた1つの電球。だったら、いっそ最後まで騙されてやってもいいかもしれない。もし、光ることがなかったら。なんにも変化がなかったら。そのまま外に飛び出して線路に身を投げるのもいいかもしれない。電気がつけば俺はいつも通りの夜を過ごすだけ。電気がつかなければあの悪夢から逃げることができるだけ。損はなかった。
電球と金平糖の瓶を1つ持って寝室に戻ると、俺は白い金平糖だけを1つも残さず取り出した。とりあえず電気として使いたいだけだったから色鮮やかである必要は無い。白い星たちを電球に入れると、不思議とぴったりそれらは収まった。まるで元々電球というのはこういうものだと言うように。
電球のスイッチを押せば、
世界は回転した。
何が起こったのかすぐには理解できなかった。壁についている時計を見てようやく、自分が熟睡していたことに気がついた。胸に手をやれば普段通りの鼓動を感じる。胸に置かれた手は特に問題なく乾いていた。体は軽くなっていて、明らかに今までの疲れは抜けている。しかし、寝ていた事実があるのに俺はおかしくなかった。むしろ、自分でも驚くぐらい、心が落ち着いていた。
瞬時に俺はあの電球のおかげだと分かった。根拠はなかった。証明もなかった。それでも、俺はそれを理解した。
俺は半ば興奮した状態で電球のガラス部分を外す。白い星たちは流星群になって勢いよく床に散らばって音を立てた。近くに置いていた金平糖の瓶を手にとり、中身を一気に電球の中に流し込む。カランカランと、心地よい音を奏でながら星たちは全てがそこに収まった。カーテンを開けて太陽の光に照らして見れば、それは昨日よりも完成していた。これが本来の電球であると俺は悟った。それぞれの星たちが個々の色を主張する。それが完璧で非常に美しかった。
赤は苺。青はソーダ。黄は檸檬。緑はメロン。ピンクは桃。オレンジは蜜柑。紫は葡萄。
キラキラ光る電球見つめていたら小さい時に体験した星の味を思い出した。自然と自分が笑顔になっているのが分かった。同時に、昨日の自分を馬鹿だと思った。これは俺の鮮やかな過去を思い出させるための素晴らしい贈り物だったのだ。過去からずっと変わらない、俺の願いを叶えてくれる流星だったのだ。
俺は心の中で流星たちに願いと感謝を込めながら、その、カラフルな電球のスイッチに手を伸ばして、押した。
最初は林檎だった。
昨日買ったときには赤く輝いていたはずなのに、手の中のそれは黒く変色している。瑞々しさなんてものはなく、黒色の林檎はどこか味気なかった。
その日は結局、同じ日に買った緑色の林檎を食べることにした。
次は空だった。
天気予報では一日中快晴だと言っていたのに、ドアを開いてみれば空はどこか薄暗い。鮮やかな青色はそこにはなく、いまにも雨が降りそうであった。
その日はなんだか拍子が抜けて、家で過ごすことにした。
そんな曖昧な異変を強く実感したのは、草原だった。
その日の空は相変わらず薄暗かったが、製作中の作品の筆がなかなか乗らなかったので、私は気分転換に外へ出た。
久しぶりの外でのデッサンは楽しかった。生き生きとした緑が風で揺れていて、漂う柔らかな草の匂いが心地良い。
私の気分はだんだんと高まっていき、スケッチブックをどんどんと鮮やかな緑で染め上げていった。
その高揚がいけなかったのかもしれないが、力が入っていた私は誤って緑色の色鉛筆の芯を折ってしまった。
一瞬にして景色は変わっていた。
私はがんがんと揺れる頭を抑えながら、何度か瞬きして周りの景色を見返した。
端的に言えば私は、灰色の草原の上にいた。
先程までの暖かな景色はどこにもなく、まるでそこにあった草がすべてが刈り取られたように緑色が消えていた。
そして私は何故かその時、色が変わったのではなく、色が無くなったのだと悟ってしまったのだ。
そして、それを一度認識してしまえば、後はもう恐怖しか残らなかった。
私は草原の上に投げられたスケッチブックを拾うことなく、駆け足で自宅に戻った。
夢であるならさっさと覚めてくれ、と願って。
しかし、次の朝が来ても、時間がどれだけ経っても、私の世界に存在した緑色はもう姿を見せることはなかった。
そしてふと気付いた時には、世界のすべてがモノクロだった。
ああ、想像してほしい。
もし本当に白と黒だけで構成された世界を眺めることができたなら。
それはどれだけ貴重で、素晴らしいものであっただろうか。
しかし私の目の前に広がる世界は、存在するはずの色が反映されない、ただの古ぼけた白黒写真と同様であった。
空は曇り、木々はくすみ、花は褪あせた。その時の私にはもう、そこに存在していた色が思い出せなかった。
林檎はどんな色をして人々を魅了した?空はどんな色で私たちの世界を覆っていた?
私の作品はどんな色をしていた?
想いを綴った紙を裏返せば、描かれた大きな瞳が私にそう問いかけてくる。
私はお前を、この作品を、どんな色で描きあげたのか。
私はこの子達を、私の作品たちを愛していた。でも、作品を彩る色たちは私を厭い、遠ざけた。
そんな今の私には部屋中の作品たちは無価値な紙の山でしかなかった。
気付いたら私は散乱した紙の中で眠っていた。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
緑色が消えたあの日のように私の頭はぐらんぐらんと揺れていた。
深く息を吐きながら酷く重い体を持ち上げると掌から何かが、からんと音を立てて転がり落ちた。
音がした方に視線をやれば、それは2本の色鉛筆だった。
私は思わず息を呑んだ。そして同時に散乱した紙の上で止まっている色鉛筆を凝視した。
そこにあったのは、私が見ているデタラメな白黒写真なんかとは違う、純粋で穢れのない、美しい白と黒だった。
ぽたりと、汗が紙の上に落ちた。
無くても構わない。そう思って探すこともしなった2色の色鉛筆。
私はおもむろに拾い上げて力強く握りしめた。
2色はそれに応えるように薄汚れたの手の色の中で光り輝いた。
ばくばくと、鼓動が頭の中に響いた。
今なら価値を理解できる。白黒写真の世界に取り残されて生きている自分だけが、その価値を理解できる。
ぎりぎりと、色鉛筆を握る力が強くなる。
私を見捨てなった、厭わなかった2色の色。私だけが知っている、美しい、色。
色に厭われた私以外の誰が想像できるだろうか。
モノクロ世界に広がる、本当の白と黒の美しさを。
「誰にも、渡すものか」
バキッという乾いた音がして、男の視界は暗転した。