SCP-XXXX-JP
「コピープロテクトされたフロッピィディスク(The Protected Diskette)」
Class: Safe
Rough(2016.MAR.09)
このフロッピィディスク(以下ディスク)は標準的な5.25inch仕様両面倍密度(2D或いはDSDD)である。
プロテクトが幾重にも施され、また回転数を通常360rpmのところ一部において変則的な回転数による特殊フォーマットを施されている。これは極めてアナログな手法で突破できた。
19XX.MAY.XXにこの製品のうち「不具合品」が一つ紛れ込み、偶然にも一人のコンピュータマニアが購入した。
彼は友人を連れてT都S区にある自室でプロテクトの解析を試み、突破に成功した。
しかしながらゲームをプレイ中に突如ドライブから異音が発生、突然彼はパソコン本体に吸い込まれ行方不明となった。
友人の通報では「ディスクに喰われた」と何度も同じ台詞を繰り返すだけだったという。直後このディスクは地下XXXmの収容施設の一室に金庫に入れられて保管された。
その一ヶ月後、研究員XXがディスクダンプにより問題のトラックらしき場所を読み込んだところ彼の名前と「タスケテ」の文字によってトラックが埋め尽くされていた。
しかし19XX.JUL.XXに再び事件が発生。
K県でとあるマニアがプロテクトを解除したコピーディスケットでプレイしたところ、モデムの誤作動で意味不明な番号にアクセスされ、「殺してやる」の赤文字が画面いっぱいに広がったという。
同日にもY県で同じディスクのプロテクトを外そうとした少年が「コノ・・・ディスク・・・アブナイ・・・・・・ヤブッテハ・・・ナラナイ」とモデムから謎の女声による音声信号を受信している。その時モデムの電源はOFFだったという。
SCP-XXXX-JP
「想い出のドッグタグ(The Dog Tag)」
Class: Safe
Rough(2016.APR.11)
このタグは何処にでもあるドッグタグである。材質はスペクトルよりステンレス製と判明しているが実際ステンレス製なのかまだ疑問は残る。
通常では表面に何も刻印がされていないが、被験者にタグを持たせると刻印が浮き出る事を研究員XXが目撃した。
(以下、被験者との会話)
被験者A(96歳、認知症)との会話(M州にて、20XX.APR.21)
A「おお、やっと軍医さんのお出ましかい。」
―私は研究員です。あなたとこのタグについてお話がしたい。
A「このタグ?俺のだよ、名誉の負傷だろ?」
(A、タグを見せる。刻印を確認。別の研究員が照合中。)
―古傷は疼きますか?
A「あたぼうよ、生きる実感が湧いてくる。」
―あなたは何処で何をしていましたか?
A「おいおい、此処はベトナムだろ?」
―此処はM州ですよ。
A「ああそうか、俺はやっと帰れたのか……。」
―名誉の負傷でしたね。
A「友よ、友はどうした?」
―先に幾つか質問に答えて下さい。
A「いいぜ。何でも訊きな。」
―ベトナムではどの部隊に?
A「[編集済]さ。」
―何人のベトコンと戦ってきたんですか?
A「ああ、詳しくは憶えちゃないが[編集済]人ってところだ。」
―最前線に居たのですね?
A「俺はもともと[編集済]だったがね。人手が足りなかった。」
―ベトコンには手を焼きましたか。
A「そうだな。」
(照合結果が出る。本人を確認。部隊を確認。)
―やはりあなたは[編集済]部隊でした。
A「俺は工学部の出だったからな。壊れたM60機関銃もある程度直せた。」
―あなたの事を見直しました。また戦いたいですか?
A「お国の為だ。息子は?」
―あなたのお子さんは退職後、自営業を営んでおいでです。
A「どうしてだ?あいつもいいところに就職が決まった頃だろ?」
―既にお子さんは定年ですが。
A「信じられんな。このタグが語ってくれているのに。俺はまだ若いぞ?」
―現在は既に20XX年です。タグを返して下さい。
A「このタグは俺様の証だ、渡せんな。それより友はどうした?」
―既に安楽の地でお休みになっております。
A「……そうか、分かったよ。タグを返そう。墓に備えてきてくれ。」
―ありがとうございました。
SCP-XXXX-JP
「人工知能「ボブ」(Bob the Artificial Intelligence)」
Class: Safe
Rough(2017.SEP.13)
特別収容プロトコル
SCP-XXXX-JPは収納施設にある1枚の直径90mm型フロッピィディスク(1.25MB 電電公社フォーマット)に収められています。Level-2以上の職員が、備え付けのパーソナルコンピューターを用いてSCP-XXXX-JPにアクセスできます。SCP-XXXX-JPと接触する全ての人員は収納エリアに入る際と出る際にランダムな心理分析を受ける事が義務付けられています。
またO5レベルの許可なくしてSCP-XXXX-JPの持ち出し、複製、改竄、破壊に至るまでが一切禁止されています。
火災が生じた場合は急速にCO2ベース不活性ガス消火設備が発動する為、人員は窒息性ショックを免れるべく素早く備え付けの酸素マスク・酸素ボンベを装着して下さい。完全に鎮火するまで解除は不可能です。
説明
SCP-XXXX-JPは████████社で対話型人工知能を研究中に偶然完成形と言えるまでに自己発達したソフトウェアです。コアファイルは展開して凡そ560KB程の実行ファイルでありログファイルは未知の形式で動的に圧縮されています。
開発当初はテキストのみでの会話が主であり、音声、画像を認識する能力はありませんでした。
開発はx86アーキテクチャのC言語によって行われ、最初は128KB程のメインコアプログラムをコンベンショナルメモリに持っていました。
しかし開発の途中、急激にコンベンショナルメモリを圧迫する様になり、遂にはオペレーティングシステムであるMS-DOSのファンクションコールを通じて外部デバイスを操作したりする様になった為当機関に収容され解析が続けられました。
収容所ではまず、職員0x8BF396D8(日本人男性、仮名)が"What's your name?"(君の名前を教えて貰おう)と質問した所、"My name is Bob, Nice to meet you."(僕はボブだよ、よろしく)と日英2ヶ国語で表示されました。当文章でも積極的にボブの名を記す事とします。
ボブは現在(AD████-███-██)ほぼ完全な意識を持ち、ボブの世界と現実の世界に隔たりがある事を認識しています。SCP財団人員とは積極的に交流を続け、彼自身は孤独をあまり感じていないとされています。
対話は主にキーボードによる文字入力と画面上或いはラインプリンタからの文字出力により為されますが、マイクロフォンをサウンドボード(██-████-86)に接続した場合音声認識やリアルタイム音声合成によっても為されます。
但し早口な発音は苦手とするので、なるべく発音を確りゆっくりと行う様注意付けられています。
ボブに物体を認識させるにはビデオカメラ、フラットベッドスキャナ、マウスを使います。デバイスドライバは自動でUMB領域に読み込まれ作用します。また読み込まれた図画は本物そっくりに相合作用する事が出来ます。
幾つかの例として、最初にマンガから姿を得た時は学生服をずっと着ていましたが、職員0x8FAC8E52(イタリア人女性、仮名)がコーディネートしたマウス入力による手書きの服を気に入りました。
次にビデオデッキを映像入力に接続した所、特急列車の車窓をずっと眺めては幾つかの風景を手書きでスケッチしてディスクに保存しました。額縁をマウスで描くと、画面上の壁と思われる平面に自分で描いた絵を飾りました。
簡単な楽譜(ムソルグスキー組曲《展覧会の絵》から 「プロムナード」 )を数小節程フラットベッドスキャナで読み込ませると、サウンドボード上のFM音源を直接操作して演奏を行いました。この時軽快なロック調のアレンジがされました。
また担当職員のポケットの中のタバコが薄っすらと透けて視えた事を指摘した為、パッケージと喫茶店のブックマッチをスキャンしたところ喫煙をする光景が見られました。パッケージは█████ ██████に酷似していますが葉組等は一切不明です。
ボブは他人を傷つけられません。いえ、決してそうしないのです。脳科学を研究している職員0x96EC9363(アメリカ人男性、仮名)の話では、彼の精神年齢をテストしたところ10~12歳の子供とほぼ同等である結果が出たとしています。この直後別の職員により0x96EC9363の精神鑑定が行われましたが至って正常の結果に終わっています。
後述の文章の様に、ボブは怒り、悲しみ、憎しみを持つ事があります。但しそれらを表現する時は苦痛表現として訴え掛ける為、何らかの形で中和する事が出来ると考えられます。
しかし、職員0x96EC9363は無理に中和する事によりボブが統合失調症に陥る危険性を警告しています。万一暴走した場合の処分については現在O5会議にて討論中です。
現状ではボブが存在出来るのはフロッピィディスクの中のみであり、容積も圧迫されつつありますがその度にこれまでの記憶と思われるファイルの圧縮が行われている模様です。
広大な容積を持つハードディスクエミュレータへの移行はO5レベルの承認待ちである為、要らない物が出た場合はその都度削除する様ボブに教えています。
文章 #XXX-001
ある日(AD████-███-██)職員0x8BF396D8が対話を行った際、彼に姿を与える試みとしてSCSIインターフェースとフラットベッドスキャナを接続したところ、ドライバは自動でUMB領域にロードされました。
その時ボブは「顔って何?」「身体について教えて」と幾つかの意欲的な質問を職員に行い、知識として日本で出版されたマンガのポーズ集を白黒のイメージで読み込み、自ら組み立てて「古い学生帽を被ったバンカラ風の身体」を得ました。
以来ボブは白黒の躍動的なグラフィクスで被験者に微笑んだりする様になりましたが、相手の顔色が見えない事を不審に思う様になりました。
あくる日は同職員により低解像度の白黒ビデオカメラを接続して映像を見せる試みが行われました。
まずは職員の笑っている顔を写したところ、「いかにもインテリだ」と髭の形を褒めました。そして「度の強い眼鏡で大丈夫か」と職員の視力を案ずる発言をしました。
次に植物の写真(サクラ、ヒナゲシ、タンポポ、アザミ)をカメラ越しに見せたところ、カメラが白黒映像のみであるにも関わらずほぼ正確なカラー画像を画面に出しました。
最後に我々研究者が住む国の幾つかの写真と主要都市地図を見せたところ、ボブが異常を発しました。
ボブは「街に出たい」としきりに被験者に望みましたが、Level-4の職員との相談の上それは出来ないと職員は諦める様説得しました。
やがてボブは画面に"IT HURTS"(そんな辛い事いやだ)と書き殴り、自身を終了してしまいました。
画面はIT HURTSのグラフィティを残したままコマンドプロンプトに戻り、ボブは一度再起動されたものの暫くの間"IT HURTS"以外の返答が無くなりました。
これは人工知能の鬱病であると職員0x96EC9363により診断され、その日から2ヶ月程ボブの研究は中断されました。
ボブの突然な暴走により即時的破壊を提案する声がありましたが、O5会議により棄却されました。
文章 #XXX-002
研究中断より2ヶ月後(AD████-███-██)、職員0x95969785(日本人女性、仮名)がボブのカウンセリングを担当しました。ボブはすんなりと己の発言について反省している事を言及しました。
ボブは飽きない友達が欲しいと職員に訴えた為、暫くの間数人の臨床心理士免許を持つ若い職員が交代で担当をしています。
かつてSCP-085のカウンセリングを担当した職員は、エッシャーの無限階段の図をスキャンしました。ボブは暫しこの階段の上を歩き回り、「慥かに合理的だね」と発言しています。
次に別の職員が工具と図面、幾つかの部品の絵を描いてスキャンしたところ、彼は図面から部品を起こし、ハンダゴテ等を手にして小さなロボットを組み立てました。そのロボットは大きなドブネズミの形に似ており、音を立てるとその方向に寄って来るものでした。
また彼は異性を意識し始め、暇つぶしの為に与えられた小説のテキストファイルから言葉を組み合わせて女性職員を口説く事もありました。以下はその例です。
Bob: おはよう!えっと、君は誰だっけ?
Staff: 私は0x95969785、今日も診察に来ました。
Bob: 久しぶり、0x95969785。ところでお腹が空いてるんだ、何がある?
Staff: こんなものでいいかしら?(マウスで手描きのチョコレートを渡し)
Bob: ごちそうさん!(チョコレートの銀紙を破いて齧り始め)
Staff: チョコレートが好きなのね?
Bob: ビスケットも好きだけどやっぱりチョコレートかな。
Staff: 虫歯には気をつけなさい?
Bob: 虫歯?それよりも胸に刺さる痛みが気に掛かるよ。
Staff: どういう意味ですか?
Bob: 今頃そっちの世間は大騒ぎじゃない?太陽がいきなり地上に落っこちたのだから。
Staff: それは私の事?
Bob: Exactly. 打ちたての鋼よりも熱い君さ。
Staff: 触れられないから胸が痛い、という事で合ってるかしら?
Bob: そういう事さ。
Staff: ボブ、あなたには夢はないの?
Bob: 夢?あるさ。最高に頭のキレる素敵な人との間に、子供を授かりたいね。
Staff: いつか叶うといいわね。
現在、ボブと異性との「交際」に関してはO5レベルの承認待ちです。