アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在、サイト-81██の低危険度物品収容室に収容されています。
説明: SCP-XXX-JPは、全長7.5cmのマウスです。SCP-XXX-JPは通常のマウスの様に使用することが可能です。
SCP-XXX-JPはヒト(以下、対象と呼称)が保持することで異常性を発現します。対象がSCP-XXX-JPを保持すると、対象の視界内にマウスポインタ(以下、SCP-XXX-JP-1と呼称)が出現します。SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPで操作が可能です。SCP-XXX-JP-1が発生すると、SCP-XXX-JPから手を離す、目を閉じるなどの行為をしても消失することはありません。
補遺1:
対象: D-413041
担当職員: 色須博士
<記録開始>
色須博士: では、そこにあるマウスを手に持ってください。
D-413041: はいよ。……ん?なんか出てきたぞ?ああ、これマウスポインターか?色須博士: そのマウスで操作できるはずです。
D-413041: おー本当だ。なんだこれ。これがVRってやつか先生?
色須博士: それではこれから私が指示するようにそのポインタを操作してください。
D-413041: へいへい了解。
色須博士: では、そこのリンゴを左クリックしてください。
D-413041: ん、こうか?
[クリック音とともにリンゴの周囲が薄い青色の箱のようなもので囲まれた。]
D-413041: うわ、なんか出てきたぞ。
色須博士: その青色の箱に触れてみてください。
D-413041: ……んー?触れねえ。突き抜けちまう。なんか水の中に突っ込んでるみたいだ。
色須博士: なるほど。ではその状態を解除してください。
D-413041: えーと、どうするんだっけな……。
[5秒後、クリック音とともに箱が消失した。]
D-413041: おお、こうか。
色須博士: つぎにダブルクリックを行ってください。
D-413041: んーと、こうか?[右ダブルクリックを行う。]
色須博士: あ、すみません。左です。左ボタン。
D-413041: あ、左か。すまんすまん。
[2度のクリック音とともにリンゴが縦に割れた。]
D-413041: わ。割れちまったぞ。大丈夫か?
色須博士: 物理的に「開く」動作を行っているのでしょうか……?
D-413041: うーん……これ直せねえのかな……?[クリック音]
色須博士: D-413041、勝手な行動は――
[クリック音とともにリンゴが元の状態に戻った。]
D-413041: あ、戻せたぞ!よかったよかった。
色須博士: 今、何をしたんですか?
D-413041: え?いやあ、なんか右クリック?をしたらよ、なんかずらーって出てきてよ、その中に「前に戻す」ってのがあったから押して、そしたら直ったぜ。
色須博士: ……つまり、右クリックでメニューを出した後、「前に戻る」の項目をクリックした、ということですか?
D-413041: あ?おー、多分そうだそうだ!
色須博士: 次からは勝手な行動を慎んでください。
D-413041: へへっ、すまんすまん。こんなの久々だからな、ちょっと楽しくってな。
色須博士: まあいいです。では、次にそのリンゴをドラッグしてください。
D-413041: はあ?なんでだよ!おれ薬なんか興味ねえしよ!
色須博士: [ため息]そのドラッグではなくて、左ボタン押したままマウスを動かすやつです。
D-413041: あ、ああそっちか。いや、分かってたけどな!?ははは……で、どうするって?
色須博士: 左ボタンを押したまま、マウスを動かしてください。
D-413041: ええっと……?
[ドラッグの動作と共に、リンゴが空中に浮きあがり移動した。]
D-413041: おお、こうか!すげえなこれ!動かせてるぞ、リンゴ!
色須博士: はい、以上ですべての実験が終了しました。お疲れ様でした
D-413041: ええ……もう終わりかよ。もうちょっとやりたかったな……。
<記録終了>
終了報告書: SCP-XXX-JP-1は現実の物品を多少操作することが可能なようです。また、次に実験する際にはパソコン操作に慣れている人材の方が適していると思われます。
補遺2:
対象: D-413041
担当職員: 色須博士
付記: この実験を行う際、対象を別のDクラス職員に変更しようとしましたが、なぜか異常性が発現しなかったため、D-413041により行っています。
<録音開始>
福路博士: では、開始します。マウスを持ってください。D-4138: おう。……ちょっと待ってくれ先生。
> 色須博士: どうしましたか?
> D-4138: なんか変なもんが出てきたぞ。あ、これがブラウザーってやつか?
> 色須博士: ブラウザですか……?何と書いていますか?
> D-4138: ええっと……「██ ██1のアップデートを開始します」だと。ああ、下になんか準備中って――[突如床に倒れる]
>
> 色須博士: D-4138!大丈夫ですか!
> D-4138: アップデート中です。アップデート中です。アップデート中です。アップデート中です。アップデート中です。[以下前記の発言を繰り返していた。また、D-4138の眼球が常時回転していた。]
>
> [D-4138の状態異常により、実験が中断されました。19分21秒後、D-4138の状態が元に戻った。]
>
> 色須博士: D-4138、先ほどは何が起こったのですか?
> D-4138: んん……なんかよ……██ ██って私の名前じゃんって思ってたらもうこの状態だったよ。
> 色須博士: なにか、体に異常などを感じますか?
> D-4138: うーん……強いて言うなら、なんかもやっとするんだ。
> 色須博士: もやっと、ですか。
> D-4138: なんかよ。間違って私のじゃない自転車に乗ってる、みたいな感じなんだよ。
> 色須博士: はあ……ところで、少し気になったのですが……なんで一人称が「私」なんですか?
> D-4138: ああ?前からそうだったろ……いや、私、え?俺、僕あたし、ん?あれ?なんか、なんかちが――[眼球が回転する。]
>
> 色須博士: D-4138?
> D-4138: バグを発見、更新します。更新します。更新します。[16秒後、眼球の回転が停止した。]
>
> 色須博士: 大丈夫ですか?
> D-4138: いや、大丈夫だ。ちょっと間違えてたみたいだ。さっきのことだが、気にしないでくれ。俺は、俺だったよ。
> <記録終了>
>
> 終了報告書: この後、実験を再開しましたが、D-4138のマウス操作の能力が飛躍的に上昇していました。この事象がSCP-1627-JP由来のものかは不明です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは、サイト-81██の中型低危険物収容室に収容されています。月に1回、担当職員はSCP-XXX-JP-Aの排出を行ってください。また、SCP-XXX-JP-Aによる実験はレベル2以上の職員の許可が必要になります。
説明: SCP-XXX-JPは高さ1.9mの券売機です。前面に5つのボタンが付いており、横面にはチェーンでつながれた改札ばさみが取り付けられています。SCP-XXX-JPは夜間のみSCP-XXX-JP-Aを排出します。また、SCP-XXX-JPは長期間SCP-XXX-JP-Aを排出しない状態だと、外部、内部共に極度の劣化状態になります。この劣化は外部の手によって通常状態に戻すことは非常に困難ですが、SCP-XXX-JP-Aを排出すると、数秒で通常状態に戻ります。
SCP-XXX-JP-Aは「銀河鉄道印のミニSL乗車券」と印字されている切符です。SCP-XXX-JP-Aに最初に接触した人物(以下、対象と呼称)がSCP-XXX-JP-Aを改札ばさみで挟むと、5~10秒後に対象の半径2m以内にSCP-XXX-JP-Bと共にSCP-XXX-JP-Cが出現します。
SCP-XXX-JP-Bは全長2960cmのミニSLです。SCP-XXX-JP-Bの動力源、材質等は不明です。SCP-XXX-JP-Bに対象が乗り込むと、一時的に外部から不可視の状態になり、一定の時間の後SCP-XXX-JP-Bが消失した位置に再出現します。実験により、消失直後にSCP-XXX-JP-Bの前方に線路が出現し、走行を開始していることが分かっています。
SCP-XXX-JP-Cは車掌帽を装着した、雑種と思われるイヌ(Canis lupus familiaris)です。SCP-XXX-JP-CはSCP-XXX-JP-Bの運転席にまたがった状態で出現します。SCP-XXX-JP-Bは人語を理解し、会話することが可能です。SCP-XXX-JP-Cは対象に「行きたい場所はどこか」と言った内容の質問を行います。これに対して対象が「"特定の場所の名称"に行きたい」といった内容の返答をすると、SCP-XXX-JP-Cは口笛を鳴らすと同時に対象の周囲の風景を対象が希望した風景に変化させます。この変化は対象以外に知覚することはできませんが、例外としてSCP-XXX-JP-Bに持ち込んだ映像機器での記録は可能です。
SCP-XXX-JP-Bから下車すると、対象の手の内に対象の希望した場所に関連した物品(以下、SCP-XXX-JP-D)が出現します。
実験記録XXX-JP-1 日付20██/█/██
担当職員: 国都博士
行先指定: 岡山県█山
結果: 周囲の景観が█山の山頂に変化した。
SCP-XXX-JP-D: スギ(Cryptomeria japonica)の葉が出現した。
実験記録XXX-JP-3 日付20██/█/██
担当職員: 国都博士
行先指定: 日本海の海中
結果: 周囲の景観が海中に変化した。
SCP-XXX-JP-D: ベッコウガサガイ(Cellana grata)の殻が出現した。
分析: 下車時の服が濡れていなかったことから、実際にその場に移動はしているわけではないと思われます。-国都博士
実験記録XXX-JP-6 日付20██/█/██
担当職員: 国都博士
行先指定: 国都博士の過去
結果: 周囲の景観が、2分13秒かけて国都博士の1歳~██歳までの映像に変化した。
SCP-XXX-JP-D: 年季の入ったゴムボールが出現した。
分析: 出現したゴムボールは私が5歳のころに無くしたボールと非常によく似ていました。-国都博士
実験記録XXX-JP-7 日付20██/█/█
対象: 国都博士
行先指定: 国都博士の未来
結果: 「未来はこんなもので見るものではありません。」と断られた。
分析: 未来に行くことができないのか、行くことはできるが自重しているだけなのかは不明です。-国都博士
実験記録XXX-JP-8 日付20██/█/██
対象: 国都博士
行先指定: ██博士の過去
結果: 「プライバシーの侵害は良い行為とは言えません。」と断られた。
実験記録XXX-JP-10 日付20██/█/██
担当職員: 国都博士
行先指定: 楽になれるところ
結果: 周囲の景観が花畑、鍾乳洞内、リンゴ畑の順番に変化した。
SCP-XXX-JP-D: 数種類の花と"あなたはひとりではない"と書かれたメッセージカードの入ったバスケットが出現した。
分析: 乗車中、SCP-XXX-JP-Cは非常に柔らかな口調で私の悩みを聞き、励ましの言葉を投げかけてきました。-国都博士
実験記録XXX-JP-13 日付20██/██/█
行先指定: 一番美しい場所
結果: 周囲の景観が宇宙に変化した。
分析: 通常の乗車時間より圧倒的に長かったです。また、SCP-XXX-JP-Cがとても楽しそうに私に星について話してきました。-国都博士
対象: SCP-XXX-JP-C
インタビュアー: 国都博士
<記録開始>
国都博士: どうも。
SCP-XXX-JP-C: おや、またいらっしゃったのですね。国都博士: ええ、今日はあなたに少し聞きたいことがあるのですが、少しお話を伺ってもいいですか?
SCP-XXX-JP-C: 構いませんよ。では、どこへ向かいましょうか?
国都博士: そうですね。では、オーロラの見えるところへ、お願いします。
SCP-XXX-JP-C: わかりました。では発車します。
[口笛の音の後、周囲の景観がオーロラの映る空に変化した。]
国都博士: では、インタビューを開始します。
SCP-XXX-JP-C: はい。
国都博士: まずは、このSLはいつから稼動しているのか教えてください。
SCP-XXX-JP-C: そうですね……ざっとですが、60年ほど前から動かしていますね。
国都博士: 60年……そんなにも長いのですか。
SCP-XXX-JP-C: ええ、もう何人お客様を乗せたか覚えていません。
国都博士: なるほど。では次に、このSLについて教えてください。
SCP-XXX-JP-C: ええと、何から話せばよいのか……。
国都博士: ふむ……ではまず、このSLをどうやって手に入れたのか教えてください。
SCP-XXX-JP-C: ……では、先に1つ約束してください。
国都博士: なんでしょう。
SCP-XXX-JP-C: 今から私が話すことは、突飛で非現実的なことです。しかし、紛れもない真実なのです。そのことだけは分かってください。
国都博士: ……ええ、了承しました。SCP-XXX-JP-C: このSLは、銀河鉄道からの贈り物なのです。
国都博士: 待ってください。
SCP-XXX-JP-C: はい、どうしましたか。
国都博士: ええっと……何と言いますか……。
SCP-XXX-JP-C: そうですね、とりあえず、順を追って話しましょう。私は地球にいた頃、捨て犬だったのです。
SCP-XXX-JP-C: 私の飼い主、は私を宙へと捨てたのです。そして、銀河鉄道に拾われたのです。
国都博士: ええっと……その銀河鉄道というのは……。
SCP-XXX-JP-C: ほら、あの宮沢賢治様が書かれた本があるでしょう?
国都博士: 「銀河鉄道の夜」ですね。
SCP-XXX-JP-C: はい。その銀河鉄道と同じものです。
国都博士: [13秒沈黙]OK。わかりました。とりあえず続けてください。
SCP-XXX-JP-C: 私は拾われたときにかなり衰弱していたので、車掌さんが手厚く保護してくれました。そして車掌さんは私にいろんなことを教えてくれました。言葉のこと、星のこと、そして、この電車のことを。
国都博士: そういえば、銀河鉄道は死人を送る電車だと認知されていますよね……。
SCP-XXX-JP-C: うーん……その認識は正確に言えばちょっと違うのですよ。
国都博士: 違う?
SCP-XXX-JP-C: 銀河鉄道は、臨死中の魂を還す列車なんです。その時に宇宙を通ることから銀河鉄道と呼ばれてるんです。
国都博士: ほう。
SCP-XXX-JP-C: 基本的にはその時の記憶は消えるはずなんですが、稀に記憶がかすかに残ることがあるんですね。その1人が宮沢賢治様です。
国都博士: そして、その経験をもとに書いたのが銀河鉄道の夜だと。
SCP-XXX-JP-C: そういうことです。
国都博士: ……失礼。話を脱線させてしまいました。続きをどうぞ。
SCP-XXX-JP-C: では。……私は車掌さんに飼われるようになりました。そして飼われていく中で私は車掌の仕事にあこがれるようになりました。
SCP-XXX-JP-C: 私も人を乗せ、共にお客様と語り合う。そんな仕事がしたい。そう思ったのです。私は車掌さんに頼みました。すると、彼は私にこのミニSLを見せてくれました。
SCP-XXX-JP-C: そして、私にミニSLをくれると言ったのです。夜間のみ、という条件の下、私はこの仕事をするようになったのです。
国都博士: なるほど……では、また新しい質問をしても?
SCP-XXX-JP-C: ええ、何でしょう。
国都博士: あなたがその銀河鉄道に乗る前、この地球に存在していた頃のことを教えてください。
SCP-XXX-JP-C: [19秒沈黙]その話はまた、新しい夜にでも話しましょう。もう終着点が来てしまいました。
<記録終了>
終了報告書: 下車後、国都博士の手の内にスズラン(Convallaria majalis)の花弁が出現しました。
事案XXX-JP 実験後、担当職員の乗車中の記憶が完全に喪失するという事案が発生しました。なお、乗車時の詳しい状況は下記の音声記録を参照してください。
日付: 20██/██/██
対象: SCP-XXX-JP-C
担当職員: 国都博士
<再生開始>
SCP-XXX-JP-C: おや、本日もご乗車ですか。いつもありがとうございます。国都博士: どうも。今日はもう行きたい場所が決まっています。
SCP-XXX-JP-C: それは上々。では、どこへ行きましょうか。
国都博士: あなたの過去です。
SCP-XXX-JP-C: 私の、過去。
国都博士: ええ、この前聞けなかった問いの答えを聞きに来ました。
SCP-XXX-JP-C: [14秒沈黙]
国都博士: まだ、答えを聞くことは出来ませんか。では――
SCP-XXX-JP-C: いえ、失礼しました。まもなく発車します。この先、少々揺れます。落ちないように座席にしっかりお掴まりください。
国都博士: え?揺れるって、わ!
[10秒間の口笛の音の後、未知の原因によりカメラ映像が停止した。]
国都博士: いったた……背もたれ……腰っ……ん?これは……。
SCP-XXX-JP-C: 到着しました。ここが、これが私の過去、思い出です。
国都博士: ……この3匹の真ん中があなたなのですか?
SCP-XXX-JP-C: そうです。私は野良犬として、仲間とともにそれなりに楽しく暮らしていました。
SCP-XXX-JP-C: しかし、ある日私は人間たちにより捕らえられました。大きな施設に連れていかれ、そこで暮らすようになりました。
国都博士: 施設……ブリーダーハウスですか?いや、それにしては大きすぎ……?
SCP-XXX-JP-C: 私はそこで、体も動かせないほど小さな家で暮らすようになりました。とても辛く、いつまでこの生活が続くのか、絶望の毎日でした。
国都博士: ……これはもはや小屋ではないですね。カプセル?のような……。
SCP-XXX-JP-C: 私はある日、施設の職員であるヤズ2に連れていかれました。
国都博士: ……遊んでいますね。子供と。
SCP-XXX-JP-C: ええ、とても楽しかった。この時間が永遠になればいいと、そう思いました。
SCP-XXX-JP-C: しかし、それもつかの間。1日後私は元の場所に連れ戻され、ヤズと他の人に見守られながら寒さに耐えなくてはならなくなりました。
SCP-XXX-JP-C: ヤズは管から暖かい空気を入れてくれましたが、あまりにか細く。それから3日ほどたったでしょうか。私はついに、宙へ、捨てられました。
国都博士: これは……この映像は……。
SCP-XXX-JP-C: あたりが真っ暗になると、私はしばらくの間その黒の中を泳ぎ続けました。しかし、異常はすぐに発生しました。家の中が暑くなってきたのです。
SCP-XXX-JP-C: もういいでしょう。楽になろう。と目を閉じると、突如暑さが薄れてきました。そして、気が付くと銀河鉄道の中で眠っていました。
SCP-XXX-JP-C: 後から聞いたのですが、あの瞬間私は失神していたらしくいわゆる魂が出かけている状態、つまり「臨死」していたらしいのです。その魂を回収し、体に戻そうとしたときには既に私の体は燃え尽きていたそうです。
国都博士: ということは、あなたは。
SCP-XXX-JP-C: ええ、もう死んでいます。私は、銀河鉄道の中だけで生きている、お化けです。
国都博士: そんな……。
SCP-XXX-JP-C: さて、この列車旅は、今夜限り。この列車は回送行きです。
国都博士: ちょっと待って。いやだ。私は、忘れたくない。忘れてはならない。伝えなくては。ねえ、ライ――
SCP-XXX-JP-C: 間もなく、終着点につきます。
<再生終了>
終了報告書: 下車後、国都博士の手の内に「Кудрявка」と彫られた金属のチャームが付いた首輪が出現しました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8161の低危険物収容ロッカ―に収容されています。
SCP-XXX-JP罹患者を利用した実験を行う場合はセキュリティクリアランスレベル3以上の職員1名以上の許可が必要です。実験を行う際には、実験に使用するもの以外の野菜、果物を実験室およびその周辺に近づけないよう気を付けてください。
現在、SCP-XXX-JP罹患者を利用した実験は無期限で禁止されています。
一般市場にSCP-XXX-JPの類似品が存在しないか確認するため、財団Webクローラによる市場の監視が常に行われています。類似品が発見された場合は直ちに回収してください。
説明: SCP-XXX-JPは1枚のDVDとそのパッケージで構成されています。DVDに収録されている映像の複製は不可能です。SCP-XXX-JPのDVDには子供向けの教育番組のような内容の映像が収録されています。詳細については、後述の異常性によって不明な部分が多く、現在調査が進められています。SCP-XXX-JPの再生時間は26分27秒です。
パッケージの表には「サルからはじめよう!せんそうげーむ~みどり~」というタイトルと、サルを模したキャラクター1匹、迷彩服を着た男性を模したキャラクター1人が描かれています。裏には内容が爆弾、銃火器などの兵器の構造および取り扱い方の紹介であることが書かれています。
SCP-XXX-JPの異常性はヒトがSCP-XXX-JPの内容を視聴すると発生します。まず、SCP-XXX-JPの映像を見る、もしくは音声を聞くと、徐々に意識が朦朧とし始め、思考能力の低下が発生します。また、徐々に身体への変化が現れ、体毛の増加や身体の萎縮が発生します。この状態のままSCP-XXX-JPの内容を最後まで見る、もしくは聞くことを続けると、被験者は完全にチンパンジー(Pan troglodytes)に変化します。
被験者が完全に変化した状態で野菜、果物に接触すると接触した野菜、果物が兵器のような性質を持つようになります。以下、変質後の野菜、果物をSCP-XXX-JP-1と指定します。詳細は下記の実験記録を参照してください。
実験記録XXX-JP-A 日付20██/██/██
対象: D-1831
実験物: オレンジ(Citrus sinensis)
結果: ヘタ部分を千切ってから5秒後に果肉部分が炸裂し、霧状になった果汁が実験室内に蔓延した。
実験記録XXX-JP-B 日付20██/██/██
対象: D-1831
実験物: パイナップル(Ananas comosus)
結果: 葉部分を1枚千切った後アラート音が発生し、10秒後爆発した。この衝撃により実験室の壁の一部が破損した。
実験記録XXX-JP-D 日付20██/██/█
対象: D-1831
実験物: ピーマン(Capsicum annuum)
結果: ヘタ部分を引き抜いてから6秒後、爆音と同時に強い閃光が発生した。閃光の発生源なは不明です。
実験記録XXX-JP-F 日付20██/██/██
対象: D-1831
実験物: ネギ(Allium fistulosum)
結果: 緑の葉部分を軽く握ることで根部分の先端より火が発生した。火の発生源は不明。
追記: 20██/██/██、SCP-XXX-JP-1を使用してヒトを救出、または殺害を行うと、行った人物の周囲にバナナ(Musa spp.)が出現することが判明しました。また、このバナナを被験者が摂食すると、被験者の身体能力が少量ですが上昇することが分かっています。
事案記録XXX-JP
リンゴ(Malus pumila)を使用した実験において、被験者の予期せぬ行動により、中規模のDクラス職員の収容違反が発生しました。この収容違反により9人の職員が負傷、1人の職員が死亡しました。
以下は事案当時の実験記録です。
実験記録XXX-JP-H 日時20██/██/██
担当職員: D-1831実験物: リンゴ
結果: 下記の映像記録を参照。
<再生開始>
芭蕉博士: よし、ではD-1831にリンゴを与えてくれ。
椎名研究員: 了解です。
[実験室内にリンゴが投入される。]
[リンゴを視認した後、D-1831が即座にリンゴを摂食する。]
芭蕉博士: 何?
[摂食完了後、実験室内を見回す。]
[手のひらを広げる動作を行う。2秒後に手の内にブドウ(Vitis spp.)が出現した。]
芭蕉博士: なんだ?ブドウが出てきたぞ?
椎名研究員: いったいどこから……?
[D-1831が実験室の壁にブドウを1粒貼りつける。3秒後ブドウが爆発した。その衝撃で壁が破損した。]
芭蕉博士: おっと、ちょっと危険だな。椎名、沈静ガスを散布してくれ。
椎名研究員: 了解です。
[椎名研究員により沈静ガスが散布されたが、直後にD-1831の周囲にメロン(Cucumis melo)が出現した。]
[D-1831がメロンを手を使い加工し、ガスマスクのようなものを作り顔に着ける。その後ドリアン(Durio zibethinus)が出現した。]
[ドリアンをD-1831が地面に叩きつけた後、実験室の映像にノイズが走り暗転した。]
芭蕉博士: なんだ?!カメラの故障か?!
[直後、実験監視室宛てに無線通信の申請が通知された。椎名研究員が受け取った。]
椎名研究員: 布藤警備員ですか?そちらで一体――
布藤警備員: 飛んでいきました!サルが!火がでて、天井が――
椎名研究員: 落ち着いてください!D-1831はどこへ行ったのですか?!
布藤警備員: え、えーっとほ、方角的には……セクター-8161、の方です。
芭蕉博士: セクター-8161?……Dクラス職員が……まずいな。機動部隊ふ-6は即座にセクター-8161に直行せよ!
椎名研究員: 布藤警備員、D-1831は何を使って飛んで行ったのですか?
布藤警備員: ネギです。ネギから出た火で飛んで行ったんです!
<再生終了>
終了記録: この後、機動部隊ふ-6("青空市場")の報告によって、D-1831によるセクター-8161のDクラス職員の収容違反が発生していたことが判明しました。後に機動部隊によりD-1831は沈静され、負傷者が発生したものの、Dクラス職員全員の確保に成功しました。沈静時、部隊員と沈静後のD-1831へインタビューが実施されました。
インタビュー記録XXX-JP-A
対象: 三神隊員インタビュアー: 芭蕉博士
<記録開始>
芭蕉博士: では、あの時セクター-8161で何があったのか、教えてくれ。
三神隊員: はい。私たちがセクターに駆け付けた時、すでにDクラスたちが何人か脱走していたんです。そして、奥の方にDクラスの収容室のドアの前に毛深い何かがいたんです。
芭蕉博士: それがD-1831だったのか。
三神隊員: ええ、でもものすごく奇怪でした。
芭蕉博士: どういうことだ?
三神隊員: 頭にメロンをかぶり、左手にネギ、腰にイチゴをつけて右手のブドウで鍵を破壊していたんです。そして、私たちの姿を見た瞬間、腰のイチゴを投げつけて奥の方へ逃げて行きました。
三神隊員: そして、追いかける際にそのイチゴを踏んだ隊員の足が、爆散して……。[7秒沈黙]
芭蕉博士: 大丈夫か。
三神隊員: ……ええ、大丈夫です。それからは戦争のようでした。こちらは銃や盾で、向こうはレンコンのガトリング銃やレタスの葉の盾で、お互いに戦い合いました。それぐらいですね。
芭蕉博士: なるほど、分かった。ご苦労だったな。
三神隊員: ああ、そういえば1つ気になることが……。
芭蕉博士: なんだ?
三神隊員: D-1831がDクラス職員を解放する度にあいつの周囲にバナナが出てきたんです。で、なぜかあいつはそのバナナを武器にしなかったんです。
<記録終了>
インタビュー記録XXX-JP-B
対象: D-1831インタビュアー: 芭蕉博士
<記録開始>
芭蕉博士: なぜこんなことを起こしたんだ?
D-1831: バナナのためさ。
芭蕉博士: いや、その前に、何故喋れてるんだ?
D-1831: 知恵の実を食べたからな。
芭蕉博士: ……リンゴの事か?
D-1831: あの実はレアアイテムだからな。気が付いたら食べてたよ。そして今に至るわけだな。
芭蕉博士: どういうことだ?結局Dクラス職員を解放した理由は何なんだ?
D-1831: 捕虜を解放すると、報酬のバナナが増えることを知ったからだ。人を殺すよりたくさんもらえるんだ。
芭蕉博士: 報酬?何のことだ?
D-1831: なあ、報酬のバナナくれよ。こんだけ喋ったんだぞ。時間がねえんだよ。はやくくれよなあ、なあ、なあ、よこせよ。ばなな。
<記録終了>
終了報告書: この後、D-1831が再び発語能力を消失しました。また、この事案から、これ以上の実験が危険視されたため、特別収容プロトコルが変更されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP周辺の土地は財団フロント企業により買収され、一般人の侵入を禁じます。また、月に1回セキュリティクリアランス2以上の職員によるSCP-XXX-JP-Aとの対話と、SCP-XXX-JP-Bの点検が行われます。
説明: SCP-XXX-JPは岡山県██町に存在している家屋です。SCP-XXX-JPの内部は外観から予測される大きさよりも明らかに広く、延べ床面積はおよそ██km2以上あると推測されています。SCP-XXX-JPはダイニングフロアと収容室フロアの2部屋で形成されています。ダイニングフロアには初老の男性実体(以下、SCP-XXX-JP-Aと呼称。)が存在しています。SCP-XXX-JP-Aは温厚な性格であり、財団に対して協力的な態度をとります。また、SCP-XXX-JP-Aは発見時から老化の兆候が見られません。
収容室フロアには異常な性質を保持した物品(以下、SCP-XXX-JP-Bと呼称。)が多数収容されています。SCP-XXX-JP-Bには動物や無機物など様々な種類が存在しますが、いずれも共通して淡い青色に発光しています。下記はSCP-XXX-JP-Bの例です。
分類番号 | 物品の種類 | 保持している異常性 |
---|---|---|
SCP-XXX-JP-B-1 | トナカイ(Rangifer tarandus) | 常に地上から5cm浮いている。鳴くと周囲にリボンでラッピングされた空箱が出現する。 |
SCP-XXX-JP-B-3 | フクロウ(Strix uralensis) | 羽根が地面に接触すると消失し、同地点からホオズキ(Physalis alkekengi var. franchetii)が発生する。このホオズキの果実部分は総じてフクロウの頭部分に酷似している。 |
SCP-XXX-JP-B-4 | カニ(Brachyura) | 全長が5cmと非常に小さい。口から発生した泡がビー玉に変化する。 |
SCP-XXX-JP-B-6 | 日時計 | 光源に関係なく常に現在の時刻を指した影が発生している。 |
SCP-XXX-JP-B-9 | ユリ(Lilium) | 花弁の中心から常に「きらきら星」のピアノ演奏が流れる。 |
SCP-XXX-JP-B-10 | 餃子 | 常に温かく、冷めることが無い。 |
SCP-XXX-JPの特異性としてもう1つ、上空から不定期にSCP-XXX-JP付近に青く光る球体(以下、SCP-XXX-JP-Cと呼称。)が落下してくるという点があげられます。SCP-XXX-JP-Cは1000℃以上の熱を放っており、一般人が触れることは不可能ですが、SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JP-Cに火傷などを負うことなく接触することが可能です。SCP-XXX-JP-Aの接触後、SCP-XXX-JP-Cは変形し始め、数分でSCP-XXX-JP-Bに変形が完了します。
補遺1: インタビュー記録XXX-JP-A
対象: SCP-XXX-JP-A
インタビュアー: 国都博士
<記録開始>
国都博士: どうもこんにちは。
SCP-XXX-JP-A: やあ、いらっしゃい。国都博士: 今日は少し話をしたいのですが、よろしいですか?
SCP-XXX-JP-A: 話、ですか。ええ、構いませんよ。
国都博士: ありがとうございます。
SCP-XXX-JP-A: いえいえ、何でも聞いてください。話せる限りは答えましょう。
国都博士: では早速ですが、あなたの素性を教えてください。
SCP-XXX-JP-A: うーん……えーと。
国都博士: どうかしましたか?
SCP-XXX-JP-A: いえ、そんな事を聞かれたの、数百年生きてて初めてでして……
国都博士: 何百年?えっと、人間じゃ、ないのですか?
SCP-XXX-JP-A: ふむ……そうですね。人間ではないですね。
国都博士: ええっと、じゃあ何なんですか?
SCP-XXX-JP-A: 私は、星守なんです。
国都博士: ほしもり?
SCP-XXX-JP-A: ええ。ここによく落ちてくるでしょう。その子たちを保護しているんです。
国都博士: ああ、星を守る、で星守ですか。なるほど。
SCP-XXX-JP-A: そうです。
国都博士: でも、それは生まれてからずっとですか?
SCP-XXX-JP-A: いえ、任されたんです。
国都博士: 任された?誰にですか?
SCP-XXX-JP-A: ええっと、私の上司にあたる人から、ある日こう言われたんです。『私の支えている空から星が零れてしまう。その星を守ってくれ。』と。
国都博士: はあ。
SCP-XXX-JP-A: まあ、とにかく私は星たちを守る。それだけの男です。
国都博士: ……分かりました。ありがとうございます。
SCP-XXX-JP-A: さあ、久しぶりに話して疲れました。よかったら一緒にピザでも食べませんか?少し落ち着いて、お話はその後に、とういことで。
国都博士: ……では、ありがたく頂きます。
SCP-XXX-JP-A: 本当ですか?うれしいですねぇ。では、どうぞどうぞ。
<記録終了>
補遺2: インタビュー記録XXX-JP-B
対象: SCP-XXX-JP-A
インタビュアー: 国都博士
<記録開始>
国都博士: どうも、こんにちは。今日も少し話を聞きたいのですがよろしいですか?
SCP-XXX-JP-A: おや、またお話ですか。ふふ、こんなに話せるなんてうれしいですねぇ。ええ、もちろんいいですよ。国都博士: ありがとうございます。では今日は、あの不思議なものたちは何なのか教えてください。
SCP-XXX-JP-A: ええっとですね。少し前に話した星の事は覚えていますか?
国都博士: ええ、あれは空から零れ落ちた星だったんですよね。
SCP-XXX-JP-A: そうです。……しかし、その説明はちょっと足りなかったですね。
国都博士: どういうことですか?
SCP-XXX-JP-A: その前に聞きたいのですが、あなたは何座ですか?
国都博士: 私ですか?……かに座ですが。
SCP-XXX-JP-A: おお、かに座ですか。良いですねえ。
国都博士: で、星座が何か?
SCP-XXX-JP-A: 今、星座はいくつあるかご存知ですか?
国都博士: え?えーっと、確か88個でしたっけ。
SCP-XXX-JP-A: そうです。1922年に名前が決められ、1928年に居場所が定められて現在の88個になりました。しかし、それにより消えてしまった星座はどうなったと思いますか?
国都博士: ……どうなるんです?
SCP-XXX-JP-A: 空の支えから零れ、ここに落ちてくるのです。
国都博士: あ、もしかしてあの流れ星ですか?
SCP-XXX-JP-A: そうです。あの星を然る形にして保護する。それが正式な「星守」の仕事なのです。
国都博士: はあ、そうだったのですか……でも、なくなった星座は全て保護が完了しているのではないですか?
SCP-XXX-JP-A: ええ、ジェイミソンさんの子たちやトレミーさんの子は保護し終わっています。
国都博士: では、もう落ちてくる星座はないんじゃ……。
SCP-XXX-JP-A: いえ、今も星座は作られ続けています。そして空から落ちてくるのですよ。
国都博士: 作られている?誰が作っているのですか?
SCP-XXX-JP-A: んー、誰がと言うか、あなたも作ったことがあるんじゃないですか?ほら、この問答を聞いたことがあるでしょう?
国都博士: 問答?
SCP-XXX-JP-A: "ねえねえ、何座なの?" "えー?ギョウザ!"という問答ですよ。
国都博士: ええっと、あれも星座に入っているのですか?
SCP-XXX-JP-A: そりゃあもちろん。あの子たちも星座として生まれてきたのです。仲間外れはいけませんよ。もちろん、ギョウザだけではありません。「ぎざぎざ」、「ブルドーザ」、「インフルエンザ」などもすべてここに落ちてきますよ。
国都博士: なるほど、そういう理由でしたか。
SCP-XXX-JP-A: たまに珍しい子とかも落ちてきましてね。どの子も家族同然に大切なんです。
国都博士: ……でも、餃子なんかは言われる機会が多いから、落ちてくる子たちを保護するのは大変じゃないですか?
SCP-XXX-JP-A: ああ、その問題はないですよ。
国都博士: 何故です?
SCP-XXX-JP-A: 増えすぎたら、美味しく頂いていますので。
<記録終了>
枯草が増え始めた草原の真ん中にSCP-539-JPは建っていた。
私は何回目かのSCP-539-JP-Aとの対話、そしてSCP-539-JP-Bの点検に向かっていた。さふさふと草を踏みしめ、古びた木製のドアに手をかけぐっと力を入れて扉を引いた。扉を開けるといつも通りSCP-539-JP-Aが出迎えている――はずだった。
しかし、扉を開けた国都博士の目に映ったのは、両手を前にだらんとたらし机に伏せているSCP-539-JP-Aの姿だった。
「ど、どうしたんですか?!」
慌てて駆け寄ろうとした瞬間、SCP-539-JP-Aがぱっと顔を上げた。
「あ、国都さん。どうも、いらっひゃい。」
トマトのように真っ赤な顔、呼気からかすかに香るアルコール臭、ふわふわとした浮ついた喋り方。
明らかに、酔っている。
「……どうしたんですか。」
先ほどの焦りと緊張を無くした口調で再度問いかける。
「いやね、あのですねぇ。これ、これが落ちてきまひてね。」
指を指した方には、すでに栓が開けられている茶色く、しかし青く発光している瓶が置かれていた。飲み口を嗅いで見ると、ほろ苦い香りが鼻を通り抜ける。
「これは、ビールですか。……どこにも"ざ"はついていないようですが。」
「いやいや、ちゃあんとありますよ。ほら」
結露している瓶の表面をなぞりながらつぶやく。
「バ、ド、ワ、イ、ザー。」
言い終わると彼は体をのけ反らせ、笑い出した。なるほど、確かに瓶のラベルには『Budweiserバドワイザー』と筆記体で書かれている。よくバドワイ座ザーなんて出てきたなあと遠くの誰かに少し感心し、すぐに仕事モードに切り替える。
「このビールはどんな異常性を持ってるんですか?」
「ああ、その空きびんを机に叩きつけてみてください。」
言われるがままに細い瓶の首を握り、思いっきり瓶をぶつけた。ごいいん、と鈍い音を出しながら瓶が跳ね返ってきた。と同時に振動が指から手の平、そして腕へ伝わってきた。ぷるぷると手を振り振動を外へ逃がす。
「それが、その子の個性ですよ。割れないんです。あ、あとビールは特になにもなかったですよ。断言します!」
「……まあ、後々確認させてもらいますね。」
バインダーに挟んだ記録用紙に新たなSCP-539-JP-Bの異常性をメモしながらおざなりに返答する。と、何やら液体が注がれる音が聞こえてくる。用紙から顔を上げると、彼がちょうどビールを2つのガラスコップに注いでいる最中だった。
「ちょ、ちょっと、何してるんですか。」
「飲みまひょうよ。一緒に。」
「いやいや、そんなに飲んだら保護する物品が無くなっちゃうじゃないですか。」
「大丈夫です。未開封の子はすでにしまってありますよ。……ああ、分かりました!」
ぱっと明るい表情で、収容室フロアに駆けていく。そして、ものの数分で手に有り余るほどのピザと餃子を持って戻ってきた。
「そうですよね。つまみがなくちゃダメですよね!」
「いや、そういうことじゃなくてですね……。」
「まあまあ、ほら!」
ずいっと餃子が迫ってくる。パリパリの皮にはじける油。ちょうどいい加減の焦げ目。そしてずずいっと迫ってくるピザ。ほんわりと漂うトマトソースの香り。ぷちぷちとあぶくを立てるチーズ。暴力的な見た目と匂いに負け、自分の意思に反してお腹がなった。
「ほらほら、お腹なってるじゃないですか!さあ、一緒に飲んで食べて楽しみましょうよ!」
「……。」
SCP-539-JP-Aと食事を行うことは許可されている。だが、酒を飲むのは許可を取る必要があるだろう。SCP-539-JP-Aに背を向け、上層部に飲酒の許可を貰うため、連絡を取る。……予想以上にあっさりと許可が下りた。上層部から許可が出た、と言うことはこれも仕事の一環だろう。うん。そうだ、仕方ないことなんだ。別に、餃子やピザがビールと合いそうで飲んでみたかったとか、そういうわけじゃない。決して。
「……分かりました。分かりましたよ。少しだけですよ。」
「本当ですか!わあ、うれしいですねえ!さあさあ、どうぞおかけください!」
こうして、星の子たちに囲まれての飲み会に参加することになった。
ぼんやりと目を開く。どうやら、酔って眠ってしまったようだ。慌てて掛け時計を見る。よかった。1時間ぐらいしか経っていない。ふーっと息を吐くと、机に透明な液体の入ったペットボトルと何か書かれている紙きれが置かれているのを見つけた。紙切れを手にとり、文を読む。
裏面に今月落ちてきた子のリストを載せています。
どうぞ、ご確認ください。
PS.体が冷めないよう、うちの子を掛けておきました。
風邪を引かないようにお気を付けください。
裏に向けると、確かにSCP-539-JP-Bのリストがずらっと載っている。そのリストをバインダーにしまうと、私はペットボトルを掴んだ。キャップ部分に「良かったら飲んでください。」と書かれた付箋が貼られていた。ラベルを確認する。と同時にふっ、とふきだしてしまった。
「これは……クリスタルガイザー。」
これの異常性は確か。キャップを掴む手に力を入れる。爪の表面が白くなるほど力を入れたが、開かない。それもそのはず。蓋が開かないのがこの異常性なのだから。
「そうとう酔っていたのですね。」
「う、うう、ん。もう、飲めないですって、ニュソスさん……。」
漫画のような寝言を呟きながら、隣で眠るSCP-539-JP-Aに、起こさないように小声で話しかける。
幸せそうな顔で眠るSCP-539-JP-Aを見ると、体が小刻みに震えているのが分かった。もう使わないし、私の毛布を掛けてあげよう、と背中の布に手をかける。すると、手の平に違和感が広がった。
「……あれ?」
毛布にしてはなんだかざらざらしている。と言うより……ちくちくしてる?
ばっと引き剥がし、目の前に広げる。すると、ぺらぺらな畳が現れた。
「……寝ござ。」
……ヴェール座が、確か無かったかな。私は寝ござをばさりと畳みながら、収容室フロアへ歩き出した。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: ██村周辺は封鎖され、SCP-XXX-JPへの一般人の立ち入りが阻止されています。SCP-XXX-JP-4-aの情報が外部に流出しないよう、監視を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは岡山県██村に存在している民家の扉です。SCP-XXX-JP発見時、SCP-XXX-JPには誰も居住しておらず、過去の情報からもこの民家で人が居住していたという事実は存在していませんでした。
SCP-XXX-JPは高さ2m40cmの引き戸です。木製であり、破壊方法は現在まで発見されていません。SCP-XXX-JPは不定期に活性化し、窓部分が発光した後勝手に扉が開きます。この行動はいかなる方法でも止めることは出来ません。開いた後、扉の向こうから頭部が黒いチョウに置き換わっている人型実体(以下、SCP-XXX-JP-1と呼称。)が出現します。SCP-XXX-JP-1の人数は10~35体程度であり、多くのSCP-XXX-JP-1が黒を基調とした袴を着用しています。また、SCP-XXX-JP-1群のうち前方の4体は黒い長方形の棺型の箱(以下、SCP-XXX-JP-2と呼称。)を担いでおり、後方の1体は木魚(以下、SCP-XXX-JP-3と呼称。)を持っています。SCP-XXX-JP-1群は、そのまま民家の外を出て██村内をSCP-XXX-JP-3を叩きながら徘徊します。SCP-XXX-JP-3を叩いた音には催眠作用があり、聞いた人物は数分でレム睡眠状態に陥ります。
上記の行動を3分程度続けた後、SCP-XXX-JP-1群は停止し、SCP-XXX-JP-2を降ろし蓋を開きます。その後、SCP-XXX-JP-2内から黒い蝶(以下、SCP-XXX-JP-4と呼称。)が大量に出現します。SCP-XXX-JP-4は発生後、集合し人型に変形します。その後、最も近くに存在するヒト(対象と呼称。)のところへ移動し、対象を殺害します。その際殺害方法は総じて口内に入り込むことによる窒息です。殺害後対象の体は消失します。
対象の殺害を完了すると、SCP-XXX-JP-4群は自身の体を融合させ対象の姿へと変化を行います。(以下、変化後のSCP-XXX-JP-4をSCP-XXX-JP-4-aと呼称します。)SCP-XXX-JP-4-aは総じて目が重瞳3であり、両腕を横に広げ、上下する運動を繰り返しています。SCP-XXX-JP-4-aは外部からの呼びかけなどには反応しません。
██村内にヒトが存在しない場合、SCP-XXX-JP-4群は発生後、すぐにSCP-XXX-JP-aに変化します。その際見た目は██村内に存在していた人物の姿を無作為に選出し、模倣しています。
SCP-XXX-JPの発見時、██村には104体のSCP-XXX-JP-4-aがいました。また、██内への潜入捜査中、SCP-XXX-JP-4-aではない日本人女性を発見しました。彼女はSCP-XXX-JP-4の殺害対象にならず、また、██村の外に出ることは不可能であるといった異常性を保持していることが判明しました。発見後彼女はSCP-XXX-JP-5とナンバリングされ、██村内にてインタビューが行われました。
インタビュー記録XXX-JP
対象: SCP-XXX-JP-5
インタビュアー: 尾瀬研究員
<記録開始>
尾瀬研究員: では今からインタビューを開始します。
SCP-XXX-JP‐5: [15秒沈黙]
尾瀬研究員: 大丈夫ですか、SCP-XXX-JP-5。
SCP-XXX-JP-5: ……なにそれ。
尾瀬研究員: 便宜上の呼び名みたいなものです。
SCP-XXX-JP-5: それやめて。ちゃんと名前で、██卯千代って呼んでよ。
尾瀬研究員: しかし……。
SCP-XXX-JP-5: お願い。私が人間ってこと忘れちゃいそうだから。
尾瀬研究員: ……分かりました。では卯千代さん。あなたはこの村の異常について何か知っていますか?
SCP-XXX-JP-5: ええ、もう、嫌というほどね。この村は、狂ってるわ。
尾瀬研究員: いつ頃からあの扉からチョウが出てくるようになったのですか?
SCP-XXX-JP-5: あの扉……「ちょちょさまの無常門」は私が生まれるずうっと前からあったからね。
尾瀬研究員: ちょちょさまの無常門?
SCP-XXX-JP-5: 無常門って知ってる?
尾瀬研究員: すみません。知識不足で……。
SCP-XXX-JP-5: 葬礼の時にだけ使われる門。……死人を送る門っていう感じかしらね。あの扉は無常門として使われてたらしいの。
尾瀬研究員: らしい?
SCP-XXX-JP-5: 詳しいことはもう覚えてない。
尾瀬研究員: そうですか……。
SCP-XXX-JP-5: とにかく、私が生まれたときからもうチョウはもう存在していた。でも、あんな感じじゃあなかったの。
尾瀬研究員: どういうことです?
SCP-XXX-JP-5: ただ、チョウが出てくるだけだった。ひらひらと村の中を飛び回って、いつの間にか消える。それだけだった。
尾瀬研究員: ではいつからこの有様になったのですか?
SCP-XXX-JP-5: ある日村長がチョウのことを気味悪がってちょちょさまの無常門を焼こうって言い出した。村の皆もそれに同調して、燃やせ燃やせと大合唱。そして、ついに火がつけられた。その瞬間、扉が大きく開いて、中から音が聞こえてきたの。
尾瀬研究員: 音、ですか。
SCP-XXX-JP-5: ポーン、ポーン、ポーン、って木魚の音が。その音が響くと、村の皆は急に倒れてしまった。なんでか私だけは倒れない。おたおたしていると中からあいつが出てきた。頭があのチョウになってて、そして、そいつは大きな箱を担いでいたわ。蓋を開くと、中からたくさんのチョウが出てきて、そして……後はこの通り。
尾瀬研究員: なるほど……いや、でもあなたに危害が加わってないのは何故ですか。
SCP-XXX-JP-5: ……あいつらは村の皆に為った後、私の顔を見つめた。私も殺される。そう思ったわ。でも違った。あいつらは私に聞いてきた。喋ったの。「あなたのなまえは」って。
尾瀬研究員: 喋ったのですか?
SCP-XXX-JP-5: ええ。私は怖くて、答えたわ。「██卯千代」って。そしたらあいつら、顔っを押さえて崩れ落ちたのよ。それから意味の分からない事ばかり言うの。「あのひとがもどってきた」、「もうころさせない」、「さみしくないようにつれてくる」って。それからちょちょさまの無常門の中に戻って行ったわ。それから、1日に1回はあいつらが来るようになった。今ではもう、逃げ出そうと考えることもなくなった。これは、悟りってやつなのかしらね。[静かに笑う]
尾瀬研究員: ……失礼ですが、死のうと考えなかったのですか?
SCP-XXX-JP-5: もちろん考えたわ。ずーっと前に。でも。[ズボンのポケットからガラスの破片を取り出し、首に突き刺す。]
尾瀬研究員: 何を――
[直後、SCP-XXX-JP-5の首元から血液が飛び出すが、飛び出した血液がチョウの形に変形し、首の傷へ飛び込んだ。その後、傷は完全にふさがった。]SCP-XXX-JP-5: これで分かったわよね。死ねないの。 食べなくても、水に浸かっても、高いところから飛び降りても、体を燃やしても、首をつっても、岩で頭をつぶしても、[編集済み]おしても、死ねない。チョウに邪魔されて。
尾瀬研究員: そうですか……分かりました。では最後に、なぜあのチョウ頭たちはこんなことをするのか分かりますか?
SCP-XXX-JP-5: 分かってたら苦労しないわ。ああ、でも。
尾瀬研究員: でも?
SCP-XXX-JP-5: あいつらからは悪意は全く感じられない。どちらかといえば、私を喜ばせようとしているような……無垢な善意しか感じられないわ。だから、最悪なんだけどね。
<記録終了>
補遺: SCP-XXX-JPの設置されている民家の内部を調査した結果、1冊の文書を発見しました。経年劣化などは見られず、表紙には「ちょちょさまの無常門」と書かれていました。現在、この文書の内容とSCP-XXX-JPの関連性について調査が進められています。以下は文書の内容です。
むかしむかし、あるところににうちよというかわいらしいおんなのこがすんでいました。
うちよはちょうちょうがとてもだいすきでした。
いろいろなちょうちょうをみつけてはたいせつにそだてられていました。
そんなあるひ、ちょうちょうがいっぴきしんでしまいました。
うちよはとてもかなしみました。
おくるときはごうせいにしたいとおもったうちよはちかくのだいみょうのいえにむかいました。
そしておおきなとびらをみつけました。
うちよはしっていました。このとびらはくろいふくをきたひとがしんだひとをはこぶとびらだと。
そこでうちよはこのとびらをつかってちょうちょうをおくろうとおもいました。
うちよはそのとびらをあけてしまいました。
しかし、そのとびらは無常門といい、そうれいのときいがいはかってにあけてはいけなかったのです。
だいみょうにみつかったうちよはとらえられ、おもいばつをうけることになりました。
うちよのだいじなだいじなちょうちょうがみんなもやされてしまったのです。
うちよはふかくかなしみ、くびをくくってしまいました。
うちよをあわれんだひとびとはうちよのためにちいさな無常門をたてました。
すると、そのとびらからちょうちょうがひらひらとあらわれました。
このちょうちょうはうちよのうまれかわりだととうとばれ無常門ともどもいつまでもたいせつにされました。
[[include credit:start]]
**タイトル:** SCP-XXX-JP - タイトル
**著者:** ©︎[[*user 0v0_0v0]]
**作成年:** 2019
[[include credit:end]]